この残酷なゴブリンだらけの世界に祝福を! 作:wisterina
得物を振る。得物を振り続ける。一体いつまでこの作業をしなければならないだろうか。
助けてくれ、アクア。目の前のこいつという呪縛にいつまで俺はこびりつかなければならないのだろうか。もう途方もないこの作業から俺を解放してくれ………!!
「おい新人! まだそれ砕けねえのか!!」
「はい! もうちょっとでこの岩砕けますので」
俺は工事現場でつるはしを振って地面の下にある巨大な岩塊を一心不乱に叩いていた。あまりにも固くそれを発見してからつるはしで割るまでには日が朱に染まっていた。
無事ゴブスレさんのおかげでクエストを達成した俺たちであったが、あの惨状で村娘の故郷でお礼をなんてできるはずもなく。クエスト報酬をゴブスレさんと剣士たちで三等分して受け取った。
アクアは分け前が減ると駄々をこねたが、ゴブスレさんと神官ちゃんのアシストがいなければクエストは達成できなかったと抑え込んだ。半分の理由としては、個人的に素敵な女神様である神官ちゃんが報酬なしというのは心苦しかったのがそれであるが。
むろん当初より少ない報酬で得られた額は満足のいくものではない。
クエスト帰りの後、もうモンスター退治のクエストはこりごりで、ギルドを仲介して工事現場で働くことになった。これでゴブリン退治の報酬の半分にも満たないというのだから泣けてくる。
余談であるが、アクアも同じく俺がいる工事現場で働いているが、元の世界でも工事現場の女神様と称されたアクアはこっちでも大人気で、お得意の宴会芸スキルによる無限に出てくる飲料水を提供したり、水操作によるコンクリートの乾燥が上手かったりと現場のおっちゃん達から大絶賛である。
凌辱された村娘たちは『神殿』に送られて行った。この世界ではこんなことが日常茶飯事だという。冒険者が初めてのクエストでゴブリン退治に出て、男は殺され、女は慰み物にされて神殿送りかそのショックで引きこもりになるということが……
このクエストを受けたことで俺はこの世界の大事なことを知ることができた。
――――この世界は元の世界よりも残酷でろくでもなく、決して俺がかっこよく活躍できる世界ではないということに。
△▼△▼△▼△▼
「は~あ、帰ったら、屋敷のふかふかベッドじゃなくて馬小屋か……なんでここまでリスタートしなきゃなんないんだ」
「カズマさんの稼ぎが悪いからでしょ。ほらシーツ引っ張りなさい、私の寝る領域が狭くなるでしょ」
「へいへい」
結局今晩寝るところは、最初の時と同じく馬小屋。最初の時と変わらず下は薄く敷かれた
「こっち来ないでくださいよ。来たらダクネスの鉄拳を喰らわしますからね」
「誰がお前のような子ども体型を覗くか、お前のことは女として見ていないからな」
「ほほう、そうですか。でも今の私の体型とそんな変わらないあの神官には、えらくデレデレしてましたよねカズマ」
板一枚はさんだ向こうから、めぐみんの静かな怒気のこもった声が聞こえてくる。
「……マサカ、ソンナコトナイデスヨ」
「炎より焔に、闇より陰に、我が創世の――」
「ごめんなさい、ごめんなさい! お願いですから心臓に悪いですから爆裂魔法だけはおやめください!」
一応壁向こうにいるあいつの爆裂魔法は、元の世界のときと何ら変わらなく一発しか打てず、すでに本日の分を帰りに一発ぶっ放して完全消耗している。とはいえ、こいつの爆裂魔法が万が一こっちの世界で何かの間違いで二発目をぶちかましてしまったら、今日の宿がなくなるだけでは済まなくなる。
「ふんっ、私だって将来的にゆんゆんが泣いて枕に埋もれるほどのナイスバディ体型になれますよ。それにあのゴブリン見た目ほど強くなかったので、一匹や二匹程度でしたら、私一人で対処できますし」
「マジで?」
「当たり前です。元の世界のステータスでは、私の筋力はカズマより上です。まあ爆裂魔法を撃っていないという前提ですが」
「お前はこっちでも相変わらずだな」
「炎より焔に、闇より陰に、我が創世の――」
「だから心臓に悪いって言っているだろうが!」
