ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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クラスメイトと香織サイドです。


王都戦線~香織サイド~

 王都の民達は混乱と恐怖の極致にあった。

 

 

 突如始まった魔人族との戦争。それは魔人族の部隊が展開されれば、魔人領との境目であるライセン大峡谷監視隊から連絡が来るはずの王宮の情報網すら素通りしていきなり開戦した。

 

 

 王都を守る絶対の防壁であるはずの大結界はあっさり崩れ去り、既に王都内に無数の魔物が侵入している。その事態に王都の民達は避難も碌にできず、王都にいる戦士たちは彼らを王国最後の砦である王宮に避難させつつ、魔物たちを相手にしなくてはならなくなった。

 

「落ち着いてッ、市民の皆さんは落ち着いて王宮まで避難をッ!」

「魔物がくるぞーッ! ここが正念場だぞお前達!」

「ここから先は一歩も通さない!」

「王都は我々が守るのだ!」

 

 王国騎士達の士気は意外と高い。現時点で王国兵の何割かが行方不明という異常や世界で起こっている異常を察知していたメルドによって、常に警戒態勢をとっていた成果が表れている。

 

「ひぃ、来るなーッ。なぜ、なぜ神は我々を救ってくださらないのだ!」

「やっぱり、やっぱり私達は神に見捨てられたのだ。おおー神よ。そなたの主命の通り、今そちらに参ります」

 

 一方、聖教教会の人間はこの事態に碌に動くこともできていない。外の世界に目を向けるのではなく、内にばかり目を向けていたツケを払うことになった。もっとも、警戒線を一気に飛び越えて王都に迫るばかりか、いきなり王都の大結界が破壊されるなど想定しろというのも難しいが。

 

「ま、まさか魔物がこんなに! こんなの無理に決まってるッ。畜生、こんな依頼受けるんじゃなかったッ」

「何言ってんだ小僧。俺達は傭兵。金を受け取った以上、仕事はしなきゃならねぇんだよ。ほら、行くぞ」

 

 雇った冒険者は、高い依頼料に目が眩み、こんなはずじゃなかったと嘆く若い冒険者と王都の警護だけにしては破格すぎた依頼料からこうなることを薄々想定していたベテラン冒険者という風に分かれた。現状、ベテランが引っ張ることでなんとかなっているが、ベテランが倒れ出すと危ないかもしれない。

 

 

 まとめると現状は何とか均衡を保っているが、何かのきっかけで態勢が崩れる可能性は否定できない。そして、いつも最悪のタイミングでそれはやってくる。

 

 

「な、なんだよアレ……」

「あれが……魔物だと言うのか……」

 

 王都の南、王都から脱出するための唯一の出入り口である南の正門の側で超巨大生物が出現した。全長四十メートルを超えるその魔物は咆哮を上げながら行動を開始し始める。

 ただ大きいというだけで与えるプレッシャーは相当だった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 それは市民の声か、或いは教会関係者か、もしくは恐れつつも戦っていた若い冒険者の声か。だが、それが始まりだった。王都の民達の恐怖は限界を超え、こぞって巨大怪獣から一番遠い位置にある王宮に向かって無秩序に逃げ始めた。

 

 

 王都騎士が落ち着くように促しているが、まるで効果がない。そしてそんな大混乱状態でまともに戦えるはずもなく……

 

「魔物が、魔物がこんな傍までッ!」

「もう駄目だッ!」

 

 サイクロプスもどき、イノシシ、狼。種族バラバラの魔物群が王都の中心の侵入を開始したのだ。

 

「あっ」

 

 逃げていた女の子が男に突き飛ばされて転ぶ。母親らしき人影が必死に手を伸ばすものの、避難する群衆に巻き込まれてしまう。

 

 

 そして運悪く、その女の子は狼型の魔物の標的にされてしまう。大口を開けて喰らいつこうと飛び掛かってくる狼に対して女の子ができることは、もはや目を閉じてその時が来るのを耐えるしかない。

 

「…………」

 

 だが思っていた時間は中々訪れない。女の子がそっと目を開けると……

 

「もう大丈夫だよ。俺が必ず……助けて見せるから」

「……勇者様っ!」

 

 そこには狼を一撃で両断した人族の勇者、天之河光輝が輝く聖剣を構え佇んでいた。

 

「みんな行くぞッ、俺達がみんなを救うんだ!」

『おう!』

 

 そこに現れたのはこの世界の住人ではない。だが、この世界を救うために現れた集団。

 

「勇者パーティーが来てくれた!」

 

 人々の顔に希望が宿る。次々に勇者を称える声を聞きながら、それでも警戒を一切緩めず光輝は冷静に状況判断を行う。

 

「永山パーティーは王都の民達の避難誘導を、先生の護衛隊は兵士達の援護を……俺達は……前に出て魔物を倒すぞ」

「おう、任せろ!」

「うん、頑張るよ!」

 

 素早く指示を出した光輝にクラスメイトは淀みなく応える。ここにきて行ってきた連携訓練の成果が発揮される。

 

 

 だが、魔物も待っているだけではない。すでに相当数の魔物が入り込んでおり、王宮の方角を目指して突き進んでいる。

 

 

