ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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蓮弥の試練とユナの試練の二本立てになります。

ありふれ公式サイトに載っているキャラへの質問の回答を見ています。メルドさんの天職が『聖騎士』というのは初情報かなと思ったり、遠藤のセリフが薄くなっててスタッフも酷いことをするなと彼の仕打ちに対し、静かに義憤に燃えていたりしました。


蓮弥とユナの試練

 視界を染め上げた輝きが収まり、蓮弥はゆっくりと目を開く。

 

「やっぱり最後の試練は分断されるんだな」

 

 薄々わかっていたとは言え、ハジメ達のことを思って内心舌打ちする蓮弥。少しだけ自分の選択に後悔しそうになるが今さら言っても後の祭りだ。後はハジメ達の底力を信じるしかない。

 

 蓮弥が飛ばされた場所は細い通路のようだった。二メートル四方のミラーハウスで、上下左右に自分の姿が映っている。後ろを振り返って見ても、あるのは突き当たりの壁だけで、出入り口らしきものは一切ない。前に進むしかない場所だった。

 

 

 カツカツと鏡のような氷の地面を歩く足音が反響する。

 

 

 大体、十分くらい歩いただろうか。分かれ道のない一直線の道を歩き続けて、やがて蓮弥は、中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな部屋に辿り着いた。鏡のような氷壁と同じく、円柱型の氷柱もよく蓮弥の姿を反射している。

 

 氷柱を覗き込んで、蓮弥はこの試練のコンセプトを理解した。

 

 

 それは客観的にみれば奇妙な光景と言えるだろう。

 

 シュネー大迷宮の最期の試練。それはすなわち”自分に打ち勝つこと”である。己の負の部分、目を逸らして来た汚い部分、不都合な部分、矛盾……そういったものに打ち勝てるか、それをこの大迷宮は試している。おそらく神に付け込まれないための試練なのだろうと予想ができる。

 

 

 だがここで客観的に見た場合において、そこに奇妙な光景が広げられていた。自分に打ち勝つことが試練なのだとしたら、最後に対峙するべきは”己自身”であり、その姿も自分そのものと言っていい姿で出てこないとおかしいことになる。

 

 

 だが、現在蓮弥の眼前にある氷柱に映し出されている姿は”藤澤蓮弥”とは別の者だった。

 

 藤澤蓮弥と違って、際立って優れた容姿を持っているわけではないが、人好きしそうな雰囲気を纏った、好青年風の姿が映し出されている。

 

 

 だが、当人である蓮弥は大して疑問を浮かべることはなかった。むしろこの大迷宮のコンセプトからしたら当然だとすら思う相手。すなわちそれは……

 

「当然だよな。だって……お前は俺だもんな」

『その通りだよ』

 

 そう言ってそれは氷柱の鏡の世界から姿を現した。姿を見ればそれが戦うものの姿ではないとわかるだろう。どこにでもいるような一般的なスーツ姿の男性。

 

 そこにいたのは、蓮弥の前世である■■■■だった。

 

 

『今更言うまでもないことだけど。俺とお前は別人だ』

 

 

 蓮弥の中にずっと存在しながら、蓮弥になることができなかったそれは、ゆっくりと蓮弥のところまで歩み始めた。

 蓮弥と■■。元は同じ存在だが、ここに至ってもうすでに別の道を歩き始めた別人と言っていいぐらいに乖離が進んでいる。

 

『なぁ……理不尽だとは思わないか』

 

 だがそれが彼には受け入れられない。

 

『あの女神のところで受けた屈辱も、痛みも、絶望も。全部俺の物なのに……どうして俺は日陰の者にならなければいけない? どうして俺は自由になれない。所詮お前はただ、俺の”渇望”を使っているだけの神の人形だろ』

 

 蓮弥はフレイヤとの戦いにおいて、創造位階に到達した。その際、蓮弥の前世である彼に触れて、その渇望を知り、それを刃に変えて力を振るってきた。だが……

 

 

『お前じゃ真の意味でその力を扱えない。所詮借り物の渇望。本来の形からは程遠い。……なぁ、わかってるよな? 今のお前がもし、最後の位階に到達したらどうなるのか』

「それは……」

 