まためぐみんが爆裂魔法を唱える呪文を口に出してくると、めぐみんらがいる部屋とは反対側からドンドンと壁を叩く音が聞こえた。隣はたしか名前は忘れたが、新米の戦士のとこだよな。
「あの、もう少し静かにしてくれませんか」
「「すみません。すみません」」
さすがにうるさすぎたのか、俺とめぐみんが新米戦士さんに謝ると、シーツを被った。なんかこういうやり取りも久しぶりだ。俺とアクアがアクセルの街で馬小屋生活をしていた時も、こうやって隣から怒られてたっけ。
にしても、静かだ。残りの二人はどうしたのだろうと、体を起こして俺の隣で寝ているアクアを見ると、とっくに夢の中に入っていた。それはもう気持ちよく、久々の馬小屋泊まりだというのに涎を垂らし、イビキもかいていた。まったくのんきな奴だ。
さてもう一人はと、隣にうるさくしないように軽くノックした。
「お~いダクネス。貧相な馬小屋で寝ているから、嬉しくて悶絶しているのか? ちょっと俺たちがバイトしていた間のことを聞きたいんだが。」
「いやそうではないのだカズマ。むしろ馬小屋で寝ることに少し憧れてな。いつもベッドの上に寝ることが常だったから、ああこれが冒険者なのだなとむしろ感慨深い。……問題はあの武闘家の娘だ」
いつになくナーバスなダクネス。あのクエストの後、女武闘家がダクネスの健在ぶりを見て「私もダクネスさんみたいにどんな敵にも一歩も引かなくみんなを守れる力が欲しいです!」となんと弟子入り志願をしたのだ。
むしろダクネスには頭の病院入りを俺としてはお勧めしたいのであるのが。しかしまあ、あの子が求めたのが体術の方面であるのは、クルセイダーという職種に就いているくせに、なんともおかしくて腹を抱えて噴き出す案件だ。
「よかったじゃないか。ダクネスを慕ってくれる弟子ができて」
「ああいう、尊敬の目は私は求めていない。もっと蔑みとか、ゴブリンごときにやられているなんてとか侮蔑する声を欲しいんだ。そもそも私はクルセイダーとして誇りがある。体術でなく剣を持って敵に立ち向かい、そしてモンスターに成すすべもなく倒されて辱められて……フヒヒ」
「えー、ダクネスに代わりまして、私が代わりに答えます。あのあとですね、カズマとアクアが分かれた後のことについてですね」
自分の妄想にふけって興奮しているダクネスの不気味にやらしい声を押しのけて、めぐみんが代わって答えた。
「あの後ギルドに行って、クエストの張り紙とかを受付嬢さんに頼んでこっちの文字をある程度覚えておきました」
「マジで! 早くねえか!?」
「紅魔族の知力の高さを舐めないでください。ある程度の文字の習得程度は覚えられますよ」
そう言えばダクネスも、性癖はともかくお偉い貴族様だ。素の教養とか高いから文字を覚えることなんて苦ではないのだろう。
「まあまだわからない言葉が多いですが、金額とかについては読めるようになりましたので」
「いや、なんか失礼な言い方だが。爆裂魔法しか使えないチンピラロリッ娘としか思ってなかっためぐみんが、この世界ではめっちゃ頼れる奴に見えてきたぜ」
「ほんと失礼ですね。とにかく明日もまたクエスト受けるのでしたら私かダクネスを呼んでください。また村娘救出とか、ゴブリンの巣穴退治はこりごりです」
「ああほんとだ。もうゴブリンなんて顔も合わせたくないぜ。じゃ、おやすみなめぐみん」
と、俺がシーツを被ると「おや? 意外と素直に寝ましたね」と安心しきってバサッと隣でもシーツを被る音が聞こえた。
……ふっ、寝たか。あいつもまだまだ子供だな。しばらく息をひそめて寝たふりをしていた俺は、アクアのイビキがひどく耳に聞こえる中、めぐみんらが寝ている隣とを仕切っている板の隙間をのぞき意識を集中させる。
やっぱり、この板の向こうのすぐそばにめぐみんがいる。工事現場のバイトをしている間に、俺は自分のスキルをいくつか試してみた。結論から言えば、俺のスキルはちゃんとこの世界でも発動できたが、発動条件が異なっていた。
