戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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聞いてください。

8話の最後でおじさんが女神だったらいいなぁって言ってたじゃないですか。

あの後製造回したらKar98kが出ました(マジ

ありがとうおじさん。フォーエバーおじさん。



ちなみに筆者はミリタリ関連の知識はほとんどないです。俺には小説と言うものが分からない。フィーリングで書いている。


10 -正規軍第一連隊隷下対E.L.I.D対テロ特殊作戦群第一即応部隊長-

 うーむ、言うほど火急の事態ではないとは言え、あまりのんびりは出来なくなったか。参ったねこりゃ、まだまだヒヨっ子たちの育成も終わってないんだが、致し方なし。時間は止め処なく進むし、何より有限だ。

 S02地区壊滅の報を受けて、とりあえずは動き出すべきなのだが、はっきり言ってまだまだ慌てる段階ではない。人間が徒歩でかつ無理のない範囲で移動するなら2,3日はかかる距離だが、疲労を無視出来る人形なら丸1日歩けば到達してくる距離だろう。普通であれば悠長に構えていられる状況ではない。だがしかし、ドラグノフやカリーナの報告にはどうしても気になる点がある。

 

 それは、彼女たちの部隊や支部が()()()()()()()()()()()

 

 勿論、S02地区の指揮官がキングオブ無能で周辺警戒を全く行っていなかった可能性は残る。だが、大体無能なクズってのは身の安全や保身に対してだけは非常に目ざとい。生きる価値なんぞ無いのにな。外に出す部隊に対しては使い捨ての感覚であろうと、自らの身、そして地位を守るための部隊や策はそれなりに取っていたはずである。おめでたい頭ではろくな策も出てはこないだろうが、どれだけ低く見積もっても基地周辺の警戒くらいはさせていたはずだ。てめえの身を守る策すら取らずに呆けているだけのお飾りであれば、逆にもっと早く死んでいる。ましてや、如何に錬度が低いとは言え戦術人形ならもうちょっと考えて動ける。いくら情報がない状態で作戦エリアに放り込まれようとも、ピクニック気分で地雷原を闊歩する阿呆は何処にもいない。曲がりなりにも警戒しながら進んでいたはずだ。

 鉄血の量産型人形には、考える頭がない。ただ機械的に人間や敵性人形を探し、発見し、殺すだけだ。こそこそ隠れたりしないし、連携を取ったりもしない。数だけは多いから、物量任せに真っ直ぐ進んでくるだけである。だからこそAR小隊以外のヒヨっ子どもでも、策を講じれば互角以上に十分渡り合えていた。

 

 そんな鉄屑どもが、あろうことか、奇襲。正直考えられないことだ。だが、ここで思考停止するほど俺は馬鹿に成り下がったつもりはない。相手が新しく動きを見せたなら、こっちもそれ相応に動くだけである。

 

 まずはM16A1にAR小隊を至急叩き起こしてもらう。思いの外ハードスケジュールになってしまったがちょっと今日だけは勘弁して欲しい。同時に第二部隊は撤収だな、補給と休息を与えていつでも動けるようにしておく。錬度が低い第二部隊にはあまり前に出て欲しくないが、それでも最低限の頭数は揃えておかなきゃならない。いやぁ、駒が足りないってつらいな。正規軍の時は錬度はともかくこっちも数は居たからもうちょっと楽だったしな。

 そういえばドラグノフはうち預かりになったってことは俺が指揮命令権を持ってるってことでいいんだよな。動けるか?

 

「ああ、損傷はほとんどないから大丈夫だ。ただ、すまないが配給と弾薬を少々頂きたい。現状ではまともに動けん」

 

 オーケーオーケーお安い御用だ。直ぐに第二部隊が帰投するから、配給と弾薬はスコーピオンに融通してもらってくれ。そんでそのまま第二部隊のスナイパーとして入ってもらうぞ。第二部隊にはスコーピオンに加えてガバメントとマークスマンライフルが居る。今の段階ではろくな紹介も指示も出来なくてすまないが、まぁ上手くやってくれ。

 

 

「指揮官! AR小隊M4A1以下4名、揃いました!」

 

 お、早いな。ドラグノフの方から視線を外せば、そこには俺の自慢の戦術人形が4人。M16A1から最低限の情報共有は終わっているのだろう、皆引き締まった表情をしている。油断はないが、過度な緊張もしていない。いいね、流石だ。

 人数が増えたことで少々手狭になってしまった医務室で、俺はひとまずの指示を飛ばす。本当は司令室でカッコよく行きたいところだが、まぁそんな我侭も言ってられないか。別に格好つける歳でもないし。

 AR小隊には先程と同様、基地周辺の警戒に当たってもらう。ただいつもと違うのは、鉄血人形を見つけた時のフローだ。今まで通り、馬鹿みたいに真っ直ぐ進んでくるようなら見つけ次第ぶっ倒していい。が、こちらの様子を伺っていたり、立ち止まったり、退くようなことがあれば見逃して欲しい旨を伝える。あと、あくまで推測でしかないが、今日中に鉄血人形を発見する可能性は恐らく低いはず、ということもあわせて言い含める。逆に今日その全貌を覗かせるようならば相手はかなり切れるやつだ、そん時は尻尾巻いて逃げるしかない。ついでに大盤振る舞いだ、バッテリーを食うが基地のレーダーも起動しよう。これで全周をカバー出来る。

