書けるうちに書いておかないと…
瓦礫が飛散し、轟音と共に降ってくる。自分の頭より大きい瓦礫だ、直撃すれば命はないだろう。
―――自分の方に向かってきた瓦礫が透明な壁に阻まれたように跳ね返る。
一瞬だけ見えた黒い鎧。バーサーカーは仕事だけするとまたすぐに霊体化する。
【マスター。とりあえず外に出たら霊体化を解きます】
『分かった』
念話で会話をし、立香たちに目を向ける。
マシュが盾を掲げて瓦礫を防いでいるのが見えた。良かった、二人とも無事な様だ。
「おい坊主たち!生きてるか!」
「キャスター!こっちは大丈夫だ!」
キャスターの声が聞こえすぐに廊下側に姿を見せる。
か細く聞こえたのは所長の悲鳴だろうか。しゃがんでいるのか姿は見えないが。
「この攻撃―――アーチャーの野郎だ!移動するぞ!」
「イヤアアッ!?」
「へ?」
「…バーサーカー」
言うや否や所長を俵担ぎにしたキャスターに続き、マシュが無言で立香君を抱え上げる。あ、お姫様抱っこだ。
なんとなく察した私が声をあげると、背後にバーサーカーが出現し私を横抱きにした。
そのまま先ほどの着弾で開いた穴から校庭へと飛び降りる。
バーサーカーが私を地面に下した直後、校舎が爆発するように弾けた。
「…いったい、どこから?」
「円蔵山の山頂には柳洞寺って言う寺がある。奴は、その山門の上に陣取っていやがる」
「……確かに山の方角に、いるみたい」
「琴葉先輩、分かるんですか!?」
「………あまり、自信はないけど。魔力の流れでそうかなって」
色を映さない私の目は、そういう物の感知には長けている。
と言うより、その感知機能の代償に色を失ったというべきか。変質した魔術回路により手にした欲しくもない魔眼は、モノクロの世界の中で魔力の流れを映し出す。その流れは、確かに山の方角に向かっていた。
先ほど立香たちと合流する際にも、レイポイントでマシュがサークルの設置を行ったためにそこへ魔力が流れたのを追ってきたのだ。
「…狙撃されてるなら、距離を詰めないと一方的になる」
「では、そのように動きますか?」
「おう、それには俺も賛成だ。ちっと強行軍になるが、やるしかねえだろ」
私の言葉にキャスターとバーサーカーが合意し、一拍遅れてマシュと立香君、所長が頷く。
そして、走り出そうとしたとき……魔力の流れが、変わったのが見えた。
それと同時に、首筋に悪寒が走る。
「ッ!皆、」
言い終わる前に飛び込んで来た人影が、両手に構えた双剣を振り翳して斬りかかって来る。
「!」
とっさに大盾を振り翳して前に出るマシュ。
白と黒の双剣はギィン!と金属音を響かせ、マシュの盾によって防がれ火花を散らす。
膠着した一瞬を狙ってキャスターの放った魔術を避けて、影は後方へ跳躍し着地する。
「珍しく表に出て来たな。セイバーの傍に居なくていいのかい。信奉者さんよ」
「信奉者になった覚えはないがね」
立ち上がったのは黒いボディスーツに、腰回りだけ外套を羽織った長身の男性。
……どこの英霊だろうか?肌は浅黒いようだから、日本ではないのだろうけど…
「だが、つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」
「~~~ああもうっ!次から次へと!!」
カッ!と光が横切る。オルガマリーの魔術によって放たれた光を、アーチャーは剣を軽く振るだけで受け流す。
「しょ…所長、すごっ……」
「私はアニムスフィア家の当主です!このくらいっ…!」
「ああ、星見の……。大人しく山に籠り星を眺めるに徹していればいいものを…大義は人の身に余る」
「もっとも、ここに目指すべき標の星はない。炎の海の中、どこへ向かう?空からの漂流者」
ニヒルな口調で、しかしどこか憐れむようなアーチャーの言葉に所長が黙り込む。
「……立香君、オルガマリー所長。ここは私とバーサーカーが足止めするから、マシュとキャスターを連れて行って」
