ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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ライセン大迷宮編最終局面

独自解釈と独自設定ありです。


解放者ミレディ・ライセン

「やほ~、はじめまして~、皆大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 

 ……巨大ゴーレムがミレディ・ライセンを名乗っているんだが。

 確かオスカーの手記では死んだと書いてあったはず。蓮弥はハジメに確認を取ろうとするが、ハジメは軽く現実逃避しているようだった。ゴーレムのほうを見つめているが動かない。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

 

 イラァ

 

 またハジメたちから苛立ちが立ち上ってくる。せっかく発散したのにこのままではすぐに許容範囲を超えるだろう。蓮弥は対応することにする。

 

「ミレディ・ライセンというのはこの大迷宮の製作者のミレディか」

 

「あったりまえじゃん。それ以外にいないよ〜。まったく、ちょっと考えればわかると思うのだけれどね」

 

 なるほど、この人を馬鹿にするような言動、どうやら本物らしい。

 

「オスカーの手記では人間とあるんだがな」

 

 そして蓮弥は視てみることにする。

 

「そうか、魂をゴーレムに定着させてるんだな」

 

「ちょちょちょ、君さぁ、物分かりよすぎじゃない!? 久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私がネタばらしする前に喋られるとミレディさんの役目かなくなってしまうのだけれど」

 

 目の前で巨大ゴーレムがしくしくと嘘泣きを始める。うざい。

 

 蓮弥はイラァとする感情を抑える。ここで感情的になったら負けだと自分に言い聞かす。

 

「魂を定着? どういう意味だ」

「ああ、言ってなかったな。実はユナと出会ってから人の魂が見えるようになってな。あのゴーレムに人の魂が内蔵されているのが見える。大方、死ぬ前にゴーレムに定着することで死を免れたというところか」

 

 蓮弥の視界には確かにゴーレムに内蔵されている魂が見えていた。見た目十代の金髪の少女だろうか。それがあんなごついゴーレムに入っているとかギャップが半端ない。

 

「それも神代魔法の効果か、本当になんでもありだな」

 

「えっ、いや、ちょ、ちょっとまって。見える!? ミレディたんの魂が見えるって言った!? ということはラーくんの大迷宮攻略者?」

 

 ラーくんというのが誰かはわからないが結構意外だったらしい。

 

「ラーくんというのはしらない。ただオスカーの大迷宮は攻略してる。そこであんたのことが書いてあったんだ」

 

 見えるかどうかわからないが蓮弥はオスカーの指輪を提示する。どうやら確認したようでなにやら納得している。

 

「ふーん、なるほど。オーちゃんの方の大迷宮攻略者か。ということは目的は神代魔法かな?」

「ああ、その通りだ。つべこべ言わずさっさと寄越せや」

 

 ハジメがヤクザの取り立てみたいな表情でゴーレムに言う。ハジメはまだ相当苛立っているようだ。

 

「おおう、人生の先輩になんたる言い草。……それは何のために? ひょっとしてあのクソ野郎を殺してくれるのかな? オーちゃんの大迷宮攻略者なら私達の事情は聞いてるよね」

 

「神なんてもんはしらん。いいからさっさと寄越せや」

 

「ぶー。態度悪いなぁ。そんな悪い子には神代魔法あーげない」

 

 不貞腐れたようにいうゴーレム。そしてその一言でハジメの戦闘スイッチが入ったようだ。もともとこうなるとわかっていた蓮弥も構える。

 

「ならお前をぶちのめして奪うだけだが一つ聞きたい。お前の神代魔法はなんだ? 話の内容から察するに魂を操る魔法はお前のじゃないんだろ?」

 

 確かにラーくんとやらの大迷宮が魂に関する神代魔法だというニュアンスに聞こえた。ならミレディの神代魔法はそれとは別だろう。

 

「それが知りたければ答えなさい」

 

 ミレディの声色が変わる。どうやらシリアスモードに入ったらしい。

 

「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

 

 嘘偽りは許さないという雰囲気だった。オスカーの手記によると彼女は解放者達のリーダーだったようだ。魂を定着させてまで生き続けるということは結構責任感はあるのかもしれない。

 

 その問いに対して、代表してハジメが真面目に答える。

 

「俺達の目的は故郷に帰ることだ。お前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられたんでな。世界を超えて転移できる神代魔法を探している……お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない」

「……」

 

