「指揮官さま、お届け物が届いております。どうも本部からのようですが」
東の地平から灼熱の根源が顔を覗かせ、足元に伸びる黒い分身が少しばかりその背丈を縮め始める時間帯。今日も今日とて俺の副官を務めている後方幕僚様が、一通の封筒を手に持ちながら司令室へと足を運んできていた。
カリーナから封筒を頂き宛名と差出人を確認すると、確かにこいつは俺、というよりこの支部宛に届いたものであり、差出人はG&K本部付となっていた。クルーガーやヘリアントスの名前が書かれていないことから、個人的なものではなく、どうやら社として配達している類のものらしいことは察しが付く。
がしかし、生憎俺にはまったくもって心当たりが無い。そのような言伝も受け取っていないし、クルーガーからも何も聞いちゃいない。まぁわざわざ本部が送るくらいだから変なものではないだろうが、それにしたっていきなり予定に無い物を送りつけられても反応に困る。開封するのもちょっと怖い。蓋を開けてみたら訳の分からない極秘指令みたいなのが入ってたりしないだろうな。会社の名前を使う以上あのヒゲもそんな悪巧みをするとは考えにくいが。
何にしろ、支部宛で本部から届いた封筒なら開けないわけにもいくまい。俺個人に宛てたものでもないので、秘匿情報ってわけでもないだろう。カリーナと一緒に封を切ることにする。
「社内報……ですか……」
封筒の中から現れたのは、一冊の薄い冊子であった。
後で知ったことだが、このグリフィン社内報、定期的に本部から各支部宛に送られているもののようだった。グリフィンはその組織運営の仕組み上、横同士の繋がりが極めて希薄だ。何せ俺はお隣と言って差し支えない距離の地区の連絡先すら知らなかったわけだからな。で、流石に全く情報がないってのは本部もどうかと思ったんだろう、社内報という形で他所の地域や他所の支部でどのようなことが起きているのか、シリアスなニュースからコミカルなトピックスまで、コンプライアンス的観点から差し支えの無い範囲で情報をまとめて発信しているらしい。
じゃあ何で今までうちには届いてなかったんだって話なんだが、それも単純な理由で、今まではこのような重要度の低い物資を配送出来るほど治安がよくなかったから、だそうだ。言われて見れば確かに、俺がこの支部に着任した当初は本当に支部の建物周辺は何とかなっていたが、ちょっと離れるとそこらへんをファッキン鉄血人形どもが跋扈していたようなエリアだったからなあ。AR小隊をはじめとしたジョーカーの活躍もあって、今では支配地域を拡大出来そうなくらいには一帯を掃討したが、逆を言えばこの地域一帯がクリアとなるまではそんな雑誌を配送する余裕も意味もなかっただろう。
そして漸くというのか、そのようなアイテムもある程度気軽に配送出来ることになったために、今回うちの支部にも送られてきた、ということだ。
「でも確かに、他の地域でどんなことが起きているのかは気にならないといえば嘘になりますよね。指揮官さま、ちょっと読んでみませんか?」
その興味を隠そうともせず、カリーナがやや早口で話しかけてくる。こいつ自分に正直だな、まぁいいけど。確かに俺自身、この支部に指揮官として着任してからというもの、他所のことについてはてんで知らされていなかった。せいぜいがS02地区についてくらいだが、あんな知り方したくもなかったよ。イレギュラーにも程がある。
S02地区のことを差し引いて考えてもカリーナの言う通り、他所のことに全く興味が無いといえば嘘になる。もしかしたら支部運営についてだとか、戦術人形との関わり方だとか、新米おじさんの俺にとって有益な情報が手に入る可能性も無くはない。これがクルーガーやヘリアントスあたりが個人的に発行しているものなどであれば話は違うだろうが、腐っても社の名前を冠して本部が公式に配布している冊子である。早々頭がおかしい内容が載っているということはあるまい。幸い現状、そこまで業務に追われている状態でもないし、小休止も兼ねて一読する程度の時間は十分に確保出来る。後方幕僚様も興味津々の様子だし、少しばかり付き合ってやろうではないか。
ということでペラっとな。ちなみに表紙は多分戦術人形だと思うが、昔良く見た少年誌みたいだった。結構キワドイ格好させてんだな、誰の趣味か知らんけど。体としては本当に一般的な雑誌、というかどちらかと言えばゴシップ誌のイメージに近い。デカデカと興味を煽りそうな見出し文が入り、その後ろからつらつらと詳細が続くパターンが多いみたいだな。
