ヨナ大尉   作:柿の種至上主義

6 / 10
評価やお気に入り登録などしていただき、大変恐縮です。
前作品よりも圧倒的短期間でほぼ同じ
お気に入り登録者数とそれ以上の高評価に
ビビッてます。

大尉が人気なのか、ヨルムンガンドだからか、
どうなんでしょう・・・

とりあえずご期待に副えるよう頑張っていきます。

今回は短めです。すみません。


同業者

東欧某国、ロシア国境付近

 

空軍との取引も、一枚噛もうと横やりを入れてきた武器商人の始末も終え、先日戦闘と料理の二方面で部隊の面々を唸らせた’元大尉’であるヨナを含めたココ・ヘクマティアルが率いる一同は、先の武器商人の一件後に先行して次の街へと向かったというバルメとトージョと合流すべく次の取引の商品を載せたトラックと共に目的地に向かっていた。

 

トラックの荷台の上に座り通信機から聞こえるボスの苦情やそれに対する仲間の反応をBGMにヨナは空を見上げている。周りの代わり映えしない殺風景に飽き、流れる雲を見ながら取り留めもないことを考えつつも警戒に油断はない。

身を隠す遮蔽物もない開けた場においても警戒を怠らないのは、周りに溶け込むことが可能な吸血鬼(ノーライフキング)の影を知っているが故に。

 

空を見上げていた彼が唐突に自分たちが向かう前方に視線を変えた。それは前方に現れ、仲間たちが注意を向けているこの国の国境警備車両ではなくそのさらに先、彼が持つ常人よりも遙かに優れた嗅覚が捉えたのは風に乗って僅かに漂ってくる血と硝煙と焦げ臭いにおい。そして数え切れぬ戦場を駆け抜けてきた経験から感じ取った、肌がピリつくような戦場特有の風と肌触り。

 

――――――今回も楽しくなりそうだ

 

前方の装甲車両が地雷トラップにかかり吹き飛ぶ中、彼は人知れず口角を上げていた。

 

 

♦♦♦♦

戦闘が開始されたのがつい八時間前のことであり、目的はパイプラインの奪い合い。

先程までボスがイラついていた通信状況の悪さはこれが起因しており、GMS携帯電話基地、電話局、マイクロ波通信施設、etc.

通信に欠かせない施設を互いに破壊し破壊されを繰り返したのだろう。もはや完全な戦闘地帯と化している。この分だとそれを逆手に情報統制まで徹底して、戦闘の勝者がパイプラインの利権を握ろうとしているのだろう。

 

 

先程からボスと話しているポルックとかいう少佐も、それを狙っているようだ。昨日の夕飯の内容を語るかのように自身の上司をいなかったことにしている。奴自身は実戦に遭遇してブルッたキャリア組などとほざいていたが、大方戦闘直後の混乱に乗じて始末したんだろう。見かけによらず腹の中に一物抱えているようで中々見どころがありそうだ。戦闘の中では一般で言うところの良い奴や正直な奴から死んでいく。生き残るのは外道かこの男のような腹に一物抱えた奴であり、自分のところのボスは後者の線が強そうだ。

 

あの男は戦闘に向けて多くの武器を買い込み、ボスからはコンテナの地対空ミサイル(SAM)を八基買い取ったと見える。その他にも運搬中の武器があり、仲間ともあの少佐の部下とも異なる武装した兵士がいるところを見るに他からも取り寄せているようだ。

 

「イングランドCCAT社、カリ―社長」

「おや、奇遇ですな。ココ・ヘクマティアル」

 

この体になってから出会った武器商人だと三人目となったのは壮年で体型がふくよかなイギリス人らしき男だった。ボスの言葉からしてトップらしいが自ら戦場に足を運ぶとは中々勇ましいと言えるがそれに相応しいだけの経験を積んでいるらしいのは動きから見て取れる。訓練された者の動きであり上手く誤魔化そうとしているあたりこちらも中々見かけによらなさそうだ。吸血鬼どもを飼いならし、機械仕掛けの少佐との一騎打ちをするために己が通したあの女も訓練を積んだ者であったあたり、今のボスのような非戦闘員のトップの方が珍しいのかもしれない。

 

「なにコイツ、新入り!?アッハッハッハッハ!ウケるチョーウケる!」

 

何やらあの武器商の護衛の女が絡んできたが適当に聞き流す。

 

――――――そんなことよりも戦闘だ。

 

 

♦♦♦

 

「逃がさん!!総員!!」

「ッ!!!殺すな!!!!!」

 

ヨナに内心で高評価をされていたポルック少佐は、現状どうしても必要であり空爆で破壊されたレーダーユニットの代替となる野戦レーダーという大口の追加注文をココ・ヘクマティアルに渋られ、武力をチラつかせて強引にことを運ぼうとしたが、部下に命令を出した直後のココの異様な剣幕に驚かされる。

どういう意味だと目の前の女に問い質そうしてようやく異変に気付いたのだ。命令を出した部下も同じ机に座っていたカリー社長も、目の前のココ・ヘクマティアルでさえも驚愕と言った顔でこちらを見ていることに。そして自分の喉元に金属特有の冷たさが走り後頭部付近で銃を構える時特有の音がしたことをようやく理解した。

 

「ヨナ、武器をしまえ。失礼しましたポルック少佐、いやぁピリピリしておりまして~」

 

武器が離れていったのを感じてようやく背後を見れば、自身の後方にあるコンテナの傍で座っていたはずの少年兵が視界に入った。片手にデザートイーグル.50AE 10インチバレルを、もう片方にマチェットナイフを持つ少年兵の姿が何故か今をとてつもなく恐ろしいものに見えた。目の前の女が止めなければ自分は気が付く暇すらなく死んでいた。そのことにようやく体が反応してきたのか体の芯が冷え、背中から嫌な汗が噴き出す。最初の部下たちの対応への皮肉や自分の目論みを看破されたことなど気にする余裕もなく、

 

「で、では、れレーダーの件は頼みましたよ。わ私はちょっと失礼します。」

 

要件を手短に済ませて足早にその場から離れる。今はとりあえず少しでも早く、あの恐ろしい少年兵のそばから離れたかった。




大尉「行く先々での戦闘、素晴らしい」

ココ「不本意だー!!」(某ウニ頭風

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