今回、これから作品を回していくための重要なオリキャラが出てきますが、爪牙の方々ならどんなキャラなのかすぐにわかります。
あと皆様に大人気?の勇者も出ます。
ハジメ達が出発してからその夜。魔人族の襲撃について王国に知らせるために一足先に戻ったメルドを除いて勇者一行はホルアドで泊まることになった。
魔人族襲撃という彼らにとって未曾有のピンチだったにも関わらず一人も死者が出なかったのは奇跡といっていいだろう。
そんな奇跡の一日を乗り越えた勇者一行は、ほぼ全員疲労困憊だった。メルドからも今日は絶対安静を言い渡されており、各自すでに就寝に入っているものが多数だ。
だが中にはその枠内に当てはまらないものもいる。むしろ皆が就寝しているということを逆手にとって表向き話せないようなことを、普段やれない行動を取るものもいる。
今宵は満月。
その遥か彼方に浮かぶそれだけが全てを知っている。
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「くそっ! くそっ! 何なんだよ! ふざけやがって!」
時間は深夜。宿場町ホルアドの町外れにある公園、その一面に植えられている無数の木々の一本に拳を叩きつけながら、押し殺した声で悪態をつく男が一人。檜山大介である。檜山の瞳は、憎しみと動揺と焦燥で激しく揺れていた。それは、もう狂気的と言っても過言ではない醜く濁った瞳だった。
「案の定、随分と荒れているね……まぁ、無理もないけど。愛しい愛しい香織姫が目の前で他の男に掻っ攫われたのだものね?」
檜山大介は振り返るとそこに立っていたのは自分の同士とも言える人物だった。
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そもそもこの人物と関わりを持つキッカケは蓮弥とハジメが奈落に落ちた日の夜にまで遡る。
「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」
その日、檜山はいい感じにトリップしていた。
殺人という禁忌。
それに伴い目障りだった人物を消すことができた喜び。
そのように都合の良い妄想を描いていた時に、その人物は現れた。
「……やるのはいいけどさ……もっとうまくやりなよ」
「誰だ!?」
檜山は振り返り、その人物の顔を見て驚いた。知っている人物の知らない顔がそこにあったからだ。
「本当は殺人を犯した感想とか聞きたかったんだけど、そんな余裕なくなりそうだからね。単刀直入に言うけどあんたミスったよ。南雲を落とすまではうまくやったと思うけど……藤澤を巻き込んだのはまずい。僕の予想だと犯人があんただとばれるのは時間の問題だね」
そう、この檜山大介は先の犯行にてミスを犯していた。
南雲ハジメを誘導弾の一発を逸らして落としたまでは良かった。あの混乱した状況では誰もが制御を誤る可能性はあったし、その現場は誰にも見られていない──実際は目の前の人物に見られていたわけだが──怪しまれてもしらを切りとおせば済む話だった。
だが檜山にとって予想外の事態が起こる。同じくクラスメイトの一人である藤澤蓮弥がハジメの救出を行うために行動に移してしまったのだ。
このままではハジメは助かってしまう。せっかく消えると思った邪魔者が戻ってきてしまう。そう思った檜山はとっさに自分に一番適正のある風魔法を直接蓮弥にぶつけてしまったのだ。
「……あの時の雫は怖かったね。正直ちびりそうになったもん。……あの調子だとどんな手を使ってでも犯人を探し出すだろうね。その時、果たして君は生きていられるかな?」
そのミスが原因で二人を悪意を持って落としたものがあの中にいることが周知されてしまった。あの時の雫の殺気が絶対に犯人を許さないということを物語っている。見つかったら最悪殺される。そう信じさせるだけの迫力があった。
だがこの場合、檜山にとって雫が問題ではなく……
「そしてそして何より……愛しの愛しの香織姫は……どう思うだろうね」
それは何がおかしいのかくすくす笑い出す。思わず手が出そうになるが、その目に宿る得体のしれない狂気を垣間見て、手を引っ込める。
「君が犯人だとわかるのは時間の問題。そしていずれ目覚める香織にもその情報は伝わるだろう。……きっとあんたを許さないだろうね。あいつも結構闇深いところあるし、きっとこれから君にだけはあの笑顔は向けられず、怒りと憎悪の視線だけが向けられる。……良かったじゃないか、ある意味君は香織の特別になれるよ」
「てめぇ……それを言うためにわざわざ来たのか!!」
目の前の人物に指摘されるまでもなく檜山は現状のまずさに気づいている。もともとハジメを落としたのは香織を手に入れるためだったのだ。あんなオタク野郎が好意を持たれるなら自分でもいけるだろと本気で信じている彼だが、流石に好きな人を殺した男を好きになる女はいないことぐらいはわかっていた。