 そして勇者パーティーの眼前にも、巨大イノシシが現れる。体長十メートルはありそうなイノシシ型の魔物は、風を纏いながら猛烈な勢いで勇者パーティ―に向かって突進してくる。その巨大イノシシの前にいるのは龍太郎。その威圧はおそらくかつての強敵であるベヒモス以上。それでも龍太郎は余裕の笑みを浮かべ、両手を前に構える。

 

「こい!」

 

 激突するイノシシ。広がる衝撃波に王都の民や兵士達は悲鳴をあげるが、すぐに愕然とする。

 

「へっ、効かねぇよ。後ろには守らなきゃならねぇ奴らがいるからな。ここから先には通さねぇ」

 

 巨大イノシシの突進を後退することなく止めた龍太郎は、右拳を握り、その拳に纏っている闘気を集中させ……

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 巨大イノシシの腹部に叩き込んだ。

 

 爆発したような炸裂音を響かせながら、重さ数十トンはあるはずの巨大イノシシが空を舞いながら飛んでいき、壁に激突して粉砕された。

 

 

 その目を疑うような光景を眺めていた王都の民達だが、突然歓声が上がる。

 

「おい、お前ら。応援してくれるのはいいが、早く避難しろ。ここは俺達が引き受けるからよ」

 

 その声は確かな覇気を漲らせていた。訓練で成長は実感していても実戦は久しぶりだったのだ。自分は強くなったという確かな手応えが龍太郎に自信を与える。

 

「”聖絶・散”」

「ってうおぉぉぉぉぉ!?」

 

 突然龍太郎に聖絶が張られたと思ったら遠距離から灰竜の一体がブレスを放っていたところだった。だが張られた結界によりそのビームは拡散し霧散していく。その結界の強度は以前とは比較にならない。勇者パーティーの結界師、谷口鈴もまた成長していた。

 

「油断大敵だよ、龍太郎君。龍太郎君が強くなったのは認めるけど、気を緩めないようにね」

「おう。サンキュー谷口」

「ふふ、どういたしまして。ほら、暴れておいでよ。”聖絶・纏”」

 

 そういうと鈴は聖絶を龍太郎の周りに展開する。

 

 聖絶・纏

 

 個人単位にまで結界を小さくする代わりに魔法攻撃などの遠距離攻撃に対する防御力がアップする新技だった。

 

「よっしゃあ、いっちょ派手に暴れてくるとするか!」

 

 防御結界を纏いながら魔物を相手に拳を振るい豪快に吹き飛ばしながら派手に暴れまわる龍太郎とは違い。この男は静かだった。

 

「はぁっ」

 

 一体。

 

「ふっ」

 

 また一体。

 

 確実に葬っていくのは勇者天之河光輝だった。その無駄のない攻撃は確実に魔物の急所を一撃でとらえ、最小限の動きで魔物を狩っていく。

 

 

 王都騎士に指示を出しつつ、横目でその光景を見ていたメルドはにやりと笑う。ここにきて、光輝の特訓の成果が出ていることを確認したからだ。

 

 

 光輝の訓練を行うにあたって、メルドは派手な技より細かい技術を教えることを優先した。理由は聖剣が大破し、以前よりパワーダウンしていると知らされていたことと、光輝の精神鍛錬に必要だと思ったからだ。

 

 

 以前の光輝は、練習では上手く動けるのに、実戦になるとどうしても派手な技や型に頼ってしまう癖があったのだが、それを矯正するために徹底的に対人訓練を行いメルドの技を叩き込んだ。基本的に魔人族より能力が低い人族が、魔人族に対抗するために培った技術。それは光輝から無駄をそぎ落とし、より効率的に敵を葬ることのできる精神を与える。

 

 

 光輝達勇者パーティーの登場はこの場の空気を変えた。勇者パーティーが魔物を蹴散らすことで騎士達の士気が上がる。

 

「聖浄と癒しをもたらさん……”天恵”」

「ああ、助かったよ。ありがとう」

 

 永山パーティーの治癒師、辻綾子が負傷者の治療にあたり……

 

「ふん!」

 

 重格闘家の永山重吾によって、魔物は次々と投げられ、待機していた野村健太郎の土槍によって魔物が串刺しにされる。仮に打ち漏らしても問題ない。

 

「ひぃぃぃ、お助けぇぇぇぇ……あれ?」

 

 打ち漏らした魔物が市民を襲っても突如跡形もなく消えるのだから。

 

「出ました、遠藤マジック! ……でいいんだよな?」

「もはや魔物がいたという痕跡すら残らんから本当に魔物が存在してたかあやふやだよな」

「だよなー。……本当に仕事してるのか?」

「してるよッ。俺、必死に頑張ってるからね!」

 

 近藤達に怪しまれながらもいつもより()()()()()()()を構えてちゃんと仕事をする遠藤浩介。

 

「ほらほら、みんなもっと頑張れー。”身体強化(フィジカルブースト)”」

 

 付与師である吉野真央の身体強化の援護が入る。

 

 香織、雫、恵里と次々脱退者が出た勇者パーティ―とは違い、永山パーティーは高いレベルで纏まっていた。間違いなくパーティー単位なら最強は彼らだろう。

 

 

 傭兵などを援護している優花達護衛隊メンバーもその力を振るっていた。

 

「やぁぁぁ!!」

 

 操鞭師である妙子が鞭を振るい、冒険者たちにまとわりついていた魔物を蹴散らす。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 玉井が二本の湾曲刀を振るい、魔物を倒していく。

 

