ヨナ大尉   作:柿の種至上主義

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やっとこさ終わりましたオケ編。

エタっててすみませんでした。

今後、時間を見つけて執筆を続けていきます。
亀更新というかナメクジ更新というか、遅くなると思いますがもし読んでくだされば嬉しい限りです。


レクイエム

「あの可愛い子が死ぬのは残念だけど、お仲間もたくさんいるから寂しくないよ」

 

「エンジンを狙え!車を止めるんだ!」

 

「わかってるよ!!オラァ!!」

 

「アンサンブルだぜえ!!」

 

増援として車両に乗って駆けつけてきたウゴ、マオ、アールたちの奮闘むなしく、殺し屋”オーケストラ”の乗る車体側面からベルトリンクに繋がれていた12.7x99mm NATOが発射され、M2重機関銃の圧倒的暴威がココ・ヘクマティアルを護衛するヨナたちに襲い掛かった。

 

「えっ!ちょ、ヨナ!?」

 

敵の攻撃を止められないと判断した瞬間、ヨナは手を引いて走っていたココの腰を抱き寄せ、自身の右側の海に向かって緊急回避をした(飛んだ)。視界が斜めに傾く常人なら刹那に感じる時間の中で、彼は愛用の銃で最後の試みを行う。

 運転手が見えない加工が施されてはいるが日本以外のほとんどは運転は左座席だ。確認した女の背丈からおおよその急所を定め彼はその引き金を引く。発砲の衝撃を肉体と技術で殺し、狙った場所に寸分たがわず着弾した.50AE弾であったが、フロントの特殊強化ガラスに阻まれ標的を貫くことはなかった。動揺して運転が鈍れば御の字だったが、それも叶わなかったと見える。

 

 発砲を終えた愛用のデザートイーグル.50AE 10インチバレルを上着で隠した腰のホルスターに戻しながらそんなことを考えるヨナの思考には、駆けつけてきた仲間たちのことは欠片も存在していなかった。殺し殺され、死んだり死なせたりする世界に生きていることは今も前も変わりないと考え、ただ仲間たちが殺されて死ぬ瞬間がやって来た。それだけであり、それ以上でもそれ以下でもありはしない。

 

彼は自身が死ぬ直前であろうと恐怖しない。それまでの闘争を思い起こし満足するか、まだ足りぬと渇望するかのどちらかでしかない。死を恐れず、ただ死ぬ時間が来ただけだと考えるのだ。

 

一般からすれば薄情とも冷血とも狂っているとも捉えられる価値観で生きる彼は、この状況をこの後どう切り抜けるかのみを考えていた。

 

 

 

 だが彼の予想に反して、車両に乗って駆けつけてきた仲間たちはその車両がそのまま鉄の棺桶になることはなかった。ウゴの卓越したドライブテクニックによって車両は海岸沿いの車止めのポールを支えに倒立し、M2重機関銃の死の嵐をやり過ごした。

 

 ウゴの熟練のテクニックも、それを信頼した同乗者も称賛に値するものである。

 

 そんなことをヨナはココを抱きかかえながら海に落ちることなく考えていた。

 

 

 彼は今、左腕でココを抱きかかえ反対の右腕のみで海岸のふちを掴むことで着衣ダイビングを免れていた。自身の体重+成人女性(ココ)の体重を片手のみで支えることができているのは、偏に彼の異常なまでに練り上げられた身体能力ゆえだろう。彼が掴んでいる箇所に亀裂が入っていることがその何よりの証拠だ。

 

 そんな彼に抱きかかえられているココ・ヘクマティアルはというと、

「へえ、やっぱり予想はしてたけどすんごい筋肉。普段肌があんまし出ない服ばっかりだから分かりづらいし、ヨナは着痩せするんだね。うわあ」

 

 ここぞとばかりに腰に回されている腕やら腹筋、胸板などを指でつついたり撫でたりしていた。

 

