ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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注意:伝勇伝は関係ありません。

ほぼ月刊ペースですがなんとか頑張ります。


堕ちた黒い勇者

「やぁ龍太郎。よく来てくれたよ。ここに来たってことは、やっと自分の間違いに気づいたってことかな?」

 

「光輝ッ」

 

 天之河光輝の様子は以前とさほど違いはなかった。

 

 身に纏う鎧はより黒く、今の光輝の立場を現しているかのようだが、その瞳の輝きは相変わらず不気味なほど澄み渡っている。

 

 

 己に邪な思想は一切なし。

 

 己こそ、正義そのものなり。

 

 

 その歪んだ思想を今の光輝は微塵も疑っていない。

 

「どうやら南雲は逃げ出したようだね。せめて最期くらい正々堂々と戦って死ぬことすらできないなんて、卑しいあいつらしいよ。まあどこに逃げようとも、悪の芽は必ず摘み取るけど」

 

 光輝にとって悪であるハジメを心底軽蔑するような言葉を吐き捨てる光輝。

 

「そういうお前は相変わらず絶好調みたいだな。……今のお前に何を言っても無駄だから、ひとつだけ聞くぞ。神父ダニエル・アルベルトはどこにいる?」

 

 決戦を行うにあたって、蓮弥達は優先順位を決めていた。

 

 まず最優先事項はユエの救出。仲間であるということを差し置いても、彼女の身体を依代に神エヒトが復活することは避けなくてはならない。そういう意味でもユエを優先するのは当然と言えた。

 

 そして蓮弥達が次に優先したことは、神父ダニエル・アルベルトの確保、及び排除だ。

 

 今この世界を取り巻く状況は、この神父の存在によって大きく動かされている。夢の世界で神話大戦を経験した雫と優花からもこの神父の存在はなかったと聞いている。光輝はもちろん、恵里、檜山に関しても大きな影響を与えてる以上、この神父の存在を無視するわけにはいかない。

 

 だからこそ、蓮弥は光輝に対し神父の居場所を聞き出そうとしたわけだが、光輝は今まで浮かべていた余裕の顔を消し、蓮弥に鋭い視線を向ける。

 

「どこにいるのかお前に教えるわけがないだろ。神父様は今この世界を救うための大事な儀式の真っ最中だ。邪魔させるわけにはいかない」

 

 その言葉には神父に対する全幅の信頼が感じられた。

 

 蓮弥に倒され、雫に諭され、その他の数多の要因が重なり、天之河光輝は精神的に追い詰められていた。

 

 もちろん、それは彼が自分を一度見つめ直すために必要なことであったし、実際メルドに導かれればいい方向に進むことは確かなのだ。だが本物の天之河光輝は、良い方向に導かれる前に神父の魔の手に堕ちてしまった。

 

「いい加減にしやがれ──ッッ!!」

 

 そして、その事実をもっとも認められないのは、彼の親友である龍太郎だった。

 

「まだわかんねぇのかよッ、お前はあいつに騙されてるんだ! あの糞神父はお前のことを都合のいい道具としか思ってねぇ。それだけじゃないッ、檜山だってあんな化物にされて、中村もおかしくなっちまって、ユエさんは今邪神に身体を乗っ取られそうになってる!」

 

 己の思いが光輝に届くように祈りながら、龍太郎の魂の叫びは続く。

 

「今振り返れば俺だってあの神父が怪しいってのはわかる。なのにお前が気づかないわけねーだろ! いい加減に目を覚ませ光輝ぃぃ──ッッ!」

 

 ひょっとしたら龍太郎はまだ希望を持っていたのかもしれない。

 

 幼い時から一緒に過ごし、光輝自身のトラブル吸引体質も相まって何度も危ない目にあってきた。

 

 それでも今まで何だかんだ乗り越えてきたのだ。この世界は今までの世界よりも厳しくて、辛い思いもしてきたが、最後の最後にはみんなそろってのハッピーエンドが得られると。

 

 それに、龍太郎自身が光輝と培ってきた友情は並みの高校生の物とは違うとも自負している。

 

