空の境界 偽典福音/the Garden of false   作:旧世代の遺物

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殺人考察 (前)/6

 

    /1

 

 翌日、黒桐は平然と食事の誘いをかけてきた。

 それだけは毎回受けているものの、やはり白純が居ない事に違和感を感じていた。

 ……いつまでも、こんなことを続けていてはいけない。自分の為にも、彼女の為にも。

 きっと今日この場であの夜の事を問い詰めてくるだろう。

 だからこそ、きっぱりと罪を認めて終わりにしよう。

 

「織の家ってすごく大きいわね。あんなに大きな武家屋敷なんて初めて見たし、執事さんなんか相手にしたなんてちょっとした自慢話よ?」

 

 家の話はこれだけだ。

 彼女の事だから張り込みが気付かれている事は知っているだろうが、明らかに様子がおかしい。

 あの時彼女は僕を見て、泣いてすらいた筈なのにどうしてこんなに平然としているのか?

 

「黒桐さん。二月三日のあの時、貴女は確かに僕を見た。それなのにどうして警察に黙っている」

 

 彼女は表情を変え、暫し思案してから返答する。

 

「……そうね、けどそれだけじゃないの。あなたはただそこに居たっていうだけ。わたしはそれしか見てないから、あなたじゃないって信じるの」

 

 見え透いた嘘を。なら屋敷を見張る必要はない筈だ。

「そう、わたしが見たのはそれだけ。本当はすごく怖かった。けどわたしはあなたの優しさを知っているから、信じ続けていたい。……今はまだ整理がついていないから、この話はおしまいにしましょう」

 

 そう、あの時シキは間違いなく彼女を殺そうとしたのだ。

 僕はそんな事はしたくない。 ……本当に?

 彼女は、僕の優しさを信じると言う。僕も自分の良心を信じられればどんなに良い事か。

 そうであれば、こんな苦しみを味わう事にはならなかったのに……。

 

 

    ◇

 

 

 そうして、僕は鮮花を無視する事にした。

 二日程であちらも誘いをかける事はなくなったが、張り込みだけは続いていた。

 張り込みは二週間は続いているようだった。

 それほどに殺人鬼に執着しているのか、と窓から彼女の様子を見る事にする。

 彼女は、ただ門を眺めているだけだった。転々と隠れ場所を替えながら。

 誰も出てこないのを確認くると彼女は安堵するように溜息をつく。

 

 ああ、そういうことなのか。

 アレは初めから僕を疑ってなどいない。

 彼女はただ、僕の潔白を証明して安心したいだけなのだ。

 だから何事もなく一日が終わった事を安堵しているのだ。

 殺人鬼を、本当に無実だと信じ込むことで安心できるとでも言うのか。

 

「なんて────強い女」

 

 そう、知らず呟く。

 鮮花と居ると、気分が落ち着く。

 鮮花と居ると、仲間が居るのだと、一人ではないのだと錯覚する。

 鮮花と居ると、いつか自分もそんな風に強くなれるのだと、特別なままでも幸福になれるのだと幻想してしまう。

 けれど、絶対に、自分はそんな生き方はできない。

 異常であるのに、それを隠そうと隠すまいと、当たり前にダレカと生きていけると彼女は示してくれた。

 ──それは、決して知ってはいけなかった、己の弱さを認めて闘い続けるという強い在り方。

 彼女はそうやって自ら乗り越えた道を示す事で僕の弱さを剥き出しにする。僕が認められなかったもの、逃げ出してきたものを露にしてしまう。永久に自らと闘い、肯定するという過酷(しあわせ)な選択肢を僕に選ばせようとする。

 

 だから僕は彼女に苛立ちを覚えていたのか。シキという異常性を内在する自分、異常者である自分を肯定させてしまうあの女──────

 

「僕にそんな強さはない。だから独りでいい。それなのにおまえは(オレ)を逃がさないっていうのか、コクトー」

 

