ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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皆さんのシュピーネ愛は受け取りました。さすがカリスマ持ってますね。


機甲魔装兵

 檜山が勇者パーティーと戦い始めた頃。

 

 

 当然だが王都の別の場所でも戦いは起こっていた。

 

 

「死ぬがいい。異教徒がぁぁぁぁ!!」

「王都は俺達が守るんだ。貴様らの好きにはさせない!」

 

 ある場所では魔人族が自身の神と敵対する異教徒を滅ぼすために、また人族が王都の民を、家族を守らんとするために。

 

「存在することすら許されぬ邪悪よ。今こそエヒト神の裁きを受けるがいい」

「負けられない。故郷に残してきた家族のためにも。俺達は……勝って故郷に帰るんだ!!」

 

 ある場所では聖教教会の騎士が異端者を葬るために、また魔人族が故郷に残してきた家族を思って。

 

 現在、特記戦力がいる場所以外の戦場は拮抗状態になっていた。魔人族の切り札であったはずの神獣ジャバウォックのまさかの敗北。さらに司令官であるフリードの負傷による後退。それらにより完全に奇襲が決まったはずの魔人族は、豊穣の女神愛子の声や、ハジメ達の活躍に士気を上げた人族に盛り返された形になっている。

 

 

 各々戦う理由は異なるだろう。だが皆一様に、こここそ正念場だと言わんばかりに魔力を、魂を振り絞って戦っていた。ここで勝つことで善き未来にたどり着くと信じて。

 

 

 その戦場の調べは悲惨な光景を生み出しつつも、どこか調和の取れた光景。異世界トータスで何千年も途切れることなく行われてきた戦鐘。

 

 

 ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ

 

 

 そこに不協和音が乱入する。

 

「なんだ?」

「こいつらどこから?」

 

 人族、魔人族ともに後方にて支援を行っている者達が疑問を浮かべ、それらを見る。

 

 

 そこに現れたのは全身鎧姿の兵隊。隙間なく着こんだ鎧に真っ赤な目だけがギラギラと光を放つ。

 

 

 そんな集団が、さきほどまで誰もいなかったはずの路地から次々と出てくる。

 

 

 しかもそれは一体だけではない。

 

 

 一人、二人、四人、八人。次々と増殖するように裏路地から、にじり寄るように人族と魔人族の戦線に近づいてくる。全く同じ形状の鎧姿ゆえに、その中身が人族か魔人族かもわからない。ある人族の騎士が敵陣を見たところ、相手も動揺しているようなので魔人族にとっても予想外なのだろう。

 

 

「貴様ら、どこの者だ。名を名乗るがいい!」

 

 耐えられず一人の人族の騎士が全身鎧の兵隊に語りかける。もちろん敵である可能性もあるので十分警戒しながら。そしてその答えを返すかのように、彼らは歌い始めた。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 全員が一斉に寸分の狂い無く同じ言葉を歌う。まるでからくり仕掛けのおもちゃのような行動。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 その言葉は戦場に響き渡る。全く同音、同波長で喋るがゆえに、増幅された歌が戦場の中でも響き渡ようだった。だが、その言葉を聞く者たちの中で、言葉の意味を理解できている者は存在しない。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 文脈もなく、意味も通らない言葉をしゃべっているがゆえに理解できない……わけではない。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 単純に人族も魔人族も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『■■■■■■■■■■■■■■■』

 

「な、なんなんだこいつらッ!?」

 

 理解不能の言語を感情を感じさせない声で乱れず歌う集団に恐れをなした人族、魔人族の部隊が鎧騎士を攻撃しようと準備を始めた。

 

 

 人族と魔人族が示し合わせたわけではない。ただどちらも、嫌な予感が止まらないだけだ。

 

 

 だが全ては遅かった。なぜなら彼らに詠唱など必要ないのだから。

 

 

 全身鎧の兵隊は一斉に彼らにとって見慣れない武器を構える。

 

 

 そして、白も黒も、右も左も、善も悪も、そして人族も魔人族も関係なく……金切り声を上げるそれらに蹂躙され、鮮血の華を咲かせた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

「なんだ、こいつら」

 

 それはハジメ達の前に突然現れた。

 

 まるで円を描くように移動を行いながら、ハジメ達を囲み始める鎧騎士。その統率の取れた動きは一部の乱れもない。

 

 

 そしてそれは一体ではなく、十体、二十体と増えていき、包囲を行いないながら、じりじりとにじり寄ってくる。

 

