ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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先週は投稿できなくてすみません。

黒白のアヴェスターに引きずられ過ぎてしまいまして。

というわけで大災害レギオン戦、決着です。


この刹那に、超越者は垣間見る

 ヘファイストスによる計算により残り十三日で世界が終わるとわかった時、まずハジメと蓮弥はこれからあり得る可能性の洗い出しを行った。

 

「まずは俺が期限までに封印を完成させた場合、このパターンで問題になるのはいかにして封印を使用するかだ」

「どこで封印を使うか……いや、そもそも封印というのはどういうものなんだ?」

 

 その時蓮弥は、ハジメにより疑似トータスを作ってそこにレギオンを放逐するタイプだと聞いていた。封印自体はレギオンが密集している大峡谷の近くで起動させれば自動的にレギオンは引き寄せられて封印されるという話だった。

 

「ならそれは俺がやる。ハジメは俺が大峡谷付近まで到達したら封印を転送してくれたらいい」

「わかった。なら問題ねぇ。問題は……期限までに封印が完成しなかった場合だ」

 

 そう、ハジメが計算した限りだと数日余裕を持って完成に至るはずだと言う試算が出たが、何事も上手くいくとは限らない。むしろ上手くいくことの方が少ないと考えて、いざ失敗した時のプランを立てなければならない。プランを一つしか用意してなくてそれがダメでは済まないのだ。なぜならこの作戦の失敗はイコール世界の破滅と言い換えられるからだ。

 

「ハジメとしては躓くとしたらどの辺りだと考えてるんだ?」

「……まずは職人達が間に合わない場合、ソフトができててもハードができてないと意味がねぇからな。これは俺が直接進捗を確認して慎重に進めていくつもりだ。幸い見たところ腕は確かだし、神業的な技量が絶対必要な作業でもないからたぶん行けると思う」

「なら問題は?」

「……エネルギーの問題だな。設計図を見る限りそこが一番複雑だ。というより俺も完全に理解できているわけじゃないからヘファイストスのアシストを駆使して組んでいくしかねぇ。つまり到達者に悪意があった場合アウトなわけなんだが……アイザックってやつの設計図には奴の技術者としてのプライドみたいなものを感じた。それを信じるなら不出来なものは残さねぇはずだ」

 

 ハジメは苦い顔をする。仕組みがわかっていなくても設計図や手順化されていれば作ることができるものも世の中にはたくさんあるが、技術屋としては屈辱なのだろう。

 現在ハジメは概念魔法はおろか、神代魔法の神髄にも到達できていない。そして概念魔法はその神髄を理解できていないと完全には理解できないようになっている。例外はエイヴィヒカイトなどという規格外の補助輪術式を持っている蓮弥くらいだろう。

 

「もしそのエネルギー問題を解決できなかった場合、どうなるんだ?」

「レギオンの封印自体はできる。だけど異界を維持するための魔力が足らなくて最大三十分くらいで異界が崩壊を始める。そうなったら全てご破算だ」

 

 つまり封印自体は可能だが、すぐに封印が崩れてしまうという。

 

「ユナ……封印なしでレギオンを滅ぼすことはできないか?」

「……今の私では難しいです。創造空間ならともかく、現世でのレギオン殲滅は不可能ですね」

「ん? ちょっと待った。つまり……ユナは自分の内界ならレギオンを倒す手段はあるということか?」

「そうですね。私の内界なら私は全力を出せますから……」

 

 ユナは魂だけの存在であるがゆえに、現世に干渉するために蓮弥を介する必要がある。日常生活を送るくらいなら蓮弥に何らかのトラブルが発生しない限りは自由に形成できるが、これが戦うとなると話が変わる。

 現在のユナは蓮弥のレベルに引きずられて本来の力を発揮できていない。仮に蓮弥の限界を超えるような力を発揮しようとすると蓮弥に負担が掛かってしまう。蓮弥が創造位階に達したのでその分制限は軽くなったがまだまだ全力とは言い難い。

 

 

