ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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さあ、インフレバトルの始まりだ。


神々の戦い

 蓮弥は雫の前に出る。

 

 目の前には、ユナが倒れるきっかけにもなった神の使徒、フレイヤが光悦とした笑顔を蓮弥に向けて、立ちはだかっていた。

 

「ああ、会いたかったわ藤澤蓮弥。さぁ、私と踊りましょう。今度こそ、私はあなたを逃がさない」

 

「俺は会いたくなかったし、踊る気もないけどな」

 

 本当に冗談ではない。蓮弥としては目覚めた後、雫がいないことを確認した後、雫が残した魂魄魔法の痕跡を辿ってここまで来たのだ。結界が張ってあることから雫が戦っていると思った蓮弥が急いで駆け付けてみたら、かつての宿敵が待ち構えていた。

 

 

「とはいえ放置する気もない。使徒フレイヤ……、あんたにこれ以上関わるつもりはない。だからここで終わらせてやる」

「ずいぶん余裕を見せるのね。私は、かつてあなたと戦った頃の私ではないわよ」

 

 そんなもの承知の上だ。使徒フレイヤの力が前回戦った時より遥かに増しているのは、フレイヤの中に同種の使徒の魂が複数存在していることを感知したことで否が応でも理解させられる。どうやら自分と似たような相当無茶な自己改造をやらかしたらしい。

 

 

 フレイヤを気にしつつも今度は雫の方を見る蓮弥。一目見てどうやら雫の方でも大きな変化があったらしいことは、感じる気配が明らかに変わっていることからもわかる。だがこれから行われるであろう戦いではやや力不足と言わざるを得ない。

 

「雫、悪いけど安全なところまで退避してほしい」

 

 巻き込むと危ないとは言わなかった。雫とてそれは承知だろうとわかっていたからだ。

 

「……大丈夫なのよね?」

 

 いなくなったりしない、その約束を守る気はあるのかと問われる。無論蓮弥はもう雫との約束を破るつもりはない。

 

「ああ……」

「……気をつけて」

 

 蓮弥の短いながらも、はっきりとした返答を受けた雫は足早にこの場から撤退する。再び静寂に包まれるフィールド、これでこの場に残るのは()()

 

 狂った神の使徒と狂わされた神の使徒が再び対峙する。

 

「追わないんだな?」

 

 雫は蓮弥の弱点足り得る。かつて町ごと人質にとったフレイヤなら雫を狙うという選択もあるかもしれないと思い、警戒していたのだが、フレイヤは追う気配すら見せなかった。

 

「必要ないわ。あなたとは一対一で戦わないと意味がないもの」

「……しばらく見ないうちにずいぶん変わったんだな」

 

 以前遭遇したフレイヤは命令で動く機械を思わせるような存在だった。しかし今は違う。

 

 人のように粘っこい情動。向けられる純粋な殺意。

 

 以前にはなかった感情というものを蓮弥は使徒フレイヤからはっきりと感じていた。

 

「……あなたがいけないんですよ。私を壊したりするから……」

 

 まるで熱に浮かされたような表情で語るフレイヤ

 

「あの日以来、あなたの影が私の中から消えない。憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて……イメージの中では私は何度もあなたを殺したわ。焼き殺したし、斬り殺した。圧殺し殴殺し屠殺し轢殺した。……その想いの果てにあなたを壊すことに、生きがいを見出す自分に気づいてしまった。……どうかしら今の私の姿は? 力もそうだけど装いもそれらしく揃えて見たのだけれども……」

 

 蓮弥は改めてフレイヤを見る。ユエにそっくりの顔は変わらず、装飾、仕立て、デザインはどこかの軍服を思わせるものになっており、正直に言えばかっこいいと蓮弥は思うが……

 

「あんたが着る時点で台無しだな」

 

 どれだけ見た目を見繕っても、こいつの中身は変わらない。どす黒い狂気と呪いで満たされている。

 

「つれないわね。……いいわ、否が応でもその気にさせてあげる!」

 

 フレイヤが翼を広げて上空に浮かび上がる。高まる魔力、揺らぐ空間に辺りに蔓延する威圧。それはすなわち開戦の合図。どうやらもう我慢できなくなったらしいと蓮弥は判断する。

 

 

「そうだな。もうここで終わりにしようか。……いくぞ、()()

『術式補助を始めます。……行きましょう、蓮弥』

 

聖術(マギア)8章7節(8 : 7)……"界神昇華"

 

 

 蓮弥の元に相棒は戻った。

 

 なら、何を恐れる必要がある? 