 

「えっと……見逃すんですか?」

 

 そゆこと。てっきりいつも通りサーチアンドデストロイを命じられると思っていたのだろう、M4A1が先程の顔付きから一転、不思議そうに首を傾げていた。仕方がないなぁ、ちょっとばかしおいちゃんが解説してあげよう。

 

 今回の事態において、確定事項は一つ。そして、確認したいことも一つ。

 まず一つ、鉄血側にオツムの働くやつが現れた。

 もう一つは、そのオツムの出来がどの程度なのか、だ。

 

 今日これからの相手の出方から、概ね3パターンくらいに分けて考えることが出来る。

 

 前提としてほぼ確定的なのは、敵はS02地区にそのまま留まっているだろうことだ。普通に考えれば、折角占拠した敵の拠点を野放しにしておうちに帰る馬鹿は居ない。鉄血製の人形であれば寝床も食糧も必要ないからな、わざわざ帰投する意味がない。敵陣に更に食い込む橋頭堡として確保するのがセオリーだ。逆にそれをしないということであれば、S02地区の指揮官がガチの無能で、ただ物量に押されて負けただけの可能性が高い。そうであれば掃除する鉄屑の量がちょっと増えるだけだ、恐れるに足らん。

 

 敵が留まっていることを前提として、そこから考えられるのは3パターン。第一の分岐として、来るか、来ないか。そして来るのであれば、偵察か、強襲かだ。

 来ないのであれば敵の指揮官は「下」である。それか、現場の指揮官よりも更に上からの指示待ち状態にあるかのどちらかだ。つまり鉄血側の現場指揮官には、配下の量産型に纏めて指示を出す程度の力はあるが、そこから先を自力で考える頭がない。あるいは、更に上の存在からS02地区を落とすまでの指示しか受け取っていない。その程度であれば、多少戦力差があろうといくらでも丸め込める。これも同じく、恐れるには足りない。

 俺が逆の立場なら、少なくとも占拠した拠点周辺は洗う。残党や他の拠点が見つかるかもしれない。もし足の届く範囲に更に敵の拠点があるのなら、偵察を出す。だが、人形でも丸一日掛かる距離だ、S02地区からうちの支部が直ぐに見つかるとは考えにくい。

 つまり、今日中に敵がこちらに偵察に来た場合、考えられることとしてはドラグノフが尾行されていた可能性が最も高い。次いで、グリフィン支部の位置情報がどこかから漏れていた、あるいは既に入手されていた可能性だな。そうなるとちょっと厄介だ。人並みには頭の回るやつがバックに居ると考えるべきだろう。脅威度は「中」ってところだ。だが、そこで終わるのであればまだやりようはある。

 偵察に来た人形を見逃せと言ったのは、こちらの戦力を悟らせないためだ。ドラグノフを追跡し、こちらの拠点を割り出す程度に考えられるやつならば、当然ながら被害状況によってこちらの保有戦力も予測してくるはず。偵察班が全滅ともなれば当たり前だが警戒する。もっと戦力を蓄えようとか、応援を呼ぼうとかの考えになる。逆に如何に敵の攻撃が無いとは言え、偵察ってのは情報を持ち帰ることこそが任務だ。いきなり突っ込んでくるような真似はしないだろう。そもそも、少数で突っ込んでくる程度ならAR小隊で十分ボコせる。

 

 一番ヤバいのは、ドラグノフが尾行されており、この支部の位置も既に割れており、更に物量に任せた電撃戦を仕掛けてきた場合だ。そうなると現状ではかなりマズい。物量にも寄るが、多分逃げの一手を打つしかなくなるだろう。

 S02地区はグリフィンが管轄している地域の一つに過ぎない。そこを落とせば遅かれ早かれその情報は回る。S02地区を迅速に制圧し、あえて一部の人形を見逃し、跡をつける。そうやって割り出した敵の新たな拠点に、迎撃体制が整う前に強襲制圧。今のところ最悪の筋書きがこれだな。もし迷い無くそれをしてくるのであれば、S02地区の戦力はおろか、グリフィン全体の戦力とその分布までばれている可能性まで出てくる。局地戦ならまだ勝機はあるが、相手のトップがそこまでの切れ者だと物量で負けているグリフィンに将来的な勝ち目がほぼ無くなる。流石にそんなバッドエンドは御免被りたい。鉄血に鞍替えしたら見逃してくれたりしないかな。いや流石にこれは冗談だけどさ。

 ただまあ、希望的観測を持ってことに当たるなんて出来るわけがないので、最悪の事態も想定してAR小隊とレーダーを組み合わせた警戒網を敷くことにしたわけだ。平和な一日が過ごせたら色々な意味で理想なんだが、どうなることやら。つーことで、納得してもらえたか?

