戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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ふえーーーー今回は難産でした。
ふわふわと漂っている構想がとっちらかったまま全然纏まってくれませんでした……遅くなりましたが、どうぞご賞味ください。


43 -Vanishing for-

 第三部隊、というより404小隊がまるっとが抜けたのは痛手と言えど、現状そこまで手が回らないということはなかった。

 この支部におけるあいつらの役割というのは、いわばユーティリティだ。戦局を選ばず「とりあえず」投入が可能な錬度と柔軟性を強みとして持っている。しかし同時に、その役割をより高次元でこなせてしまう部隊がこの支部には存在してしまっており、つまりはAR小隊が居るおかげで幸いどうにか回っている。純粋な手数が減ってしまうのはつらいが、まだなんとかなる範囲だ。当初はもっと少ない頭数でやっていたわけだしな。

 また、第三部隊に所属していたウェルロッドに関してだが、一時的に第四部隊へ組み込むことにした。第一は錬度が離れ過ぎているし、第二は既に固まってしまっている。第五部隊にぶち込むことも考えてみたが、あの三組にもう一人ハンドガンを加えても戦術的に意味がない。それならば第四部隊の方がまだ活用の余地がある。基本的に弾幕をばら撒く部隊ではあるが、それでも視野が広いに越したことはないしな。

 

 そうそう、404小隊の離脱にあわせてかは知らないが、最近本部から出される作戦指令が少々趣を変えて来ている。今までは単純な殲滅やら拡大予定地域への偵察なんかがメインだったんだが、グリフィンの支配地域から考えるとやや飛び地的な、それこそあまり戦略的戦術的価値が一見なさそうなエリアへの出撃が増えていた。そりゃまあ至るところに鉄血の人形がウロウロしてるわけだから、別に出撃自体が全くの無駄って訳はないんだろうが、にしたって解せない。クルーガーの野郎がそこら辺を考えていないとも思えないし、なーんか裏がある、というか支部の指揮官レベルの人間には伝えられていない情報がある気がする。

 俺はグリフィンが保有するすべての戦力を把握しているわけでは決してないが、それでもざっくりとした平均レベルくらいは何となく分かる。個人戦力としてはAR小隊の四人がブッチギリのトップであり、その下は俺が着任するまでは正直団子状態であった。404小隊や本部直轄の諜報部隊など、一般の指揮命令系統にないイレギュラーも居るには居るんだが、広大な領土面積と支部数、そして戦術人形の保有数を考えれば極々少数だ。

 つまり俺の支部、ひいては俺の管轄する支部が持つ戦力というのは、現状些か偏りが過ぎている。そういう意味では404小隊を本来の働きに戻すというのも理に適ってはいるのだが、今度は逆に、グリフィンきっての戦力をそんな戦略的価値のない飛び地にわざわざ派遣するような無駄遣いをしてもいいのかという問題が出てくる。

 グリフィンに限らず、人類側というのはどう贔屓目にみても裕福じゃあない。世界中どこを見渡したってカッツカツだ。その状況を脱するために人間は自律人形に武器を持たせ戦術人形として使役し、支配地域の拡大を虎視眈々と目論んでいる。無論、現在支配下に置いている地域をこれ以上後退させないためにも。

 

 と言うことは、一見価値のなさそうな最近の任務にも何かしらの意味があると見るのが妥当だ。そもそもそんな無駄をあのヒゲが許すはずがない。これは俺が独断で動いている作戦じゃなくて本部から降りてきている作戦指示である。いくらあいつが代表という立場で多忙とは言え、軍事行動の指揮命令に於いてノーチェックというのは流石に有り得ないだろう。

 どこに目的があるのかは分からんが、それを伝えず404だけ引っこ抜くあたり、少々厄介な案件なんだろうな。生憎俺は自分からそんなデンジャーゾーンに突っ込む程バカじゃない。何か指示があればその通り動くし、そうでなければ気楽に指揮官の職務に励むだけである。いやぁ、軍人時代とは多少勝手は違うが、会社の駒ってのもこういう面では悪くない。基本的に言われることだけやってりゃいいわけだしな。勿論預かっている戦術人形たちに対して責任は発生していると思うが、それは軍人時代も同じだ。むしろ部下が人間でなく人形な分いくらか楽まである。

 

「おーっす指揮官! 終わったぞォ!!」

 

 そんなこんな気ままに思考を巡らせていたところ、やかましい声に短い電子音を添えて司令室のゲートが開き、わらわらと複数の人形が歩を進めてくる。

 先頭を歩くのは我が支部が誇る犬、じゃなかった、ハイエンドモデル処刑人だ。その後ろに狩人、ナガン、第二部隊の面々と続いている。それぞれの表情が雄弁に語っている通り、まあ中々の結果だった。