「私たちもいくよー」

 

 後衛組である奈々、相川、仁村が魔法で兵士達を援護していく。そして……

 

「さて、ちょっと派手にやりましょうか。行くわよ」

 

 空中を浮かぶ数十本の七耀を構えて、優花が魔物を狙う。七耀の数はどんどん増えていき、優花の背後、上空を埋め尽くすまで増えた時。

 

「全武装連続投射!」

 

 優花の号令と共に、無数の七耀が戦場を入り乱れて勢いよく射出された。さらにそのナイフ操作技術に磨きがかかった優花は、敵味方混戦としている中でも的確に標的のみを撃ち抜く。いきなり飛んできたナイフに驚きつつもそれが自分達を躱して魔物のみを狙い撃ちすることから味方の援護だと判断した冒険者組が一気に盛り返す。

 

 周囲の魔物の殲滅を確認したメルドが勇者一行に激励を飛ばす。

 

「油断するなよお前達ッ。まだ魔人族の部隊が来てないからな。奴らがきたら本番だと思え。……本当はもっと経験を積ませてやりたかったがこれだけは言っておくぞ……その時がきたら……躊躇うな」

 

 メルドの言葉で生徒達の顔つきが変わる。この2か月間、対人訓練を通じて教わってきた人を傷つけると言うこと。そしてその先にある行為を実施できるかの瀬戸際まで来ていると感じざるを得なかった。

 

 

「来るぞーッ、全部隊警戒せよ! 奴らだ」

 

 その言葉と共に上空を見上げると、そこには無数の影。グリフォンのような魔物に騎乗した褐色肌の人物達。

 

 勇者一行とてわかっている。

 

 彼らこそ魔人族。長年人族に敵対している神敵。

 

 

 魔人族はほとんどがまだ若い女性で構成されていた。オルクス大迷宮で遭遇したカトレアよりさらに若い。おそらく光輝達と同世代。一際立派なグリフォンに乗ったリーダーらしき人物でも光輝達の一つか二つ上くらいだろう。

 

「いくよあんた達。私達の手で、人族に止めを刺す!」

「了解!」

 

 響くような宣言と共に、詠唱を開始する魔人族グリフォン部隊。

 

「まずは『豊穣の女神』を見つけな。できるだけ殺しちゃ駄目だよ。その女は大勢の人族の前で殺してこそ意味があるんだから」

「させない!」

 

 魔人族の言葉で狙いが愛子だと理解した優花が七耀の一部を射出する。グリフォンを狙ったその攻撃は、魔人族が行使した風魔法に撃ち落とされてしまう。

 

「くっ、ちょっと遠いッ!」

 

 そう、ここで勇者達は圧倒的に不利な状況に持ち込まれる。以前魔人族カトレアと対峙した際には、その場所がオルクス大迷宮であるがゆえに起きなかった問題。

 

 

 それは制空権。上空高く飛ぶ魔人族と地を這う人族との決定的な差。現代の戦争事情でも飛行機類の発達により重視されるようになった概念。中世レベルの文明にて制空権を制するということは、陸地戦では戦争を制するにふさわしい。あらゆる城塞や地上の軍備を素通りしていきなり本丸にチェックを賭けられるからだ。

 

 

 トータスでの戦争は長らく地上戦が主だった。日本でいう戦国時代に近い。魔法という遠距離攻撃手段はあるが、超長距離攻撃ができるものなど一握りしかいないトータスでは顔と顔を突き合わせて戦争を行うと言うのが当たり前だった。

 もちろん空を飛ぶ魔物に対抗するための対空魔法も存在するが大したものではない。守るべき都市には結界が張ってあり上空からの攻撃を恐れる必要がなかったためだ。

 飛行魔法なども存在するが、それは一部の者だけが使える高等魔法であり、それも移動に使うのがやっとというありさま。ユエは当たり前のように空を飛んで戦っているが、実はあれも非常に高度な技術なのだ。

 

 

 このように人族、魔人族共に空戦というレベルの戦いを行う能力がなかった……魔人族が魔物をコントロールできるようになるまでは。

 飛竜、大鷲、グリフォン。空をテリトリーとし、自由自在に飛ぶことができる彼らを従え、乗りこなすという方法を取ることで魔人族は今までの戦争で取ることができなかった空中戦術というものを得ることに成功していた。

 言ってみれば戦国時代で地上戦をやっていたら、いきなり航空部隊という概念が誕生したようなものなのだ。それがいかに驚異的であるかは言うまでもない。

 

 

「総員、防御態勢を取れ。今は耐えるべき時だ!」

「了解!」

 

 遥か上空から一方的に魔法を雨のように降らす魔人族に対し、メルドの指示で騎士団や冒険者たちはありったけの防御魔法を行使する。グリフォンに乗っているからと言って攻撃を行うのは魔人族の魔法なのだ。魔法を使えば魔力が減っていく。弾切れに持ち込めば奴らは地上に降りてくるしかなくなる。

 

「ッッ、龍太郎君、防御魔法掛けてあげるから跳べない?」

「跳べることは跳べるかもしれねぇがよ。空中じゃあ身動きがとれねぇからいい的だぜ」

 

 防御結界を張りつつ龍太郎に聞く鈴だったが、龍太郎の反応は著しくない。光輝を見てみると彼も防御に専念するしかないようだ。

 

「こんな時……恵里がいてくれれば……」

 