 黙って■■の言葉を聞くだけだった蓮弥も反応する。

 

『ユナと雫。二人の支えがあれば耐えられる? そんなわけないだろ。俺が手に入れた。押し付けられた力の本質は、そんな生半可な物じゃない。お前がもしそうなったら、二人の想いごと丸ごと染め上げてしまうだけだよ』

「……」

『そうなったら自らこの世界から退場するか? 無理だな。俺の知る限り、あの女神はお前を決して逃がしはしない。途中で降りることなんてできないんだ。それをやるなら、この世界に来る前にしなければならなかった』

 

 そして、■■が蓮弥の目の前に立つ。身長は若干蓮弥の方が高いがそれでもほぼ変わらない。まっすぐ蓮弥を見つめる目には何が写っているのか。

 

『断言する。今のお前が”流出”に至った場合。世界が地獄に変わる。あらゆる概念を破壊するお前の力はそのままだと宇宙の全てを破壊することしかできない。その先に待つのは、あらゆる概念が死んだ無の世界だ。そこに例外はない。仲間も、家族も、そしてユナや雫も……お前はいずれ全てを滅ぼすよ』

 

 蓮弥の抱えている闇。それは蓮弥が思っている以上に深い。この世界が女神の手の中にある以上、それに連なる全ては蓮弥にとって憎悪の対象なのだ。たとえそれが愛しい恋人であろうと、蓮弥が極みに達すれば例外なく破壊する。してしまう。

 

『だから、これからは俺がお前の代わりに戦う。俺なら俺の渇望をもっと上手く使えるし、きっと全て上手くやれる。だから……』

「俺はお前になれって言うのか……悪いがお断りだな」

 

 今までほとんど黙って聞いているだけだった蓮弥が初めて目の前の虚像に対して明確な意思を示す。

 

「正直お前の言葉には一理あると思うよ。俺はお前のことを詳しく知らない。名前も覚えていないくらいだし、お前の渇望を勝手に使っているだけかもしれない。そして……俺よりお前の方がもっと上手く力を使えるのも本当のことなのかもしれない。……だけどな、それでも俺が俺であることを捨てるわけにはいかない。俺の道はもう、俺だけのものじゃないから」

 

 トータスに来る前まで、自分の運命は自分だけで抱えるしかないと思っていた。日常の象徴であってくれた雫の存在のおかげで、その日が来るまでの日常を大切にしようという思いを抱くことはできたが、それでも雫を自分の都合に巻き込もうとは思わなかった。

 

 自分さえ耐えればそれでいいと思った。自分が消えても日常は続く。その果てに待つのが自分の破滅だとしても、それは自分だけが消えればいいと思っていた。だからこそ誰にも自分の事情を相談しなかったしできなかった。

 

 だが、今は違う。

 

「俺を信じて、どこまでも付いてきてくれる人がいる。俺と一緒により良い道を探してくれる人がいる。それはお前じゃなくて俺が手に入れたものだ。彼女達や仲間達の想いを蔑ろにするわけにはいかない。だから……俺はお前にはならない」

『その結果、お前が周りを破滅させることになってもか』

「そんなことにはならないさ。だから……お前にも力を貸してほしい」

 

 そこで初めて■■の表情が変わる。まるで信じられないものを見るかのような目を蓮弥に向ける。

 

「俺だけじゃきっと駄目だ。俺はお前じゃないかもしれないけど、お前は俺のルーツでもある。だからこそ、お前を無視して前に進むことはできない。だから……」

『お前を認めて……俺はお前の一部になればいいってか? ふざけんな!!』

 

 ■■が右拳が蓮弥の頬を捉え、蓮弥は思わずよろめく。

 

『ふざけんなッ! お前に何がわかるんだ。俺の絶望も、俺の悔しさも……何も理解していない癖にッ! お前にはわからないんだろうなッ、幸せの絶頂で……全てを奪われた男がどれだけ惨めなのか。俺はただ……彼女と一緒に幸せになりたかっただけなのに!!』

 