 この部下にしてこのリーダー。どちらもマイペースというかゴーイングマイウェイだった。

 

 

 今は襲撃を受けている真っ最中なのだが。それにおっかなびっくりという感じでついたり撫でたりして、妙にくすぐったいから止めてほしい。

 

 ヨナはそんな思いをこめてココに視線を送れば、彼女は意図を理解し笑みを浮かべた。

 

 

「そりゃあヨナは普段あんまりスキンシップを取らせてくれないからね。いつものらりくらり躱す君の責任さ。それにだね、この程度の襲撃なんて’ああ、またか’って感じなのさ。」

 

彼女はヨナに嗤いかけ、碧眼の底のにじみ出た黒を見せるように顔を近づける。

 

 

「初めて銃を構えた素人、熟練の軍人、凄腕の殺し屋、etc.どんな人間が撃つ弾丸だって、どれだけ善行を積みいるかも怪しい神に祈ったところで当たる時は当たって死ぬ。逆に当たらない時は、当たりにいっても当たらないものなんだよ。まあこんなのは君の方がよ~く知ってるだろうけどね♬」

 

 

「まして私は世界を渡り、武器を売り捌く武器商人。

 

 

――――商品にビビっているようではお話にならない。そういうものでしょ?」

 

 そう言って胸板に顔をうずめご満悦といった表情をうかべるココの死角で、彼もまた誰にも知られることなく口角を上げ嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ルツのBLASER R93のボルトアクションの動作音と、排出された空薬莢が床で弾む音があたりに響く。

 

「ハートショット――――ヒット」

 

その隣で観測手をやっているワイリの声もまた、標的より900メートル離れたビルの屋上という高所にありながらもほとんど風が吹いていないためインカム越しでもルツにはしっかりと届いていた。

 

「崩れ落ちる。膝で一瞬止まる。ヘッドショット、エイム――――――ファイア」

 

 

 

「ヘッドショット――――ヒット」

 

 

 

ルツは第二射の手ごたえを十分に感じつつも、次に備えた上で覗いたスコープの先で起こったこととワイリの報告に思わず声を出した。

 

「どういうことだ?」

 

 

ワイリの観測通りなら後ろに倒れ込むはずの目標が横に倒れたのだ。

 

 

使用した.338ラプア・マグナム弾の威力は充分。人体の急所である心臓と頭にこれを叩き込まれたらどんな野郎でも即死は絶対。かと言ってワイリが観測をミスるはずもない。

そんな思考が頭の中で回っていたルツはレームから通信で我に返る。

 

『お前さんの狙撃に問題はねえよ。おっかねえあの少年兵くんの仕業さ。狙撃直後に心臓と頭にほぼ同時に弾ぶち込みやがったんだよ。随分と用心深いねえ、ありゃあ』

 

 

いやあ、怖いねえなどと軽口をはさむレームとは別に、スコープの先に見える目標と道路や壁に広範囲で飛び散っている赤にルツは少しだけ恐怖した。目標を殺したことではない。膨大な血にでもない。同僚であり仲間であり後輩でもあるはずのヨナの行動に言いようもない恐怖を感じてしまっていたのだ。

 

 

「・・・はは、あいつゾンビでも相手にしてるつもりかっての」

 

自分で言ってて苦し紛れだと感じられるジョークが突風で誤魔化されたのに彼は少しだけ安堵した。

 

 

騒動の後、事後処理に動いたドバイ警察の調書によれば回収された死体の頭部は身元の確認が不可能なほど破壊されており、辛うじて残っていた下顎と歯から何とか身元を割り出したとのことであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

アラブ首長国連邦 ドバイ警察署

 

「いや~ありがとうございます服にシャワーまで。あの格好じゃ体調を崩しかねなかった。」

 

「私は頭痛がしてきているよ。Ms.ヘクマティアル」

 

