どうやら私はいろんな世界に転生するみたいです   作:夜紫希

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新年忙しい過ぎて泣きそうです。


気付かない影の手

「お、お疲れ様でした……」

 

 

「そ、そっちもお疲れ様です……」

 

 

「お二人さん? お疲れの顔を通り越して死にかけた顔になってますよ」

 

 

無花果とベルの顔は死ぬほど疲れ切っていた。唯一何もしていない修一が元気だった。

 

何とか無事に『怪物の宴(モンスター・パーティー)』を切り抜けることができたが、負傷した冒険者を守りながらダンジョンを脱出するのに時間が掛かってしまった。重傷者はすぐにベルが背負って運び終えたが、何度か往復したせいで体力が減っていた。無花果も冒険者から感謝の言葉を贈られ続けて今回は疲れ切っている。

 

 

「人助けがこんなにも大変だなんて……全く予想していませんでした……」

 

 

「今日の無花果はよく頑張った。俺が褒める」

 

 

「僕もダンジョンを行き来して、さすがに疲れましたよ」

 

 

「うるせぇ男だろうがぶっ殺すぞ」

 

 

「えぇー!? 何で僕だけ辛辣なんですか!?」

 

 

路上に唾を吐きながら(吐けない)中指を立てて失礼な態度を取る修一に無花果はすかさずチョップ。【七つの大罪】の候補として入れられてからこの態度の変わりようである。

 

 

「すいません、私の馬鹿ドブネズミが失礼なことを」

 

 

「い、いえいえ! 大丈夫ですよ! イチジクさんが謝ることはないですよ!」(ど、ドブネズミ……?)

 

 

「テメェ俺たちの無花果を気安く名前呼びしてんじゃねぇぞゴラァ! 俺とヘスティアが黙っていると思ったら大間違―――ぎゃん!」

 

 

再びチョップで黙らせる。頭の形が歪んでしまった修一は「中の綿が出そう…」と落ち込んでしまっている。

 

何度も頭を下げる羽目になる無花果。ベルは全く気にしていないと優しいことを言ってくれていた。

 

 

「あまり責めないであげてください。僕たちの【ファミリア】がイチジクさんを今でも狙っているのが悪いのですから」

 

 

「……やっぱり今日は」

 

 

「はい、イチジクさんを引き抜く為に近づきました。騙すようなことをしてすいません」

 

 

そう言ってベルは頭を下げる。

 

【ロキ・ファミリア】の団員がその理由で近づいて来ることは予想できていた。無花果は首を横に振り、

 

 

「いえ、今日は一緒にダンジョンに潜ることができて良かったです。もし私一人であの『怪物の宴(モンスター・パーティー)』に遭遇してしまえば、対処はとても難しかったでしょう」

 

 

「……そう言ってくれると有り難いです」

 

 

「ですが、理解して欲しいのです。私は、【ヘスティア・ファミリア】を裏切ることはできません」

 

 

真っ直ぐにベルの瞳を見る無花果。真剣な表情をする彼女を見たベルは、素直に諦める。

 

 

「分かりました。団長には僕がしっかりと報告します。それと今回の報酬は全てイチジクさんたちが受け取ってください」

 

 

「えッ!?」

 

 

ベルの言葉に無花果は驚きの声を上げる。

 

報酬の全額。モンスターの魔石、ドロップアイテム、冒険者を助けた礼金などなど。

 

合計で二十万ヴァリスは超えている。その多額をまとめてあげると言っているのだ。

 

 

「迷惑料だと思って受け取ってください。ベートさんの件もありますので。敵対したくないという理由もありますが、一番の理由は友好でありたいので」

 

 

「で、ですがクラネルさん! こんなに多くは……」

 

 

「やめとけ無花果。男がここまで言ったら素直に受け取るんだよ」

 

 

今まで悪口を言っていた修一がベルのフォローしている。男同士だから分かるのか、それとも―――

 

 

「ありがとうございます。二度と顔を見せるな。ペッってな」

 

 

駄目だこの人。全然反省していない。

 

このままだと取り返しのつかない失礼なことをすると危険を感じた無花果。修一を糸で体を縛りつけて服のポケットに強制収納させる。そしてお礼を言いながら報酬を受け取った。

 

糸に縛られながら無花果とベルの会話している光景を見ている修一。本当は見たくない光景だった。

 

 

(敵かもしれない相手なのに……俺はどうすりゃいんだよ……)

 

 