その言葉も予想通りといわんばかりに目の前の人物は交渉を進める。
「まさか……吊し上げ確定の君にそんな無駄なことをするわけないじゃないか。……単刀直入に言うよ。……香織を、本気で手に入れるつもりはある?」
「……なんだって?」
それは否が応でも檜山の関心を引く言葉だった。
「君だってわかっているだろう。君が南雲を殺したことが知れ渡る以上、まっとうな方法で香織を手に入れることはできないって。……もちろんこれから念入りに準備を行う必要があるけど。僕の計画に乗ってくれるなら、香織を君にプレゼントしてあげるよ」
「……なんでそれを俺に持ち掛ける」
すでにその時檜山は半分以上、提案に乗る気でいた。もう他に手段がない以上、それにすがるしかない。目の前の人物の雰囲気にはそれだけの説得力があると思ったのだ。
「決まってるだろ。僕の計画を進めるためにはどうしても人の道ってやつを外れる必要があってね。一度一線を超えた君がうってつけってわけだ。……それで、どうするの?」
その日から、檜山は隠れてその人物のおぞましい計画を進めることになった。途中罪が暴露された時点で矯正プログラムとやらを受けなければならない時期が発生したものの、共犯者の手際がいいのか、スムーズに事を運ぶことができていた。
もうすぐ香織が手に入る。その一心でのみ動いてきたのだ。たとえ雫から得体のしれない殺気を向けられようと、香織から存在ごと無視されようとも……
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だが、その目論見は、今日生還した南雲ハジメによって台無しにされた。
「何で、何であの野郎生きてんだよ! 何のためにあんなことしたと思って……」
「落ち着きなよ。……これからのことを話したいんだから」
「いっとくけどもうお前に協力する意味はないからな。……だって香織はもう……」
「あきらめるんだ?」
その一言には多分に呆れが含まれていた。
「君の香織への想いはそんなもの? 言ってみればただ他の男に奪われただけじゃないか。まだ計画は進んでいる。餌だってある。十分勝算はあると思うよ」
「……お前の計画の全容は見えねぇけどな。それは規格外の化物が一人残っててもやれるもんなのか?」
檜山とて、もう自分が後戻りできないとわかっている。ただ、ままならぬ思いを吐き出したかっただけなのだ。明日になれば、また再び目の前の共犯者の命令どおりに計画を進めるだろう。……だがそのためには極めて邪魔なものが一人いた。
「確かに、てっきり一緒に行くと思ってたのにまさか藤澤が残っちゃうのは想定外だったな。……はっきり言ってあいつは強すぎる。あのときの光輝君がまったく歯が立たないとなると相当やばい。……唯一弱点になりそうな雫も一筋縄にはいかないだろうし」
昼間行われた決闘をもちろん檜山と目の前の人物は見ていた。限界突破の派生技能”覇潰・羅刹”を使った光輝は自分達とは比較にならない力を発揮していた。あの力を十全に使えていたら魔人族をたやすく蹴散らせただろうと確信させるほどの力だったのだ。……それを藤澤蓮弥は真っ向から叩き潰した。まるでお前の攻撃なんて効かないとばかりに無防備に受け、聖剣を破壊した。だれがどう見ても格の違いを思い知らずにはいられなかった。
「……だけど話を聞く限りじゃいつまでも僕たちの元にいるわけじゃないようだ。そしてその時には雫も消えている。……だから藤澤が出ていくまではしばらくおとなしくしてなよ。……なに、必ずチャンスはくるよ。必ずね……」
(それに協力者はお前だけじゃないしね)
それでもその人物はあきらめない。本気でやれば何でもできるということを信じているから。必ず愛しい人を捕まえて見せる。
「ふふふ、でも藤澤はなかなか良いことを言ったよね。光輝君にとって香織や雫はアクセサリーに過ぎない、か……あはは、そうだよ、その通り! 光輝君にとって香織や雫はしょせんちょっと見栄えがいいだけのアクセサリーに過ぎないんだ! けど僕は違う。僕が、僕こそが、光輝君の真のヒロインなんだから!!」
檜山の目の前でその人物が狂気を込めて笑う。周りのアクセサリーを失くした彼を思って。
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その人物に狂気の念を向けられた光輝は現在、小さなアーチを描く橋の上で
あの決闘の後、しばらくして目覚めた光輝はすぐに香織が南雲に
良かった。雫だけでも、思い留まってくれたんだな。
そう都合よく解釈した光輝は体を起こし、いつものように雫に近づこうとして、傍に藤澤蓮弥が立っていることに気づく。
なぜこいつがここに?