「それは大変ですね!体調にはくれぐれもご注意を!」

 

’殺し屋 オーケストラ’に襲撃され、これを撃退したココは一人、ドバイ警察署にて署長と会話をしていた。襲撃時とは着ている服は異なり、先程までの服は彼女の隣に海水まみれで袋に入れられていた。

 

ヨナに抱きかかえられたことでダイビングを免れたはずの彼女がなぜ着替える羽目になったかというと・・

 

(全く、あのCIAには困ったもんだ。よりにもよって私のヨナに喧嘩売るんだもん)

 

 思い返すのはチナツと呼ばれていた女を取り逃がした直後に、警察と同タイミングで来たあのCIA局員。ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべて車から出てきたあの”スケアクロウ”と呼ばれる男の第一印象は決して良くなかった。

 

「よお、無駄な抵抗すんなよ。ココ・ヘクマティアル、現行犯逮捕させてもらいますよ。」

 

「なんの現行犯逮捕」

 

「極悪犯罪その他いろいろ。銃撃戦は初っ端から見てたっつうの」

 

 

 こちらを明らかに下に見ていたのは明らかで、下に見ていたからこそ余計にヨナの目つきが気に食わなかったのだろう。かつて人狼であった頃と大差ないと本人が考えているその目元は、人によっては冷たく鋭いと感じさせるものであった。

 

 僅かに青筋を浮かべながらスケアクロウはヨナに突っかかっていく。大人が年端もいかない少年にチンピラの如く威圧するその構図は傍から見ればあまりに大人げない。

 

 

「あん?なんだその目つきは。変な気起こすんじゃねえって言っただろうが」

 

 

 だが、その突っかかられている少年の正体を知る者からすればあまりに滑稽な図へと早変わりする。

 

「その目つきは何だって言ってるんだよ、この餓鬼っ!」

 

 変わらない態度と目つきにイラついて、後ろの海に叩き落そうと足を出したのが運の尽きだった。

 

 

「へ?」

 

 

 彼は、自分の頭を蹴ろうとした右足を顔を傾けるという最小限の回避でやり過ごし、伸びた足を背負い投げの要領で大人一人を軽々と海に投げ飛ばしたのだ。

 

 

 

 その後の水しぶきを被ったのは最悪だけど、あの男の間抜けな顔は見物だった。

 

 

 そんな風に思い出しまた笑いそうになるのを堪えながらドバイ警察署長と会話をするココであった。なお、スケアクロウはずぶ濡れの状態のままで取り調べ室に叩き込まれたそうな

 

 

 

 

 諸々の騒動を終え、警察署の入り口で動けないでいたココ・ヘクマティアルの傍に音もなく現れる小さな影があった。先刻CIA工作担当員”スケアクロウ”を海へ強制着衣水泳(ダイナミックエントリー)させた元人狼のヨナである。

 

 

「っ!なんだヨナか~あんまし驚かせないでよ。ビックリしちゃったじゃないか」

 

ヨナを確認し、それまでの恐怖を紛らわすように彼にしなだれかかったココは、何も追求せずただ自分を受け止めてくれた存在に頬を緩ませつつ疑問を投げかけた。

 

「警察署長から”あなたの私兵はホテルに拘束させてもらったよ”なんて言われたんだけど、ヨナはどうやってここまで来たんだい?警官どもにゾロゾロと取り囲まれてるもんだと思ったんだが」

 

 

 

 今回の騒動からして、あの警察署長は確実にココの私兵を拘束しておかないと今後の面子に関わってくるのは確実であり、ある意味VIPレベルの警備が敷かれているとココは読んでいた。あのセリフが口だけのでまかせな感じではないとココは経験から判断していたが、だがその場合ここにヨナがいることと矛盾してくる。

 

 

  部屋とホテルの出入り口にしか見張りがいなかったから外壁を使った。

 

 

 まるで何でもないかの様に答えたヨナに、ココはまたしても驚かされた。

 