スキルの場合は元の世界のように唱えて発動ではなく、意識を集中することが発動の条件だ。今俺が発動している《千里眼》スキルは暗闇の中を目を凝らして見るように意識を集中した事によって発動したのだ。ゴブリンの巣の中で《敵感知》スキルが発動したのも注意深く見ることに集中したから発動したのだ。
この集中するという前提条件が少し厄介だ。あの工事現場にあった岩塊の全体を《敵感知》で調べようとした時、親方に怒鳴られて失敗してしまった。つまり集中する行為に邪魔が入る可能性も考慮しないといけなくなった。
真っ先に《宴会芸》スキルを発動できたアクアが、発動条件を俺に教えなかったのは………まあアホだからどうやって発動したのか分からなかったのだろう。
それにまだすべてのスキルがこれで発動するわけではない。巣で失敗した《スティール》の発動条件がまだ見つかっていない。
しかもこの《千里眼》も能力が少し異なっていて、元の世界ではサーモグラフィのように見えていたのだが、こっちでは遠ければ遠いほど色が薄暗くなって相手の姿が映るのだ。だがこの距離からならめぐみんのボディがばっちり見えるぜ。
ちょうどめぐみんの貧相な体は女神官ちゃんと同等体型だから最適だ。女神官ちゃんには悪いけど、今日一日で溜まったものを、めぐみんの体を見ながら、女神官ちゃんとしている妄想をして発散するとしよう。
少し板から目を外し、やりやすい体位に体をずらした後再び隙間を覗く。
「今です!」
「はああぁ!!」
「ぐふう!! うぁあ!!」
突然ダクネスの拳が仕切りを突き破って俺の顔面にクリティカルした。そしてそのまま宙を飛んで、藁の上に落ちた俺は薄れゆく意識の中で隣の部屋の二人の声が聞こえた。
「やけに大人しくなったと思ったらこれです」
「油断ならん。明日主人に、覗き魔がいるので補強工事を嘆願しよう」
まったくついていないと思いながら俺は虚空の中へ消えていった。
その翌朝、俺の腫れた顔を朝一番に見つけたアクア曰く、殴られたはずなのにそれはもう気持ちよく眠っていたそうだ。
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翌朝、今日街に張り出されている工事現場のバイトでは、俺とアクア二人では到底日銭を稼げる金額に達せないので昨日と同じくギルドに足を運んだ。
「まったく昨日はひどい目にあったぜ」
「カズマの自業自得ですよ。温泉の時でもそうでしたし、昨日のゴブリンみたいに油断ならないです」
俺とめぐみんが昨日のことを言い合いながらギルドに入っていくと、ホールに昨日の剣士パーティの一人の女魔術師が俺たちの顔見ると駆け寄ると、俺たちに向けて深く礼をした。
「昨日は、助けてくれてありがとう。今朝方目覚めて、事情はあの武闘家の子から聞いたの」
なるほど、ひびの入った眼鏡と二つに折れていた杖を包帯でグルグル巻きにして補強していることがそれを物語っている。眼鏡や杖を修理する暇もないほど急いで駆け付けてきたのだろう。上から目線の物言いで少々癪に障る感じだったが、意外と義理堅いんだな。
しかし、彼女以外には他の剣士パーティはいないようであった。
「……なあ、あの武闘家の子は来ていないのか?」
恐る恐る、ダクネスが俺の後ろから少し顔を出して女魔術師に尋ねた。そんなに尊敬される師匠が嫌なのか? 俺たちとパーティを来る前まではクリスを除いてぼっちだったじゃねーか。
「彼女はあのアホ剣士に付き添っているわ」
「付き添っている?」
「昨日のゴブリンでの戦闘で生死をさまよったらしくて、その恐ろしさにもう冒険者辞めるとか辞めないとかで喚きまくってて。あの子はあのアホ剣士と同郷だからずっと昨日から慰めているそうよ」
あのアホ剣士、おそらく冒険者の現実を知ったからとか言うに決まっているが、半分は自分の失態だろうが。あの女武闘家も相当なお人好しだな。もちろんそんなややこしいイベントに俺はノータッチの方針だ。変なことに自分から首を突っ込んだら碌なことがないのは元の世界で経験済みだ。
「神官ちゃんも一緒にそいつを慰めているのか?」
「いいえ、彼女はゴブリンスレイヤーという人と一緒に行くって言ったそうよ。なんでも、あの人一人だと危なっかしそうな感じをして放って置けない的なことを言ったそうよ。武闘家の子からの口伝えだけど」
