異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#08 我が野望

 

 組織の名前は"イアモン宗道団(しゅうどうだん)"と言った。

 その庇護下に入るという選択肢を強制された日より2週間ほど。

 屋敷内での生活にも、だいぶ慣れてきていた自分がいた。

 

 驚くべきはこの"神王教"ディアマ派のカルト宗教団体。

 俺達の保護管理者であり先生でもあるセイマール個人の気質よる部分も、大きいのかも知れないが……。

 

 

(少なくとも教育に関しては、かなりまとも(・・・)だったというのが面白いもんだ)

 

 朝に起床し、調理と食事、座学に運動、祈りと就寝。とても規則正しい生活を送っている。

 閉鎖的環境で意図的な情報操作。授業中に随所で差し込まれる、宗教説法は確かにある。

 

 しかし例えば拷問や麻薬の(たぐい)といった、不法(イリーガル)な手段を(もち)いない。

 契約魔術も結局されないまま、懇切丁寧(こんせつていねい)に筋道立てて物事を教え、叱ることはあっても理不尽な仕打ちはない。

 

(多種多様な教えの中で自然(ナチュラル)に洗脳し、信者にしようとするその手法)

 

 確かに無垢な子供に教えるには、そのほうが都合が良いのかも知れない。

 暗黒環境による恐怖で精神を一度リセットさせ、刷り込みした上で教育を(ほどこ)す。

 理に(かな)っているのだろう。そして社会常識を越えた狂信は、こういった形でも(はぐく)まれるものかと。

 

 

(はなは)だ勝手な想像と偏見ではあるが……)

 

 大半の宗教法人だとかもそうなのかも知れない。

 数多くの教義を、()()()()()として受け入れさせてしまうのだ。

 

 何かしらの()(どころ)を求める心に、呼吸のように浸透させ、血液のように循環させてしまう。

 それは巧妙(こうみょう)であると同時に狡猾(こうかつ)で、悪辣(あくらつ)さも感じられる行為なのだが……。

 

 人間誰しも、常に強くいられるわけではない。

 実際にそれが本人にとっての救済となることもあるだろう。

 

 

(ただ部分的に……一般的な観念と照らし合わせて、少数(マイノリティ)で異質な部分があるってだけなんだ)

 

 そしてそれらの方向性によって、宗教とは性質を一変させる。

 たとえば街になったり、時に政党になったり、国家そのものを手中に置いたり。

 何よりも戦争やテロリズムに繋がったりと、様々な変化をもたらす。

 

 地球でも宗教とは古今東西(ここんとうざい)、血で血を洗ってきた歴史と共にある。

 それは異世界においても存在しうる、ある種の命題とも言えるべきものであった。

 

(とはいえ群集心理とその操作において、正直見習うべきところはなきにしもあらず──)

 

 

「ベイリルはずっりいよなあ、エルフだからすぐに魔術使えてさ」

「ハーフだけどな。でもそれを言うなら、鬼人族のお前も筋肉は俺たちより多いだろう」

「そうだけどよォ」

 

 不満を漏らしたヘリオに、俺はもっともらしく反論する。

 外での実践授業を終えた後の黄昏時。夕食前の休憩時間に4人で話していた。

 

 やることをちゃんとやっていれば、幸いにもセイマールは不必要な干渉をしてこない。

 そもそも本人も何か仕事を(かか)えているのか、四六時中一緒にいるわけではなく、アーセンとやらも既に出立してしまった。

 

 3人ともすっかり元気になり、本来の性格がよくよく全面に出てきていて毎日を割と楽しめている。

 

 

「ウチは狐だからなぁにぃ~?」

「んー、鼻や耳が利くんじゃないか」

 

 そう言うとリーティアは耳を動かし、3人の匂いをくんくんと嗅ぎ始める。

 

 獣人種の感覚器官は、エルフの魔力による強化効果の差を比したとしても強力だろう。

 犬に属する狐であれば、リーティアも嗅覚などに(すぐ)れることは想像に難くない。

 

