ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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童貞卒業です。
原作通りですが一応グロ注意です。
あと少しだけあとがきにお知らせありです。


二つの初体験

「ビリビリしたお詫びに私の家族も助けてください!」

 

 開口そうそう、助けられたことを棚に上げ、図々しくもそう願い出るシアと名乗るウサミミ少女。

 

 

 どうやらハジメにビリビリを食らったことで、魔物から助けてくれたのがハジメだと誤認したようだ。シアはハジメの足にすがりついて懇願している。……別に鬱陶しい態度に対して軍帽を深く被ったり、咄嗟にユナを背中に隠したりはしていない。

 

「アババババババアバババババババ!?」

 

 本日三発目の電撃が、ウサミミ少女を襲う。

 今度は先ほどよりもちょっとだけ強めだった。どうやらハジメもこの大峡谷での魔力の使い方がわかってきたらしい。その死体(死んでない)に対し、ユエが蹴りを入れていた。

 

「に、にがじませんよ~」

 

 ゾンビの如く起き上がりハジメの脚にしがみつくシアに驚愕したのか、ハジメは電撃を止めていた。

 

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。三回も電撃食らっといて……つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」

「……不気味」

「うぅ~何ですかッ、その物言いは。さっきから、ビリビリとか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います。 お詫びに家族を助けて下さい!」

 

 そんなハジメの様子に蓮弥は、まるでガンバ! とでも言うようなサムズアップを行い、ユナを後ろに乗せてバイクを動かそうとする。

 

「ちょっ!? おま、蓮弥。ふざけんな。元はと言えばお前んとこのユナが助けたりするからこんなことに……てかいい加減にしろうざウサギ。離せ、鼻水をなすりつけるな」

 

「いいじゃないですか〜そんなけちけちしないで。もしお願い聞いてくれるならなんでも一つ言うこと聞いてあげますよ」

 

 このままだと置いていかれると判断したのか、ハジメ相手に色仕掛けを仕掛けるが、鼻水まみれの顔にボロボロの姿で台無しだった。

 

「俺にはユエがいるからいらん」

 

 はっきり断るハジメにいやんいやんと体をくねらせるユエ。

 そのユエの突き抜けた美貌を見てぐぬぬと唸ったウサミミ少女はユエに対抗して地雷を踏み抜いた。

 

「で、でも胸なら私が勝ってます。そっちの銀髪の女の子はともかく、そちらの金髪の女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

 身近にユナという圧倒的な胸囲の戦闘力の持ち主がいることから、地味に気にしていたユエの動きが止まる。前髪で表情を隠したままユラリとバイクから降りた。

 

 小便は済ませたか? 

 神様にお祈りは? 

 部屋のスミでガタガタ震えて

 命ごいをする心の準備はOK? 

 

 一歩一歩歩くたびに圧力が増していくユエに、流石にまずいと思ったのか周りに助けを求めるが蓮弥とハジメは目をそらした。ユナはなぜユエが怒っているのかわからないようだ。

 

 ユナのその態度にさらに怒りが増したユエが、ウサミミ少女に近づく。

 

「“嵐帝”」

 

 アッ────!! 

 

 大峡谷に哀れな犠牲者の悲鳴が響き渡った。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

 シアの話はこうだった。

 

 彼女らハウリア族は、亜人国「フェアベルゲン」にある樹海の奥の集落に暮らしていた。彼らは亜人族の中でも立場が低いらしく、他の亜人族からは格下だと見られている。

 

 

 そんなハウリア族にある日、シアという異端児が生まれた。

 本来亜人族に備わっていないはずの魔力を持ち、固有魔法「未来視」まで持っていたその女の子は、ハウリア族の手によって秘匿されながら育っていった。

 

 

 だけど隠し事はいつまでも続かず、些細なことでバレてしまい、追われるようにして一族総出で北の山脈に向かわざるを得なかった。

 

 

 しかし不幸は連続し、樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだのだがモンスターに襲われ、必死に逃げて今に至るというわけである。