 (ボク)は、知らぬままでいたい。

 シキ(オレ)は、独りのままでいたい。

 彼女は決して僕を逃してはくれまい。

 初めから、関わるべきではなかったのだ──。

 

 

    /2

 

 

 三月、冬は過ぎ去り、暖かな季節を迎える頃。

 僕は放課後の教室でとある人物を待っていた。

 夕日で紅に染まってゆく教室に、鮮花がやって来た。

 こうして夕暮れ時に二人で話をするのがシキは好きだ。ある時は鮮花と、……ある時は白純と。

 ──そういえば、一度だけ三人だった事もあった。

 そうだ、元は僕達はいつも三人で他愛もないことばかりしていたのだ。 ……その一人が消えてしまうまでは。

 あの時は本当に疎ましく思っていたけれど、今となっては不思議とそう悪いと思えなかった。

 

「また誘ってくれて嬉しいわ。気が変わった様で何より」

 

 彼女は堂々とした態度で、挨拶なしに微笑みかけてくる。

 

「気が変わったというより、気が狂いそうなだけだ」

 

 僕は自分でもはっきりと判るほど乱雑な、シキにも似た口調で言葉を紡ぐ。

 同時に、彼女の顔からも喜色が消失する。

 

「貴女は僕が犯人じゃないと言ったが、それは大きな間違いだ。貴女だって見たと言ったじゃないか。それなのにどうして見逃そうとする?」

 

 鮮花は毅然とした態度で答える。

 

「見逃すですって? あなたは犯人じゃないから当然でしょう?」

「僕が認めているって言うのに! 貴女から親友を奪ったのも僕なんだぞ!」

 

 そう何度も言った話を叩きつけると彼女も憤りを覚えたらしく反論してくる。

 

「だから、先輩は行方不明ってだけでしょう! どうしてあなたはそんなに自分を追い詰めようとするの⁉︎  絶対にゼッタイに、あなたにそんな事はできない!  ──だってあなたは優しいから」

 

 何も知らないであろうにそう言い切る鮮花に、僕は反感を覚えた。

 

「優しさだって? 貴女が僕の何を見たんだ? 貴女が僕の何を識っているんだ?」

 

 怒りを言葉にして叩きつけると、彼女は何故か慈愛を湛えた笑みをうかべ、それでいて迷いなく答える。

 

「──九月。体育祭の日に、あなたが怪我をした後輩の子を背負って行くのを見たんだ。それもあんなに優しげな、暖かな顔で。それで確信したの。あなたは何時も素っ気なくしているけれど本当はとっても優しくてお人好しだって。助けるだけなら保健室の先生を呼べばいいだけなのに、わざわざ背負って行くなんて。だからあなたは、困っているダレカの手を取るっていう選択ができる人なの。たとえそれがほんの気まぐれだとしても」

 

 体育祭──あれは見られていたのか。

 

「だからって────そんなのは根拠になんてならないでしょう。それに、そんな気まぐれはこの衝動を誤魔化す手段になんて成りはしない」

 

 もう根拠を出し尽くしたのか 、彼女は暫し思案して言葉を発そうとする。

 そうして決心したのか彼女は真剣な、強い意志が宿った瞳を向けて確かに返答した。

 

「いいでしょう。それはね、わたしはあなたのことが ────好き(とくべつ)だから。だからあなたには誰よりも幸せになってほしい」

 

 それは、余りにも鮮烈にして凄絶なとどめだった 。

 余りの衝撃に絶句している僕などお構いなしに彼女は想いをカタチにする。

 

「だからわたしはあなたを信じ続けるし、あなたを一人にしていたくない。これはわたしの勝手なんだけど、あなたには誰かと一緒に居て、孤立でなくてもいいっていう喜びを知って欲しい。普通なんかじゃなくてもいい。あなたはあなた(特別)のまま、幸せに成れるの」

 

 ……そんな、そんな選択が、できるのか?

