神座シリーズまじぱねぇ
というわけで投稿です。
蓮弥が宝物庫で倒れてから二週間が経過した。
あの後、倒れた蓮弥をメルド団長が医務室に運んだらしい。そこで蓮弥はなぜかメルド団長の謝罪を受けていた。
メルド団長の話によると、あの部屋は王国の技術を持ってしても利用方法がわからないアーティファクトを保管している部屋であり、本来は簡単に開かないように施錠されてなければならなかったにもかかわらず、当番が鍵を閉め忘れたせいで開いてしまったらしい。
管理の不備ということで頭を下げられて蓮弥は若干居心地が悪かったので、とりあえず体調はなんともないということで引き下がってもらった。もともと勝手に入った蓮弥が悪いのだし、いつまでも罪悪感を感じられるといたたまれない。
そして、蓮弥が倒れたからといって特に予定の変更もなく、この世界を知るための座学と戦うための訓練に皆が明け暮れていた。
そして今、蓮弥はこの国の図書館に来ていた。
(やっぱりそう簡単には見つからないよな)
あの日、宝物庫で見たあの十字架らしきものについて調べるためである。一応メルド団長に聞いてみたのだがさっぱりわからないらしい。
あの部屋にあるのは用途が不明なものだけではなく、出自がわからないものも多数あり、誰がどんな目的で作ったかもわからない物もあるそうだ。あの十字架もその一つである。
よって、この世界の情報を仕入れるという目的と並行して、そちらの情報も探してはいるのだが、この世界の情報と違ってめぼしい成果は上がっていない。
その代わりこの世界の情報についてはかなり集まったと思う。この世界には亜人族という者たちがいて、基本的に被差別種族であるが故にハルツェナ樹海に引きこもって出てこないこと。魔人族についてはやはりというべきか情報が少なく、制限されている疑いがあること。他にも古い書物にのっていたが世界には反逆者と呼ばれるものが作ったと言われている七つの大迷宮が存在すること。
これまで得た知識を整理していると、そこに最近ではおなじみとなった存在がここに入ってきた。
「よう、南雲。今日も頑張ってるな」
「おはよう藤澤くん。……なにしろ僕にはこれしかできないからね」
そう言って苦笑いしつつ、隣の席に座った南雲ハジメが、少し大きめの本を読みだした。今日は〝北大陸魔物大図鑑〟とやらを読んでいるらしい。
情報収集を兼ねて、図書館に通い始めてからハジメと会う頻度が増えていた。ハジメも最初は彼なりに訓練に真面目に参加していたようだが、なかなか思うように能力値が上がらないことに見切りをつけたのか、最近はもっぱら情報面で役に立とうとしているようである。
「いや、ある意味錬成師は貴重だと思うぞ。現代知識がある分、この世界にはないものとか作れたりするかもしれないし」
例えば銃とか、と言いかけたところで蓮弥は口を噤む。この世界にきてわかったことの一つが、この世界の文明レベルは蓮弥たちの世界で言う中世時代であるらしく、魔法がある代わりにまだ炸薬を使った銃などの兵器類が開発されていないようなのだ。もしハジメがこの先、銃の量産に成功しようものなら今後この世界での戦争事情が一変してしまうと蓮弥は考えていた。
「残念ながらまだレベルが低いみたいで大したものが作れないんだよね。今後も頑張って伸ばしていくつもりだけど……まともな物が作れるようになるまでにはどれくらい時間がかかるのやら」
