ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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第四章完結

というわけでエピローグになります。

幼馴染の本音。ついに出会う二人。そして……

それではどうぞ。


新たなる装いと旅立ち

 王都を見渡せる高台に光輝は佇んでいた。彼はもう間もなく昇ろうとしている朝日を見ている。いや、見ているというよりただ視界に入れているだけといった方が正しい。整った顔は暗く沈んでいて普段の輝きからは程遠い有様だった。雫はそんな光輝の側に近づく。そして光輝も側にきた雫に気づいた。

 

「……すごいよな」

 

 光輝がぽつりと言葉を漏らす。それは眼下に広がる景色を見て言っているのは明白だ。

 

 

「異端者認定されたってのに藤澤はみんなから女神の剣扱いだ。みんな藤澤に期待している。王都の民もクラスメイトも……リリィだって……これじゃあ、どっちが勇者なのか分らないな。……あいつは此処に残って戦わないのに」

 

 ぽつりと漏らす光輝の声には彼自身も理解できない感情が見え隠れしていた。今まで光輝は何をやるにしても皆の中心にいて、皆が彼に注目し、彼の行動を褒め称えてきた。もちろん彼がその期待に応えられるように努力を重ねてきたこともあるが、要は彼の人生において彼は常に主人公だった。

 

 

 だが今回の戦いで光輝は何もできなかった。敵を前にしてもただ立っていることしかできなかった。その無力感が光輝の中に残り続け、その光輝にとっての未知の感情は光輝を昂らせる。

 

「あいつ、最後にリリィにお前達を救うつもりなんてないなんて言って……俺だったらもっと気の利いたことを言ってリリィを安心させてあげられた。きっとあいつは本当にこの世界の住人のことなんてどうでもいいんだ。……駄目だ。やっぱりどう考えてもあいつに世界を、みんなを救えるわけがない。やっぱり俺がやらないと。俺が勇者なんだ。だからまずは力がいる。……雫。俺に今まで以上に厳しい稽古をつけてほしい。今は雫より弱いかもしれないけど必ず追い付く。いや、雫より強くなって雫を守って見せる。そしてみんなに示すんだ。藤澤や南雲でなくてもやれるんだってところを。そしたらきっと……」

 

 光輝の言葉が止まらない。だけど雫は止めなければならない。光輝の話を聞きにきたのではないのだから。

 

「光輝……私の話を聞いて頂戴」

「んぐっ……」

 

 光輝の言葉を強制的に止める。

 

「光輝、まずは私はあなたと一緒に稽古はできないわ。……私は蓮弥についていくから」

 

 その言葉に光輝は目を見開いて驚く。そして言葉を出そうとするも空気ばかり出てきて言葉になっていない。

 

「お世話になったこの国の人達には挨拶は済ませたわ。クラスのみんなもわかってくれた。後はあなただけ。だから日の出と共に蓮弥と一緒に旅に出る」

 

 光輝は何度も言葉をかけようと、行動に移そうとするも全て封じられる。

 

「いいわ光輝、聞かせて」

 

 あえて雫は、光輝が言いたいことを言えるように許可を出す。

 

「行っては駄目だ雫。あいつは異端者認定されているんだぞ。あいつの側にいると危険な目にあうことになる」

「……」

 

 雫は何も言わない。ただ光輝の目を見つめ続ける。

 

「それに火のないところに煙は立たないというし、あいつの使う力は本当に神代魔法なのか? 同じ神代魔法を使う南雲とも差があったように思うし、もしかしたら本当に邪神と契約してるのかも」

「……」

 

 雫はそれでも何も言わない。ただ目で光輝に語り掛ける。

 

「……あいつは簡単に人を殺すような奴で……だから……」

 

 光輝も流石にわかっていた。こんなことを言ったって雫は止まらない。雫の瞳が語っている。本当に言いたいことはそれなのかと。

 

「………………頼む……いかないでくれ……俺には雫が……必要なんだ」

 

 それは今までの捲し立てるような語りではない、必死になって絞りだすようなか細い声。精一杯吐き出した天之河光輝の虚飾のない本当の声。

 

 それを受けとった雫はようやく口を開く。

 

「ねぇ、光輝。あなたの本気で人を助けたいと思って行動できるところは、あなたの長所だと思ってるわ」

 

 人間は我欲の生き物だ。何事にも打算を挟まずにはいられないし、どうしても行動に対する利益を求めてしまう。例え目の前で困っている人を見かけてもそう簡単に助けようとは思わないし助けられない。最近では泣いている子供を助けようとしただけで不審者として通報されたという事例もある。そんななけなしの好意も悪意に取られかねない世の中で、打算もなく下心もなく本気で人を助けたいと思い、行動に移せるのは一種の才能だと雫は思っている。人を助けたいという想いが間違っているわけがない。

 

「だけどね……たぶん光輝が思っているより、誰かを助けるって単純なことじゃないんだと私は思うわ」

「雫?」

「例えばこの世界の人を助けるってどういうことだと思う?」

 

 雫の質問に対して光輝は自信を持って答える。

 

「決まってるだろ。魔人族との戦争をやめさせて、人々を虐げている神を倒すことだ」

「けどそれだけじゃこの世界の確執はなくならないと思うわ。何百年もいがみ合っていた種族が、争いの原因である神がいなくなったとしても、急に仲良くなれるわけじゃない。光輝はこの世界の人が本当に救われるまでずっと助け続けるの?」

「この世界の人達が望むんだったら」

「一生地球に帰れなくても?」

「それは……」

 