 ハジメや蓮弥が言っても光輝は頑なになって受け入れないのはわかる。

 

 だが自分なら。今まで苦楽を共にしてきた自分の言葉なら、光輝に届くのではないか。

 

 そんな淡い期待がなかったとは言わない。

 

 だが、今の光輝には届かない。

 

「目を覚ますのは君の方だよ龍太郎。すっかり南雲や藤澤に毒されてしまったようだね。よりによって俺を救い、今なお世界のために戦っている神父様を罵倒するなんて……幼馴染だからといって、許されないこともあるぞ龍太郎」

 

 光輝から明確に敵意と威圧を向けられ、龍太郎は思わず一歩後ろに下がる。

 

「…………俺よりも……あんな屑野郎を信じるのかよ……」

 

 龍太郎がやるせない表情を浮かべる。だが蓮弥にとってはこの状況は想定内だった。

 

「さっきも言ったけど今の天之河に何言っても無駄だ。完全に自分の世界に閉じこもってる。自分のしてることが絶対的正義だと信じて疑ってないんだ。だから……まずはそこから崩さないと」

 

 蓮弥は下がった龍太郎の代わりに前に出る。この場で光輝とまともに戦えるのは同じ到達者である自分だけだからだ。

 

「やあ、藤澤。どうやら南雲と違って俺と戦う気みたいだね。そこは評価に値するよ。だけど……お前が悪である限り、俺には勝てないよ。君には雫やユナを解放してもらわなければならないしね」

「悪いが負ける気はない。いい加減俺の女がお前のことで悩むのは不愉快なんだ。雫のためにもお前には素面に戻ってもらうぞ」

「傲慢だな。やっぱりお前も女を道具としか思ってない類の下衆なのか」

「お互い愛し合った上でそう言うなら誰にも文句言われる筋合いはないな。それに、雫のことばかり気にかけてるが、白崎のことはいいのか。むしろ意識してたのはあっちの方だろ」

「俺はお前と違って紳士だからね。無理やり物にしようとはしないさ。香織はまだ南雲に洗脳されている。俺の元に戻すためにはまずは禊を済ませないといけない」

 

 女を自分のものだと言うことを傲慢と批判する一方、香織を自分の元に戻すと言う。その矛盾にも光輝は微塵の違和感も感じていないのだろう。

 

「まあすぐにわかるさ。どっちが正義なのか」

「やってみろよ。そんなチンケな”渇望”が、俺に届くって言うならな!」

 

 

 

概念魔法(ArsMagna)──光輝なる絶対聖剣(アブソルートゥス・アストライアー)!! 

Briah(創造)──女神転生・神滅の剣(アトラス・グラディトロア)!! 

 

 

 両者共に詠唱を破棄した上で到達領域に移行し、超高速戦闘を開始する。

 

「無駄だ。俺は前回とは違う。神父様によってお前のかけた縛りを解いてもらったからな! お前に勝ち目はない!!」

 

 光輝の言葉通り、攻勢に出ていたのは光輝だった。

 

 秒間数百を超える斬撃の嵐が、超高速で飛び回りつつ魔王の部屋の中で乱れ舞う。

 

 幾度もぶつかり合う金属音、余波で崩れる城壁。

 

 そんな中、蓮弥とぶつかり合うたびにその力の総量を上げていく光輝。

 

 以前よりも上昇率が大きいと感じるのは、やはり聖約を破壊されたからだろうか。

 

 蓮弥は聖約を破壊されたと認識してはいない。にもかかわらず以前よりも強くなっているのは神父が聖約に何らかの細工を施したからだと認識する。

 

 ユナの聖術は、神父でもどうにもならない。

 

 これは一つ良い情報を貰ったと蓮弥は剣を打ち合いながら思う。

 

聖術(マギア)1章5節(1 : 5)……"聖焔操火"

 

 蓮弥の周りに聖なる炎が旋回し、蓮弥の創造と掛け合わさることで神殺しの力が宿り、順次光輝に襲い掛かる。

 

「重力剣!!」

 

 光輝が無数の炎に対して行った対応策は単純明快。

 

 力で押しつぶす。

 