 蓮弥は考える。もし、レギオンの封印に失敗した場合。この世界で唯一何とか出来る存在はユナだけになると。だがユナはこの世界では全力を行使することができない。

 

 そこまで考えて蓮弥はひらめいてしまう。とんでもない無茶な方法を。

 

「ユナ、レギオンってのは魂の集合体なんだよな」

「? はい、そうですけど……」

「ハジメ、封印に閉じ込めるということはその魂を封印に集めるということか?」

「それは……立方体のキューブは一辺五メートルくらいの代物だ。確かにレギオンを全て束ねているともいえるかもしれねぇが何が言いたい?」

 

 蓮弥が思いついた策。それは……

 

「俺がレギオンを取り込んで……ユナまで転送する!」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

『蓮弥……もう一度聞くぞ。本当にそんなことやって……大丈夫なのか?』

 

 大峡谷上空を浮遊している蓮弥に対し、モニター越しにハジメが聞く。それは未だに蓮弥が何をしようとしているのか完全には理解できていないからこその確認。

 

「……理屈の上では可能なはずなんだ。レギオンは魂の集合体。ならばその魂を俺が取り込んでユナの内界まで転送する。全て取り込んだ後、ユナがレギオンを滅ぼせば封印無しでも倒せる可能性はあるはずだ」

 

 そう、理屈では今まで蓮弥が繰り返しやってきたことの延長線上にある。魂を取り込み、己の糧とする。エイヴィヒカイトの基本であり聖遺物を動かすために必要なシステムだ。

 

「ただ今回は流石に俺の容量を超えそうだからな。だからこそユナに送ることで俺が潰れないように対処する」

 

 聖遺物の使徒は魂を取り込めば取り込む程強くなることは基本だが、それは際限なく強くなれるという意味ではない。

 聖遺物の使徒には、本人の器に応じた取り込める魂の限界容量が存在し、それ以上の魂を保有すると魂が潰れてしまう。常人なら一人の魂を取り込めば潰れてしまうが、所謂超人に類する者、霊的なものに対する特異体質者、覇者の気質を持つものにはそれ相応の容量がある。

 

 人間として上位クラスなら一万未満。最上位クラスなら数万から十万単位。一種の超越者なら数百万単位の魂を抱えられると言ったピンキリある容量だが、現状の蓮弥の場合はどうなのかというと限界まで取り込んだことがないためわからないが、おそらくレギオン全てを取り込めるだけの容量はない。

 

 だが蓮弥にはユナがいる。蓮弥とユナの魂的な相性により蓮弥の魂の容量を圧迫することなく蓮弥の内にいるユナだが、その許容量は蓮弥とは桁が違う。イメージ的には蓮弥が備え付けの記憶媒体で、ユナはそこに繋がっている外部記憶装置という扱いだろうか。蓮弥自身の記憶容量は大したことがないが、外部記憶装置であるユナの容量はとてつもなく大きい。

 

 だからこそ蓮弥の限界を超える魂をユナに転送してしまえば、蓮弥が負担を背負うことはないはずなのだ。

 

『いや、そこじゃなくて『蓮弥ッ!』』

 

 ハジメがわざと蓮弥が濁している部分について問い詰めようとするが、割り込む形で雫が会話に参加する。

 

『私が聞きたいのはそこじゃないのッッ!! あんなものを取り込んで……蓮弥自身には本当に何も影響がないの!?』

「…………」

『私は蓮弥が使う魔術の仕組みについて詳しく知ってるわけじゃないけど……私の理屈でもわかることはある。それは自分の限界を超えるものを一瞬その身に宿すだけでもすごく負荷がかかるものだって!』

 

 雫は以前、王都での戦いの時に数万人単位の眷属を作って無理やり力を引き出したことがある。あの時は本当に一瞬だったので大した影響は受けていなかったがそれでもわかるのだ。いつかこの時の代償を払わなければならない時が来ると。

