飛び交う厨二ワードと夫婦漫才
お土産グレネード
以上の3本でお送りします。
※独自設定と独自解釈ありです。
時間はミレディのところへ蓮弥が訪れたところまで遡る。
「俺が、魂魄魔法を?」
「そう、それがもう一つの選択」
ミレディ・ライセンはそう告げる。それがユナを救うことのできる唯一の手段であると。
「まずは私達が使っている神代魔法だけど、まだ君たちではそれの真の力を発揮できてはいない。……それは君ならわかってくれているとは思うけど……」
それはわかっていた。ミレディの記憶を覗いた際に手に入れた知識の中にそれはあった。
全ての神代魔法を手に入れた時、概念魔法を使うための前提知識が手に入る。例えばハジメがもっとも活用している生成魔法は鉱物に魔法を付与できる力ではなく厳密に言えば、無機的な物質に干渉する魔法ということになる。だからやろうと思えば水とかにも干渉できるはず。
「じゃあ、今回主題になる魂魄魔法はというと、生物の持つ非物質に干渉する魔法というところだね。体内の魔力や意識、無意識、思考、記憶、思念といったものに干渉できる魔法、という認識だったんだけど……」
「何か違ったのか?」
「そうだね。今まで私たちは概念魔法を生み出すために必要なものを極限の意志なんてふわっとした概念で認識してたけど……君に出会ってそれの正体がわかった。それが魂の力。通常の魔力よりも遥かに純度の高い巨大なエネルギー。君の言葉で言うなら”渇望”と呼ぶんだっけ。人のもっとも深くに根付く、根源足る力。だからこそ魂魄魔法の深奥は、おそらく術者の渇望を引き出すことにあるんだと思う」
つまり私たちが思ってたよりもっと深かったということ、ミレディはそう締め括った。
ミレディの仮説はほとんど当たっていると蓮弥は考える。概念魔法などという世界の理そのものを歪める力を行使するのに、魔力という力では不足というわけだ。そこで魂から絞り出した渇望という高純度のエネルギーが必要になる。
「蓮炭の使う
それは合ってる。物語の世界の話であるが、その複合魔術を作った魔術師は登場人物ほとんどに嫌われていた。
「話を戻すよ。つまり魂魄魔法は渇望、魂の奥底に干渉できる魔法ということになる。それを利用すれば、彼女の深層意識にアクセスして彼女を表層に引き上げることができるはずだよ」
繋がっていく希望。今までどうしたらいいのか見当もつかなかったそれに道が示される。
「たぶんだけど、魂というものに接することに慣れている蓮炭は魂魄魔法に高い適正があると思うよ」
「なら後は魂魄魔法を手に入れるだけだけど……」
それが問題だった。ミレディの情報から魂魄魔法があるのは神山であることがわかっているが、そこは聖教教会の総本山でもある。すでに神の使徒と敵対した蓮弥にとって敵地のど真ん中だ。しかもまだ奈落に落ちる前の話だが、神山に大迷宮があるなんて話も聞いたことがない。敵地である上に大迷宮の場所の情報も皆無。
「君には色々知られちゃったし、神結晶をもらった恩もあるから割とサービスしてるけど、流石に大迷宮の攻略に関することは教えられないからね」
「いや、それはあんたの立場なら仕方ないとわかってるよ」
大迷宮攻略にはそれぞれ神との戦いで必要な実力だったり心構えを説く目的もある。それをあらかじめ伝えていたら試練にならない。
「それでもあえて言えることがあるとすれば、魂魄魔法の使い手であるラーくん……ラウス・バーンは元教会の騎士団長だった男だよ」
「教会の騎士団長? そんな人が解放者だったのか?」
ミレディが──顔が変わらないからわかりづらいが──懐かしそうに壁の写真のようなものを見る。
「最初は敵対してたりしたんだけど……解放者を集める旅の中で色々あってね。……私から言えることはここまでかな」
「いやそれで十分だ、ありがとうミレディ」
感謝の気持ちを素直に伝えると、急に後ろを向くミレディゴーレム。
「どういたしまして。……私も君たちに期待してるから」
なんとなく照れているんじゃないかと思った蓮弥。普段の態度が態度だから案外、素直にお礼を言われるのには慣れてないんじゃないかと勝手に予想する。