内容としてはまぁ、俗なものが多かった。どこの支部の指揮官がどの戦術人形と誓約しただとか、どこそこの支部でどんな騒ぎがあっただとか、そういう感じ。多分だがこれ、情報収集というよりは激務に追われる指揮官へのストレス発散的な側面が強いように感じる。言ってしまえば娯楽品の一種だな、内容が面白いかどうかは別の問題だが。
しかしあれか、誓約というのは以前ペルシカリアに渡されたあの証のことだよな。別に俺自身にその気がないだけであって否定するつもりは全くないんだが、やっぱそういうやつも出てくるんだなあ。ていうか、女性指揮官も人形と誓約するんだな。いや確かにこれは俺たち人間で言う結婚とはまた違うもののはずだから、そこに性差なんて本来関係ないはずなんだが。うーん、この微妙な感覚。恐らくこの感情自体がマイノリティなんだろうな、流し読みする限りは結構な数の指揮官が思い思いの戦術人形と誓約をしているようだし。
って、待って。ちょっと待って。人形じゃなくて人間の方になんか見た事あるやついる。こいつスイートキャンディじゃん。え、お前正規軍辞めたの? マジで?
直接の関わりはほとんど無かったやつなんだが、まぁ可愛くて優秀だって噂は聞いていたし、作戦記録なんかを見た限りでは実際その通りだったんだろう。あだ名だけやたら印象的だったから顔とあわせてそれだけ妙に記憶に残っている。本名は忘れてしまったが、まさか元正規軍の指揮官が他に居るとは思わなかった。いや、クルーガーのことだ、俺に限らず使えそうな人間には網を張っていても何らおかしくはない。どういう経緯でG&Kに入ったのかは皆目分からんが、変なぶっこ抜かれ方されてない? おじさんちょっと心配。
いやしかし、これは困った。向こうが俺のことを知っている可能性は低いが、ゼロじゃない。ちょいとばかし整形もしてるし早々バレないとは思うが、過去の俺をしっかり認識しているヤツだったら正直会いたくない。普通は顔見知りが居ると分かれば多少なり嬉しい気持ちになるもんだろうが、俺の場合は少々どころか大分勝手が違う。今の俺はタクティス・コピーであって正規軍の大尉じゃないからなあ、逆に余計なトラブルの可能性にしか見えない。
まぁ今は名前も違うし、そもそも会うような距離でも間柄でもないか。管轄地域も決して近くないし、ニアミスの可能性も無いだろう。俺が外出するとなれば16labに行くときくらいだが、それとなく他の指揮官とバッティングしてないか事前に確認すれば防げる話だ。うんうん、別に大きな問題ではないな。
ってウワァー! クルーガーあの野郎! 俺を載せるなら一言断れやあのクソヒゲが! いや断るけど! 絶対にNO出すけど! 俺の返答を分かっていたからこそあいつ黙ってやりやがったな、絶対に許さねえ。ボコボコにしてやる、覚悟しとけよ。
社内報の後ろの方、あまり大きくないカットではあるが、『G&K、新たな地域に進出』という見出しとともにうちの支部のことが載ってやがった。ご丁寧に指揮官である俺の写真もセットだ。モノクロだし、そこまで解像度も良くない上に偽名だから、一発で俺と結び付けられるやつは居ないと思うが、それにしたってリスク大きすぎじゃない? 俺が元正規軍ってバレて一番やべーのお前だろうが。何してやがるんだあのヒゲは。
確かにこいつは社内報だ、グリフィン外部の人間が目にするものじゃない。だが、他の目に入らない保証は何処にもないのだ。ああまで徹底的に俺の過去を綺麗さっぱり洗ったくせに、この仕打ちは一体どういうことか。いや、これもしかして逆にクルーガーは監修してないのか? 俺の過去を正しく認識しているのは、グリフィン社内だとクルーガーだけだ。外部を含めてもペルシカリアと、I.O.P社の一部重役しか居ない。対外的には、俺は元流れの傭兵ということになっているから、この社内報を作成している部署がそのまま元傭兵の新人指揮官として認識して載せてしまった可能性は大いにある。
うーん、そうなるとあのヒゲを責めるのもおかしい話か。こいつを早急に回収するって手段もあるにはあるだろうが、普通の目線で見れば特に問題のある記事じゃない。回収する理由が無い。社長権限という強権発動も多分出来るんだろうが、何故という疑問は残ってしまうだろうしなあ。
はあ、なんか一気に疲れたぞ。後はもう適当に流し読みしよう。
パラパラと半ば脱力しながら結構な速度でページをめくって何となく眺めていたのだが、戦術人形と誓約だけでなく他所の支部からゲストも呼んで盛大に挙式を行った支部の話題だとか、指揮官の他に勤めている人間のガンスミスのことだったりとか、放射性の雨が降り止まない地獄の底みたいな支部の話だったりとか、HK417? 何かよく分からんがイレギュラーな戦術人形の話題だとか、まぁそんな感じのトピックスがちらちらと目に付いた程度だ。
