TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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最集結

──飛びかかる上田に、四人の内三人の山狗が迎え討つ。彼らは構えたナイフを巧みに操り、上田を切り刻まんとする。

 しかし上田はそれを瞬時に避け、まず先陣切った一人目の鼻面を殴って倒した。

 

 

「カランコロンッ!?」

 

「うぉおおッ!!」

 

 

 倒れた一人目を飛び越え、二人目が飛びかかる。

 上田は身体を逸らして回避し、空いたその腹に強烈な蹴りをお見舞いしてやった。

 

 

「タラレバ娘ッ!?」

 

 

 相変わらず変な悲鳴と共に沈黙する二人目。

 次に三人目が、逆手に持ったナイフを振り回し、上田に差し迫る。

 

 上田は後ろに大きくステップし、冷静に対処すると、ナイフの軌道の隙間を見計らって敵の懐に潜り込む。

 愕然とする三人目の顎目掛けて、強烈なアッパーを叩き込んだ。

 

 

「ラブストーリーッ!?」

 

 

 これで一気に三人をやっつけ、残りは後方で待機していた一人のみ。

 仁王立ちで威圧感を放つ上田を前に、顔を強張らせる四人目。固唾を飲んで見守る圭一と梨花。

 

 

 しかし次の瞬間、四人目はニヤリと笑うと、持っていたナイフを捨てた。

 

 

「……なに?」

 

 

 一体何をする気だと警戒する上田を、四人目は右手の人差し指で差す。

 

 

 

 次の瞬間、その指が黒くなったかと思うと、鋭く、木の枝のように尖って伸びる。

 何とか躱し、また元に戻ったその指を見て、上田は悟ったように呟く。

 

 

「……オール・フォー・ワンか……!」

 

 

 ならばこちらもと、上田はその場で大きく振りかぶり、腕から何か黒い触腕を伸ばしてしならせ、それで四人目を殴り付ける。

 

 

「黒鞭……ッ!!」

 

「うぐッ!?」

 

 

 四人目の顔に直撃。

 しかし何とか堪え、男は右手の全部の指を黒く尖らせ伸ばした。

 

 

「鋲突ッ!!」

 

「フンッ!!」

 

 

 それを紙一重で回避すると、お返しにと上田は黒鞭をぶつけた。

 

 

「クソッ……うがぁぁあッ!!」

 

「甘いッ!! ゴムゴムのォッ!!」

 

 

 再び鋲突を繰り出すも難なくかわされ、ビヨーンと伸びた上田のパンチを食らった。

 

 

「ぐぁッ!?……う、うおおおーーーーッ!!」

 

 

 やけになった四人目はとうとう腕を大きく振りかぶり、突撃を開始。

 対する上田も腰を据え、思いっきり腕を引いて迎え撃つ。

 

 

 

 そのまま殴りつけようとする四人目。

 

 

「君を殴る──」

 

「ワンフォーオール1000000%デラウェアデトロイトスマッシュゥゥーーーーッ!!!!」

 

 

 上田が放った一撃を、顔面からモロに食らった四人目は大きく吹き飛ぶ。

 地面を転がり、木にぶつかり、そのまま静止。それでもまだふらふらと顔を上げたものの、一言呟いてからガクッと突っ伏してしまった。

 

 

「大学物語……」

 

 

 山狗の刺客たちは完全沈黙。上田の勝利だ。

 上田は明後日の方向を指差し、決め台詞を言う。

 

 

 

 

「次は君だ」

 

「上田! 勝ったのですか!?」

 

 

 梨花と圭一が彼の元に駆け寄る。

 

 

「訓練されてる特殊部隊相手に……ちょっと上田強過ぎるのです!」

 

「俺、良く分かんないんスけど……途中多分、違うヤツが混ざってた気がします。ゴムゴムってヤツ……」

 

 

 とは言え、勝利の余韻に浸っている時間はない。山狗の刺客はひっきりなしに現れる。

 

 

 

 

「いたぞッ!!」

 

 

 今度は五人がかりで現れた。

 すぐに身構える上田だが、正直なところ限界を感じていた。

 

 

「クソ……! さすがの俺でも、連戦は厳しいぞ……!」

 

 

 圭一も身構えるが、自分が勝てる相手ではないと気付いている。

 

