ヨナ大尉   作:柿の種至上主義

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仕事

東欧某国

 

運命なのか、はたまた存在も怪しい神による悪戯か、自身の幼少に非常に類似した少年兵の体になることで生きながらえた大尉は、”ココ・ヘクマティアル”と名乗る若い武器商人(ウェポンディーラー)の私兵となっていた。

 

「キリキリ歩こうヨナ隊員!ほれワンツー、ワンツー!」

 

己の新しいリーダーは、かつて戦った吸血鬼たちの女主人とそう大差ない年齢の若い女だった。

 

「私の八人の部下が、ちょうど此処に集まっている。君を入れて九人だ。」

 

尋ねてもいないことをしゃべっているが、大したことでもないので適当に聞き流す。重要なのは、その八人が使えるのか否か、敵は誰で何時戦うのか、この二点に尽きる。やはりどこまでいっても己は闘争のことばかりだと、珍しく自嘲的な考えがよぎった。

 

貸し切りのフロアの長い通路を歩いてゆくと、ある部屋のドアに二人組の男がいた。あれがこの女の言っていた部下の内の誰かなのだろう。少数精鋭と自慢するだけあって中々の練度なのはすぐにわかった。自然体を装いつつも周囲への警戒は怠っておらず、ポケットのハンドガンも上手く隠している。こちらに気づかれないよう注意しつつも武装の有無を確認し、先程手渡されたハンドガンを見てからの切り替えのはやさ、相当の経験を積んだ兵士だ。戦えばさぞ楽しい殺し合いができることだろう。他の部下にも大いに期待できそうだ。だが、警戒心を相手に気取られる点から見ればまだ甘い。

 

「みんな注目!!彼がヨナだよ」

 

部下の男たちに意識を向けていたら、女は部屋に入って勝手にこちらを紹介しているようだった。しかし、馴れ合うつもりは今のところ皆無である。

 

だが、どの人間も先の二人と同等かそれ以上、期待を裏切るような雑魚は誰もいなかった。それどころか、ドア近くの壮年の白人の男は頭一つ抜けている。実力に関しては申し分ない、足手まといはこちらから願い下げだったのだから。

 

「おいおいココ、お前さんの言ってた新入りが少年兵なことには別にとやかくいうつもりはない。どうせ今に始まったことでもないしな。だが、その新人君がしゃべれねぇってことは見逃せねぇな。話にならねぇ。連携に支障が出るような奴はチームに必要ねぇ。これは俺個人の意見であり、あんたを護衛する民間軍事会社(PMC)のトップとしての意見だ」

 

やはりというべきか、反対する者がでてきた。この体になってからも、その前の組織でも、加入時に当たり前のように起こった諍いだ。集団である以上、個々の連携は必須である中でコミュニケーションの手段が常人より限られる己を好まない者は存在し、排斥しようとしてくる。既視感すら覚えてきた。

 

一方で、この諍いの結論となるのは、

「ではレーム隊長、私が彼をチームにぜひ加えたい。これは私自身の意見であり、民間軍事会社(PMC)

オーナーとしての意見である。異論はあるかい?」

 

こうした上の人間の一声で終わるということ。組織である以上、上からの命令は絶対であり、嫌なら組織を抜ける。それだけなのだ。事実、先に折れたのはレームと呼ばれた男のほうだった。

 

 

話が済んだのなら、自分は何をすればいいのか、とハンドサインで伝える。コミュニケーションの手段は一つではないのだ。紙とペンがあれば筆談も可能といえば可能である。

 

「このように、別に会話が成立しないわけではないのだから問題なし!この話はおしまい!トージョ、彼にもわかるよう現状の説明」

 

こちらから話しかけたのがお気に召したようだが、それよりも仕事の時間だ。戦闘だ。戦いだ。

自然と口角が上がるのを感じていた。

 

 

 

「で、どうよバルメあのヨナっていう子」

 

「どうよと言われても、まだ全く会話してないので何も言えません。ただ気配の鋭さは尋常じゃないですね。っ!ココが危険です!あんなヤバ気な少年兵と二人きりなんて!新人が来るといつもこんな感じです。ココが張り切り過ぎて・・・ココに何かあれば、彼をバラして私も死にます」

 

 

 

 

「――――――いや、そりゃ無理な話だぜバルメ」

 

 

 

 

 

 

「・・・どういうことか説明してください、レーム」

 

後部座席に座る、右目に付けた医療用眼帯が特徴的な女性であるバルメは、驚きと僅かな怒りを込めて運転席に座る壮年の白人の男であるレームを問い質した。

思えば、あの少年兵が来てからというものレームはどこか変だったのだ。ココが変わり者を連れてくるのは先にレーム自身が言ったように、珍しいことではない。事実、自分たちの隊は一癖も二癖もあるような個性的なメンバーで構成されている。自身もそれに含まれるかは置いておき、彼が誰かの入隊に反対するなんてことは今回が初めてだったのだ。

 

 

ハンドサインでのコミュニケーションに多少の問題はあれど、レームの反対する様子は、どうにか彼の入隊を阻みたかったようにもバルメには見えていた。

 

 

「だいたい正解。たしかに俺は、あの少年兵を入隊させたくなかった。まぁ結局ミスったがな」

 

「どうしてですか?まさか子どもだからなんて理由じゃありませんよね!」

 

 

バルメ自身、少年兵の存在は気持ちの良いものではないと考えているがそれとこれとはまた話が変わってくる。戦場に武器を手にして立ったなら子どもであろうと関係はない。躊躇すればこちらが殺される、だから殺される前に殺す。苦い思い出であるが自分が生きるため、隊の仲間を守るために子どもを殺したことが一度もないわけではないのだ。であるからこそ、レームの反対動機が信じられなかった。

 

 

「――――――そんなんじゃねぇよ。そんな腑抜けた理由じゃねぇ・・」

 

 

 

レームが見たのは隊の他の仲間たちが注目していた気配の鋭さでも、体さばきでも、服の下に垣間見える鍛えられた肉体でもなかった。彼が、彼だけが見つけ、恐怖を感じたのは

 

 

「―――――――――あいつの目だ」

 

 

 

 

 

「・・・目?それだけなんですか?ふざけているなら怒りますよレーム!」

 

「こちとらいたって真面目だ。あんな怖ぇ目は久々に見たぜ。まるで奈落の底みてぇな目を俺らの半分も生きてないような少年兵君がしてるんだぜ。久々にブルっちまったよ・・ありゃぁ化け物の類さ、ただ人の形をしているだけの、人の皮を被った化け物(フリークス)だ。あんなのと一緒になって戦う?冗談じゃねえ。だからこそ、ウチの隊に入れたくなかったんだがな・・」

 

 

今までの中でも見たことがないような真剣さで語るレームの話を聞き、思考が真っ白になりかけているバルメを周りの環境は置き去りにしていくかのように事態は急変していく。

 

 

レームとバルメの乗る車の数台分先を走る、ココと件の少年兵であるヨナの乗る車から小さな人影が飛び出し、横の車線を走る車に飛びついていったのだ。

 

「なっ!!??」

 

驚きで身を乗り出して確認しようとするバルメに対してレームは、諦めを孕んだような顔でこう締めくくった。

 

「バルメ、今後のウチは大いに荒れるぜ」

 

 

 

数秒もしないうちに人影が飛び移った車が爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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