 回転した光輝の魔剣が発する重力波は炎が光輝に触れる前に吹き飛ばす。

 

「卑怯な。女の力がなければ戦えないというのか!」

「あいにくお前と違って非モテじゃないもんでな。それに……この戦いについてこれるのが俺だけだと思うなよ」

「!!」

 

 光輝は蓮弥の言葉の途中で後ろに跳ぶ。

 

 すぐさま炸裂する炎の槍。

 

 部屋中を炎で埋め尽くすような魔法を使ったのは蓮弥とは別のもう一人の到達者。

 

「百輪──”極大・蒼天槍”!!」

 

 すぐさま極大の炎の槍を雨のように光輝に向けるミレディ。重力魔法を併用したその魔法は通常では考えられない軌道を描きながら光輝に迫る。

 

「”天翔閃”!!」

 

 その攻撃に対し、光輝は天翔閃で迎撃する。かつての光輝の得意技だった天翔閃も到達者となった光輝が振るえばその威力は桁違いだ。

 

 魂の位階では同じ領域にいるはずのミレディの攻撃をまとめて消し飛ばし、天井に大穴を空ける。

 

「うひゃあ、話には聞いてたけど天翔閃でアレを吹き飛ばすのか~。神の使徒でもダース単位で消せる魔法なんだけど」

「今のあの人を神の使徒と一緒にしちゃだめですよ! 次、私行きます!」

 

 ミレディとスイッチする形で前に出たのは細胞極化にて自身を強化したシア。

 

 ハジメパーティーの中でも飛び抜けた身体能力を持つシアは数少ない音速領域戦闘に付いていける者の一人だ。さらにこの戦いまでで強化されたドリュッケンを振りかぶり、全力で光輝に向かって振り下ろす。

 

「無駄だ。南雲に惑わされ道を間違えた君の攻撃なんて、俺には通じない!」

「誰が惑わされたですか! 現在進行形で道を外れまくってるあなたに言われたくないですぅ! 本当に、何でこうなったんですかね。最近少し見直しかけてたのに、がっかりですぅ」

「その光輝君を取り戻すために私達は戦ってるんだよ。”光之護封剣”」

 

 シアの攻撃を無傷で受け止めた光輝の周りに、香織が放った光の剣が突き刺さる。

 

 香織が仕掛けた光の剣に覆われた内部が空間魔法によって固定化するが、光輝の魔力放出で光の剣は全て破壊される。

 

 拘束できた時間は1秒に満たない。だが音速戦闘を行っている中でその隙は十分なものだった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 蓮弥の神滅剣が光輝に振り下ろされる。その攻撃に光輝は魔剣で持って対抗し、しばらくせめぎ合うものの、耐えられず後ろに盛大に吹き飛ばされる。

 

 以前戦った時は、突然起こった光輝の裏切りに動揺していたり、満身創痍の怪我を負っていたりで本領を発揮できたメンバーは実は多くはない。

 

「どうした天之河。こんなもんか?」

「他人の力に頼っておいてよく言うよ。もちろん、これからだ!」

 

 蓮弥の言葉を挑発と受け取ったのか、光輝は他の攻撃を無視して蓮弥にのみ注視することにする。

 

 そういう単純なところは以前と同じだと感じた蓮弥はあえて派手になるように剣戟を繰り返し、神滅剣と魔剣を打ち合わせる。

 

 飛び散る火花と閃光。打ち合わされる剣と剣。そしてぶつかり合う理と理。

 

『概念破壊』と『絶対正義』の理が鬩ぎ合い、相手の理を相応に削り合う。

 

 概念同士の戦いは陣取り合戦にも似ている。自らの理で屈服させ、敵の領土を奪い取るという、生き場の略奪がそのまま勝敗に直結する戦いである。

 

『概念破壊』は本来あらゆる概念を滅ぼす力であり、本領を発揮できれば一撃必殺足り得る殺傷力の高い理だ。

 一方『絶対正義』は己を無敵のヒーローにするという自身を強化するのに長けている。敵が悪である限り、いかなる者も自分を超えることはない。

 

