空の境界 偽典福音/the Garden of false   作:旧世代の遺物

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 初ssです。自分の中のらっきょ愛と型月愛が爆発してこのようなものを書いてしまいました。
 未熟故の文法間違いや誤字等が散見される拙作ですが作者の身勝手な妄想の産物として気軽に読んで頂けると幸いです。
 また、式を織として性転換させた影響で大幅な設定改変や捏造設定が有りますが、人物の性格は可能な限り原作を踏襲していこうと思います。



1/俯瞰風景 -Thanatos-
俯瞰風景/1


   

-Sometime,somewhere-


 

 ────焔。

 轟々と猛る業火と暗雲じみた黒煙。

 蒼天は紅く焼き尽くされ、地すら真黒に焦げ付いた。

 涼風は熱風に、茂る木々は皆木炭に加工され、かつて在った幸せな世界は微塵に砕かれ泡沫と消えた。

 揺らめく陽炎の彼方、凄絶なる地獄の果てに、二人と一体は互いを見遣った。

 救世の求道者達は魔銃の射手を見出し……。

 正義の執行者は黒衣の僧兵と太極の代用品を見定めた。

 

 二人は執行者を赦すことはできなかった。

 一体は求道者達を許す訳にはいかなかった。

 

 語るべき言葉は、まだ多分にある。その気になれば、互いに憐れみ合えたのかもしれない。

 それでも。

 彼らが彼らである以上、この対決は運命の導きであった。

 

 求道者達の一人──黒衣の僧兵は双拳を構え、もう一人の女は大太刀を抜刀する。

 抜き身の刃そのものの殺意を受けながら、執行者は引鉄を絞り込む。

 雷鳴じみた轟が大気を駆け抜けるよりも遥か先に、双影は烈風のように疾駆した。

 

 

──これは光と闇、善と悪の正典に非ず。

 それは救世を掲げ、理想に殉じた者と──

 偽りの果てに本物へ至った紛い者──。

 その二人が織り成す、絡み合う螺旋が如き相克の偽典である。

 

 

    /-

 

 

 

わたしは世界に二つある。

 一つは「彼女」の代わりに彼の底。

 もう一つはかつてのように彼の内。

 

 

わたしは本来いないもの。

 けれど確かにあったもの。

 

 

偽物と本物の間にいるもの。

 そんなわたしはまがいもの。

 でもそこにしか、わたしはいないもの。

    

 

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 一九九八年八月初頭の夜、黒桐鮮花(こくとうあざか)が訪ねてきた。

 

「こんばんは。あなたがいつも通りで良かったわ、織」

 

 彼女は普段通りの笑顔で在り来たりな挨拶をする。

 

「もう、いいかげん鍵くらいかけなさいよね。あなたってば本当に無用心なんだから。少しは心配するわたしの身にもなってよね。あと、はいコレ。いつものヤツ」

 

 彼女はもう聞き飽きた小言を言うと共に靴を脱ぎながら僕にビニール袋を渡す。

 ボルヴィック製ミネラルウォーターの一リットルのボトル一つと五百ミリリットルのボトルが二つ。どうやら冷蔵庫に入れておけ、という事だろう。

 僕が億劫な気持ちで冷蔵庫にそれを入れている間に彼女は玄関から廊下へと踏み入っていく。

 

「そういえば織、 あなた今日も学校休んだでしょう。あなたなら成績はどうにかできるでしょうけど出席日数だけは後付じゃあどうにもならないわ。留年なんてしたら秋隆さんが悲しむわよ」

「知らないよ。秋隆やオレのことなんておまえには関係ないだろ」

「関係あります。第一、一緒の大学に行くって約束したじゃないの」

「そんな約束は……もう忘れたし、おまえだってトウコの所にいってるだろ」

「わたしはちゃんと学校にも行ってます。あなただってそういうところ治さないと将来苦労するわよ。そうなるとわたしが心配じゃないの。それにあなた、退院してからずっと両親に連絡もしてないんですって?」

「ああ。その必要もなかったからな」

「だめよ、あなたがそのままだとずっと会わないままになっちゃうじゃないの。そんなの放っておけるわけないわ」

「……ふん」

 

