ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

147 / 165
第六章最終話後編です。

最新話から来て前編を見逃した方は前編から見てください。

そして今回、実は「ありふれた職業で世界最強」の二次創作を作るにあたって、作者がホルアドでの光輝への説教以上にやりたかったことを書きました。

詳しくは読んだ後にて……


不確かな未来 後編

 かくして、彼らは最後の試練へと足を運ぶ。数多の創作物において、最後の試練とは総じて特別なものだ。

 

 人によっては、試練を乗り越え覚醒へと至り、宿敵を殺し得る力を得る者もおり、

 

 人によっては、大切な仲間、大切な師を失って力を手にする者もいる。

 

 物語とは千変万化。人の数だけ創造の余地があり、歴史上、人を飽きさせることがない素晴らしきものだ。

 

 そして、人が創りし数多の物語の最後の試練において、共通することがあるとすれば……

 

 物語において、最後の試練が簡単なものであるわけがないということだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

「はぁ……」

 

 軽く息を吐きながら彼女は、最後の大迷宮目指して運行を開始したフェルニルの居住区の通路を歩いていた。

 息を乱しているが体調が悪いわけではない。むしろ逆、ひどく心地良いものが身体中に広がり、一種の興奮状態になっているからこそそうなっていると言えた。

 

 

 伝えたい。受け取ってほしい。

 

 

 今彼女にあるのはその感情一色。今まで抑え込んできた熱くも切なくなる想い。

 

 

 それに導かれるまま、シア・ハウリアは想い人であるハジメの部屋を訪れる。

 

「ハジメさん、少しいいですか?」

「ん? どうしたんだ、シア?」

「ちょっと話があって……中に入ってもいいですか?」

「ああ、ちょっとだけ待ってろ」

 

 そして数十秒ほど待った後、シアはハジメに部屋の中まで招き入れられた。

 

 

 大事な話をするために……

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 

 フェルニル内のハジメの部屋。それは間取り自体は他の部屋と同じだが、部屋の隅に机と光るスクリーンが浮かんでいる場所がある。それは普段メインデッキに備えられている『ヘファイストス』の子機端末が備えられており、ハジメの工房と言っていい場所だった。シアには何に使うのかよくわからない作りかけのアーティファクトが散乱しているのが印象的だ。

 

「悪いな。さっきまで作業してたからあんまり片付いてなくて」

「いえいえ。いかにも男の子の部屋って感じなんじゃないですか」

「まあ、シアが気にしないなら良いけど。それで……一体どうしたんだ?」

「その前に……隣に座ってもいいですか?」

 

 現在ハジメはベッドに腰掛けているので隣に行きたいと希望するシア。なぜわざわざ許可を求めるのか疑問に思うハジメだが、断る理由もないので了承する。

 

 そして二人は隣り合い、しばらく沈黙を得た後、シアが口を開いた。

 

「改めてお礼を言いたかったんです。ハジメさん、家族を助けてくれてありがとうございました。私も、家族も無事なのは……ハジメさんのおかげです」

 

 それは帝都でのハウリア暗躍での通信、および装備系統のアーティファクトの援助だけではなく、シアにとって全ての始まりの谷の底での出来事についても含まれていた。

 

「今更だな。俺にも得るものがあったし、お互い様だよ。俺達は間違いなくお前がいなかったらここまでやってこれなかった」

「そうですかね」

「ああ、それは自信を持ってもいいぞ。今やお前は立派な俺達の仲間だ。最初出会った時からは想像もできないくらい、お前は成長したよ」

 

 シアの胸に喜びと……いつもより大きくなった虚しさが響く。ハジメはシアのことをあくまで仲間呼びし続けている。

 

「ハジメさんこそ……あの恐ろしい悪魔に啖呵を切るところなんかかっこよかったですぅ」

「よせよ。結局、俺は悪魔相手にほとんど何もできなかったんだ」

「いいえ、そんなことありません」

 

 それは悪魔によってシアが傷つけられた時、ハジメがシアを指して言ってくれたことはシアの胸に確かに響いたのだ。

 

「私が傷つけられたことを怒ってくれて、私……本当に嬉しかったんです」

「……当然だろ。俺は俺の大切を傷つける奴を許すつもりはない」

 

 まただ、とシアは思う。ハジメのシアは大切な存在で、シアを傷つける奴を許すつもりはないと言う言葉に嘘はないのだろう。だけど、いつまで経っても、ハジメとの間には確かな壁があるのだ。

 