 光輝にとっての人を助けるということは、漫画やアニメ、特撮の世界の概念だ。世界には人々を苦しめる悪がいて、それを正義の味方が倒すことで世界に平和が訪れ、ハッピーエンドを迎える。だが現実は物語のようにはいかない。例え悪の親玉を倒したところですぐに世界平和が訪れるわけではない。雫の予想では神を倒せたとしてもこの世界が真の平和を迎えるには何十年という時間が必要だと考えていた。

 

 

「それにね。あなたは助ける人の顔が見えてない。……光輝は一体()()()()()()()?」

「誰ってそれは……」

「きっとそれが蓮弥や南雲君とあなたの差だと思う。蓮弥はもちろん、南雲君にも絶対守りたい大切な人ができたのよ」

 

 絶対守りたい大切な人。光輝がそう言われて真っ先に思い浮かぶのは二人の女の子だ。だがその内の一人である雫が今まであえて伝えなかった事実を光輝に突きつける。

 

「はっきり言っておくわ。香織はどうかわからないけど、少なくとも私は、いままで一度も光輝に守られたと思ったことはないわ」

「えっ?」

 

 光輝の顔が呆ける。まるで何を言われたのかわからないという表情。

 

「光輝は知らないんでしょうね。あなたが道場に入門してから、私があなたを慕う女の子に嫌がらせを受けていたのを。彼女達は光輝の近くに私がいることが我慢できなかったみたいでね。……なんて言ってたかしら。「光輝君に色目使うな!」だったかな。……全く見当違いよね。私は光輝のことを()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 光輝が八重樫流道場に入門してから、光輝は何かと雫の側に居たがった。当時蓮弥は道場をやめた後だったし、同じ学校ということもあって光輝の側に居ることが増えたのだ。雫としては中々手のかかる弟くらいに光輝のことを思っていたのだが、彼の周囲の女の子達はそうとは思わなかった。女の癖に竹刀を振り、髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題にも付いていけない雫が光輝の近くにいることに我慢ができなかったのだ。

 

「一番ショックだったのはその女の子の一人に「あんた女だったの?」って言われたことだった。あれは今でも覚えているわ」

「そんな……そんなことがあったんだったらどうして俺に言わなかったんだ!?」

「……何度かあなたに言ったわよ。けどあなたが言うセリフはいつも「きっと悪気はなかった」「みんな、いい子達だよ?」「話せばわかる」だけでまともに取り合ってくれなかった。そのあなたがいい子だと言っている女の子の嫌がらせは、あなたの見ていないところでどんどん過激になっていったのにね」

 

 その時の雫は、光輝に色目を使ったという雫にしたら全く身に覚えのない理由で追い詰められていた。

 

「けどね。そんな私を蓮弥が助けてくれた」

「藤澤が?」

 

 あれは雫が蓮弥の母親に呼ばれて久しぶりに藤澤家にお邪魔した時のことだ。蓮弥の母親の作る夕食をご馳走になった後、蓮弥の部屋に雫が行った時、蓮弥は言ったのだ。

 

 ”雫、お前何かあったのか? ”と。

 

 当時色々限界だった雫は思い切って蓮弥に相談してみたのだ。そしたら……

 

『そうだな。女ってのは感情の生き物だから、理屈が通じないところがある。しかもあいつがお前から離れないとなると……いっそ周りの女子を思いっきり引き立ててみたらどうだ?』

『引き立てる?』

『そう。その女の子達は要はあいつに好かれたいんだろ。だったらお前が彼女達を引き立てて彼女達をあいつにアピールするんだ。あいつは自分に好意を向ける女子には甘いから、アピールした女の子を邪険にはしないだろう。そこでお前がつかず離れずあいつと一定の距離を取り続ければ、誰もお前のことを敵だとは思わないんじゃないか』

 

 小学生らしからぬ真面目なアドバイスが帰ってきたことに、雫は少し驚いたのを覚えている。

 

『それに男っぽいだの、女っぽいだの、まだ第二次性徴期も迎えてない俺達が言ってもしかたないだろ。あと十年もすれば俺は男らしくなるはずだし、雫だって女らしくなる。……なんなら俺が保証するよ。きっと十年後……雫は綺麗って言葉が良く似合う可愛い女の子になるって』

 

 そんな割と難しいことを交えた話を真面目な顔で言ってくるので、その当時の雫は嬉しいと思う前に、恥ずかしくなって思わず枕を蓮弥の顔目掛けて投げてしまったことを覚えている。

 

 

 ちなみにその後やってきた蓮弥の母親が、蓮弥がその顔立ちもあって実は雫とは逆に、よく女の子に間違えられるのを気にしていたというオチを暴露したことで、思わず雫は笑ってしまった。

 

 

 それから蓮弥という頼りになる相談相手のおかげで心に余裕ができた雫は、女の子達の光輝が原因で起こるトラブルを第三者として積極的に解決していった。結果、女の子達からの嫌がらせはなくなったが、その問題を的確に解決する姿がイケメンすぎて、小学校高学年にもなれば義妹のつぼみ達(ソウルシスターズ・アン・ブゥトン)ともいえる女の子が大量にできてしまったのは雫にとって大誤算だった。もし入学してから出会った香織が()()()()()として傍に居てくれなければ、(主にソウルシスターズがもたらす女性関係で)心を折られて何もかも投げ出していたかもしれない。

 

「蓮弥はいつだって私が辛い時、苦しい時には側に居てくれた。相談に乗ってくれたし、助けてくれた」

 

 光輝は聖約を外しているにも関わらず、言葉も出ないようだった。自分が守っていると思っていた女の子の本音に心が、体がついていかない。

 