 ミレディは沈黙している。どうやらハジメの言葉を吟味しているらしい。しばらくすると納得いったようで「そっか」と呟いた。

 

「もういいか、じゃあいい「次の質問」おい」

 

 ハジメのセリフを遮ってミレディは今度はこちらを向いてきた。

 

「君たちの仲間にもう一人、銀髪の女の子がいるよね。彼女はなに?」

 

 ユナのことを言っているようだった。ならと蓮弥が前に出る。

 

「質問の意図がわからないな。一体なにが聞きたい?」

 

「この大迷宮は当然そう簡単に干渉できないように作ってある。なのにこの大迷宮の構造をあっさり解析した。おまけに魔力分解作用を無視するような異常な魔力」

 

「はっきりいって人間じゃないよね。もしかしたらあのクソ野郎の関係者だったりするのかな」

 

 なるほど、どうやらあまりに異常すぎて神の手先と疑っているらしい。ならそれは検討はずれだ。

 

「俺たちがお前に言えることは一つだけだ。彼女は俺達の仲間。それ以上でも以下でもない」

 

 蓮弥の強い言葉にミレディは沈黙する。そしてしばらくすると納得したのか、軽薄な雰囲気が戻る。

 

「そっか、どっちみちやることは変わらないか。なら戦争だ〜。神代魔法を手にするなら見事、私を倒してみよ〜」

 

「やるぞハジメ。どのみちこいつを倒さない限りここから出られないようだしな」

 

 見ると出口がなくなっていた。神の関係者である疑いがある以上、逃すつもりはないらしい。

 

「めんどうだけどそのようだな。なら早速……死ねや」

 

 ハジメがオルカンをミレディに向けて放つ。ミサイル群はまっすぐミレディの元に飛び、命中した。

 

 

 凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡る。もうもうと立ちこめる爆煙。

 

「やってはいないだろうな。油断するな」

 

 この程度で大迷宮の最後の試練がクリアーなわけがない。案の定モーニングスターが勢いよく飛び出してきた。

 

 それを躱す一同。

 

 ライセン大迷宮での最終戦が始まった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 大剣を掲げたまま待機状態だったゴーレム騎士達が一斉に動き出した。通路での攻撃のようにこちらに向けて落ちてきた。

 

『蓮弥、気をつけて下さい』

「ああ、大丈夫。ミレディの使う神代魔法の謎も解けてきた。ネタがわかれば対策はできる」

『いえ、そのことでは……』

「大丈夫だよ。ユナが協力してくれるならどんな相手だろうと敵じゃない」

 

 ユナの心配は神代魔法のことではなかったか。蓮弥は疑問を持つがユナに安心させるように鼓舞の意味を込めて強く言う。

 

 

 大量のゴーレム騎士が襲いかかってくるが一体ずつ丁寧に壊していく。こいつらは再生することがわかっているので倒したゴーレムを一箇所に纏め……

 

聖術(マギア)2章5節(2 : 5)……"氷葬"

 

 氷の聖術にて固めてしまう。これなら動くことはできない。

 

「うーん、やっぱり魔法使えてるね〜。どれどれ……げぇ、力技かよ。この魔力分解エリアで力技とかまじ引くわ〜」

 

 喋りつつもミレディは攻撃をやめない。どうやらハジメ達より蓮弥の方が厄介だと思ったのか、ゴーレムの半数を蓮弥に向けてくる。

 

「クソッ、鬱陶しいな」

 

 蓮弥は剣を横薙ぎに振ることで数体まとめて斬り捨てるも、数十秒で復活してしまう。凍らせて動きを止めようにも単純にこの数では自身の手数が足りない。

 

 

 蓮弥は考える。ゴーレムの攻撃は無視してミレディを攻撃した方がいいかもしれないと。蓮弥はゴーレムの攻撃を持ち前の霊的装甲で受けつつ、ミレディに肉薄する。

 

「蓮弥ッ、ミレディの核は心臓にある」

「わかった」

 

 ハジメの言葉通りミレディの心臓目掛けて突撃する蓮弥。聖遺物の使徒としての力もあり、亜音速でミレディに迫る。だが、ここは一枚相手が上手だった。

 

 

「油断大敵だよ〜」

「なっ!?」

 

 蓮弥の周りのゴーレムがまるで蓮弥に吸い寄せられるかのように集まってくる。攻撃するでもなく、体を大きく広げた上での行動、明らかに蓮弥の動きを阻害するための行動。

 