 だけど、ああ。今宵のシアは熱に浮かされ……そこから先を求めてしまう。

 

「……大切……それだけですか?」

「えっ……」

「私はもう……それだけじゃ満足できません!」

 

 確かにシアとしてはそう言ってもらえるだけでも嬉しかった。だが、今のシアには……もはやそれだけでは足りなかった。

 

 かつては浮ついた心を含めて告げた。そして今度は、確かに胸に宿る熱い想いを源泉に、シアはハジメに想いを告げると決める。

 

「好きですッ、ハジメさんが好きなんですッ。だから……だからッ、私の全てを……貰ってください!」

「お、おいシアッ!?」

 

 少し狼狽するハジメを他所に、もうシアは止まらない。どんどん火照る身体の熱を冷ますかのように、次々服を脱ぎ捨てて、だんだんあられもない恰好を晒していく。

 

「大好きですッ! だから……ユエさんと一緒に私も愛してください」

「シア……」

 

 全て脱ぎ捨てたシアは勢いに任せてハジメに覆い被さるように押し倒す。

 

 両者の距離はそのままどんどん近づいていき……

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 ユエはネグリジェに薄いカーディガンを纏い、フェルニルの自室を出てハジメの部屋に向かう最中だった。

 

 何をしに向かうかなど、ハジメとユエの関係を思えばもはや周知の事実であり、初心な少女──先生も混じっているが──からしたら顔を赤くする案件であり、童貞男子からしたら興味がないふりはできないことである。

 

 

 ユエとハジメの付き合いも半年を過ぎている。とはいえこの二人の場合、本来至るステップを幾段すっ飛ばして色々経験しているわけではあるのだが。

 だがユエには少しだけ予感があった。もしかしたら、今夜はいつもとは違うことが起きるかもしれないと。

 兆しはずいぶん前からあった。ハジメを誰よりも見続けてきたユエだからこそ、親友であるシアのハジメを見る目に、以前よりも深いハジメへの恋情の想いが宿っていることに気付くのに時間はかからなかった。

 

 

 帝都にて思わず暴走しそうになっていたシアをハジメが説得した時。フェアベルゲンで何やら二人で話をしていた時。それの積み重ねにより、シアの顔がどんどん女の顔になっていくのを、ユエは見ていた。

 親友の想いの発露をユエは好ましく思う。以前のような浮ついたものではない。しっかり根を生やした心の底から湧き上がる大事な想い。

 

 

 ユエの中でも、奈落から出て最初に出来た友達であり、仲間であり、そして妹のような存在のシアは別格に位置していた。それこそ、他の女には絶対に許さない”特別”の座をシェアしてもいいと思えるくらいに。

 だからこそ、これまで姉が妹にするようにシアの頑張りを見守り、また頑なとも言えるハジメの気持ちを解してきたのだ。いつかハジメがシアを受け入れてくれるように。

 

 

 ユエには理想がある。それは蓮弥、ユナ、雫のように、三人で共に危機を乗り越え、そして喜びを共有できるような関係。ユエは男が複数の女性と付き合うことに嫌悪感を示したりはしない。器の大きい男が多くの女を囲うのはある種当然なのだ。そう言う意味で言うなら一人の男を共有しているのにお互い仲が良いユナや雫、それを受け入れる蓮弥の関係はユエの理想と言えた。

 

 

 いつか、自分とハジメ、そしてシアの三人で蓮弥達のような関係を築けたら。それはきっと素敵なことなのだとずっとそれを夢見てきた。

 

 

 そして、ユエの予感が正しければ……もう少しでそれは現実になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう……思っていた。

 

 

 

「シア?」

 

 ユエがハジメの部屋から出てくるシアを目にする。当然服を着ているがその着こなしは、まるで勢いに任せて適当に身につけたようにぐちゃぐちゃだった。シアの表情は……俯いて見えない。

 

 ユエは、そのシアの様子に只ならぬものを感じた。

 

「シア、どうしたの? 何かあった?」

 

 沿う優しく声をかけ、まずは乱れている服装を正してあげようと手を伸ばし……

 

 

 ぱぁん! 