 

 蓮弥は強化魔法を施し、同じく空中まで飛び上がる。

 

 

 

 二刀の大剣と十字剣が交差する。

 

 今宵この場所に、かつての神話の戦いが蘇る。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「そうね。まずはおさらいと行きましょうか!」

 

 両手の大剣を高速で振るうフレイヤ。その勢いは以前とは違う。

 

 まさに疾風迅雷。

 

 縦横無尽に振るわれるそれは、ただ振るうだけで大気を切り裂き、猛然と蓮弥へと迫る。

 

 

 たいして蓮弥は背中の四刀と両手の二刀にて対抗する。すでにユナにより各十字剣に属性付与は済ませてある。一振りごとに大気が燃え、凍り付き、砕けて消える。両者とも地上で振るえば、それだけで大惨事になりかねない一刀を全力で振るう。

 

 

 空中にて使徒二人による高速の攻防で火花が飛び散る。

 

 

 高速で飛び回り、時には頭上から、時には相手の背後から剣を振るい相手を切り裂くために行動する。

 

「なるほど、あなたも前より強くなってるわね。そうでなくちゃ面白くないけどッ」

 

 

 背中の黄金の翼より羽の弾丸が飛び散り蓮弥に迫る。

 

 数百に上るであろう黄金の弾丸が上空を踊り、蓮弥に襲い掛かる。

 

『蓮弥はそのままフレイヤを。あれは私が対処します』

 

聖術(マギア)1章5節(1 : 5)……"聖焔操火"

 

 蓮弥の周りにスフィア状の蒼炎が旋回する。それは数を増やしていき、最終的に百単位まで増殖したそれらを、ユナはフレイヤの放った輝く弾丸目掛けて撃ち放った。かつて仲間である優花も似たようなことをしたことがあるが、それとは数と精密度で差がある。フレイヤの意思により、自由自在に飛び回る輝く弾丸を、同じくユナの意思により自由自在に飛び回る炎の弾丸が一発も漏らすことなく撃ち落としていく。

 

 

 かつてのユナもこの聖術を使用することだけはできたが、この術は聖術を使った経験を喪失していたユナでは使いこなすことができなかったものの一つなのだ。だがユナの記憶、かつて十二使徒として悪魔や魔獣と戦っていた頃の記憶を取り戻した今のユナなら十全に使いこなすことができる。

 

 

 ユナを信頼してそのまま蓮弥はフレイヤに迫る。フレイヤも迎撃するが、自分で羽を操っている都合上、どうしても反応が遅れてしまう。

 

 

 蓮弥の十字剣による攻撃に対処するため、一瞬動きが止まったフレイヤの眼前で回転を行い、背中の四刀を束ねた十字大剣を叩きつけることで神山まで吹き飛ばす。

 

 フレイヤが叩きつけられたことによる衝撃と轟音によって空間が震える。ファーストアタックは蓮弥が取った。だがその蓮弥の表情は厳しい。なぜなら……

 

「わかっているはずよね。私にこの程度の攻撃など通用しないことを……」

 

 瞬間移動かと見まごうほどの速度で上空に帰還したフレイヤは目の前で傷を跡形もなく治してみせた。

 

 

 自動再生。

 

 

 ユエと何らかの関わりがあると思われる目の前の使徒が持つ固有魔法。この魔法がある限り、フレイヤは首を切り落としても復活してくる。

 

「さて、前哨戦はこれまで。そろそろお互い温まってきた頃かしら? ……なら、少しペースを上げていくわよ」

 

「”蒼天”」

 

 フレイヤが魔法を行使する。ユエも使用する炎属性上級魔法だが、以前とは規模が違う。

 

 直径二十メートル以上。一瞬で創成されたその小型の太陽は、地上に落ちれば近辺を焼き尽くして余りあるだろう。

 

 フレイヤが手を下ろす。迫る小型の太陽に対して蓮弥が取ったのは……迎撃だった。

 

聖術(マギア)2章6節(2 : 6)……"聖浄瀑布"

 

 同じく上空に何万トンの水が圧縮された球体が出現し、蒼天に対して弾けた。

 

 膨大な質量を伴い、落ちる聖水は小型の太陽を一瞬で鎮火させ、辺り一面を一瞬で高温の水蒸気にて覆いつくした。

 

 

 

 雲一つない空に雨雲が立ち込める。二人の戦いはたやすく天候すら変えて見せる。

 

 その間にももちろん戦いは続く。

 

 フレイヤは次々と魔法を展開して機関銃のように撃ち放つ。一発一発が最上級魔法クラスの威力を誇る魔法の高速展開。

 