当初の目的であった支部運営についての知見とか、戦術人形との上手な関わり方とか一ミリも載ってなかった。つらい。ていうかこの社内報を基準にしたら、戦術人形と誓約することこそ正しい関わり方にも見えてしまう。完全に俺少数派じゃん。まさか自社の発行物で色々なダメージを食らうとは思わなかった。チクショウ。
「ちょっと指揮官さま! 読むの早いですよ!」
うお、すまんすまん。後半はほとんど投げやりにパラパラとめくっていたものだから、カリーナの目が追いついていなかったのだろう。俺の直ぐ後ろから覗き込んできている金髪娘から不満の声が挙がる。
丁度いいや、これカリーナにあげよう。少なくとも今回の社内報を今これ以上俺が読み込むことは多分ない。読めば読むほどダメージを貰う気がする。ただ、一通り読んだ後は俺に返すか、シュレッダーに掛けるか、燃やすかのいずれかの手段を必ず取ってもらうことを念を入れて伝えておく。見ていて思ったが、戦術人形と指揮官との誓約の話題が多い。そりゃ確かに喜ばしい話ではあるので、それ自体を否定するつもりはないが、うちの支部の人形にこの話題が知れ渡るのはあまりよろしくない。どう考えてもよろしくない未来が待ち受けている。主に俺にとって。
だからカリーナ、俺と約束してくれ。読むときは一人で読み込むこと。俺以外の目には触れさせないこと。必ず前述した手段を取ること。
「は、はあ……分かりました、お約束致します」
当の本人は納得が行かない、というよりは俺がそこまでする理由が掴めないといった表情である。ただ、彼女は真面目だし約束を違えるような人柄でもない。そこは信頼しても大丈夫だろう。
椅子に腰掛けた姿勢のまま、ぐっと一伸び。いやぁ、肉体的には全然疲れていないはずなんだが、妙に肩が凝ったぞ。しんどい。
さて、なんだかんだ時間的には小休止といって差し支えない程度が経過している。まだまだ日も高いし通常業務も残っている。今日もちゃきちゃき仕事をこなすとしますかね。
本章内で言及された作品は下記の通りです。
「女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん」 笹の船 様
「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!」 焔薙 様
「ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー」 通りすがる傭兵 様
「No Answer」 報酬全額前払い 様
「元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん」 カカオの錬金術師 様
この場にてお礼とお詫びを申し上げます。
ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。
今回はサブタイトルにXXとつけている通り、お遊び要素の強い内容となっております。他の作者様の作品動向を縛る、あるいは左右するものではありません。また、本作品内のストーリー、時系列において直接的に影響をもたらす内容でもありません。読者様においてはご承知置きの程、よろしくお願い申し上げます。
こういう、いわゆるクロスオーバーというかコラボというか、個人的には嫌いじゃないんですがどうなんでしょう。作品の色にもよるとは思うんですが。
ただ、同一の世界観を前提としてしまうと、戦術人形はともかくとして場合によってはカリーナが多重影分身してしまうので、あまり現実的じゃないんですけどね。
おじさんとしても直接他所の世界と絡む切欠があまりに乏しいため、今回は社内報というネタを拝借しての運びとなりました。
今後もタイミングやネタがあればこういうお遊び要素は入れていきたいなとは考えています。頻度は極めて低いと思いますが。
今後、どうしていきましょうかね
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どんどん時間軸(ストーリー)進めましょ
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AR小隊とか支部の人形とほのぼのしよ
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新しい人形どんどん増やそ
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サイドストーリーやスピンオフかましてこ
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