 だから雫は可能な限り眷属を増やしたくないと考えている。優花は雫の気質に合う者だったが故に大丈夫だと判断したが、蓮弥にとってレギオンがそんなものであるわけがないことは明らかだ。

 

『もう一度聞くぞ蓮弥。今封印を使っても効果時間は最大三十分だ。その間にお前はアレを全部取り込むって話だけど……そんなことして平気なのか?』

 

 超巨大データを外部記憶装置に取り込む際、当然一時的にメインのコンピュータを経由しなければならないわけだが、現代人なら誰しも一度は経験したことがあるであろう。巨大な容量を持つアプリなりソフトウェアなりをインストールするには相応の時間がかかるということを。

 

 もし、インストール完了しなければならない時間に制限がついていたとしたら──

 

 超巨大データが圧縮してなお、巨大であるとしたら──

 

 それはつまり、一度に送る量を強制的に増やす必要がある。

 

『蓮弥ッ!』

「大丈夫だ、雫。これでも修羅場は超えてきてるんだ。我慢比べには自信がある。心配しなくてもお前を置いていったりしない」

 

 雫の悲痛な叫びに蓮弥は一層気合を入れる。

 

 そうだ、例え自身の容量を超える量の魂を継続的に送り続けなくてはならないとしても。

 

 その際に、魂が砕けるような苦しみを味わうことになるとしても。

 

 やれなければ……全てが終わってしまうのだ。

 

『……はぁ、どの道、やるしかねぇんだ。……わかった。すぐに封印をそちらに転送する』

「ハジメ…………ありがとう」

 

 何となくそう言いたかった蓮弥だったが、ハジメは苦笑するような反応を返してくる。

 

『そんなことを言ってる暇があるなら少しでも準備しとけ。お前が潰れればすべてが終わりなんだからな』

 

 蓮弥は眼下の惨状を見る。

 

 そこは既に地獄の様相を見せていた。今にも決壊寸前の黒泥。荒野には既に先んじて待機している巨人レギオンの群れがひしめいている。現在ミレディが必死に食い止めているから動きはないが、もう間もなくそれらが全世界を蹂躙すべく活動を開始する。

 ハイリヒ王国はもちろん、帝国も公国も、魔人族の国も、そして今回は()()()()で比較的安全地帯であったフェアベルゲンの森も。レギオンはこの世界の全てを黒に塗り潰し、あらゆる生命は死に絶えることになる。

 だからこそ蓮弥は考える。

 

 神エヒトは何を考えているのかと。

 

 蓮弥の予想では、神エヒトは自由には動けない理由がある。そして今回、王都襲撃にてその制限を解くために必要なものをエヒトは手に入れられなかったはずなのだ。だとしたらエヒトにとってもこれは不都合な事態のはず。

 蓮弥は眼下を汚物の溜まり場を見るような目で眺めているフレイヤに視線を向ける。

 

 彼女の背後にいる者は一体何者か。

 

 蓮弥は思い至りそうで思い至らない。まるで何か霞が掛かったかのようにある一定より先までは思考が進まない。

 

『蓮弥、それは後で解決するべき問題です。今は目の前のことに集中しましょう』

「ああ、そうだな」

 

 ちょうどそのタイミングでオルニスを通じて蓮弥の目前にゲートが開く。

 

 ハジメのゲートにより運ばれてきた封印を蓮弥は確認する。

 

 無数の幾何学模様に彩られたそれらの中身を蓮弥は窺い知ることはできないが、ハジメと今回協力してくれた真央や王都の職人の技術の全てが詰まっていることくらい蓮弥にもわかった。

 大災害は今の蓮弥が単騎で倒せるような敵ではない。この世界での旅で自分はまだまだ弱いということは十分理解していたつもりだし、メタ的に言えば、蓮弥の使うエイヴィヒカイトは最強最高の魔術というわけでもない。神座万象シリーズという枠組みで言えばそれよりも強力な力を持つキャラなど多数いる。つまり現実的な問題でも仮想的な視点で見ても、上には上がいるのだ。

 

 