 その矛盾じみた概念と概念がぶつかった結果、決着がつかなかった場合、概念を構成するに至った渇望、つまり魂の力が消耗される。

 

 そして、そのせめぎ合いことが、蓮弥の狙いの一つだった。

 

 同じレベルの武器を持っている者同士の真っ向勝負において、その勝敗の差を分ける要因の一つはやはり燃料の量の差だろう。

 

 蓮弥と光輝が概念をぶつけ合うたびに魂の力が削られる。その際消費されるのは聖遺物に蓄えられた魂だ。

 

 光輝が消費するのは帝都で殺した兵士達の魂だろう。あの時死んだ者達の魂をどれくらいの割合で光輝が保有しているかは知らないが、どれほど高く見積もっても数千から数万程度だろう。

 

 一方蓮弥は違う。ユナと深く交わることでより彼女に近づいた蓮弥は、呼び水として他の魂を使わずとも直接ユナの力を引き出すことができる。

 

 彼女の魂は二千年の時を得てなお、微塵も劣化しなかった究極域にあるものだ。蓮弥達の領域で魂の力を消耗しても微塵も揺るぎはしない。

 

 つまり、このまま戦いを続ければ、燃料切れに陥るのは光輝の方が早い。

 

(このまま、あいつの保有する魂を削り切る!)

 

 蓮弥が剣を振るうと光輝も負けじと剣を振るう。元来小技とか小賢しい真似が嫌いな光輝だ。いくら神父の手が入ろうとも、本質的な性格までは治せない。

 

 正義とは小賢しい手段など使わず、堂々と悪を倒す者。そういうあり方が光輝の取れる行動を必然狭めることになる。

 

「無駄だ。正義は必ず悪に勝つ! それが絶対の真実である限り、俺は必ず勝つ! ──”天翔閃・極光”」

「がぁ!」

 

 至近距離で発動した天翔閃・極光の力によって蓮弥が傷を負いながら吹き飛ばされる。

 

 現状光輝と蓮弥では光輝の方が強い。

 

 前の戦いの時と同じだ。蓮弥は人間である光輝相手では80%の力しか使えないが、蓮弥を巨悪の一人だと認識している光輝は、蓮弥相手には150%の力を発揮できる。

 

 自力の差を考慮して、絶対的な差になるわけではないが、それでもその差は時に蓮弥を追い詰める。

 

 吹き飛ばされた蓮弥に対し、光輝は闇の極光を纏った魔剣で止めを刺すべく超音速で迫るが、今戦っているのは蓮弥だけではない。

 

「”百輪──極大・天雷槍”」

 

 どうやら超音速戦闘にも何らかの手段でついてこれているらしいミレディが光輝の足を止め……

 

 ”次は妾の番じゃな。喰らうがよい

 ──真竜殲滅獄炎大砲(ドラゴニア・テオブレス)!! ”

 

 ──真・竜化したティオのブレスが、光輝を焼き尽くさんと迫る。

 

 

 数少ない自身を傷付けられる攻撃を前に、流石の光輝も蓮弥への追撃を辞め、防御に徹するしかない。その間体勢を整えた蓮弥が仕切り直しを計り再び鬩ぎ合いに戻る。

 

 これを繰り返せば、いずれ光輝の魔剣が蓄えた魂を使い切るのは必然。

 

 

 

 だが、それだけでは蓮弥達の完全勝利とはいかない。

 

 内臓された魂を使い果たすと聖遺物は自らの所有者の魂を狙う。つまりこのまま戦い続けた場合、光輝が概念魔法の発動を辞めない限り、光輝は自滅して死ぬ。

 

 そうならないために、蓮弥が次に狙うべき物。それは光輝の持つ魔剣だった。

 

 魂が空になった聖遺物が光輝の魂を捕食する前に聖遺物を破壊する。

 

 もちろんそれは簡単なことではない。基本的に聖遺物と霊的に融合している者は聖遺物が破壊された場合、術者も死亡する。それは聖遺物の中に術者の魂が存在しており、聖遺物の破壊は術者の魂の破壊と同義だからだ。

 

