ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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さて、一体誰のことを指しているのやら。

アニメ6話はあえて言うまい。今後シアが活躍してくれるならいいよ。


狂気を纏いし者

 逆襲の魔女と名乗る少女に出会って以降、その魔女に見染められた少女の日常は大きく変化して……はいなかった。

 

 

 表面上いつもと同じありふれた日常を堪能する。朝起きて母親の美味しい朝食を食べ、学校に親友と共に行き、そして学校帰りに別の学校のちょっと気になる男の子を後ろから観察する。そんな何気ない日常を謳歌することができていた少女は、夢の中にてその魔女に出会っていた。

 

 

 この世界の裏の姿、そんなことを教えられたのだがその当時の少女はいまいちよく理解してはいなかった。そもそもどうしてこんなことになっているのかもわからないのだ。流されるままになってしまっている自覚はあるが、自分ではどうしようもないものだと諦めてもいた。特に夢の中でまで追いかけられるようでは逃げようがない。

 

 

 魔術──

 

 御伽噺の中でしかないようなものが実際にこの世界には存在しているらしい。曰く魔力というエネルギーを用いて奇跡を行使する者。とはいえ大昔にはたくさんいたらしいが、今の世では科学混じりの魔術である魔導科学を使うものが大半であり、純粋な魔術を使う人間は少なくなっているという話だった。そして逆襲の魔女がその数少ない生き残りだということらしい。

 

 

 失礼だと思いながらも話半分で聞いていた少女に対して、魔女が自身の存在について語る。

 

 

「魔術を使うものの中でも私達のようなものは魔術師、もしくは魔女と呼ばれる。これからあなたにも魔術を覚えてもらうのだけれど、これだけは覚えておきなさい」

 

「魔術師になるような人間は、目的のためなら手段を選ばない人ばかりだから。そしてその素質がある人間もその傾向にある。だからこそ自制の手段を覚えないと……破滅することになるわよ」

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「魔術師? ユナ、それは一体なんなんだ?」

 

 ユナが突然香織を魔術師だと言い出し蓮弥は確認を取る。

 

 蓮弥はすでに元居た地球に異能の力が存在していることを確信していた。蓮弥の聖遺物、ユナの存在、そして雫の邯鄲の夢。これだけ揃っていて何もないとは到底思えない。おそらく表では明かされていない裏の世界というものがあるということなのだろう。そしてユナの言葉は、目の前のクラスメイト白崎香織が裏の世界の住人だと言っているようなものだった。

 

「私が使う聖術以外の異能を用いる者のことですよ。けどそれは私の時代の認識であり、私も現代の魔術事情を詳しく知っているわけではありません。しかし、あなたの魔力の使い方には私達の世界の技術の匂いがします。だから聞いたのです、あなたは魔術師かと」

 

 その問いに対して、白崎香織は困ったような顔をした。まるでどこまで言ってもいいのか判断がつかないと言わんばかりの態度だった。

 

「えーと、その……」

「なあ、ユナ。それはここではっきりしなくてはいけないことなのか? 白崎が少なくともハジメの敵にはなり得ないことはわかっているし、今まで言わなかったということは何か言えない事情があるのかもしれないだろ」

 

 現代に魔術や魔法が存在していると信じている人間はいない。もしそんなことを大真面目に吹聴している人間がいたら、まずおかしな奴、妄想や二次元に嵌りすぎだと言われるだろう。もしかしたら、そういう人間を厨二病と言うのかもしれない。

 

 

 だが逆を言えば地球で表向き魔術などの神秘が存在していないことになっているということは、それだけ秘匿が徹底されているということでもある。よく現代伝記物にありがちな設定だが、神秘は秘匿するものなのかもしれない。となると何かうかつに言えない事情がある可能性は高い。それに……言うに言えない事情があるという気持ちは……蓮弥にはよくわかる。

 

「…………それもそうですね。私が知っている魔術師というのは、己の望みや願いを叶えるためならいかなる手段も問わない社会不適合者ばかりだったので焦っていました。……すみません、香織」

「……いいよ。気にしなくても……そうだね……」

 

 ユナの謝罪を受けて香織は気にしていないという反応を示す。そして少し考えつつ言葉を紡いでいく。

 

「確かに……私は少し特殊な知識があるよ。実はつい最近まで忘れさせられてたんだけど……」

「そうか……まあ、俺も雫も似たようなもんだから気にしないけど。たぶんハジメも気にしないと思うぞ」

「……けど、できれば内緒にしてほしいかな」

 

