戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

18 / 63
この小説の読者さん、レイヴンとリンクス多すぎじゃない?
多すぎる……修正が必要だ……

今回で締めようと思ってましたが文量増えたので分けます。


17 -フルアーマーおじさん- 中

「やぁ、お久しぶり。SOPMODⅡも元気にしてた?」

「やっほーペルシカ! 久しぶりー!」

 

 通信デッキを通してペルシカリアと色々と話をした翌日。予定通り俺はSOPMODⅡをお供にI.O.P社の技術開発部門、16Labへお邪魔していた。車と運転用の自律人形は入り口の職員の指示に従って所定の場所で待機させてある。流石は自律人形業界の大手と言うべきか、人間以外への対応もきっちりマニュアル化されており何一つ不便を感じさせない。一方、俺は俺でG&Kの前線指揮官であることを証明する社員証を見せればほぼ顔パスで通れるってんだからスゴイよな。企業間の癒着やら談合やらってのは本来は糾弾されて然るべきなんだろうが、その恩恵を甘受している内側からすれば素敵以外の何物でもない。今後とも思いっきり利用してやろうと思う。

 支部の方は、少しの間とはいえ最高指揮命令者である俺が支部を離れるということで、それなりに引継ぎはしてきたつもりなんだが、話をしている間カリーナはともかくAR小隊の残りの3人からえらいジト目で見られた気がする。アレは一体どういう意図があったんだろうな。おじさんにはサッパリ分かりません。

 16Labへ来る途中の道程は平和そのものだった。ほとんどの自然環境が破壊されている今、間違っても観光なんかが出来る状態ではなかったんだが、今の俺の状態じゃ外に出ることすらままならないからそれなり以上には新鮮だった。ちなみに移動中は運転席に自律人形、助手席にSOPMODⅡのダミー、後部座席のオリジナルと俺って感じだ。流石に道中の護衛にオリジナル一人ってのは危機感が薄すぎるからな。別に今更俺の命が惜しいってわけじゃないが、今俺が死ぬと支部に残った人形たちとカリーナが困る。そんな事態は御免被りたい。

 

 ペルシカリアと久々の再会を果たしたSOPMODⅡはそれはもう嬉しそうにペルシカリアに懐いていた。懐かれている本人も満更ではなさそうで、その不健康そうな瞳を細めて優しい手つきで頭を撫でる。うーん、ここだけ切り取れば人懐こい年頃の娘と優しいお母さんって感じなんだが、その中身は鉄血人形絶対殺すウーマンと天才変態技術者だからなあ。人も人形も見た目で判断しちゃいけない。いやペルシカリアは見た目通りヤバいやつではあるんだが。

 おっと、そういえば手土産を持ってきたんだった。忘れないうちに渡しておこう。ほーれ、喜べペルシカリア。うちの配給倉庫に眠っていた珈琲色のインスタント泥水だぞ。

 

「あら、悪いわねぇ。ありがたく頂戴するよ。後で一緒に飲むかい?」

 

 いいえ結構です。どうぞお一人で存分にお楽しみください。よくあんなの喜んで飲もうと思うな。嗜好品ってのは嗜好が合ってこそ効果を発揮するアイテムだ、俺にとってあの泥水は嗜好品足り得ない。しかしそんな代物でもこうやって在庫整理と好感度アップを両立出来るんだから、我ながらいい使い方をしていると思う。

 

「さて、それじゃあお互い忙しい身だろうし手短に済ませようか。そこに寝てくれるかい」

 

 社交辞令の挨拶も程ほどに早速用件に入る。俺としてもあまりのんびりは出来ないのでありがたい。ペルシカリアの視線が向けられた先には、なるほど人が丁度一人横になれそうなキャスター付きの簡素なベッド台。その先には全身をスキャン出来るような物々しい機械が大口を開けて待っていた。まぁ今更メジャーなりを使って手作業で採寸なんぞしないわな。スーツとかならともかく、今から仕立て上げるのは俺と一体となる義足だ。精密にやるに越したことはない。SOPMODⅡには計測が終わる間ちょっとばかし大人しくしててもらおう。大丈夫かな。