「だから私は、いつも私を守ってくれる蓮弥が好き。彼の力になりたいと思うし、ずっと側に居たいと思う。……私にとって必要な男の子は蓮弥であって光輝、あなたじゃない」

 

 言葉の刃が光輝の心に突き刺さる。だがそれが必要なことだと雫は思う。ひょっとしたら光輝に恨まれるかもしれない。だけど優しくするだけが幼馴染じゃないと思うから……

 

「だからもし、いつか本当にあなたの力を必要としてくれる人が現れたら、その人を良く見てあげてほしいの。その人が何を望んでいて、何を悩んでいるのか。そしてその人の心に本当の意味で寄り添えるようになれば、光輝はきっと本物の勇者にだってなれると思う。これが私が言いたかったことの全て。今はわからないかもしれないけど、いつか私の言いたかったことをわかってくれるって信じてるわ」

 

 そう言い残し雫は光輝に背を向けて去っていく。光輝は何も言わない。正直今の光輝にとって()()()だとは思うが、いつか雫の想いを受け取り、彼が本物の勇者になれることを雫は本当に願っていた。

 

 

 そして雫は頭を切り替えて、これからの旅のことを思う。

 

 

 今回神山の大迷宮を突破し、さらに邯鄲の夢を取り戻したことで雫の戦力は劇的に上昇した。おそらくハジメとも真っ向勝負なら勝てるだろう。しかしそれでも蓮弥とフレイヤの戦闘は圧倒的だった。正直言うなら今の雫ではまだ力不足だ。

 

 

 だからもっと強くなる必要がある。そして雫が確実に強くなる方法は……

 

(私の魂が存在している夢界の深度を下げること)

 

 雫が行使する邯鄲の夢は夢界(カナン)と呼ばれる世界から力を引き出して夢を現実に紡ぎ出している。そしてその夢界は全部で八層あり、その真の力を引き出すためには第八層をクリアする必要があるというのは邯鄲の夢を習得した際に知識として流れ込んできた。

 

 

 そしてこの夢界の階層が深くなればなるほどより強力な力を引き出すことができる。現在の雫の魂は、今回の騒動で格が上がり、夢界の第五層『ガザ』に所属している。つまり雫はまだ後三回層分強くなる余地があるということだ。

 

 だけどこれは、すぐにどうこうなるわけではない。要修練だろう。

 

 そこまで考えて雫はふと思い至る。

 

(新たな門出なわけだから……よし!)

 

 雫は一旦宿に戻り、準備を始めることにする。

 

 蓮弥についていくに相応しいものを用意するために。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 雫が準備をしている頃。蓮弥は王都の入口にて、雫を待ちながら、ハジメと久しぶりに連絡を取り合っていた。

 

『……そうか、蓮弥の目的は無事果たしたんだな』

「ああ、なんとかな。魂魄魔法も手に入れたし、ユナの体調も回復した」

『そりゃ朗報だな。ユエやシアはユナのことを気にしてたから喜ぶだろう』

 

 今蓮弥は側で形成しているユナに頼み、ユナの聖術によって連絡を取っている。蓮弥では町中でしか使えないがほぼ大陸の端にいるハジメに繋がるあたり流石ユナだと言える。

 

「それでこれからユナと雫を連れてお前達と合流しようと思うんだが、今どこにいるんだ?」

 

 蓮弥は当然の質問を行うが、ハジメは言葉に詰まる。

 

『……わからねぇ』

「わからない? どういうことだ?」

『そのまんまの意味だ。周りを見渡しても三百六十度海しか見えねぇから参ってるところだ』

 

 そこで蓮弥はハジメの置かれている状況を把握する。どうやら無事グリューエン大迷宮を攻略したのはいいが、途中魔人族の妨害により、火山の噴火に巻き込まれて海まで流されたのだという。

 

「例の神代魔法を使う魔人族か。大丈夫だったんだよな?」

『俺は結構いいのを食らったけどなんとかな。正直香織がその場にいなかったらヤバかった。……というより大丈夫だったのかはこっちのセリフだ。ちょっと前に神山の方角で馬鹿みたいにでかい魔力の衝突があったが、あれ片方お前だろ』

「まあこっちもいろいろあってな。詳しいことは合流したら話すよ」

『わかった、ならこっちはなんとかしてエリセンまで辿り着く。だからお前達とはそこで合流だ』

 

 目的地をお互いに確認し合った後、通信を切る。

 

「ユナ。あいつらもどうやら無事だったらしい。ユエとシアがユナに会いたがっているそうだ」

「私も二人に早く会いたいです。……二人には心配をかけてしまったので、会ったら謝らないといけませんね」

 

 これで次の目的地は決まった。後は雫が来るのを待つだけなのだが……

 

 

 蓮弥は隣のユナを横目で見る。……何も問題が起きなければいいが。

 

「お待たせ、蓮弥」

 

 蓮弥が内心悩んでいるところに雫が現れる。その姿を見て蓮弥は少しだけ驚いた。

 

「……着替えたんだな」

「どう? 似合うかしら?」

 

 雫の装いは丸ごと変わっていた。黒の下地に赤と紫のラインが入ったデザインの上着に、下は同色のミニスカートにニーソと黒いブーツ。そして頭には蓮弥とはデザインの違う軍帽を被り、腰に刀を差しているその姿はまさに女軍人だった。軍帽のデザイン的には蓮弥のSSとは違い、大日本帝国時代の、所謂大正ロマンを感じさせるような代物だった。

 

「ああ、よく似合ってるぞ」

 

 もともと綺麗系の容姿を持ちながら、その男前の態度でソウルシスターズを大量に生み出しているのに、そんな男前な恰好をしていたら、また義妹が増えるんじゃないかとは流石に言わなかった。

