この残酷なゴブリンだらけの世界に祝福を!   作:wisterina

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はい、ゴブリンスレイヤーとこの素晴らしい世界に祝福を!のクロスオーバーです。
どちらも残酷な世界という共通の世界(スキルとかギャグか否かとか色々設定が違うけど)に住んでいる二つの原作をぶち込んでみるという試みです。

ぶっちゃけギャグ路線です。
あとあの四人ならゴブスレの世界のゴブリンと出会っても何とかなるでしょう。その後が大変ですけど。

至らぬ点が多いかもしれないですけどお暇つぶしにどうぞ。
そしてこの素晴らしく残酷な世界に祝福を!


この異世界転移にやり直しを!

 ギルドの受付のカウンターの前で受付嬢に挨拶をする。どの冒険RPGものでも定石のやり方だ。

 

「どうも、冒険者になりたいんですが」

「カズマさん、早くちゃちゃとクエスト受注しちゃいなさいよ。また馬小屋生活は嫌よ」

 

 後ろの駄女神に背中を小突かれながら急かされる。うるせい、こっちの受付嬢さんは初対面だから何があるのか様子見を兼ねてしているんだ。

 そう、目の前にいる受付のお姉さんはいつもの胸が豊かなルナさんではなく、緑の長い髪がカールして、かっちりと制服を着こなしていかにも事務員さん然を醸し出している人だ。

 いくら俺でもいつもの人が急遽交代したぐらいでギクシャクすることはない。第一に俺たちがいるのはアクセルの街ではないこと。それに付け加えて、ここは俺が転生したあのろくでもない世界ではないということだ。

 

「ようこそ、ギルドは初めてですね。こちらの書類に……字は書けますか?」

 

 なるほど、こちらの世界では手数料はいらないのか。助かった~あっちの世界では開始早々冒険者にもなれず詰んだからな。しかもあの時はアクアの決死の行動(お慈悲)でようやくなれたから助かったぜ。

 

「はい、書けますよ。こっちでは名前書けない人がいるんですね」

「王都を出ると特にですね。中には字を読めない冒険者様もいらっしゃいますし、その時は代わりに血判(けっぱん)を押してもらいますが」

 

 えっと、血判ってあれだよな。指先を切って血の付いた指紋でハンコを押すんだよな。この世界の情報に識字率の低さがうかがい知れたのは大きいな。

 受付嬢からペンを受け取ると早々に俺の名前を記入した。字が書けるだけでも他の奴らとの差は大きい。俺にはあっちのろくでもない世界へ転生したときに『神々の親切サポート』で異世界言語を自動習得できている。字が書ける利点を生かして、早々に体を使わない高給な職についてやる!

 西洋風にカズマ=サトウの字をしたためて、書類を受付嬢さんに渡した。

 

「はい、これで」

「ありがとうござい……ん? すみません。異国語ではなく王都で使われている共通言語でお願いしたいのですが」

 

 よく見ると、壁に張り出されているクエストや案内板には俺が元いた世界とは全く違う言葉がつづられていた。もちろん読めないしそれがどんな意味なのかさっぱり分からなかった。これは、俺が字も読めない冒険者であると宣告されたのに等しかった。

 

「は? アクア、お前の『神々の親切サポート』による言語習得はどうなってんだよ!?」

「知らないわよ! さっきからエリスを呼びかけているけど反応しないのよ! カズマさんがヒキニートのくせにギルドの場所を探し出したからてっきりカズマさんには文字が読めると思ったのに!!」

「…………マジかよ」

 

 俺とアクアはうなだれながら、受付嬢さんにナイフで指先を少し切ってもらって書類に血判を押してようやく冒険者登録を済ませた。公衆面前で文字書けますよが、逆に大恥をかいてしまった。

 

「はい、これで手続きは以上です。それではこちらの冒険者認識票をお渡しします。はじめは白磁級からですが依頼をこなしていけば階級も上がって、より上位の依頼も受けることができますので頑張ってください」

 

 白磁という言葉そのままに、白の陶器でつくられたドッグタグが渡された。なるほど、これがこっちの世界でのレベルなのか。

 

「えっと、スキルやステータスの判定する魔道具とかは?」

「スキル? なんですかそれ」

「あ、いえなんでもないです! ありがとう。それじゃいい依頼を探してきますから!」

 

 アクアを引っ張って早々にカウンターから退散する。あっぶねー、すでに周囲から共通言語が一文字も読めない冒険者という危ない線を踏んだけど、まだ俺たちが異世界に飛んだということは怪しまれていないようだ。

 

△▼△▼△▼△▼

 