 鮮花のあまりのお節介ぶりに反論する気も無くした僕は強引に話を打ち切って自室に移動する。

 彼女もごく当たり前にそれに随伴する。

 やはりこの女の在り方は三年前から変わってはいないようだ。

 その世話焼きが僕だけに向けられているのか、それとも他人にも向けられているのかなど僕には知り得ないことだ。

 そんなたわいのないことを考えている内に僕は自室のベッドに腰を下ろしていた。彼女もその横にちょこんと座り込む。

 僕は知らずその線の細い背中を曖昧な視点で観察している。

 黒桐鮮花という少女は、僕の覚えている限りの唯一の友人であるようだ。 

 ────もっとも、覚えていないだけで彼女の口ぶりではもう一人居たという。

 何の理由なのか、大切にしていた覚えはあったのに、僕はその人物のことを名前すら思い出せないのだが。

 

 鮮花は現代の若者の中では希少とすら言えるほどの優等生である。

 髪を染めることも装飾品で着飾ることもない。当然の如く夜遊びすることなどあり得ない。

 身長は百六十より少し高い程で、黒いストレートのロングヘアを背中まで流している。

 柔和で清楚なお嬢様、といった顔立ちではあるものの、それらは彼女の本質を隠す為の装飾に過ぎない。

 何故なら彼女の瞳はいつも何かに挑み続けているような芯の強さが滲み出ているからだ。おそらくこの隠しきれない自己の強さこそ彼女を鮮花足らしめるモノなのだろう。

 僕の贔屓目ではあるのだろうが、彼女は街を歩けば通行人が目を留めることは間違いない程の美人だと思う。

 そう考えていると鮮花は本題と思わしき話を始めた。

 

 

    ◇

 

 

 両儀織はわたしの高校時代からの友人だ。

 とある雪の日の夜、何の気まぐれか散歩に出かけていた時、彼と出会ったのだ。

 黒いコートに黒いズボンという何処となく(幹也)によく似た服装は一面に広がる白い闇に際立ちまるで太極図における陰極を体現しているようだった。

 それだけでわたしの気を引くには充分だったが、何よりもその在り方に一目で魅了されてしまった。

 静謐にして凄絶な凄みを持つその黒々とした瞳。何処に居ようとも決して溶け込むことのないであろう程周囲から隔絶した佇まい。

 それら全てにわたしはこの上ない''特別性''を見出したのだ。

 その瞬間からわたしは無意識に彼のことばかりを考えるようになった。

 それから高校に進学した時、合格発表で目にした両儀織という珍しい名を覚えていると 、なんとその両儀織こそがあの夜の彼だったのだ。それも同じクラス。

 それからは誰とも関わりたがらない彼に強引と言える程積極的に関わりを持ち、彼の数少ない友人となったのである。

 ────それこそが最大の''禁忌''だったとは露ほども知らないままに。

 

 

    ◇

 

 

「飛び降り」

「ん? 突然どうしたんだ」

「飛び降り自殺。ほら、最近多いでしょう。あれって事故になるのかしら、それとも他殺?」

 

 ……僕には途方もなくどうでもいい疑問だったが、柄にもなく僕はその問いに真剣に答えてやった。

 

「……多分、事故の一種だろうな。ただ、自殺と定義されている以上自分の意志でやったことだ。だから責任は自分のもの。他殺でもないし事故死とも言えない。曖昧だな。自殺ならもっと誰にも気付かれない方法でやればいいのに。まったく、迷惑な話だぜ」

「わたし、死んだ人を責めるのってよくないと思うの」

 

 ……おまえから振った話だろう。という反論は置いておく。この返答は予測済みだった。

 こいつは特別なんてものを求めるクセにそれなりの常識は備えている。

 だからこのありきたりな返答も彼女の良識から溢れ落ちたものなのだろう。

 

「ホント、おまえらしい言い方だな、コクトー」

「懐かしい呼び名ね、それ」

「……確かに」

 

 彼女の呼び方は鮮花とコクトーというふた通りがあり、僕は普段、鮮花と呼んでいる。

 ……そもそも何故二つも呼び方があるのか、なぜコクトーという響きが気に食わないのか……自分でもわからない。

 そうして会話に空白が生まれると、彼女は唐突に話題を転換した。

 

「そういえば、兄さんには言ってないけどわたしも見たのよね」

「……? なんのコトだ」

「ほら、最近噂になってる巫条ビルの空飛ぶ幽霊。あなたは見たの?」

 

 ────思い出した。あれはもう三週間は前の話だったか。

 街には巫条ビルというかつて街のシンボルタワーだった廃墟があり、夜になると上空に浮遊する幽霊の群れが見えるという怪談だ。

 見えたのは僕だけではない以上、アレは本物か。

 あの事件で二年間の昏睡状態になり、回復してからは、僕には『見えるはずのないモノ』が見えてしまうのだ。

トウコによると見えているのではない、視えて(とらえて)いるのだということらしいが、僕にはイマイチ興味が湧かないので気にすることは無かった。

 

