ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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修行回後半です。


幕間 修練の時間 後編

「ああああああああああああああ」

 

 一方その頃、香織と共に修行しているシア。

 

 親友であるユエが現在進行形で死と再生を繰り返すという過酷という言葉も生温い地獄にどっぷり浸かっている中、シアは何をしているかというと。

 

「ああああああああ、これさいこーですぅぅぅ」

 

 香織に膝枕されながら、例のマッサージを行なわれていた。

 

 そのユエが見たら異空間から飛び出し、習得したドロップキックを叩き込むであろう光景は、休憩時間でもなければサボりでもない。れっきとした修行である。

 

「シア、どんな感じ?」

「はい〜、ハジメさんから話は聞いていましたけどぉぉ〜これ最高ですぅぅ。全身の疲れという疲れがとけていくみたいですぅぅ。ふにゃぁぁ」

 

 香織のマッサージを受けて完全に力が抜けて垂れ兎になっているシアに対して苦笑しつつ香織が口を開く。

 

「こら、そうじゃないでしょ。私が言ってるのは魔力の流れのことだよ」

「あっ、はい。そうでした。すみません」

 

 香織に指摘されてシアは自分の中に埋没していく。

 

 感じる。香織によって促された魔力の流れが。シアは今まで曖昧な感覚でしかなかった魔力というものをはっきりと自覚する。そしてその流れの果てに()()()()()()()()()()大きな力の存在に気付き……

 

「シア」

「はっ、香織さん。ごめんなさい。私また」

「ううん、どうやら上手くいったみたいだね。そこまで到達したみたいだし」

 

 香織はシアに流している魔力をいったん止めてシアに向き直る。

 

「香織さん、あれ何だったんですか? 私の中の深いところにあるみたいでしたけど」

「もちろん魔力だよ。ただし、シアが普段使っているものとは違う、ね。これからシアにはもう一つの魔力である内気(オド)を使えるようになってもらおうと思うの」

 

 香織の当初の予定では、シアの身体に魔力を流して、シアに体内魔力の制御方法を感覚的に掴んでもらうことだけを考えていた。そして、シアの魔力回路がハジメのような複雑怪奇な構造になっているものとは違い、素直な構造をしていた為、すんなり香織の魔力を受け入れたのだが、ここで香織は思わず奥深くに行きすぎて、シアの奥にある大きな力の塊に偶然気付いてしまった。シアの中に眠っている力。それが自分の知識で言う内気(オド)であることに気付いた香織は、急遽予定を変更してこの力をまずは起こしてみようということになったのだ。

 

 

 だがその決意は香織の中だけにあるものであり、肝心の当事者であるはずのシアの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。だからまずはシアに今から自分がやろうとしていることを知ってもらおうと香織は説明を始めた。

 

 

「まず、魔力という力について説明するね。多分シアの中では魔力っていうものに分類なんてないと思うけど、実は魔力と一口に言っても全部で三種類に分けられるんだ」

「? 魔力に種類があるんですか?」

「そうだね。一つは魔素(マナ)、これは一般的に認識されている魔力と同一のものという認識でいてくれて構わないよ。星の息吹の具現化とも、星の魔力とも言われている魔素(マナ)は、世界のあらゆるところに満ちている力なの。魔力を持っているとされている人達は、魔素(マナ)を体内に取り込んで魔力回路で精錬して魔力に変換して蓄えているみたいな感じで覚えてくれたらいいよ」

 

 そして香織は指先から放出した魔力を器用に操作して空中に光る文字と図を描き、説明を行う。そこには人型の周りにある光の粒が人型に集まって血管のようなところで流れる物質になり、それが体中を流れているイメージが動くイラストで表現されていた。絶え間なく光る粒を取り込み続けて、その果てにできた水が身体に流れているイメージは視覚情報もあり、シアにとって、とても分かりやすかった。

 

「魔力操作という技能を持っている人というのはね、この体内に流れている魔力の流れを精神力でコントロールできる人のことを指すんだよ」

 