 それでももし、蓮弥だけでこれら大災害を相手に、誰も犠牲にすることなく、完全無欠の勝利を収める方法があるとすれば……それはたった一つになるだろう。

 

 

 

 ──エイヴィヒカイト最終位階『流出(アティルト)

 

 

 

 創造(ブリアー)の上の位階にして、エイヴィヒカイトを真の意味で極めた先にある深奥領域。それがどんなものであるかは、あえて語らない。蓮弥は知識としてはどんなものかは知っているが、それに関して実際どうなるのか全く想像できないのだ。

 

 

 蓮弥は一旦思考を断ち切る。ここから先は雑念など入る余地がない。むしろほんのわずかでも惑いや恐れを抱けば容易く蓮弥の魂は押しつぶされてしまうだろう。

 

「蓮弥……」

 

 ユナが形成して蓮弥を見る。ユナはもう止めない。ユナもこれしか方法がないとわかっている。そして……蓮弥の秘めたる力がこの程度の敵に負けるものであるはずがないと信じているから。

 

 だから……

 

「私は私の役割を果たします。ご武運を」

 

 それだけ言った後、聖遺物の深い場所に戻っていった。

 

「さて……」

 

 残りは一人。先ほどから忌々しそうにレギオンを見ていたフレイヤだけが残る。

 

「おい、フレイヤ」

「何よ。やるならさっさとやれば? ……安心しなさい。もし、あなたがドジって死にそうなら介錯くらいはしてあげるわ」

 

 そう言ってそっぽを向くフレイヤ。

 

「そうだな……お前はそれでいい」

「……ふん」

 

 そのフレイヤの様子を横目で見つつ、再び覚悟を決めた蓮弥は封印を起動する。ハジメが言うには重力魔法による吸収以外にも奴らが好む気配を発するという効果もあるらしい。まるで水が吸い上げられるようにレギオンの群れが封印に引き寄せられていく。

 

 引き寄せられる闇が雪崩れ込むように封印に取り込まれる姿は一種の幻想的な光景に見えるかもしれないが、こんなものをありがたがる存在などいない。だから……

 

「いくぞ。ここで……終わらせてやる」

 

 そして蓮弥はその封印に対して、吸魂の技能を発動した。ユナに向けて魂の転送が始まる。蓮弥は最初そう思ったが、それは突如始まった。

 

「…………ッッ! がッ!」

 

 

ドクン

 

 

 まず初めに感じたのは熱。身体の中心が徐々に熱くなっていく感覚だった。最初は心地いいとすら感じていた。力がみなぎってくるような、蓮弥が聖遺物を振るうようになって幾度も感じていた魂を喰らい力とする感覚。だがそれも最初だけだった。

 

 まるで釜茹でにさらされているような感覚。最初は冷たくて徐々に適温になっていくが、それが過ぎ去ればあとは苦痛しか残らない。

 

 

ドクン

 

 

ドクン

 

 

「がぁぁ、ぐぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 熱い、熱い、身体がとにかく熱い。まるで内側で血液が沸騰しているようだ。身体の内側から細胞の一つ一つを焼かれるような。そんな苦痛。恐らく常人であればこれだけで死ぬレベルの痛み。

 

 

 耐える、耐える、耐える。蓮弥はとにかく身体の内側から襲い来る激痛と戦っていた。

 

 そう、ここまでは自分の状況を客観的に見るだけの余裕があったのだ。だが、蓮弥はすぐに気付くことになる。

 

 身体の内側から臓腑を焼かれる苦痛ですら、これから始まる地獄の入口に過ぎなかったことを。

 

 

 

 

ドクン

 

 

 その苦痛が……レギオンによる浸食が……魂の領域にまで到達した。

 

「ガァ、アァァァァッ、グァアァァァァァァ──ッッ!」

 

 かつて蓮弥がフレイヤにやられた時以上の魂を引き裂くような激痛。

 

 あれから蓮弥とて成長している。蓮弥は意識が弾け飛びそうな激痛を前に、無意識的に己の渇望でこれらを染め上げようとした。魂の力とはすなわちどれだけ他の魂を自分の色に染め上げられるかによって決まるがゆえに。