まじか~、神官ちゃん会えないのか。俺の精神の拠り所にして本物の女神と会えなくなるのか。俺が神官ちゃんと会えないのに肩を落としていると、めぐみんが女魔術師の前に出て彼女を見上げた。
めぐみんは彼女と比べても――年が十三ということもあってか、身長が頭一つ半ぐらい低く、見上げないといけないのだ。
「それで、あなたは何のようでここに来たのですか? お礼を述べるだけ来たのですか?」
「ふんっ、昨日返礼として私もあなたたちのクエストを手伝いに来たのよ。分け前はいらないわ。昨日は後れを取ったけど二回も魔法を使える私は使えるわよ。そこの赤い目の魔術師と違ってね」
割れた眼鏡の奥から、また女魔術師のさっきまで潜んでいた高圧的な物言いが飛び出た。もちろんこの頭のおかしいチンピラ爆裂魔法使いが、爆裂魔法を馬鹿にされて怒らないはずもなく、持っている杖を震えさせるほどに逆上しているのは目に見えていた。
「ほっほぅ~、それは私の爆裂魔法を馬鹿にしているということと受け取ってよいのですよね」
「そんな聞いたこともない変な魔法に変なこだわりを持っているようだけど、たったの一回でしか使えないんじゃカズマたちの足手まといになるんじゃないの?」
まあ当たってます。この世界の魔法は制限があるそうだが、一発撃ったらそれでおしまいだと足手まとい認定はどこの世界でも同じなんだな。
「ぐぬぬ、だったら今回のクエストで私の爆裂魔法のすごさをあなたの目の前で見せてやろうじゃないですか!! 爆裂魔法の威力を見て、申し訳ございませんでしたと土下座して謝るのです!!」
「まあいいけど。土下座がよくわからないけど、たったの一回で私に謝罪させることができるほどの魔法か見せてもらおうじゃない」
そう言えば、こっちの世界での爆裂魔法の地位ってどんなものなんだ? 昨日は村娘たちを神殿に送りに行ったゴブスレさんたちを見送った後に、めぐみんがゴブリンたちへの仕返しにと巣穴だった洞窟を爆裂魔法で崩落させたから他の現地の人視点からの所感が分んなかったからな。まあめぐみんの爆裂魔法がどれほどなのか、現地民の魔法使いの意見を聞くためなら同行させるのはいいな。
「はいはい、いがみ合っていないで早くクエストを受けて今日の晩御飯と宿を豪華にしなくちゃ。クエスト持ってきたわよ」
アクアが気を利かせてたのか、ギルドに張り出されていた一枚のクエスト依頼書の紙を持ってきた。もちろん俺は読めないので、昨日の夜言われた通り、めぐみんとダクネスにそのクエストの内容を読み上げてもらった。
「何々、報酬が銀貨八枚と銅貨三枚。金額としてはなかなかですね」
「やった。これで今晩はふかふかのベッドにしゅわしゅわ飲み放題よ!」
まったく気が早いものだとアクアが嬉々として報酬内容に舞い上がっているのを見守るが、内心俺もこの時ばかりはアクアに同意だ。今まで温かい屋敷のソファやベッドで寝ていたのが、急に馬小屋生活に戻ったおかげで体の節々が痛いのだ。人間一度慣れた生活を送ると、その生活に戻りたいと固執してしまいランクを下げた生活は苦痛しか感じないのだ。
すると、女魔術師がめぐみんからクエスト依頼書を取り上げてその内容を読み上げた。
「ちょっと見せて……ってこれまたゴブリン退治じゃない! しかも昨日と同じ村娘の救出」
「なんだって?」
女魔術師によると、山菜を取りに行った依頼主の村長の娘がゴブリンに連れ去られ、冒険者からの目撃情報により依頼を出したとのこと。しかしその場所が、森人が放棄した山砦をゴブリンの根城にしているためどこに村娘がいるのかやゴブリンの規模も不明とのことだ。
しかも、女魔術師曰く森人の山砦となれば警戒のために罠が幾重にも張られている可能性が高いという。そんな背景があるから、少しでも高額にして冒険者を集めようとしたのだろうということだ。
「却下だ。昨日文字通り死ぬほどの目にあったのに、ゴブリン退治をするなんてまっぴらごめんだ」
「えーっ、もうクエスト依頼済ませてきたのに……」
「何勝手にクエスト受けているんだ!! 取り消しだ取り消し!!」