「こいつら魔人族、なのか?」

「さあな、だけど味方じゃねーだろ」

 

 光輝の言葉に、龍太郎が拳を構えながら答える。この中で鎧騎士を味方だと思うものはいない。檜山との戦いの最中に合流した騎士や冒険者たちも同じ意見だ。なぜならそいつらは、誰でもわかるような生理的嫌悪感をまき散らしていたから。

 

「ちっ、天之河!」

 

 ハジメが宝物庫から適当な剣を取り出し、光輝に放り投げる。それを慌てて受け取る光輝。

 

「そこらの鈍刀よりはマシだ。使っとけ」

「……ありがとう?」

 

 疑問を浮かべる光輝。あのハジメが武器を失っているとはいえ、光輝に施しを与えるとは思っていなかったのだ。

 

「今俺は少しだけ限界突破の反動で動けねぇ。だからその分お前が肉壁でもなんでもやって働けよ。ここで勇者のカッコいいところ見せてみろ」

「なっ!? バカにするな。言われずとも、やってやるさ」

 

 剣を構える光輝に一先ず良しとするハジメ。そして乱入してきた鎧騎士を観察する。見た目が全く同じなので個性が感じられない。まるで量産型の機械兵を見ているようだ。そしてそいつらは背中からある物を取り出す。

 

 それら見た一部は驚愕の表情を浮かべ、一部は焦りを覚え、一部は怪訝な表情を浮かべた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

「さて、始めようか」

 

 戦場を見回しながら少女が指揮を振るう。

 

「現状の『機甲魔装兵』がどこまでやれるか実験だ。果たして、僕の子たちは今の装備であいつらとどこまでやれるかな?」

 

 その少女は楽しそうに笑う。まるでこれから始まる劇を楽しみにしている子供のようだ。そして一番派手になるであろうかつての同胞たちがいる場所に目を向ける。

 

「南雲……この世界はずいぶん居心地が良さそうだね。一方的に近代兵器を使って雑魚相手に気持ちよく無双できるんだから。だけどさ……」

 

 

 

 

 

 

「いつまでも近代兵器が、お前だけの専売特許だと思うなよ」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 銃。

 

 それは人類が生み出した神と悪魔の発明品。老若男女関係なく、少しの訓練を行えば猛将が蔓延る戦国時代においても最前線で戦える兵に変えることのできる武器。それの登場、進化によって武芸の時代が終わり、どれだけ銃を保有しているかで勝敗が分かれるほどに戦争に影響を与え、人類を地上最強生物として君臨させることになった。

 

 

 その威力がどれだけ絶大なのかは、この世界において非戦闘職の劣等生に過ぎなかった南雲ハジメが万軍を一方的に屠れるだけの戦力を持ったことで証明されている。

 

 

 味方であれば頼もしい。だがもし……

 

 

 もし、その兵器が敵に回ったとしたら……

 

 

 鎧騎士が一斉に機関銃を構えだしたことで三つの動きに別れた。

 

 

 一つはハジメパーティー。異世界人であるシアとティオはハジメが使用している物とは形が違うが、構え方や形状で同種だと判断。すぐさま動けないハジメを庇うように防御態勢を整えた。

 

 

 一つは勇者パーティー。使用したこともないし、身近なものであったわけではないが、現代地球を生きるものとして、それの脅威は十分すぎるほど知っている。なまじ魔法より現実感(リアリティ)がある分、皆必死の形相で守りに入る。

 

 

 そして最後の一つは……

 

「お前らぁぁぁぁぁぁ、全力で障壁を展開しろぉぉぉぉ!!」

 

 唯一それの脅威を知っていたメルドが叫ぶが遅い。冒険者たちや騎士達は見慣れないものを構えた騎士達に疑問を浮かべるが、それに対して脅威を感じていない。一部メルドの命令で守りを固めようとしたが……

 

 

 固める前にけたたましい音と共に、鎧騎士達が構える機関銃から弾丸が掃射された。

 

 

「ぎゃああああああ!」

「ぐあぁああああああ!」

 

 防御が間に合わなかった冒険者や騎士達が一瞬でハチの巣にされる。騎士の鎧をたやすく貫通しているところからどうやら普通の弾丸ではないとわかる。魔法世界だからこそ作れる魔法の弾丸。

 

 

『ああ、虚しい。なぜいつも私だけが苦しいのか』

 

『なぜ、私だけ何も手に入らないのか?』

 