 

「ありがとう。新しい門出だもの。気分を変えるために思いきって変えてみたのよ。それで……」

 

 雫の視線が蓮弥の横に移る。その横にはもちろん……

 

 

 銀色の美しい髪を風で靡かせながら、雫の方を見ているユナがいる。

 

「そういえばある意味初対面だったよな、彼女は……」

「蓮弥……」

 

 蓮弥がなんとかフォローしようと行動に移すが、雫の一言で沈黙する。まるでそんな気遣いは無用だと言わんばかりの言葉。威圧などは込められていなかったが、その妙に通る声に蓮弥はこれ以上何も言えない。

 

 

 雫はユナの方に踏み出しその目を見る。今薄らと蒼く光る雫の目にはそれ以上にはっきりと輝く美しい碧眼が映っていることだろう。眠っている間は見ることができなかった輝き。

 

「…………初めましてユナ。私は雫、八重樫雫よ。……これからよろしくね」

 

 笑顔と共に手を差し出す雫。そこに威圧感はない。

 

「…………ユナです。こちらこそ、よろしくお願いします。雫」

 

 こちらもにこやかな笑顔を浮かべながら雫の手を取るユナ。

 

 

 蓮弥としてはもう少し殺伐としたものになるかと少しだけ思っていたが、どうやら無事にファーストコンタクトは終わったらしい。ユエや香織のように龍や般若を背負うこともなく。雫と優花のように威圧感と挑発混じりでもない。健全な挨拶だった。

 

 

 ……だったのだ。

 

 

 蓮弥はそう思い込む。雫の目の蒼が濃くなったこととか、ユナがなにやら自身の能力を使って考え込んでいることには意識を割かない。

 

 

 表面上にこやかなれど、水面下では何かがすでに始まっているのかもしれない。

 

 

 ……本当は雫の想いに答えると決めた以上、蓮弥には色々言うべきことが雫にあったのだが、蓮弥は何も言うことができなくされていた。

 

 

 ハジメに連絡を取る少し前、蓮弥とユナの間にこんなやり取りがあった。

 

『お願いがあります。雫に色々説明するのは、私に任せてくれませんか?』

『いや、でもな。それは男の俺が言うべきことであって……』

『お願いします』

『でも……』

『お願い、します!』

『わ、わかった』

 

 ユナが顔を蓮弥に寄せながらぐいぐいくる姿勢に気圧されて、思わずYESと答えてしまったのが運の尽き。蓮弥の答えと同時に蓮弥とユナの間に見覚えのある羊皮紙が出現した。

 

『約束しましたからね。蓮弥』

 

 丸まった羊皮紙を持ち、笑顔で言うユナを見て、やられたと思ったもののすでに後の祭り。あのやり取りの間にユナに説明を任せるという聖約を結ばれてしまった。これで蓮弥は何も関与できない。……以前と比べて、記憶が戻ってユナはだいぶアグレッシブになった気がする。おそらくこれが本来のユナなのだろうが。

 

『大丈夫です。きっと私達三人にとって、悪いことにはなりませんから』

 

 そのセリフを信じるしかない。蓮弥からしたら決意を固めていざ挑もうとした段階で、強制的に逃げ道に押し込まれた気分だ。

 

 だが蓮弥が悩んでいる内にユナと雫は話を進めていく。

 

「蓮弥の移動手段はバイクだけなのよね。流石に私達三人乗るのは無理そうだけど……」

「なら雫が蓮弥の後ろに乗ってください。私は蓮弥の中で色々準備することがありますから……」

「そう。ならお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

 蓮弥の悩みなど知らないとばかりに話がどんどん先に進んでいく。ひょっとしたらフレイヤ戦である意味共に戦ったことである種の共感を得たのかもしれない。思ったより空気は悪くない。

 

「何してるのよ蓮弥。蓮弥が動かすんだから準備してよね」

「ああ、わかってるよ」

「蓮弥……私は聖遺物に戻りますね」

「ああ、わかった」

 

 雫の言葉に宝物庫からバイクを取り出し準備を始める。ユナは蓮弥と手を繋ぎ、聖遺物に戻っていった。あっさり聖遺物に戻ったユナに対して、蓮弥としてはユナと雫との間に何もなさすぎて落ち着かない。ユナが何をしているのかも教えてくれないので不安だけが心の底に残り続ける。いずれとんでもないことにならなければいいが……

 

「それで次はどこに行くの?」

「ああ、次は……」

 

 彼らの目的地は海の町エリセン。そして目指すはそこにあるという海の大迷宮、メルジーネ大迷宮。

 

 きっと今まで以上の困難が待ち受けているだろうが、フレイヤの時同様、きっと何が来ても三人揃えば大丈夫だ。

 

 蓮弥はこの三人でのやり取りが長く、とても長く続いていくことになることを少しだけ予感していた。

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥達が出発して半日後、光輝は未だに高台の上に留まっていた。すでに美しかった朝日から沈む夕日へと姿を変えている。だが光輝の心はそのどちらでもなく、どんよりとした暗雲が漂っている。

 

 

 彼の元から香織に続き、とうとう雫までいなくなってしまった。彼はこの世界に来る前は香織と雫と共にずっと過ごすのだと思っていた。あのかけがえのない日常がずっと続くのだと信じて疑わなかった。なのに彼女達は今、光輝の元に一人もいない。おまけに雫から告げられた事実。守っていたと思っていた雫が光輝に守られたことなんて一度もないと断言した。

 

 

 何がいけなかったのだろうか。もっと彼女らの側にいればよかったのか。もっと香織と雫を観察していたら良かったのか。それとも何をやってもこうなる運命だったのか。光輝は無力感にさえなまれていた。