 今度は人型に流れる魔力の流れが変わり、指先から溢れ出す。そしてあふれ出した魔力は用意されていた魔法陣に注ぎ込まれて、光の球を生み出す魔法が発動する。どうやらこれが魔法を使うメカニズムなのだとシアにもわかった。

 

「ただこの魔力回路の数と質は基本的に生まれた時から決まっててね。これがないと魔素(マナ)は魔力に変換できないから魔力を使えないと言う感じかな。他にも体の内側に張り巡らされている回路は多いのに、外に放出するための魔力回路の数が少ない人もいる。シアもそんな体質で、基本的にどんな魔法にも適正がないの」

 

 香織曰く、シアの魔力回路は自分の体内に魔力を巡らせることに特化している反面、外に放出する回路がないか細いため魔力の放出が上手くできない体質なのだと言う。

 

「だから残念だけどシアが当たり前のように魔法を使うことは難しいと思う」

「そうですか……」

 

 シアは少し落ち込んでしまう。自分が魔法を使えないのは適正がないだけじゃなく、ユエのあのわけのわからない天才特有の擬音増し増しの下手くそな指導のせいだと思っていたのだ。だけどイラスト付きでこれ以上ないくらいわかりやすく魔力を扱うメカニズムを教えてくれた香織が難しいと言ったのならその通りなのだろう。ユエとは説得力が違う。

 

「そしてもう一つの魔力が内気(オド)。これは生物ならだれでも持ってるエネルギーでね。オーラとか、もっと単純に気とか呼ばれている力だよ」

 

 香織の魔力で作られたイラストが変化する。魔素(マナ)を絶え間なく取り込んでいた人型はその活動を辞め、代わりに体の中心に浮かび上がってきた光の球から魔力回路関係なしに渦を描くように力が流れ始めた。

 

「これが内気(オド)魔素(マナ)を精神力に宿る力だとするなら、内気(オド)は身体に宿る力だと言えるかな」

「ねぇ、香織さん。この様子だと内気(オド)も体の中に流れている力のようですけど、魔素(マナ)とどう違うんですか? それになんだか普段から使っているような気がしますけど」

 

 シアの印象からすると、この二つは出所が違うだけで同じエネルギーに見えた。なら知らないだけで普段から使っているんじゃないかという疑問が出てくる。

 

「それがそうでもないの。基本的に魔力がある人間はこちらの内気(オド)をほとんど使わないから」

「せっかく誰にでもある力なのに、ですか?」

 

それはもったいないとシアは思うが、香織は話を続ける。

 

「その理由はね、基本的に人間が生み出せるエネルギーより自然が宿しているエネルギーの方が大きいから。それに魔素(マナ)は精神力の力だから枯渇しても最悪、失神する程度で済むけど……内気(オド)は生命力そのものだから、これがなくなると生命活動を維持できなくなって死んじゃうの。……悪食の時に私が死にかけたのも内気(オド)が枯渇しそうになったのが理由」

 

 あの時の香織は空間に満たされた魔素(マナ)を反魔力生成魔法『堕天楽土(パラダイスロスト)』を発動させるために全て使っていた。だがあの時、崩壊する自分の肉体を維持するために再生魔法を常時発動しなければならなかった香織は、再生魔法発動に使う魔力を自前で補わざるを得なくなり、その結果、体内の魔素(マナ)で生成した魔力を使い果たした香織は、仕方なく内気(オド)に手を出し、結果的に死にかけたというわけだ。

 

内気(オド)というのが身体の中にあるのはわかりましたけど、それを使えるようになることで強くなれるんですか? 量はそんなにないんですよね」

 

 先程の香織の説明だと内気(オド)魔素(マナ)という薪がなくなった時の予備の燃料のような印象を受けた。無いよりはマシかもしれないが、それを引き出すことで本当に強くなれるのだろうかと思ってしまう。

 