少し肩を落としてハジメは答える。だがしかし彼の顔には思ったより悲壮感はなかった。蓮弥は少し深く話をすることを決める。
「なあ、南雲。お前って将来の夢とか決まってたりするのか。曖昧なものじゃなくて割とガチな将来設計的なものが」
「? どうしたの突然」
ハジメか不思議そうに聞いてくる。それに対して蓮弥はこの世界に来る前から思ってたことを語る。
「いや、この世界に来る前の話だけどな。お前白崎に構われているせいで、いじめみたいなのにあってたじゃないか……」
ハジメが顔をひきつらせる。当然だろう。誰も「お前、いじめられてるよな」と面と向かって言われていい気がする奴はいない。ハジメには悪いが蓮弥は気にせず話を進める。
「おまけに天之河みたいなうざいやつも絡んでくるし……。だけど学校生活を送っているお前を見ても、いじめられているやつ特有の悲壮感がなかった。それは、誰になんと言われようと自分がやるべきことがわかっているからじゃないかと思ってな」
そう、南雲ハジメは客観的に見ていじめられている。およそクラスで特別親しい友人もいないようだし、小悪党四人組みたいに直接絡んでこなくてもハジメに悪印象を持っているクラスメイトは多い。それでもハジメはそれに対して煩わしさを感じてスルーする態度は見せていたものの、彼らに対して卑屈にはなっていなかった。
そう言われたハジメは少し照れたのか頬をかく。
「別にそこまで大したことじゃないけどね。うちの両親がゲーム会社運営とか少女漫画家をやっててね……」
ハジメ曰く、両親の影響を受けて漫画や小説、ゲームや映画というものが好きになったこと。将来はそれらに関わる仕事をすることを目標に両親の手伝いをしており、そのおかげで相応の技術を持つことが出来たこと。そのせいで学校生活をほぼ犠牲にすることになったが後悔はしていないこと。
それを聞いてようやく蓮弥は納得がいった。
なんのことはない、光輝を含めたあのクラスの中で、ハジメが一番将来を見据えて行動していただけなのだ。南雲ハジメは自分の限界を弁えている。将来に必要なこと(ついでに趣味)と学校生活を天秤にかけて自分の将来と趣味を取ったということだ。
つまり自分を知り、自分の願いに全力をかけているハジメにとって小悪党四人組も光輝もいい意味で眼中にないのである。まあ、そっとしておいてほしいとは思っているのだろうが。
蓮弥はこの世界に来た時のことを思い出す。ハジメは光輝の戦争参加宣言でにわかに沸き立つクラスメイトを見ていい顔をしていなかったし、きっとこの世界で戦うことの意味がわかっているのだろう。さらに自分の才能が大したことがないことがわかっても、それに腐らず自分にできることをやろうとする気概もある。
「そうか、……なんか悪いな。俺は正直、お前がそこまで深く考えているやつだとは思わなかった」
「そう言われると買い被りすぎだって、結局のところ趣味を優先しているだけで、一般的に見てだらしないのは確かだしさ」
それもあるのだろうがそれでもこいつは他のやつより一歩進んでいるのは確かだ。このまま腐らず進んでいけば大物になりそうである。
それにしてもと蓮弥は疑問に思う。
なぜハジメだけステータスが異常に低いのだろうかと。正直、
ドクン!