 ■■の攻撃は止まない。ただ立ち尽くす蓮弥に向けてその魂の叫びと共に、拳を振るい続ける。

 

 本来の蓮弥では傷一つ付かないであろう何の神秘も魔力も籠っていない拳。だが、蓮弥の渇望からしたらそれはまさに唯一のイレギュラー。

 

 神の理不尽を認めない蓮弥はタダの一般人相手に超常の力を振るうことはできない。だがこの世界が女神の影響を受けている以上、誰であっても大なり小なり力を発揮できる蓮弥も彼だけは例外だ。彼を前にした時のみ、ただの一般人と同じレベルまで落ちてしまう。

 

 なぜなら蓮弥が知る限り、彼こそ唯一。何の超常もない世界で懸命に生き続けた、ただ一人の『人間』だから。

 

『ああああああああああああ──ッッ!!』

 

 己の内にある全ての想いを込めて叫ぶだけ叫び、殴るだけ殴り続けるだけになった■■。だが……

 

「それで言いたいことは終わりか?」

 

 蓮弥が自分に向けられる拳を手で受け止める。

 

「なら、次は俺の番だ」

 

 蓮弥は思いっきり握りしめている手を引き寄せて、■■に対し、ヘッドバッドを叩きこんだ。

 

『ぐぅッ』

「お前の想いはわかった。きっと俺が感じている何万倍も悔しかったし憎かったんだろうな。だから……それは今俺に全部ぶつけろ。俺が全部背負ってやる!」

『簡単に言うんじゃねーぞ!』

「それくらいできなくてこの先に進めるかよッ!」

 

 そこからは二人の乱打戦。殴り、殴られ、蹴り蹴られ。それを繰り返すだけ。二人が同じだけ傷つき、傷つけ合い。お互いが身体と拳を血塗れにしながら殴り叫び蹴り吠える。それは藤澤蓮弥の今までの戦いを振り返れば決して派手でも神秘的でもない泥臭い戦い。だが、現在蓮弥が挑んでいるのは、絶対負けてはならない男同士のタイマンだ。

 

『がはっ、大体お前。ユナと雫。二人と同時に付き合うとか正気かッ? 俺なんか一人を愛するので精一杯で、これでも何度もすれ違って喧嘩だってしたんだぞ。それなのにあっさりハーレム成立させやがって。あんないい子達を恋人にできるとか正直羨ましいぞ!』

 

 ■■の右ストレートが刺さり、蓮弥は思わずたたらを踏むが、カウンターで左拳をお返し、■■の顎を跳ね上げる。

 

「ごふっ、この野郎。言うことがなくなったと思ったら最後にはこれか。お前あっさりハーレムしてるって言っているけどな。俺がどれだけ気を使っているのかわかってるのか!? 何か些細なことでバランスが崩れて修羅場再来なんて笑い話にもならない! これでも苦労してんだこんちくしょう!!」

 

 そして最後には愚痴の言い合いみたいなことを繰り返して……二人は全身を青痣だらけにして大迷宮の床に仰向けになって倒れた。

 

 彼は大迷宮が用意した試練である。その本来の能力は、試練を受ける人間が影である彼を否定すればするほどその力が上がっていくというもの。

 

 だが今回彼は、力を徐々に失っていった。つまり……

 

『最初からお前は覚悟を決めて立っていたのか』

「まぁな。いつか俺自身と向き合わなきゃいけないとは思ってたよ。お前と直接話せてよかった。お前の……いや俺達の真の渇望の正体も薄々わかってきた」

 

 それは確かな前進。蓮弥の渇望は全てを破壊するだけじゃない。何かを生み出せるものなのだという確かな実感。それを心に宿すことができたように思う。

 

『…………なぁ、俺』

「なんだ? 俺……」

『…………お前に……全部託していいかなぁ……』

 

 顔を手で覆った■■の声は震えていた。もうすぐ彼は消える。その最後の瞬間に残った最後の心残り。

 

「ああ、任せろ」

 

 その言葉を聞いてどんな顔をしているのかはあいにく蓮弥にはわからなかった。だが、きっと穏やかな顔をしていたのだと思う。なぜなら……

 