 

 

 フェルニル内の廊下に……乾いた音が響く。ユエの手に……鋭い痛みが走った。

 

「えっ……?」

 

 何が起こったのかわからず、呆然とシアを見る。

 

 そして手を払いのけられたのだと気づいたユエは……身長差によって覗き込むような形で、シアの目を見てしまった。

 

 今までユエに一度も向けたことがない。暗い炎を宿した鋭い目を。

 

「あっ……」

 

 何も言えない。身体が動かない。

 

 そのまま立ち尽くしているユエの横を、シアは通り過ぎていく。

 

「あっ……シ、ア」

 

 ユエは直感する。駄目だ、早くシアを追いかけないといけないと感じた。だがそれに反して身体は動かない。そのままシアは自分の部屋に入ってしまう。

 

「一体何が……」

 

 何か異常が起きている。何かユエの想像とは致命的にズレがある何かが。

 

 知らなければならない。だがシアは部屋に鍵をかけたのは遠目でもわかった。なら、ユエの取れる選択肢は一つだけだった。

 

 

 シアはハジメの部屋から出てきたのだ。なら、シアの異変はハジメが関係しているはず。

 

 早鐘のように高鳴る心臓を抑え、ユエは恐る恐るハジメの部屋に近づく。

 

「ハジメ……起きてる?」

 

 返事はない。だが鍵は掛かっていないのでユエはそっとハジメの部屋に入る。

 

 

 ハジメは起きていた。ベッドに腰掛けるように座っており、何か考え込んでいるのか少しも動かない。

 

「ハジメ?」

 

 ハジメもまたいつもと様子がおかしい。そう考えたユエは可能な限り優しい声が出るよう心掛け、ハジメを呼ぶ。

 

「…………ユエか」

 

 返事をするも顔を上げない。ユエはそっとハジメの横に座る。

 

 

 空間を沈黙が走る。どちらも何も言わない。少なくともユエは、ハジメが口を開いてくれるのを待つつもりだった。

 

「…………もしかして、シアとすれ違ったか?」

「…………ん」

「そうか……」

 

 ユエはいつものように返事を行う。だが再び沈黙が始まってしまったので、ユエは言葉を切り出すことに決める。

 

「シアと……何かあった?」

「何か…………ふ、そうだな。いつも通りいらんことをしようとしたから俺が適当に……って流石にそれじゃシアに失礼だよな…………シアに告白された」

 

 それはユエとて予想していたこと。ただし、その後起きた結果がユエの想像とは違った。

 

「そして……俺がシアの告白を断った。……その際少しもめた。それだけだ」

「…………どうして?」

 

 どうしてシアの告白を断ったのか。ユエにはわかっていなかった。あれほどシアを大切にしていたのに、もしかしてまだハジメは奈落の底に心を囚われているのか。そう考える。()()()()()()()()

 

 だがその言葉に、ハジメは薄く笑い始める。まるで自嘲するように。

 

「どうして……どうしてか。はは、そんなの決まってるだろ。俺にはユエという愛する恋人がいるんだ。それなのにシアの告白を受けるわけがないだろ。増してや肉体関係なんて……それじゃあ浮気どころか、不倫になっちまう。不倫て言葉はトータスにもあるよな?」

「ハジメ?」

「やっぱり俺とユエの間には()()があるんだな。ユエの境遇を思えば当然だけど」

「ハジメッ、何を言ってッ」

 

 先程からハジメはユエに言葉をかけていない。完全に独り言を言っている。それが、それがとても不吉なものに思えて、ユエは思わずハジメに縋り付いてしまう。

 

「…………なあユエ」

「何?」

「ユエはさ…………」

 

 

 

 

「本当に俺のこと……愛してるんだよな?」

 

 

 

 

 その一言は……ユエの背筋を凍らせた。

 

 ハジメが何を言ったのか理解できない。ユエの頭はどんどん混乱していき、その間もハジメの言葉は続く。

 

「ユエは……本当に俺がシアと結ばれてもいいと思ってたのか?」

「えっ……」

「本当に? 仮に俺がシアの告白を受け入れて、あのまま一線を超えて。本気でいいと思ってるのか?」

「何を……」

 

 まだ頭が回らないユエに業を煮やしたハジメが段々ヒートアップしてくる。

 

「俺はユエのことが好きだ。大好きだッ。愛してるッ! 俺とユエが出会ったのは運命だと信じている!!」

「それはッ、私だって!!」

 

 なんとか必死にそれだけを返すユエ。それだけは否定してはならない。だが、ハジメの欲しい言葉には一歩届かない。

 

「だから俺はッッ! 俺はユエを独占したいし……()()()()()()()()()()()()ッッ!!」

 

 

 その叫びが、ユエの心に鋭く刺さった。

 