 

 今日こいつらにやらせていたのはちょっとした模擬戦みたいなものだ。流石にキルハウスじゃ手狭過ぎることもあり、屋外のフィールドを適当に設定して第二部隊対第五部隊で戦わせていたのである。外にちゃんとした訓練場があるわけでもなく、今回は流石に俺が直接見に行くのは流れ弾がヤバイってことでドローンでの見学となっていた。俺が現地に行かず司令室に篭っていた理由はそれだ。第二部隊の主力はライフルだからペイント弾どうこうの話じゃないしな。

 形としては以前、MG5とダネルを相手にした訓練に近い。それぞれの部隊がエリアの指定位置からスタートし、第二は指定したラインまで狩人、処刑人二体の侵入を防ぐ。逆に第五の二体はラインまで到達するのが目的というシンプルなルールだ。

 ただし、ナガンは戦場に参加しない。外野から処刑人と狩人に指示を出す役割である。

 今後こいつらを表に出す場合、当然部隊として運用していくことになる。作戦状況下において、基本的に部隊の一体一体にまで俺がリアルタイムに指示を出せる状況というのは正直少ない。狩人にはまだ可能性が残るものの、じゃあ誰が部隊の人員を纏めるかと言うと自ずとナガンになってしまう。二体ともナガンにはよく懐いているし、単純な指揮命令関係って意味じゃ問題はないだろうが、それでも命令を受けて動くという習慣をこいつらに馴染ませておく必要がある。

 一方で第二部隊は、今まで部隊として強大な個と戦った経験がない。S02地区奪還作戦の時は数多のガラクタ相手の睨み合いだったし、支部防衛戦時にはスコーピオンは前衛を、その他の連中は屋上から有象無象への狙撃であった。こいつらの部隊編成は今のところ不変の予定であるからして、個人は勿論、部隊間での錬度ってのを上げていかなきゃならない。幸い部隊長のスコーピオンは視野も広いし比較的機転も利くタイプだ。もっと色んな経験を積ませてやりたいところだな。

 

「もーーーーッ何なのこいつら! めっちゃくちゃ速いんだけど!」

「あっはは……ほんと、ハイエンドモデルって凄いですねえ……」

「第一部隊の人たちはこれを制圧したんですよね……驚きというか、納得というか……」

「だが、いい経験にはなった。次こそは当てて見せようじゃないか」

 

 ぷりぷりと感情を顕にする第二部隊の隊長に続き、各々が感想を述べる。次こそは当てる、というドラグノフの言葉通り、ただでさえ錬度に差がある状態、更に実際戦うのは初見ということもあり、処刑人と狩人の怪物染みた機動力に終始翻弄されっぱなしであった。唯一ある程度照準を合わせられていたのはダネルくらいだが、それでも取り回しの極めて悪い対物ライフルで、超高速で動く二体を捉えるのにはかなり無理がある。

 だがそれはそれとしてM14よ、驚きは兎も角納得ってなんだ。お前普段AR小隊の連中をどういう目で見てるんだ。いやそりゃまぁあいつらはあいつらで化けモンだけどさあ。

 

 そして個人の錬度は勿論だが、それ以上にそれぞれの部隊を指揮する隊長格に差があった。

 スコーピオンとナガンの間で、錬度の差がそれほどあるわけではない。僅差でナガンが上だが、まあ誤差の範囲だ。だが、部隊の指揮経験という意味ではスコーピオンはかなり分が悪い。これは適正の差ではなく単純な経験の差だ。今まで第二部隊にそういう役割を持たせていなかったから、今出来ないのはそれはもう仕方がないのだが。しかし第二部隊に限らず、俺としては部下にはどんどん成長して頂きたいものだから、こうやって次のステップを踏ませているわけである。幸い、彼女たちは全員が全員例外なく戦うことを至上命題とした人形だ、そこで不満が噴出することはなかった。これが人間だとそうは行かないからなあ。

 

「おぬしは普段こそよく周りを見とるが、ちょっと慌てるとダメじゃのー。部隊長というのはその名の通り、部隊員の命を預かっとる。ま、慣れもあるじゃろうがの」

 

 余裕綽々といった表情でナガンが紡ぐ。やや上から目線な気もするが、言葉以上に結果で語っているところもあり、スコーピオンとしてはぐぬぬといったところだろう。実際ドローン越しではあるが、ナガンは処刑人と狩人を言葉は悪いがよく操っていた。いくら外野とは言え、エリア全体が見渡せるような場所で待機はさせていなかったので、相互通信も盛んに行われていたのだろう。しかし、ナガンとスコーピオンの結果は予想出来ていたが、ハイエンドモデルの反応も素晴らしいものだった。あいつら今まで人の命令を聞いて動くってことしてなかったはずなのに。