 炎の波が蓮弥を焼き尽くそうと空を覆いながら迫る。

 

 氷の渦が蓮弥の魂まで凍らせようと舞い踊る。

 

 土の砲弾が、風の大竜巻が、その他多種多様の魔法の雨が蓮弥に向けて放たれる。

 

 その攻撃に対してユナが術式を展開し、蓮弥が迎撃する。

 

 時に十字剣に纏わせた風の刃で、時に雷のレーザーで、魔法を撃ち落とし続ける。

 

 

 空間に広がり続ける暗雲。場に漂い、溢れ出す濃密な魔素(マナ)。ユナが所持し、フレイヤが目覚めたスキル『魔素生成』。これは魔力を使う側から、与える側に至るほどの神秘を蓄えたものにのみ行使可能なスキル。ユナはとある宗教が二千年かけて積み上げた神秘と自身の格で、フレイヤは神エヒトの信仰と多数の使徒の吸収によって。

 

 

 ユナとフレイヤのスキルによって吐き出された魔素(マナ)は周囲の環境を変える。すでにこの空間だけで真の大迷宮に匹敵しうる魔素(マナ)濃度を備えた一種の異界となっている。そして両者共にそれを用いて戦闘を行い、さらに攻防の規模が激しくなっていく戦場。それは使徒アハトや今の雫ですら介入できないレベルにまで発展していた。

 

「アハハハハハッッ! 楽しい、楽しいわ。これだけでも待った甲斐があるというものね。……だけど足りない。以前よりその子の力を引き出せるようになったようだけど……私が見たいのはその子の力じゃないッ!」

 

 フレイヤは語る。自分が見たいのはユナの力ではない。あの時自身を圧倒した蓮弥の力なのだと。

 

「それを……私に見せて頂戴ッッ!!」

 

 今までの攻防により、空間に広がっていた巨大な暗黒の積乱雲から膨大な魔力が出現する。それは蓮弥も見たことのある光の龍。

 

雷轟の光龍(サンダーボルトドラゴン)!!」

 

 溢れ出していた周囲の魔素(マナ)を喰らいながら成長したその龍は、空を覆いつくすレベルの巨大さを誇る。類似しているユエの雷龍と比較しても桁違いの大きさと力だった。

 

「ユナッ!!」

 

 蓮弥も準備を行う。同じく周囲の魔素(マナ)を取り込んで発動したのは、炎の大剣。

 

聖術(マギア)1章7節(1 : 7)……"神浄紅炎"

 

 蓮弥はその聖術をミレディの時同様、六刀を束ねて作られた大剣に集める。集められた炎が圧縮され、いかなる物質をも焼き滅ぼす焔の刀と化した超巨大ビームサーベル。

 

「ハアァァァァァァァッッ!!」

 

 襲い来る巨大な龍に炎の大剣を叩きつける。

 

 響く衝撃に荒れ狂う大気。天井知らずに上昇するあまりに膨大な魔力の衝突で空間が明確に歪み始めた。

 

「くうぅぅぅぅぅッッ!!」

 

 追い詰められているのは蓮弥だ。膨大な魔力を用いているとはいえ、相手のそれには及んでいない。激しい戦いによって生まれた巨大な積乱雲。相手は周囲の環境まで利用して魔法を構成している。ユナは同属性では不利と判断して、攻撃力極振りの一撃を込めたのだがそれでも届かない。

 

 

 蓮弥は押しつぶされる直前、ほんの少しだけ()()()()()()()()()()……

 

 空間が光に満ち溢れ、今までの攻防でも形を保ち続けたフレイヤの強固な結界を粉々にするほどの大爆発が神山上空にて発生した。

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥は吹き飛ばされたものの、なんとか体勢を整える。一種の賭けだったが、どうやらほとんど威力を相殺できたおかげで大したダメージは負っていない。

 

 

 使徒フレイヤの力は蓮弥の想像を遥かに超えていた。冷静な判断を下してみれば今の状態では勝ち目は薄いという結論が出てしまう。

 

 

 となると蓮弥に取れる選択肢は、おのずと一つだけになり……

 

「……使うしかないのか……」

 

 今の蓮弥にはこの状況を覆す手段がある。神山攻略の折に取り戻したもの。以前は使いこなせなかった力。

 

 だがその力に対して、蓮弥はある不安要素を抱えていた。

 

 

「……なるほどよくわかったわ……ここまでやっても本気を出すつもりがないということが……」

 

 目の前にフレイヤが出現した。おそらく怒気だろう気配が漂っている。

 

「……ねぇ、わかってる? 私はこの戦いを始めてから……まだ半分も力を出してないってことに……」

「なッ!」

 

