始
──照る斜陽、鳴り止まない声、ひぐらし。
グチャリ。
高い入道雲、枯れない青葉、厳かな境内。
ザクッ、ザクッ。グチャッ。
目眩く緋、空。
グチュッ、グチュッ。
夏、夏、果てしない夏。
グチュリ。
その者は神社の鳥居が見下す中で、顔を上げ、空を見た。
いや、視線は空にある。しかしその目は、天空を映していない。
その者は笑う。
ひぐらしによる蝉時雨を裂くような、ケタケタ笑いを響かせる。
玉石が太陽の光を反射させ、その者を照らす。
真紅に塗れ、まだ暖かい血を滴らせるナイフを握っている。
もう片方の手に握るは、腸。
蜘蛛の巣のような血管が張り巡る、腸。
その者は腸とナイフを掲げ、落ち行く血を有り難く浴びた。
さも、贄を捧げる祭司のように。
光の無い目は、虚空に向く。
照り続ける斜陽、鳴り止まないひぐらし。
いつまでも高い入道雲、一向に枯れない青葉。
見飽きた境内、真っ火な空。
夏、夏、果てしない夏。
願わくは、この夏から、誰か────
── 一九六三年、西ドイツのある町に住む十二歳の少女「ヘレーネ・マルカルド」は、交通事故に遭う。
彼女は辛うじて一命は取り留めた。だが意識は戻らず、昏睡状態のまま数日が経過した。
ある日、彼女はとうとう目を覚ます。家族は喜び、我が子に労いの声をかけた。
だが目を覚ました後のヘレーネは聞き慣れない言葉を喋り、振る舞いも別人のようになってしまったと言う。
暫くして、彼女の話す言葉は「イタリア語」であり、特に訛りの強い地方の物だと判明する。勿論、ヘレーネも家族もそこに行った事はない。
更にヘレーネは自らを「ロゼッタ・カステーロ」と名乗り、二児の子どもがいるイヴェンタ生まれのイタリア人だと説明した。そこですぐにイヴェンタの戸籍情報が調べられると、驚愕の事実が発覚する。
ロゼッタ・カステーロはなんと、一九一七年に死去した三十歳の女性であり、実在の人物だった。
過去の人物が四十六年後の世界に、一人の少女の人格として蘇ったのだ。
以降、ヘレーネはヘレーネ自身の人格を無くし、ロゼッタとして生きたらしい。
一説によれば、「魂は時間を超越出来る」とされている。
ロゼッタも時間を超越し、死した少女の肉体へ転生したのだろうか────
────私の名前は「山田奈緒子」。
マジック一筋十八年目の、超実力派ベテランマジシャンだ。
亡き父「山田剛三」は日本を代表する偉大なマジシャンだった。
そんな父の影響を幼い頃から受けて、私は育った。
しかし今の私はとある事情により、記憶の多くを失っている。
少しずつ取り戻してはいるものの、まだまだ自分と言う人物を掴み切れずにいた。
そんな私だけど、今も健気にマジシャンとしてこの大舞台に立っている。
記憶を失っても手放さなかった熟練の技術を披露してやれば…………
客席はほら、この通り!