 降霊術がまともに使えなった恵里は、代わりに高度な攻撃魔法を習得していた。実は本職ではないながら、その威力はトップクラスだったのだ。今も空に向けて魔法を飛ばしている騎士団達だったが、騎士団のレベルでは空を自在に駆けるグリフォン相手には分が悪い。

 

「クソッ、一体どうすれば……」

 

 このままだと押し潰される。誰しもがそれを想像し始めたその時。

 

 

 

 

 

「なら、もっと距離が近かったらいいのかな? ……”閉界”」

 

 

 その言葉と共に、異変が起きる。

 

「なっ!」

「これは!?」

 

 魔人族からしたら驚愕の現象だろう。四十メートル上空を飛んでいたにも関わらず、瞬きする間くらいの感覚で、いきなり地上数メートル地点にいるのだから。

 そして間髪入れず飛んでくる光の鎖。その鎖はグリフォンごと魔人族の部隊を絡めとり、地上へ引っ張り続ける。

 

 

「いったいどうなって!?」

 

 光輝達が混乱する中、その魔法を行使した術者が現れる。その人物は黒いキャミソールに青いミニスカート、スカートの下には黒いファスナーのついたスパッツを履き、腕には水色のアームウォーマーを付け、キャミソールの上から膝丈まである袖のない水色のロングカーディガンを羽織っていた。以前と比べて丈が短いスカートや胸元が大きく開いた服装は、清楚感を残しつつも彼女のコケティッシュな魅力を引き出している。各地で女神と言われ始めたからだろうか、カーディガンの背中には可愛らしい天使の羽の刺繍が彫られていた。

 以前とは服装が違うが、優しげながらも力強い眼差しは変わっていない。2ヶ月前まで勇者パーティーに在籍し、皆を癒してくれた頼れるヒーラー。そこには光の鎖を背後の魔法陣に幾本も生やしながらこちらに近づいてくる元勇者パーティー、白崎香織の姿があった。

 

「みんな、大丈夫? 怪我してる人はいない?」

「カオリン!!」

 

 頼れる仲間のその姿に鈴が思わず笑顔で歓声を上げた。香織はその声に手を振ることで返事を行いつつ、行使した魔法を維持し続ける。

 

 空間魔法『閉界』。

 香織が使用したのは文字通り世界を閉ざす、具体的に言えば距離という概念を縮めることができる魔法だ。これを使用すると、敵味方共に術者が設定したエリア以上離れられなくなる。

 

「あいつは!?」

「あの女が……おのれぇ、よくもフリード様のご尊顔を!!」

 

 突如現れた救援が香織だと知るや否や、若い女性だけで構成された魔人族の顔に怒りが灯る。まだうら若い彼女達にとって、魔人族の軍隊の指揮官であるフリードはまさに憧れの的であり、そのフリードが顔に傷を負って帰ってきたことは彼女達にとって衝撃だったのだ。その傷を負わせた張本人を前にして激昂した魔人族の一人がグリフォンを香織目掛けて直進させる。

 

「そんなこと言われても困るかな……言っとくけど先に仕掛けたのはそっちだからね」

 

 すでに起動されている香織の両腕の紋章が光り、目の前に光の網が展開される。魔法陣も詠唱もなしに展開されたその魔法に虚を突かれた魔人族の女は文字通り網にかかってしまう。そしてすかさず縛煌鎖で網の口を縛り上空に持ち上げ、そのまま地面に勢いよく叩き落した。

 

「がはぁ!!」

 

 流石に上空から叩き落されたのは応えたのか、グリフォンは地面で伸び、魔人族は地に這いつくばることになる。

 

「よしっ、みんな行くぞ。まずは魔物の方を狙うんだ」

 

 香織の登場と行動にしばらく動けなかった光輝だったが、香織が作ったチャンスを逃すまいと聖剣を構え、攻撃範囲内まで迫った魔人族、否グリフォンに向かって攻撃を開始する。

 

「ちっ、どうなって!?」

「これ以上、上に行けない!?」

「まさかこれは……フリード様と同じ神代魔法か?」

 

 魔人族は香織が空間魔法を行使したことに気づいたらしくそれならと現れた香織をターゲットに絞る。元々優先討伐対象に指定されていた香織だ。ここで彼女を殺せば、再び上空に飛び上がることができるようになる。

 

「させるか!!」

 

 香織目掛けて突撃をかけていた一体のグリフォンの首を跳ね飛ばす光輝。

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

 再び闘気のパンチでグリフォンを吹き飛ばす龍太郎。

 

「これなら届く!」

 

 優花の七耀が辺り一帯に降り注ぎ、的確にグリフォンの頭を潰していく。

 

「くっ、おのれぇ」

「我らの足を奪ったからといって、いい気になるなぁ!!」

 

 地上に落とされたからと言って士気を落とさない魔人族。空がダメなら地上戦だと言わんばかりに各自武器を構え……

 

「クソッ、また魔物が……」

 

 どこからともなく魔物の大群が姿を現す。どうやらこの事態を想定して待機していたらしい。これで数の利も再び魔人族に移る。

 

「魔物達を王国騎士や冒険者へ嗾けろッ、私達は勇者達を叩く」

 

 魔人族のリーダーの指示で魔物が王国騎士や冒険者に迫り、そして自分達は迫る最前線を走る光輝に向けて魔法や毒針などを放つ。その魔人族の攻撃に対し、光輝は真正面から突き抜ける。