 

「早いところ山から出ないと……!」

 

 

 二人に守られている梨花もまた、焦燥感を滲ませ、眉をひそめる。

 

 

「ボクたち三人じゃ手が足りないのです……!」

 

 

 敵は大挙して引っ切りなしに押し寄せて来る。軍団を三人で突破出来ようものか。

 そうこうしている内に五人組は上田らに迫り、総出で襲い掛かって来た。

 

 

 しかし次の瞬間、内三人が悲鳴と共に消えた。

 

 

「「「ハチミツオーケストラーーーーッ!?!?」」」

 

 

 いや消えたのではなく、掘られていた落とし穴に落ちたようだ。

 残った二人は何事かと立ち止まる。

 

 二人組の目線が穴の中へ向く。その隙を突いて死角から迫る、何者か。

 

 

 

 

「はうはうっ!! おッ持ち帰りぃッ!!」

 

 

 レナだった。

 レナはその二人組をガァンと殴り、穴の中に落としてやった。

 

 

「「タワーーッ!!!!」」

 

 

 五人組は仲良く、落とし穴に詰め込まれた。穴は結構な深さなので、這い上がるには結構な時間がかかるだろう。

 敵を排除し終えたレナは、圭一らの方を向く。

 

 

「助けに来たよっ!」

 

「レナ!?」

 

「をーっほっほっほ!」

 

 

 更には聞き覚えのある高笑いまで聞こえて来る。

 

 

「私もおりますことよ!」

 

 

 沙都子もひょっこりと現れ、梨花の隣に走り寄る。

 

 

「沙都子! 来てくれたのですね!」

 

「梨花たちが捕まったと聞いて……居ても立っても居られなかったのですわよ」

 

 

 レナも首肯する。

 

 

「無事で良かった……でも、捕まっていたところからどうやって逃げたの?」

 

「聞かないでくれ」

 

 

 上田が彼女の疑問を遮った。なぜか圭一と共に股間を押さえている。

 とは言えここで再会を分かち合う暇はない。すぐに移動しなければまた囲まれる。

 

 

「どれだけの数が山に来ているのですか?」

 

 

 梨花の質問にレナが答える。

 

 

「かなりの数だったよ。パッと見た感じ、三十人はいたかな……かな?」

 

「それに県警さんも乱入されまして……私の罠の数も足りませんですことよ」

 

 

 沙都子は困り顔でそう溢す。

 彼女のトラップが無意味と言う事ではない。寧ろ、山狗らの足取りを遅れさせてはいた。だが数の多さによりトラップは確実に潰され、同時に「標的は間違いなく山にいる」と言う確実な情報が彼らの士気を高めさせていた。その士気の高さは、トラップで何人ばかりが行動不能になったとしても下がる事はない。

 

 

「山狗」と名乗るだけあり、獲物に対する執念は半端なものではない。圭一は歯噛みする。

 

 

「こんだけの大軍どこに隠してたんだよ……!」

 

「恐らく、同じ派閥の別部隊から借りて来たんだろう。それだけ雛見沢症候群の研究自体が利権の温床だったと言う事だ」

 

 

 上田の推測に、一同は改めて戦慄する。

 彼らは、あらかじめ山からの脱出ルートとして定めていた山の反対側へ向かって走っていた。そこにはメンバーしか知らない、田んぼへ抜ける秘密の通路がある。

 

 山狗らは明らかにこの山へ戦力を集中させている。山さえ脱出してしまえば村民と合流し、車に乗って雲隠れ出来る。

 

 

「もうすぐですわよ!」

 

 

 沙都子が指差す先に秘密の通路がある。幸運にも道中、山狗には遭遇していない。

 今のうちにと、一同は更に足を早めた。

 

 

 

 

 

 その足が止まる。

 山狗が一人、立ち塞がったからだ。

 

 

「こちら鴉21、Rを発見。想定通り、山林から田んぼへ抜ける道に現れた」

 

 

 隊員が無線で場所を知らせる。

 同時に辺りの草陰から、六人ほどの隊員が姿を現した。完全に囲まれている。

 

 

「ウソ……!? ここは村の人にも秘密なのに……!?」

 

「どうして知っているのですか!?」

 

 