 

 

 この王都で起こった戦闘も光輝の想像を遥かに超えるスケールで行われていた。流石の光輝も自分があれらの足元にも及んでいないことなどわかっている。何がいけなかったのだろうか。どこから運命は違え始めたのか。光輝はずっとそういうことばかり考えていた。

 

「ここにいたのですね。探しましたよ光輝さん」

 

 光輝が力なく振り返ると、そこには最近知り合い、クラスメイトもお世話になっているダニエル神父が佇んでいた。どうやらこの騒動にも巻き込まれず無事だったらしい。そういえば前もこんなことがあった気がする。

 

「……何か用ですか?」

 

 光輝にしてはそっけない態度。普段のような物腰でいる余裕が彼にはない。

 

「いつ声をかけようかと思って機会を窺っていたのですが、すみません。これも仕事ですので。……あなたに報告と謝罪、そして提案をしに来ました」

 

 そして神父は抱えていた二つの包みの内一つの中身を取り出す。それは光輝がこの世界に来てからの付き合いであるもう一つの相棒。

 

「直ったんですね。聖剣が!」

 

 光輝の声が少しだけ明るくなる。聖剣が光輝の元に戻ればまた戦えるようになる。そしたら……

 

「そのことなんですが、光輝さん。……確かに聖剣は一応直ったのですが……」

 

 歯切れの悪そうな神父の口調に光輝は嫌な予感を感じる。

 

「……ハイリヒ王国や教会、もしくは帝国と掛け合って優秀な錬成師をかけ集めて、ようやくここまで修復できたのですが、何分国宝のアーティファクトというとても難しい代物だったこともあり、残念ながら以前と同じように使うことはできないとのことです」

「つまり……どういうことですか?」

 

 光輝が声を震わせながら言葉を出す。

 

「率直に申し上げれば、これを使っても光輝さんは以前と同じ力を発揮できない。かつての八重樫さんと同じです。おそらく以前の3割。それがこの聖剣が耐えられる限度だと思ってください。……残念ですが、あなたの弱体化は避けられないかと。我々の力が及ばす申し訳ございません」

 

 頭を下げる神父に対し、光輝に衝撃が走る。湧き上がる黒い感情。光輝の中で轟轟と渦巻いていたその感情がついに限界を迎える。

 

「はは、なんだよそれ。……藤澤や南雲はこれからどんどん強くなるっていうのに、俺だけ前より弱くなるのか。……何で、何でこうなるんだよッ! 俺ばっかりどうしてこんな目に合わなければならないんだッ! 俺は勇者なのに、あいつらは非戦闘職と天職不明なのに。なんでみんなあいつらばっかり。香織も雫も、クラスメイトも、リリィだって。何で、どうしてッ……」

「光輝さん、どうか落ち着いてください」

「うるさい!! あんたに何がわかるんだ。俺は、俺は……」

 

 光輝の脳裏に今朝の光景が蘇る。話し合いの後、クラスメイトが各々自分の意見を語り合っている中、リリアーナがいつの間にかいなくなっていることに気づいた。そしてそこで初めて思い至る。彼女は今日、父親を亡くしたのだと。だから光輝はきっと悲しみに暮れているはずの彼女を慰めるために彼女を探し、そしてその場面に出くわしたのだ。

 

 

 藤澤蓮弥の背にしがみ付き、涙を流すリリアーナの姿を。その姿を前にどうすることもできなかった光輝は引き返した。また蓮弥に一つ奪われたという思いを抱きながら。

 

 

 そして親友である龍太郎の様子を思い出す。彼もまた、あの魔人族との敗戦から力不足に悩んでいた。だからこそ光輝は聖剣が直ったら一緒により厳しい修行を行うことを提案するつもりだった。ある意味、雫や香織以上に苦楽を共にしてきた長年の友だ。きっとまた一緒に切磋琢磨してさらなる高みに至れる。そう思っていたのに。

 

 

 昨日の彼はどこか悩みが晴れたような顔をしていた。なぜかと聞いてみると。

 

『藤澤と神父さんに相談したら思わぬ収穫があってな。最初はゴミ技能かと思ったけど、どうやら鍛えれば鍛えるほど強くなる技能らしい……まだ全然大したことはできないし、曖昧な感覚だけどよ、前より強くなれる手応えを掴んだと思う。色々考えたけど俺はバカだしな。藤澤とか南雲のことを気にしても仕方ねぇ。(バカ)(バカ)なりのやり方で強くなろうと思ってる。……どうしても守りたい奴もできたしな』

 

 その龍太郎の顔は悩みを吹っ切り、少年から大人になるために、少しずつ自分の殻を破りながら、自らの道を見つけて歩き始めた一人の男の顔をしていた。その急に遠くなってしまったと感じた親友の姿に光輝は、彼の悩みを解決した人物の中に藤澤蓮弥の名前が出てきたことで、内心苦い思いを隠せなかった。

 

「俺は、俺はただ……」

 

 もはや彼はただ感情の赴くままに癇癪を起す子供と同じだった。心はひび割れ、今にも崩れてしまいそうな気配を漂わせる。ある意味それでいいのかもしれない。ここで挫折を味わい、苦渋を舐めた先に、真の勇者への道があるのかもしれない。だが、彼の心にできた罅に、()()()が差し込まれる。

 

『ただ人を救いたかっただけなのですよね』

「えっ」

 

 その心の罅にすっと入ってくる神父の言葉に、光輝は思わず癇癪を止めた。

 