 

 ミレディゴーレムが騎士ゴーレムに雁字搦めになっている蓮弥に向けて拳を叩き込もうとする。ハジメ達が妨害しようとするも、残りの騎士ゴーレムと浮遊ブロックに妨げられている。

 

聖術(マギア)7章3節(7 : 3)……"聖壁"

 

 ユナが正面に障壁を張るもすぐに消える。

 

『えっ!?』

「そうなんども魔法をつかわせないよ〜」

 

 3000倍。

 ミレディがユナの聖術に対して集中させた魔力分解フィールドの密度である。長い時間できないという欠点があるが、流石にこの密度だと魔法なんか一瞬も持たない。

 

 

 蓮弥は剣を構えて防御に集中する。避けられない以上、防ぐしかない。

 

『ダメです、蓮弥ッ、避けて』

 

 ユナが焦ったように警告するも、時すでに遅し。蓮弥はミレディの攻撃をまともに受け止め、そのまま抵抗できず弾丸のように……軽く吹き飛ばされた。

 

「ガッ、ハァッ!?」

 

 蓮弥の体がブロックを貫きながら跳ね回る。そしてこの空間の果てらしきブロックの塊まで叩きつけられ、吐血する。

 

「 蓮弥ッ」

 

 ハジメの声が遠くに、聞こえる。

 

 痛い、痛い、痛い。

 

 この激痛はいつかの巨大蝙蝠と戦った時以来の衝撃だった。まるで骨という骨がバラバラになったような感触。

 

 いや、実際バラバラになっているかもしれない。なぜなら先ほど一撃で指一本動かせなくなった。

 

 つまりこれは……

 

(俺の……霊的装甲を……突き抜けた……のか)

 

「君さ〜」

 

 ミレディが構える。もちろん標的は蓮弥だ。

 

「なんか防御に自信があるっぽかったけど〜そのせいで隙だらけだったよ。これでも私強いんだよ〜あんまり気を抜いてると……」

 

「死んじゃうよ〜」

 

 蓮弥目掛けてモーニングスターが発射される。ハジメ達が助けようとするが間に合わない。そのまま蓮弥はモーニングスターの影に見えなくなった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 蓮弥はどこかを漂っていた。

 周りに色がない、白黒テレビを見ているかのようだ。途中ノイズが流れているのは相当古いからか。

 

 

 そこにいたのは少女だった。

 

 目に光のない少女。

 

 ただ言われるがまま家の課せられた勤めを果たすだけの機械。

 

 だがその機械に意思が投入される。

 

 

「子供が笑えねぇ世界に、なんの価値がある?」

「あんただって、笑って生きたいだろ?」

 

 

 機械に意思が投入される。

 

 

「ミレディたん、お帰り~~。ちっこいのに毎日おつかれさまぁ~」

 

 

「手を取り合うことは‥‥罪かしら?」

「‥‥罪、なんかじゃ、ないっ」

「ええ。人は‥‥あいつの、玩具なんかじゃ‥‥ない」

 

 

 

 そして機械に意思が産まれ、意志を持つ。

 

 

「廃棄処分? やれるもんなら、やってみればぁ?」

 

 

 そして出会う。

 

 

「私と一緒に‥‥世界を変えてみない?」

 

「地獄の底だろうと付き合うよ」

 

 

 そこから7つの光が集まる。それに惹かれて多くの仲間が集う。

 

 運命に導かれた解放者たち。

 

 やれる。私たちは勝てる。

 

 

 

 そう確信していたのに……

 

 

 世界は彼らに「反逆者」の烙印を与えた。

 

 一人、また一人倒れていく仲間。

 

 そしてとうとう最初の七つが残る。

 

 

「ッ!」

 蓮弥の頭に情報が流れ込んでくる。

 

 生成魔法

 重力魔法

 空間魔法

 再生魔法

 魂魄魔法

 昇華魔法

 変成魔法

 

 そしてその七つが揃った時、至る神の御業「概念魔法」

 

 

 一人生き残った少女が叫ぶ。

 

 

 許さないッ

 

 ここで終わりなんて認めないッッ

 

 このまま消えてたまるかッッ!! 