 どうやら何か事情があるらしい。ならわざわざ吹聴して回る必要はないだろう。

 

 蓮弥は香織の願いを聞き届けることにした。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

(本当に危なかった。やっぱりこの子はすごい)

 

 白崎香織は内心冷や冷やしていた。まさかここで科学を用いる機工魔術士ではなく、純粋な魔術師について知っている人がいるとは思っていなかった。

 

 

 香織が藤澤蓮弥と知り合いになったのは、幼馴染であり親友である八重樫雫からの紹介によって……ではない。

 

 

 それよりも以前、香織が裏の世界を覗いた数ヶ月後、偶然に近い形で出会っていた。きっかけは例によって母親に普通のスーパーでは手に入らない調味料を買いに行かされた時、偶々必要な調味料に手を伸ばした際に、手が当たったことだった。

 

 

 最初は本当にそれだけで終わるはずだったのだ。一礼を返して終わりの関係。だがあろうことかその当時メモ用紙片手に困り果てていた蓮弥が……

 

『なあひょっとしてあんた。この魔法の呪文みたいな調味料がどこにあるのか、全部わかったりしないか?』

 

と初対面の香織に質問してきたのだ。

 

 そしてその悩みは香織も過去通ってきた悩みであり、メモの中身を見て他人事だと思えなかった香織は手助けすることにしたのだ。

 

『これはこの棚にあって、それでこれはあっちにあるから、似たようなものがいくつかあるから間違えないように気を付けてね』

『ああ、ありがとな。助かったよ』

 

 その時はそれで終わると思っていたのだが、それからも頻繁に遭遇することになった。それはそうだと香織は思う。この近辺に住んでいて母の要望に応えられる代物が置いてある場所などここしかないのだから。

 

 

 それから彼と話をする機会が何度か有った。なんでも料理上手な母親に買い物に行かされていること。魔法の呪文みたいな調味料がどこにあるのかはともかく、食材の良し悪しなどは何度も買い物に行かされているのに未だによくわからないこと。その話を聞いて親近感を覚えた香織は調味料だけでなく、物の良し悪しについても分かる範囲で教えてあげることにしたのだ。

 

 

 もっともその頃になると親近感以外の感情も持っていたりしたのだが。

 

 

 もちろん恋愛感情なんてものではない。香織としては幼馴染の男の子に負けないくらいカッコいい男の子だとは思っていたが、そういうのではない。それは最近関わり始めたことに関するもの。香織の望む望まずに関係なく、強制的に始まってしまった魔術講座というものによって魔力というものに触れることになってしまった香織には彼に違和感を感じていたのだ。

 

 

 はっきりとはしていない。薄いけど確かにあるとわかるという微妙な気配。師にあたる魔女に相談してみたら、稀にだが一般人の中にもそういう気配を纏っているものもいるらしいとのことだが、なんとも気になる気配だった。

 

 

 だが、それもしばらく出会わなければ忘れてしまう程度のものでしかなく、しばらくすると受験勉強などが始まったこともあり、すっかり意識の外に追いやっていた。

 

 

 蓮弥と再会したのは最後に会ってしばらく経った頃、雫と蓮弥が一緒に歩いているところを偶然目撃した時だった。その時の雫は香織の目から見ても挙動がおかしくなっていたのを覚えている。まるで見られたくないものを見られたような態度に首を傾げた香織が雫に挨拶した後……

 

『こんにちは。久しぶりだね、藤澤くん』

『ああ、久しぶり。元気そうだな、白崎』

 

 初対面だと思っていた二人が、親しい友人のような挨拶を行ったことで雫が固まったのだ。

 

『…………蓮弥、知り合い、なの?』

『ああ、以前知り合ってな……偶に二人で会ったりしてたんだが、最近会う機会がなくてな。今日久しぶりに会ったという感じなんだが……』

『そんなッ……二人で!? …………香織、ちょっと来て』

 

 

 当時雫に対する自分の想いを自覚する前だった蓮弥の大して深い意味のない言葉を真に受けたらしい雫が、うつむき加減で香織を強い力で引っ張りながら蓮弥から離れる。

 

『ちょっとッ、雫ちゃん!?』

『いいからッ……話を聞かせて……』

 

 その幼馴染の今まで感じたことのない、有無を言わさぬ迫力に思わず素直に白状する香織。買い物の際に知り合ったこと、その際に料理好きの母親のことで意気投合したこと。示し合わせたわけではないが、何度も会う機会があったこと。香織が喋るたびに顔をうつむかせて沈黙が深くなる雫に少しビクビクしながらも正直に香織は話したのだ。