その疑問を晴らす前に、蓮弥は光輝の様子をさっとみた後、翻して宿のある方向まで歩き出した。そして、まるでそうするのが当然であるかのように、雫も後に続く。ここで光輝は雫が常に蓮弥の方を見ており、自分を一瞥すらしていないということに気づいてしまう。
待て、行っては駄目だ雫。行かないでくれ。
そう言葉に出そうとした光輝だが、口からその言葉がでることはなかった。口は動いているが声が出ない。まるで無理やり声を止められているかのような感覚だった。追いかけようにも体が動かず、ただひたすら雫が蓮弥の後をついていく様を見ていることしかできなかった。
何もできなかった。
光輝は橋の上で香織の顔を思い浮かべる。香織がハジメに想いを告げたときの光景。不安と歓喜を心の内に、祈りを捧げるように告げられた想いは、その表情と相まって嘘偽りではないのだと、病気レベルで鈍感な光輝を以てして確信させるものだった。
光輝は、香織とは十年来の付き合いがあるが、未だかつて、あれほど可憐で力強く、それでいて見ているこちらが切なくなる、そんな香織の表情は見たことがなかった。まさに、青天の霹靂とはこのことだった。
それは香織だけではない。常に頼りがいのある相棒にして、クラスのまとめ役である雫。常に凛とした姿勢を崩さず、文武両道を地で行き、可憐でありながら芯の通った強さを持っている雫は、光輝にとっても自慢の幼馴染であった。そんな彼女と切磋琢磨することで、自分は何倍も強くなれた。蓮弥が落ちたことで少し様子がおかしくなったようだが、光輝にとって常に強かった彼女なら、いつかクラスメイトの死を乗り越えられると思っていたし、再び雫が立ち上がったその時は、自分がいつものように横に並び立てばいいと思っていた。
思っていたのだ。
光輝は雫の顔を思い浮かべる。蓮弥が帰ってきた時の態度。香織と同じく十年来の付き合いがあるが、香織とは逆に、あんなに弱弱しく、今にも壊れてしまいそうな儚さを醸し出した雫の姿に光輝は衝撃を受けたのだ。
先ほどもそうだった。まるで一瞬でも目を離せば、またいなくなるのではないかとでも思っているような、何もかも目の前の彼に縋り付いてしまいたいと思っているような弱弱しい女の顔。
それもまた、自分といる時には、ただの一度も見せたことがない表情だった。
香織の可憐で力強い表情、雫の儚く、弱弱しい表情。
自分が知らなかった彼女達の顔を思い浮かべるたびに、そしてその表情を向けられた男達を想像しただけで、光輝の胸中に言い知れぬ感情が湧き上がってくる。
ドロドロしたその感情の正体を彼はまだ知らない。だけど二人の幼馴染の少女を二人の男に奪われたのだとは漠然と思っていた。
だが、光輝にはもう何もできない。
「……ちくしょう……」
もし適当にあしらわれただけだったら光輝は何も変わらなかっただろう。表面上納得して見せても心の中では納得いかず、燻り続けていずれ爆発したはずだった。
だが、光輝には彼女達を守ることのできるチャンスを与えられた。自らの得意な真っ向勝負で、しかも生死の掛かっていない戦い。
そこで光輝は戦った。歪んでいたかもしれないが、彼は彼なりに幼馴染の少女達を守るために全力で剣を振るった。今出せる全力を出し切った。今までの光輝ならそこまでやって乗り越えられないことは何一つ存在しなかった。
「……ちくしょう……」
だけど完敗だった。こちらの攻撃はなに一つ通じなかった。そして最後の一撃の時、自分の全力で振るっただけでなく、聖剣を振り切ったのだ。あの時、魔人族の女にはできなかったのに。
だがその攻撃を生身で受けてなお傷一つ付かなかった。そしてその直後、光輝がこの世界で手に入れた力の象徴はガラスでも割るかのようにあっけなく砕け散った。その光景を見た光輝は流石に自身の完敗を受け入れざるを得なかった。
何が悪かったのだろうか。自分は彼女達のために全力を尽くしてきたはずだった。にもかかわらず二人の幼馴染たちは今自分の元にはいない。
光輝の内心にネガティブな感情があふれ出す。むしろ今までこの感情に縁がなかったというだけ驚きだが、彼にとって必要なものはこれだった。