 

 

 だから少女は待つと決めた。

 たとえ何百年でも何千年でも何万年でも。

 自分たちが歩いた道が確かに、未来に続くのだと信じて。

 

 

 

 その願いを叶えるためには二つの要素が必要だった。

 

 

 一つは仲間達と集めた七つの光(神代魔法)

 

 

 ゴーレムのボディを作るために生成魔法(オスカー)

 

 ゴーレムを自由に操るために重力魔法(ミレディ)

 

 広大な空間を作り出す機能のために空間魔法(ナイズ)

 

 何度倒されても復活する機能のために再生魔法(メイル)

 

 足りない力を底上げするために昇華魔法(リューティリス)

 

 ゴーレムに魂を定着させるために魂魄魔法(ラウス)

 

 そして魂を定着するために必要だった、ミレディ本体に組み込まれている生体部品()のために変成魔法(ヴァンドゥル)

 

 

 彼らの想いを、我らがリーダーに託すかのように全て組み込まれていた。

 

 

 そしてもう一つ、何より重要な要素……

 

 

 極限の意志が必要だった。

 

 

 そもそも極限の意志とはなんなのか。前述の条件と違いふわりとした概念だった。

 

 

 だけど蓮弥はその概念をすぐに理解した。

 

 

「渇き」から生じた望み。

 

 求めても得られずに高まった願望。

 

 わずかの淀みも許されない狂気の祈り。

 

 蓮弥が知る概念でそれのことを……こう呼ぶのだ。

 

 

 

 

 ──『渇望』と

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

(馬鹿か、俺は)

 

 いつから自分が強者になったと思っていた。

 

 いつから霊的装甲なんてものに慢心していた。

 

 決して自分が特別になったわけではなかったというのに。

 

 強い。ふざけた言動で誤魔化しているが、ミレディ・ライセンは()()だ。

 

 今までトータスで出会ったもの達の中でも別格。

 文字通り()()()が違う。

 

 執念が違う。

 溜め込んだ呪いの量が違う。

 そして、「渇望」の深度が違う。

 

 考えれば当たり前だ。

 

 自分以外全滅という絶望的状況。

 

 そんな中、誰も訪れない大迷宮でたった一人、何千年も、来るかもわからない自身らの意志を継ぐ者が現れるまで待つなんて、正気で出来るわけがない。

 

 

 蓮弥(神座)の理屈で当てはめるなら間違いなく格上。

 

 

 勝てない。蓮弥は心が折れかけていた。

 

 蓮弥は神座万象シリーズの愛好者だった。だからラインハルトの圧倒的な存在感も、メルクリウスの脚本家としての凄さや、やることの規模の大きさも、そして藤井蓮の力や後世にかける想いも余さず知っている。だがそれは知識上で知っているだけなのだ。はっきり言ってしまえば、蓮弥にとって彼らは所詮画面上の登場人物であり、蓮弥自身の目や、耳や、全身で彼らの凄さを体感したわけではない。

 

 けれどミレディ・ライセンは違う。彼女は間違いなく目の前にいるし、ユナの能力によって彼女の魂の想いがダイレクトに伝わってくる。知らなかったのだ。本物の超越者がここまで凄まじいことに。彼女と比較して自分が益々凡人に思えてくる。いっそハジメのように精神的に振り切れてしまえばいいと考えてしまう。中途半端な理性など邪魔なだけだ。

 

 俺では勝てない。

 なら、いっそこのまま……

 

(蓮弥、まだ終わってはいません)

 

(ユナ?)

 

 完全に諦めかけた蓮弥は目を開ける。淡い海のような空間で、ユナが自分に向かって微笑みかける。

 

(確かに、彼女は強いです。触れなくても感じます。神への怒り、挑むことすらできなかった無力感、そしてそれでも諦めないと叫ぶ強い意志。一人では勝てないかもしれない。……それでもあなたは一人じゃありません)

 

(ユナ……)

 

 蓮弥は思い出す。きっとまだ戦っているであろう親友のことを。まだ自分の帰還を信じているかもしれない幼馴染のことを、そしていっしょに地球へ帰ると誓った目の前の少女のことを。

 

(……そうだな。ハジメはきっとまだ戦っている。なら自分だけ寝てるわけにはいかないな)

 

 まだ畏怖の念はある。ミレディとの格の差が埋まったわけでもない。きっと自分が強くなったわけでもない。けれど目の前の女の子に対して意地を見せたいと思うくらいには蓮弥も男だったから……

 

