冬木に落ちた彼女の運命は…?
英霊召喚、そして…
何かが焼ける、匂いがした。
それを感じられると、言うことは。
「…わた、し……生きて…る……?」
目を開いた私の視界に、いつも通りモノクロの風景が広がる。
いつもと違うのは、機械や無機質なイメージを感じさせる風景ではない、ということだろうか。
土の感触。落ち葉を踏む音。そして――焼けたような、大気の匂い。
「……外…?」
力の入らない四肢をなんとか踏ん張って立ち上がる。察するに、ここは特異点F。
どういう偶然が働いたか知らないが、レイシフト適性ゼロに近い私までレイシフトできてしまったらしい。
今いるのはどうやらどこかの山の中。いや、だったというべきだろうか。
木々は燃え落ちており、もう森とはとても言えないだろう。遠くに明かりが見えるということは、ここは郊外になるのだろうか。
――深呼吸する。自分は、とにかく助かってこの場にいるらしい。ならば、次は。
「町へ―――」
動けるのならば、人と合流するのが一番だろう。
ここに人がいるかどうかはともかく、建物を目指すことは間違いではないはずだ。
そう結論付けて、歩きだそうとした時―――ガチャガチャと金属音が近づいてくる。
人が来たのかと、瞬いた瞳に映ったのは…
「………え?」
襤褸をまとった骸骨の群れが、琴葉の前を今まさに、横断しようとしていた。
なるほど、先ほどの金属音はこれだったのかと、妙に冷静に事実を確認する。
その瞬間、空洞の眼窩がぐるりとこちらに向けられる。
吹き付けられてくる殺気。掲げられる武器。それを前にした琴葉は。
「……ッ!」
迷わず、身を翻して逃げることを選択した。
この骸骨たちは鈍重なのか、定期的な運動をする程度の琴葉の足でも何とか追いつかれない。
息が上がる。久しぶりの酷使に足が悲鳴をあげる。
後ろからはまだ音がする。止まればあの骸骨たちはためらいなく武器を振り下ろすだろう。
ただ、走る、走る、走る。少し距離が開いた、と感覚で思った直後
「あぐっ!?」
鋭い痛みが脹脛に走り、足が縺れる。
庇う暇もなく顔から地面に突っ込み、地面に投げ出される。
脹脛がじくじくと痛む。見れば、骸骨兵が放ったのか一本の矢が突き刺さっている
「い、たっ……」
痛みが立ち上がる気力を蝕んでいく。
もう、じりじりと迫ってくる骸骨兵から逃げる術もない。ここから立ち上がって走ったところで、死期が少し後にずれるだけだ。
どの道、死ぬということに変わりはない。
「……く、ない…」
ポツリ、と。自分でも無意識のうちに、声が漏れた。
「まだ…まだ……わた、し……死にたくない……」
涙と共に溢れ出る、切なる想い。
生きたいという祈りが。ここで終わりたくないという願いが。
―――――運命の歯車を、軋ませる。
視界が、輝きに埋め尽くされた。
反射的に目を瞑った私に、同時に焼けるような感覚が襲い掛かる。
左手の甲を中心に、燃え上がるような熱が広がる。
膝をつく私を叱責するように熱く。
それでいて不思議と痛みを感じさせない、穏やかな焔のような。
瞳を開ける。
無意識であろうか、伸ばされていた左手の甲に―――鳥の翼のような文様が刻まれていた。
三分割されたパーツから成る、片翼を模した文様。
―――とくん、と。その文様が、脈動した気がした。
「…なに…これ……?」
骸骨兵が迫っているという緊急事態のはずなのに、文様に気を取られる。
そんな私のうかつさを見逃すわけもなく、骸骨兵が武器を振り上げ―――
ゴガッ!