今まで彼の歪みに気づき、矯正を試みたものでも言葉で注意するだけでとどまってしまった。それに願えば何でもできてしまう彼の才能と環境もまずかった。そのせいで彼は一度も折れるとかネガティブな感情とかを経験せずにここまで来てしまった。
光輝は考える。藤澤達と自分の違いは何なんなのか。そして思い始める。
ひょっとして自分にも間違っている部分があったのでは……
そう思い始めたその時……
「あの……すみません」
ひ弱ながらも不思議と通るような声が光輝に届いた。
「っ! 誰だ!?」
そこで自分が長い間呆然と立ち尽くしていたことに気づいた。ひょっとしたら不審に思われたかもしれない。
振り返った光輝の前に、聖教教会でみた神父服を纏った男が立っていた。身長は光輝よりも高いが、その枯れ木のような風貌と温和な雰囲気からあまり威圧感を感じない。
「すみません。いえ、大した用事ではないのです。……あなたは勇者の天之河光輝さんで間違いないでしょうか?」
「そうですがあなたは?」
光輝の問いに対して今気づいたとばかりに慌てて自己紹介を行う。
「自己紹介が遅れて申し訳ございません。わたくし、ダニエル・アルベルトと申します。聖教教会の本山から今後、神の使徒であらせられる皆様をサポートするようにと仰せつかっております。以後、お見知りおきを……」
「そうですか。こちらこそ怒鳴ってしまってすみませんでした……」
恰好から察してはいたが、どうやら聖教教会の神父らしい。
「ところで失礼ですが、なぜここに? まずは勇者であるあなたに挨拶をばと思い、宿舎を訪ねたのですが留守だと言われまして。見つけたあなたの様子を少し伺っていましたが、なにやら思いつめたご様子。まるでそのまま河に飛び込んでしまうような雰囲気でしたので思わず声をかけてしまいました」
その言葉を聞き、光輝は自分が予想以上に弱っていたことを知った。どうやらこの人にも心配をかけてしまったらしい。普段ではしないような失敗だった。
「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ神の使徒であるあなたの邪魔をするつもりはなかったのです。……ですが、どうでしょう。ついでといってはなんですが、これもエヒト神のお導き。何か悩みがあるなら私に話してみては? これでも神父をやっているので人の悩みを聞く心得は持っているつもりです」
そう言ってくるダニエル神父。本当なら初めて会う人物に話すようなことではないのだが
もともと誰かに聞いてもらいたかったのだ。これも何かの縁だというなら話してもいいだろう。そう思って話を始めた光輝だったのだが……
「だから聞いてくださいよ光輝さん。私の目に入れても痛くない愛娘のテレーゼが、テレーゼが、最近目も合わせてくれないどころか、ロータスなどというちょっと強いだけの若者に夢中になってしまいましてね。妻のリサはほっといていいなどと危機感のない言葉を言う始末。いけません。男など皆狼なのです。テレーゼのような可憐で美しく、可愛い天使のような女の子などたやすく男の餌食になってしまうのですから。ああ、テレーゼ。昔はあんなに素直だったのにどうしてこうなってしまったのか。神よ、どうか私を導いてください」
「はぁ……」
どうしてこうなってしまったのかは光輝のセリフだった。最初は自分が想いの丈をぶちまけていたはずだったのだがいつのまにかダニエル神父の家庭問題を聞かされることになってしまった。しかも光輝が聞く限りにおいて、ダニエル神父の愛情は行き過ぎのような気がする。光輝も自分達と同じ年頃らしい娘が父親と一緒に風呂に入らないことなどは流石に知っている。
光輝は盛大に気が抜けてしまった。つい数十分前まで自分なりに結構大事なことを考えていたはずなのにいつの間にか葛藤が薄くなっていた。
「けど信じているのですよ光輝さん。いつか娘はきっとわかってくれると。誰よりも私が彼女を思っていることは間違いないのですから。あなたもそうではありませんか? 光輝さん」
「えっ……」
急に話を振られて驚いてしまった光輝。それに気づいてかいないのか、神父が話を続ける。