「確かに内気(オド)魔素(マナ)より少ないというのは基本だけど、中には例外もあるの。その例外というのが肉体的に優れたポテンシャルを持っている生物。内気(オド)は身体に依存するエネルギーだから、人よりも生命力が強い生き物ならこの内気(オド)もそれ相応に強力になる。私が直接目撃した亜人族はシアとエリセンで出会った海人族くらいだけど、みんな人族より肉体的なポテンシャルは高かった」

 

 地球にて人類は、その優れた頭脳によって地上最強の生物として君臨しているわけだが、肉体的なポテンシャルという意味では実はそれほど強い生物ではない。おそらく単純に生命としての強さで比較すると犬や猫にも劣ると言わざるを得ない。そしてそういう生命力の強い生き物は精神力のエネルギーである魔素(マナ)よりも内気(オド)の方が強力であることが多い。

 

「つまり、私達亜人族は身体的に人族よりも優れているからその内気(オド)という力も多いということですか?」

「うん、その通り。特にシアの中に眠っている力はさっき見た限りだと相当大きい。たぶん今扱っているシアの魔力よりも大きいんじゃないかな」

「!?」

 

 つまりそれだけの力がシアの中で使われずに眠っているということだと香織は言っているのだ。

 

「それをこれから起こそうと思う。今までより深いところにアクセスすることになるから少し痛いかもしれないけど、頑張れる?」

「もちろんです。これで強くなれるんだったらなんだってやってやりますよ!」

 

 ガッツポーズをしつつ、気合を入れるシアを微笑ましく香織は見守る。こういう素直で前向きなところはシアのいいところだ。思わず応援したくなる。

 

 

 そして再びシアは香織による膝枕の姿勢になる。

 

「それじゃあいくよ。身体から力を抜いて、リラックスしてね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 そしてシアに魔力を流し込んでいく香織。最初は今まで通りゆっくりと、だけど確かな感触でシアの中に香織の魔力が浸透していく。シアの身体を再び心地の良い感覚が包む。

 

 

 そしてそれをしばらく行った後、ゆっくりシアの中心に向かって魔力を伸ばす。

 

「ぐぅぅッ」

 

 シアが一瞬走った痛みにうめく。それでも香織の手は止まらない。本来なら何年もかけて緩やかに開いていくのが正しいこの力の門というべきものを、香織は優しくも力強く開いていく。

 

 

 シアが手を握りしめる。かなり痛いはずなのだが、それでも歯を喰いしばって耐えていた。

 

 

 そしてある地点を境に、シアは自分の中で何かが外れる音が聞こえた。

 

 

 身体を駆け巡る力の奔流。それは力強くも荒々しく、シアの体内を流れて傷つけようと暴れ狂う。その激流を香織は自身の魔力を混ぜて制御することでゆっくり整地するように整えていく。

 

「シア、自分の中に流れる力の河が緩やかに流れるようなイメージを持って」

 

 素直にシアは故郷の森にある穏やかな川を想像する。鳥の鳴き声に川のせせらぎ、そんな穏やかな想像と共に、シアの中で荒れ狂っていた力の流れが穏やかになっていく。

 

「うん。もう大丈夫だよ。身体を起こしてみて」

「はい」

 

 シアは言われた通り身体を起こして、立ってみる。一通り体調を自己確認してみたが、おかしいところはない。

 

「それじゃあ、ゆっくり。身体の内側から力を引き出してみて」

 

 シアは目を閉じて自身の内側と向き合う。先ほどは香織によって引き出された力だ。一度引き出した感覚を覚えた以上、自分一人でもできるはずだと、内側に手を伸ばし。

 

 

 目を開けると自分が薄ら光に包まれているのを感じた。

 

「これが、内気(オド)ってやつなんですか?」

「正確に言うと内気(オド)が精錬されてできた魔力。人によっては闘気(オーラ)なんて名前で呼ぶこともあるかな。普段使っている魔力よりも、より身体強化に特化した魔力だよ」

 