 だけど例外も存在する。聖遺物のみを壊し、内臓された術者の魂を傷付けずに抽出した場合だ。

 

 もちろん口にするほど簡単なことではない。例えるなら中の豆腐を傷付けずに素手で容器だけを壊して中身を取り出すような繊細な作業が求められる。

 

 

 蓮弥の神滅剣はその性質上、人間相手には切れ味が鈍る。その性質をユナに上手く制御してもらい、光輝の魂を傷付けずに聖遺物のみを破壊するというのが蓮弥の出した光輝の救出方法。

 

 

 そして、その戦果は着実に実を結びつつある。

 

 光輝は蓮弥の狙いに気付かず。蓮弥の挑発に乗って真っ向勝負にこだわり続けている。このままいけば、間もなく光輝は燃料切れを起こす。

 

 後はタイミング次第。蓮弥がそう思った時……

 

 

 

『光輝さん……どうやら彼らはあなたの魔剣の破壊を狙っているようだ。新たなる正義の象徴であるその剣が、二度も同じ相手に折られるなんてあってはならない。用心しなさい』

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 空間に響き渡る声を受け、光輝が蓮弥との攻防を辞め、距離を取る。

 

 

「ッ、ダニエル・アルベルト!!」

 

 この空間に響き渡る声の主の正体は此処にいる全員が認識している。ある意味において、エヒト以上に蓮弥達の障害になっているであろう外道神父、ダニエル・アルベルトのものだった。

 

 

『さあ、光輝さん。再び溢れんばかりの力を授けて上げましょう。ですので、そろそろ()()で戦っても結構ですよ。ここまでくれば、万が一殺してしまっても、主も認めてくれるでしょう』

「はいッ、神父様!!」

 

 再び神父の言葉が響き渡り、光輝の頭上に光が降り注ぐ。その頭上にあるのは蓮弥から見ても膨大だと言える魂だった。

 

「なッ……」

 

 思わず蓮弥は圧倒される。

 

 それは蓮弥が今まで見たこともない量の魂の渦だった。

 

 王都での戦場でもこれほどの魂が渦巻く瞬間はなかった。

 

 何十万、何百万。いや、もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()魂があるのではないかと……

 

『ダニエル・アルベルト……あなたは一体……今までどれほどの人間を、その手にかけたというのですか……』

 

 ユナは感応能力で感知する。

 

 

 

 それは国を守る兵士だった。

 

 それは村に住む平凡な農夫だった。

 

 それは国を良くしようと善政を敷く賢王だった。

 

 それは世界征服を目指す帝国の若き帝王だった。

 

 だが、そのどれもが、ある一人の神父の計略により、己の運命を狂わされた。

 

 ある者は肉親同士で殺し合い。ある者は守るべき民を虐殺する。

 

 ある者は己こそが帝王だと主張する皇子の争いに巻き込まれて無惨な死を遂げた。

 

 

 この結果を見て笑っていたのは、この世界の支配者を気取るエヒトという神のみ。

 

 

「……ッッやばい!!」

 

 あんな膨大な魂が光輝に注がれたら、光輝の器が持たない。

 

 今にも降り注ごうとしている魂の力を止めるために蓮弥は動くが、それよりも早く動いたものがいた。

 

抜けば玉散る氷の刃──

──破段・顕象──

断ち切れ信乃───村雨丸

 

 悪しき繋がりを断ち切る一閃が光輝と神父を繋ぐ霊的ラインを断ち切る。

 

「雫ッ!」

「そうはさせないわ。この戦いであなたを警戒しないはずないでしょ!」

 

 

 雫はこの戦い。あえて光輝との戦いに参加せず。常に周囲に警戒を巡らせていた。

 

 全ては、戦いに干渉してくるであろう神父に対応するために。

 

 その警戒が功を成し、光輝に降り注がれそうになっていた魂の渦は雫の村雨丸の一閃によって消え去る。

 

 

『おや、邪魔されてしまいましたか』

 

 

 己の目論見が失敗に終わってもなお、神父の言葉に澱みはなく……

 

 