 

「ところで、本当に普通のやつでいいの? 色々付けられるんだけど」

 

 しつこいなこいつ。普通でいいっつってんだろ昨日から。計測のため、ベッドに横たわり機具に吸い込まれていく俺に名残惜しそうな声をかけてくるペルシカリア。別に俺は新たなるパワーを得て戦場で無双したいわけでもないし、人間を辞めるつもりもない。ただヒヨっ子たちの訓練に必要十分な自分に戻りたいだけだ。あと余計なモンをあれこれ付けてその分の技術料だか材料費だかを請求される可能性も潰しておきたい。流石に穿った予測だとは思うが、ペルシカリア個人はともかくとして、そのペルシカリアを擁する相手は他所の大企業だ。今のところG&KとI.O.P社がズブズブとは言え、その連携が何時崩れるかも分からないからな。

 というか今更かもしれんが、この義足だってタダで出来るわけじゃないんだよな。ペルシカリアの好意に甘える形とはなっているが、実際そこらへんの費用はどうなるんだろう。かかったとして経費で落とせるかは微妙だ。ことの発端自体は向こうから言い出したことではあるんだが、その口約束って今でも生きてるんだろうか。

 

「そのへんは気にしなくても大丈夫よ。確かに本来であれば費用を頂くべきなんだろうけど、材料に関しては君たちが結構な量を確保してくれているし、技術料についてはまぁ、AR小隊のお礼とでも言えばいいかな。私から言い出したことだってのは事実だしね」

 

 うーん、この材料の部分ってのは多分鉄血人形のことだろうなあ。I.O.P社製の人形と違い、鉄血には生体パーツがあまり使用されていない。勿論ゼロじゃないんだが、そのほとんどは金属で出来ている。で、当然銅やら鉄やら銀やらアルミやらは、世界がこんななってしまっているためにその採掘量を年々落ち込ませている。無論、昔と比べてアンドロイドの技術が進化したおかげで人間では難しい部分もリスクを気にすることなく採掘出来るようになったメリットもあるが、それでもそういう事業を行う会社や人員が絶対的に減っているものだから、供給量は減少の一途だ。

 そんな情勢の中、勝手にバグって暴走しだした鉄血工造の自律人形というのは、言ってしまえばいいリサイクル対象にもなっている。うちの会社、G&Kは直接そういう事業に手を出してはいないが、俺らの部隊がぶっ倒した鉄血人形ってのはその手の業者が大体回収している。戦場とは言えやはり経済は回るものだから、そういう意味でも人類の支配地域を拡大していくってのは重要だ。世界の経済圏を拡大しなくては、国家も企業も同時に拡大出来ない。

 ま、義足を製作するペルシカリア本人が気にしなくていいということなら素直にお言葉に甘えておこう。俺個人の懐事情はそこそこ潤っているとはいえ、安い買い物じゃないだろう。抑えられるところは抑えておかないとな。

 ちなみに、G&Kの給料はそこそこ良い方ではある。リスクに見合っているかと言われれば何とも言えないが、俺の場合は元が軍人だ、今更気にするようなところでもない。ただ、現状の負荷と給与が見合っているかと言われれば間違いなく否なんだが。もうちょい人員よこしてもらえませんかね。ダメかな。

 

「はい、計測終了っと。お疲れ様」

 

 機械に吸い込まれてから程なく。色々なレーザーが飛び交っていた箱から救出された俺にペルシカリアが声をかけてくる。

 

「じゃ、後は出来次第そっちの支部まで送るから。幾つかの基本パターン組から体格にあわせて作るから、そんなに時間は掛からないと思うわよ。一週間くらい見てくれれば多分大丈夫かな。確認だけど、訓練に耐え得る強靭性、筋肉が持つ柔軟性くらいでいいのよね、重視するところって」