 だからこそ蓮弥はあらためてユナに向き合う。

 

(だから、もう一度俺と一緒に戦ってほしい)

 

 ユナは蓮弥に向けて、微笑みかけた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そして蓮弥は意識は戻ってくる。気づけば瓦礫の中に埋まっていた。

 

 戦闘音が消えてないからまだ継戦中らしい。

 

 手を見ると、武装がなくなっている。それならもう一度再構成しないと。

 

 もっと最適な形に、もっと相応しい物に。

 

『──Yetzirah(形成)──』

 

 

 人は特定の出会いによって、激しく価値観が揺さぶられる時がある。

 

 

 例えば、赤騎士が黄金に魅せられたように。

 例えば、水銀が黄昏に出会い、恋に落ちたように。

 

 

 必ずしも相手が立派な人とは限らないし、それが自身にとって本当にいいこととは限らない。だがそれはかならず大きな変化を促す。

 

 

 藤澤蓮弥にとって、ミレディ・ライセンとは画面越しでも知識上でもない。実際に出会った本物の超越者だった。

 

 

 故にそれは起こる。

 

 

 蓮弥の背中から十字架が現れる。

 蓮弥と繋がれた十字架が4つ、蓮弥の周りで浮かび始める。

 今までとは違い、人器融合型に相応しい、より聖遺物と密接した新形態。

 

 

 それを伴い、蓮弥は戦場へと復帰した。

 

「蓮弥さんッ」

「ん……」

 

 蓮弥が戻って来たことを知ったシアとユエがゴーレムを抑えつつ安堵する。どうやら心配かけてしまったらしい。

 

 だが、この男は違うらしい。

 

「おせぇんだよ、このバカ。何サボってやがったんだ。いいからとっととあいつに向けて特攻してこいや」

 

 ハジメは傍若無人に蓮弥に言う。その声に心配の色は全くない。おそらく信用してくれてたのだ。蓮弥がここで死ぬわけがないと。

 なら答えないといけない。

 

「……悪かったな。もう大丈夫だ」

 

 あらためてミレディに向き合う蓮弥。

 

「あれあれ〜死に損ないが戻ってきたよ〜。いいのかな? いいのかな? 次やれば今度こそ死んじゃうよ〜」

 

「悪かったな。だけど、あんたの一発で目が覚めた」

 

 そして蓮弥は背中の十字架を構える。軽く確認してみたが、蓮弥の意思通りに動く。

 

「ならいくよ〜。そりゃ〜」

 

 巨大ゴーレムがモーニングスターを振り回す。その攻撃に対して、蓮弥は受け止める選択をとる。先ほどの焼き回しの光景だが、結果は違った。

 

 十字架によって弾かれたモーニングスター。

 そして、迎撃したものとは別の十字架を束ね、相手に向けて放物線状に放ち、叩きつける。

 

 巨大ゴーレムは致命打こそ受けていないようだが、想像以上の攻撃力に軽く後ろに吹き飛ばされた。

 

「うわ〜マジか〜。アレ受け止めただけでなく。このボディを吹き飛ばすとか……びっくり人間?」

 

「あんたにだけは言われたくないな」

 

 蓮弥が軽口を返す。巨大ゴーレムに魂を定着させるような奴にびっくり人間とは言われたくない。

 

「それじゃあ、これならどうかな〜」

 

 ミレディが騎士ゴーレムを操作する。驚くことにこちらに全数を向けてきた。

 

「舐めんなッ」

 

 当然ハジメ達の方が薄くなるのでその隙にミレディに攻撃しようとするが……

 

「……君たちは少し待ってようか……"禍天"」

 

「なっ!?」

「……!!?」

「ふぎゃ!!」

 

 突然声の調子を変えたミレディが手をかざしただけでハジメ達がブロックに叩き潰される。今もめり込み続けており、ハジメ達は身動きが取れないようだった。

 

「なるほど……さっきの一撃で確信がついたよ。どういう理屈かはわからないけど、あなたの使う術理は伝わった。全て理解できたわけじゃないけど……あなたはこの世界で唯一真の意味で異端だ。私が理解できた範疇でもその力、我々の世界(トータス)の魔法の深奥に匹敵するッ!!」

 

 ミレディの圧力が増していく。今までのふざけた態度が改められ、声だけで膝をついてしまいそうになる。なるほど、どうやらこちらが相手の術理を見通したのと引き換えに、あちらにもこちらの術理が伝わってしまったらしい。