 シアは確かに内側から力が溢れている感覚を感じていた。

 

「けど香織さん……これ出してるだけで結構疲れますよッ」

 

 シアは現在闘気(オーラ)を顕在している状態だが、それを維持するのに思っていた以上の消耗を強いられていた。力は増しているかもしれないが、同時に体の奥底にある力をぐいぐい吸い上げられているイメージ。

 

「それはそうだよ。そう簡単にコントロールができたら苦労しません。内気(オド)はさっきも言ったけど使い切ると死んじゃうから、ちゃんとコントロールできるまでは無茶な使用は厳禁だからね」

「はい、わかりました」

「いい? シア。……最終的にシアには精神力の力である魔力と身体的な力である闘気(オーラ)()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

「一度に……ですか?」

「うんそう。まだ個別のコントロールを習得するのが先なんだけどね。……もしシアが()()を習得したら……今までとは一線を画するようになるかもしれないよ」

 

 

 だからまずはその力になれる練習と言わんばかりにその状態を続けるようにシアに言う香織。

 

 

 香織の最後のつぶやきはシアにはまだ届かない。

 

 

 彼女達の修行はまだ始まったばかりである。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 そしてその日の夜。野営にて……

 

「みんなぁ! ご飯できたよぉ!!」

「蓮弥、少しだけ配膳のお手伝いをお願いします」

 

 いつも厨房に立っているシアに変わって、今日は香織とユナが夕食当番になっていた。エリセンで手に入れた新鮮な魚を使ったアクアパッツァをメインに、野菜がたっぷり入ったポトフに生ハムのサラダ。ウルの町で手に入れた米とエリセンの新鮮な魚介を使ったシーフードリゾットなど中々立派なものが出てきたと思う。蓮弥は素直においしそうだと思った。香織もユナも料理ができるというのは伊達ではないのだとわかる出来栄えだ。

 

 

 さて、香織がハジメの主治医の地位に納まって以降、キッチンこそ自分の城だと宣言して憚らないシアが、なぜ夕食を用意していないのかというと……単純に動けないからだ。

 

 

 蓮弥が見た限り、シアは相当疲弊しているのか、夕食の準備が終わるまで突っ伏して顔を起こさなかったくらいだ。香織曰く、これは魔法で治したら意味がない類の疲労なのだとか。

 

 

 そしてもう一人、本日修行を行ってきたユエはと言うと。

 

 

 アクアパッツァに使われている立派な白身魚と同じ目をしながら魚とにらめっこしていた。

 

「おい、ユエ。……大丈夫か?」

 

 耐えかねたハジメがユエを心配する。恋人が死んだ魚と同じ目をしていたら不安にもなるだろう。ちなみに蓮弥はユナが一体どんな訓練をしていたのかは知らない。

 

「………………ん」

「滅茶苦茶反応が鈍いな。本当に大丈夫なんだろうな?」

「…………大丈夫。たった……たった1()4()2()()死んだだけだから」

「…………それはどういう反応を返せばいいんだよ……」

 

 142回死んだというパワーワードに一体どんな訓練をしていたのか気にならないわけもなく、蓮弥は香織と共に作った料理に舌鼓を打っていたユナに聞いてみる。

 

「なあ、ユナ。一体ユエとどんな訓練を行ってたんだ」

「もきゅもきゅ、ごくん。……そうですね。まずはユエの自動再生の制御の訓練を。あとは私の体術を文字通り身体で覚えてもらっている最中です」

「自動再生の訓練って。まさかユナ、あの空間を使って死に巡り訓練をやってるわけじゃないでしょうね」

「その通りですよ、雫」

 

 雫の嫌な予感にユナはあっけらかんと答える。

 

「自動再生を鍛えるにはどうしても破壊と再生を繰り返すのが一番の近道なのです。ユエが何年も時間をかけていいと言うのならもう少し穏やかな方法もあったのですが……ユエはそれを望んではいないみたいだったので」

 