──寂れた舞台から見渡す客席に、デンデン太鼓を鳴らして応援するたった一人のファン以外、誰もいなかった。
……客も失った。
「君もうクビネ」
ショーの終了後に楽屋にて、スマートフォンで動画を見ながら飯を食う座長にそう宣告される。
「クビって、えぇ……!? 今月ギリギリなんで勘弁して欲しいんですけどぉ……!」
必死に彼に泣き付く、舞台衣装のチャイナドレスに身を包んだ女。
先ほどのマジックショーで客を呼び込めなかった事を咎められての宣告だ。
「どうかお慈悲を〜……」
「お慈悲お慈悲言ってもネ。ウチももう、キツキツなのよ。年々客は減って行くしネ。だからリストラも兼ねてのクビ」
「そこを何とか……もう年末ですし、せめて年明けまで…………いや、半年先……やっぱ五年契約で……」
「しつこいネ君もっ! あと図々しいよっ!」
ぴしゃりと叱られ、黙らされる。どうやらもう取り付く島もないらしい。
座長がスマホで見ている動画では、マジシャンがマジックを披露していた。
「……今の時代、みーんなSNSか動画投稿サイトばっかりで、もうマジックをわざわざ舞台だとかテレビだとかで見やしない……いや。もうマジック業界自体が下火になってるかもしれないネ」
悲しげな瞳で座長は天井を見上げる。
「昔が懐かしい……簡単なマジックを披露するだけで、みんながチヤホヤしてくれた……」
「どこ見てるんですか」
「戻れるなら戻りたいネ……輝いていた、あの昭和の時代に……」
「だからどこ見てんだ」
「と言う訳でクビネ」
そう言い切ってから座長はまたスマホに視線を戻し、今度はVチューバーの切り抜き動画を見始めた。
仕事がクビになり、荷物を纏めたバックを持ってトボトボと帰路につく。
寒い北風が吹き荒み、着ていたダウンの首元を締めた。溜め息と共に白い息も漏れる。背後には彼女の唯一のファンが、デンデン太鼓を打ちながらストーキングしていた。
自身の家でもあるアパートに到着。
「おい」
「アァーーオゥっ!?!?」
「マイコーかいアンタそれ?」
部屋までの階段を上がっていた時に背後から声をかけられ、派手な悲鳴と共に飛び上がる。
後ろへ振り返ってすぐ眼中に飛び込んで来たのは、派手な文字。
『平成じぇねれ〜しょんず・ふぉーえばー』
『平成と共に山田奈緒子を追い出せ』
『トリツクを愛してくれたアナタへ』
背中にそう書かれた旗を差した大家のおばさんが、オレンジ色の鎧を着てぎろりと彼女を睨んでいた。
大家の後ろにはバングラデシュ人の旦那と、高校生くらいの子ども二人が、同じく旗を背中に差して控えている。
「か、カチドキアームズ……!?」
「アンタぁ。家賃は?」
家賃の催促をされた途端、彼女の顔が渋くなる。
「ね、年末に、凄い大きなショーのトリをやるんです! それさえ終わっちゃえばお金が入るんで──」
「アンタそう言ってもう何ヶ月滞納してんだい? このままじゃ家族が餓死しちまうよ」
「ハルサン! コノ人にもう、ジゴクを楽しませまショウ!」
旦那がそう意見する。シャツの上にベスト、そして斜めに被ったハットと言う姿だ。
「風都探偵……!?」
「今すぐに払えねぇってんなら、荷物纏めて出てって貰おうかい?」
「お、お子さん大きくなりましたねぇ!? いやぁ〜! 昔はあんなちっこかったのに」
「ええいッ!! もんどぉーむよーーッ!!」
大家は背中に差していた旗を両手で引き抜き、臨戦態勢に入る。合わせて旦那も子どもたちも、「エイエイオー!」と叫んで旗を構え出した。
これはマズいと踏んだ彼女はすぐに踵を返し、階段を駆け上がって逃げる。
「こらぁーーっ!! 待てぇーーっ!! 平成終わる前には出てって貰うよぉッ!!」
逃げる彼女を、まるで百姓一揆のように追いかけ回す家族。
何とか必死に廊下を駆け、自分の部屋に転がり込んだ。そのまま鍵をかけ、締め出す。
「開けろー! 開けれぇーーっ!!」
「さァ、アナたの罪を、かゾえてくダサい!」
部屋の前に陣取る一家の悔しがる声を聞きながら、ホッと一安心。