そこまで聞いたところで少しだけ準備した後、ライセン大迷宮を後にする蓮弥。使徒ダッシュで帰っている最中に情報をまとめ、これからの行動を決める。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そしてハジメ達の元に帰ってきた際に出た結論は……
「ハジメ……俺たち別れよう……」
覚悟と決意を固めたことで少しだけ興奮気味にハジメに詰め寄って宣言する蓮弥。ちなみに余談だが、どちらかといえば蓮弥は女顔の中性的な美形である。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あれ?」
蓮弥は固まった雰囲気に困惑する。
そしてまず最初にハジメが、自分と顔がかなり近くなっている蓮弥から顔を引きつらせつつ、ゆっくりと後ろに遠ざかるように大きく一歩下がる。
シアは蓮弥とハジメを交互に見て少し顔を赤くしてそわそわしている。
ティオは思わず目を点にしている。
そしてユエは……蓮弥をただひたすらじーっと見つめ続けた。
「……ラスボス」
それはまるでハジメとの間に自分でも入れない、友情という二人だけの領域を持っている最大最強の敵が現れたかもしれないと警戒する一言だった。
そこで蓮弥は少し冷静になって先ほどの言葉と態度を吟味する。吟味した結果、大いなる試練の前に不幸にも引き裂かれた二人が、再会後に絆(意味深)をさらに深めるというお約束に聞こえないこともないことに気づく。
「……オッホン。……すまない、少し言葉が足りなかった。正しくは次の大迷宮攻略の旅を二手に分けようということなんだが……」
蓮弥は説明する。現状ミレディのおかげでユナの症状は安定したこと。だけど魂が深い眠りについていて自力で起きるのを待っていたらどれだけ長い時間がかかるかわからないこと。そしてユナを目覚めさせる可能性がある魂魄魔法を習得するために蓮弥単独で神山攻略を目指したいこと。
蓮弥の意見に対して、待ったをかけたのはシアだった。
「えっ、でもそれって二手に分かれる意味ありますか? そりゃハジメさんが目的にしている空間魔法ではありませんけど、通り道にあるんですしみんなで攻略すればいいんじゃ……」
シアの疑問にハジメが答える。
「それはできないんだよ。樹海から出たことがないお前は詳しく現地の情報を知らないかもしれないけどな。あそこは聖教教会の総本山で狂信者がうようよいる場所だ。つまり俺達の仮想敵になる。いや……」
そこでハジメは蓮弥の方を向く。
「蓮弥はすでに神の使徒とやらと戦っている。つまり仮想でもなんでもなく、敵地のど真ん中だな」
「だったらなおさら私たちがいたほうがいいんじゃ……」
「いや、それはやめたほうがいい」
蓮弥ははっきり断言する。
「戦った神の使徒は……正直に言えば今のお前たちより強かった。……俺も暴走してなかったらしのげていたかわからないと思う。……だからこそできるだけ目立たないよう最短で入手したい……前の戦いで倒せたとは思っていないが、相当深手を負わせたはずだから今がチャンスともいえる」
「つまり俺たちは神の使徒がこっちを舐めている内に他の神代魔法を手に入れて自分達を強化したほうがいいってことだな」
「その通りだ」
ハジメは冷静に判断しているようだった。ハジメとて奈落で生き抜いたのだ。勝てない敵に無謀に特攻するのは蛮勇であるということを知っている。今勝てないのなら勝てるようになればいいのだ。
「まあ、後はお前達がいるとトラブルが発生しそうだしな」
「おい、まるで俺達がトラブルメーカーみたいじゃねぇか」
「みたいも何もそうだろ。俺がいない間に兎人族魔改造したり、フューレンの闇組織に喧嘩売る羽目になったり……」
「……否定できない」
ユエが潔く認めた。ハジメも微妙そうな顔をしている。フューレンはともかく兎人族は不本意だと思ってそうだ。
「話を戻すと、どう考えても隠密行動が不得手なハジメがやるより、俺単体で大迷宮攻略を目指したほうがやりやすい。それに俺が攻略ルートを確立すればお前達の時にはスムーズに行けるようにできるかもしれないしな」
「わかった。なら俺達はホルアドでいったん別行動だな。……やるからにはしくじるなよ」
「わかってるよ。必ずユナを目覚めさせる」