「彼女たちの年頃というものはですね。何かと強い男やちょっと悪い男に惹かれてしまうものなのです。もしかしたらあなたの幼馴染も同じかもしれません。もしも、あなたが誰よりも彼女達を大切にしているというのなら、あきらめず地道に挑むことです。そうすればいつか必ず想いは通じますよ」
「……」
そうなのだろうか。香織や雫たちもまた、今はちょっと悪い男に惹かれる時期なのであって、それが過ぎればいつか自分の元に帰ってくるのだろうか。
「そうですね。あなたは今少し自信を無くしていられるご様子。自身を失くしていると言い換えてもいいかもしれない。あなたは今まで大した苦労もなく何事もうまくやってこれた。だからこそ今目の前にできた初めての障害に戸惑っているだけなのです」
つまり神の与えた試練ですね。とダニエル神父は光輝の
『大丈夫。あなたは彼女達を想って、誰よりも彼女達のために行動してきた、違いますか?』
いいや、違わない。自分は常に彼女たちのために行動してきた。
『今の勇者としての責務もそうです。あなたはこの世界にきて人類を救うために誰よりも努力を積んできました。正義を想い、正義を持って積み上げてきたものは簡単には裏切らない』
そうだ。自分は誰よりも正義だった。誰よりも人を救おうとしてきたし、誰よりもそれを実践したつもりだ。簡単に人を傷つける藤澤や南雲とは違う。
『奈落に落ちてしまった少年は誰よりも落ちこぼれだったと聞いています。そんな彼が強くなったなら、きっとあなたはもっと強くなれる』
そうだ。俺は南雲とは違う。俺が勇者なんだ。だから俺はもっともっと強くなれる。
『何かを成すためには何事もぶれてはいけません。まずあなたがやるべきことは一つです。
そうだ。自分は常に正しかった。ならきっとこれからの行動も正しいはずだ。藤澤は人殺しだ。そんなあいつから仕掛けた勝負。何かはわからないがきっと卑怯な手を使ったに違いない。そうでなければ自分は負けなかったはずだ。南雲もそうだ。あんな人を傷つけることを楽しむような残虐非道な奴を香織が好きになるはずがない。きっと香織に何かしたに違いない。
ダニエル神父の話は続く。そしてその話が終わるころには、光輝は
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「やれやれ世話がやけますねぇ」
光輝が去った後、ダニエル・アルベルト神父はしばらく橋の上で佇んでいた。雲に月がかかり、神父の顔が見えなくなる。
「困りますよ光輝さん。あなたにはいつもの調子でいてもらわなければ」
あの手の子供をなだめるのはたやすい。自分の都合のいいことしか聞かないなら、その欲する言葉を的確に与えてやればいいのだ。そうすれば勝手に向こうからこちらを信用するようになる。そこまで行ってしまえば、あとはどうとでもなる。
この神父は以前から光輝に目をつけていた。エヒト神の呼び出した勇者。どのような人物であるのか探りを入れていたが、強大な力に未熟な精神。それはこの人物が長年探していた条件に当てはまるものだった。だからこそ、自身の
「さて、彼のことはしばらくはこれでいいとして、問題は例の彼ですねぇ。彼の辿ってきた道を思えば、おそらく彼の目的は神山の大迷宮でしょうか。……それに神の使徒が集まってきているのも問題ですねぇ」
自分の目的のためには神の使徒にあまりいてもらっては動きづらい。
「なら今回は彼の力になるとしますかね。うまくやれば神の使徒を減らせるだけでなく彼に恩を売れるかもしれない」
縁とは重要だ。その縁から思わぬ好機が生まれることもあるかもしれない。
それに、神父にとって神の使徒は面白味に欠けていた。有り体にいえばつまらない。所詮神の人形といったところか。
「いや、一人だけ興味深い使徒がいましたね。……彼女はボロボロになりながらも生還したはずですが、果たしてどうなっているのやら」
月夜の晩はまだ続く。
……おや!? 勇者(笑)のようすが……!
♪(親の声より聴いた例のBGM)
勇者(笑)⇔真の勇者の卵
謎の神父「(無情のBボタン連打)」
勇者(笑)のへんかがとまった。
つまり彼の扱いはそういう感じになります。
後編は神父曰く興味深い使徒と主人公組です。