 驚くレナと梨花の声を聞き、鴉21はニヤリと口角を吊り上げる。

 

 

「俺たちは諜報部隊だ。知らない事なんてない」

 

 

 隊員らがテーザー銃を構えた。思わず身構える一同。

 

 

「こいつら……待ち伏せてやがったのか……ッ!」

 

 

 圭一が梨花を庇うように立つ。

 すぐに上田も臨戦態勢を取るが、疲労も相まって正直勝率は限りなく低い。

 

 

「おい山狗ども…………そろそろ『東京〜』のレパートリーキツくなって来てるだろ。諦めて帰れ」

 

 

 虚勢を張る事しか出来なかった。

 そんな彼らを嘲笑いながら、鴉21は口を開く。

 

 

「古手梨花を渡せ。どの道、お前たちはもう詰みだ」

 

 

 たじろぐ一同。もはやこれまでかと、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

「待てぇいッ!!」

 

 

 そこへ響く、救世主たちの声。何事かと、声のした方を全員が見る。

 

 

 そこに立っていた、四人の男たち。

 まず一人の男が決めポーズ。

 

 

 

 

「ワシ、参上!」

 

 

 その男、警部補の矢部謙三だった。

 

 

「矢部さんッ!?……モモ?」

 

 

 

 次にその隣にいた男が、山狗らを指差す。

 

 

「逮捕してええんかの? 答えは聞いとらん!」

 

「石原さんッ!!……リュウ?」

 

 

 

 次はその隣にいた高級スーツの男。

 

 

「僕の学歴にお前が泣いた!」

 

「菊池さんッ!!……キン?」

 

 

 

 最後は勿論、なぜか釣竿を待っているこの男だ。

 

 

「僕と、釣りに行きませんか?」

 

「秋葉さんッ!!……ウラ……いや、ハマちゃん?」

 

 

 現れたのは言わずもがな、未来から来た公安フォース。

 それぞれが謎の口上を言った後、一斉に山狗らに襲いかかった。

 

 

「公安デカ舐めたらアカンでぇッ!! 最初っからクライマックスやァッ!!」

 

「ワシもギンガの力でやっつけちゃるけぇのッ!!」

 

「僕のこの、警視総監内定パンチを貴様らにブチ込んでやるッ!!!!」

 

「もはや絶滅危惧種のゼロ年代アキバ系オールドタイプの底力見せてやるーーッ!! ゾンビィーーーーッ!!」

 

 

 公安部の奇襲に、訓練させた山狗らと言えども動揺を見せてしまった。

 包囲網が崩され、隙が出来る。

 

 上田はそれを見計らい、梨花たちに「走れッ!!」と叫んだ。

 しかし抜け道の先にも隊員らは待ち構えているようで、脱出は諦めて山に戻る他なかった。

 

 

 逃げる彼らに追い縋ろうとする、鴉21。

 

 

「逃がさんぞッ!!」

 

 

 テーザー銃を向け、引き金を引こうとする。

 

 

 

 だがそれは、突然ぶつけられた石によって阻まれた。

 

 

「オリンピックッ!?!?」

 

 

 顔面に直撃し、足の力が抜け、鴉21は斜面を転がり落ちて行った。

 誰が投げた石かと全員が目を向けると、そこには魅音の姿が。

 

 

「お待たせっ! 間に合った!?」

 

「魅音!!」

 

 

 次に別の場所から銃声が響く。

 

 

「バナ奈ーーーーッ!?」

 

 

 間抜けな悲鳴と共に地面に伏せる山狗。

 その前には散弾銃を構えた詩音がいた。

 

 

「ふふふ……安心せい。ゴム弾じゃ……」

 

「詩音も!!」

 

 

 圭一に呼ばれ、姉妹揃ってチャーミングにウィンクしてみせた。

 二人が駆け寄った事で、部活メンバー全員が集結した事になる。

 

 

 後方で、山狗の隊員にコブラツイストを決めていた矢部が叫ぶ。

 

 

「ここはワシらに任せて、センセェは早よ逃げてくださいッ!!」

 

「興宮署の人たちも頑張ってますんで、上田教授も頑張ってくださぁーーッ!!」

 

 

 秋葉も隊員にキャメルクラッチを仕掛けながら励ましてくれた。

 

 