そんなやりとりがあった後、ホルアドの町に着いた一行だったが、まさか勇者たちの騒動に首を突っ込む羽目になり、いきなり目立つことになってしまったのは彼らにとって大きな誤算だった。本当は香織や雫とだけ顔を合わせ、蓮弥は隠れながら情報を集めて大迷宮を攻略するつもりだったのだが、こうなってしまっては教会との接触は避けられないだろう。蓮弥は前向きに教会と接触して堂々と情報を集める機会ができたと思っておくことにした。
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「というわけで俺は此処に残るわけだが……それでもハジメに……付いていくか?」
蓮弥が俯いている雫に一応聞くが、雫がきっと睨むように顔を上げる。
「どうしていつもあんたは大事なことを言わないのよッ、てっきりそのまま行っちゃうかと思ったじゃない!」
「だから今説明しただろ」
「遅いって言ってるのよッ。大体この前も……」
あ、これ説教に入るパターンだと蓮弥はげんなりした顔をする。長年の経験からこのオカンモードに入ると長いとわかってしまう。
「あー、八重樫。痴話ゲンカをやるのは別にいいけど。俺達もう行くからな」
「痴話ゲンカじゃないわよ……そうだ、南雲君。あなたにも言いたいことがあるのよ」
今度はずいっとハジメの方に詰め寄る雫。その迫力に少しハジメの足が下がる。
「……私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」
「……」
どうやらこれから色々な意味で、厳しい戦いに赴く親友を気にしているらしい。それに対してハジメは何も答えない。たぶん自分はユエ一筋なのに、肝心のユエが他の女に対して寛容的すぎてどうしてこうなるといったことを考えているのだろう。
「……ちゃんと見てくれないと……大変な事になるわよ」
「? 大変なこと? なんだそ……」
「“白髪眼帯の処刑人”なんてどうかしら?」
「……なに?」
「それとも、“破壊巡回”と書いて“アウトブレイク”と読む、なんてどう?」
「ちょっと待て、お前、一体何を……」
「他にも“漆黒の暴虐”とか“紅き雷の錬成師”なんてのもあるわよ?」
「お、おま、お前、まさか……」
どうやら雫はそっち方面でハジメを脅すつもりらしい。……だが甘いと言わざるを得ない。蓮弥は口を挟むことにする。
「甘いぞ、雫!」
「何よ蓮弥、何が甘いのよ?」
「俺達は伊達や酔狂でこんな厨二力MAXな恰好してるわけじゃないんだよ。……それほど奈落での日々は過酷だったということだ。厨二やらなきゃ強くなれなかったんだよッッ。ハジメにとって白髪眼帯の処刑人なんて二つ名は、すでに受け入れた過去のものにすぎない」
「ちょ、おま……」
久しぶりに恰好のことについて言及されてダメージを受けるハジメ。しかも蓮弥がなんだか悪ノリし始めたと感じる。
「そういうあんたはなんで武装親衛隊なのよ。ヨーロッパとかでそれ着ると捕まるわよ」
「ハーケンクロイツ掲げているわけではないし、ここはヨーロッパじゃないからな。それに似合うだろ」
「まあ……正直似合うとは思うけど……じゃあ蓮弥は”
「今の俺だと”
ぐはぁとハジメが吐血するような声を吐き出す。
「それ『ツァラトゥストラはかく語りき』って奴だったわよね。前から思ってたけどあんた、結構ドイツ好きよね……」
「ドイツ語の厨二度はすごいからな。ハジメもそれは理解していると思うぞ。自分の愛銃にドンナーとかシュラーゲンとかつけてるし」
おふぅとハジメに追撃が襲いかかる。それを心配そうに見るシア。ユエはハジメのそれにすでに慣れたのか大して気にしていない。
「それだと確かに
破滅挽歌とか復活災厄の名前が出てくるたびにダメージを受けるハジメ。周りのクラスメイトは大迷宮で無双を誇ったハジメが言葉だけで追い詰められていく様に戦慄を覚える。
「最近だと"
「ごばぁ」
「あふん……」
ハジメを心配していたシアに思わぬ流れ弾が直撃する。ティオのビクンビクン喘ぐ姿にクラスの男子が心の中で思いっきり引いてハジメを尊敬の眼差しで見始める。
「てめぇらいい加減にしろやぁぁぁぁ!!」
ドパンッ!
ドパンッ!
コン!
キン!