 

 おお、もう終わりか。そりゃまぁ、言うてもただの身体測定だけなんだからそんな大仰なものでもないか。しかし一週間程度で出来るとは驚きである。普通数ヶ月は掛かるもんだと思うんだが、そこはI.O.P社の技術と人員の成せる業だろうか。あと何度確認されようが俺の要望は変わらないからそこんところよろしく。余計な機能つけたらぶっ飛ばすからな。

 

「あ、指揮官終わったー?」

 

 俺の様子を手持ち無沙汰で眺めていたSOPMODⅡが動く。恙無く計測を終わらせて車椅子に戻れば、途端に膝元に飛び込んでくる様は本当に犬のようだ。俺としては何故こんなにも懐かれているのかが不思議でしょうがないのだが、まぁ少なくとも悪い気はしないのでそのまま放置している。いずれ飽きるだろうとも思っているが、この職場とにかく出会いがないからなあ。ヘリアントスに言ってこいつらも合コンに連れて行ってもらうか? いやそれはそれで何か違うな。人間の場に出会い目的で戦術人形を送り込むのもおかしい話だ。とりあえずはこいつらが傷つかないようにしっかりと本業に精を出すとしよう。

 

「しかし見事に懐いたわねー。恋人ってトシでもないだろうし、父親みたいなものかしら?」

 

 やめろ、歳に関するワードは俺に効く。ていうかそれを言い出したらペルシカリアも結構なお年頃ではないのだろうか。流石に生身の女性に直接そういう言葉を投げつけるのはいくらなんでも紳士的ではないので、反抗的な視線を飛ばすにとどめる。

 

「えっと、ペルシカがお母さんで指揮官がお父さん? あはっ! いいかも!」

 

 よくねえよ。というか発想が飛躍しすぎである。俺はお前たちの指揮官であってお父さんでも保護者でもありません。いや、保護者ってのはある意味で合ってるのかもしれんが。

 

「わお、私がお母さんときたか。いやあ、でも考えてみたら悪くもないかな。君があと10歳くらい若ければイケたかもしれないねー。私も貰い手なんか居ないだろうし」

 

 ちょっと勝手に話を盛り上げないでくれます? あんたに貰い手が居ないのは事実だろうが、恐ろしいくらいの棒読みで話を盛るのはやめて頂きたい。しかしまあ、ペルシカリアの顔が好みなのは本当なので中身がこうじゃなければ狙っていたかもしれん。それも俺が10年くらい若ければ、という注釈が付くけどな。今更独身であることにどうこう言うつもりはないし、わざわざ伴侶を見つけようとも思わない。軍人ではなくなったとはいえ、それでもいつ死ぬか分からん身である。こんなおじさんを未来ある女性に選ばせたくない。無論人並みに性欲を持ってはいるが、それは伴侶が欲しいという欲求とイコールにはならないのだ。そういえば、かつての部下には恋人が居たり嫁が居たりしたヤツもいたなぁ。あ、ダメだ思い出したら凹んできた。マジであいつらには俺が死んだら真っ先に謝りに行かなきゃな。

 

「? 指揮官どうしたの? 元気ない?」

 

 うお、相変わらず目ざといなこいつ。SOPMODⅡに限らず、AR小隊の連中は何故か俺の機微に敏感だ。ちょっとした違和感、それも俺が表に出していないつもりのような無意識下のことでも容赦なく勘付く。しかも大体それは俺にとってよくないシチュエーションだから余計に困る。まあ、ちょっと昔のことを思い出しただけだから気にするなとでも言っておくか。実際その通りだしな。感傷に浸るのはあまりよろしくない。

 

「……そうねえ、たまにはああやって通信寄越してしてくれても構わないわよ。忙しくなければ話相手くらいにはなってあげるさ」

 