 

 ~~~~~~~~~

 

 今まで溜まっていた想いを叫んだハジメはもう止まらない。()()()()()()()()()の赴くままに、感情を発露してしまう。

 

「俺はずっと言い続けてきた! 俺にはユエだけなんだとッ。なのに……ユエは他の女を俺に薦めてくるッッ! ……そんなに変か? 俺がユエだけを一途に想うことは、そんなにズレたことなのか!?」

 

 ハジメは、愛子の言葉をキッカケに奈落の底で失った社会性を取り戻していた。否、地球時代のハジメを思えば、むしろ成長していると言ってもいい。その過程で仲間もできた。比重がやたら女に偏るようなパーティーだったが、今となっては彼女達はかけがえのない仲間だ。ハジメは胸を張ってそう自慢することができるだろう。

 だが、恋人と仲間、”特別”と”大切”。それら二つはハジメの中で明確な差がある。

 

「俺は嫌だ!! ユエが他の男に触れられるなんてッッ! 本当はずっと思ってたんだ。ユエに下心を向けてくる野郎共は、全員殺してやりたいって!」

 

 その目に、確かに狂気を滲ませながら、今まで奥底に秘めていた本音を発露する。

 

 全てではないだろうが、おそらくそれがユエに言い寄る男にハジメが過剰なまでに攻撃した理由の一つ。ハジメの中心にある、ユエに対する激しい情動。

 

「ユエは俺の物だ。誰にも渡さない!! それが例え……誰であっても!!」

 

 ハジメの脳裏に過るものがある。

 

 それはフェアベルゲンでの悪魔との戦い。そこの一幕。

 

 ユエの魂殻霊装が解け、悪魔に捕えられた時、ハジメは必死でユエを助けようとした。帝都で示した新たな力を総動員してユエの前に立ちはだかるもの全てを薙ぎ払って前に進んでいた。

 だが、届かなかった。手に入れた力も条理の外にある悪魔には通じない。条理の内にある力ではどれだけ強くなっても意味がないのだと言わんばかりの結果にハジメが歯を砕かんばかりに噛み締めている時に、颯爽と現れ、ユエを救出したのは……蓮弥だった。

 

 悪魔を一刀の元に斬り裂き、捕えられていたユエを抱きかかえて、地上に降り立つ蓮弥をハジメは……見ることしかできなかった。そしてその時、ハジメの心には確かに黒いドロドロしたものが溢れだしそうになったのだ。

 

 ハジメは蓮弥に対して怒りがあるわけではない。理屈ではわかっているのだ。蓮弥はユエに対してそういう感情を持っていないこと、蓮弥には他にハジメにとってのユエと同様に愛する女がいて、ハジメの敵足り得ない存在であること。そんなことはわかっているし、窮地に陥っていたユエを助けてくれた蓮弥に醜い嫉妬を向けるなんて理不尽を働くつもりはなかった。あるいはユエとは別のベクトルでハジメの特別である蓮弥だからこそ、怒りを向けずに済んだとも言える。

 

 だからこそ、それは全て自分の不甲斐なさに向けられる。何のことはない、これは気概の問題だ。

 

 惚れた女を他の男に守られて、恥を覚えないなんて男じゃない。

 

 そういう意味では、ハジメは立派な男だったのだ。

 

「ユエッ!」

 

 未だに呆けるユエにカッと頭が熱くなり、ハジメはユエを押し倒し、激しく口づけを交わしていた。

 

「ッ!? むぐ、んんッ、ああ、んん!!」

 

 幾度となくハジメとユエが繰り返してきた求愛行動。だが今までと違うのは込められた情念の濃度と質量。ハジメはここで、ユエの何もかも全てを奪うつもりで、もうユエが自分以外見ないように、逆に自分を他の女に渡そうなどと思わないように、ユエに一切配慮することなく強引な口づけを続行する。

 

「んん、んぐ、んんん!! んんんんッッ!!」

 

 ユエに一切配慮しない口づけと共にハジメはユエの服に手をかけ、強引に引き裂いた。元々そのつもりでユエが用意した服だったがゆえに、それは簡単に引き裂かれ、その下の玉の肌を露わにし、ハジメは手を這わしていく。

 

「んんッッ!? むぐ、んんん、むううう!!」

 

 いつもと違う、優しさを感じない強引なハジメの手にユエが抵抗するもお構いなしに、ハジメはユエの肌に触れる。そしてしばらく弄った後、ユエの大切なところへ手を伸ばそうとして。

 

 

 乾いた音が、ハジメの部屋の中に響き渡った。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 ユエは肩で息をしつつ、自分が何をしたのかゆっくり自覚する。

 

 突然行われたハジメのいつもと違う強引な情事に激しく抵抗している内に見たハジメの左目。

 