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

 獅子奮迅。

 

 その言葉が似合う猛進撃。

 

 光輝は迫る魔法を聖剣で切り裂き、魔法の影に隠された毒針を冷静に見切る。

 確かに光輝は聖剣の弱体化により、数字上は弱くなったかもしれない。たがその代わりに大技の連発という無駄は無くなり、周りを観察する余裕を手に入れた。無くしたものはあるが、同時に得たものもある。

 

「今度こそ……今度こそ俺が守るんだ……そのために、俺は……おおおおおおおお!!」

 

 光輝が勇ましく吠え、一人の魔人族の少女に迫る。

 

 今度こそ斬って倒す。その覚悟を背負い振るわれた剣は……

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 目の前で響き渡る絹を裂くような悲鳴に止められる。魔人族の少女を見ると目が潤み、身体が小刻みに震えているように見える。見た目は光輝より年下なのだ。そんな女の子を斬る。そう思うと、どれだけ覚悟を決めていても手が止まってしまう。

 

「あは、甘ちゃんだねぇ」

 

 ハートマークがつきそうな甘い声を発しながら、待機状態にしていた雷魔法を光輝にぶつける。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「光輝ぃぃぃ!!」

「アーハハハハハ!」

 

 光輝が叫び声をあげ、魔人族の少女は高笑いをあげる。魔物を相手にしつつその状況を見ていたメルドは、なぜ敵が若い魔人族の女で占められているのかようやく理解する。

 

「あは、やっぱりカトレアお姉様が残した情報通りだったわね。……勇者達が人を殺せないって」

「最初聞いた時耳を疑ったけど」

「まさか、本当だったとはね」

 

 魔人族カトレアはもしも自分が任務中に死んだ場合のことを考えていた。カトレアが肩に乗せていた白い鳥型の魔物は回復役というだけでなく、大迷宮の外側で待機していた黒い鳥型の魔物と情報のやりとりを行なっていた。もし、自分が死ぬか鳥型の魔物が死ねばその情報を黒い鳥が確実に魔人族に届けるように。

 そこで見た情報。勇者がカトレアに迫りつつも攻撃を止めた光景。甘ったるい対応。それを見て勇者達の弱点を掴んだ魔人族は彼らに対する対策を立てていた。

 

「クソッ、クソッ、やるしかないのに」

「そして残念だけどもう貴方達終わりよ。準備は整ったから」

「えっ?」

 

 そして人々は目撃する。遠距離で巨大魔法陣が展開されている光景を。

 おそらくこの戦いが始まった当初から用意されていたのだろう。術者10人掛かりで詠唱を行い、ようやく完成した大魔法。

 

『緋槍・千輪』

 

 生き物のようにうねる業火は、宙空にて千の槍へと姿を転じる。

 

「いかん。障壁の展開を!」

「もう遅い!」

 

 空から降る炎の槍はまるで雨のように地上に舞い落ちる。

 

 吹き飛ばされる建物。防御が間に合わず燃える人々。防御をしていても押し潰される兵士たち。

 

「くぅぅぅぅ!! ああああああああああ!!」

 

 鈴が出力最大で防御障壁を張る。鈴はわかっていた。ほんの少しでも緩めると容易く壊れることを。

 

 やらせない、仲間は必ず守る。

 

 その意思を漲らせ、鈴は懸命に対抗する。

 

 だが、無慈悲にそれは襲いかかるのだ。あと少し、あと少しで防ぎきれるというところに鈴の魔力が限界を迎える。

 

 壊れる障壁に襲いかかるの炎の槍。

 

「谷口ぃぃぃ!!」

 

 鈴の前に龍太郎が両手を広げて立ちふさがる。

 

 響く爆音。

 

 そしてそのあと生じる風により、その惨劇は眼に映るのだ。

 

「そんな……」

 

 目の前に広がる光景は地獄絵図だった。燃え盛る建物。黒焦げになった人々。生き残った人もほとんど例外なく大火傷で悶え苦しんでいる。無事なのは谷口鈴の死力を振り絞った障壁の範囲にいたものだけだろう。

 

「龍太郎君! しっかりして、龍太郎君!!」

「龍太郎ッ!!?」

 

 多くの人を守った鈴の目の前で龍太郎が倒れている。全力の闘気で全身を強化したからかまだ息はあるが状態は良くない。息も荒いし火傷を負っていないところは一つもない。

 

「よくも、よくも龍太郎をぉぉぉ!!」

「はっ、今更遅いっての。もう次の準備は始まってる。さっきほどの威力はないけど、まあ十分でしょ」

 

 光輝が激昂し限界突破を使おうとする。

 

 鈴が涙を流しながら龍太郎の手を必死に握る。

 

 生き残ったクラスメイトや戦士達が立ち上がるも遠距離に展開されている魔法陣を見て絶望の表情を浮かべる。

 

 機嫌を良くした魔人族のリーダーである少女は憎っくき治癒師の女がどうなったかを確認しようとして……

 

 背筋に冷たいものが走った。

 

「……大丈夫だよ、みんな。絶対に助けるから」

 