 ユエの心意気は買うが、少し無茶がすぎるのではないか。そう思った蓮弥だったが、美味しい食事(ハジメの血を含む)を食べたことで少し目の光を取り戻したユエが口を開く。

 

「大丈夫。痛覚操作のおかげで痛みはないし……自動再生の訓練なんて初めてやったから意外と新鮮」

 

 どうやらユエ自身は後悔しているわけではないらしい。

 

「もちろんユエの一番重要な訓練は後に控えています。むしろ今はそれに向けての土台作りという段階ですね」

 

 ユナも行き当たりばったりではなく、ちゃんと計画してやっているらしい。それならばユエ自身が納得している修行に口を挟むべきではないだろう。

 

「シアは何をしておるのじゃ?」

 

 ティオが身体を動かし辛そうにしているシアの現状を見て、香織に問いかける。蓮弥の目から見ると結構ハードな肉体トレーニングをした後のような感じになっているが確か魔力の使い方を学ぶと言う話ではなかっただろうか? 

 

「シアは闘気(オーラ)の使いすぎだね。なれない力を使う以上、仕方ないことなんだけど、張り切りすぎちゃったみたいで……」

 

 こうなってると言わんばかりに食器片手にプルプル震えているシアの方を向く香織。

 

「シア、大丈夫か?」

「大丈夫です。体中痛いですけどなんとか」

 

 ハジメの言葉にしっかり応えられるあたり、へばっているわけではないようだった。

 

「それにしても闘気(オーラ)とな。もしやそれは普段体内に眠ってる魔力のことかの、香織よ?」

「そうだけど、流石だねティオ。知ってるんだ?」

「うむ。妾達は龍気と呼んでおるが、魔力という力が二種類あるということは知っておるよ。もっとも扱うものはもうほとんどおらぬじゃろうが。妾も竜化する際に使っておるだけじゃしの」

 

 ティオ曰く生命力そのものを利用する力らしい。昔は強力な身体強化を使う人間はこれの使い手だったというパターンがそれなりにあったらしいが、魔力操作が禁忌扱いされ始めたあたりで使い手がいなくなってしまった古い技術らしい。

 

「こう、龍気を使ってしまった後の疲労感がまたたまらなくての。そこにご主人様の折檻が加わればなお良しなんじゃが」

「最後で台無しだよこの駄竜ッ」

「あひん。そう罵るではないご主人様よ。思わず龍気とかその他色々なものが漏れてしまいそうじゃあ」

 

 相変わらずのティオにツッコミを入れるハジメ。この流れが鉄板化してきている気がする。いっそ漫才でもやったらどうだろうかと蓮弥は完全に他人事でそう思う。

 

「あれ?」

 

 そこでようやく料理を食べ終えたシアが疑問の声を上げる。

 

「そういえば確か香織さん、魔力の種類は三種類って言ってませんでしたっけ? 後一つはなんなんですぅ?」

 

 シアの質問に対してそういえば言ってなかったと香織は思い出し、一瞬蓮弥を見た後、質問に答えることにする。

 

「シアにはさっき言ったけど、人間が生み出す内気(オド)は基本的には自然の恩恵である魔素(マナ)よりずっと弱いの。人間を一個の生物として見た場合、人間はそれほど強力な生命体ではないから。だけどね、人間をそのまま人間として見た場合、話は変わってくる」

 

 香織の理屈だと人間もまた自然の一部としてとらえた場合、人間なんて取るに足らない生き物にすぎないから大した魔力を生み出せない。だが人間として見たら違うということらしい。一見意味が分からないが、それについて蓮弥は何となく答えがわかってしまった。

 

「この世界出身の皆にはピンとこないかもしれないけど、人間はエゴや欲望で環境を汚染して破壊を行う、自然を凌駕する存在なんだよ。私達がいた地球の環境問題なんかを想像してもらえればわかるかな」

 

 蓮弥やハジメ、それに雫はその説明で納得する。確かに人間を自然の一部と捉えると大したことがないが、人間はその欲望で自然を破壊する。つまり自然の恩恵である魔素(マナ)よりずっと強力なエネルギーを生み出す手段があるということ。

