ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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王都の闇が動き出す。

あとクラスメイトも多数出るよー


第二次義妹襲撃事件

 見られている。

 

 

 蓮弥は朝から、複数の視線が自分に向けられていることを把握していた。これはいよいよ本格的に教会が蓮弥を警戒し始めたのかと疑ったが、どうにも違うような気がする。

 

 

 殺気らしきものは宿っているが、どうにもズレているという感じがする。まるでシリアスではなくシリアル時空に入っているような、何とも言い難い感覚だった。

 

「どうしたのよ。何か気になることでもある?」

「……いや、なんでもない」

 

 とりあえず王都のカフェの目の前に座っている雫が気にしないように誤魔化す。

 

 

 教会の依頼を終えた蓮弥は、引き続き大迷宮の捜索を行っているところだった。教会の依頼を完遂したことで一応の信頼は得たらしく。蓮弥はある程度なら神山の中を探索する許可をもらうことができたのだ。そこで雫と共に調査したところ、少しずつ情報が集まってきている。

 

 

 神山はいずれ帰還するとされるエヒト神を迎える大聖堂がある頂上を始め、重要施設は神山上層部に建てられているらしい。ちなみに蓮弥達が召喚された場所も神山では上層部にあるものらしく。神の声を聞くためのアーティファクトがあるフロアの下に位置しているらしい。

 

 

 神山中層部には、一般的な信徒や神父たちが日々、聖教の教えを受け修行を行っているという。神殿騎士たちが鍛錬しているのもこのフロアだという話だ。ちなみにそれは迷惑料としてオイバ・ザハード騎士から聞き出した。

 

 

 そして神山下層部。

 ここには少し訳ありのアーティファクトや信徒たちを隔離するスペースが設けられている。聞いた話によると檜山が矯正プログラムとやらを受けた際にはこのフロアを使ったらしい。そこは神山のふもとに位置するということでかなりの広さがあり、司教クラスの人間でも全容を把握している人間はいないのだという。

 

 

 蓮弥は間違いなくその下層部に大迷宮があるのだと半ば確信していた。今までの大迷宮も思い返してみれば地下へ地下へ伸びている印象があった。だとしたら神山のふもとのさらに下に大迷宮があるのがセオリーだろう。

 

 

 そこまではわかったが、肝心のどうやって大迷宮に入るかと言う問題がまだ残っているが、一応調査自体は進んでいると言っていい。

 

 