『死んだものは戻らない。そこに横たわるは冷たい死体のみである』

 

 

 

 抑揚のない、一言一句狂い無く同時に、まるで壊れた歌声を再生するように歌い出す鎧騎士の集団。

 

 

 その集団がハジメ達や冒険者に向けて、一斉に機関銃を連射しているのだ。黙ってやられるよりよっぽど心理的な重圧は大きかった。

 

「なんじゃこやつらは?」

 

 風の防御魔法にて弾丸を逸らして対応するティオが呟くが誰も返事をしない。機関銃による一斉射撃。それは想像以上にここにいる全員の精神力を削っていく。火薬が炸裂する爆音が響き、防御障壁を揺らしていく様は地球人であればあるほど脅威を感じざるを得ない。

 

『ならばせめて私は、全身全霊でその死体を愛そう』

 

『ああ恋人よ。いつまでもいつまでも、あなただけが美しい』

 

 ハジメ達の周囲を狂った歌を歌いながら旋回し、機関銃を撃ち放つ鎧騎士の攻撃はまるで嵐のようだった。ほんの少しでも障壁を緩めれば餌食になる銃弾の包囲網。

 

 

「ちょっとこれ、まずいよ」

 

 障壁を展開しつつ、谷口鈴が弱音を吐く。銃を向けられると言う精神的な負担と戦いつつ皆を守る障壁を張っている鈴だが、いつまでも持たないのは目に見えていた。

 

 想像より威力が高い。確かにハジメほどの威力はないかもしれないが、それでも十分すぎるほどの威力がある。それに何と言ってもその数。

 

 銃の利点は戦場での劇的な効果を保証する割に、生産はさほど難しくないところにある。材料と工場さえあれば、大量生産が可能だからこそ脅威なのだ。

 

 そういう意味ではハジメパーティーのハジメだけが銃を使うというのは本来の銃の使い方ではない。

 

 使い捨てでも構わない。重要なのは質より量。それこそが銃の真価であり、そういう意味で言うならハジメよりも相手の方が使い方が上手いと言える。

 

 

「ああ、確かに驚いたが、なんてことねぇ。十分対処できる範囲内だ」

 

 ここでハジメの限界突破のインターバルが終了する。

 

 終了するや否や敵と同じ銃であるドンナーを鎧騎士に向ける。

 

「確かに脅威的だが防御できない攻撃じゃねぇ。ならそれより圧倒的な火力で……殲滅すればいいだけの話だ!」

 

 ドンナーが火を吹く。電磁加速されたその弾丸は鎧騎士が使うものよりも遥かに速い弾速で騎士の頭を吹き飛ばした。

 

 そう、ここで終われば大したことがない。最初は驚いたが対処法がないわけではない。きっと銃に対する恐れさえ無くせば勇者パーティーでも対処できるだろう。

 

 ここまでなら……

 

「なっ!?」

 

 ハジメが思わず声を上げる。

 

 ハジメにしてはらしくないが思わずそんな行動をとっても無理がない光景が広がっていた。それは真っ当な生物であればあり得ない現象。

 

「嘘だろッ!?」

「なんで、なんであいつ……動いてんだよ!」

 

 頭を吹き飛ばされた鎧騎士は平然と銃を連射していた。首があった場所には何もないにも関わらず狂ったように。

 

 

「なんなんだこいつらは!?」

 

 この場に動揺が走る。頭を潰されて動ける脊椎動物など存在しない。ならこいつらはゴーレムかと言うとそうではない。噴き出した血がそれを人間だと証明している。

 

 そしてこの場で防御魔法を展開しながら観察していた香織があることに気付く。

 

「そんな……これって。ハジメ君ッ、この人達。死んでるのに動いてる」

 

 その香織の言葉にドンナーで迎撃しつつも香織の方を向くハジメ。

 

「そりゃどう言うことだ。魔力の流れは人間と変わらねぇぞ」

「魔力に干渉してみたんだけど、魔力は流れてるけど単純に各種臓器が動いてない。あれはもうすでに死んでるよ」

「つまりゾンビ兵ってやつか。近代兵器で武装した痛みも死も恐れない完全に統率が行き届いてる軍隊。はっ、誰かは知らねーがやってくれるじゃねぇか」

 

 ハジメが感心した様なことを口にする中、香織の言葉を聞き、メルドと鈴が反応する。死体を操る、それは彼らが懸念していたあることを想起させる。

 

「頭を潰して死なねぇなら粉々にしてやるだけだ!」

 