 

「その人間のエゴとか、欲望とかを抽出して利用したものを『魂の力』と呼ぶんだよ。ただしこの力は非常に扱い辛くてね。当たりまえの話だけど、もし地球で人間のエゴの暴走で自然が破壊されつくされたら人間は生きていけないよね。だからこそこの力は基本的に自滅に向かう力と言われているんだよ。つまり人間が扱うエネルギーの中で一番強力だけど制御が困難でリスクが大きい力という感じになるのかな」

 

 そして香織が蓮弥を一瞬見た理由もわかった。なぜなら蓮弥が使う複合魔術『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』は、その魂の力で駆動しているから。香織もそれを理解しているのだろう。

 

「だから今は考えなくてもいいかな。シアはこれから地道に訓練すること。もう少し扱いに慣れてくれば、こうやって倒れることもなくなると思うから」

「わかりました、香織さん!」

「いい返事だね。その意気だよ」

 

 どうやらこちらはいい師弟関係を築けているようだ。一方ユナとユエと言えば……

 

「確かに始めた当初よりかはマシになりましたが、まだまだ再生速度が遅いことには変わりありません。……これからも厳しくいきますが覚悟はいいですか」

「大丈夫ッ。いつまでもやられっぱなしではいられない。次は死亡回数……二桁で済ませて見せる!」

「いいですね。その意気です」

 

 こちらも良い? 師弟関係を築いていた。少なくともユエは精神的な消耗が回復し、前向きになっているようだ。

 

「なあ、ユエ。本当に大丈夫なんだろうな。死亡回数って聞き覚えがありそうであってはならない単語が聞こえてきたんだが……一応確認するけどこの世界は、某世界一有名な赤帽子のひげおやじの代表ゲームみたいな残機制じゃないんだからな」

 

 一方、恋人から死亡回数などという物騒な単語が聞こえてきて不安を隠せないハジメ。ハジメの脳内では今までゲームを攻略するために犠牲になってきたオーバーオールのおじさんの数が浮かんでいるのだろう。

 

「そういう意味でいうなら、ユエは魔力さえあれば残機は無限です。さて、食事休憩が終わったらもうひと修行やりますよ、ユエ」

「ハジメ!」

 

 そういってユエはハジメに向き直る。ハジメは心配そうに見ているがユエは心配ないと言わんばかりに武者震いだろうか、震える手を握り、親指を立てる。

 

「逝ってきます……」

 

 その一言と共に、ユナと創造空間に消えたユエ。これで食事の後片付けや就寝の準備を行い始めたメンバーを除き、ハジメと蓮弥だけが残される

 

「……」

「…………安心できねーよ」

 

 ハジメのツッコミが、夜の闇に溶けて消えた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 それから一週間が経過した。

 

「同時発動、"聖練炎槍"、"聖練氷槍"、"聖練雷槍"」

 

 炎、氷、雷の槍をユエに向かって飛ばすユナ。

 

「”極大・黒玉”」

 

 ユエも負けじと迫る魔法の槍を極大の重力球にてまとめて破壊する。

 

「”極大・蒼天槍”」

 

 蒼天三発分を重力魔法で圧縮して生成した槍をお返しに投擲する。それが真っすぐユナに飛んでいき、命中する寸前でユナの姿が消える。

 

「ッ!!」

 

 いつの間にか右に現れていたユナの突きを半身になって躱す。お返しに懐に潜り込んで服を掴み、ユナの力に沿うようにして空中に投げ飛ばす。

 

「”極大・天雷槍”」

 

 今度は雷属性最上級の攻撃魔法「天灼」3発分を 重力魔法で槍状に圧縮して投げ飛ばされて空中に浮いているユナ目掛けて投擲する。それをユナは聖壁で受け止めるが、その勢いで吹き飛ばされる。

 