 

 

 そして……

 

『本当に? ねぇ、本当に……本当にそれだけなのよね?』

 

 そして表を上げた雫が半泣き状態になりながら詰め寄ってくる姿に香織は驚いた。驚きすぎてそれ以上の関係はないということを徹底して伝えたのだ。

 

 

 その時ようやくこの幼馴染が、件の彼に長年片想いをしていることに気づいたのだが、香織が実はその時初めて見た雫の半泣き姿に対して、少し可愛いと思っていたのはナイショだ。雫の方は香織の返答次第では、香織と絶交することになることも覚悟していたのだが。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 蓮弥から異能の気配を感じていた香織だが、まさかここまですごい魔術を使うとは思っていなかった。だからこそ、香織は少しだけ蓮弥とユナの存在に焦ったわけだが……正直言うなら香織は魔術を使えるということを明かされるくらいなら構わなかった。今やトータスに共に転移されたクラスメイトの大半は何らかの魔法を使用している。そういう意味でいうなら彼らは立派な裏の住人であり、おそらく地球に戻っても何もかも忘れて元の生活に戻るということは不可能であることは、裏の世界のことを多少知っている香織でもわかることだ。

 

 

 実際に自分とて些細なきっかけで巻き込まれたのだ。今となってはそれほど後悔していないが、日常を徐々に侵食していく非日常が煩わしくなったことがないと言えば嘘になる。だからこそ地球に帰ったクラスメイトも大なり小なり地球の裏に関わっていくであろうことは想像にたやすい。

 

(それにスタート地点はそれほど変わらないわけだしね)

 

 未だ半人前である自分とクラスメイトのスタート地点はさほど違いがない。魔術を習ったとは言っても教わったことと言えば、魔力の使い方と基本的な知識が中心であり、魔法っぽい魔法を学んだのは実はトータスにきてからだったのだ。だからこそ、クラスメイトに違和感なく溶け込めたのだし、自身の魔法適正などこの世界に来て初めて知ったくらいだ。それに何故かはしらないがトータスに来た時、香織は魔術に関する知識を消失していた。徐々に思い出してきたが、ハジメが落ちた際にどうしてその記憶がなかったのか恨みそうになったが、恨んでも仕方ないと思い諦めた。

 

 

 では何を焦っていたのか、それは魔術師であることを指摘されるのではなく、魔術師の在り方を指摘されることだった。

 

 

 師曰く、大なり小なり魔術などを使う人間は、目的のために手段を選ばない人間なのだろうということだ。それが理由で深く追求されたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(だって、しょうがないよね。どうしても……欲しいんだから)

 

 ハジメと再会して、そしてその彼の側にユエがいると知った時、香織は真っ当な方法ではユエには勝てないとわかってしまった。

 

 

 彼への想いに気付くのが遅すぎた。もし自身に魔術の記憶が転移当時からあったら違ったかもしれない。色々考えたりしたこともあるが、今更そんなことを言っても後の祭り。彼は、ユエという吸血姫に心を奪われてしまっていた。

 

 

 わかるのだ。ハジメのユエに対する想いが生半可な物じゃないと。あるいは当事者であるはずのユエも気づいていないかもしれないその想いを。

 

 

 けどだからと言って諦められるわけではないのだ。だからこそ、多少変則的な手段に頼ることになってでも本気で取りに行くと宣言した。ステータスプレートに表示されている項目に魔力濃度の表示がある。その表示には二種類の項目があり、その片方には12%と記載されている。それは、現在ハジメの身体の中にある魔力の内、香織の魔力の濃度の割合だった。これが何を意味するのかは現状、香織しか知りえないことだった。

 

(ユエには悪いけど……私は本気で取りに行くから)

 

 密かに覚悟を決めた半人前の魔術師は、ひとまず大迷宮の攻略に集中することにした。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そして、蓮弥と香織は無事にハジメと雫と合流することができた。

 

「なあ、蓮弥。お前から言ってやれよ、八重樫の使う魔法のこと。忍術だよなと言っても違うって聞かねぇんだよ」

「だから忍術なんかじゃないんだってば、大体現代に忍者なんているわけないじゃない。まさか南雲君、本気で信じてるの?」

「いや、だってあの印を組むところとか某ラーメンの具の主人公にそっくりだったじゃねぇか」

「あれは、その……気のせいよ」

 