 獣欲で真っ赤に染まるそれを見た途端、言いようのない恐怖を覚えたユエはとっさに魔力強化を使ってまで強引にハジメを押し返し、そして……

 

 

 右手に走る、痺れを自覚した。

 

「あ……あっ、ちが、わた、し……」

 

 ユエの心に湧いてくる後悔。とっさにハジメに何か言おうと口を開いて……

 

 ハジメの目を見て……固まった。

 

「…………何やってんだ、俺……」

 

 ハジメはすっと立ち上がり、強引に引き裂いた服の代わりに自分のコートをユエにかけた後、ベッドから離れるハジメ。そしてハジメはそのままフェルニルの外、雲海が見える窓の方を向き始めた。

 

「ユエ……悪かったな。その……ほら、最近色々あっただろ。悪夢とかガングロ悪魔とか。そういうのに遭遇して、ちょっと精神的に疲れてたんだと思う。……シアにも酷いことしちまったからちゃんと謝らないとな」

「ハジメ……私、私ッ「だからさ」ッ!?」

 

 ユエから背を向けるハジメに嫌な気配を感じたユエが考えが纏まらないまま、とにかく何か言おうとして、強引にハジメに遮られる。

 

「だから……きっと大丈夫だ。疲れだっていつまでも続かない。一日寝たら元通りだ。きっと……今までと同じ一日が始まって、俺達は最後の大迷宮目指して今まで通り皆で頑張ることになる」

「ハジメぇ……」

「だから今日は……今日だけはさ」

 

 

 

 

 

 

「一人に……して欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 そこからのユエの記憶は曖昧だった。

 

 いつの間にか自分の部屋に戻ってきて、いつの間にかうつ伏せでベッドに横たわっていた。

 

(私……バカだ)

 

 ユエの頭にハジメのセリフが蘇る。まるでようやく致命的な勘違いに気づいた愚かな女を責めるように。

 

『だから俺はッッ! 俺はユエを独占したいし、ユエに独占されたいんだよッッ!!』

 

 なぜ、なぜハジメの想いに気付かなかったのか。ユエの頭の中にはその言葉ばかりが周り続ける。

 

 

 ユエが思い返してみれば、ずっとハジメは言い続けていた。

 

『俺の特別はユエだけだ』

 

 言い方は異なれど、全て意味は同じ、それは……ハジメのユエに対する一途な想いの発露。

 

『俺はずっと言い続けてきた! 俺にはユエだけなんだとッ。なのにユエは他の女を俺に薦めてくる。……そんなに変か? 俺がユエだけを一途に想うことは、そんなにズレたことなのか!?』

 

(ハジメは……今までどう思っていたのだろう)

 

 ハジメの本心を聞き、ユエは自らの行動を思い出す。

 

 それはシアと特別を共有してもいいという言葉だった。

 

 それは、ハジメの隣で寝る権利を懸けて、香織とティオを挑発する自分の姿だった。

 

 他にも、他にも、他にも。

 

 そのほとんどにはハジメが側におり、困った顔でユエを見ていて……

 

(私……ハジメをずっと傷つけてた……)

 

 ユエの脳裏に嫌な妄想が浮かんでくる。ユエとハジメが逆になった光景。

 

『なあ、ユエ。俺と蓮弥は親友だ。だから親友とは良い女を共有しないとな。だから俺は気にしないからお前……今から蓮弥に抱かれて来いよ』

 

 ユエにとって蓮弥は好きか嫌いかで言えばもちろん好きな部類に入るし、今のユエを構成する大切な要素の一部と言ってもいいが、それとこれとは話が別だ。当然ハジメにそんなこと言われて……ユエが傷つかないはずがないのに、どうしてハジメもそうだと思わなかったのか。

 

(だって、そんなの知らない。私……ずっと、そうやって教わってきた。それしか知らなかった!)

 

 

 ユエは王族の女だ。しかも数が他よりも少ない吸血鬼という種族の生まれであり、さらにその当時が戦乱の世だともなれば、国の方針はある方向に偏ることになる。

 

 

 それは国民一丸となって子孫繁栄を目指すという方向。

 

 

 国民が子孫を残すのは義務であり、そのためならば一人の男が複数人の女を囲むのが当たり前の環境で生きてきた。

 そしてもちろん。ユエもそうやって教育係から教育を受けてきたし、加えて言うならそれ以外の知識を会得する機会などなかった。

 

 

 ユエの年齢は323歳。それは人より何倍も長く生きているように見えるが、実のところその内の300年は封印されて過ごしてきた。つまり人生の9割近くは暗闇の中での経験であり、人らしく生きた年数はその内のたった23年。人間でいうなら愛子よりも年下のまだまだ経験豊富な大人とは言えない年齢になるだろう。ましてや、ハジメが初恋だったとしたらなおさらだ。

 

 