 

「お願いです。私たちを助けてください」

 

「断る」

 

 迷わぬ即答。ハジメは先ほどのシアの話を聞いてなお、助ける気は無いらしい。

 

 

 その言葉にシアは唖然とした表情をしている。

 そのあとも必死にシアはハジメに頼むが、ハジメは取り合わず、メリットがないと断り続けていた。

 

 

 どうやらシアの未来視にハジメ達が助けてくれる未来が見えたらしくそれを頼りにきたようだった。

 

 泣きながらすがりだしたシアに流石に不憫だと思った蓮弥は()()()()()()()()()、ため息をつきながら助け舟をだしてやることにする。

 

「いや、メリットはあるぞ、ハジメ」

「……なに?」

 

 その時、シアは初めて蓮弥の存在に気づいたというような反応を返した。これは別に蓮弥が影の薄さランキング生涯世界二位とかではなく、ちゃんと理由が存在する。

 

 

 実は蓮弥の被る軍帽。黒円卓リスペクトの品というだけではなく、ちょっとした仕掛けが施されている。軍帽を深く被り、魔力を通すことで被っている人間を周囲から目立たなくすることができるのだ。気配遮断スキルとは微妙に違い、気配を消すのでなく気配を周りに溶け込ませるという感じだろうか。

 

 

 この先、旅を続ける内に否が応でも目立ってしまうだろうと予測した蓮弥が、それにより巻き込まれるゴタゴタを少しでも回避するために、ハジメやユエに内緒でしれっとユナに聖術付与してもらい作ったものだった。声を発すると効果がなくなるという欠点はあるものの。使い勝手は良さそうだと蓮弥は思っていた。その証拠に早速女難によるトラブルをハジメに押し付……もとい回避することができた。

 

「忘れたのか? 樹海は亜人族以外では確実に迷うという話。ここでハウリア族に恩を売っておけば、人族を嫌っている他の亜人族と交渉なんて面倒なことをする必要がなくなる」

 

「あー」

 

 それでも悩むハジメ。どうやら樹海案内人を手に入れるメリットとハウリア族護衛にかかる負担というデメリットを計算しているらしい。

 

 悩むハジメに、迷いを断ち切るようにユエは告げた。

 

「……大丈夫、私達は最強」

 

「ユエ……」

 

 ハジメはその言葉で迷いを断ち切ったのか、シアに宣言する。

 

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

 

 ヤクザのような言い分で、蓮弥一行とシア達ハウリア族との契約は成立した。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 改めて互いに自己紹介をした後、シアはハジメのバイクの後ろに乗っていくことになった。

 

 道中シアがハジメとユエが魔力の直接操作ができると知り、同胞を見つけた気分になったり、ユエとの対応の違いに嘆いたりしたが、無事魔物に追われていたシアの父親カムを始めとした同胞を助けることができたのであった。

 

 

 ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。当然、数多の魔物が絶好の獲物だと、こぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいない。例外なく、兎人族に触れることすらできない。銃声により頭部を粉砕されるか、十字架の剣に斬り捨てられるかのどちらかだった。

 

 

 そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。シアが不安そうに聞いてくる。

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」

「どうだろうな、流石に全滅したと思って帰ったんじゃないか」

 

 シアの質問にハジメが遠くを見ながら答えた。

 

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさんや蓮弥さんは……どうするのですか?」

「? どうするって何が?」

 

 ハジメはピンときてないようだが、蓮弥にはシアがなにを言いたいのか理解できた。

 

「それは、人族と敵対できるのかということか?」

 

 それは蓮弥が長年悩んできたことだった。その時が来てみないことにはわからないと思っていたが、いよいよその時が訪れる。

 

 なぜなら登りきったそこには……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~。こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 三十人の帝国兵がたむろしていた。

 

 目の前の帝国兵を蓮弥は観察する。シア達兎人族を完全に獲物としてしか見ていないのは明白であり、下卑た笑みを浮かべ、舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。どうやら手加減してやる必要のない人種であり、()()()()()丁度いい相手だった。