 

「いや、あるぞ」

 

 えっあんの。俺の呟きに狩人が目聡く反応する。

 

「ほら、最初俺らが匿ってくれっつった時だよ。スケアクロウのやつが来たときだな」

 

 あー、あれか。続く処刑人の言葉で思い出した。確かに支部防衛戦の時、こいつらにうちの通信機渡して俺の指示でめっためたに扱き使っていたなそういえば。あの時は俺もかなりブチギレてたからマジで効率のみを最優先した容赦ない指示を飛ばしていたような気がする。

 思い返せば、あの大軍を処理した後処刑人が俺のことを褒めていたような記憶がある。あの時はそれどころじゃなかったから無反応で返していたが、そうか、あいつらアレが人の指示を聞いて動いた初体験だったんだな。手前味噌な話にもなるが、しっかりした指揮命令の下でいい結果が出ればそれへの印象も変わるというもの。世の中何がどう働くか分からんものだ。

 

「しかし、強者と相対するというのはいい刺激になるな。自己の不足と成長をよく感じられる」

 

 最後にいい感じのまとめっぽいことをダネルが発し、本日の模擬戦は終了となった。彼女の言葉通り、今後は定期的にこういう訓練も実施してより一層の成長を願いたいところだ。今でこそハイエンドモデルの二体は目立ったダメージを負っていないが、ダネルを筆頭にM14やドラグノフの錬度も上がればそうも言ってられなくなるだろう。スコーピオンやM1911の状況判断力も向上すれば、点の破壊力を底上げしつつある程度臨機応変な対応が取れるようになる。部隊としての完成度はまだまだと言ったところだが、伸びしろは大きい。訓練し甲斐があるってもんだ。

 

 

『コピー指揮官、応答出来るか』

 

 司令室で模擬戦の反省会を執り行っていたところで突如通信機が反応を示し、あのいけ好かないヒゲ野郎のホログラフが浮かび上がる。普段通りを装っちゃいるが、こいつにしては珍しい、僅かではあるが焦燥の気が感じられるな。通常の通信ではなく、上位者権限で強制通信を寄越していること自体がその予測を補強していた。

 基本的にクルーガーはデキた上司に類する人間だと思っている。俺個人に対して遠慮がなさすぎる部分は確かにあるが、頭もいいし話も早い。多少の無茶も、その無茶をせざるを得ない背景を持っていることが多いし、理も通す。過剰な干渉をしてこないところもポイントが高い。

 そんなヒゲが、こちらの都合などお構い無しに強制通信を寄越してきた。その事実だけで厄介ごとの匂いしかしない。確かに最近小康状態が続いているのは事実だが、だからっていきなり超級の爆弾放り投げてくるとかは勘弁してくれませんかね。まあまだ用件聞いてないんだけどさ。

 とりあえず放置しておくのもアレなので返事を返そう。面倒くさいという感情は大いにあるが、だからって今取れる通信を取らない理由にはならない。職務放棄なんて以ての外だし、俺だって会社の駒だ、命令が下れば真面目に取り組むしかないわけだからな。

 

『すまないな、緊急の依頼が発生した』

 

 俺が応答を返すと、声色そのままやはり厄介ごとを押し付けてきやがった。緊急の依頼自体は今まで何度もクルーガーやらヘリアントスやらから受けてきたが、それにしたってこんな通信を寄越すなんてのは相当だ。少なくとも今まで以上に厄介であることは間違いないだろう。

 わいわいと感想戦を繰り広げていた人形たちも途端に押し黙り、通信の経緯を見守っている。ここら辺も人形のいいところだよな、何度も思ってしまうが切り替えが早い。

 

 さて、それじゃ用件を聞こうかね。今回は一体どんな無茶振りがやってくることやら。頼むからS02地区みたいなどっかの誰かがヘマした尻拭いなんてのは勘弁してくれよ。胃に悪い。

 

 

 

 

 

 

『UMP45がグリフィンから離反した。任務内容は残存する404小隊の救出と、UMP45の捕獲だ。後者は任務の遂行が困難であれば破壊も許可する』

 

 マジで言ってんの?




おじさんはびっくりするのが仕事。
だって驚いてくれないと話が進まないから。


もうちょっとだけ続くんじゃよ。
今後ものんべんだらりとお付き合いください。

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