突如、その上半身が
何が起きたのか理解が追いつかず、私は思わず瞬きも忘れてそれを凝視する。
視界に広がるのは黒。光と対極にある様な暗が映り込む。
長い髪から察するに女性、身長は高めだろうか。
身に纏っているドレスらしき衣服もこれまた漆黒。
髪と衣装の黒の隙間から除く背中と、髪の間から垣間見えた面は、冴えわたる月のような白。
その手に持った長大な剣は、骸骨兵を吹き飛ばした格好で振り切られている。
「―――ひとつ」
鈴の音のような声が、大気を震わせる。
一言発しただけなのに、女性の放つプレッシャーが何倍にもなったように感じた。
ゆらりと片手に持っている長剣が動く。緩やかな動きの中に、今にも爆発しそう何かを感じる。
「ふたつ」
コマ送りでもされたかのように女性の姿が消え、次の瞬間にはそこにあった。
同時に、高々と宙を舞った骸骨兵の武器が地に落ち金属音を立てる。
移動の際に生じた衝撃波が私の頬を軽くたたいた。
ここに来て、骸骨兵が我に返ったように一斉に武器を上げる。
「ふふっ…」
楽しくてたまらないというような声。大輪の花が開くような艶やかな笑みが女性の顔に浮かぶ。
振り下ろされた刃を無造作に回避し、地を這うような低姿勢で距離を詰めると同時に逆袈裟に斬り上げる。
振り下ろされた武器を回避して足で押さえつけ、深々と袈裟掛けに斬りつけ粉砕。
同時に放たれた弓矢をパシッ!と器用に掴みとる。
そして跳躍。軽やかに大地を蹴り宙を舞い、猛禽が地上の獲物を狙うがごとくに剣を閃かせる。
剛速にして重厚な斬撃とともに、瞬く間に骸骨兵が打ち砕かれる。
着地した女性はそれを見届け、静かに剣を降ろした。
「……すごい………」
思わず感嘆を口にしてしまうほどの、鮮やかな技量。
精緻さに重きを置かぬ、むしろ荒々しいとまで言える剣技。戦闘行動に最適化されたかのような体捌きを前に、琴葉は感嘆を示す。
「………」
「あ……え、えっと……あなた、は…?」
女性はそんな琴葉を値踏みするように一瞬見つめ、妖艶な笑みを浮かべる。
その笑顔に呪縛を解かれたように、改めて女性の素性を問う琴葉。
「―――サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じ参上しました」
膝を折り、左足を一歩後ろに引いて優雅に礼をする女性―――バーサーカー。
「……え?サーヴァン…ト?どうして、私が…」
「マスターの願いにこの地に刻まれた魔術が反応し、召喚が成されたものかと」
英霊召喚の儀式については、カルデアでも一通りは習ったから知っている。
だけど、まず自分がマスターとなったこと、実勢に英霊を召喚したという事実が私を混乱させていた。
「え、ちょっと、待って…そうだとしても、
英霊と呼ばれる彼らをサーヴァントという使い魔として召喚する場合、生前の偉業や能力によってさまざまなクラスに分類される。
基本とされる七クラス―――
剣を使う英霊ならばセイバー、槍を用いる英霊ならばランサー、というように現界することがほとんどだ。
複数の側面を持つ英霊ならばクラスを変えて召喚されることもあり、その場合はそれぞれのクラスの特性に合わせた存在として顕現する。
この場合、生前有していた武装や能力を発揮できなくなる可能性もあるということだ。
そして今、目の前にいる女性は自分を
このクラスは伝承において狂気を得たエピソードのある英霊が該当するとされ、クラス特性として、「狂化」を保有する。
これによってステータスの強化が可能だが、「理性が失われる」、「一部の能力が劣化、または使用不能になる」、「魔力消費量が膨大になる」などの制限が課せられる。
この「狂化」のレベルが高ければそもそもマスターと意思疎通を行うことすらできず、命令を聞くこともない、という運用を間違えれば死に直結するクラスだ。
「生前の業のおかげで狂化を抑え込んでいるのでそうは思えないかもしれませんが、これでも私、戦狂いの狂戦士ですので。取り扱いにはご注意を、マスター」
クスリと笑った女性がそう告げる。と同時に、すうっと目を細める。
「さしあたって、契約を取り交わしたいのですか…よろしいですか?」
「あ、はい……私なんかがマスターで、いいのなら……」
どうすればいいのかわからなかったので、恐る恐る手を差し出す。
バーサーカーは少し驚いたように瞬きをした後、小さく微笑みながらその手を取った。
―――手を通して、何かが繋がれたような気がした。
「と、とりあえず……よろしくね、バーサーカー」
「はい。ああ、真名の方は……あなたというマスターを見極め、しかるべき時に告げさせていただきます」
要するに、マスターとして認めたら真名を開示すると。
バーサーカーの発言の意図を理解して、コクコクと頷く。
「では、さっそくマスターの方針を聞かせていただく――――つもりでしたが。お気の毒です、マスター」
「え?」
どこか楽しそうに告げるバーサーカーの言葉に目を見開いて硬直する。
―――その時、ようやく琴葉は気づく。
大地を揺るがすような地響きとともに迫る、圧倒的な存在感に。
どっと出た冷や汗が全身を濡らしたように感じた。
―――逃げろ、今すぐにここから去れ。さもなくば―――死ぬ!
「■■■■■■■■■■■■!!」
それが、目の前に現れる。
巨人と見紛うような体躯と、巌のような筋肉。
琴葉の身の丈よりも大きく重厚な斧剣を持つその体躯は、影を貼り付けたように真っ黒だった。
「―――ひとまずは。これを退けなければその後を語ることなど、できないでしょうから」
琴葉を庇うように前に出たバーサーカーが呟く。
その顔に、言葉とは裏腹の喜悦を浮かべながら、剣を構える。
―――最初にして最大級の試練が、琴葉に降りかかろうとしていた。
いきなり最大級の試練を与えたのは悪いと思っている。
ストーリーと被らないようにするならこれしか思いつかなかった。許せ主人公。
………まあ他の相手にしてもよかったけど、苦難があったほうが盛り上がる…よね?(不安)
あ、琴葉が落ちた場所設定はアインツベルンの森の中です(確信犯)