 合流した時、ハジメと雫は延々と同じことを話していた。印を結んで魔法を使うあたりで自分より香ばしい術を使う奴だと思ったハジメが、いい加減に認めろよという雰囲気を出しているが、雫は意地でも認めないということらしい。

 

 

 雫は家が忍者屋敷だという事実を認めたくない。だが邯鄲の夢をどうやって説明したらいいかわからない。一番わかりやすい例えが皮肉にも忍術だというジレンマで悩んでいるらしい。蓮弥は雫にいい加減に諦めろと正直に言おうとしたが、少しだけ香織の方が早かった。

 

「たぶん忍術だと思うよ。だって雫ちゃんの家、忍者屋敷だし」

「ちょっと待ちなさい、香織!」

 

 慌てて香織に詰め寄る雫。蓮弥はその様子にデジャブを感じる。

 

「まさか香織まで知ってるの!?」

「むしろ雫ちゃん。なんで気づかれてないと思ったの?」

 

 雫が気づかれていないと思っていたことに驚いている香織を見て、蓮弥は共感を覚えずにはいられない。

 

「だって、雫ちゃんの家のお弟子さんとか、しょっちゅう天井に張り付いてたじゃない」

「そんな……まさか、香織まで……」

 

 orzの形で膝をつく雫。もしかしたら、そんなあからさまな醜態を晒していた家族に気づかなかった自分にショックを受けているのかもしれない。そして起きた際、ニヤニヤ笑うハジメに気づき軍帽を深く被り、ポニーテールを巻き巻きして赤くなった顔を隠す雫。

 

「まぁハジメ。人には知られたくないことの一つや二つあるもんだよ。お前だって黒歴史の一つや二つあるだろ」

「……いや、そりゃそうだけどよ。……わかったよ。俺も興味本意で聞いただけだしな」

 

 考え込む際に少しだけ身震いしたハジメ。ひょっとしたらハジメにも絶対に知られたくない黒歴史が本当にあるのかもしれない。それに今更忍術が使えるからといって驚くに値しないと思ったのか、大迷宮攻略に意識を割くことにしたようだ。

 

 

 その後、ジャングルの奥地を進んだ際に、難破船の墓場に遭遇し、そこで狂信者の幽霊のような集団に襲われたが……

 

「死人が動いてんじゃねぇよ。死ねや!」

 

 実弾が効かないとわかったハジメによるガトリングガンのような魔力弾の嵐を受け、狂気の軍団は軍隊レベルで消滅し。

 

聖術(マギア)4章8節(4 : 8)……"千重雷聖"

「数が多いな。……船ごと潰すぞ」

 

 蓮弥の放つ巨大な雷に巻き込まれて軍艦がまとめて壊滅する。

 

「死者は死者に帰りなさい!」

 

 雫の八重樫流裏奥義"首飛ばしの颶風"により、哀れにも死者の戦士達は魂を切り刻まれて消滅したあげく、勢いで戦艦ごと真っ二つに斬り裂かれる。

 

「"位相大廻聖"、それと"聖典"」

 

 香織が空間魔法と廻聖を組み合わせた広範囲エナジードレインを使うことで再生された死者を丸ごと魔力リソースに変換し、その魔力を用いて最上級回復魔法"聖典" を使い、メアリー・セレスト号を量産していく。

 

 奇妙な現象ではあったが、このメンバー相手には障害にはなり得なかった。

 

「これで最後か」

『はい、これで元の場所に戻れるはずです』

「何というか……あっけなかったね」

「オーバーキルすぎるわ。解放者だってこんな過剰戦力想定してないんじゃないかしら」

「終わったんならさっさと進むぞ。この程度で試練が終わりなわけがないからな」

 

 奥に行くとパーティー会場に到着した。よく見ると人族だけでなく、亜人族や魔人族らしき姿も見える。

 

「パーティー……だよね?」

「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」

 

 パーティーに参加している人達の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。

 

 

 一見平和の祭典というように見えるが、フードを被った人物を見た時、蓮弥はこの後起きることを悟った。

 

「蓮弥……」

「ああ、奴等の内の一人だ。ハジメ……どうやら楽しいパーティーは終わりみたいだぞ」

「どういうことだ?」

「これから始まるのは恐らく……惨劇だ」

 

 蓮弥の言葉を証明するように場の状況が動く。人族の王らしき人物が裏切ったのだ。一方的に蹂躙されていく亜人族と魔人族、エヒト賛歌を叫びながら狂ったように殺していく。

 