 何を思ったのか、ペルシカリアが要らんフォローを回してくる。ただまあ、カリーナやヘリアントス、指揮下の人形たちには話せないようなことがあるのも確かだ。そんな機会が訪れるとも思えないが、もしそうなったとしたら愚痴の相手にでも付き合ってもらうか。折角頂戴した気遣いだ、お礼くらいは述べておこう。

 

 さて、あまりお邪魔していても悪いので用事も終わったし退散するとしますか。今回の件は本当に彼女の好意にただただ乗っかっているだけであり、本来の仕事を邪魔してしまっているのは事実だ。普通に考えれば泥水の手土産だけでペイ出来るような内容じゃない。出来上がり次第だが、改めてお礼も考えておいた方がよさそうだな。ペルシカリアの内情がどうあれ、一応は社会人としてそこらへんはしっかりしておくべきだろう。人間どこで信用を失うか分かったもんじゃないしな。

 

「今度来る時は他のAR小隊の皆も連れてきてよ。久々に顔も見たいしね」

 

 オッケーオッケーそれくらいならお安い御用だ。時期の約束までは出来ないが、今のところ基地周辺は安泰だ。新人教育などの諸々が落ち着いたら挨拶に向かわせるのも悪くない。低くない優先度で考えておこう。

 

「じゃーねー!」

 

 帰り際、一層元気なSOPMODⅡの声が響く。よし、後は帰るだけだな。思ったより時間がかからなかったのでこれなら十分日が沈む前に帰ることが出来そうだ。何とも味気ないご挨拶にはなってしまったが、別に閑談が目的ではなかったので致し方ないところだろう。俺もペルシカリアも丸一日空けられるほど暇じゃないだろうしな。つーかいい加減ちゃんとした休暇が欲しい。俺やカリーナの代わりがいつまでも居ないってのは組織としてどうなんだ。他の支部はどう回してるんだろうか。そういえばS02地区も指揮官は一人だけだったような気がする。えっもしかして一つの支部に指揮官一人なわけ? そんな馬鹿な。ちょっとこれ後でクルーガーに聞いてみよう。俄然気になってきたぞ。健全な事業運営のためにも福利厚生は確認しておかないとな。

 

 しかし、一週間後かあ。ちょっとワクワクしてきたな。俺は俺でリハビリが必要だろうからすぐって訳にはいかないだろうが、なんだかんだ足が手に入るってのは嬉しいことだ。上手くいけばAR小隊に行っていたような遭遇戦訓練も出来るかもしれない。あまりそれだけに時間を割くわけにはいかないが、教練のバリエーションが増えるのは素直に喜ばしい。射撃訓練の効率も上がるだろうし、もっと早くに決断しとけばよかったな。今まではそんな暇すらなかったとも言えるが。

 

 よし、というわけで帰るか。カリーナなら問題ないとは思うが、何かトラブってたりしたら大変だ。行き先はしっかり伝えているし、流石に緊急の依頼などが入っていたらこっちに直接連絡がくるだろうから大丈夫だと思いたい。

 

「……あれ? 指揮官?」

 

 んん? どうしたSOPMODⅡ。何かやり残したことでもあるかな。いや、今日の用事は正しく先程の身体測定のみのはずだからやり残しも何もないはずなんだが。

 

「…………デートは!?」

 

 よし、帰るか。




ペルシカリアはいい女。いいね?

前作でも語ってますが、おじさんはキャッキャウフフな10代の多い戦術人形ではなくペルシカリアさんみたいなのがタイプです。実際美人ではあると思う。

ていうかそんなニッチな好みだからこの歳まで独身なんだろうなこのおじさん…

ちなみに、本小説ではおじさんのキャラもあり、あまり恋愛要素を組み込むつもりはありません。ただ、個人的にはちょっといい感じのオトナなビターなやつもやってみたいなぁと考えてるんですが、これがまた非常に難しい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。