 そういうことで今蓮弥と雫は束の間の休息を取っているというわけである。

 

 ~~~~~~~~~~

 

「ターゲットを発見しました」

「お姉様と優雅にティータイムとは、なんてうらやましい」

「だけどそれもここまで」

「この”絶対に我慢できない腹下し”の闇属性魔法で大恥をかくがいいわ」

 

 魔の手は迫る。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 そんな自らに迫る魔の手を気にせず、黒茶を飲む蓮弥。

 

「……なんというか、やっぱりこれは違うんだよな……」

「確かにね。やっぱり優花の店のコーヒーが恋しくなるわよね。あっ、思い出した。蓮弥! あなた優花に私がブラック苦手なのばらしたでしょ!」

 

 忘れていたと思っていたことを蒸し返された蓮弥はどうやって追撃をかわそうか悩む。そこに最近会うようになった人物が通りかかる。

 

「おや、相も変わらず仲がよろしいようで」

「こんにちは、ダニエル神父」

「また会ったな、神父さん」

 

 蓮弥と雫に挨拶を交わしたのは、最近交流を持つようになった聖教教会の神父であるダニエル・アルベルト神父だった。

 

「いいですねぇ、優雅にティータイム。私にもその余裕ができればいいのですが……」

「何かあったのか? 神父さん」

 

 蓮弥は基本的に聖教教会の関係者は仮想敵として対応している。ただこの人と何度か会う機会に恵まれたが、こちらに悪意や敵意を感じない。だからといって油断していいとは言わないが、蓮弥の目的を考えるならそろそろ教会関係者の伝手が必要になると考えていたので内心どう思っているのであれ、フレンドリーに接してきたら応えるようにしている。

 

「いやですね。実は現在、この王都で流行り病が兵士達を中心に広がっているらしいのです。おかげでどこも人手不足で私のようなものにまで担当ではない仕事が回されるようになる始末。正直今は猫の手も借りたいような有様でして……」

 

「流行り病ですか? ……そういえば王都で見かける兵士の数が減っているような……」

 

 雫の言葉で蓮弥は奈落の底に落ちる前を思い出すが、そんなに減ったかどうか判断できない。流石に奈落に落ちる前の兵士の数など覚えているはずがなかった。

 

「幸い命に係わるものではありません。症状としては従来の熱病と変わらないのですが、どうやら感染力が強いらしく。今現在病に臥せっているものは一時的に隔離することで処置をしているのですよ」

 

 蓮弥は日本でインフルエンザが流行っているようなものかと考える。インフルエンザは決して放置するなどして対処を疎かにしていい病ではないが、同時にきちんと医者に掛かり、安静にしていれば基本的に命の危険を恐れる必要はない病だ。けど潜伏期間とかの問題で治っても強制的に一週間休まされる。蓮弥も前世で学生時代にかかった時は、数日で治っても余分に休めてラッキーくらいに思っていたが、社会人になってかかると仕事の締め切りまでの時間を無為に浪費する愚行であることを思い知ったものだ。予防接種は大事なのである。……この異世界に予防接種の概念があるかは不明だが。

 

「だからお二人も気を付けてください。今神の使徒の方々に倒れられるわけにはいきませんので……はうぁああ!!」

 

 ダニエル神父が急に顔を歪める。一体どうしたのだろうか。

 

「なあ、あんた。大丈夫か?」

「急に顔色が悪くなりましたけど……」

 

 ダニエル神父の顔を見るとみるみる青くなっていく。腹部を抑え、なにかに耐えるようなしぐさをする。

 

「す、すみません。急にお腹が。わ、私はこれで失礼させていただきます」

 

 そして腹部を抑えながら席を離れる神父。

 

「……なんか、流行り病が広がってるってのはマジみたいだな……」

「そうみたいね……私達も気をつけないと」

 

 二人は店から出る。そしてその二人を見守る影が複数。

 

 

「このおバカ。あの冴えない神父にあててどうしますか。せっかくシスターアリアが用意してくれた魔法陣でしたのに」

「す、すみません」

「お二人とも話はあとに、次の作戦に移行します」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「む、藤澤と八重樫か」

「よう永山、それに野村も」

「こんにちは、二人とも。今は訓練の休憩中かしら」

 

 