 

「ははっ! 了解だ、指揮官。やっぱりあんたはそうでなくちゃあな」

 

 おーいおい、ここにはドラグノフも居るんだ、あんまりそういう台詞は使わんでくれよ。ということでとんぼがえりになってしまってすまないが、AR小隊には早速周辺警戒に出てもらうことにしよう。俺はこのまま司令室でクルーガーと話をしてくるから、カリーナは第二部隊が戻ってきたらドラグノフと引き合わせてくれ、よろしくー。

 

 

 

 

 

 

『……流石だな、コピー指揮官。読みも動きも満点だ』

 

 場所は変わって司令室。通信用デッキから聞こえる声の持ち主はファッキンクソヒゲ社長、ベレゾヴィッチ・クルーガーだ。俺の予測と支部の一旦の動きを伝えたところ、何ともまあ無表情のままお褒めの言葉を頂いた。ていうかこれくらい別に俺じゃなくても人並みに頭が働くやつなら誰でも思いつくだろ。前から聞こうと思ってたけどグリフィンの平均値はどうなってるんだ。

 

『そこを突かれるとこちらとしても頭が痛い。俺から言えるのは、グリフィンに属する指揮官の中ではお前が飛び抜けて優秀だということくらいだ』

 

 マジかよ。控え目に言ってクソじゃねーか。よくあんなしたり顔で俺にヘッドハンティングかましたもんだなお前。

 

『……S02地区の周辺に目立った建物はない。支配地域としては少々飛び地となっている部分はあるが、鉄血の侵攻が今までほとんどない地域だったからな、後回しにしていたのが裏目に出た。鉄血が順当に索敵網を広げている前提であれば、お前の支部が次の標的になる可能性は十分にある』

 

 そりゃそうだろうな。でなければドラグノフがうちに辿り着くこともなかっただろう。あいつほんと運がいいな。

 

『こちらからも偵察を出しているが、そのほとんどは量産型だ。ただ、数だけはやたらと多い。ほとんどが木偶だろうが、動きに統率が見られる。やはり鉄血のハイエンドモデルが動いていると見ていいだろう』

 

 はー、なるほど。一体誰が纏めてんだと思っていたが、鉄血人形のハイエンドモデルってことか。確かにI.O.Pや鉄血だけでなく、自律人形を扱っている企業には幾つかブランドを分けたラインナップがあるのが普通だ。そいつらは大体量産型よりも上質なAIを積んでいる。一体どんなエラーを起こしているのか知らんが迷惑なこった。とっととぶっ潰すに限る。

 

『……多少の知性を持った頭と、大量の操り人形。ふむ、確かお前が最も得意としている類の相手ではなかったかな? 期待しているぞ、しがない元傭兵殿』

 

 このヒゲほんまこいつ。しばくぞ。つーか期待しているとか言うくらいならもうちょっと頭数を寄越せ。この数と錬度じゃ満足に作戦行動出来るかすら分からん。

 

『グリフィンきってのエース小隊を二つも抱えておきながら、随分と弱気な発言にも取れるな。俺が勧誘したのはその程度の男だったか?』

 

 これまた安い挑発だなおい。今更俺とお前の間でそんな文句が通じるわけないだろう。無駄な口を叩くくらいなら何か褒美でもチラつかせてみろよ。まだその方がマシだ。そうだなあ、S02地区が壊滅したのは別に俺のせいじゃないし、俺がこの支部を死守しなきゃいけない理由も薄いしなあ。AR小隊やカリーナと一緒に逃げよっかなあ。

 

『……ふぅ、分かった。ならば敵勢力の掃討が完了すれば、本来S02地区に回すはずだった物資を追加で融通、それと新規の人形発注の費用を3体分、こちらで持とう。これでどうだ』

 

 オッケー、乗った。後で書面で寄越せよ。お前との口約束を信じるほど俺は耄碌しちゃいねえ。あと、一応改めて言っておくが、今日中に鉄血から強襲を受けた場合は悪いが逃げるぞ。勝ち目のない戦いでの無駄死には御免だ。

 

『それは承知している。こちらとしてもお前を無下に失いたくはないからな』

 

 つまり無下じゃなければ失ってもいいってことかこのヒゲめ。ま、出来るだけはやってやるさ。そんじゃ通信終わり。じゃーなクソヒゲ。

 

 

 

 さぁて、報酬もある程度は担保出来たことだし、やるだけやってみるかね。しかし大規模作戦の考案は随分と久しぶりな気がするな、グリフィンに来てからこなした任務の数はそれなりに多いはずだが、ほとんどが小規模な戦闘だったし。

 だがまぁ、いけ好かないヒゲ野郎だが、あいつの言葉は間違っちゃいない。ちょっと頭の回るやつと、それに付き従う大量の木偶。物量差を戦略と戦術でひっくり返す。今までずっとやってきたことだ。今日中に仕掛けられたらマジで逃げるしかないが、そうじゃなければ十分勝ち目はある。詳細な情報が出揃ってからではあるが、久々に本格的な頭脳労働と洒落込むか。

 

 

 あー、もしもしカリーナ? 悪いんだけどお前の持ってる栄養剤ちょっと分けてくんない? えっ? 有料? そんなぁ。




カリーナちゃん酷い

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