 香織は両手を構えて佇んでいた。その両手にはこの世界には存在しない術式体系で描かれた紋章がフル稼働している。

 そしてその身に纏う膨大な魔力。周辺にある魔素を片っ端から集め、さらに自身の魔力すら加算した魔力はこの場にいる全ての人物の総魔力量を足してもなお上回っている。

 そんな膨大な魔力を蓄えた香織は今、奇跡の力を行使する。

 

かの愛しき黄昏は、いずれ世界を母なる愛で包み込む──"輪廻天生"

 

 その詠唱と共に行われたのはまさに奇跡のような光景だった。壊れていた建物が逆再生するかのように元に戻っていく。これだけなら錬成でも再現可能かもしれないが、それでは次の現象は説明できない。

 

「うう、俺は……一体?」

「確か、炎に飲み込まれて……!?」

 

 立ち上がっていく人々は傷一つ負ってはいなかった。先程まで確実に死んでいた人すら元気に立ち上がっている。

 

 時空間干渉魔法『輪廻天生』

 空間魔法、再生魔法の深奥に干渉魔術を使うことでアクセスして力を引き出した、一定の時間内での損壊であればいかなるものでも復元し、死者すらも蘇らせることができる大魔法。

 

「なんだと!?」

「そんな、そんなバカな!?」

 

 魔人族達の驚愕も無理はない。この戦いの大勢を決めるであろう決戦術式を使ったはずなのに、今やその大魔法の痕跡一つ残っていない。魔人族の魔法部隊が消耗しただけという結果に終わる。

 

「これは……香織」

「すごい。陳腐だけど、それしか出てこない」

 

 光輝と優花が呆然と言葉を漏らす。

 

「ああ、本当によ。つい数ヶ月前までは同じくらいだったのに。もうこんなに差をつけられてるな」

「龍太郎君!」

「おう、谷口。怪我はないか?」

 

そこにいたのは周りと同じく傷一つない状態になった龍太郎。その姿を見て鈴はせっかく収まりかけていた涙が溢れてくる。

 

「バカァ、本当に大バカァァ!! 死んだら、死んだらどうするんだよぉ!」

「わ、悪かったよ。つい身体が動いたんだよ。だから泣かなくてもいいだろ」

 

 泣いてる鈴を焦ってなんとかする龍太郎。その光景を見て多少無茶をして良かったと思う香織。

 

「……総員に告げる。治癒師の女を……あの化物を殺せ!! 奴がいる限り、こいつらは何度でも蘇る!!」

 

 リーダーの声に、魔人族の殺意が香織一人に集中する。白竜のブレスの直撃を受けた人間を瞬時に治して見せたとは聞いていたが、まさかここまで常識外れだとは思っていなかったのだ。

 

「ひどい、人を化物扱いしないでほしいんだけど」

 

(それに何度も使えるわけじゃない)

 

 もちろん香織も効果に見合うだけの消耗をしている。魔法行使の燃費が桁違いにいいはずの香織ですら半分近く魔力を持っていかれた。つまり一日使えて二回の奇跡というわけだ。

 

「奴は治癒師だ。防御障壁は大したことがないはず」

「ここで一斉に畳み掛けろ」

 

 多種多様の魔法陣が香織に向けられる。

 

「香織ッ、下がるんだッ……香織は、絶対に香織だけは、俺が守ってみせるから!」

 

 光輝が前に出る。その声は勇ましくも最初にあった冷静さが消えていた。まるで内側から湧き出る焦燥に取りつかれたように。

 

「光輝君……ちょっとだけ大人しくしててくれるかな?」

「うぐっ」

 

 香織の言葉で硬直する光輝。

 

 聖約は未だに有効なのだ。光輝は香織の邪魔はできない。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 魔法が一斉に放たれる中、香織は前に手を突き出すだけだった。

 

「聖絶・界転」

 

 防御障壁が展開される。

 

 魔人族の周辺に。

 

「これは……まずい!」

 

 とっさに魔法を中断したリーダー。何かはわからない。わからないが本能がやばいと反応したのだ。だが、対処できたのはリーダーだけだった。そしてその勘はあたる。その障壁に吸い込まれた魔法がそっくりそのままベクトルを逆にしたように跳ね返ったのだ。

 それに気づかなかった魔人族は自らが放った魔法に貫かれて絶命する。かろうじて気づいて避けた者もいたが関係ない。聖絶に空間魔法を加えられたこの魔法は中の魔法が命中するまで永遠に半円状の結界の中を乱れ舞うのだから。

 自分が放った魔法を避けた魔人族が他人の魔法を受けて死ぬ。乱反射される魔法は徐々に拡散されていき、魔法の檻が完成しようとしていた。

 

「おおおおおお!!」

 

 魔人族のリーダーが結界に向けて突撃すると、結界が容易く破壊される。この魔法の唯一の欠点が物理耐久の無さだと見抜いた訳ではないが、中々運に恵まれたと言えるだろう。

 だが、結局結界から出られた者は彼女一人。ほかの魔人族は結界の中でどうしようもなく、全滅した。

 

「おのれぇぇ……魔法隊ッ、中途半端でもいい。こいつにありったけの魔法を叩き込め!!」

 

 即座に命令するリーダー。その命令を受理した魔法部隊が香織に向けて魔法を……放つことはなかった。

 

「おい、応答しろ。どうした? おい!?」

 

 リーダーが呼びかけるも返事はない。

 

 それもそのはず。そこに存在した魔法部隊はいつのまにか痕跡一つ残さず消えていたのだから。

 