 ハジメが取り出したのはメツェライ。敵のゾンビ兵が使うより遥かに高い威力と連射性能を誇る武器。銃口が回転し、いざそれが敵を蹂躙しようとしたその時、シアの未来予知が自動発動した。

 

「ハジメさんッ、駄目ですッ! そいつらにそれで攻撃すると、大爆発を起こしてあたり一面が一瞬で火の海になります!」

「ちっ!?」

 

 引き金から指を離し、舌打ちするハジメ。

 間一髪シアの必死の叫びはハジメに行動を中止させることに成功した。シアの未来予知が自動発動したということは、命に係わるレベルの被害が出る証拠。ハジメ達も熱には弱いし、辺り一面が火の海になり、周囲の酸素を一瞬で奪われるとハジメでも窒息死する可能性がある。蓮弥はそのあたりも平気だが、ハジメは蓮弥ほどの不死身さを持ってはいない。

 

 

『死んだものは戻らない。そこに横たわるは冷たい死体のみである』

 

『ならばせめて私は、全身全霊でその死体を愛そう』

 

 それに反応したか、効果が出ない銃撃に見切りをつけたのか。ゾンビ兵の行動が変化する。

 

 

『限界突破』

『限界突破』

『限界突破』

『限界突破』『限界突破』『限界突破』『限界突破』『限界突破』『限界突破』『限界突破』……

 

 

 

『『『『『『『『『『覇潰』』』』』』』』』』

 

 

 一斉に行われる限界突破・覇潰。光輝が使う技能と同じく、その魔力量が五倍以上に膨れ上がる。その上がり幅は異常だった。人間がこれを行うと身体への負担が大きすぎて終了した後身体が壊れるレベルの超強化。まさしく身体の負担や損壊を恐れなくてもいいゾンビ兵だからこそできる方法。

 

 

 ゾンビ兵の内の数体がその上昇した身体能力を持って突撃してくる。騎士達が魔法で押し返そうと攻撃するが、手がもげようと頭が吹き飛ぼうと止まらない。

 

 

 そして懐から手榴弾のようなものを取り出し、安全ピンを抜いた。

 

 

 爆音と共に視界を炎が埋め尽くし、衝撃が何枚かの魔法障壁を一瞬で粉々に砕き割る。炎と煙を立ち上げながら戦場に炎が広がっていき、一部のゾンビ兵たちが未だに機関銃を撃ち続ける中。飛び出す複数の影。

 

細胞極化(アルテマセル)ッ! はぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 細胞極化を発動したシアが弾丸の雨の中をものともせずに潜り抜けていき、ゾンビ兵を拳圧でまとめて吹き飛ばした。

 

 誘爆により大爆発を起こすゾンビ兵。吹き飛ばした先の辺り一面を火の海に変えるがそれでもシアは止まらない。

 

「大爆発するってんならこれでどうだ!」

 

 次に飛び出したのはハジメ。瞬光と金剛の強化で弾丸を避け、時に受け止めてスターズにて冷凍弾を連射し、ゾンビ兵を凍らせていく。

 

「”爆嵐空”」

 

 そしてティオが上級風魔法で勇者達や騎士団の面々の守りを固め、炎の大波を防ぎ続ける。

 

 

 戦場は混沌としていた。ハジメとシアが攻勢に出ているが状況は結構紙一重だ。ハジメとて限界突破・覇潰にて超強化された魔力を暴走させた上に、損傷を恐れず至近距離で自爆されたらノーダメージとはいかない。冷凍弾で凍らせているものの……

 

 

『ああ、虚しい。なぜいつも私だけが苦しいのか』

 

『なぜ、私だけ何も手に入らないのか?』

 

 無傷の仲間があろうことか凍った仲間をハジメの方に直接ぶん投げ、機関銃で撃ち抜いて爆発させるという即席手榴弾として使ってくるので厄介だ。ハジメであっても何か一つ選択ミスをすれば大ダメ―ジに繋がる綱渡り、なのに向こうはいくら傷を負っても平気で全損覚悟の神風特攻をかましてくる。

 

「ハジメさんに近づかないでください!! ()()()()()()()()()()をずっと繰り返して、気持ち悪いッ!!」

 

 現状シアだけが真正面からゾンビ兵と戦うことができている。シアも至近距離で自爆攻撃を受けているがまるでダメージを受けていない。今のシアにはハジメすら傷を負わせるのは困難だろう。

 

 