「いい反応速度です。ようやく慣れてきたみたいですね」

「当然。あれだけ何度もやられてたら学習する」

「ならこれならどうでしょうか……

聖術(マギア)1章5節(1 : 5)……"聖焔操火"

 

 炎の弾幕を放ってくるユナに対してユエは躱すことで対応する。ここでむやみやたらに飛んだりしない。攻撃を躱すために、重力魔法をいちいち使っていたのでは、魔力と魔法制御力のリソースを無駄に取られる。

 

 

 ユエは足元に魔力を溜めて爆発させることで横に高速移動する。もちろんユナの魔力弾が追いかけるが、ユエは辛うじて躱し続ける。もちろん全てよけきれるわけではないが、最小限のダメージで済ませられるルートを即座に導き、あえて魔力弾の中に飛び込むことで負うことになった傷を瞬間回復させる。

 

 

 自動再生の派生技能『再生操作』、そして同じく派生技能『超速再生』。再生操作はその名前の通り、今までコントロールできなかった再生力を任意で操ることを可能にする技能であり、超速再生は再生するために必要な魔力量は増えるが、再生速度が大幅にアップする。全身の再生や身体の半分以上の再生にはまだ時間がかかるが、軽傷なら一瞬、腕の欠損などの末端パーツの損失程度なら数秒で再生できるようになった。

 

 

 意識することなく使える自動再生。そして移動に無駄な魔法を使わなくなった分、余ったリソースで魔法を組み立てる。

 

「”虚空絶禍”」

 

 重力空間複合魔法『虚空絶禍』。空間魔法により干渉できる範囲を広げた絶禍で迫りくる数百個の魔力球をまとめて葬り去る。

 

「やった!」

 

 この段階で死んでいないのは初めてだ。ユエは一瞬気を緩めてしまう。

 

「甘いです」

 

 そして手をかざすユナを警戒するユエだったが、ユナが詠唱する前に、地面から生えてきた土槍で腹部に風穴を開けられる。

 

「がはっ」

「惜しかったですね。けど上はともかく下への警戒がおろそかになっていました。ではこれにて終了します。聖術(マギア)3章2節(3 : 2)……"聖槌"

 

 続けざまに現れた大岩でできた戦槌は振り下ろされ、動けないユエを地面のシミへと変えた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

「だいぶ様になってきましたね。全身再生時間も随分早くなったようですし、すごい進歩です。流石ですね」

「…………ありがとう」

 

 

 一応お礼を言うユエだったが、非常に複雑な心境だ。何しろこの一週間ひたすら死んで死んで死んで死に続けたからこそ、ここまで再生が早くなったのだから。ユエは命って軽いんだなと改めて思ったり、そもそも自動再生は何を核にして再生しているのだろうか考えたり、そもそも全身塵にされて生き返った自分は、本当に以前の自分と同じ存在なのだろうかとちょっぴり哲学的なことも考えたりした。それほど過酷な一週間だったと言える。

 

「体術の方も無事に強制共感能力が働いているようで何よりです」

「不思議な感覚だった。まるでユナの経験が自分のものになったかのような……」

 

 体術の訓練に関してはちょっとした裏技を使用した。ユナの固有技能である霊的感応能力を使用したのである。以前雫と修羅場を演じた時に、接触を繰り返すことで強制共感能力が起きたが、ユナはそれを利用してユエに直接自分の経験値を渡し、本来の何十倍もの経験値をユエが得られるようにしたのである。流石にまだユナほどではないが、ヤコブ神拳初伝(ゴロツキの集団を素手で制圧&素手で石を割れるレベル)には到達しただろう。

 

 

 そして以下が修行を行った現在のユエのステータスである。

 

 ====================================

 

 ユエ 323歳 女 レベル:96

 

 天職:神子   職業:冒険者   ランク:金

 

 筋力:420

 体力:800

 耐性:320

 敏捷:420

 魔力:18360

 魔耐:18322

 