「矢部さん! 皆さん!!……ありがとうございます!!」

 

「無茶はしないで欲しいのです!!」

 

 

 上田と梨花がそう言葉を残してから、部活メンバーはその場を急いで後にした。

 

 

 

 

 

 途中、走りながら魅音が、得意そうな顔で無線機を見せた。

 

 

「これ、敵の無線機! ここの抜け道にいるって聞いて、もう超特急で来たよっ!」

 

「運良く近くまで来ていたから良かったですけど……」

 

 

 詩音が魅音の横から顔を出して補足する。

 本来なら別働隊である二人の顔を見て、圭一は思わず顔を綻ばせた。

 

 

「やっぱり揃っちまうんだな、俺たち……!」

 

「とは言え……状況は結構、マズいですわよ……!」

 

 

 そう溢す沙都子に賛同するように、レナも首肯する。

 

 

「脱出ルートが潰されちゃったし……何とかして別の道を探さないと……!」

 

「ここの傾斜を降りれば山道に出る! そこからならどうだ!?」

 

 

 上田の提案に、梨花は首を振る。

 

 

「抜け道もマークしていた奴らなのです……分かりやすい道はもう張り込まれていると思うのです」

 

 

 彼女の予想は当たっている。麓に繋がる道は山狗の人員、更には岐阜県警が見張っていた。

 まさに、ネズミ一匹逃さないような包囲網を裏山に敷いている。正面突破で切り抜けはとても出来ないだろう。

 

 

 

 

 その時、木の影から二人の山狗が。

 

 

「あっ! Rを発見ッ!! 山の中腹、南東部に──パラリンピックッ!?」

 

 

 まず一人は詩音がゴム弾で片付ける。

 散弾銃の所持に相方が動揺している隙に、懐まで駆け寄った魅音が渾身の一本背負い。

 

 

「おっしゃあぁぁぁーーーーッ!!!!」

 

「ゼロサーーーーンッ!?!?」

 

 

 地面に叩きつけられ、先に撃たれた方と共に行動不能に。

 脅威は打破したものの、魅音は焦っている。

 

 

「こいつ……直前に報告しやがった!! 場所が割れちゃったよっ!!」

 

「すぐに移動しないと……!!」

 

 

 レナがそう言うと同時に、魅音の持つ敵の無線機から、隊員からの「了解」の声が数多響く。山にいる隊員らが全員、こちらへ集まり出している。

 辺りで既に、山狗らの声が聞こえて来る。すぐに全員が円陣を組み、背を預け、全方位に警戒態勢を取る。

 

 

「もう来てますの……!」

 

「囲まれたか……!?」

 

 

 沙都子と圭一の言う通り、近場にいた山狗らは報告のあった地点をしらみ潰しに当たっている。逃げる隙間はない。

 

 

 

 じわじわと狭まる円の、その中心に立たされているような焦燥感。

 不意に上田は、炎に囲まれ、本気で死を覚悟した「万練村」での光景を思い出す。

 

 あの時だって窮地を救ってくれたのは、山田だった。山田の閃きであった。

 

 

「……お前だったらどうする……どう、切り抜ける……!!」

 

 

 上田のその呟きは、後ろにいた梨花だけが聞き取っていた。グッと、悔しそうに唇を噛む。

 

 

 

 

「いたぞッ!!」

 

 

 声が響く。合わせるように四方八方の茂みから、大勢の山狗が顔を出した。

 とうとう、見つかってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──同じ頃、入江の元にも山狗の手が及ぼうとしていた。

 

 

「……ぐるるるる……!」

 

「……! どうされました?」

 

 

 突然、唸り始める柴犬。何事かと、車窓から外を伺う。

 

 

 そこには銃を構えた、数人の男たち──服装と装備からして、間違いなく山狗だ。

 彼らは入江の乗ったバンを見ると、すぐに無線を取る。

 

 

「鴉9から鳳1。裏山東部の雑木林で不審なバンを発見。確認する」

 

 

 入江はすぐに窓から身を隠すと、持っていた救命セットに入れていたメスを手に取った……尤も、銃持ちかつ複数人に敵うハズはないだろうが。

 そのまま彼らが開けるであろうバンの後方を警戒し、悟史を庇うように構える。柴犬も足元で威嚇を始めた。

 