『ですがよろしかったのですか? 私はもう命じてしまいましたよ。”全力で戦え”と』

 

 

 

『限界突破・破潰!!』

 

 

 堕ちた黒い勇者は躊躇なく己の魂に火を付けた。

 

 

「なッ、待て!!」

 

 蓮弥の制止の声虚しく光輝は膨大な魔力を身に纏い、概念の強度と規模を劇的に向上させる。

 

「おおおおおおおおおおおおお──ッッ!!」

 

 光輝から魔力が途轍もない勢いで噴き出し、轟々とうねりを上げて天を衝く魔力の螺旋となった。

 

 

 こうなった光輝を相手に一番賢い選択は、光輝から逃げることだ。

 

 

 今の光輝は己の魂を燃料に、概念という炎を纏って直進してくるようなものだ。

 

 

 放置しておけば、ほどなくして光輝は魂を擦り減らし、自滅する。

 

 だが……

 

「それじゃあ……意味ないんだよ!!」

 

 光輝を助けるという目標がある以上、逃げるという選択は取れない。一刻も早く光輝の全身に回っている概念の炎を消さなくてならない。

 

 だが、今の光輝はまさに鬼神のごとき強さを発揮する。

 

「”覇豪光円烈気斬”!!」

 

「なッ、きゃあああああああああ──ッッ!!」

 ”いかん!! ぐぅぅぅ──ッッ!! ”

「ちょ、これやばい!! ”黒縄大天窮”!!」

 

 シアが細胞極化全開で防御するも、迫る光の斬撃を前に容易く吹き飛ばされ……

 

 香織などの身体的に脆い者を守るために身を盾にしたティオは容赦なく斬り刻まれ……

 

 ミレディが巨大な重力球にて攻撃の一部を消滅させ、辛うじて魔王城の全壊という事態を防ぐ。

 

「天之河ぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

聖術(マギア)7章10節(7 : 10)……"王ノ聖剣"

 

 蓮弥が光の斬撃を天に掲げ、光輝を止めようと今できる全力を振り絞った。それを見た光輝も闇の光を天に掲げ、蓮弥が振り下ろしたと同時に振り下ろす。

 

王ノ聖神滅剣(バシレウス・グラディトロア)ッ! 

神威・羅刹ッッ! 

 

 激突する力と力。

 

 鬩ぎ合う理と理。

 

 魔力流の大嵐と次元震を伴いながらかつての神山の神話がここに再現される。

 

 

 そしてそのぶつかり合いの果て、魔王城の周囲に合った山脈を丸ごと吹き飛ばす。

 

 その果てにそこに立っている者は、一人しかいなかった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 

 上階のほぼ全てが消滅し、見晴らしがよくなった玉座の間にて、ただ一人立っていた者それは……

 

 

 

 

「……正義は必ず勝つ」

 

 

 

 黒い鎧はひび割れ、崩れていてもなお、その肉体に宿る魔力に衰えの無い天之河光輝だった。

 

 ほとんど全ての者は二人の攻撃の余波にて地に倒れ伏し、それは蓮弥とて例外ではない。

 

 とっさにユナが張ったありったけの防御結界のおかげで戦闘不能にこそなっていないものの、光輝の概念魔法を浴びたことで、己の概念を削られ、大きくダメージを受けてしまい、今の蓮弥は全身血まみれだった。

 

 そこに鎧を鳴らしながら光輝が迫り、壁を背に座り込む蓮弥に魔剣を突きつける。

 

「覚悟はいいかい藤澤。今ここに、断罪の剣にて……君の魂を浄化する」

 

 

(……ここまでだな)

 

 

 正直言うなら蓮弥はまだ光輝の潜在能力を見くびっていたとしか言えない。

 

 

 今の光輝ははっきり言って無敵だ。

 

 

 己を絶対無敵のヒーローに変えるという単純ながら強力な概念魔法はこの上なく光輝の性質に合致しており、蓮弥の概念破壊を受けてなお、その理に澱みがない。

 

 燃え尽きると思っていた光輝の魂は今の攻防に耐えきり、今なお輝きを放っている。この上神父が魂を供給する術があるのでは、燃料切れを狙うことすら困難だ。

 