 技能:自動再生[+痛覚操作][+再生操作][+超速再生]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法・空間魔法・再生魔法

 

 ====================================

 

 魔力が大幅にアップしたほか、その他のステータスで言うなら体力と敏捷が大きく上昇している。これもひたすら死んで死んで死んry

 

「魔力量が大幅に伸びたおかげで、今まで使えなかったような魔法を使えるようになったことは喜ばしいことですが……ユエ、気づいていますね」

「……成長限界が近い」

 

 現在のユエのレベルは96。トータスのステータスプレートはその所有者の潜在能力を計測しているとされており、レベル100がその人間が到達できる領域の現在値、つまり人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということである。その理屈で言うと、ユエはその潜在能力のほぼ全てを引き出しつくしたということに他ならない。

 

「このままレベル100まで行くと、魔力量の限界値は約2万が限界ということになる」

 

 そうなると普通の方法で修行を行ったところで永遠に成長は訪れなくなるだろう。何らかのブレイクスルーが必要となる。

 

「そうですね。……今日まではユエには基礎体力を付けてもらいたかったので()()()していたのですが、もう必要ありませんね。これから三つ目の修行である魔力増大(新技)の訓練に進みたいと思います」

「……ちょっと待って!!」

「なんですか?」

「今……聞き捨てならないことを言った」

 

 ユエがぶるぶる震えながら首をかしげているユナに問いかける。

 

「新技の修行についてですか?」

「いや、そうじゃなくて……手加減してた? あれで?」

 

 ユエの脳裏に地獄の一週間が蘇る。蘇っては殺され、殺されたと思ったらまた殺される。とにかく殺される。そんな間違いなくユエが活動した時間という意味では一番過酷な一週間だったと言えよう。

 

「あたりまえじゃないですか。ユエ自身が言ったことですよ。成長限界が近いと。レベル100が人間の到達点だとするならレベル100を超えるためには普通とはかけ離れたことをしなければなりません。例えば蓮弥のように規格外の魔術を習得するか、ハジメのように魂の崩壊を乗り越えて魔物の力を取り込むとか、香織のように気合いと根性で限界を何度も超えるとか」

 

 つまり普通ではないことをしなければ、現状の壁を超えることはできないということだろうか。ユエとてこのまま終わりたくはない。もっと強くなれるのなら大歓迎だ。

 

「具体的にはどうするの。またひたすらデスるの?」

「いいえ。もちろん、これからも自動再生の訓練は続けてもらいますが、今度からは別の訓練になります。いえ、むしろこれまでの訓練は全てこのためにあったと言えます」

 

 ユナが真剣な顔でホワイトボードに何かを書き始める。

 

「これから習得してもらうことになる技は本来、私の技ではありません」

「じゃあ、誰の技なの?」

「…………()()()()()()()()

 

 ユナの師匠。ハジメが時々ユナから飛び出すその言葉を聞くたびに微妙な顔をするので、知ってるのか聞いてみたら。

 

『いや、なんというか……俺達地球人で知らない人はいない世界一有名な聖人というか……そのくせ日本人は恐れ知らずに立川在住設定にしたりしている人というか……』

 

 結局お茶を濁すばかりで要領を得ない回答だったが、要はあのハジメがビビるくらいすごい人らしいということは伝わった。

 

「正確に言えば、吸血鬼であるユエと我が師では属性が正反対なので全く同じには成りえないでしょうが、それでもやること自体は同じです……これから行うのは……」

 

 これから始まる過酷な修行の始まりを告げる一言を、ユナは発したのだ。

 

 

 

「ユエ、あなたの天職である『神子』、あの人と同じその天職の力を……使いこなすための修行です」




気になるところで終わりましたが、これで修行回は終了。後は今後の修行の成果のお披露目回で明かされるはずです。

次回から第五章後半、原作で言う王都襲撃編あたりの話が始まります。当然クラスメイトも多数出るし、現状のクラスメイト周りや王都周りがどうなっているのかの説明も順次入れていく予定です。

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