 だが、それもいつまでも続かない。シアは合流したばかりでまだ完全回復していないのだ。細胞極化は強力だが、その分負担も大きい。かといって通常の闘気ではこの状況を乗り越えられない。

 

 

 そんな中、ハジメ達の状況が更なる悪化を見せる。

 

 

 ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ。

 

 広場の四方八方。そこから続々と、わらわらと増加していくゾンビ兵。全身鎧に付着した血液は大量虐殺の痕跡のようだった。人族も魔人族も負傷も、死を恐れない近代兵器で武装した兵隊の前では無力だという証。

 

 

『ああ恋人よ。いつまでもいつまでも、あなただけが美しい』

 

 シアの上空に投擲される動かなくなったゾンビ兵。その光景にどんな意味があるのか天啓視で確認したシアだったが。

 

 それが不可避の攻撃であることを悟る。

 

 

 空中で爆発したゾンビ兵だが今度は爆炎を放たず、紅い雨が降り注いだ。流石に雨を全て避けることができないシアはもろにそれを被ってしまう。

 

「これ……あつッ!!」

 

 シアの纏っている蓮華(パドマ)の闘気が目に見えて減衰し、シアの肌が赤く腫れていく。

 

「あれってッ!? シア、戻ってきて!」

 

 香織の言葉を聞き、ハジメとシアは後方に下がる。シアの症状を見て嫌な予感を感じたのだ。

 

「これってまさかッ! 悪食の溶解液ッ!? ”天恵”」

 

 今度は次々とティオのいる方向に投げ捨てられるゾンビ兵。空中で破裂したそれは赤い体液をぶちまけ、ティオの魔法の威力を減衰させてくる。

 

「こう魔力を溶かされては長く維持できぬかもしれぬぞ、ご主人様よ」

「これは、ちょっとやべぇかもな」

 

 敵の戦力を上方修正するハジメ。これはこの町の騎士や勇者パーティーを倒すための攻撃じゃない。

 

 明らかにハジメ達を意識して攻撃している。どうやって知ったかは分からないが、この溶解液がハジメ達に有効であることを知っていなければ都合よく用意できはしない。

 

 機関銃という強力な近代兵器で武装し、下手に攻撃すれば大爆発を起こすか魔力をも溶かす溶解液をまき散らすかするゾンビ兵。痛みも死も恐れない、統率が乱れることもない理想の軍隊。これらの人間兵器としての完成度は常軌を逸していた。

 

「こいつはとんでもねぇな。これを作った奴は人間の命を何とも思っちゃいねぇ。そうでなきゃここまで非人道的な人間兵器は作れねぇからな。まさか()()()()()()()()()ここまで頭のネジがぶっ飛んでる奴がいるなんて思ってなかったぜ」

 

 ハジメは獰猛に笑いつつも敵を評価する。今ゾンビ兵を動かしている人間は自分を殺し得る難敵であると認定したのだ。だからこそこの状況をどう切り抜けるか考え始め……

 

「待て、南雲。それは一体どういうことだ?」

 

 光輝が疑問の声を上げるが無視する。今ハジメは全力で思考を回している最中なのだ。

 

「おい、聞いているのか。俺達のクラスメイトがこれをやったと言うのか。そんなはずはない。俺達のクラスメイトの中にこんな非道なことを平気で行う奴がいるはずが……」

「お前、気づいてないのか」

 

 聖約を利用して黙らせても良かったが、周りの連中も聞きたそうにしているし、これ以上絡まれるのは邪魔だ。ハジメは瞬光で加速した思考能力を使って、冷凍弾を連射しつつ、ゾンビ兵対策を立てつつ、光輝の言葉に応えてやることにする。

 

「簡潔に言ってやる。炸薬の概念がないこの世界で銃火器を持ち出せるのは地球人だけだ。それとさっきから意味不明な言葉をずっと喋ってるだろ、()()()()

 

 一瞬何のことかと思っていた光輝達がはっとする。言語理解が自動翻訳してくれるので意識していなかったが確かにさきほどから相手は日本語をしゃべっていた。異世界人であるシアに理解できなかったのがその証拠だ。

 

「それと確かいたよな。お前のパーティーに一人。死者を操れる降霊術師が……そいつは今、どこにいるんだ?」

「恵里……どうして……」

 

 ハジメの言いたいことを察した鈴が悲痛な声を上げる。

 