 蓮弥達が王都を歩いている途中、クラスメイトの永山 重吾と野村 健太郎の二人と出会った。蓮弥は基本、クラスでは一匹狼だったのであまり交流はなかったが、永山パーティは大迷宮攻略に貢献してきた、光輝とは違う前線組パーティである。永山は190cmを超える巨漢で地球では柔道部主将を務めていたこともあり、リーダーとしては冷静に考えて動けるある意味光輝とは逆のような人物である。

 

「そういえば藤澤とはこうして改まって話す機会も中々なかったな。今更だがあの時助けてくれたことに感謝する。こうして俺達が無事でいられるのは間違いなくお前と南雲のおかげだ」

 

 そういって律儀に頭を下げる永山。蓮弥は別に感謝されることでもないと内心で思っていた。実際それほどの労力でもなかったわけだし、ついでのようなものだ。

 

「それにしても、あの時のお前と南雲はマジすごかったよな。特に南雲、この世界に拳銃ってミスマッチだと思ってたけど、効果はまじ絶大だったな」

 

 野村が関心するように言う。どうやら永山パーティだけあって素直に称賛できる人間らしい。

 

「それだけに南雲が戻ってこなかったのは正直残念だな。南雲の作るアーティファクトの力があれば、これからの戦いも少しは楽になったかもしれないんだが……」

「確かに楽になったかもしれないけど、永山ならハジメの作るアーティファクトがこの世界の戦争事情を左右するものだということくらいはわかってるだろ。あいつの作る兵器はこの世界では早すぎるんだよ」

「すまない。事情を察してはいたんだが……それに、俺達に今必要なことは別にあるしな」

 

 

 そう、彼らが今更になって自覚したこと。戦争に参加するということの意味。それらを乗り越えるために、今メルドは精神鍛錬を中心に行っているが、正直成果が上がっているかはその時にならないとわからないだろう。

 

「なぁ、藤澤。その……責めてるわけじゃないし、気を悪くしないでほしいんだけど……どう思ったんだ?」

 

 野村が蓮弥に質問する。主語が欠けていたがそれが何のことを指すのか明白だった。

 

「そうだな……俺はその行為自体にはたいして何も感じなかったかな。おそらくハジメも同じだ。何しろ奈落の底ではそんなことで躊躇してたら死ぬしかなかったからな。とにかく必死だったよ」

「そうか……」

 

 場の空気が少しだけ悪くなる。クラスメイトはかいつまんでであるが、蓮弥とハジメが奈落の底でどんな経験をしてきたのか聞かされている。それを聞いたら覚悟云々など彼らの前で軽はずみに言えるわけがない。

 

 

「普通はそんな覚悟なんて必要ないものなんだけどな。けどあえて言うなら、漫画みたいだけど何のために剣を振るうのか。やっぱり割とそれが重要だと思うぞ」

「なんのために剣を振るうのか。……そうだな、もう一度俺達はそれを考え直す必要がありそうだ」

 

 空気が悪いと感じた蓮弥は少し冗談を交えることにする。

 

「案外、雫みたいに剣を振りまくってたら斬れるようになるかもしれないぞ。一意専心っていうしな」

「なによそれ。まるで私が刀を振ることしか能がないみたいに言わないでくれる?」

 

 剣に取りつかれた侍扱いされた雫は反論する。だが今残っている勇者パーティの中でおそらくそれができるのは雫だけとあって中々説得力があると思われる。

 

「はぅあぁぁぁ!!」

 

 突然何もないところから声が響き渡る。それに割と本気で驚いた蓮弥と雫が周囲を警戒する。だがそこにいたのは……

 

「……なんだ遠藤。いたのか?」

「さっきからベクショイッ、ずっとハクショイッ、いたけどねハックションッッ」

 

 急に現れたと思ったら急にクシャミを連発しだした遠藤。見ると寒そうに体を震わせている。

 

「そういえば、神父さんが最近ここらで流行り病が広がってるっていってたな」

「ああ、メルド団長の部隊はさほどではないようだが、他の部隊には結構被害者がいるらしくてな。おかげでメルド団長も俺達の面倒ばかり見ていられないようだ」

 

 

 やはり兵士の間で流行っているということもあり、メルド周辺にも人手不足の影響が出ているらしい。

 

「遠藤君。あなた今日はもう休んだほうがいいんじゃない?」

「ああ、へくしょいッ。そうさせてもらう」

 

 雫のその言葉で遠藤は空気に溶けるように去っていった。蓮弥が気配を探っても影も形も見当たらない。

 

「……なぁ……知らない間に遠藤の奴。影の薄さが極まってないか。俺でも遠藤の気配がわからなくなったんだが?」