『そうか……』

 

 そう言って消えた彼の声には安堵の感情が宿っていることを感じたからだ。

 

 

 試練が終わり、彼が消えたことで蓮弥は異能の力を取り戻し、自分の傷を跡形もなく癒していく。立ち上がって奥を見て見れば、そこにはおそらく最深部へと続く道が広がっていた。

 

「ユナは……もうちょっとか。きっと大丈夫だとは思うけど」

 

 今蓮弥の内にユナはいない。おそらくだがユナはユナで試練を受けているのだろう。なら蓮弥にできることは、ユナ、そして雫が乗り越えることを信じて待つだけだ。

 

「ユナと雫は大丈夫。勇者パーティーも成長してきたし、攻略の見込みはある。問題は……」

 

 思っていた以上に自分と深い対話を行うようになって蓮弥は考える。これは今心に傷がある人間には非常に厳しい試練になるかもしれないと。

 

「ユナが戻ってきたらどうするか考えないと」

 

 もしかしたら最悪。仲間の命を優先して飛び出さなければならない可能性がある。それを想定して、蓮弥は先へと進んだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 そして蓮弥とは別の場所に出てきたユナは、現在自分と対峙していた。

 

 その姿は、かつて十二使徒と呼ばれていた頃のユナそのもの。

 

『あなたは知らないといけませんね。自分の成り立ちを……』

聖術(マギア)8章2節(8 : 2)……"心影天写"

 

 ユナ(影)が聖術を展開する。その聖術が戦闘用のものではないとわかっていたユナは己の影がどういう行動を取るのか様子を見ることにした。

 

 周囲の風景が変わる。かつてユナが生きてきた西暦と旧暦の境目の時代へと。

 

 "心影天写"は己がイメージしたものを周囲に映し出す聖術だ。それ以外できないが、何かを伝えるには都合のいい術でもある。かつてのユナの師は己の心象風景を映し出して己の教えを広める補助として使っていた。

 

『そもそも、ユダという少女は……産まれた時から普通ではなかった。産まれた時から持っていた他者の心を読み解く能力。それを持っていたからこそ、ユダは愛すべき両親の元から離れなくてはならなかった』

 

 その時の風景が映し出される。商人である父から金を奪おうとしていた男の心を読み取り、それを未然に防いだ時の出来事。ユダにとっての始まりの出来事であり、周囲と自分のズレを初めて認識した日でもある。

 

『そしてあなたは街から街へと点々と移動しながら生活していくことになる。幸いその力があったから苦労することはなかったけど、同じ場所に長く留まることもできなかった。そんなその日暮らしをしていた時に転機が訪れます。辿り着いた街にて、私はあの人に出会ったのです』

 

 場面が変わり、幼いユダと後の世で救世主と呼ばれることになる男の出会いが映し出される。

 

「……いまいち要領を得ませんね。この大迷宮の試練は己の闇と向き合うもののはず。この時に私の闇はありませんよ」

 

 黙って聞いていたユナもつい言葉を出してしまう。ユナも蓮弥同様、この大迷宮の試練の中身を把握していた。だがしかし、その問題はユナにとって過去のものなのだ。ユナが目を逸らしていた闇は蓮弥によって晴らされている。なら他に自分が解決するべき問題があるのかと思って聞いていたら昔話ときた。思わず聞き返してしまったのも無理ないことだろう。

 

『そうですね。では本題に入りましょうか。ねぇユダ。もし、もし私が……彼と出会わなかったらどうなっていたと思いますか?』

「どういう意味ですか?」

 

 ユナの師と出会わなかった自分。そんなこと考えもしなかったユナは意味を聞き返す。

 

『そのままの意味ですよ。仮にここでユダが彼に出会わなかったら。このまま流浪の旅を続けていたら。一体どうなっていたか……あなたにそれを教えてあげます』

 

 そして映像が再び変わり……膨大な情報がユナに襲い掛かってきた。

 

「ッ……」

 

 一瞬頭を抱えたユナだったが、すぐに適応する。そしてその光景を見た。

 

 

 自分らしき人物が祭壇らしき場所に祀られ、人々から崇められている光景を。

 