『光輝さん、この世には無心で誰かを助けようとするものは決して多くはありません。この世界の住人は皆、それほど余裕がないのです。そして誰しも力を持ってしまうと、どうしても我欲に走ってしまいがちなのが現実。例えば人を傷つけることにためらいがなくなったり、人を簡単に殺したりするようになってしまう』

 

 あいつらのことだ。光輝は真っ先に藤澤蓮弥と南雲ハジメを思い浮かべた。

 

『だけどあなたは違った。この世界に来て、きっと誰よりも強力な神の加護を授かっていながら、あなたはまず何を考えましたか? ゆっくり思い出してください』

 

 光輝は思い出す。この世界にきた直後、イシュタル教皇にこの世界の現状を説明されてどう思ったのか。

 

「この世界の人々を……助けたい……」

『そう、その通り。だからこそあなたは勇者に選ばれた。決して力が強いものではなく、真の意味で人を救いたいと願える者、その者こそが勇者にふさわしかったから』

 

 光輝の目に光が戻りはじめる。そしてなおも神父の語りは続く。

 

『人を救いたいという思いが間違っているはずなどないのです。それが正義で無いわけがないのです。だから私がはっきり言いましょう。あなたは、間違ってなどいない!』

 

 光輝の目から涙が溢れだす。ずっと誰かに言ってほしかった。自分は間違っていないと。自信を、自身を失いかけていたところに、神父の言葉が染み渡る。それからしばらく光輝は神父以外誰も見ていないところで泣いた。

 

 

 そしてしばらくして落ち着きを取り戻した光輝を見て、神父が語りだす。

 

「もう大丈夫のようですね」

「はい、みっともないところをみせてしまいました」

「良いのです。勇者とて人間だ。時に涙を流すことも必要ですよ」

「そういっていただけるとありがたいです。けど聖剣は……」

 

 そう、いくら光輝でもこの聖剣でこれからの戦いを生き抜くことは難しいだろう。だが……

 

「言ったはずですよ、光輝さん。私は報告と謝罪、そして提案をしに来たのだと」

 

 その言葉に光輝は神父の目を見る。再び心に直接語り掛けられるような錯覚を覚える。

 

『その前に考えてみましょうか。あなたと彼らの差を』

「あいつらとの差?」

 

 ここで言う彼らが蓮弥とハジメのことだということは光輝にはすぐにわかった。だが差とはいったい何を示しているのだろうか。

 

『ここに召喚された時は、間違いなくあなたの方が強かった、違いますか?』

 

 違わない。光輝はそう確信する。ハジメは最低のステータスしかないのに修行も碌にしていなかった不真面目な人間だった。多少頑張っていた蓮弥も光輝に遠く及ばないステータスだった。

 

『だが、再び彼らと再会した時には、彼らは強大な力を持っていた。それは何故か?』

「神代魔法を手に入れたから」

『それはあくまで結果です。その前にあなたと彼らを分かつ重要なきっかけがあったはずだ』

 

 そうして光輝は思い出す。オルクス大迷宮ではハジメの意外な知識に驚かされたが、それでも戦闘力は最低ランクだった。蓮弥も光輝には遠く及ばなかった。なら、その後起きたことは……

 

「奈落に……落ちたから?」

『その通りですよ光輝さん。彼らは奈落の底に落ち、そこで()()、未知の力を手に入れたのだ。特に藤澤さんはね。……あなたはユナという少女を知っていますか?』

 

 知っている。光輝は以前、蓮弥の部屋に訪れた際にその少女を目撃している。銀糸の髪が月明かりに照らされ、まるで女神かと見まごうほどの綺麗な女の子だった。

 

『彼女こそ、藤澤さんが使っている十字剣の正体。私も長年アーティファクトを調査していますが、初めてですよ。人間の姿を取れるアーティファクトなど』

「アーティファクト? 彼女が?」

『その通り。そして彼女の力は、壊れる前の聖剣と比較してもまるで格が違う。彼女に比べれば、聖剣などただの棒きれに等しい。おそらく、神代の頃の伝説のアーティファクトか何かなのでしょう。現存する世界最強のアーティファクトと言い換えてもいいかもしれない』

「世界最強……」

 

 彼女がそんなにすごいアーティファクトだったなんて。その力を、ユナを手に入れたから蓮弥はあれほど強大な力を得たのだと、光輝は当然のようにそう思う。

 

『ただ、ここに来る前に相当な無茶をしたのでしょう。だからこそ彼女は寝たきりになっていた』

 

 光輝の脳裏に嫌がる彼女を、無理やり戦わせる蓮弥の姿が思い浮かぶ。

 

「あいつそんな酷いことを。……俺が、俺が代わりにユナを見つけていたら、きっとユナにそんな無理はさせなかった」

 

 光輝は考える。もし自分が蓮弥やハジメの代わりに落ちていたら。きっとユナの力をもっと優しく引き出してあげられた。自分より劣っていた蓮弥があれほどの力を手に入れたのなら、きっと自分はもっとすごい力を手に入れたに違いない。もちろんシアやティオをハジメのように奴隷扱いなんてしなかっただろう。そして颯爽とオルクス大迷宮に駆け付け、相手の魔人族の女も殺さずに捕虜にすることで救っていたに違いない。もしかしたら今日蓮弥が戦っていた天使とすら戦わずとも和解できたかもしれない。なぜなら光輝にはあの天使に狙われるような罪を犯さないという確信があったから。

 

「こんなことなら、あの時、橋から落ちるのは俺だったら良かったッ!」

『なら奈落の底に堕ちてみようではありませんか』

「えっ!」

『もちろん本当に落ちるわけではありませんよ』

 