「あいつは俺達の中の影の実力者だ。だれがやったかわからない魔物の死体が出た時は遠藤がやったということになっている」

「遠藤マジックってやつな。……あいつ、地球に帰ったら苦労しそうだな」

 

 この世界に自動ドアはないから扉が開かないという心配をする必要がない。地球に帰るまでに治ればいいのだが。

 

 

 蓮弥と雫は少し切ない思いをしつつもその場を後にした。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

「な、なにが起きましたの!?」

「何もないところから突然男性が現れましたわ!?」

「そのおかげで、”意味もなくクシャミがとまらなくなる”闇属性魔法も不発。藤澤蓮弥。なんて運の良い奴」

「次の作戦に移ります」

 

 王都の闇はあきらめが悪い。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あれ、シズシズ。どうしたのこんなところで」

「鈴……あなたこそ……なんというか珍しい組み合わせね」

「少女と野獣って感じだな」

「藤澤……もしかして野獣って俺のことか?」

「それにそこはお世辞でも美女って言うところだよ」

 

 今日はクラスメイトとよく会う日だと思う蓮弥。雫と歩いていたら谷口鈴と坂上龍太郎という珍しい組み合わせとばったり会った。どうやら買い出しに出ているらしく坂上が大量の荷物を抱えている。

 

「それが……メルド団長が他の部隊の応援に行かなくちゃいけなくなったらしくてね。それで私達がその手伝いをやっているというわけだよ。龍太郎くんは荷物持ちかな」

 

 

 どうやら例の流行り病のせいで手が足りないというのは結構深刻らしい。手伝いは任意だろうが、訓練が必要な神の使徒であるクラスメイトの手を借りたくなるほどなら相当だ。

 

「流行り病が広がっているらしいな。お前たちは大丈夫なのか」

「私は何ともないかな」

「俺は風邪とか引いたことないからな」

 

 龍太郎が少し自慢げに言ってくる。確かに風邪とか縁がなさそうだ。

 

「バカは風邪ひかないっていうものね」

「おい雫。それはどういう意味だ」

「別に。あなたがもう少し頭を使える人なら、もうちょっと私は楽だったなと思っただけ」

 

 雫が普段の龍太郎の態度に言いたいことがあったのか結構辛辣だった。龍太郎が脳筋でなければ光輝の面倒を見るのがもう少し楽になったと思っているのだろう。

 

「それでシズシズはデートなのかな。いやー相変わらず熱々ですなぁ。流石すでに熟年夫婦を思わせる二人。ねぇねぇ、いったいどこまで進んだのかな? 私に根掘り葉掘り教えるのだぐへへ」

「ちょっと鈴。なんだがおじさん臭いわよ。ていうかどこ触って」

「これか、これはもう揉ませたんか、うりうり」

「ちょっといい加減にしなさい」

「ウッ! シズシズが修羅やってたときに痛めた胃が……あーあ、おっぱおという癒しが欲しいな~」

「ちょっと、それはずるいわよ」

 

 どうやら見る限り蓮弥が知っている谷口鈴にだいぶ戻ったようだった。最初会った時雰囲気が暗すぎて一瞬だれだか分らなかったのだが、元気になったようで何よりだと蓮弥はいじられている雫を見つつ思っていた。

 

 

 そうしてはた目から見ていた蓮弥だったが……

 

「なぁ、藤澤。今から少しでいいから顔貸してくれないか」

「何か用なのか?」

「まぁな。本当に少しでいいんだ」

 

 何やら相談があるらしく珍しく龍太郎が蓮弥に絡んできた。

 

 

 地球にいたころ、蓮弥と龍太郎はあまり接点がなかった。幼馴染の幼馴染が幼馴染とは限らない。雫と幼馴染だからといって、龍太郎と関わることはあまりなかったのだ。同じ理由で香織とも蓮弥はあまり面識がなかった。雫視点で自分より可愛いと思っている香織に、あまり意中の相手を会わせたくなかったという心理も働いていたのかもしれない。蓮弥が香織に出会ったのは、香織がハジメを追いかけるようになってからだった。

 

 

 そんなわけで基本的にあまり関わらなかった二人だったのだが……

 

「まぁ、別に構わないけど」

「悪いな」

 

 二人は町の外れまで移動する。ここならだれにも見られずに済むという典型的な場所の一つといえる。同時に校舎裏のような意味もあるわけだが、いくらなんでもその可能性はないだろうと蓮弥は思っている。龍太郎は頭がいいとは言えない人物ではあるが、物事の筋は通す人間だ。救われた恩をあだで返すようなことはしない。

 

 