 それは、彼女が初めから僕に示し続けていた過酷な選択。逃げることを許さない剥き出しの真実(ほんとう)

 でも、それは叶わない望みなのだ。

 誰かと居れば、シキはその人を殺すだろう。

 始まりから異常であることを望まれ異常として生まれた(オレ)は、どう足掻いても正常(じょうしき)には生きられない。

 

 僕は今、多分この先の自分を決定付ける分岐点にいる。

 例え叶わない願いだとしても、僕の本当は幸福を願っている。

 なら、 出来る事は一つ。

 

「……そうだな、まだ、僕には答えは返せない。今は何も言えないけれど、貴女のことも考えておこう」

 

 そう、それは肯定でも否定でもない保留。

 彼女は自らの誇りを賭けて僕に選択の余地をくれた。

 ならばこちらもその意志に応えなければ。

 

「ふふ。今度はちゃんと答えを教えてよ? よかったぁ、全力で拒絶されたらどうしようって思ってたのよ?」

 

 彼女は念願叶ったりとでも言いたげに快活に笑う。それはまるで、花の様だった。

 

「貴女はやっぱり変だな」

「やっぱり? そう言われたのは本当に久しぶりよ」

 

 ただ夕日だけが教室を照らしていた。

 去り際、振り向かずにただ一言だけ言葉をかけた。

 

「今日は散歩には出ないから、何かが起こっても僕とは無関係だから安心して欲しい」

「──!」

 

 彼女の事だ。張り込みが気付かれていないとは思っておるまい。

 だからこの場で一つ釘を刺しておく事にした。

 

 結局、僕はきっぱりと彼女を拒絶する事はできなかった。

 それどころか、上手く言いくるめられてしまったとさえ言える。

 それでも何故か全く悪い気はしなかった。

 出来ればこのまま、ずっと何も起きなければいいのに、とさえ考えている自分が居る。

 でも、それは駄目だ。シキの事も事件の事もある以上、何時までも現状維持ではいられない。

「シキ、君はどう思う?」

 ''………''

 

 やはりと言うべきか、彼は答えない。

 しかし、虫の知らせとでもいうのか、この件だけは今夜にでも決着が付く予感がしていた。

 

 

    /3

 

 

 夜。

 夕から空を覆っていた雨雲は当然のように雨を降らせ始めた。

 雨は時間と共に勢いを増し、いよいよ土砂降りとなり始めていた。

 三月であっても夜の雨は冷たく容赦なく体から熱を吸い上げていく。

 傘ごと雨に打たれながら黒桐鮮花は両儀邸を眺めている。勿論、転々と場所を代えながら。

 鮮花とて、こんなストーキングすれすれの行為を続けるつもりはない。今日辺りで切り上げようとも思っていた。それに彼の言う通り、誰も門を開ける様子は無い。

 それでも今日も行おうと此処まで足を運んだのは彼女の意志か。 …それとも知る筈もない何者かの意図か。

「ふぅ……もう帰ろうかな」

 

 彼女はいつになく上機嫌だった。おそらく、夕の織の素振りだろう。

 肯定でもなく否定でもない中庸。それは彼が初めて見せた態度だった。

 淡い希望ではあるものの、少しだけ彼は成長を見せているように思えたのだ。

 それが何よりも、嬉しい。

 

 そう感慨に浸っていると、何者かが近寄ってきた。

 目を向けるとそこには異様な人影があった。

 織が着ている物と同じ、全身黒尽くめの衣服。

 顔はフードと包帯で覆われ、僅かにも正体を知ることはできない。

 更にその人物は何故か注視すればする程細部がボヤけてしまい、大まかな特徴しか捉えることができない。

 ソレは誰が見ても織ではない事は明白だった。

 

 もしかして、両儀家の関係者かもしれない。

 そんな事を考えて鮮花は無警戒にその人物に近寄っていく。

 ……ソレが、どれ程危険なモノであるかさえ考えることなく。

 

 彼女が腕を伸ばしたと同時に、風を裂く音が大気に伝播する。

 

「──────え⁇」

 

 意識が、追いつかなかった。

 数瞬の後、彼女は漸く自らの腕に起こった事を認識する。 

  ──切られた。なんで? 腕が?