 光輝の言葉にこれからが本番だと神父はもう一つの包みを開く。そこには一本の西洋剣。聖剣と似ているが色は黒い。強大でありながら危険なオーラを放っていた。その様相を一言で表すなら、まるで魔剣だ。

 

『これは禁忌庫の中に封じられていた曰く付きの代物でしてね。彼の言葉で言うなら【聖遺物】というのでしょうか。もちろん危険はあります。強大な力を手に入れるためには、それ相応の代償を払わなくてはならない。それでも言います』

 

『力が、欲しくはありませんか?』

 

 光輝の心にその囁き(甘い毒)は染み渡るようにして広がる。

 

『あなたの今までの問題は、ほとんどが力があれば解決できたことだ。もし力があれば、きっとあの魔人族の女を殺さずに捕虜にすることで救えた。もし藤澤さんとの決闘に負けていなければ、今も白崎さんはあなたの側にいたはずだ』

 

 心に染み渡る。まるで白紙に墨汁を垂らしたように。

 

『そして八重樫さんも。……失礼だとは思いますが、彼女との会話を偶然聞いてしまいました。そして彼女は言っていた、"私を守ってくれる蓮弥が好き"だと、そしてそれはこう言い換えられませんか?』

 

 

 

『彼女は、()()()()()()()()なのですよ』

 

 

 心に魔性の毒が染み渡る。

 

 

『あなたが弱かったから、八重樫さんはあなたの元から離れていった。藤澤さんは強かったから、彼女を手に入れることができた』

「あ、ああ……」

 

 弱かったから、奪われた。強いから、全てを手に入れた。

 

 

『ひょっとしたら白崎さんも同じかもしれませんね。治癒師は性格的にも才能的にも攻撃向きではないものが持っている傾向が強い天職です。だからこそ、自らを守ってくれる強い南雲さんに惹かれてついていった』

 

 光輝の心に、魔性の毒が広がっていく。

 

『もう一度言います、南雲ハジメを屈服させ、藤澤蓮弥を力で圧倒し、ねじ伏せる。そして彼らに奪い取られたものを全て取り戻す……』

 

 いつの間にか神父が光輝の耳元に近づき……

 

 

『そんな力を……手に入れてみたくはありませんか?』 

 

 

 甘い誘惑を……囁いた。

 

 

『……さあ、選ぶのは……あなただ』

 

 

 光輝の前には二つの西洋剣(選択肢)がある。一つは壊れた聖剣。もう一つは禍々しい魔剣。神父は無理強いをしない。ここからは彼に決めてもらわないと意味がない。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 光輝に打ち込まれた苦い薬と甘い毒。

 

 

 雫は光輝のためだと思い、自分の本音をぶつけた。それは正しかっただろう。いつか夢見がちな彼に言わなければならなかったことであったことは間違いない。だが彼女は見誤った。光輝は雫が想像している以上に、承認欲求を抱えていたことに。彼が雫の想像以上に自分と香織に執着していることに。そしてなにより彼女は……

 

 

 男という生き物を見誤った。

 

 

 

 強さにかける男の想いは狂気だ。

 

 

 男は女が思っている以上に弱いということに耐えられない生き物だ。だからこそこんな惨めな状況に甘んじるしかない己の弱さを、彼は心の底から恥じて、憎んでいた。

 

 

 強くなりたい。力が欲しい。強くなければ男じゃない。

 

 

 だからこそ、その選択は必然だった。彼は変わり、強くなる。だけどその代償に、彼の素晴らしかったところが消えていく。

 

 ()の想いなど、(光輝)にとって知ったことではない。

 

 だから聖剣を捨て、魔剣に手を伸ばす光輝の脳内には、雫が幼馴染に望んだ本当の勇者(姿)など。

 

 

 残ってなどいなかった。

 

 だからこそ彼は、神父の思惑通りに、奈落の底の闇に向かって堕ちていく。

 




 しんぷは魔剣をこうきにつかった。

 ……おや!? 勇者(笑)のようすが……! 

 ♪ (親の声よりry)

 勇者(笑)⇔■の勇者

 雫「(幼馴染を思ってのBボタン連打)

 おめでとう! こうきは■の勇者にしんかした!


 第四章完結です。
 
 初めて挑戦したオリジナルストーリーでしたが、なんとか完結することができました。これも皆様の応援のおかげです。

 第四章を思い切ってオリジナルにしようと思ったのはコメントの中に原作に蓮弥がいるだけの俺TUEEEEになってるという指摘があったことがきっかけです。作者自身もそれを重々承知だったのですが、それならと唯一二次創作の入る余地のある神山を舞台に考えてみようと思い、その結果、ユナにはしばらくお休みしてもらうことになりました。もっとも、彼女がいると雫の出番をうまく作れないという事情もありましたが。

 とはいえオリジナルにするとそれはそれで今度はありふれでやる意味がない。もはやありふれとは別物と言われる危険性がありました。特に神座シリーズは一滴でも墨汁のように濃いので慎重になる必要がありました。神座シリーズ未プレイの読者様も蓮弥とフレイヤの戦いの規模を見てもらえれば少しは納得してもらえたかと思います。信じられますか? あれほどの規模の戦いを繰り広げた今の蓮弥でも作品によっては中ボスの手下に傷一つ付けられないのが神座シリーズなのです。

 だからこそ第四章はできるだけありふれ原作キャラを出すように心がけました。全員は出し切れなかったと思いますがそれで少しでもありふれっぽかったと言っていただければ幸いです。