 事の起こりは、こっちの世界のギルドに来る前のこと。いつものようにアクセルの街でモンスターの討伐クエストを受けてダンジョンに潜っていた。だいぶ深い所まで進んで、小さな袋小路にあった宝箱を開けたのが運の尽きだった。

 その中にあったのは、アクアが転生者に特典として送った神器の一つ。もちろん、アクアは送った特典の中身など一々覚えているわけでもなく、安易に触ったおかげで俺たち四人となぜかめぐみんの帽子の中に潜んでいたちょむすけと共に、よその世界に転移させられてしまったのだ。しかも無一文で。

 

「カズマ、登録終わりましたか? 早くご飯が食べたい! とちょむすけが鳴いてますよ」

「うむ、早くこちらでのお金を稼がないと今夜は野宿になるぞ。衝立(ついたて)も何もない寒空の下で、飢えと寒さに凍えながら、寝ている隙をつかれてモンスターども為されるがまま…………あぁ、たまらない!」

 

 テーブルに着座しているめぐみんとダクネスがそれぞれの己の欲求を投げつけてくる。こいつら、異世界転移したというのに、相変わらずすぎるだろ。

 こっちの世界は、元居た世界と同じように西洋風RPGの世界と似ている。しかし、金額、文字、聞いたことのない街の名前。共通しているのは言葉だけで、元凶である神器は行方不明。俺たちは無一文でこの世界に置き去りにされてしまった。

 俺はあのろくでもない世界に転生したときと同じように、とりあえずギルドに来て冒険者登録を済ませて、日銭を稼ぐ方法を取ることにした。だが、まさか文字が読めないという最大の危機に直面するとは思いもしなかった。

 

「まったく、お前らは相変わらずだな。飯代とか宿代とかもそうだけど、もっと深刻なのはこっちの世界の文字が読めないということだぞ。クエストの内容もそうだが、金額も読めないと報酬がどれくらいかわかんないんだぞ」

「そんなの簡単じゃない。桁数が多ければ報酬の高い依頼よ」

 

 その理論だと千エリスと九百九十九エリスとの差がおかしいことになるだろうが。

 

「にしてもカズマのほうが驚きですよ。こっちに来て早々、すぐにギルドに直行するなんて。いつもだったらアクアに罵詈雑言を公衆の面前で当たり散らすはずなのに」

「うむ、どこか慣れたような動きと手つきだ。まるでカズマが公衆の面前でいたいけな少女に鬼畜な所業をするごとく」

「余計なことを公衆の場で垂れ流すな!!」

 

 二人の口を黙らせて、カラカラになった喉をアクアがクリエイトウォーターで入れてくれた水を飲み干す。魔法の存在とアクアの無駄なスキルは健在のようだ。魔法が失われていれば、アクアもめぐみんも俺も動きが制限されるところだ。魔法の存在があるのはありがたい。

 たしかに俺とアクアからしたら、異世界に飛ばされるのは二度目だからな。あっちの世界では現地人であるダクネスとめぐみんも突然飛ばされたから戸惑いもあったしな。

 

「とにかく、俺たちが今日しなければならないのは、今日の飯代と宿代を稼ぐこと。で、その目的を達成するためにはクエストを受けることだ」

「工事現場で働かないの? 最初アクセルの街に来たときはバイトして日銭稼いでたじゃない」

「工事現場だと、文字が読めないことをいいことに金額誤魔化されて二束三文で働かされる可能性が高い。前の世界で嫌というほど文明のレベルの違いを思い知ったからな。情報が一切わからないところよりも、情報が開示されているギルドの方が安牌(あんぱい)だ」

「でもクエストの内容も文字が読めないと何が書いてあるかわからないじゃない。もしこっちの世界でもあのカエルに似たモンスターがいたらどうするのよ」

 

 アクアが珍しく的を射た意見を出してきた。

 

「そこは受付に内容と金額を聞けば問題ないだろう。我々は遠くの所から来たからこの辺の事情がよくわからないとでも言えば。それに私が寒空で放置プレイされるのは構わないのだが、カズマたちには酷だろう」

「私は、爆裂魔法がここでも使えるかが一番の懸念ですから、討伐クエストで一発撃ちたいですし」

「わかったわかった。まずダクネスとめぐみんは冒険者登録を済ませてくれ。俺とアクアで俺たちレベルでも稼げるクエスト受注してくるから」

 