 

「ハジメ……」

「……なんだよ」

()()()()()()()()()()。色々確認しないといけない」

「……わかった」

 

 それだけで通じたのかハジメはそれ以降何も言わない。

 

「蓮弥……私は必要ですか?」

「大丈夫だよユナ……君はそこにいてくれ」

 

 蓮弥とハジメは前に出る。

 帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、漸く蓮弥達に気づいた。

 

「あぁ? お前ら誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

「ああ、人間だ」

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 横暴な態度で男は蓮弥達に命令する。威圧もなにも出していないがやはり目の前の相手の危険度に気づかないマヌケらしい。

 

「断る。こいつらは今は俺達のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

「そういうことだ。現状こいつらの所有権は俺たちにある。それにも関わらず横暴を働くようなら、こちらもそれ相応の対応をさせてもらう」

 

 蓮弥は極めて冷静に応対した。これは最後通告だ。殺人鬼になる気は無い以上、こちらにも事を行う為の大義が必要だ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

 ハジメの言葉に対して小隊長は表情を消した。

 たがハジメの後ろを見てニヤニヤ笑いだす。おそらく後ろにいたユエとユナに気づいたのだろう。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇらが唯の世間知らずの糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。てめぇらの四肢を切り落とした後、後ろの嬢ちゃん達を目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

「隊長〜。俺はあっちの銀髪巨乳ちゃんが好みっす〜。俺がヤッてもいいっすか〜」

 

 軽い調子で隊員の一人がユナに狙いを定める。

 蓮弥はとりあえず、あいつが最初でいいかと目標を定める。

 

「つまり敵ってことでいいよな?」

 

 ハジメも最後通告を行う。

 そして……

 

 ドパンッ!! 

 

 惨劇の幕が上がった。

 

 

 その一発の銃弾を受けた小隊長の脳髄が吹き飛ぶ。おそらく何が起きたのかもわからずに死んだのだろう。間違いなくトータスの歴史上初の銃火器による犠牲者第一号である。

 むしろ一番最初で幸せだったのかもしれない。少なくともこのあとの恐怖を感じずに死ねたのだから。

 

 

 どうやら帝国兵たちは、今だになにが起こったのかわからないらしい。確かにこの世界に銃なんてものが無い以上、彼らの目にはいきなり隊長の頭が吹き飛んだように見えるのだろう。

 

 

 だからハジメがこの世界にはなき近代兵器を駆使するなら、蓮弥は彼らにもわかりやすい、もっとも原始的な方法で事を行うと決める。

 

 

 そのまま蓮弥は一瞬でユナに下衆な目を向けた男の前に移動し、動揺する男の頭を掴み、その人外の握力で……男の頭を握り潰した。

 

 ぐしゃぁ……

 

 ハジメの銃声とは違う鈍い音が周りに響く。蓮弥の手に男の頭蓋が砕ける感触と脳漿が弾ける感触が残る。一番初めにやるなら素手でと決めていた。一番感触が残るし、一番覚悟を決められる。

 

 

 人を殺したにも関わらず、蓮弥の心に乱れはない。()()()想定内だ。そして、この段階でようやくなにが起きているのか悟ったのか、帝国兵達が迅速に戦闘態勢に入る。

 

「詠唱を始めろッ、奴らを殺せ!!」

 

 後衛が魔法の詠唱を始めたので、蓮弥はそこらの石を拾い、後衛の頭に向けて投擲する。人の頭を潰すのに銃弾なんか必要ない、小石で十分だ。

 

 

 蓮弥が投擲するたびに音速の数倍の速度で飛ぶ小石が、後衛の頭を順番に潰していく。恐怖に駆られて逃げ出そうとした兵士達が、ハジメの投げた破片手榴弾で全身ミンチになる。

 

 