俺は依頼書を携えて、クエストを取り消すため受付カウンターに一人で向かった。クエストを受けた本人は、また読めもしないのに碌でもないクエストを受けそうだし置いてきた。
カウンターの前に着くと、少しタイミングが悪かったのか受付嬢さんがカウンターから離れていたので、奥にいるかもと受付嬢さんを呼んだ。
「受付嬢さんすみませーん」
「少年、君もクエストを受けるのか?」
俺が受付嬢さんを呼んだ直後、背後から凛とした女性の声が聞こえた。振り返るとダクネスにも負けず劣らずのセミロングヘアと釣り目が特徴的な美女がそこにいた。肢体は腹筋が割れているダクネスと異なり、柔らかな脂肪に包まれた筋肉で肌は色つやがあり、身に着けている防具が華美ではないが洗練された美を持っていて彼女の美しさを引き立たせている。
はっきり言って、ダクネスに初めて会ったとき以来の高揚感と緊張に飲み込まれた。俺の口は少しパクパクと金魚のように開閉すると、彼女の言葉に答えた。
「ああ、いえ。実はこのクエストを」
「お嬢、この少年が持っている依頼書。先ほどうわさに聞いたゴブリンに誘拐された村娘の依頼書ではないですか?」
彼女の横にいたショートカットの軽武装の女性がお嬢と呼んだ。なるほど、どこまでもダクネスに似た人だ。おそらくダクネスと同じように貴族令嬢が冒険者になったのだろう。よく見ると、胸には鋼鉄でできたタグが付けられていた。たしかあれは第八位の証の鋼鉄級という意味だったな。
貴族令嬢と共にいた黒髪のロングヘアーの僧侶の女性が前に出て、俺をじっと見て少し驚くような声で口を開いた。
「あなた白磁級よね。白磁級でゴブリン退治は難しいと思うわよ」
「ええですから、
「そうか、それでもなお
そう事態を……あれ? なんか
「その面構え、一見頼りなさそう見えるが、私の目はごまかせない。地位はまだ白磁級ではあるが高い実力の持ち主と見る。少年、ゴブリン退治の経験はあるのか」
「まぁ、一応経験ありますけど」
昨日が初めてだけど。
俺が口を挟む前に、貴族令嬢は俺の肩をつかみその麗しい顔を近づけた。ヤバイ、近い! ダクネスと初めて会った時もそうだけど、今回の場合は残念な性癖を持っていない分口が回らない! しかし、今まで顔だけはいいが、あまり余る欠点で台無しにしている女どもと接していたからなまともなぁ。美人とお近づきになるというのは悪くない。
「ゴブリン退治はその危険度のわりには報酬が少なく、ほとんどの白磁級は一度経験したら自ら進んでクエストを受けない。しかし、それを省みずただ一人の村娘の危機を見過ごせない義憤に駆られたというのだな! なんと立派で誇り高き少年なんだ!!」
「ま、まあそれほどでもあるかなぁ!」
「素晴らしい!」
「ちょっと待って、いくらなんでも白磁級のこの子だけでゴブリン退治は無理よ」
貴族令嬢がグイグイとゴブリン退治を引き受ける話にへと進んでいったところに、ポニーテールの魔術師さんが待ったをかけた。
ナイスフォロー! あやうく貴族令嬢のペースに呑み込まれるところだった
「ええ実は、そうなんですよ。だから」
「そうか、ゴブリン退治を募ろうとしているが来ないというのだな。仲間がいないのは心細いだろう。私たちが同行したいのはやまやまだがこれの他にも行かねばならないのだ。だが心配するな少年。その程度の報酬では心苦しいだろう。選別としてささやかだが、私から金貨二枚を追加報酬として渡そう。これならより高い等級の冒険者も集まることだろう。何遠慮するな未来ある正義感溢れる白磁級の冒険者への選別だ」
「お嬢、そこまでする必要が」
「この者は将来銀等級、いやかの剣の乙女のように人の身でありながら金等級になれる逸材と見た。そんな未来のある少年を見捨てるなど至高神を信仰する者としては恥だ」
「なるほど、そのようなお考えが」
彼女のパーティメンバーも続々と貴族令嬢の意見に従い始めた。
あれ~なんかおかしいぞ。なんで外堀を埋められているんだ? どうして俺の周りに味方がごっそりいなくなったんだ? どうしてやらないはずのゴブリン退治をやる羽目になったんだ?