 

「……悟史くんは……私が、守るんです……!」

 

 

 大勢の足音がどんどんと近付く。合わせて入江の心音も、早まって行く。

 そしてとうとう、バンの扉に誰かが手を掛け、開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 一斉にテーザー銃を構える隊員たち。

 抗うように詩音も銃口を向けるが、それを見て一人の隊員が叫ぶ。

 

 

「奴の所持している散弾銃はゴム弾しか入っていないッ!! 狼狽えるなッ!!」

 

 

 実弾がない事をバラされてしまった。ここに来るまで何度も撃ったのだから、情報が回っていても仕方ないだろう。

 梨花を守るように身を寄せ合う部活メンバーらに、隊員が声を投げかける。

 

 

「古手梨花を渡せッ!! さすれば命の保証はするッ!!」

 

「……そう言われてさっき殺されかけたけどなッ!!」

 

 

 そう圭一は反論こそするが、山狗らからすれば虚勢にしか見えない。ゆっくり焦らすような舐めた足取りで、距離を詰めて来る。

 テーザー銃の射程距離に入れば、一斉に撃ち込んで来る。そうなれば痺れさせられ、無力化──つまるところ、敗北だ。

 

 しかしもはや上田らに策はなく、突破するだけの力も残っていない。まさに四面楚歌だ。

 

 

 

(……そんな……)

 

 メンバーらの中心、そこで守られている梨花の心の中にはじわりと、絶望が現れ始めていた。

 

 

(……ここまで来たのに……部活のみんなだって誰も欠けていないのに……それでも勝てないの……?)

 

 

 彼女にとって、「あまりにも長い戦い」。やっと活路を見出せたと思ったのに。

 

 

(また私は……負けるの…………?)

 

 

 敵は大き過ぎた、そして強過ぎた。自分たちの全力が矮小に見えるほどに。

 

 

(…………)

 

 

 テーザー銃の射程距離に入る。引き金にかけた指に力をかけ始めた。

 反射的に梨花は、目を瞑った。

 

 

 

 もう、終わりなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に聞こえたのは、

 

 

「「特許許可局ーーーーッ!?!?」」

 

 

 激しい轟音と間抜けな山狗らの悲鳴だった。

 

 

「……え!?」

 

 

 再び目を開く梨花。

 斜面の上から転がって来た丸太が、数人の隊員を巻き込んで倒したようだ。

 

 

「な、なんだッ!?」

 

 

 突然の出来事に狼狽えを見せる山狗たち。

 そうこうしている内に次は丸太の振り子が襲いかかり、更に数人を吹き飛ばした。

 

 それを見て詩音は呟く。

 

 

「アレって……沙都子のトラップ……?」

 

「わ、私のですけど……あのトラップのスイッチはもっと上の方にありますわ! 今作動する訳が……!」

 

「一体なにが……」

 

 

 ふと、上田は丸太が転がって来た方を見る。

 その先に、誰かが立っていた。

 

 

「……あれは……ッ!?」

 

 

 彼に合わせて、その場にいた全員が斜面の先を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 藁と笹の葉で出来た装束を纏い、不気味な面で顔を隠した謎の存在。それがジッとこちらを、見下ろしている。

 最初は人形かと思ったが、くっと顎を上げる仕草を取り、生きている事を示した。

 

 

「だ……誰だッ!?」

 

 

 山狗の隊員がそう叫んだと同時に、それは明後日の方を指差した──瞬間、その先からドラマ缶が転がって来て、また隊員らを巻き込んで倒した。

 

 

「な、なんだあいつ……!?」

 

 

 戦々恐々とする魅音と部活メンバーたち、そして山狗。

 明らかに異質なそれは、瞬く間に場の空気を支配していた。

 

 

「だ……誰なのですか──」

 

「……妖術使い」

 

「……え?」

 

 

 梨花が見上げると、困惑した上田の顔がそこにあった。

 

 

 

 

「間違いない……なぜ……あいつが……!?」

 

 

 あの不気味な仮面を忘れる訳がない。

 かつて上田が深い森の奥で出会った、謎の存在──

 

 

 

 

 

──妖術使いは、ゆっくりと腕を広げる。

 その姿が、やけに神々しく見えた。

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