「アレなら一度と言わず何度か見た。まあ飛び降り自殺が始まった頃からあそこには行ってないから、 今も居るとは限らないぞ」

「うーん、あの噂が気になって何度か行ってみたけど、わたしには一度しか見えなかったな」

「おまえ、目だけは特別じゃないんだな」

 

 それはそうだけど、と納得のいかない顔をする鮮花。

 僕は知らず、''存外、こいつ視えにくいのか''と驚きの表情を浮かべていた。

 それは置いておいても、飛ぶだとか落ちるだとか、ヘンな話が噂になっているものだ。それが解ったところで意味があるのかすら解らなくて、僕は疑問を口にする。

 

「織、人が空を飛ぶ理由ってわかる?」

 

 ……こいつも全く同じことを考えていたらしい。僕も彼女も同時に首をすくめていた。

 

「少なくとも、わたしにはわからないな。もしかしたら、初めから理由なんてないのかも」

 

 ────理由がない、故に''浮遊''か、と自分でもわけのわからないことを僕は考えていた。

それこそ、意味も理由もないことだというのに──。

 

 

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 八月下旬の夜。僕は散歩をすることにした。かつての自分が嗜好していた行為だからだ。

 もう二年前の話だ。

 その年の三月頃、僕は交通事故に遭って昏睡状態となっていた。雨の夜の事だった。

 幸い致命傷ではなく、傷自体は早くに癒えたそうだが、奇跡的に回復するまで意識が戻らなかったらしい。

 これまた奇妙なことにその間、僕の体は成長することも急変することもなく''静止''していたのだそうだ。

 その出来事は僕に大きな変化を齎していた。

 どうにも自分の記憶を自分のモノだと認識出来ないらしい。所々欠けてはいるものの、記憶自体はある。

 それでもそれらを自分の体験した事だとは実感出来ないのだ。そのどうしようもない違和感は僕自身がまるで『両儀織』という人物に取り憑いた幽霊であるかの様に錯覚させていた。

 そのせいで僕は記憶の通り今まで通りの『両儀織』として振る舞えるものの、生きている実感というモノがまるで無くなっていた。

 僕は夜歩きという過去の自分が行っていた行為を(よすが)にもしかしたら過去の自分に戻れるかもしれない、生の実感を取り戻せるかもしれないという期待を抱いている。 

  ……なるほど。僕は自分が思っているよりも遥かに『過去』だとか『自己』だとかいう自分にしか解る筈のない不確かなモノに執着しているらしい。

 

 

    ◇

 

 

 しばらく歩いていると、そこには巫条ビルと呼ばれる天を戴かんとしている塔のような高層建築が聳え立っていた。

 奥からは一匹の仔犬が紅い足跡を地に残しながら僕の横を通り過ぎていった。

 ……僕はその紅々とした跡を辿っていく。すると──。

 そこには、折れた百合のような、押し花のようなものが更に紅い華を咲かせていた。

 無論、押し花などではなく潰れた顔の判別のつかない死体である。 

 おそらく、例の飛び降り自殺の新たな犠牲者であろうと僕は結論付けた。

 僕はなんら表情の無い顔で塔を見上げる。

 ──その時、人らしき影が幾つも浮かび上がっていた。

 そう、事実それらの人影は浮遊していたのだ。

 その現実は僕に季節外れの寒気を齎していた。

 

「なんだ、今日もいるじゃないか」

 

 そうして、例の『浮遊する幽霊の群れ』は紅い月に嵌め込まれたかのように空を漂っていたのだった。




 最初から難産でした。ssを書くってこんなに難しいことなんですね。ss書きの方々には本当に頭が上がりません……。

 ともあれ、此処までが第一話です。
 俯瞰風景はおおよそ原作沿い(アニメ版準拠)で行こうと思います。原作からずれて行くのは殺人考察(前)以降という予定です。
 書き溜めというのもアリですが話が書き上がり次第随時投稿して行きたいと思います。

 次回は本題なので間が開くと思います。至らぬ点ばかりな本作ですが、読者の方々の暇つぶしにでもなれば幸いです。
 誤字・脱字等が有ればご報告下さい。随時修正していきます。
 もし良ければ感想、評価の程をよろしくお願いします。その一つ一つが作者の糧となり燃料となります。
 

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