ヨナ大尉   作:柿の種至上主義

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嬉しい限りです。

考えに考え抜いた結果、この方向でいきます。

お願いだから石を投げないでください。




期待

必要な情報を眼鏡を掛けた日本人の男から入手した後、半ば強引に二台の車に分かれて乗り込み、リーダーの女と自分、レームと呼ばれていた白人の男とバルメと呼ばれた眼帯の女の二班で目的地の港に向かっていた。

 

現在は高速道路で渋滞もなくスムーズに目的地に進行中。今のところ目立った動きはなし。出動などと言われ、もう一方の車には軽機関銃も積み込んでいたのだからさぞ良い戦闘だろうと期待していたのにかなり拍子抜けである。新しい組織での最初の仕事なのだからと派手なものも少しばかり用意したのだ。待たせている分張り合いのある敵が現れてほしい限りだ。このまま何もなしで目的地に到着なんてことがないように願いつつも、後部座席に座り手持ち無沙汰なため己の武器の軽いメンテナンスで暇をつぶす。

 

別に、運転ができないわけではない。以前の記憶も鮮明に残っており、様々な軍用車を運転してきた経験からも今更防弾などの加工が施されただけの一般車両の運転は問題ない。

 

ペダルに足が届きさえすれば運転など容易いのだ。

 

故に、現在の車内におけるポジションには何の問題も、ましておかしい点など存在しないのである。寧ろ、運転という作業に縛られたり行動への制限がない分メリットすらあるくらいなのだ。

 

彼が今の体になってから不便を感じたことは数えきれない程あり、先の車両運転の件も主な内の一つであった。そもそも、人狼であった頃の肉体とまだ成長段階の少年兵の体を比べること自体が間違っているとも言えるのだ。誰も蟻と恐竜を比べたりなどしない。比較対象が間違っているのだから。

 

唐突に武器の点検を終え、運転中のココにアクションを起こす。彼女は驚きつつも笑顔で彼に呼びかける。彼のほうから話しかけられるとは全く思ってもみなかったからだ。

 

「なになに?何でも聞いていいよ」

 

 

この部隊における斥候、敵偵察部隊の扱いについて。

 

 

彼は新しく所属した部隊に足並みを揃えようとしていた。いくら自身の戦闘経験が他人のソレの倍以上にあるとしても、己は新しく部隊へ入隊した新人。新人が部隊を乱すという致命的な行為など許されないのだと知っているから。自身の矜持よりも部隊を優先したのだ。

 

「ん?そんなことかい?それはもう先手必勝、一撃必殺!」

 

 

命令(オーダー)は理解した。敵撃滅に移行する。

 

 

それだけを残して彼はサンルーフであった車の天井を開けて車外へと跳躍した。

 

「ッ!?ヨナ!!??」

 

驚いたような声は無視し、横車線を走行していた車両のボンネットへの着地に成功する。

 

 

やはり車内が見えにくい加工が施されていささか見難いが中には武装して人間が乗っていた。ご丁寧にヘルメットまでかぶっている。これでは中を見られたら一発でばれるではないかと若干呆れてしまった。車内が見えにくいガラスだからといって視線を隠そうともしていなかった点といいお粗末にも程がある。現に今も呆然としておりどうぞ殺してくださいと言わんばかりの有様だ。

そう思いつつ彼は腰に装備した武器を取り出したのだった。

 

 

 

 

彼がボンネットの上で散々に酷評しているのは、現在ココの商品を港で止めている東欧某国の官僚の一人である内務次官が送り込んだ特殊部隊”ボスホート6”。軍部と内務省の対立故、軍部の監視などを目的として作られた内務省直属の特殊部隊である。創設直後であるはずもなく、これまでに数々の作戦を経験、成功させてきた彼らでも、高速道路で時速百キロを超えて走行する車両に飛び移ってくる者にはこれまで遭遇したことはなかった。さらに言うならば、先にヨナが酷評した視線についても彼らは油断などしていなかったのだ。それでも、数々の戦場を’大尉’として渡り歩いた経験を持つ彼の索敵の網からすればあまりにお粗末だっただけなのである。

 

 

想像だにしなかった事態に呆然とする状態から最初に戻ってきたのは助手席に座っていた隊員であった。目標の女武器商人の車両から飛び出してきた少年兵が、武器を取り出す動作から半ば反射的に足のホルスターから拳銃を抜き攻撃を行おうとしたが、その拳銃の照準は目標を捉えることなく下へと向けられ、一発の弾丸を吐き出して隊員の手から滑り落ちた。