 一時二人と別れて、俺たち二人は掲示板一面に張られているクエストの紙をざっと見渡す。

 う~む、さっぱりわからん。やっぱり文字が読めないから何が書かれているのかさっぱりだ。桁数で選ぶにしても危険すぎる。

 受付嬢さんは、白の法衣を着た女神官の冒険者登録の手続きをしている最中で俺の時と同じように白磁級の証明であるドッグタグを手渡した。背格好と聞こえてくる声からしておそらくめぐみんと変わらない年のようだな。

 女神官の手続きが終わり、受付の手が空くと同時に、背中に長剣を装備した俺よりの少し若い少年が女神官に声をかけた。おそらくパーティの誘いだな。後ろに女武闘家とめぐみんと同じ黒の魔女帽をかぶっている女魔術師を連れている。

 俺も最初のころ、パーティ募集したものだ懐かしいなぁ。それで来たのがあの爆裂魔法馬鹿とドMの騎士なんだけどな。こっちの世界での戦い方も違うとわかったら、一度パーティ再編も考えてみようか。

 

「ねえ君、白磁級でしょ。俺たちとパーティ組まない? ゴブリンが村を襲って、村娘をさらったんだ。神官が足りなくてさ」

 

 その時、俺の頭の中に一つひらめきが浮かんだ。

 

「なあなあ、俺たちもパーティーに入れてくれないか?」

「ああいいぜ。人数が多ければゴブリン退治もしやすいしな」

 

 俺が新米剣士と握手をかわそうとした瞬間、アクアが俺の手を引っ張り耳元で文句の嵐をぶつけた。

 

「ちょっとカズマ、なんでよそのパーティーのクエストに入ろうとしているのよ。分け前が減っちゃうじゃない。転移したときに頭劣化しちゃったの!?」

「よく聞けって。いいか、おそらくあのパーティークエスト達成条件は、村娘の救出とゴブリン討伐だ。ゴブリンはあいつらに任せてその隙に、俺たちが村娘を救出する。で、その村娘の住む所へ行って宿と飯代をたかるって算段よ」

 

 俺の行動にようやく合点がいったアクアは、女神としてはあるまじきいやらしい目つきを浮かべてあくどい笑い声を静かにあげた。

 

「さっすがカズマさん。あくどさは相変わらずね」

「ふふん、それほどでもない」

「どうかしたのか?」

「やー、何でもない。俺の連れがゴブリンは危なくないのかって言ってきてさ」

「心配性だな。ゴブリンなんて、知性も体も子供並みだし、俺も村にやってきた奴を退治できたほどだし大したことないって。一番弱いモンスターだし」

「そうなんですかー。いやー良かった良かった。実は後女二人いてさ。そいつらも入れてくれないか」

「おお、大歓迎だ!」

 

 よし、こっちの世界のゴブリンは特に強いモンスターではないという情報が得られたことは大きい。元の世界では、スライムがゲームとは違って超強力モンスターという事態にあったが、こっちの世界ではそんなに大したことはないモンスター。

 しかも、こいつは俺と同じ白磁級――つまりこの世界の本当の初心者の意見だということだ。

 

「あの、皆さん白磁等級ですよね。白磁級ならネズミ退治とかドブ掃除もありますし。もう少ししたら上級の冒険者も到着しますので」

「大丈夫、俺たちも何度かゴブリンを倒してきたことはあるから、それに剣士さんが言うにはゴブリンは一番弱いモンスターみたいだし」

「そうそう、それに連れ去られた女の子のことも心配ですから早く助け出さないと」

 

 ん? なんか受付嬢さんの言葉に何か引っかかりを覚えるな。いやでも、一番弱いモンスターのはずだ。現地民の言葉なんだから問題はないはず。

 

「カズマ登録を済ませてきたぞ。それでクエストは受注できたか?」

「ああ、このパーティとゴブリン退治で組むことにした。こっちの金髪のがダクネス、でこっちの」

 

 俺がめぐみんの紹介をしようとすると、その本人が小さな手で俺の口を塞いだ。そして、魔女帽を正すと前口上を唱えだした。

 

「フフフ、異国の地にて降臨せりし運命は、幾星霜(いくせいそう)を越えた先にあり。我が名はめぐみん!! アークウィザードを生業として、最強魔法爆裂魔法を操りし者!! 我が儕輩(せいはい)と伴に(いばら)の街道を行かん!!」

 

 紅魔族特有の中二病満載の前口上が終わると、誰も口を開こうとしなかった。ただ一人、女魔術師が憐れむような眼で見つめながら口を開いた。

 

「……なにこの変なの」

「うん。大丈夫これが通常営業だから気にすんな」

「いいなぁ、あの蔑みの目。私にもしてほしい」

 

 う~ん、ダクネスも通常営業だ。

 


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