「まずは、あの時助けてくれてサンキューな」

「いや、別に気にしなくてもいいぞ。……で、それが言いたかったわけじゃないだろ」

 

 わざわざ感謝の言葉を告げるだけなら雫たちから離れる必要はないだろう。ならば彼女たちの前ではなかなか言えないようなことがあるはずだった。

 

「そうだな。……単刀直入に頼む。空いている時だけで構わないッ、俺を鍛えてくれないか」

 

 そういって直角に近いくらいまで頭を下げる龍太郎。

 

「……俺はな。あの日実際に遭遇するまで魔人族と戦うなんて楽勝だと思ってた。今までだってなんとかやってこれたんだ、ならこれからも何とかなるだろうなんて思ってよ。……けど結果はあのざまだった」

 

 あの日何もできなかったのは勇者天之河光輝だけではない。いや、心構えさえできていたら突破できる可能性があった勇者と違い、大多数の人間はただ一方的に蹂躙されるだけだった。はっきり言うなら蓮弥達というイレギュラーが現れなかったら勇者一行は間違いなく全滅していたと確信できる。

 

「……お前が光輝に言ってたことも結構刺さった。……きっと俺はどこかで不良と喧嘩することの延長線みたいに考えてたんだな。……だけどこれからはそんなこと言ってられねぇ。俺はバカだからよ。その時になって本当に相手が殺せるかなんて考えてもわからねぇ。だからバカはバカなりにやれることをやりてぇと思ってる」

 

「……お前、俺のことなんとも思ってないのか? 天之河に対して相当ひどいこと言ったと思ってるんだがな」

 

 天之河光輝と坂上龍太郎は幼馴染だ。雫達とは違い男同士ということもあり、光輝に引きずられる形で結構な無茶をやっていたという雫の愚痴を聞いたことがある。だからこそ光輝の尊厳を粉々にするような所業を行った蓮弥に対して腹に抱えているものがあると思っていた。

 

「……正直お前のことはよくわからないけど、あの時の光輝は俺から見てもおかしかったしな。……流石に俺でもあの時のあいつが無茶苦茶言ってたのはわかる。まぁ、俺もあいつと同様、香織が南雲のことを好きだったことに気づいてなかったんだけどな。それにだからこそ、もし今度あいつがおかしくなるようだったら止めてやるのは俺の仕事だと思ってる」

 

 勇者の後ろについていくのではなく勇者に並び立てる力が欲しい。

 

 龍太郎の熱意は伝わった。それに対し蓮弥は。

 

「……あまり教えられることはない。……ないけどうまくいけばお前の力になれるかもしれない」

「本当か! すまん。恩に着る!」

 

 その言葉にやっと頭を上げる龍太郎。もともと蓮弥は龍太郎のことが嫌いではない。この世界にきてからも体を鍛えることにストイックに取り組んできたのであろうことは、以前より質も量も増した筋肉を見ればわかる。そんな奴になら少しくらい手助けをしてもいいだろうと蓮弥は思う。

 

「けどそんなことならわざわざこんなところで言う必要ないだろ。別におかしなことじゃないし」

「それは……こういうのは隠れてやるから意味があるんであってだな……それに、なんていうかな……俺にも意地があるっていうか……」

 

 妙に歯切れの悪い口調になる龍太郎。蓮弥は龍太郎の目線がちらっと鈴をお仕置きしている雫の方を向く。いや、雫の方をというよりは……

 

「なるほどな……」

「な、なんだよ」

「いや、別に……」

 

 どうやらそういうところでもクラス内の事情が変わりつつあるらしい。ちらちら他にもそれらしい気配はあったし、今は魔人族やらなんやらでそれどころではないかもしれないが、無事に地球に帰還することができれば、たぶんクラス内でカップルが激増するに違いない。

 

 トゥンク

 

「……なあ、藤澤……」

「なんだ? どうした坂上!!?」

 

 雫たちの方向を向いていた蓮弥が振り返ると、いきなり俗にいう壁ドンされる蓮弥。正直意味がわからなさすぎて完全に硬直してしまう。

 

「おまえってさ、……良く見ると結構可愛い顔してるよな」

「さ、坂上? ど、どうした?」

 

 意味がわからない。ついさっきまで別の恋愛フラグを匂わせていた龍太郎に何があったというのか。

 

「もういいよな。我慢できねぇ」

 

 やばい。確実におかしい、蓮弥は強硬突破することを視野に入れ始める。正直先ほどまで見直していた株価が一気に下がりそうだ。そして、蓮弥の背筋に冷っとする感覚が立ち込める。

 

「はっ!? ……俺は一体何してたんだ?」