「どうやらあなただけになったみたいだね」

「ひっ!」

 

 香織が手を翳すと縛煌鎖が伸び、魔人族の女の生き残りを捕獲する。

 

「あ、あ、あ……まいった、投降する。命だけは助けてくれ。お願いだ」

 

 手に持っていた武器を全て捨てる魔人族。その目には涙が溜まり、今にも崩れ落ちそうだった。

 

「…………」

「私には故郷に残してきたたった一人の妹がいるんだ。私が今死んだら一人ぼっちになってしまう。どうか、どうか情けを……」

 

 その言葉を聞いても香織は何も言わない。王国騎士や冒険者はふざけるなと言いたい顔をしているが、主導権を握っているのはあくまで香織だ。この場で彼女以上の発言権を持つ者はいない。

 

「香織……捕虜にすることはできないかな?」

 

 ここで動いたのは勇者天之河光輝だった。かつてカトレアの時に言ったのと同じセリフ。

 

「考えなしに言ったんじゃない……俺だってあれからこの世界のことを勉強したんだ。だからこそ気づいたことがある。人族と魔人族は長い間、話し合いのテーブルにさえついていないんだ。この世界の戦いの原因は神なんだろ。だったらこの世界の真実さえ共有できれば分かり合えるかもしれないじゃないか。頼む香織。彼女にチャンスを与えてほしい」

「…………」

「光輝……だけどそれは……」

 

 無言を貫く香織に変わり、メルドが苦い声を出す。

 

 

 以前と違い、光輝の言葉には一理あると言えた。人族と魔人族が長年争い続けているのは私怨などもあるにはあるが、主な理由は信仰する神がお互いを神敵であると宣言しているからに他ならない。だからこそ、その根底が覆されるというのなら人族と魔人族に争う理由などない。光輝の意見はこの世界に住む人々が、真の意味で前に進むためにいずれ必要になることだと言える。

 

 ただし、それはもっと先。和平を結べるような段階に来てからに他ならない。

 

「……いいよ」

 

 だが、意外な事に香織が光輝の提案を飲んでしまう。光輝はホッとした顔をし、他の人々はギョッとした顔をしている。

 

「私だって好き好んで殺したいわけじゃないしね。これから私達に敵意を向けないという条件を飲むなら許してあげる」

「……わかった、条件を飲む」

「…………約束だよ」

 

 その言葉を聞き、香織は本当に拘束を解いて魔人族の女を自由にしてしまう。

 

「メルド団長。彼女を拘束してください。後は私達がなんとかしますから」

「しかしだな……」

 

 魔人族に背中を向け、笑顔で言う香織にどうしたものかと悩むメルド。殺さないことに越したことはないとはたしかに思うが、事はそう単純な問題ではない。香織はそのあたりわかっていると思っていたメルドは困惑する。

 

 

 渋々拘束しようと動く兵士の前に、魔人族の女は動いた。

 

(バカな女だ。戦争してるのに助けるも助けないもあるものか。神敵討つべし。それだけでいいと言うのに。……ここで私は死ぬかもしれないがタダでは死なない。せめてお前だけでも道連れにしてやる!)

 

 手ぶらの魔人族は香織に迫りながら舌を伸ばす。そこには小さな宝石が埋め込まれていた。それは任務遂行困難な状況に陥った時、捕虜にされるのを防ぐ他に神敵を一人でも道連れにするための自爆用アーティファクト。

 見ればわかる。香織は何も障壁を展開していない。ゼロ距離からの自爆なら確実に殺れる。そう思った魔人族の女はアーティファクトに魔力を込めるために詠唱を始め……

 

 

 

 ドクン

 

 

 

 その動きを停止させた。

 

「あっ……あっ……あっ」

「そうそう。一つ言い忘れてた」

 

 香織は振り返りもせずに後方にいるであろう魔人族に忠告する。

 

「さっき拘束してる間にね……あなたの身体の中にある物を打ち込んだの」

「がっ、あがぁ、ああ」

 

 魔人族の女は目から血を流し始める。

 

 否、目だけではない。

 

 口から、鼻から、耳から。身体中の血管が浮き上がり、穴という穴から血を流し始める。

 

「それは通常ならなんて事はない無害なもので、ほっといても1時間くらいで自然に体外に排出されるものなんだけど。一定レベル以上の活性化した魔力に触れるとアナフィラキシー、つまり過剰なアレルギー反応を引き起こす物質に変質する」

「あああ、ああああああああ──ッッ!!」

 

 魔人族の女の全身の細胞が過剰な拒絶反応を起こし、全身から血を流しながら叫びを上げるほどの苦痛を生み出す。その光景を周りの者はただ見ていることしかできない。そしてその悲鳴を聞く香織の目は……

 

「だからもし、約束を破って私達を魔力で攻撃しようとしたら……死んじゃうかもしれないから気をつけてね」

 

 笑ってなどいなかった。

 

「あ……」

 

 そして、間の抜けた声を発した後、自身が排出した血液の海の中に頭から飛び込む魔人族。彼女はもう、二度と動く事はない。

 

 

 白崎香織は確かに人を救済する癒しの女神であり、どちらかと言えば善性の存在ではあるのだろう。だが何事も一面だけでは成り立たない。コインに裏表があるように、彼女にだって裏がある。