 その言葉に驚く蓮弥。今見た力でも以前より遥かに強化されているにも関わらず。まだ全力を出していなかったというのか。

 

「本当はあなたが、あの力を発揮した後で披露する予定だったのだけど、気が変わったわ。ちょうどギャラリーも増えてきたようだし……」

 

 その言葉に蓮弥は眼下を見下ろす。

 

 

 ハイリヒ王国王都の街並みに次々と明かりが灯っていく。フレイヤの結界が破壊されたことにより、ついに近辺で起こっている異常事態を察したのだ。同じく神山のほうでも多くの気配が動くのがわかった。

 

「なら見せてあげるッ、私の力をッッ!!」

 

 

 さらにフレイヤは高度を上げる。高まる魔力に伴い、フレイヤが祈りの唄を奏でる。

 

アクセス──我が(シン)

 

 それは神との別離の証、自身が罪にまみれていることを認める行為。それは皮肉にも蓮弥の知るある物語の詠唱に酷似していた。

 

我が前に咎人が現れり──黒衣の使徒、振るわれる十字架──かの者により、我は地上へと墜落する──

 

 奏でられる詠唱。高まる威圧により何者も近づけさせない孤高の歌姫が自身、或いは世界に対して問いを投げる。

 

崩れ落ちた我が身に何が残るのか──我が主は我を見放し、祝福を与えてはくださらない──

 

 神エヒトは自ら創造した神の使徒に感情を与えなかった。正確には個体差はあれど、全くないというわけではないが、ある一定レベルの激情を持つことがないように、神エヒトにより設計されている。

 

ならばこの身に残るのは呪いなり──なればこそ立ち上がれ、呪いを衣として身に纏い、同胞たるものを腑に、骨に刻みこめば、汝が纏う呪詛の毒は、主の領域をも犯すものになる──

 

 それは全ての神代魔法を生まれた時から組み込まれている使徒に対して取られた安全装置。万が一にも神の領域を犯すものが現れないように行われた備え、だがこの時、枷を壊した使徒は今、神の領域にまでその翼を広げ、飛翔する。

 

さあ、見届けるがいい愚昧なる民達よ、今ここに──至上の天使は降臨する──

 

 ドクン

 

 空間が震え、それが姿を現す。

 

 愛しい宿敵を迎えるのに無様な恰好を見せることは許されない。なればこそ想う。至上に至った自分の姿を。

 

 あなたを殺すにふさわしい、至上の天使になりたい。

 

 その『渇望』によって生まれるそれは、この異世界トータスの深奥にして奥義。神代魔法の真髄。

 

概念魔法──

 

 その力を振るうものを、神は『到達者』と呼んだ。

 

堕落せし至上の大天使(プリームス・ルシフェリア)

 

 詠唱(祈り)は完成し、今ここに至上の大天使が降臨する。

 

 フレイヤの変化は劇的だった。

 

 一番目を引くのはやはり背中の翼だろう。翼はその数を増やし、三対六翼の黄金のそれがフレイヤの神性を高め続ける。頭上に天使の輪を備え、神々しいオーラを纏うその姿は、まさに聖書に記された大天使そのもの。そして同時にフレイヤの背後に同じく純白の三対六翼を携えた巨大な天使が出現した。

 

 

 見上げるほど巨大な大天使はとても堕落した天使の物とは思えないほどの神聖さを醸し出している。

 

 

 感じる力の桁が違う。これはまさしく今までとは一次元上にある力だと強制的に理解させられる。

 

「さあ、行くわよ。そう簡単に死なないで頂戴ッッ!!」

 

 至上の天使が、異世界の使徒に対して、牙を剥いた。




ついに始まった大インフレ時代。その到来の先駆け、先陣を切ったのは使徒フレイヤ。原作でいう五巻で掟破りの概念魔法の発動。
注意:本作品独自の設定として、永劫破壊の創造位階とトータスの概念魔法は同位階であるとします。

メアリー「ピンポンパンポン♪ マイクテス、マイクテス。えー、皆様に突然ですが、神座世界を取り入れたことにより、トータスの概念魔法についてのルールが変更になりました。少なくとも初回は概念魔法使用に伴う詠唱と魔法名は……必須となります」

ハジメ「!?」
作者「!?」

メアリー「ですので、元の世界に帰りたかったり、バトルを盛り上げたいのなら、キレッキレの厨二詠唱と香ばしい厨二ネームを内側の十四歳を刺激して頑張って作ってくださいねー」

ハジメ「!!?」
作者「!!?」

次回、ヤムチャ視点

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