 

 だが、だからこそそれらの差は歴然だった。いわばコップ一杯の色水と巨大な湖くらいの格差。コップ一杯の色水で巨大な湖を染め上げようとしても到底不可能であり、通常なら色水を湖に入れた瞬間、湖に溶けてその痕跡すら残さず消えてしまう。この色水は特殊なので今も湖の中に溶けずに存在しているが、ほんのわずかでも気を緩めれば湖に飲み込まれる。

 

「ガァァァァ、グゥゥゥ、アアアアアアアアアアアア──ッッ!!」

 

 もし蓮弥が何かを考える余裕があったとしたら通信機のマイクを切って良かったと思っていただろう。もしこんな悲鳴を聞かせることになれば再び雫を悲しませてしまうから。

 

 一度始めてしまった以上、自分の意志では止められない。

 

「■■■■■■■■■■■■!」

 

 フレイヤが何かを叫んでいたが、蓮弥の耳には届いていなかった。もはや蓮弥の五感は正常に機能してはいない。

 

 例え封印前のレギオンが蓮弥に襲いかかろうとも。南から自滅を促そうと魔人族の部隊が攻撃を仕掛けてこようとも対応することはできない。

 

 蓮弥はひたすら耐えることしかできなかった。

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「    」

 

 

 蓮弥の感覚でどれくらい時間が経ったかはわからない。

 

 

 だが彼の限界は近い。

 

 

 それも当然だ。自身より遥かに格上の魂を飲み込むという行為自体が元々無茶な行為だったのだから。

 

 

 もう間もなく彼の努力虚しく彼の魂が飲み込まれる。そうなればこの世界は本来の筋書き通りには進まず黒に染まり何もかもが終わってしまうだろう。

 

 

 

 この状況を逆転する方法がもし、もし存在するのだとしたら……

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ゆえに……

 

 

 

 蓮弥の魂が黒泥の海に飲み込まれる寸前の刹那。

 

 座に腰掛けながら、悶え苦しむ蓮弥の顔をまるで絶体絶命に陥ったヒーローを見るような目で見ていた彼女は行動を開始した。

 

 そう、彼女にとって彼は自身の悲願を叶えるヒーローなのだ。ここで、こんな場所で終わるわけがない。()()()()()()()()()()

 

 

 人によっては興ざめな展開だと罵る者もいるだろう。いくら何でも都合がよすぎると言う者もいるはずだ。

 

 所謂、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)

 

 物語は必然性を伴った因果関係に基づいて導き出されていくべきだという風潮に対して、行き詰った物語を前触れもなく突然解決に導いてしまう手法のことを指すが基本褒めらるべきではない。

 

 脚本家としても二流だと言わざるを得ないし、演出家としても及第点は出せないだろう。

 

 だが、そんなことは彼女は気にしない。多少筋書きを整えることはあるが、彼女は自身を脚本家とも演出家とも定義したことはない。

 

 だからこそ彼女は気軽に舞台に手を出す。所詮この世界は■■■■なのだ。

 

 だからこそ、好きなように手を入れるのも醍醐味だと言えるだろう。

 

 

 そう、彼女は演出家などではない。それに気づいているのは、おそらく蓮弥を死なせることはないだろうと無意識的に予測していた叛逆の罰姫くらいの物か。

 

 

 なら改めて認識するといい。

 

 

 彼女の名はメアリー・スー。

 

 

 この世界の頂点に坐する──

 

 

 己の都合で世界を曲げる、ご都合主義の女神なのだと。

 

 

 

 

「──Atziluth(流出)──」

 

 

 

 

 

 

 巨大な湖の中に溶け込もうとしていた小さな魂が刹那という時間の間だけ膨張する。

 

 力関係が逆転する。

 

 僅かな色水で巨大な湖を染めることはできない。だれでもわかる理屈であり覆すことができない事象でもあるだろう。だが比較対象が変わればその見え方も変化するのもまた道理。