「いやはや、ヨナ隊員の出鱈目っぷりには驚かされてばかりだね。まあトム・クルーズやジャッキー・チェン顔負けのスタントすれば誰だって驚くだろうけどさ・・」

 

 ホテル外壁のわずかなとっかかりに指をかけ、握力のみで全体重を支え高所の強烈な風すらものともせずに高層ビルを降りていく映画でしか見ないような動きをするヨナの姿をなぜか容易に想像できたココは、もはや一周回って呆れていた。

 

「まいいや。さあみんなのとこに帰るぞ~!ほれほれ急げ~!」

 

「ヨナ隊員はとびきり優秀であ~る!!」

 

 

 

 

◆◆◆

”殺し屋 オーケストラ”襲撃から三日後 

 

ココ・ヘクマティアル一行宿泊ホテル屋上

 

 

 先の襲撃で生き残り、自身の師匠の仇を討たんとしていたチナツは標的から怨敵へとなったココ・ヘクマティアルと問答を繰り広げていた。

 

 年若い女性二人の会話する光景は、閑散とし強風吹き荒れるホテルの屋上には致命的に不自然なはずなのに、あるべき違和感は存在せずむしろ相応しいかのようにすら感じられる。

 

 それは会話する二人の性質ゆえか・・・

 

 

 

 

武器()を売り誰かの死()で生き、■■■■を成さんと突き進む矛盾を抱えた者(武器商人)ココ・ヘクマティアル

 

 

肉親の仇()を慕い、人生を滅茶苦茶にした者(生き抜く術を教えた者)を恨んでいた殺し屋チナツ

 

 

 

 だが似ている者ほど、その歩む道は交わることがないのが世の常。

 

 

我ら(・・)”オーケストラ”は死の音楽を標的に叩き込む音楽家(アーティスト)だ!見損なうな武器商人。我々(・・)は何者の下にもつかない!!」

 

 

 ココ・ヘクマティアルの勧誘(チャンス)をけり自身への誓いの如き叫びと共に取り出した拳銃は、その役目を果たすことなく蹴り飛ばされ(・・・・・・)、尋常でない衝撃でバラバラになったそれは夜の街の光の中へ落ちて見えなくなった。

 

 仕事仲間候補から敵へと変化し主人に危害を加えようとした存在を前に、かつて人狼だった者が容赦や手心を加えるはずもなく、その強靭な脚から放たれた蹴りはチナツの腕もまた粉砕していた。

 

 この瞬間まで一切気配をさとらせずかつ一瞬で迎撃してきたヨナに驚く間もその痛みに叫ぶ暇すらなく、彼女はレームの狙撃によって臓腑を撃ち抜かれ膝をついた。

 

 

 

 

 一切の容赦も躊躇いもなく迎撃したヨナであったが、瀕死のチナツを前にほんの僅かではあったが彼女が逝くことを残念に感じていた。彼女の性質もまたどこか破綻していた。彼女の歩む道にも、果てなき戦場といつか必ず訪れるであろう死を追い求めた一匹の人狼は興味をもっていた。

 

 もしココ・ヘクマティアルに出会うことがなければ、三日前のショッピングモールのようにどこかで誘われ共に肩を並べていた未来があったかもしれない。そんな風に頭の片隅で思う程度には”オーケストラ”を、特にこの女を気に入っていたのかもしれないとヨナは思っていた。

 

 

「・・・・ば・・け・・・もの・・・・・」

 

 

 目の前で冷たくなっていく女は、今わの際にそう呟き両目から一粒の水を流し事切れた。

 

 

 もはや二度と輝くことのないその眼には、己と己が主の二人が映っている。

 

 

 

 

この女は、最期にどんな化け物(フリークス)を見たのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




評価と感想、募集してますので良ければお願いしますね。

作者のモチベが上がる(確定

なお、時間があるかは未定なのである(殴
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