 経験がないのだから当然、ユエは教わった通りにやったのだ。優れた男は複数人の女を囲うのが当たり前。そして、偶然にもユエが認めるような優れた女性はハジメの周りには複数存在したし、何ならユエの理想の体現者である蓮弥達という成功例すら身近にあった。

 

 だが、そう教わってきたからといって、身近に成功例があるとはいえ、上手くいかないのが恋と言う物。

 

 そもそもハジメとユエでは当初より恋愛観には大きな違いがあった。基本的に一夫一妻性が基本の日本で生まれ育ち、変わってはいるが、仲の良い夫婦に愛情を持って育てられたハジメの恋愛観が、ユエの恋愛観と合うわけがないのだ。

 

 ユエは知るべきだった。男の中には、たった一人の女に全てを捧げるような者もいることを。

 

 

 これはハジメとユエにとって避けられず、いずれ起きていた衝突だったのだろう。だがそれは、タイミングが良ければ大したことにならなくて済んだ可能性が十分あることであり、逆に今回は、最悪のタイミングで訪れた形になる。

 

(けどそんなの全部言い訳ッッ……嫌だ。私……嫌だッ。……最低ッ!)

 

 だがそんなのは全部言い訳だ。恋愛観が違っても、それに気づく機会はいっぱいあったのだから。後悔したところで、もう後の祭りだ。

 

「うう、ひく、ぐす、えっぐ」

 

 ユエは泣きながら胸の痛みを堪えて震える身体をベッドに横たえる。

 

 自己嫌悪が止まらない。シアのあの暗い炎を宿した目が忘れられない。あんな目をシアが自分に向けるほど、自分は知らない内にシアを傷つけていたのだと思い込んでしまう。

 

 自分がハジメの頬を張ってしまった際の、ハジメの傷ついた顔が忘れられない。この期に及んで自分はまた、ハジメに追い打ちをかけてしまった。

 

 

 恋人はおろか、初めてできた親友すら無自覚に傷つけていた自分が心底嫌いになりそうだった。

 

 いや、そもそもの話。

 

 ■を■■したような愚かな女が、恋人や親友ができると思ったのが間違いだったのか。

 

 ”彼女”が作り上げた、()()()()()()()()()に罅が入る。

 

 

 そして、その罅から顔を覗かせた、”彼女”が絶望に嘆くのだ。

 

『そう、私はまた……間違えたのですね』

 

 

 

 かつて、シアが言ったように未来は絶対じゃない。

 

 不変なものなどないからこそ、それを示すように。

 

 絶対に揺るがないと思っていた絆に……

 

 

 亀裂が入る音が聞こえた。

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 誰がいけなかったというわけではない。だがキッカケは間違いなくシアに仕掛けられた悪魔の細工。そしてそれ自体は大したものではない。人と時と場合によっては薬になることすらある代物。

 

 その効能は『発症した者を媒介に伝染し、発症者の心のタガを少しの間、外すこと』。

 

 悪魔は地獄で笑っているだろう。自分は恋に悩む兎人族の少女の恋が実るように、恋のキューピットをしただけだと。だが、悪魔の面目躍如か、そのキューピットの矢は見事命中し、彼らの関係を拗らせに拗らせた。

 

 

 自身の恋人に対する異常な想いを自覚して、それが漏れないよう必死で鍍金を固めようとした少年。

 

 無自覚に大切な人達を傷つけていたことに気付いてしまい、自己嫌悪に苦しむ吸血姫。

 

 そしてその優れた聴覚で二人が話していたことの全てを聞いてしまった兎人族の少女。

 

 三者の想いが入り交じりながら、一行は最後の大迷宮があるシュネー雪原へと向かう。

 

 そこに待つ最後の大迷宮。

 

 これを攻略すれば概念魔法に手が届く。そんな大事な局面。

 

 だが彼らは知る由もない。

 

 その大迷宮の最後の試練で……あんな悲劇が待っているなんて。

 

 この時の彼と彼女達は……誰一人思ってもいなかったのだ。




章末恒例長いあとがき 後編。

今度こそ第六章完結。

次回第七章のテーマは「ベリーハードモード」

そして例によって少しお休みをいただくことになるでしょう。

では。





注意:ここからは、原作「ありふれた職業で世界最強」について辛口な意見も多数飛び出します。あくまで作者が一人の読者として原作に抱いた感想であり、他人に強制的に共感させるわけでも過剰な原作アンチをするつもりもありませんが、人によっては苦手な人もいるかもしれないので心構えはしておくようにお願いします。