「琴葉先輩!?」
「大丈夫、たぶん、何とかなるから」
所詮、私は正式なマスター候補ではない。ならば、ここは正式なマスター候補の立香君を聖杯の元へ送り出すのが最適だろう。そのサポートと思えば、正しい行動のはずだ。
「………行くぞ」
「ちょ、ちょっとッ!?」
「いえ、いいんです。所長も行ってください」
踵を返すキャスターに、オルガマリーは抗議するように声を上げる。
その優しさに感謝しながらも、先に行ってほしいと私は告げる。
「どのみち、誰かが残ってアーチャーを押さえる必要がある。本当は俺がやるつもりだったが、あの嬢ちゃんがやるって言うのなら任せるのが妥当だろう」
「~~ああもうっ!死なないでよ月城!」
歩き出すキャスターを、慌てて追いかけるオルガマリー。
小さく頷いてその背を見送る。
「琴葉先輩、気を付けて!」
「どうか御無事で!」
「うん、あとでね」
立香とマシュも頷くと、2人を追いかけていく。
「逃さん」
アーチャーが即座に取り出した弓に矢を番え―――
「ム!?」
咄嗟に弓で蹴りを受け止める。だが威力までは殺しきれなかったのか、派手に空中へ吹き飛ばされた。
「――貴方のお相手は、私が務めさせていただきますわ」
鮮やかなハイキックの体勢を戻し、黒い鎧を纏ったバーサーカーが艶やかに笑いながら背から剣を引き抜く。
同時に飛んできた剣を自身の剣を振って弾き、粉砕する。
「ほう。ならば―――お相手願おうか!」
「マスター。下がっていてくださいね」
両手に白黒の双剣を出現させ、構えるアーチャー。
漆黒のオーラを絡み付かせる魔剣を手にし、立ちふさがるバーサーカー。
刹那の間をおいて、二騎の英霊の戦闘が始まった。
身を低くしたバーサーカーが瞬時に距離を詰め、長大な剣を振り上げる。
その斬撃を白黒一対の剣で受け、衝撃を流しつつ回転し斬撃を見舞うアーチャー。
しかしその斬撃は獣じみた跳躍で後ろに逃れたバーサーカーに躱され、反撃の剣閃で後ろに吹き飛ばされる。
「簡単に距離を取らせるとは迂闊だな」
距離が開いてしまえばそこは弓兵の間合いだ。即座に空中に大量の剣を投影し、射出する。
無から有を創り出す事が可能な投影魔術は本来、真作の下位互換にしかならない欠陥魔術とも言われる。
しかしアーチャーの操るそれは文字通り、モノが違う。英霊相手でも十分に通じるはずなのだが…
「あら、この程度の射撃で私を倒せると?」
呆れた、と言わんばかりに笑みを浮かべたバーサーカーに無数の剣が襲い掛かる。
その射撃を前に嫌にゆっくりと剣を上げるバーサーカー。次の瞬間、剣身を覆うオーラが黒い炎となって爆ぜた。
放たれた爆炎が炎の壁となって射出された剣を飲み込んでいく。一瞬で剣を燃やし尽くした黒い炎が蛇のようにアーチャーへと殺到する。
炎をかき消すように次々と剣を撃ち込み、自らも矢を番えて弓でマスターを狙う。
「我が骨子は捩じれ―――」
「させません」
だがマスター狙いを読んでいたのか。一瞬で距離を詰めたバーサーカーの魔剣が頭上よりアーチャーを両断せんと迫る。
咄嗟に標的をバーサーカーに変え、射撃を撃ち込む。
「なっ!?」
だが、驚愕に目を見開いたのはアーチャーの方だった。
当たり前だ。ほぼゼロ距離と言っても差し支えないこの距離で、アーチャーの撃った矢を
「なるほど、これは強烈な矢ですね……私の鎧を砕くなんて、怖い怖い」
だがさすがに無傷とはいかなかったのか。漆黒の鎧の手甲の部分が破損し、白い肌と赤い血が見えていた。
それを見たバーサーカーは矢を捨て、血を振り払うように手を振る。
「―――さあ、もっと楽しみましょう?血沸き肉躍るこの戦いを」
「まったく。これだから狂戦士と言うやつは始末に負えんのだ―――!」
今一度気合を入れなおし構えるアーチャーと、妖艶な笑みを浮かべたまま魔力の炎を起こして対峙するバーサーカー。
間髪入れず、再び剣戟の音が響き渡った。
感想・ご意見などお待ちしています。