「何してたんだ? それは、こっちの、セリフなんだけど」

 

 はっとなった龍太郎と共に蓮弥が横を向くと、そこには冷笑を浮かべる雫と、何かクラスメイトのとんでもない場面を見てしまったという顔をした鈴の姿があった。

 

「ねぇ、何してるの龍太郎? 返答次第では、ちょっとお話が必要だと思うわ、私」

「いや、ちょっとまて、俺にも何が何だか」

「……あの、龍太郎君。その……そういうのも人の個性だと思うけどさ。藤澤君はやめたほうがいいと思うな、私」

「た、谷口!?」

 

 そこでようやく鈴がいることを知った龍太郎が青くなる。そして……

 

「ち、違う。俺は、違うんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 魂のシャウトを響かせながら全力で逃走した。蓮弥は哀れすぎて何も言えない。とりあえず今度会った時には、例の約束と共にフォローしてやることに決めた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 裏路地に潜む乙女たちは本日何度目かの失敗に頭を抱えていた。計画では今頃藤澤蓮弥はお姉様の前で大恥をさらして好感度がダウンしていたはず。しかし今なお、彼女たちの計画をまるで知っているかのように、上手くいかない。

 

「……また外しましたわね」

「先ほどの”男同士のイベントシーンが起きる”闇属性魔法は傑作だったのですが」

「いかがなさいますか。シスターアリア」

「……いえ、あきらめるのはまだ早い。まだまだ闇属性魔法のバリエーションはあります。なんとしてでも、お姉様をあの男の魔の手から救い出さねば……」

 

 そう、こんなところであきらめるならソウルシスターズをやっていないのだ。必ずやあの憎っき類人猿からお姉様を救出するのだ。そして、そして。ゆくゆくはお姉様とのワンナイトラブを……

 

 

 決意を新たに再び活動を再開しようとする彼女達だったが……

 

 

 

「……なんというか。うすうす嫌な予感はしてたけど、案の定そういう展開か」

「! 誰ですか!? ってなッ!?」

 

 ソウルシスターズの面々が声のした方向を振り向くと、そこには彼女達にとっての怨敵。藤澤蓮弥が佇んでいた。

 

「そんな、なぜここが?」

「今日起こった妙なことはあんた達の仕業なんだろ。流石にあれだけ魔力を向けられれば逆探知もできるよ。さて、正直これ以上やられるのは鬱陶しいからここで対処させてもらう」

 

 蓮弥は正直うんざりしていた。なぜならこの手のことは今回が初めてではないのだ。

 

 

 あれは忘れることもない。蓮弥と雫が高校に入って数ヵ月が経過したころ。その頃の蓮弥と雫はクラスこそ別だったが、普通に休み時間とかは例の鬱陶しいキラキラ男の目を掻い潜って密会していたのだ。雫としては小、中と別の学校だったのでようやく同じ学校になれてうれしかったのだろう。結構蓮弥にべたべたしていたのだ。

 

 

 そしてそれが悲劇を生んだ。その時点で既に相当な人数がいたと思われるソウルシスターズの面々が蓮弥死すべしと言わんばかりに行動を開始。時と場所を選ばず、ソウルシスターズの女子複数を蓮弥に接触させ、抱き着いている写真などをSNSで公開したのだ。

 

 

 その結果、一時期多数の女に粉をかけるたらし男として話題の人にされてしまった蓮弥は、SNSの怖さと女の怖さを同時に味わった。

 

 

 人の噂は七十五日とは言うが、逆をいえば七十五日経つまでは噂の人であり続けるということだ。学校中で蓮弥の女性関連での悪い噂は尾ひれを追加して広がっていった。居心地が悪いことこの上ない。

 

 

 ちなみに人の目線から逃げるために、常連になりつつあったウィステリアでせめてもの癒しをと思い、ブラックコーヒーを頼んで飲んだら、一口で吹き出したことがある。カップを見ると底にたまるほど砂糖が入った激甘コーヒーになっていた。

 

 

 ちらっと店員をやっていた優花の方を向くとぷいっと顔を反らされ、明らかにご機嫌斜めであることが伝わってくる始末。おまけに常連の覆面刑事っぽい強面のおじさん方が「俺達の優花ちゃんが出したコーヒーが飲めねぇのかシャバ僧……」みたいな感じで睨んでくるので文句も言えなかった。

 

 

 結局その事件──蓮弥は義妹(ソウルシスターズ)襲撃事件と勝手に呼んでいる──は裏で動いていたらしい雫とその協力者の手により、迅速に鎮静する方向に向かい、途中で夏休みを挟んだこともあり、二学期には蓮弥の疑いは晴れ、噂が消えることで終息した。

 

 