 

 

 

 色水程度で染まることのない巨大な湖は──

 

 

 大いなる宇宙と比較すれば、水滴の一つにも満たないというのも事実だったのだ。

 

 

 だからこそそれは……あっさりと彼の内側に溶けていった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 そして文字通り世界が変わる。

 

 この場にあるのは広大な平原と少しの丘。丘の上には無数の十字架が建てられており、乾いた風の影響で少しだけ揺れていた。

 命の気配はそこになく、そこにはどこまでも乾いた土しか存在しない。それもそうだ。この世界は綺麗な世界などではない。彼女が生前最後に見た絶望の光景であり、彼女の心の深い場所に未だに根付く心象風景に他ならない。

 

 そこに異物が入り込む。

 

 黒い大波が現れ世界全てを飲み込まんと広がり始めた。命無き大地に黒泥が蔓延する。だが当然飲み込むべき命無き地でそれらは何もできはしない。

 間もなく丘以外の大地の全てが黒に染まった時、レギオンはようやくこの世界に存在する命に気付いた。

 

 彼女は最初からそこに佇んでいた。普段着ている黒を基調とした制服ではなく、白い法衣のような姿で。当然レギオンはその少女、ユナを飲み込まんと姿を変えた。

 

 それは天をも貫く巨体。大きさにして全長数十kmの黒い巨人だった。肉体は気体のようなもので構成されているのか黒い霞がかっており、その存在感は桁が違う。

 優に成層圏を突破するほどの巨体と身体の中央に存在する太陽を思わせるようなエネルギーを持った赤いコアがそれが世界を滅ぼしうる脅威だと告げていた。

 

 それこそが大災害レギオン。太古の時代から現代に至るまでに成長したそれはエヒトの時代に存在したものよりも遥かに強大になっていた。この神体が現世にて現れていたらエヒトも呆然とするしかないだろう。

 ある意味当然と言えた。大災害レギオンは負の魂の集合体だ。現代に至るまでに発生した悲劇、憎悪、怒りに満ちた魂を存分に吸い上げて力としている。こんなことになっているのはある意味この世界の愚昧な神の自業自得に他ならない。

 

 

 

 だが、異境の大災害よ。

 

 そなたは知らなければならない。

 

 この世界だけではない。数多ある異世界の中には、今の自分を凌駕する規格外も存在するのだということを。

 

 

 そして白き聖女こそその一柱。未だ覚醒には至らずとも、この世界の果てに誕生したそれは究極にして至高の魂。故に、それが真価を発揮するということがどういうことなのかということを。

 

 

 

 ──己の身で知るがいい

 

 

復讐者よ。汝が怒りを持って、ありとあらゆるもの全てを焼き滅ぼす焔となれ──聖術(マギア)1章10節(1 : 10)……"天壌ノ劫火"

 

 ユナの聖術が発動し、文字通り世界全ては一瞬で天罰の炎で包み込まれ──

 

 

 大災害レギオンは世界を覆い尽くす黒泥を含めて──

 

 

 一瞬で丸ごと焼却された。

 

 




王都「……俺……生きてる?……」
トータス「た、助かったのか? 俺達」

当初、黒白のアヴェスターのインフレにつられてテンション上げ上げでもっと派手な決着を書いてたのですが、冷静に考えた結果、どう考えても蓮弥達はともかく、トータスが耐え切れずに死んでしまうことがわかり、一度書き直す羽目に。

インフレはほどほどに。この世界には星が爆発しても復活させられる七つの龍球みたいな便利アイテムはないので。

>流出
エイヴィヒカイト最終位階。この位階に蓮弥がたどり着いた時、旧世界(ありふれ世界)は完全に終わりを告げることになる。
今回はあくまで疑似流出。軍勢変生の太極みたいなものだと考えていただければ。

>ユナの本気
序列二位。
イメージは中盤の夜行くらいの戦闘力。ただし内界限定ですが。

次回、第五章エピローグ。

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