「えっと、わたしは……なんにもないね」

 

 一人だけ純粋な人族のジェーンが、少し目を伏せがちに言った。

 確かに種族的なアドバンテージに関して、人間には何も無いとも言える。

 

 

「でも歴史上の名だたる英雄は大体が人間だぞ」

 

 俺は故郷が焼かれる前に読み込んでいた書物の内容を思い出しながそう言った。

 絶対数が多いというのもあるが、人間は単純に潜在性(ポテンシャル)が高い傾向があることは事実として歴史が証明している。

 

「じゃあジェーンが有利じゃねぇか」

「ジェーン()ぇがいちばん?」

「そうなのかな? お姉ちゃんがみんなの中で一番?」

 

 満更(まんざら)でもない様子を見せるジェーンも、まだまだ子供なのが(うかが)えた。

 一人だけしっかりしていて、お姉ちゃん(かぜ)を吹かせているものの……。

 

 ジェーンもヘリオやリーティア同様、守るべき対象に違いはなかった。

 

 

「でも一度だけ使えた魔術も、全然使えなくなっちゃったからどうかなー」

「氷属魔術は難しいんだろうさ。なぁに一度は成功してるんだから、気長にやればいい」

 

 俺はジェーンを励ましつつ、俺流・俺色に染める為に一つ提示することにする。

 

「それと──そうだな……あくまで参考程度だが、俺が魔術を使う時には世界が何でできてるかを考えている」

 

 物質や現象への理解。

 それは魔術を使うにあたって、異世界にはないアプローチ──方法論の一つである。

 

「世界ィ? 世界は大きな陸地だろ?」

「確かにそれは間違いじゃないが、もっと言えば──」

 

 異世界は大昔の地球のように、巨大なパンゲア大陸で成り立っている。

 まずはどこから説明すべきかと……俺は大きさの違う丸みを帯びた石を地面に並べた。

 

「この世界はコレだ、これよりもさらに丸い球体をしている。空に浮かんでいる片割星(かたわれぼし)も丸いだろ、同じ形でお互いに踊っているんだ」

 

 そう言って中くらいの石を二つ並べて、くるくると円を(えが)くように入れ替えていく。

 さらに大きな石を置くと、さらにその周りを二つの石に周回させた。

 

「そしてもうすぐ沈みそうな太陽の周囲を、こうやって回っている」

「どうして?」

「そういうものだと覚えるだけでいい、なんでかは俺もよく知らないから」

「ウチわかったー」

 

 ニコっと笑って見上げてくるリーティアの頭を、よしよしと撫でながら俺は続ける。

 

 

「これと同じことが、世界なんだ。この石も、見えないほど小さな星とさらに小さい回る星が数え切れないほどくっつきあって、俺たちもみんな形になってるんだよ。

 粒は動き回って、お互いに引き寄せ合い、近付きすぎれば反発する。より安定した形になるまで、そうやってずっとず~~~っと繰り返し続けるんだ」

 

「何言ってっかぜんっぜんわからん!」

 

「俺もわからんから大丈夫だ。さっきも言ったが、ただ()()()()()()だと思えばいいだけだ。実際に魔術を使う時に、こうやって世界全体が大きく繋がっているんだって感じでな」

 

 実際の原理とか追究されれば俺も説明し切れない。

 ただ教育とはそんなものも少なくない。深く突っ込んでまで教えないし、個人が理解しないまま次の勉強に移ってしまったり。

 

 常識なんて知識として頭の中にあるだけで、実践して確かめられることなど少ない。

 

 

「あの空の星も、ベイリルもわたしたちも……みんなそうなの?」

「そうだよ。みんな見えないくらい、小さい星でできてるんだ」

 

「ねーねーベイリル()ぃ。じゃあその見えない小さな星にも誰か住んでるの?」

「おぉさすがリーティア、お前はすごいな~本当に」

「えへへ~」

 