持っていた荷物を部屋に投げ捨て、寒々しい居間にドカッと座り込んだ。
「ふぃ〜、助かった……あれ? 鍵かかってなかった? てか寒っ!」
慌てていたばかりに鍵を開けずに、そのままドアノブを回した。しかしスムーズに扉は開き、お陰で部屋に逃げ込めた。
もしかして鍵をかけ忘れていたのかと、首を傾げる。
「よぉ」
鍵をかけ忘れたのではない。不法侵入者がいた。
奥の座敷にあるカーテン裏から男が姿を見せる。
普通ならば悲鳴をあげるシーンではあるが、彼女にとって始めての事ではようだ。愕然とした様子は全くなく、寧ろ呆気が真っ先に現れていた。
「……『上田さん』ですか。勝手に入らないでくださいって何度も……」
男──「上田」はニヤリと、得意げに笑う。
「まぁ、そのお陰で籠城出来たんだ。逆に褒めて欲しいねぇ?」
「てか……どこから入ったんです?」
「窓だ」
彼がカーテンを開けば分解された窓枠と、取り外されたガラスが目に入った。
得意げに工具を見せ付ける上田に、当たり前だが怒る。
「何やってんですか!? やけに寒いと思ったら……戻してくださいよ!」
「ちゃんと戻すから安心しろ。天っ才物理学者に出来ん事はない」
「やってる事は空き巣のソレじゃないですか……」
前髪をなぞる妙な仕草を見せながら、上田は彼女の前に座る。
寛いでいたのか、二人を挟むちゃぶ台の上には湯気の立ったお茶が置いてある。
「また勝手にお茶淹れて……」
「それより『山田』。実は俺は物理学を極め……錬金術を編み出してしまった」
「意味が分かりませんって」
「まぁ待て。それで作り出した物を特別に見せてやる」
彼が着ている右半身が赤で左半身が青と言う変なベストのポケットから、マッチ箱を取り出した。
マッチ自体は古い旅館とかで無料で渡されるような、凡庸な物だ。
「良いか? これはマッチだ」
「……見れば分かります」
「ベストのポケットから、マッチ。ベストから、マッチ……ベストマッチ」
真顔の女──こと、「山田」。
上田はお構いなしに、話を続ける。
「ただのマッチじゃない……どんだけ火を付けても、何度も使えるマッチだ」
既に取り出していた一本のマッチを見せ付ける。
何度も使えるマッチと豪語する彼だが、どう見ても普通のマッチだ。
マッチ箱の側面を擦ると、頭薬が燃える。
即座に上田はマッチを大きく振り、消火。赤い頭薬は炭化して黒くなっており、普通ではもう使えない。
「因みにマッチの赤い部分に、『リン』は使われていない。使われているのは、箱の擦る場所だけだ……リンと言えば……リンが初めて発見された経緯を知っているか?」
「……いえ」
「バケツ六十杯の小便で錬金術をしようとして偶然発見されたらしい。ウケるだろ?」
「良いから早く擦ってくださいよ」
「せっかちだなYOUは……見てろ、あっと驚くぞ?」
黒く炭化したハズのマッチで、もう一度擦った。
マッチは再び燃え出した。
上田はそれを得意げに立て、ゆったり燃える火の向こうで嬉しそうに笑っている。
「どうだ? 凄いだろぉう? これさえあれば、一生火に困らないなぁ?」
「………………」
「ほれ? ほれ?」
「フッ!」
突然山田は息を吹き、火を消した。
彼女の息がダイレクトに上田の目に当たって、顔を背けさせる。
その隙に彼の摘んでいたマッチを掠め取る。
マッチの持ち手に、炭化したもう一つのマッチが逆さでくっ付けられていた。
「…………」
「マッチの火を消す振りをして、逆に付けた無事なマッチへひっくり返した」
「…………」
「先端を黒く塗れば、使用済みと思わせられる。そしてマッチを摘んでいるように見せて、もう一つを手の中に隠しておく……また手の込んだ事をしてからに……」
トリックを見破られたと言うのに、上田は満足そうだ。
彼はベストのポケットから、半分顔を出していた本を取り出した。
「この間、新刊を出した。題して、『上田次郎の新世界』!」
「……これがなんなんですか?」
