戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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年末休暇を利用し最新話を投稿することが出来るッ
AR小隊と404小隊の絡みは多数の作者様が描かれておりますが、こちらはこちらなりのお付き合いを描いていければと考えております。


05 -ハートブレイクコミュニケーション-

「UMP45が着任しました。指揮官、仲良くやりましょう?」

「HK416です。ちゃんと私の名前、覚えてくださいね」

「G11……です。指揮官、お布団どこ……?」

 

 うわ、マジで来た。マジで来やがったよ残りの3人。本家UMPとアサルトライフル二人かぁ。しっかしG11ってお前またスゴイもの扱ってんな。確かケースレス弾だったか? アレを前提とした自律人形ってI.O.P社にニッチな趣味を持った開発者でも居るのか。普通にもっと他に扱いやすいやつあるだろ。

 ナインから情報を受け取った翌日。きっちり3人が雁首揃えてうちの支部の司令室にその足を運んでいた。ちなみにUMP9のことは今後ナインと呼ぶことにした。皆がそうやって呼んでいるということが一つ、もう一つが俺の愛銃であるUMP9と差別化するためだ。まず有り得ないシチュエーションではあるが、誰かにUMP9持ってきてくれ、と依頼したらナインが運ばれてきた、とかいう馬鹿げた事態は御免被りたい。

 今、司令室には昨日と同様、うちに所属する戦術人形全員を呼んでいる。こうなりゃ1人も4人も一緒だ、全員顔合わせしてしまった方が都合がいいしな。AR小隊も話を聞く限り404小隊全員と面識を持っているようだから、最初に全員会わせておいた方が楽だろう。誰が来てて誰が来てないとか部隊員の間で情報の差異が起きる事態も避けたい。

 

 あと、クルーガーのヒゲを毟るのは勘弁してやることにした。

 昨日ナインから話を聞いた直後、即コールしてクルーガーに繋げてやったんだが、あいつ曲がりなりにも軍部で一定の地位を持っていた俺のことをナメてやがった。あのヒゲのことだ、決してドロップアウトした訳じゃないだろうが、早々に軍部を去ったお前と違ってこっちはそれなりに修羅場も潜って生き延びてきたんだよ。会社と軍じゃ勝手も違うだろうが、同じ「組織」であることに違いはあるまい。お前は使用者側に回ったから分からんだろうが、俺はずっと使われる側でそれなりに上手く回してきたんだ。

 どういうことかと言えば、クルーガーはグリフィンにとっての最高戦力であるAR小隊と、グリフィンの暗部の一端を担う404小隊、この二つを暫定的とは言え俺の指揮下に置いてしまった。それは俺への信用もあったのだろうが、ここで大事なのは彼女らは俺の同僚ではなく、あくまで指揮下にある部下だということだ。無論、俺としてもAR小隊や404小隊に無理難題を押し付けるつもりはないが、悪いが遠慮なく利用はさせてもらう。

 

 と、言うことで。恐らく一週間もしないうちに、うちの支部宛で大きな荷物が届く手筈となりました。やったね。

 届かなかったらどうなるかって? 何、AR小隊にちょっとした長期休暇に出てもらうだけだ。あいつらは戦術人形であり正確には「労働者」としてカウントされないため、G&Kとの労働契約自体が成立していない。つまり今は俺の管理下にある備品と同じ扱い、という見方も強引だが出来る。この支部には戦術指揮官が俺しか居ないわけだから、俺が持ってる備品を俺がどうしようともそれは俺の勝手ですよね。社長にとやかく言われる筋合いないですもんねって話だ。備品を壊したりするわけじゃないから、別にコストが掛かる訳でもない。そもそも支部の財政状況も鑑みて俺とカリーナでやっているわけだから、そこはオールグリーンだ。

 まあ、当然それだけじゃカードとして弱い。グリフィンぶっちぎりの最大戦力を遊ばせていては、ここら一帯の継続的支配も難しくなる。そうなってくるとAR小隊を欠いた現存の戦力では支配地域の拡大どころか維持も難しくなるだろう。で、そうなれば俺の立場もそうだが、何より生命が危ない。俺だって死にたがりじゃない。兵士は時に死ぬことも仕事のうちだが、無駄死になど以ての外だ。

 だがしかし、俺が再度命の危機に瀕したとして、じゃあAR小隊が黙っているかと問われれば否だ。備品が謀反を起こすなど聞いたことも無いが、事実あいつらの比重はグリフィンよりも俺に傾いている。そうでなければ、独断で任務を放棄してまであんな大ポカを犯すわけが無い。今までは指揮官を切ったり貼ったりしてきたんだろうが、俺相手に同じ戦法が通じると思わないことだな、ベレゾヴィッチ・クルーガー社長?