 その認識と同じくして、鮮花の白く柔らかい腕を熱く朱い染料が染め上げていく。

 ──あまりにも現実離れしすぎていて、痛覚すらも追いつかない。

 そうやって鮮花がまごついている間にもソレはさらなる凶行を働かんと距離を縮めてくる。

 それに気付くと同時に彼女の腕に凄まじい痛みが走り、恐怖が思考の一切を掌握していく。

 

「ひぃ───────‼︎‼︎」

 

 彼女は今居る竹藪から正反対の方向、道路に向かって死力を尽くして疾走する。

 だが竹と恐怖でもたつく足が邪魔をして思った程の速度が出せない。

 そのケモノはそんなことはお構いなしに突風の如く獲物に喰らいつかんと突撃してくる。

 転がりながら道路に飛び出す事に成功するも、既に追いついたケモノが鮮花の腿を切りつける。

 

「っづ────‼︎」

 

 傷は浅いものの、恐怖と痛みによるダメージは大きくもはや彼女にこれ以上の走行を許さなかった。

 それでも、生き延びる為に本能が彼女を匍匐(ほふく)という形で引きずっていく。

 だが所詮は焼け石に水。悠々と歩くケモノは既に彼女の目前に迫っていた。

 

 鮮花は逃走を諦めて、その人物を注視することに意識を向ける。

 ……何故かその人物はどこか見たことがあるような気がしている。それも、つい最近まで身近だった者。

 そして彼女は不思議とこの人物がこれ以上自分を傷付けるつもりはないということも直感的に理解していた。

 

「あなたは…誰なの?」

「──■■■■」

 

 胡乱な頭で必死に問いを練るものの、返答は最早唸りにしか聞こえずお互いに顔を見合い続けるという奇妙な状況が続いていた。

 そしてその状態は、一陣の疾風によって破られた。

「コクト──────────‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 そう、他の何者でもない両儀織である。或いはシキか。

 彼は突如として出現し、視認すら困難な勢いでケモノに躍りかかる。

 その姿を認識したソレは隠された顔の上からでも明確に嗤い、敢えて一撃を受け容れる。

「──■■!」

 

 その速度と体重を乗せた一撃はケモノの左額を大きく抉るものの、有効打となった様子はない。

 

 コイツ──再生しているのか⁉︎

 驚くべき事に、深く抉られた傷は三十秒と待つ事なく傷痕のみを残して元の状態に戻ってしまう。

 ケモノは標的を鮮花から織に変更し、歪極まりない笑みを浮かべ無骨なサバイバルナイフを構える。

 そう、ソレが鮮花を襲ったのはただ織をおびき出す為だけのこと。

 初めから、全ては掌の上。そして恐るべき謀略は今、第二段階に突入せんとしている。

 

「来いよ……(オレ)が欲しいんだろ?」

 

 そうして彼も流麗な短刀を構える。

 その合図と共に闘いの火蓋は落とされた。

 

 何方もただ、願望を成就し己の望む未来の為に。

 黒き影と昏き影、二人の殺人鬼は刃を交える。

 先手を取ったのはシキだった。

 彼はケモノを左肩から袈裟斬りにするものの、ケモノはダメージを無視して突きを見舞う。それを見切ったシキは右側に回避した上で脇腹を膝蹴りし、大きく体制を崩させる。

 すかさず背中を刺し、さらに蹴り飛ばすことで距離を取るが、やはり致命傷には至っていない。

 それでも苦痛を誤魔化すことはできないのか、ケモノは悶絶しフラつきながら切りかかってくる。

 当然そんな破れかぶれの反撃は通用する筈もなく、十合余り剣戟を交わしてすぐに決着は見え初めていた。

顔、頸、腕、胸、腹、腿、脛。全身余すところなく寸刻みにされたケモノは戦闘を止め、心臓発作でも起こしそうな程呼吸を荒らげながら初めて人語を発する。

 

「オ■エは────完■な■■鬼じゃな■か」

 