二人のあまりの鬼畜の所業に切れたハジメが蓮弥に実弾を、雫にゴムスタン弾をぶっ放す。蓮弥は直撃し、雫は刀を抜いて弾丸を斬り落とす。
「痛……くはないけど何するんだハジメ。実弾を向けるなんて危ないだろ」
「そうよ。危ないじゃない」
「うるせぇぇ、このバカップルども!! さっきから聞いてればダメージ受けてるの俺らだけじゃねぇか。……というか八重樫。ゴムスタン弾とはいえ、この距離で普通に弾丸を斬るなよ……引くわー」
結局ハジメが香織を邪険にはしないということで収まった。
そして出発の時間は訪れる。
「じゃあな蓮弥。……あんまり追い付くのが遅いと先に帰っちまうかもしれねぇぞ」
「何言ってんだ。俺が先に厄介な神山の攻略ルートを確立してやるんだから、後で感謝しろよ」
にっと笑いお互い拳を突き合わせながら互いの健闘を祈る蓮弥とハジメ。その光景を眺める女性陣。こればっかりは間に入れない何かがあった。
「……蓮弥、今度会う時はユナも一緒に」
「元気なユナさんに会えるの、待ってますからね」
「ふむ、妾はほとんど話もできなかったからの。会えるのを楽しみにしとるぞ」
「じゃあね、蓮弥お兄ちゃん。またねなの」
各人が一人残って戦いに挑む蓮弥にエールを送る。
今度会う時はユナも一緒に。必ず実現して見せると蓮弥は去っていく仲間たちの背中に誓うのだった。
……ここで終わればよかったのだが……
「……ユナ?」
この雫のつぶやきで流れが変わる。
まず真っ先にそれに気づいたユエが、目を光らせながら雫に近づく。
「……雫でいい?」
「えっと……ユエさんでいいのかしら。いったいどうしたの?」
「私もユエでいい。……雫は香織の心配をしているようだけど……正直雫は他人の心配をしている場合じゃない……」
「それってどういう……」
「ちょっ……」
蓮弥は風向きが変わったことを悟り行動に移そうとするが一歩遅かった。
「蓮弥にはユナという恋人がいる。だからユナが復活すれば……修羅場は不可避」
ピシッ
雫を中心に空気が…………凍った。
そして自分たちのターンが回ってきたことを察したハジメたちが目を光らせながら反撃を開始する。
「そうだよな〜。蓮弥には普段から俺とユエに負けないくらいイチャイチャして、戦ってる時でも一瞬も離れようとはしないユナという恋人がいたんだったよな〜」
ハジメがここぞとばかりに、にやにやしながら追撃する。……確かに武装として形成している時は蓮弥から一瞬も離れてないから間違いないが……あきらかに悪意のある言い方だった。しかも短い間ながら周りに特別な関係であることをこれでもかと匂わせたハジメとユエと同じくらいの関係という具体例のおまけつき。
「そうですよね~。朝私が蓮弥さんの部屋を訪ねたら、全裸にワイシャツ一枚のユナさんが出迎えるなんてデフォルトでしたしぃ~」
シアも流れ弾の恨みとばかりに笑いながら追撃する。これも間違いではない。一度も一線を超えたことはないとはいえ、ユナはユエに唆されてこういう行動に出ることが頻繁にあった。……本当にそれだけである。もう一度言うが、蓮弥は決して一線を超えたことはない。
「妾はあまり出会って間もないからよくは知らんが、ユナが倒れた時、蓮弥は世界の終わりのように慌てておったの」
それも事実なだけに何も言えない。さっきから首筋がちりちりする。怖すぎて横を見ることができない蓮弥。周りのクラスメイトは蓮弥の隣の雫を見て、いつでも逃げられるように準備を整えている。
「じゃあな蓮弥、がんばれよー。
「……この試練を乗り越えたら
「なんというか……自分が絡まない
「ふむ、いつの世もそこは変わらぬものよ。……ふむ、この状況をご主人様と妾に当てはめれば……おふぅ、
「えーと……雫ちゃんッ、お互い
こうしてハジメ達は今度こそ四輪車で去っていった。この場に盛大な爆弾を落として……
「……………………」
隣の雫はさっきから一言もしゃべらない。
「ではな、藤澤。また会おう」
「シズシズ……負けないでね」
永山と谷口がそう言った後、クラス一同がすぐに撤退した。その動きを大迷宮で再現できたら余裕で魔人族から逃げられただろうと思わせる全会一致の全力の逃避行動だった。
この場に蓮弥と雫だけが残される。蓮弥は未だに横を見ることはできない。
「…………蓮弥」
「お、おう」
まるで抜き身の刃。
言葉の一つ一つが鋭い刃ではないかと錯覚するような冷たい気配。
「……………………ユナって…………誰?」
どうやら蓮弥の1日の残りは、人斬りのオーラを纏う修羅になっている幼馴染を説得することで終わりそうだ。
ハジメたちと別れての行動初日で早速色々躓いた蓮弥だった。
母親の心境で香織を心配していた雫が、ようやく自分にも他人の心配をしている場合ではないレベルの恋敵がいることを認識したようです。
そしてもうお判りでしょうが、第4章はハジメ達原作組と別れ、大幅に二次創作の入る余地がある唯一の大迷宮、神山攻略編になります。
第4章のヒロインはもちろん雫。舞台が神山と王都ということでクラスメイトの出番も増えるかもしれません。
詳しい告知は次回更新の第3章エピローグにて。