「……ひどいわね」

「これがエヒトのやり方ってことだろ。ゲスがッ」

 

 雫が目の前の惨状に対して流石に顔をしかめる。蓮弥は雫の前に立ち、その光景を見えないようにした後、()()()()()()()()()

 

「神滅剣……この『過去』を破壊する。消えろムシケラ」

 

 蓮弥は不定形の神滅剣でフードを被った銀髪の女を斬り捨てる。斬った瞬間不定形の剣は消えるが半端に使ったので仕方がない。だがそれで十分だった。女は断末魔の悲鳴を上げて消滅し、それに引きずられるように胸糞の悪くなる光景が強制的に終了する。

 

「おい蓮弥……今……何をした?」

 

 見るとハジメがどこか警戒するような目を蓮弥に向けてくる。事実ハジメは警戒していた。まるで先程の惨劇を起こした狂った王()()の狂気を、蓮弥が纏っているように見えたから。だが、蓮弥は何でもないかのようにその気配を霧散させる。

 

「ただの自己満足だよ。過去を破壊しても今が変わるわけじゃない。だが斬ったのは間違いない。せいぜい今斬った奴が今も生きていれば、嫌がらせくらいにはなっただろうということだ」

 

 蓮弥は少しだけ悪くなった空気をなんとかしようとするがどうしたらいいかわからない。そこで形成したユナが空気を変えるために口を開く。

 

「この大迷宮は精神的に追い詰められてもなお、前に進めるかを試しています。狂気を客観的に見せることでその脅威を伝えたいのだと推察します。ちょうど主観的に狂気を体感させるバーン大迷宮とは逆ですね」

「バーン大迷宮というと、蓮弥が言ってたSAN値チェックの大迷宮か」

 

 ユナの言葉に蓮弥とも大迷宮の知識を共有していたハジメが反応する。──ちなみにユナが知っているのは蓮弥と知識を共有できるだからだ──そして、雫がその時のことを思い出して少し嫌な顔をする。

 

「そういえばラウス・バーンが言ってたわね。君たちが体験した狂気は過去、現実として起きたことだって。……バーン大迷宮攻略中の私達もアレらと大差なかったと思うと、ゾッとするわね」

「そのおかげで俺たちは万全の準備と対策を済ませて攻略できるんだけどな」

「そうだな。……後は船内だけらしい。このまま進むぞ」

 

 その後、蓮弥達は船内に進み、そこで複数の幽霊に襲われることになる。どうやらこういうのが苦手らしい香織が、幼い頃からお化け屋敷のナイト役であった雫に引っ付きながら進むという百合百合しい光景を展開したりしていたが、襲ってくる幽霊が鬱陶しくなった蓮弥が最終手段を行使する。

 

「ひどく劣化してるみたいだけど、魂は魂だろ。ならせっかくだし丸ごと頂くか、"吸魂"」

 

 そして霊魂の天敵とも言えるスキルを発動した。聖遺物の使徒にとって剥き出しの魂など、もはや取り込んでくれと言っているようなものである。

 

 

 哀れ船内にいる霊魂は霧ごと根こそぎ蓮弥に吸収され姿を消すことになる。あとは倉庫の奥にある魔法陣まで一行は徒歩で歩いて行くだけになったのだった。

 




>魔術
どうやらあるっぽい神秘的な現象。純粋な魔術を使う古いタイプの魔術師(魔女)と科学を取り入れた魔導科学を用いる機工魔術士が存在する。この場合、香織が前者で真央が後者。

>夢を使う技術
夢を渡る術自体は邯鄲法以外にもあります。邯鄲法が規格外なのは夢を夢のままにせず現実に持ってこれる点なので、夢界に入る方法自体は他にもあったりします。

>雫さんの決死の覚悟
実は親友と想い人を同時に失うかもしれないと思ったシーン。もし実現してたら、雫は延々と夢界に引きこもってたかもしれない。

>香織さん
一応言っておきますが、彼女の属性が基本的に善性であることは変わりないのでそんなに酷いことにはならないはずです。やろうとしてることを知られるとユエやシア辺りから反則扱いされるかもしれませんが。それに最終ストッパー雫さんは香織に対してはまだ健在です。

>蓮弥君、プチおこ
今回蓮弥が使ったのは形成と創造の間の余技。練炭が創造前でも自己加速したりするあれです。せいぜい斬られた人が今生きてたらちょっと過去の傷が痛むくらいの嫌がらせです。流石に過去を修正することはできません。

次回、悪食戦開始

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