 

 そう、現状の蓮弥では打つ手がない。このままだと光輝に殺されることになる。

 

 

 

 だからこそ……覚悟を決めるしかない

 

 

(……使うしかない)

 

 

 現状を打破する方法はある。

 

 

 神話大戦が始まる前、雫が邯鄲にて長き修行に出ていた頃。蓮弥はユナとの修行で一つの切り札を手に入れていた。

 

 

 この蓮弥が手に入れた力は一種のジョーカーたり得るもの。

 

 使用できる場所も頻度も限られるが、使えばいかなる状況でも覆すことのできる。

 

 それは今目の前に立っている光輝でさえ例外ではないと、直接光輝と戦った蓮弥は確信している。

 

 本来は神エヒトや大災害と戦うことを想定して手に入れた力だが、今この期に及んで使わないのは出し惜しみではない。

 

 蓮弥の手に入れた力は……加減が効かない。

 

 これを使った場合、現状を打破することができるが、ほぼ確実に光輝を救うことができなくなってしまう。

 

 蓮弥は今もなお雫が光輝の現状に責任を感じていることを知っていた。

 

 

 

 夢の世界で光輝の可能性を見たのだと雫は蓮弥に語った。 

 

 一人立ち上がり、弱き者のため、真に守るべきもののために戦えるようになった光輝は、真の勇者として相応しい風格と力を身に着けたのだと。

 

 だが現実の光輝の可能性を、神父に付け入る隙を与えた自分が潰してしまったと雫は自分を責めている。

 

 お前のせいじゃないと言うのは簡単だ。だが人間そう簡単に割り切れる者ばかりではない。

 

 もし光輝が蓮弥の手で殺されることになったら。雫の心のどこかに、一生消えない傷ができてしまうかもしれない。その考えが蓮弥に行動を躊躇わていた。

 

 

 だが、ここにきて躊躇する余裕はついに無くなった。蓮弥は覚悟を決め、内心で雫に謝りながら……己の力を解放する。

 

「創造……」

 

 

 あと少しで決着がつく。

 

 

 ほぼ全員が倒れ伏しながらその瞬間を見届けようとした時、誰もが一瞬目を疑った。

 

 

 蓮弥に剣を振り下ろそうとする光輝に迫る影。

 

 

 それは倒れ伏すことがなかった例外の一人。

 

 

 完全に防衛に徹した恋人の完璧な護りによって、無傷でいられた一人の少年が、光輝に向かって拳を振り上げ……

 

 

 ──光輝が纏う概念防御を突き抜け、光輝を頬を思いっきり殴り飛ばした。

 

 

 

「なっ……」

 

 

 

 とっさに開きかけたものを閉じ、蓮弥は唖然と眼前の光景を見る。

 

「えっ……はっ……えっ?」

 

 そこにいるのは地に倒れ伏し、自分の口から血が出ていることを知り呆然とする光輝と……

 

 

「いい加減に俺を無視してんじゃねぇぞ。この馬鹿野郎──ッッ!!」

 

 

 拳を構えながら光輝に向かって前に進む、坂上龍太郎の姿があった。

 

 




本作において山脈は消し飛ぶもの。トータス全体がずいぶん見晴らしが良くなって平地が増えたんじゃないですかね。

>光輝無双
原作だと光輝がハジメにビビってるのが強調されているのと、ハジメの自分なら光輝程度どうとでもなるという態度から力関係は明白ですが、本作だと真逆。ハジメと蓮弥ならハジメに対する方が光輝の負の感情が大きいのと、現状概念魔法が使えないハジメでは何をやっても今の光輝には勝てません。あらゆるアーティファクトを正義という名の理不尽で一方的に蹂躙する構図になります。

なら蓮弥なら勝てるかと言われたら作中通り。何やら切り札があるようですが、それを使うと雫の心に傷を残すため蓮弥的には負けみたいなものです。

なら一体誰が今の光輝を止めるのか。それはこの男しかいないでしょう。

次回、唯一の天敵。
愛ある拳は、親友の目を覚まさせる。

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