 

 思いっきり部下を利用しまくった姑息なロジックだが、悪いが卑怯なんて言葉はずっと昔に戦場へ放り捨ててきた身だ。クルーガーも大概なキレ者なのは認めるが、俺に限らず常に使われる側で頭を回し続けてきた連中っていうのは、思い切りの良さと割り切りの早さが半端じゃない。長期的なスパンで見た事運びの上手さではアイツに軍配が挙がるだろうが、発想と行動の瞬発力では負ける気がしない。あいつが現場を離れてそれなりに長い期間が経ってしまった弊害だろうな。

 

 ちなみに、最近は俺がクルーガーの毛を毟るんじゃなくて、アイツをストレスで禿げ上がらせる戦術に重きを置いている。この地域一帯の支配とAR小隊周りの事情もあるから、あいつはあいつで容易に俺を切り捨てることが出来ない。俺は俺で、なんだかんだG&Kを離れたら全てが無くなってしまう為に容易に抜け出すことが出来ない。これはお互いの精神を賭けたデスレースだ。最初に俺を巻き込んだのはそっちだからな、地獄まで付き合ってもらうぜ。

 

 

 さて、そんな回顧も程ほどにしてと。先ずは新しく着任した3人の戦術人形に挨拶を返そう。

 UMP45だが、やはり同一系統の銃だと戦術人形の見た目も似るのか、ナインとよく似ている。髪色や体型、目の傷なんかは違うので見間違えることは流石に無さそうだが、こんなに似ているってのも初めて見たな。M4A1とM16A1なども似てはいるが、流石にこのレベルではない。

 しかし、パッと見ての第一印象のみではあるが、性格面では大分ナインと差があるように感じる。何と言うか、笑顔は笑顔なんだがその裏が垣間見える感じだな。落ち着いているとも取れるし、何か企んでいるとも取れる。まぁ、そこらへんの詳細はこれから見極めていけばよかろう。

 HK416は、何と言うかちょっと取っ付き難いイメージがあるなあ。周囲と距離を置きたがる性格なんだろうか。とんでもないミニスカートを除けば服装も真面目一辺倒といった感じだ。しかし、416かぁ。銃の来歴だけを見れば、AR小隊の連中とあまり相性は良く無さそうに見えるが、さてどうなることやら。

 G11は立ったまま寝るな。起きろ。

 

「全員で顔を合わせるのは随分と久しぶりじゃないか? ま、よろしく頼むよ」

「ふん、誰がアンタなんかと」

 

 ワァー。いきなり悪い方向に予想が当たってしまったぞ。

 過去にも色々あったんだろうが、とりあえず水に流して大人な挨拶を投げ掛けたM16だが、それに対しての416の第一声がこれである。お前ら仲良くしろとは言わないが、ちょっと取り繕うとか上辺だけでも何とかならんのか。特に416、あまりにも露骨過ぎる。見てみろ、事情を知らない他の人形たちが固まってるぞ。どうすんだよこの空気。

 

「まぁまぁ、416。指揮官も居ることだし、ね?」

 

 この空気を打開せんと、UMP45がすかさずフォローを投げる。うーん、ナイス。俺はAR小隊と404小隊の確執までは知らない。AR小隊はともかく、404小隊の連中とは関係値もほとんど築けていない。そんな完全に第三者の俺が声を掛けたとしても状況の打破は難しかったところで、間髪入れず動いてくれたところは評価したい。真っ先に抑えに入ったところといい、性格といい、恐らくこの子が404小隊のまとめ役かな。だとしたら色々と話が早そうで助かるんだが。

 