 未知の道具を使うハジメの方が怖いか、それとも原始的ながらも理解不能の力でたんたんと屠り続ける蓮弥が怖いか。きっと帝国兵達にとってどっちも変わらないだろう。そしてとうとう最後の一人がハジメの尋問に答えた後、一発の銃声と共に……その生涯を終えた。

 

 

 そこで蓮弥はもう一度覚悟を決める。後ろでハジメとシアが何か話しているが今はどうでもいい。

 

 

 正直殺しはできると思っていた。これでもここに来る前から散々、それこそ夢に出てくるほどイメージしてきた事だったからだ。よって蓮弥が本当に確かめたかった事は別にある。こればかりは想像することすらできなかった。

 

 

 すなわち、永劫破壊(エイヴィヒカイト)にて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 実はDies irae原作ではこの描写がほとんどない。藤井蓮は結局、彼にとっての刹那以外の魂を取り込む必要なんてなかったのだから。

 

 

 他の描写はベイやマレウス、シュライバーのようなやべぇやつらのやべぇやつのものしかなかった。蓮弥としては螢やベアトリスといった常識人に近い人物のそういうシーンがあればと思ってしまう。作中登場人物は気軽に、時には使い捨てみたいに使っているが、他者の魂を常人が一つ抱え込むだけで心身ともに破綻するという記述もあった。

 

 

 蓮弥は惨劇の跡で()()()()()()()()()()()()()()ソレの一つに対して覚悟を決め、技能:吸魂を……発動した。

 

「………………ッ!!」

 

 しばらく何ともなかったが、突然蓮弥の中でナニカが膨れ上がる。

 

「ぐっ!」

 

 破裂しそうだ。まるで人間の中に人間を無理やり詰め込むような感触。気持ち悪い、吐き気がする。

 

 

 

 

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しいナニカがナニカが俺に俺に侵入くる当たり前じゃないか苦しい人間の中に苦しい人間を詰められる訳がない痛いなんで痛い痛いどうして痛いただ俺は職務を全うしてただけなのに苦しい苦しいこの化物めいやだいやだ破裂する死にたくない壊れる破裂する壊れるあああああああああああああああああああああ

 

 

 

 

 ふいに、手が暖かい何かに包み込まれた気がした。

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

 肩で息をする蓮弥の手が……ユナの両手で包み込まれていた。

 

「大丈夫……大丈夫ですよ……蓮弥……」

 

 大丈夫、大丈夫と優しく蓮弥に語りかけるユナ。全身冷え切った蓮弥に、その包み込まれている手から熱が広がっていく。

 

 体に感じていた不快感は……消えていた。

 

「…………ユナ……ありがとう。……もう大丈夫だ」

 

 そして名残惜しいと思いつつも、そっと手を離す蓮弥。そして改めて残りの魂に向き直る。

 

 

 ユナのおかげか、あるいは蓮弥の魂に他者の魂への耐性ができたのか、今度はすんなり受け入れることができる気がする。

 

 

 同時に実感する。今まで奈落でも無意識に魔物に対して吸魂を使っていたのだろうが、人間を取り込むほうがはるかに効率がいい。

 

(これが、魂を燃料に変える感覚か)

 

 今度は彼らの亡骸に向き直る。別に殺したことに後悔はないし、罪の意識もないが、これは日本人としての礼儀だと思ったから……

 

「いただきます……」

 

 蓮弥はそこで少しだけ黙祷を捧げ、残りの魂をいただいた。




司狼とかマレウスから聖遺物強奪する際に数千単位の魂を一気に継承したはずなんだけど平然としてましたよね。やっぱり神座世界の住人は半端ないです。

お知らせ
前から少しずつコメントでも現れるようになったのでここで宣言しますが現状、オリヒロと雫以外にヒロインを増やす予定はありません。それに伴い目次にある注意のヒロインが増えるかもしれないというコメントを修正しました。それを期待して本作を見て下さっている方には申し訳ありません。これからの展開次第ではヒロイン追加の可能性もゼロではありませんが、その際はタグの追加などで対応させていただきます。

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