「蓮弥、ここにいるの?」
少し頭痛を感じたがすぐに収まる。入口の方を見ると、雫が扉の前で立っていた。どうやら自主訓練の時間がきたらしい。
「じゃあな南雲、そろそろ雫と訓練の時間だから先に行くな」
「うん。じゃあまた」
蓮弥は本を戻し横で図鑑を読み始めたハジメを背に、図書室を後にした。図書館で感じた違和感など忘れて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「──はぁ!」
気合を込め、目の前で木刀を構える雫に、正面から同じく木刀を振り下ろす。それを軽く身を翻して躱すと返す刀で横薙ぎに木刀を切り返してくる。
「──っ!」
なんとか受け止めることに成功したが、すでに自分たちの世界の常識を超えた膂力で振るわれる重さの乗った一撃に体勢を崩される。
そしてそれを見逃す雫ではもちろんなく、雫は容赦なく追撃する。不恰好にそれを避けるもそこから後に続かず、蓮弥はあっさり木刀を弾かれて、首元に木刀の刃を突きつけられた。
「はい、また私の勝ちね」
雫が勝ち誇ったように言った。いや、実際に負け越しているわけだが。
「やっぱりだけど蓮弥。あなた感覚が鈍っているわよね。昔道場にいた頃ならこれくらい躱してたと思うけど」
「そうは言うけど、俺が道場行ってた頃っていつの話だよ」
同じ剣士ということで蓮弥は雫と共に訓練を受けていた。ちなみに蓮弥の現在のステータスはこうである。
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藤澤蓮弥 17歳 男 レベル:4
天職:■■■
筋力:65
体力:40
耐性:40
敏捷:70
魔力:20
魔耐:20
技能:■■■■・■■■■・剣術・縮地・言語理解
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相変わらず天職は謎のまま、技能は解明されるどころか、不明箇所が増える始末。あとは各ステータスが1.5倍から2倍くらいに上がったところか。
正直ここに連れてこられたメンバーの中では伸び率は平均的であり、目の前の雫なんかはすでに3桁に届くものもある。
まあそれでもこの男の成長には敵わないのだが。
「やあ雫、それに藤澤も。なかなか頑張ってるみたいだね」
「こんにちは雫ちゃん、藤澤くん。怪我はしてないよね?」
噂をすればいつものイケメンスマイルでこの世界の勇者、天之河光輝が雫(とついでに蓮弥)に話しかけてきた。ちなみに香織も一緒である。
ちなみに普通に雫と一緒に稽古しているわけだが、(光輝視点で)頑張っている奴には刺々しく当たらない。光輝にとっては雫は出来の悪いクラスメイトに構ってあげてる優しい奴で、蓮弥はそれになんとか食らい付いているクラスメイトという立場だからだろう。
「ひょっとしてもう訓練の時間かしら」
「ああ、もうすぐ始まるから呼びにきたんだ」
そして蓮弥と雫は光輝と香織、それと途中で合流した龍太郎と訓練所に向かう。そしてふと思ったので香織にだけ聞こえるように話しかける。
「そういえば白崎。今日の朝図書室に来てたみたいだけど
蓮弥はあえてハジメの名前を強調して言った。そして香織はわかりやすく動揺し始める。
「えっ! いや……別に……特に用事はないよ、うん」
用事もないのに、隠れてなにをやっていたのか逆に気になってくるが、あえて問い詰めない。薮蛇は勘弁だ。
「なんの話よ。図書室でなにかあったの」
話が聞こえていたのか雫が参加してくる。チラチラ光輝が参加したそうに見てくるが、蓮弥は気づかないふりをする。
「別に、……白崎の見る目は確かだったな、という話をしてただけだよ」
「なっ!?」
香織が動揺し、雫が怪しげに蓮弥を見つめるが話はそこから続かなかった。
なぜなら蓮弥達は途中である光景を目撃したからだ。それは小悪党四人組がハジメをリンチしている現場だった。
「何やってるの!?」
香織が血相を変えて小悪党四人組に問いかける。
「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」
その言葉を無視して、香織はハジメに回復魔法をかけ始める。
「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」
「いや、それは……」
「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」
「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」
三人に責められ流石にここはまずいと思ったのか苦笑いしながら退散していく。その後は雫と香織に心配されつつもなんとか立ち上がるハジメ。自分の幼馴染二人に気にかけられる様子が気に入らないのか光輝がまたしても空気が読めない発言をかます。
「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」
この状況においてでさえ独善さを感じさせるセリフに蓮弥は呆れた。相変わらずこの勇者の頭の中は愉快なお花畑が広がっているらしい。
あの小悪党四人組の
ドクン!
(……まただ)
頭痛と共に蓮弥の思考に変なものが流れていた。
「蓮弥、どうしたの? ちょっと顔色悪いわよ」
雫が心配して聞いてくる。
「いや、なんでもない。ちょっと疲れただけだ」
適当にはぐらかしつつ俺は訓練所の方に足を進めた。
蓮弥の厨二力がどんどん膨れ上がっていくだと!!?