 とりあえず一旦空気も収まったところで、俺には今回一つやりたいことがあるためにその説明をしたいと思う。それはずばり、彼女たちの現状把握だ。I.O.P社から送られてくる新規の人形は全員最適化が進んでいないためその力を見るまでも無いのだが、404小隊は事情が違う。先だってナインに関しては最適化工程のチェックを行っているが、他の3人に関しては完全に初見だ。ナインも含め、現段階でどれくらい出来るのかを一度見させて頂きたい。その内容によっては別途訓練スケジュールを組み立てる必要もあるだろうし、今でこそこんな足だが、俺の経験が役に立つかもしれない。特殊部隊ということは、今まで声には出せないような任務にも就いたことがあるのだろう。深くは聞かないが、俺の指揮下となった以上、分不相応な負荷は掛けたくないからな。

 

「結構よ。私たちは今まで私たちだけでやってきた。それに失礼を承知で言うけれど、そんな状態の指揮官に教えを乞うほど弱くは無いの。私は完璧だもの」

 

 ヒュウ、辛辣ゥ。まあ、それを言われれば俺も強くは言えないところが痛いな。しかし、私は完璧と来たか。これ完全に勝手な憶測なんだけど、お前からAR-15と同じ匂いを感じるんだが。どうか気のせいであってほしい。

 

 

 

 

「おい。その無駄によく回る口を今すぐ閉じろ。死にたくないならな」

 

 んんん? あれぇ? なんでそっちに火がつくのかなぁ? おじさん分かんないぞ?

 416の言葉に更に上乗せしやがったのは、あろうことか先程まで仲良くやろうと精一杯頑張っていたはずのM16A1だった。おいおいおいやめろ馬鹿。直接の原因は416だがわざわざ火に油を注いでどうする。M4、こういう時はお前が止めないとってお前もかい! 何でお前そんな目が据わってんの。いつもの弱気はどうした、怖いわ。あー、AR-15……もダメだな。何がお前らをそんなに焚き付けてうわSOPMODⅡ怖ッ! 顔怖ッ! お前から表情を取り除いたらそんな顔になるんだな! 俺初めて知ったわ! 完全にキリングマシーンみたいな顔付きやんけ!

 

「あら、何かお気に召さなかった? 片足を失うような指揮官に教わることは何も無い、と言っただけだけれど。それに貴方も貴方ね、修復不可能な程の深手を頭部に負うなんて。エリートが聞いて呆れるわ」

 

 おーおーおーおーおー煽りよるわこいつ。恐らくM16A1の眼帯を見ての発言だろうが、それには色々と、それはもう本当に色々とヤヤコシイ事情があるんだが、それを言えないのがつらい。何せ俺は戦場で片足を失った元傭兵の新人指揮官である。AR小隊は何故か俺によくしてくれているが、その事情までは分からんただのおじさんなのだ。これはキツい。何も言えないぞ俺。ついでに、捉え方次第では上官への侮辱という点も無くは無さそうだが、言い方はともかく言われている内容自体は事実なので俺的にはノーカン。多分俺だって初対面の片足びっこ上官にいきなり鍛え上げてやるぜなんて言われたら何言ってんだこいつってなると思う。

 

「きょ……キルハウスの使用許可を貰いたい、いいだろう指揮官? 何、ちゃんとペイント弾を使うさ。404小隊のエリートサマを壊してしまっては指揮官の面目も立たないだろうしな」

 

 あっぶねえなお前、今一番ヒヤッとしたわ俺。危うくとんでもないワードが飛び出しかけたM16A1だが、何とか持ち直したようだ。しかし普段、本当の意味で冷静さを一番保っているはずのM16が真っ先に燃え上がるとは完全に予想外だ。こいつら過去に何があったんだ。

 

「心配するな、ちゃんと一対一でやってやるさ。ダミーを使うまでもない。ああ、使いたいならそっちはダミーを出しても構わないぞ?」

「……ッ! 上等よ、完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ……ッ!!」

 

 だからお前も煽るのをやめろ! もーどうすんだこれ! 収拾つかねーぞこれ! ここまでヒートアップしてしまった以上、キルハウスは使えません、なんて口が裂けても言えそうにない。別に指揮官権限で強制的に止めさせてもいいんだが、そうしてしまうとこの燻りが何時までも残り続けてしまう。仲良くやる必要は何処にもないが、最低限の連携や意思疎通が取れなくなるのは軍事企業としては非常にマズい。ガス抜きって訳じゃないが、目に見える確執は見えているうちに出来る限り解消させておくべきだ。