「これは……」

『もし、あのまま彼に出会わなければ、その力を抑える術を持たず、その力の成長を抑制することもなかったあなたは……宇宙規模で際限なく情報を収集し、ただ予言を吐き出すだけの白痴の女神として十字教に成り代わる巨大宗教の現人神として祀られていました』

 

 先程ユナに流れてきた情報の渦はユダが至った可能性にて習得していた情報のほんの一部なのだろう。もし、自身の能力を制御できず、効果範囲が無限に拡大し、森羅万象の情報を際限なく習得できるなら確かに、ユダは絶対に当たる予言を吐き出し続けるだけの機械と化していただろう。

 

「あなたは……一体?」

 

 ここにきて、ユナは目の前にいる自分の影の正体が気になり始めた。最初は自身の負の感情かと思っていたがどうやら違うらしい。そして、その影はその質問に素直に答える。

 

『私の正体は……あなたの霊的感応能力そのものであり、あなたの神性でもあるものです』

 

 

 ユナの神性はここからが本当に言いたいことなのだと言わんばかりに途切れた話を再開した。

 

『だがしかし、その未来は避けられた。それは言うまでもなく我が師の導きのおかげであり、私の成長を彼の力で抑え込まれていたからこそ、あなたは普通の少女としての人格を形成するに至った』

 

 白痴になるはずだったユダを救世主である彼が導き、その力の制御方法を教え、そして力の成長そのものを抑えていたからこそ、ユダは今の”ユナ”に繋がる人格を手に入れることができたのだとユナの神性は言う。

 

『我が師の思惑通り進んでいたなら、私は完全に封印され、あなたは人として人生を終えることができるはずだった。だが、そうはなりませんでした』

「……私が、師を裏切ったから」

『そうですね。そのせいで私の封印はなりませんでした。そしてこのまま成長してあの未来にたどり着くはずだったのですが、あなたは己の罪に耐えられず自ら死を選び、そのせいで魂が砕けてしまったのです』

 

 救世主というユダの力を抑制する者がいなくなったことで、ユダの神性は際限なく成長を続け、いずれ己の世界のみで完結した()()()()()になるはずだった。だが、師によって育まれた少女としてのユダの心が自身の罪に耐えられずに自害。そして二千年の贖罪によってその魂が砕けてしまった。

 

『その時からあなたの魂は欠けている。皮肉にも、師を裏切った末のあなたの行動が、あなたが完成する未来を避けていたというわけですね。ですが、私は再び成長を始めています。……少し話は変わりますが……あなたって意外と性欲が強いですよね』

「なッ!?」

 

 今度こそユナは不意打ちを喰らい、真顔でそんなことを聞いてきた己の神性から顔を赤くしながら距離を取った。

 

「そ、そんなことは……確かにその……蓮弥とはそれなりに、その……そういうことをしてはいますが、それでもおそらく普通くらい……雫とそんなに変わらないはずですし」

 

 慌てふためくユナに動揺することなく、ユナの神性は話を続ける。

 

『性交渉、つまり魂の逢瀬は互いに魂を分け与える行為であると我が師は定義していました。だからこそ、未通の乙女は魂に不純物がなく、それゆえにそれが神聖だともてはやされてきました。もっとも、我が師は心が通じ合った者同士の逢瀬であれば、お互いの魂を高め合うことができる行為であると言っていましたし、後の世のようにそれが罪だとは言っていなかったのですけどね。嘆かわしい限りです』

 

 確かに師は自ら守っていたユダ以外の使徒に対して姦淫を控えろとは言っていたが絶対に禁止しているわけではなかった。それを思い出したユナだが話の要領が掴めない。

 

「結局、あなたは何が言いたいのですかッ?」

『そのままの意味ですよ。あなたは蓮弥との魂の逢瀬により、かつて魂の崩壊時に失った魂を補い始めているということです』

 

 はっと何かに気付いたユナは思い返す。

 

 自分が言ったことだったのだ。蓮弥とのパスを繋ぎ直すのに魂の逢瀬が必要だと言ったのは。

 