 白崎香織は人を救済する癒しの女神であると同時に、冷酷に相手を屠ることのできる……魔女でもあったのだ。

 

 それを魔人族の女が見抜けなかったからこそ、起きた出来事だった。

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 静まり返る周囲。

 

 結果的に、一時壊滅の危機を受けるも魔人族の部隊を逆に壊滅させる大戦果。トータスの住民はその戦果に歓声を上げ始めるが、クラスメイト達は戸惑いを浮かべている。

 

 

 いや、はっきり言うなら……クラスメイトの大半は恐怖を覚えていた。

 

 

 白崎香織が人を殺した。

 

 

 そのこと自体は今更だった。彼らとてこの二ヵ月間、伊達に訓練を受けてきたわけではない。実際できるかは置いておいて、少なくとも相手を殺すというイメージを持っていない人はもういない。

 

 

 だが、だからこそ。あの魔人族の死に様は想定していなかった。

 

 考えすらしなかった惨い死に方。それを冷たい目をしながら平然と行う香織は……まるで冷酷な魔女のようだった。

 

(あれが……香織だって?)

 

 光輝の衝撃は計り知れないだろう。

 

 幼い頃から知っている幼馴染の凶行。少なくとも、光輝の知っている香織はこんなことを平然とできる女の子ではなかった。もっと優しくて、他人を思いやることのできる女の子だ。

その姿に誰かを重ねそうになる光輝。思いたくない、思いたくないが……その姿は魔人族カトレアに向けてまるで相手をいたぶるように銃を撃ち放つハジメの姿と重なってしまう。

 

(南雲……やっぱりお前が!!)

 

 比較的に安定していた光輝の心にどす黒いものが広がっていく。

 

 光輝は確信する。香織がハジメと共に冒険するのは間違いだったと。

 

 光輝にとって清純で、全く穢れのない。まさに天使が降臨したような女の子であった香織がハジメの闇に染まっていく。

 

 だからこそ絶対に香織を取り戻す。そのためにはあるものが必要だった。

 

(力が、力が欲しい!)

 

 拳を握りしめながら、それを求めずにはいられなかった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 ある建物の屋上に、黒いコートを着た者がいた。

 

 その者の周囲には誰もいない。いや正確には誰もいなくなった。

 

 なぜならその場所にいた人物達はその者の下で永遠の眠りについていたのだから。

 

「ひ、ひひひ。まってろよぉ~かおりぃぃぃ。これでもう……お前は俺のものだぁ、いーひひひ」

 

 不気味な笑い声を響かせながら黒コートが行動を開始する。

 

 

 それが何をもたらすのか、まだ誰も知らない。

 

 ~~~~~~~~~~~

 

 

 王宮へ繋がる広場での戦線戦況

 

 人族の戦士&クラスメイト達&白崎香織VS魔人族グリフォン部隊&魔法部隊

 

 勝者:人族および白崎香織。

 

 再起不能:魔人族グリフォン部隊(香織の魔法反射と毒により死亡)

 再起不能:魔人族魔法部隊(第二射を準備中、何者かの襲撃を受け全員死亡)

 

 個別状況──

 

 白崎香織:危ないところだったが、クラスメイトの救助に成功する。しかし輪廻天生を使ったことで魔力の半分を消費。現在魔素を集め回復中。

 

 天之河光輝:メルドの訓練により一定の成果をあげたものの、まだまだ成長したとは言いがたく悩みは尽きない。特に南雲ハジメ、藤澤蓮弥の影がチラつくと途端に不安定になる。

 

 クラスメイト達:全員生存。一部は魔人族の言葉から、愛子の護衛に回るために王宮に向かう。

 

 

 

 影がうっすぃー奴:見えないところで活躍。今回は誰にも気づかれずに大魔法二射目を事前に単騎で食い止める。

 機械いじりの好きなギャル:相棒をけしかけつつ、香織の魔女としての完成度に少し驚く。香織の師匠とは知り合いだが、一体香織にどんな教育をしたのかと思いを馳せている。

 

 




>時空間干渉魔法『輪廻天生』
空間魔法、再生魔法、干渉魔術を組み合わせて発動する香織のオリジナルスペル。
一定時間内だったらいかなるものでも再生させることができる。特記すべき点は死者も生き返るという点。ただし、時間が経ち過ぎたら効果はない上、なんらかの要因で魂がその場にない場合は蘇生不可。
弱点は魔力消費量の激しさ。燃費が良い香織ですら魔素+体内魔力の半分を使わなくては発動できないくらいの大魔法。

>香織の使った毒
元々は毒耐性のあるハジメにも効く治療薬を作ろうと試行錯誤していた時に生まれた失敗作。欠点はそれほど量がないことと大人しくしていたら無害な点。

>香織の新衣装
新衣装を決めるにあたってのポイントは
原作通りに露出度を増やしたい、けど清純なイメージはそのままに。
ちょっと黒いところを見せるために服の一部に黒を採用したい。
本作ではずっと黒髪の予定なのでそれが似合う服装。
袖があると紋章をフル稼働させたら毎回破けるのでノースリーブで。
本作の香織は魔女属性が入ったのでそれを生かしたい。

これらの要求を満たす服がないかなと探していたら一人該当するキャラがいたので参考にしました。誰かわかる人はいるかな?


次回は久しぶりに蓮弥視点です。
神の使徒五百体でどうやって話を持たせればいいのか悩みどころ。

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