 

 

 来る。今までのぬけたような力じゃない。おそらくこれが、ミレディ・ライセンの本気。

 

 

「本来ここまでするつもりはなかったけど事情が変わった。その力が魔法の深奥に匹敵するなら、使い方を誤ればこの世界を滅ぼしかねない。あなたには悪いのだけれど放置するわけにはいかない。神を滅ぼしても世界が終われば意味がないからね。それでも……」

 

 ミレディが両手を広げ構える。それだけで圧力が増す、空間まで震えているようだ。蓮弥は折れそうな膝に力を入れ踏みとどまる。

 

「それでもこの先に進むというのなら……ミレディ・ライセンが告げる。汝が意志を、ここで示せ!」

 

 放射状に見えない何かが広がる。おそらく斥力か何かか、抵抗することもできず蓮弥達はまとめて吹き飛ばされる。蓮弥は端のブロックで着地できたが、即ハジメ達の方を確認する。彼らはブロックに抑えつけられていた。あの体勢ではまともに受け身も取れないだろう。だが意外なことに身動きは取れないようだがハジメ達は怪我一つなく無事だった。どうやら蓮弥だけが目的らしい。

 

 

 開戦のゴングはなかった。もともと戦闘中だ。そんなものは必要ない。

 

 ミレディのゴーレムが一斉に襲い掛かってくる。見れば薄く魔力のようなものを纏っている。

 

 蓮弥は十字剣を振るうことで数体を細切れにする。続いて背中に迫っていた数体を振り返りもせず背中の十字剣で裁断する。単純に考えて手数は4倍、いままでよりはるかに効率よく敵を倒せる。

 

 迫るゴーレムが剣を振りかぶる。それを蓮弥はステップを踏むことで避ける。あの時の二の舞は避ける。が……

 

「嘘だろ!?」

 

 振り下ろした剣によりブロックがきれいに切断された。剣先からなにか飛び出したのがわかる。今までとは比較にならない攻撃力だ。

 

『おそらく重力の剣です。あれに巻き込まれたらまずいですよ蓮弥。それに……』

「ああ、わかってる。こいつら、全員俺用に変わってる」

 

 纏っているオーラがおそらく霊的装甲破りになっている。つまりこいつらの攻撃はもう受けられない。

 

 

 四方八方から襲い掛かってくるゴーレム達を背中の十字剣を回転させることでまとめて斬り飛ばす。蓮弥は奮闘しているが周りのゴーレムには再生機能もある。一向に数が減らない。

 

「なら……行くぞッ、ユナ」

『同時発動、聖術(マギア) 1章1節(1 : 1), 4章1節(4 : 1), 5章1節(5 : 1), 2章4節(2 : 4)

 

 それぞれ刃に炎、雷、風、氷を纏う。今まで一刀しかなかったため装填できる聖術は一つだけだったが、数が増えた以上、当然装填数も増えている。

 

 蓮弥は自身を軸に回転させるようにして囲みつつあったゴーレムを攻撃する。

 

 燃え、砕かれ、切断され、そして氷漬けになる。

 

 複数の刃による協奏曲。

 

 粉みじんになった後氷漬けにされたゴーレムは今の一撃だけで半数が壊滅する。そのままミレディ本体に向けて、四属性複合攻撃を撃ち放つ。

 

「”絶禍”」

 

 だがまっすぐ向かった攻撃はミレディに命中することなく消滅する。

 

「駄目だね。全然だめだ。この程度の力なら奴に利用されるしかない。それだったら悪いけど、やっぱりここで消えてもらう」

 

 ミレディの力がさらに増した。大技を切る気でいるのがわかる。だがそんなことをさせるわけがない。聖術が効かないなら直接斬るしかない、飛び上がろうとするが……

 

「"禍天"」

 

「ぐうぅッッ」

 

 警戒していた魔法がここで飛んできた。なんとか潰されずに済んでいるがうごけない。まわりを見回すとゴーレムだけでなく壊れたブロックの残骸が襲い掛かってくる。すべて重力魔法による加速と謎のオーラによる蓮弥対策が施されている。

 

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 丹田に力を入れ、気合で重力の縛りを突破する。そのまま剣を振るう。

 

 振るう振るう振るう。

 