 というかやっぱり416が心配なんだが、大丈夫だろうか。ナインの最適化工程が30%ちょいだから、恐らく他の3人もそこから大きくは外れないだろう。突出した個というのは単独で動く分には強いが、チームを組むとなると逆に厄介だ。上も下も同程度のレベルで組むのが一番成果が出る。それに、404小隊としてずっと私たちでやってきた、と416自身が言っていたから、この組み合わせが変わることもなかっただろう。つまり、416も最適化工程の予測で言えば30%前後で収まっていないとおかしい。

 対してM16A1は最適化工程が90%を超えている。他のAR小隊の3人もだ。紛うことなきグリフィンのエースとして、どこに出しても恥ずかしくない実力と実績を持っている。更にこいつらは俺の入れ知恵もあって、特に狭い範囲での少数戦での引き出しの数が尋常じゃなく多い。セオリーから型破りまで、あらゆる戦術を俺自身が叩き込んだやつらだ。

 

 どうしたものかとさり気なく目配せすれば、そこでかち合ったのはUMP45の双瞳。その笑顔は崩れないままだが、俺と視線が合った瞬間、小さく肩を竦ませていた。どうやらこいつもこれ以上止める気はないらしい。

 うーむ、まぁやらせろってことなんだろう。というかどちらにせよ、ここで止めるという選択肢は無い。止めるメリットの方が薄いからな、一度ぶつからせた方がいいだろう。その方が俺の話も聞いてくれそうだし。

 

 しぶしぶ、といった体で俺はキルハウスの使用許可を出す。使うのはペイント弾のみ、投擲武器や補助兵装は一切禁止、またお互いダミーの使用も禁止する。決着はお互いが望む形でつけてもらって構わないが、施設の使用時間は最大1時間。それ以上は通常業務に差し支えが出る可能性があるため不可。尚、責任者として俺は見学を行う。また、人形の中に希望者が居るならそいつらも見学して構わない。ただし当然だが、お互いへの加勢、アドバイスなどは一切禁止とする。

 以上が守れないなら、お互い頭を冷やすため営倉にぶち込ませてもらう。

 

「私はそれで構わないぜ」

「私もよ」

 

 ルールとしてはこんなところか。一応見学者を募ってみたが、手が挙がったのはAR小隊の3人、UMP45とナイン、それにスコーピオン。スコーピオンは確かにこういうお祭りごと好きそうだもんなあ。ここら辺性格が出るのかもしれない。あとG11は寝るな。起きろ。

 M1911とM14はすまないが、G11を空いてる宿舎に案内してやってくれ。起きないなら引っ張っても構わん、俺が許可する。

 

 さて、それじゃ話もまとまったことだしキルハウスに移動しますかね。しかし俺自身がキルハウスに赴くのは随分と久しぶりな気がするなぁ。この足じゃ行く必要全く無いからな。そういや416は勿論だが、M16A1の訓練での動きってのも随分と見ていない。どんな動きをしてくれるのかちょっと楽しみだ。

 

 

 

「んふふー、随分と罪作りなオジサマなのね、指揮官?」

 

 移動中さり気なく俺の隣を陣取り、そう呟くのはUMP45だった。

 何のことやら。俺はしがない元傭兵であり、現指揮官であり、中身は片足を失ったただのおじさんである。見目麗しい女の子たちに言い寄られるような魅力も何も持ち合わせていないんだがなあ。言葉には出さず、先程のお返しとばかりにポーカーフェイスのまま肩を竦めてみれば、返ってくるのは何かを含んだ微笑のみ。

 

 416やG11はまだ分からないが、どうやらUMP姉妹とはそこそこ上手くやれそうな気がする。少なくとも、退屈はしなさそうだ。でも刺激だけだと身が持たなさそうだから癒しも欲しい。

 

 そういえば俺の福利厚生ってどうなってんの? えっ? 無い? そんなぁ。




G11を抱き枕にして一緒にお布団で眠り続けたい

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