圧倒的速度による早撃ちによって助手席の隊員の首から上がはじけたからである。

 

重い銃声とバラバラにはじけた同僚の血肉で状況を理解した運転席の隊員が見たのはボンネットの少年兵が両の手に持つ、太陽の光を反射して輝く銀の使い込まれたデザートイーグル.50AE 10インチバレルであった。

 

 

 

彼がなぜ長年愛用していたモーゼルM712を使用していないかの主な理由としては、先に本人が気にしていたように現在の少年兵の肉体によるところが大きい。

前の’大尉’だったころも、そして現在も、銃火器の類は大人が使用する規格で設計されている。そのため少年兵にAK-47をはじめとした自動小銃を持たせても大きすぎる故、安定した射撃を行うことは難しい。銃床が邪魔になってしまうのだから。対応策としては特注品を用意することであるが、ココも以前仕事をした彼の兄も、武器を売り捌く側であり作る側の人間ではない。今のところ、少年兵の体に合わせた特注品を作るような酔狂な武器職人には出会えずじまいなのだ。

もう一点は戦闘方法の変化が起因している。’大尉’だった頃の戦闘では人狼の特色を最大に活用した肉弾戦、接近戦が主でありモーゼルM712も牽制の意味が強く、遠距離攻撃も手近で硬質な物を投擲したほうが強かった。しかし現在では、人間では到達できない域の強靭な肉体も霧に身を転じることも巨狼になることも叶わない。彼は以前のように闘争の中で死ぬことを願ってはいるが、そこらにいる凡百の輩に命をくれてやる気はなかったのだ。だからこそ彼は銃にも実用性や継続戦闘性を求め、現在に至っているのである。銃火器に詳しくない者でも耳にしたことのある有名な高威力のハンドガン。およそ二キロの銃から放たれる.50AE弾は人間に容易く風穴をあけ、部位によっては粉砕する。それらに伴う重量や反動は鍛えぬいた肉体をもって黙らせたのだ。

 

 

高速走行中の車両の上という極めて不安定な場所にも関わらず、重量のあるデザートイーグル.50AEで容易く狙いを運転席に定めたヨナであったが、彼を振り落とそうと左右に車両を動かし始めたことで体の固定に意識を大きく割かなければならなくなった。以前の体であれば腕をボンネットに突き刺すことでの強引な固定も可能であっただろうが、今では握力をもっての固定がせいぜいであった。人体を容易く引き裂く極細の鋼線で縛られようが、体を貫かれようが何の問題もなかった前の体ならともかく、今のこの体ではこの速度で投げ出されるだけでただの肉の塊に早変わりしかねない。

 

面倒になった彼は左右への振りのタイミングを合わせて自身の乗っていた車両へと跳躍した。若干飛距離が足りなかったが、その瞬間置き土産として助手席側の穴から放り込んだIED(即席爆破装置)爆発。背中に爆風を受けることで難なく車に到達することができたのであった。

 

その後登場した新手も全てを後方で見ていたレームをして”他の何者にも真似できない芸当”と言わしめた型破りな手段で確実に撃滅していったのであった。

 

「そういう見てるこっちが心臓が止まるようなことはやる前に言ってくれないかな!!??」

 

新しいボスは可笑しなことを言う。予め言ったではないか、敵を撃滅してくると。

 

「それは前もって言ったとはいわないの!」

 

 

なお、レームたちを抑えていたバンは対抗心を燃やしたバルメによって車内は血に溢れたらしい。

質はともかく最初の仕事でこれだけの量と殺れたのは中々良かった。今後も期待できそうだ。

 

 

 

 

 

『尾行およびユレト港保税区画保安要員撤退』

 

『ボスホート6、総員撤退せよ。繰り返すボスホート6、撤退せよ』

 

 

「あんな化け物を飼っているなんて聞いてないぞクソッタレ」

「内務次官、官房監察委員会の方がお見えになっております」

「ああ分かってるよ。あんなのと殺り合うよりはマシだな」

 

 




というわけで、モーゼルM712ではありません。
ただ、登場しないとは言っていない(投げっぱ

軍用ジープ?ジャベリンATGM?
そもそも大尉が高速道路降りるまで生かしておくわけないでしょ

爆発は飛距離を伸ばすためのもの
某探偵映画でもよくあること

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