『けどそれは仕方のないことでした。あなたと交わることで蓮弥の魂は創造位階へと到達しましたし、あなたの魂も安定することになりました。結果的に最善の行動だったと言っておきましょう。そして忠告しておきますが、蓮弥との行為はこれからも積極的に行った方がいいですよ。私の魂の不足はまだ補えていませんし、基本的にあなたと蓮弥にとって悪いことではありませんから。逆にあなたが蓮弥との愛に不安を抱けば、あなたが宿る聖遺物が彼の魂の一方的な捕食を始めてしまいます』

「それは……」

『いずれにせよ。あなたの完成は近い。だからこそ、あなたはいつまでも無色のままではいられない。無色ということはいかなる色も取り込んでしまうということ。このまま蓮弥と力を高め合い続ければ、いずれ彼を取り込んでしまう』

 

 無色とはいかなる色にも染まるとは言うが、その規模が規格外であれば、どんな色でも取り込んで溶かしてしまうということ。それはつまり、蓮弥との境界がなくなることを意味している。

 

 そしてそれだけ語った後、ユナの神性が段々と透明感を増していく。

 

『時間ですね。流石に大迷宮という魔法程度では私に干渉できるのはこの辺りが限界でしょうか。本来の試練の形とは違いますが、私の言葉を忘れずに生かすことができればあなたは攻略を認められるはずです』

「……わかりました。私はいつか、答えを見つけます。蓮弥達と共に」

『それでいいです。願わくば、私の完成があなた達にとって善きものでありますように』

 

 そう言い残し、ユナの神性は解けるようにして消えた。次に彼女と出会う時はユナが彼女と同化し、己の祈りを見つけた時だけだろう。

 

「私の願い……私は……」

 

 ユナは考える。己の願いを。

 

 いくら考えてもそんなに大それたことを願うことはできないという思いは消えないが、それでもいつか答えを出さなければならない。

 

 蓮弥達と一緒に居るために。

 

 その想いを胸に、ユナは出口の方へ歩き、蓮弥と合流した。




>蓮弥の試練
正田卿恒例の野郎同士の殴り合い。そして自分との戦いということで前世の自分とバトルしてもらいました。喧嘩の中身が作者の力量不足で薄くなってしまいましたが、そもそも蓮弥は最初からほとんど攻略できていたからだと思ってください。
それに本来創造位階に至った使徒にとってこう言う自分との戦いというものは起きないもの。なぜなら自分のあり方を疑うような奴に世界のルールは曲げられないから。こういう試練を突きつけられてもせいぜいこの試練を突きつけたやつ超うぜぇぇで終わるのが創造位階の使徒です。
唯一例外がかつての己と完全に決別する解脱という行為ですが、ここでは関係ないので気にすることでありませんね。

>ユナの試練
試練というよりはユナの神性が試練を利用してユナに忠告する話。
ここでもし救世主とユナが出会ってなければ、ユナはパンテオンで出るはずだったサハスラーラのような白痴の求道神として完成するはずだったという事実が発覚。

ちなみに以前第六章最後で語った蓮弥はユナと雫両方選ばないと大変なことになるというユナ側の理由を言うと。

蓮弥がユナを選ばず、雫のみを選んだ場合
L1:表面上納得するが、蓮弥とのリンクが薄くなり蓮弥が大幅に弱体化する。
L2:ユナが長時間現世に形成できなくなる。
L3:蓮弥は頻繁にユナの教会に引き寄せられることになり、そこでユナに幾度も誘惑される(ここで蓮弥がユナを抱けば、雫との修羅場を通して本作通りに戻る)

それでも蓮弥がユナの誘惑を振り払った場合
L4:ユナの蓮弥を求める本能の影響を受けて、聖遺物である罰姫・逆神の十字架(ゴルゴタ・プロドスィア)が蓮弥の魂を狙い撃ちにして捕食を開始する。(つまり蓮弥はこの辺りから力を使えば使うほど魂を失うようになる)
L5:蓮弥の魂を完全に取り込んだユナは求道神として完成し、蓮弥と永遠に己の世界に閉じこもることになる。

雫側の事情は次回以降にて。

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