「ベストのポケットから、ブック。ベストからブック……ベストセラー」
「ベストブックじゃないんですか」
「実は今回の本は日本の風習に大きく関わった内容にした。祭りとか俗説とかだ」
それは物理学の分野なのかと疑問になる山田だが、言わないでおく。
「するとこの本を読んだ一人の女性が……俺の研究室を訪ねてきた」
『日本科学技術大学』
『ポプテピピックを世界競技にする部』
「エイサぁあぁイ、ハラマスコぉおぉイ!!」
「「「エイサぁあぁイ、ハラマスコぉおぉイ!!!!」」」
彼の研究室を訪ねた女性は、五十路前かと思われる人だった。
しかしとても美しい人で、一見では若く見えるほど。
白髪の無い、綺麗な赤毛。それがまた、強い若々しさを感じさせる。
品があり、丁寧ながらも、どこか素朴さが伺える女性だ。
「上田先生の御本を拝読しました。とても面白くて、何度も読み耽っています」
丁重な、年相応の大人な物言いで、新著「上田次郎の新世界」を彼の前に差し出した。自分の本が美人に褒められたとあってか、上田は上機嫌だ。
「エイサぁああぁイ、ハラマス──」
外から聞こえる部活の掛け声を邪魔に感じ、窓を閉める。
それから振り返り、ニッコリと女性へ笑いかけた。
「いやぁ! ありがとうございます! 私はこれまで、日本の様々な村を股にかけて来ましてねぇ? 一度、全国に存在する風説だとか迷信だとかを纏めて論破してやりたいと思っていたんですよ! はっはっは!」
「先生の偉業は予々聞いています。数々の事件を解決なさったとか」
「どれもこれも、他愛もないモノでしたよ! 天っ才物理学者、上田次郎に解けない謎はありません!」
高らかに豪語し、腕を掲げる。
だが彼女の表情は何とも物憂げなものだった。やや俯き気味の顔を上げ、本題を切り出す。
「……先生は、『祟り』を、信じておられますか?」
「……祟り?」
上田にとっては何度も聞き、半ば新鮮味が無い言葉だった。
言うのは上田自身、祟りや呪いと呼ばれる物に幾度となく対峙し、その正体や真相を暴いて来たからだ。
「私、実は岐阜から来ました」
「わざわざ岐阜からですか……」
「……先生に、私がずっとずっと……追い掛けて来た、謎を解いて貰いたいのです」
彼女の依頼に思わず上田は面食らう。
「待ってください。遠路はるばるお越しいただいた点は光栄ですがね? 私も暇じゃないんですよ。これから講演会をしにサルウィンへ行かなきゃで──」
「『どんと来い超常現象』」
彼女は新世界の横に、もう一冊本を置く。上田の過去の著作だ。
「……」
「『どんと来い超常現象2』と『3』」
「…………」
「『なぜベストを尽くさないのか』」
「………………」
「『どんと来い超常現象2010』」
「……………………」
「『上田次郎の人生の勝利者たち』」
「…………………………」
「『上田次郎のロングブレヌダイエット』」
「………………………………」
「どれも良い作品でした」
上田の作品全てを列挙された上に実物まで並べられ、断る意思を封殺された。
それから彼女はニッコリと微笑んでから、本題を続ける。
その笑顔はとても純真で、悪戯好きな子供っぽいものに見えた。
「……私は昔、『雛見沢村』と言う所に住んでいました。もう廃村になってしまいましたが……」
懐かしむような、悲しんでいるような表情を一瞬見せる。
「……この村には、『オヤシロ様の祟り』と言うのがありました」
「オヤシロ様?」
「村の神様です。毎年ある祭りの日に、誰かを殺して誰かを消すと言う……怖い神様です」
「とんだ疫病神で……そう言った伝承は何かしら、村にとって後ろめたい事をカモフラージュする為に作られた物が殆どですよ」
「…………確かに全ては嘘っぱちでした」
信じていると思いきや、何と依頼者本人からの否定。とうとう上田は意図が読めず、押し黙ってしまう。
尚も神妙な面持ちで彼女は続けた。
「……私はとっくの昔に、オヤシロ様の祟りの正体を明かしています。けれどそれは……結局、永遠に謎にされました。私だけ、謎を追っていたから……生き残れたのです」