「そんな、あり得ない!! 恵里がこんな……こんなことをするわけないだろ!!」

「これ以上お前と口論する気はない。後は勝手にやってろ。香織」

「うん、もうちょっとだから」

 

 ハジメはこの状況を脱する手段は一つだと思っていた。

 

 すなわち死者を操る降霊術師本人を叩くこと。先程から状況に応じてゾンビ兵の動きが変わっているが、自動操縦ではここまで的確に変えられない。必ずどこかでこの戦場を見ていると思ったハジメは念話で香織にゾンビ兵を調べるように言っていた。

 

 

 香織はゾンビ兵の一体を自爆できないように拘束し、干渉を行う。傀儡師が直接操っているのなら、マリオネットの糸があるはず。それを辿れば本体を見つけられる。

 

 そして……

 

「ッ、見つけたッ。ここは……王宮? ハジメ君、王宮の屋上だよ!」

「よくやった、香織」

 

 後はなんとかこの包囲を突破して王宮の屋上に向かうだけだ。しかし、そんな状況に変化が起きる。

 

 絶え間なく銃を掃射していたゾンビ兵が一斉に射撃を止めた。

 

 その突然の行動に次は何をしてくるのか警戒していたが、ゾンビ兵がハジメ達に対して踵を返し、走り出したのだ。その潔い退却ぶりに見送るしかなかった。

 

「助かった……のか?」

 

 辛うじて生き残ることができた冒険者の一人が呆然と火の海になりつつある王都を見つめながら呟く。

 

 だがハジメ達は無事でも、どうやら終わったわけではないらしい。

 

 

 響く銃撃、轟く爆音。そして響き渡る人の悲鳴。ゾンビ兵は王都の襲撃を辞めていない。まるで効果のないハジメ達に見切りをつけたかのような思い切りのよさ。

 

「逃げたかと思ったがまさか……早く上がってこいってか。上等だッ、首を洗ってまってやがれ!」

 

 ハジメはこれをさっさと上がってこい。早く上がらないと虐殺を続けるというメッセージだと判断。そのまま王宮に向かって空力で空中を跳ねていった。

 

「妾達もいくぞ!」

 

 ティオが竜化し、シアと香織を乗せて羽ばたこうとするが……

 

「待って!! お願い、私も、私も連れて行ってください」

「鈴……」

 

 鈴の必死な懇願に竜化したティオはそっと目を見つめて念話を放つ。

 

 ”覚悟があるのなら構わぬがな。ご主人様の推測が当たっておるならそこで待っているのは主らの同胞じゃ。ご主人様は相手が同胞であれ容赦することはないじゃろうが……それでもついてくるか? ”

 

 ティオは覚悟を聞いていた。相手がクラスメイトで、親友で、この先に残酷な現実が待っていてもついてくるのかと。

 

 鈴は一瞬ひるみそうになるも真っすぐティオの目を見てはっきり答える。

 

「それでも連れて行って。ここで二度と話せなくなるよりはずっといい」

 

 鈴はもう踏み込むのに躊躇して後悔するのは嫌だった。例え残酷な現実が待っていようとも。

 

「俺も行くぞ。もし恵里がこんなことをしてるなら辞めさせないと。きっと何かわけがあるんだ。だから南雲に恵里を殺させはしない!」

 ”…………好きにせよ。ただしご主人様の邪魔はせぬようにな”

 

 ティオは光輝に対し聖約でここに残るように言おうか迷ったが、ティオの知っている光輝なら聖約が切れた頃に最悪のタイミングで駆け付けることも十分あり得ると考え、それなら近くで見張っておいたほうがいいと判断した。

 

 竜化したティオは飛び立つ。死霊達の奏者の元へ




>機甲魔装兵
中村恵里が生み出した傀儡死兵の強化版。ある魔法を手に入れたことで魂の支配レベルが大幅に上がり、生前と同じかそれ以上の力を引き出すことができるようになった。元ネタは本気おじさんの部下。

>銃器について
恵里は家庭事情で銃に触れる機会があったことをキッカケに、いざという時そいつから奪って使えるようにネットなどでさまざまな銃の構造を調べていました。そして疲れ知らずの死兵を労働力にできたこと。例の神父がハジメが使った銃器の空薬莢に霊的感応能力を行使し、設計図を逆算したりすることで量産が可能になった。

>悪食の溶解液
もともと封印を解いたのは彼らであり、その時に構造などを調べて作れるようにした代物。ただし、悪食由来のものではないので神秘が篭っておらず、悪食のものとは違い蓮弥には効かない。


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