「小さな星もさらにちっちゃい星が集まってて、そこにもっとちっちゃい粒が住んでいる。その粒も見えないくらい、さらに見えないくらいの小さなヒモがブルブル震えていたりするかもな」

 

 恒星と惑星、物質と分子、原子と電子、陽子と中性子、さらには素粒子に、超弦理論──

 

(あと膜だとか11次元とか言う、M(エム)理論なんてのもあったっけか)

 

 いつか見たドキュメンタリー番組を浮かべながら、俺は俄知識(にわかちしき)を日々思い出していく。

 

 なんにせよ揃って首を(かし)げる三人に、さらに物理現象がどう発生しているのかを常識として教えていくには、まだまだ時間が掛かるだろう。

 俺が思い出しきれてないものも含めて……教えるべきこと、語るべきことは山ほどある。

 

 夕日も沈んできたところで、遅れない内に宿舎へとみんなで戻るのだった。

 

 

(魔力に魔術──)

 

 歩きながら俺は考える。そんなものが世界に溢れているのなら……。

 科学が進歩するという機会は、失われて当然なのかも知れない。

 

 そしてかつて全能の魔法を扱い、栄華を極めた神族を突如(とつじょ)として襲った──魔力災害、"暴走"と"枯渇"。

 元世界におけるエネルギー問題とも突き合わせて考える。魔力も有限であって、無限に存在するものではないのだということを。

 

 ()()()()()()()()が必要となる時代が、差し迫っているのではないのだろうか。

 すなわち魔術文明に変わる──科学文明であり、付随(ふずい)した各種のエネルギー産業が世界を支えなくてはならなくなるかも知れない。

 

 さらに思考を深めれば、地球の現代科学──そこに突如魔力というエネルギーが()って湧いたとしたら……。

 

 世界は一体全体どのように変質・変遷していったのか、想像は尽きなかった。

 

 

 

 

 今日も今日とて一日が終わり、布団の中に入る。

 俺は一枚余計に失敬してきて、小さく切り揃えた布束(ぬのたば)を取り出す。

 

 そして片割星の光を頼りに、日本語(・・・)で書き(つづ)っていった。

 

 それがいつ、どこで、何が、どのように必要になるかはわからない。

 ただあらゆる分野のことを。ただひたすらに書き殴って。ただ無心で分類していくだけ。

 

 誰かに読まれても解読もできないだろう。

 仮に解読できたところで、殆どは理解できまい知識の数々。

 

 科学的なことはもちろんのこと。自分の脳内にある知識を総動員する。

 

 地球の歴史、周囲にあるありとあらゆるテクノロジー品、趣味に仕事。

 服飾や食事、雑学にボードゲーム、スポーツから芸事に曲のメロディー。

 数多く触れてきたフィクションの物語やら、百円均一で並ぶような便利商品に至るまで。

 

 思い出せる限り延々と……延々と──

 

 

(水兵リーベ僕の船、七曲がるシップスクラークか。スコッチ暴露マン、テコにドアがゲアッセブルク──と)

 

 それ以降は思い出せない、中途半端な周期表を書きながら。

 意識が眠りへと落ちるまで、俺は今後"日課"となる行為を続ける。

 

 付け焼き刃な、上っ(つら)だけの、(つたな)い見識で、この"異世界文明に革命を(おこ)す"。

 その為の下準備の下準備の下準備。この長い500年以上の寿命を費やす超長期計画。

 

 劇的(ドラスティック)新機軸(イノベーション)文明(シヴィライゼーション)変革(パラダイムシフト)を巻き起こす。

 革命(レボリューション)──そう確か、回転という意味も含まれていた。

 

 文明(・・)()し栄()(きわ)める──(あわ)せて"文明(ぶんめい)回華(かいか)"。

 

 

「あぁそうさ……いつか世界中にジーンズを買わせ、流行(はや)りの歌を聞かせてやろうじゃあないか」




1章導入はこれにて、次から2章となります。

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