 それ以来、雫とは学校内では極力仲がいいようには見せないようにすることで雫と合意した。かなり渋っていた雫も今回のことは流石に想像だにしていなかったらしい。学校以外ではいつものように接することを条件にその蓮弥の提案を受け入れた。これが二年になっても蓮弥と雫の仲が噂になっていなかった理由である。

 

 

 もっとも、異世界に来ても雫の義妹(ソウルシスターズ)が生まれる因果は消えず。こうして第二次義妹(ソウルシスターズ)襲撃事件といっていい事件が起きてしまったわけだが。

 

 

 動揺しつつもどうやら中心人物らしい、王女の側付きの騎士として見たことがある──蓮弥としては気のせいだと思いたい──女性騎士が蓮弥に向けて啖呵を切る。

 

 

「くっ、藤澤蓮弥。ここであったが百年目、こうなった以上もう手段は選びません。……皆さん、備えてください。”レギオン”を使います」

「シスターアリア!? まさかあの禁術をここで!?」

「あれはこちらにもダメージがいくからと今まで封印されていらしたのに」

「この相手に今更手札の出し惜しみはできません。なら多少の犠牲はやむなしです」

 

 蓮弥は警戒レベルを上げる。今女性騎士はレギオンと言ったがそれを聞いて思い出すのは先日の教会の依頼で倒したあの魔物群だ。

 

(しまった。油断してた)

 

 今までの悪戯とギリギリ言っていい出来事から大したことはできないと無意識に気を抜いていた。もしかしたらこれが狙いだったのかもしれない。もしこの王都でレギオンが発生したら多大な被害が出てしまう。

 

 

 蓮弥が十字剣を形成し、攻撃に移ろうとしたその時、それは闇の中より現れた。蓮弥は最大限出てくるものを警戒する。だがそれの正体を知った時、背筋が凍った。

 

 

 身体が震える。無理だ、あれは絶対無理だ。

 

 

 そう、それは人類がなぜか無条件で拒否する生物。一説によると、寒い地域から比較的暖かい地域に移り住んだ住人がそれを初めて見たとき、狂ったように叩き潰したという。

 

 

 その名はゴキブリ。一匹いたら三十匹いると思えと言われているがこれはそんなレベルではないだろう。まるでこの町中のゴキブリを集めたかのような悪夢の光景。それが女性騎士の背後をブンブン飛んでいた。

 

「ふふふ、流石に恐れをなしたようですね。これぞ闇属性魔法禁術、レギオンG。さあ、この黒い悪魔に埋もれてしまいなさい」

 

 どうしよう。蓮弥は本気で悩んだ。正直全部倒すだけならできるといえばできるだろう。しかし、蓮弥の作る十字剣はユナそのものでもある。正直に言えば十字剣(ユナ)であれに触れたくはない。

 

 

 蓮弥が逃走を選択しようとしたその時。

 

 

「お待ちになってください」

 

 蓮弥が振り返り、ソウルシスターズが蓮弥の奥を見る。そこには横一列に並ぶ職業もバラバラの複数の女性が立っていた。

 

「蓮弥様、ここは私たちにお任せを……」

「何人たりとも、あなたと雫様の邪魔はさせません」

「何者です!?」

 

 まるで悪役のような返し──蓮弥からしたら悪役以外の何者でもないわけだが──を行うソウルシスターズ達に彼女達が応える。

 

「我らはソウルシスターズのもう一つの姿」

「雫様の剣士としての技量に感服し、同時に蓮弥様といる時のただの少女の笑顔に見惚れしもの」

「そう、我らは……『雫様と蓮弥様を幸せにし隊』!!」

 

 仁王立ちになりながら堂々と宣言する女性たち。

 

「えーと、確かニアさん……だったか? 雫に付いてた……」

「はい、ご挨拶が遅れて申し訳ありません、蓮弥様。無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。あなたが帰ってきたことでどれだけ雫様の笑顔が増えたか……」

「魅力増し増しです」

「レンシズこそ至高。異論は認めない」

「けどシズレンもまた良きものなり」

「ぶっちゃけ蓮弥様だけでも十分魅力的です。……もちろん雫様の恋人であることが前提ですよ」

 

 次々雫と蓮弥を称えるその女性たち、その中心にいる雫付きのメイドであるニアを見て、蓮弥はそういえばそんなこともあったなと過去を思い出す。

 

 

 過去、蓮弥がソウルシスターズに追い詰められた時、蓮弥に助け舟を出したのもまたソウルシスターズだったのだ。

 

 