 そして何よりもついに決着を迎えた創造の詠唱という強敵。創造位階のあとがきにも書きましたが、本当は倍以上の長さの詠唱を考えていましたが、長く放置して改めて読んでみると意味不明すぎて衝動的に消してしまったという経緯があります。そこから一から作り上げたのが今の詠唱なのですが、感想を見る限り好評のようで安心しました。だから作者はしばらく厨二力のチャージに戻ります。

>フレイヤについて
 この章のラスボスであり、蓮弥と熱い死闘を繰り広げたものの、惜しくも敗れてしまったフレイヤ。本来はここで退場予定のキャラだったのですが、コメントで意外と彼女が好きだという意見もちらちらあり、一応フラグは立てていたので案外再会はすぐかもしれません。

>雫の邯鄲の夢と新衣装
 雫をパワーアップさせる案はいくつかあったのですが、第三章辺りまで迷っていました。最初は蓮弥と同じく聖遺物による強化を行おうと思っていたのですが、それだと蓮弥と似たり寄ったりになってしまう。何かいいアイディアがないか正田作品を振り返っていたのですが、そこで戦神館シリーズを混ぜてもいいんじゃないかと思いました。邯鄲の夢なら蓮弥と差別化できるし、能力的に応用も効きそうだと感じ、それならいっそ戦神館を混ぜちまえと思って真っ先に出ることが決定したのが盲打ちです。あいつを出すと地球関連で原作と相違点が出ても全部あいつのせいにできるので中々便利です。表紙に出ないと明言してたのが神座シリーズだけにしてよかったと思いました。

 そしてエピローグにて実はずっと雫に着させたかった軍服をようやく着させられました。そのために色々軍服について調べたのですが、カッコいいのが多数あるので作者では決められませんでした。よって雫の軍服姿は読者の想像に任せます。一応本文に色々書きましたが無視しても構いません。なんなら白い軍服とかでもいいかもしれません。もし思いつかなかったら戦真館の制服を想像してください。作者はあれをベースに色々考えています。

>勇者(笑)について
 ここでは長々と語りません。光輝の改心を期待していた人はすみません。正直彼は中途半端に改心するとキャラとして面白くなくなるというのが持論です。もしカッコいい光輝を書くんだったら作者が永劫破壊の合間に構想している『もし天之河光輝が光の奴隷だったら(仮)』ぐらいぶっとんだのを書きたいです。異世界転移前にやたらハジメに対する好感度が高いのが特徴です。


>今後について
 第五章は原作沿いに戻り、原作でいうメルジーネ大迷宮攻略辺りからスタートします。ハジメ達も久しぶりに出てきます。とはいえ、ここまで原作を木っ端微塵にした以上、完全に原作沿いは不可能になりました。特に王都襲撃編は半分オリジナルになると思います。


 ですが第五章を書く前に、幕間をいくつか出そうと思っています。4.5章的なもので、そこでは時系列もばらばらの物語をいくつか挟む予定です。だけど本編に関わるものが多いと思うので普通に読んでいただければ幸いです。

今のところ書く予定の話は以下の通り。

①ありふれた日常へ永劫破壊 零 ~蓮弥と雫の前日譚~
そのまんまタイトル通り、蓮弥達がトータスに飛ばされる前日の日曜日の蓮弥と雫のお話。いままで雫→蓮弥は山ほど書いてきたけど、蓮弥→雫に関してはあまり書いてこなかったので、この話で蓮弥が雫をどう想っているのか書ければと思います。

②真・動き出す王都の闇
こちらは蓮弥達が王都を去ってから数日後の、書籍で言うなら6巻冒頭辺りの話。
王都での騒動を得て、メルドは兵士の間で流行っている病について調査していた。そこで思わぬ人物の恐ろしい陰謀が隠されていることを知り……
前半はメルド視点、後半はある人物視点になります。

③修羅場勃発~ユナVS雫~
おそらくそれなりの数の人が楽しみにしていたイベント。ひょっとしたらエピローグを読んでがっかりした人がいるかもしれません。しかしあえて言おう。作者も書きたいと。けどエピローグにちょこちょこ書くだけではもはや足りない。大修羅場を、一心不乱の大修羅場を!!
般若や龍を背負う? 威圧や挑発の応酬? 何だそれは何なのだ。
というわけで、そんなものでは足りないので、丸々1話修羅場で使います。まだ構想段階ですが、修羅場の開幕を告げるユナの最初のセリフが……
「私、ここで蓮弥に……抱いてもらいました」
の予定(仮)なので。ユナと雫にはがっつり修羅場ってもらいます。

④白崎香織という女
こちらは視点が変わり、第四章で蓮弥と雫が神山の攻略に勤しんでいたころ、ハジメ達が何をしていたのかの話になります。原作でいうグリューエン大迷宮攻略の話ですね。とはいえ、完全に原作キャラオンリーの話なので原作と同じところは丸ごと飛ばすダイジェストバージョンになります。タイトル通り各人から見た香織についての話になる予定です。

⑤邪なる聖者
ローエングリーン「またせたな」的な話になる予定。時系列は第五章開始直前。第四章では味方だった神父がついに本格的に動き出します。そして彼の行動で、これから世界がどうなっていくのかわかっていくと思います。

⑥設定資料集
こちらは4.5章までの設定資料集です。蓮弥のDies風パラメータや雫の戦神館風パラメータを記載予定。他にも原作から影響を受けたキャラについて作者にとっても振り返りのつもりで書いていく予定です。


 さて、最後になんなのですが、現在作者は話のストックを切らしておりまして、章末の恒例としてしばらくお休みをいただきます。いつものように長くなるようなら活動報告に書くのでよろしくお願いします。それと、もしかしたら合間に読者の厨二力を集める試みもやるかもしれません。

それではこれにて。

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