 ひたすら四刀にて重力による質力爆撃を迎撃する。剣の速度は音速を超え、すでに蓮弥の周りは剣戟の結界になっている。飛んできたものがそれこそ粒子レベルにまで破壊される。だが相手の準備は無情にも整ってしまう。

 

「これで終わりだ。黒天きゅ!?」

 

 ミレディが大きく後ろに吹き飛ばされる。同時に蓮弥に対する攻撃が一瞬やむ。蓮弥は振り返るとそこにはシューラゲンを構えたハジメがいた。

 

「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞッッッ!!」

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 時間は少し遡る。

 

「……すごい」

 

 ユエが呆然としたように言う。重力の縛りは続いているが、それがなくてもハジメたちは現在の蓮弥達の戦闘に介入できなかった。

 

「ふぇぇぇ、ほとんど見えないんですけどぉ」

 

 シアが泣き言を言っているが無理もない。現在蓮弥達の攻防は高速で行われている。ハジメとて瞬光を使わなければ見切れない速度域だ。

 

「……ざけんな」

「ハジメ?」

 

 ハジメは呟く。これではまるで自分たちがおまけみたいじゃないか。それに何より……

 

「ざけんなぁぁぁぁ!!!」

 

 ハジメが重力の縛りを引きちぎる。体が薄く光っている。固有スキル”限界突破”を発動しその力で破壊したのだ。

 

 シュラーゲンを構え、完全にこちらを眼中に入れていないミレディの顔面目掛けてフルパワーでぶっ放した。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ハジメの叫びに蓮弥とミレディが止まる。

 

「さっきから俺を無視しやがって、てめぇ。俺達は眼中にないってか、ああ?」

 

「悪いけど今君に構ってる暇は「黙れや」ッ」

 

 シュラーゲンを放つハジメ。今度はミレディもガードする。

 

「それに蓮弥が世界を破壊するだぁ。わざわざ破壊する価値がこの時代遅れの糞ド田舎世界にあるとでも思ってんのか。自惚れんのも大概にしとけやボケがッ」

 

 流石にミレディも自分の故郷を時代遅れの糞ド田舎呼ばわりされたことに唖然としているのか何もしゃべらない。

 

「いいかよく聞け。こいつはな……バカなんだよ。わざわざ落ちそうな落ちこぼれを助けようとして、奈落の底まで落ちてくるようなバカだ。そんなやつが世界を壊そうとするような考えを起こすわけがねぇ。それでも、もし万が一こいつがおかしくなるようなら……」

 

 ハジメはぐっと胸を叩き、堂々と答える。

 

「俺がぶん殴ってでも止めてやる。なんか文句あるかあぁぁ!!」

 

「ハジメ……」

 

 蓮弥は何もいえない。そしてその物言いにしばらく沈黙していたミレディだったが少し経つと小さく笑いだす。

 

「フフフフフフ……アハハハハ、なるほどなるほど。よくわかったよ。けど、試練は試練だよ~この一撃、止められるかな~」

 

 ミレディから圧力が消える。口調も前のふざけた口調に戻る。だが目の前にある脅威は何も解決していない。

 

「ハジメ、ここは任せとけ」

「……なんか対策があんのか?」

 

 ハジメは目の前にある暗黒を見て言う。見た感じブラックホールだ。

 

「いや、ただバカはバカなりのやり方でやろうと思ってな」

 

 蓮弥は背中の四本の剣を束ね、一つの大剣に変える。

 

「いけるな。ユナ」

『はい、いけます。蓮弥』

 

 あれだけ勝てないと思っていた相手を前にして、今蓮弥は負ける気がしなかった。力を集める。術式補助はいらない。ただ今のありったけをこの一撃に込める。

 

「いくよ。”黒天窮”」

 

 ミレディから特大の暗黒球が放たれる。それを蓮弥は真っ向から斬りつけた。

 

「ああああああああああああああああああぁぁぁぁ」

 

 こんなところで終わってたまるか。自分を信じて次の攻防に備えている親友のためにも、そして共に戦う少女のためにも。今蓮弥は過去最高にユナとシンクロしているのがわかった。

 

 

 そしてしばらくのせめぎ合いの後、暗黒球は一刀の元切り裂かれた。

 

「……おみごと」

 

 ミレディが感嘆の声を上げるが攻撃はまだ終わっていない。

 

 