 藤澤蓮弥という人間は一匹狼気質なところこそあるが、根は善人であり、顔立ちも整っている。つまり、普通に彼が気になる女の子は多数存在した。雫のお姉様オーラにやられたソウルシスターズが、蓮弥の魅力に気付くことで誕生するソウルシスターズ。

 

 

 雫様は蓮弥様の側にいる時こそが一番美しい。

 

 二人が幸せになることこそが自分達の至高の幸せ。

 

 

 そう言って憚らない集団こそ、雫様と蓮弥様を幸せにし隊。別名:ソウルシスターズ・ライトサイド。

 

 

 その集団に裏で暴走するソウルシスターズの情報を教えられた雫が、彼女たちにお仕置き──もっとも一部にとってはご褒美だったみたいだが──を行うことで以前の事件は鎮静化した。

 

 

 ちなみにだが、その当時の暴走する方のソウルシスターズの首領はあの天之河の妹であり、幸せにし隊のボスが蓮弥の妹だったと知った時、蓮弥は頭を抱えた。

 

 

 ちなみにどちらの組織が雫に優遇されているかなど、聞くまでもないだろう。

 

「おのれぇぇ、我らの邪魔をする背教者がぁぁ!!」

「お姉様の付き人という立場であるという時点で万死に値するというのにぃぃぃ!!」

「ここで決着をつけてくれるぅぅ!!」

 

 秘密結社ソウルシスターズの呪いの言葉を受けながらも幸せにし隊が対ゴキブリ用フル装備を装着しつつ、対峙する。

 

「雫様にとって、誰の側にいる時が一番幸せであるのかなんて、見れば明白でしょうに。己の歪んだ欲望を満たすことしか考えないその醜い所業。今度こそ、ここで終わらせます」

 

 

 そして二つの集団は激突する。

 

 ここに、第二次義妹襲撃事件、もしくは第二次聖妹戦争の幕は上がった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 長々と語る気はないので結論から語ろう。

 

 王都中にゴキブリの被害を出したその事件は、脳の血管が切れんばかりにぶち切れたクゼリー騎士、そしてメイド長の登場により、強制的に鎮圧された。

 

 

 ソウルシスターズの代表と思われるレギオンGの術者である女性騎士シスターアリアは姫様付きの護衛騎士を解任、そしてしばらくの謹慎処分が下されることになり、謹慎が終わった後もクゼリー騎士により徹底的かつ地獄のスパルタ教育が施される予定だ。

 

 

 同じく、幸せにし隊のリーダーであった雫付きのメイドであるニアは事情を配慮し、酌量の余地はあると認められたものの、同じく暴走の責任を取らされ、しばらく実家にて謹慎するようにメイド長に命じられたのだという。

 

 

 そのことを知った雫はニアに申し訳なさそうにしていたが、ニアの方は何も後悔していないという態度を雫に示した後、再び戻ってくると言い残し、翌日素直に実家に帰省した。

 

 

 今回の騒動に蓮弥と雫は思う。

 

「雫……お前……本当に自重しろよ……色々と」

「…………私のせいじゃないもん……」

 

 なぜこうなった。

 二人してため息を吐くことになったのだった。




>流行り病
兵士を中心として流行している病。熱が出て無気力になるという命に関わらない症状だがすでに兵士300人以上かかっているので隔離処置を行なっている。一部メイドにも移りかけたが、この事件により王都を離れることで病から免れたものもいる模様

>龍太郎
脳筋は脳筋なりに考えて、力がないとなにも意思が通せないという脳筋理論に到達する。しかし基本的にこの世界自体が脳筋理論がまかり通る民度が低い世界なので間違ってはいない。ある理由によりユエに一目惚れするイベントは起きていない。

>雫様と蓮弥様を幸せにし隊
こちらは真っ当なソウルシスターズ。雫の想いを汲み取り、それとなく雫にアドバイスを送ったりしながら、蓮弥と雫がイチャイチャしているところを微笑ましく見守っている集団。地球にも存在しており、彼女達のお陰で雫は過激派の動きを察知することができた。欲望センサーとはよくいうもので過激派より遥かに雫の好感度が高く、いい思いをしているため、ダークサイドとはわかり合うことはない。ユナに関しては思うところがないわけではないが雫が容認しているのであればあえていうまいというスタンス。

>レギオンG
G生物を操り、黒い集団として使役する闇魔法の禁術。蓮弥は二度と遭遇したくないと思っているが、彼は知らない。森の方でもっと凄いものが待ち受けていることに……


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