さて、タグで明示し、表紙にも伏線を張ってたわけですが、今こそ高らかに宣言しようと思います。


ハジメの愛する女は、ユエだけでいいだろ!


さて、いきなり何言ってんだこいつと思っている読者もいるかもしれないので説明すると、キッカケは私の中のハジメの人物像が始まりです。

実は私はありふれの原作は一時期読むのをやめていた時期がありました。そしてそのキッカケこそが、ハジメがシアを受け入れてしまったことにあります。

というのも、私は第五章まで、ハジメのことは恋愛一途速攻系主人公だと思っていたからです。
それがどんな主人公なのかというと、最初からカップリングが公式で決まっていて、二人の仲がついたり離れたりするのを読者がやきもきニアニアしながら見守る作品(作者的に名探偵コナンとかが思い浮かぶ)とは違い、物語の序盤で早々本命のヒロインと恋人以上の関係になり、以後主人公が他ヒロインに惚れられることはあれど、主人公はあくまでメインヒロイン一筋でブレたりせずに、物語が進むにつれてメインヒロインとどんどん深い関係になっていくタイプ。
他作品で例えるならSAOのキリト、落第騎士の一輝みたいなタイプですかね。

つまりハジメもその系統の主人公だと私は思っていました……第六章までは。
第六章を読み進めていく内に段々流れが変わっていくのを感じつつも、ハジメならきっとと期待しながら読み進めていたのですが……

以下Web原作より一部抜粋

常に静かな言動のユエに対しては太陽の如く燃えるような気持ちを抱き、常に天真爛漫なシアに対しては月のように柔らかく静かな気持ちを抱く。何とも不思議な話である。――原作第六章 不確かな未来より

作者「……何言ってんだこいつ? いや、あの……ハジメさん? 何やら太陽だの月だの厨二病で誤魔化そうとしてますが、それを世間一般でなんて言うか知ってます? ……"浮気"って言うんですよ」

本編でハジメとユエの間に恋人としてのカップリングが正式に成立している以上、例えユエが許そうともハジメがシアを好きになるという行為は浮気であり、二人の関係に割り込んだシアは間女の誹りは避けられないはず。

ここでハジメがユエに対してユエ以外の女を好きになってしまった罪悪感を抱いていたりする描写があったり、ユエがいざ実際にハジメとシアが結ばれたと知った時、思ったよりショックを受けている自分に愕然としているというような背景があったりすればまた違ったんでしょうが、原作にそんな展開はなくあっさり二股成立。

正直七章を読むモチベーションが下がりましたが、前回も言ったように、私は別にハーレムを否定しているわけではないのでハジメをそういう主人公だと思えばなんとか行けると読み進めていきました。例えその辺りから光輝弄りが酷くなろうとも、作者お気に入りで何だかんだ光輝に最後までついて行くかなと思っていた雫があっさりハジメに落ちたとしても……

ですがラスボスを倒し、ついにエンディングを迎える時になり再び事件は起こりました。


書籍派はネタバレ注意ですが、おそらく書籍だけ読んでここにいる人は少数派だと思うので書きます。

以下本文一部抜粋。

そう言って、ユエはハジメの唇を捕えた。

遠くから、シア、ティオ、香織、雫、ミュウ、レミア、愛子、リリアーナを筆頭に、続々と人が集まって来る。静謐で神秘的な空間が、途端に賑やかな街中のようになった。

 視界の半分を愛しの吸血姫に埋められながら、その向こう側の彼女達を見て、ハジメが思ったことは……

(さて、父さんと母さんに、全員俺の嫁って紹介したら、どうなるだろうな……)

ーー最終章 エピローグより

作者「…………なんでやねん」

まさかの特にハジメが各ヒロインを好きになる描写もなしにあっさりハーレム成立、嫁's結成。正直、シア、ティオ、香織くらいまでは愛人と言う名のハーレム入りを覚悟していた作者も唖然でした。

作者「まずハジメはユエとキスしている時に他の女のことを考えるなよ。あとハジメさんや。リリアーナには絶対ないとか言ってたし、愛子は先生だし、レミアに至っては出会って過ごした時間多分長く見積もっても一週間くらいの薄い関係だろ。来るもの拒まずか。後さらっと一応娘で4歳のミュウが混じっているけど、まさか両親に紹介する嫁に交ざってないよね?」


さらにアフターで街中デートと言う名の俺の嫁自慢大会。さらに行われるハジメのアレな行動の数々。

……そこで作者の中でありふれは本編エピローグにて完結したことになりました。そこで終わってたら後は読者のご想像にお任せしますで通じるので。本作アフター白紙化現象が起きたのもこれが原因の一つです。


長々書きましたが、つまりこういうことです。