「あ、いや。そんな大金を受け取るわけには……」
最後の抵抗をしようと、受け取りを拒否しようとしたが貴族令嬢の柔らかな手が俺のただ固いだけの武骨な手の中に金貨を入れ込むと、そのままぎゅっと両手で包み込み祈りをささげた。
「この者に至高神の加護をあらんことを」
△▼△▼△▼△▼
「カズマ、向こうの方で騒ぎがあったようだが」
「カズマさん、他になんかいいクエスト見つかったの~?」
「わたしはゴブリン退治以外のがいいわ。もうあんな割に合わないクエストは願い下げよ。腹を刺されるのもね」
「私の爆裂魔法を大いに発揮できるクエストが良いですね。ゴブリン退治だとまた洞窟になりそうですから」
ああ、みんなの視線が痛いほど突き刺さる。きっとカズマは、さっきのよりもいいクエストを見つけてきたのでしょうねという期待をこめた目をしているじゃないか。なんとも居た堪れない、だが俺の手の中には貴族令嬢さんから祈りを込めてまで渡された金貨が握り締められている。これに報酬も合わせれば、きっと今夜はみんなふかふかのベッドで眠れて、豪華な食事にもありつける。
くそっ、まるで貧乏な家族を養うために汚い仕事を引き受けて帰ってきたら、家でただ一人の親父の帰りを今か今かと待っていた無垢な幼い子供たちの温かい目を見るようだぜ。
今からでも遅くない、選べサトウ・カズマ。
仲間か、金か…………残念美人か、美女か…………
…………ふっ、考えるまでもなかったか。俺が決断を下したのはそう時間がかからなかった。
「さっきのクエスト受けることになりました!」
その後で俺が三人から一斉に罵詈雑言の声を浴びせられたのは想像に難くない。仕方ないだろ。あんな状況でお断りしますなんてできねえよ。
なお約一名はゴブリンとまた相まみえることに、非常に興奮と情欲を掻き立てられて倒れてしまったことを追記しておく。
ここでカズマさんの行動をTRPG的視点で見てみます。成功数字はあくまで目安です。本当にそうなっているわけではありません。
1.岩石の《敵感知》スキル発動
1D100(74)→80
結果:親方に怒鳴られて集中力が切れて失敗。
2.めぐみんがいる部屋への《千里眼》スキル発動
1D100(80)→57
結果:成功
3.体位を変えた後の《隠密》スキル発動
1D100(79)→98
結果:失敗ファンブル。めぐみんとダクネスに気付かれて殴られる。
4.貴族令嬢への《説得》
1D100(69)→70
結果:あまりの美しさに見惚れて、貴族令嬢のペースに飲み込まれてクエスト受注してしまい失敗。
なお、前回のゴブリンの巣で剣士パーティと別れた後にゴブリンと遭遇したときの結果はこちら。
ゴブリンとの《遭遇》1D100。数が少なければ少ないほど有利。先制攻撃を受けず。
剣士:53
女武闘家:48
女魔術師:89
女神官:20
アクア:99 ファンブル
結果:ゴブリン20体以上出現。ホブゴブリン出現。女魔術師先制攻撃を受ける。
アクアずっこけて《ヒール》を使うことが出来ず。
つまり、アクアがファンブルを出さなければ被害は抑えられました。