「ちょっとあなた、一体何を仰って……?」
「上田先生……雛見沢村を調べて、私の明かした謎を暴露してください」
見間違えだろうか。確かに上田には目の前の彼女が「少女」に見えてしまった。
「みんなの無念を晴らしたいんです……最後まで信じ切れなかった、私の贖罪です……!」
彼女は膝の上で拳を握り、涙を零す。指にエンゲージリングは無く、独身のようだ。
寂しげでどこか垢抜けなさがチラリ伺えるのは、それだからだろうか。
だが激情を晒す彼女はどこか、憐れに見えた。
「なかなか売れない本を買ってくれたから懐いたんですか」
「そんなんじゃない! 依頼人を断るなど、天っ才物理学者上田次郎の沽券に関わる!」
二人は車の中にいた。
もはや動く化石とも言っても良い、上田の愛車トヨタ・パブリカで高速道路を走る。
その後ろを走って追跡する山田唯一のファンが、ドアミラーに写っていた。
「それで、その女の人が言った謎ってのは何だったんです?」
「その前に旧雛見沢村について調べてみた。ほれ」
懐から取り出した資料の写しを山田に投げ渡す。
「旧雛見沢村。一九八三年に廃村。ただ、廃村になった経緯に関しては謎が多いようだな」
「……村民が全員死亡ってなかなかヤバくないですか?」
「確かにヤバいな。火山性ガスだとか。しかし依頼人は、村民全滅の正体は『寄生虫』と言う」
「…………その人の方がヤバいじゃないですか」
「その通り、ヤバい女だった」
上田は別の紙を見るように催促する。
次のは古い診察用紙のコピー。コピーが下手なのか、ズレにズレまくっている。
「コネを使いまくって彼女の経歴を集めたら、何と十五歳から三年間を精神病院で過ごしていた事が分かった。もっと調べさせたら、過去にクラスの男子を金属バットでボコボコにしたとか」
「ヤバいってレベルじゃないですよ!? 狂人ですか!? そんな人の依頼受けたんですか!?」
「仕方ないだろ……あんなに泣かれちゃ、断れるもんも断れん。形だけでも調査をしておかなければ」
「今度は上田さんがフルスイングされるかもしれませんね」
「ふっ……バット程度じゃ俺は倒れんよ」
「腕を震わせるな」
高速道路に乗って暫く経ったが、やっと山田は気が付いたように質問した。
「……で、私も行く意味は?『私の記憶』とは……関係なさそうですけど?」
「何言ってんだ、長年のコンビだろ? 何を水臭い……」
「やっぱ怖いんですか?」
「は? 何言ってんだお前? この天っ才物理学者上田次郎に怖い物などない!」
山田は改めて、彼から渡された旧雛見沢村のデータを見る。
「……死者二千人弱、村民全滅。二千人が犠牲になった事件なら、もっと資料多くても良いような……」
「怠慢かと思うほどデータがない。火山性ガスだと断定したなら、地質調査の報告書もあって良いハズだが、それすらも無い。三十年近く前とは言え、残されなさ過ぎだ」
「つまり依頼人はデータにない、何らかの事実を知っていて、我々に証拠と暴露を……と?」
資料を後部座席に投げ捨て、呆れたように山田は首を振る。
「見つかるとは思えませんけど」
「同意だ、さすがに古過ぎる。まだ昭和の時代の話だ。ただ、ワールドワイドな俺のネームバリューで旧雛見沢村に世間の注目度を上げさせようってのが魂胆じゃないのか?」
「依頼人は事実ってのを話してくれた訳で?」
「いいや。彼女も旧雛見沢村に行くと言って……先に現地で待っていると」
「お目付けって事ですかね……あぁ。怖いってのは旧雛見沢村よりその人ですか。怖いからその、竜宮礼奈って人について調べたんですね!」
「俺は何も怖くねぇ!!」
車は走る。灰色の道路を、岐阜へ岐阜へと。
ミラーに写っていた山田唯一のファンは、まだ遠く微かに追いかけて来ていた。
【PILOTFILM・TORITUKU】の作品化です。
TRICKを好きな方々に伝わるような表現を心掛けて行きます。