 その、記憶にある声とよく似た呻き。

 それは、一体誰だったか──

 

「ソウだ。こレで■い」

 

 傷はそう時間を置かずして傷痕へ変わっていく。しかしソレは突如として林の中に疾走し、瞬く間に暗い闇に溶ける様に消えてしまった。

 

 ただ二人だけが、冷たい雨に打たれ続けていた。

 

「……よかったな。コクトー」

 

 鮮花は何も言えなかった。

 彼は鮮花が生きている事を確認すると、今にも消えてしまいそうな程儚く微笑み、背中を向けて語りかける。

 

「……ほら、(オレ)となんか関わっているからこんな酷い目にあった。──それと、やっぱりダメだったよコクトー」

 

 織とシキは、まるで今生の別れの様に語る。

 

「見ての通り、(オレ)は殺人鬼だから。キミの側には居られない。──こんな目に合わせて本当にごめん。──キミの想いを無駄にして悪かった」

「そんな……どうして……」

「キミが逃がしてくれないのなら、僕が消えるしかない」

 

 そうして彼は駆け出す。それに反応して鮮花も走り出す。

 絶対に、ここで逃がしてなるものか。想いを胸に痛みも出血さえも無視してただ疾る。

 

 しばらくして、シキは立ち止まり最期の想いを告げる。

 彼は、泣いていた。

 

「……キミが生きてくれていて本当によかった。だから────どうか、幸せに生きてくれ」

「だめ待って! おねがいそれだけは! いかないで──────────‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 そうしてシキは、車道に向かって舞う様に身を躍らせた。

 

 暗転────────

 

 

    序章/終幕

 

 

一九九八年六月。

 橙子さんに弟子入りして、わたしは初めての仕事を終わらせた。

 弟子としての仕事と言っても、未熟極まりないわたしには事務作業しか任されず、従業員と大差ないのだが。

 大学にも行っているのであまり時間がとれないのも半人前である原因の一つかもしれないが。…まあ、そんな言い訳をしている時点でわたしもまだまだ未熟だ。

 

「鮮花ちゃん。今日はお見舞いの日でしょ? 一応休日だし行っていいわよ」

「ええ、ありがとうございます」

 

 眼鏡をかけた橙子さんはとても親切で、何時もの厳しさは欠片も見出せない。

 今日はツキが回ってる。

 

「それでは行ってきます。おそらく二時間程で戻りますので」

「お土産も忘れないでねー」

 

 

    ◇

 

 

 週に一度、休日にわたしは彼のお見舞いに行く。あの夜から話す事も笑う事も出来なくなった両儀織のもとに。

 わたしは、彼に手を差し伸べようとして、破滅へと導いてしまった。

 その事が、今もずっと胸を締め付ける。彼の選択の理由も、解っている。

 わたしはもう引き返すつもりなんてない。わたしはこれからも勝手に彼に寄り添い続けるつもりだ。

 

 眠ったままの織は、最後の夕に見た時を思い起こさせる。

 あの黄昏の中で、彼はどうして自分を信じられるのか問うた。今でも答えは変わらない。

 ……だって織は、優しいから。

 最初から最後まで彼は、人の為に苦しんでいた。

 居なくなった白純先輩の事をずっと悔やんでいたし、わたしを拒絶する事もなかった。

 そしてあの時、身を呈してわたしを守ってくれた。それに彼は殺人鬼なんかじゃなかった。

 だから信じる。今も、そしてこれからも。

 

 ────1995年3月

 わたしは彼に出会った。

 

 

    殺人考察 (前)/了

 

 

    /0

 

 そして君は眠りについた。 

 彼女はいつ迄も待ち続ける事だろう。

 ──だが、待っているのは彼女だけではない。

 彼も、そして私も君を待とう。例え幾程の時が過ぎようとも。

 

 ──いずれ、相克する螺旋にて君を待つ。

 




 お読みいただきありがとうございました。
 これにて二章は終幕です。
 次回、第三章はなんと伽藍の洞。
 気長にお待ち下さい。
 それではまた次回。

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