~~~~~~~~
聖約文

作者ことシオウは、本作「ありふれた日常へ永劫破壊」の完結まで、ハジメにユエ一筋を貫き通させることを誓う。

~~~~~~~~

原作を根本から否定することはできませんが、あの時ああすれば、もしああだった場合どうなるだろう。自分ならこうする、などのもしもを創造するのは二次創作の醍醐味ということで思い切ってやっちゃいます。
いきなりハジメを大きく変えると原作アンチヘイト色が強くなるので約140話かけてゆっくりハジメを変えてきた面があります。なので本作ハジメのハーレムを期待していた方はすみません。一応タグにもありますし、表紙にも書いているので詐欺ではありません。本文にもそれとなくユエへの想いを強調してたりしますしね。

そしてそうなると当然、原作では結ばれたヒロインを負けヒロインとして切り捨てるということでもあります。

ただ本作の場合、雫は言わずもがな、愛子やリリアーナや優花はそもそもハジメにフラグが一切立っていない。レミアは恋愛経験者だけあってこの展開になることを薄々察して5.5章にて身を引いています。つまり影響を受けるのはシア、ティオ、香織までになります。

そして当然、そんな精神状態で挑むシュネー大迷宮の難易度が原作と同じなわけありません。シュネー大迷宮がベリーハードモードになる原因です。

以下個別評価

ハジメ
本作のハジメはユエ一筋。それもハジメの方がやばいくらいベタ惚れで仲間としてならともかく、恋人としてはユエ以外の女なんて眼中に無し。その点は例えユエが何を言おうと変わらない。本作ハジメパーティーの中で一番ヤンデレなのは香織でもユエでもありません。間違いなくぶっちぎりでハジメです。
……原作でもユエが攫われただけで世界を滅ぼそうとするんだけどなぁ……
ちなみに本文で書いた「ユエを独占したいし、ユエに独占されたい」はたぶん原作のセリフだったはず。どこのセリフかは忘れましたが。

第七章では開き直りなんかでシュネー大迷宮をあっさり攻略させる気がない作者により、作者の思う、本当にハジメが見つめるべき己と向き合ってもらいます。ハジメの試練は少しアンチ色が強くなりますがあくまで向き合い、超えるべき試練です。

これより作者風カッコいいハジメ育成計画が始まります。

ユエ
原作でのハーレムの元凶。本作ではハジメの想いの強さを見誤ったのとハジメとの恋愛観の致命的なズレにより、取り返しのつかない最悪の事態を引き起こしてしまう。
大迷宮最期の試練は間違いなくユエのメンタルフルボッコタイムになるかと思います。それは現在のことだったり、過去のことだったり。そして……悪気はなかったとはいえ、一途なハジメの恋心を弄んでしまった禊として、ユエにはユナ、雫の時を超えるほど狂化された親友との喧嘩イベントと言う名の地獄の修羅場を超えていただきます。ついに正田卿頑丈なロリの法則がユエに発動。自動再生の特訓の成果をいまこそ見せる時。

シア
原作ではハジメと見事結ばれたシアでしたが、本作では最悪の形で振られることに。具体的には第七章で語りますが、女として大恥かいた形になります。
原作ではハジメと結ばれて、幸せ全開で挑んだがゆえに、あっさり攻略したシアですが、本作では真逆の精神状態で挑むことになります。つまり……

香織
彼女はハジメの主治医としてハジメのことならなんでも知っています。身体のことはもちろん……心のことさえも……

ティオ
ドシリアスが続くのでティオくらいは癒し枠にしようかなと考えています。龍神様が選ぶのは、果たしてどっちだ。


そしてもちろん、シア、香織、ティオがハジメ×ユエ(ユエ×ハジメではないのが重要)が決して揺るがないと知った時、どのような選択を取るのか。その辺りも七章かその次辺りで書きたいです。

なので次回第七章にてまたお会いしましょう。
では。

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。