「ユエ、シア。ここで仕掛けるぞ」

「このまま、畳み掛けますよ〜」

「ん……やれる」

 

 重力の縛りから解放されたユエとシアに声をかけるハジメ。ここが勝負所と判断したのだろう。残りのゴーレムが襲いかかってくるもシアの背後に迫るゴーレムをユエが撃ち落とし、シアがその攻撃力を利用して、ミレディに確実にダメージを与える。そんなミレディの攻撃をハジメが防ぎ、その隙に蓮弥が十字架を叩きつける。

 

 

 ハジメが瞬光を発動させて、ミレディに向けて疾走する。落ちてくるブロックはシアが破壊し、操作された細かい破片はユエと蓮弥が粉々にする。

 

「"破断"!」

 

 ユエが放った水のレーザーがミレディのボディの各所にダメージを与えるが、大したダメージを負っていない。

 

「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、すぐに直しちゃうしぃ~」

 

 すっかり調子を戻したミレディが言うが、すでに詰みに入っていた。

 

「いや、悪いけどチェックメイト」

「その通りだ」

 

 ユエの言葉を受け、ハジメがシュラーゲンのゼロ距離砲撃によりミレディをブロックまでふきとばす。このままでは対して意味はないが、ユエが追撃で魔法を発動する。

 

「凍って! “凍柩”!」

 

 ユエが氷の柩に対象を閉じ込める魔法にて、ミレディをブロックに固定した。

 

 その結果にミレディは驚愕する。

 

「なっ!? 何で君が上級魔法を!?」

「水を使って魔力消費量を減らした、それに……十倍の魔力でダメなら百倍に圧縮して使えばいい」

「ちょ、君までそんな無茶苦茶なぁ!?」

 

 ユエが一瞬こちらを見る。視線から察するにどうやらユナに対抗してこっそり練習していたらしい。もちろん魔力をほぼ全て使い切るが、神結晶の魔力にてすぐに回復する。

 

 

 そんな中、相棒がミレディを拘束することを信じて疑わなかったハジメが新兵器の展開を終える。武装の中に搭載されている黒い杭がスパークしながら高速回転している。

 

 

 ドリルは浪漫だと語る蓮弥と丸太は最強装備と言うハジメが共に構想し、作成したドリルと杭打ち機を掛け合わせた浪漫兵器『パイルバンカー』。浪漫兵器と銘打っているが、威力は折り紙付きだ。

 

「存分に食らって逝け」

 

 ミレディの核めがけ、凄まじい衝撃音と共にパイルバンカーが作動し、漆黒の杭がミレディ・ゴーレムの絶対防壁に突き立つ。

 

 

 だがこの環境故か、十分な威力を発揮できず。途中で杭は静止してしまう。

 

「ハ、ハハ。どうやら少しばかり威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ君たちは頑張ったよぉ? 四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」

 

「何勘違いしてるんだ」

「えっ」

「まだ俺たちの攻撃は終了してないぜ」

 

 ハジメの言葉にあっけにとられていたミレディはそれを見た。蓮弥が大剣のままの十字剣に、再びギガントモードに変化させたドリュッケンを構えたシアを乗せその場で回転し、シアをハンマー投げの要領でミレディに向かって射出するところを。

 

「パイルバンカーがわからなくても、この理屈くらいはわかるだろミレディ・ライセン」

 

 すなわち

 

「杭を打ち込むのは、ハンマーに限るってな」

 

「あぁあああああ!!」

 

 ハジメの宣言と同時に、遠心力の勢いをプラスしたシアのドリュッケンが、黒い杭に突き刺さる。

 

 ギガントモードの極大の威力を前に、僅かの抵抗も許さず。

 

 ミレディの核は砕け散った。

 




蓮弥の聖遺物の新形態の元ネタ:東京喰種の主人公、金木研の十字架赫子。もしくはフィナー蓮。
以前のように一本だけ出して戦うことも可能。というより見た目結構異形なので必要がなければ一本で戦うつもり。

我らがシュピーネさんが100年、足引きBBAで300年。数千年単位で大迷宮という孤独の中、魔法を維持し続けていたミレディが弱いわけがなかった。エヒトに挑む前、全ての神代魔法を集めた時の全盛期ミレディは大隊長クラスで想定しています。もっとも本編では長年維持してきたことによる消耗で大きく弱体化していますが。

ちなみにミレディの思考が流れてきたのはユナの能力です。

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