たった一人、自分らしくない真剣な悩みを抱え込んでしまっていた。

 

 

 

###

 

 

 

無花果とベルが別れたあと、糸に縛られた修一は大人しくなっていた。

 

不自然なまでに静かなせいで無花果も不安になる。今まで帰り道で会話が途絶えたことがなかった二人。いつも修一が話題を振ってくれているので、自分からは声を掛け辛い。

 

縛っていた糸をほどき、修一を解放すると、

 

 

「……二十万もあればどれだけパチスロで遊べるか」

 

 

クソみたいなことを考えていた。私は自分が恥ずかしい。

 

 

「貯金ですよ!!」

 

 

「えぇ!? 少しくらい遊んでも良くね!? こんな大金を持っているのに!?」

 

 

「当たり前です! 私はお金を貯めて教会の修繕、必需品の購入、将来の家計を考えて―――!」

 

 

「だったら俺が倍にしてやるからさ」

 

 

「人の金で博打しないでください!?」

 

 

ここまで絵に描いたような駄目人間は見たことが無い。いや一人いる。私のオトンだ。

 

 

「シュウイチ・ヴィ・ブリタ〇アが命じる! 貴様は金を出せ!!」

 

 

「出しませんよ!?」

 

 

眼鏡を外してカッコ良く宣言するが洗脳されない無花果。これでは誰にも反逆できない。

 

ぐぬぬと悔しがっているが、「そもそも無理ですよ」と話を続ける。

 

 

「この世界にパチンコとスロットは無いと思います」

 

 

「Nooooooooo!!!」

 

 

クリティカルヒット! 修一は大ダメージを受けた。

 

彼の大好きなコードギ〇スも、ブラック〇グーンも、この世界には存在しない。口に出してはいけない真実を口にした。

 

現実を見ろと。二次元ばかりに行くなと無花果は言うが、修一は立ち上がった。

 

 

「こんな世界……俺はいらない!!」

 

 

「なんてことを言うのですか!」

 

 

「いいか無花果! パチスロの無い世界ってのは、酸素の無い星と同じってことだ!」

 

 

「どんだけ愛しているのですかあなたは!? 呼吸と同等にしないでください!」

 

 

「あん? パチスロがあれば呼吸はできるって言ってるだろ?」

 

 

「不可能ですよ!?」

 

 

無茶苦茶なことを言い出す修一を再び糸で縛る。「あふんっ」と気持ち悪い声を出すが、無理矢理連れて帰る。

 

 

「今日は私の料理で我慢してください! 匂いだけでも楽しめるように頑張りますから!」

 

 

「すまねぇヘスティア!! 俺のせいでお前の胃がぁ!!」

 

 

「何のことですか? とにかく早く帰りますよ!!」

 

 

 

###

 

 

「いつも通りに……全部渡しました! 【ファミリア】の皆さんにお渡しできるお金はもう1ヴァリスもありません……!」

 

 

薄暗い路地裏でリリルカ・アーデの声が響き渡る。彼女の体は震えており、リリを逃がさないように囲んだ冒険者たちが舌打ちをする。

 

 

「まだ言うかコイツ……テメェが噂の冒険者と組んでぼろ儲けしてんのは知ってんだよ!」

 

 

「だからそれを含めてお渡しして―――!」

 

 

「ああ!? 荷物持ち(サポーター)が俺たちに口答えしてんじゃねぇぞ!」

 

 

ガシャンッ!!

 

 

威嚇するかのように近くにあった木箱を粉々に破壊する。それだけで力を持たないリリは萎縮(いしゅく)してしまう。

 

これが同じ【ファミリア】に所属する者達に対することだと他の【ファミリア】は思わないだろう。だが【ソーマ・ファミリア】はこれが『日常』なのだ。

 

神酒に酔い、金に飢え、上位争いの為に仲間を蹴り飛ばし合う。ハッキリ言おう、この【ファミリア】はイカれていると。

 

今すぐ逃げ出したい。だが震えた足は動くことは無い。口を堅く閉ざし、ただただ彼らが諦めてくれるのを待っていた。

 

 

「……もういい。アーデは本当に持っていないようだ」

 

 

「だけど!」

 

 

()()()()()()()? ゲド?」

 

 

「ッ……チィ!」

 

 

静止の声をかけたのは【ソーマ・ファミリア】首領ザニス・ルストラ。ゲドという男は舌打ちをしたあと、リリから距離を取る。

 

眼鏡に細面の男性ザニスは理知的に見えるが、本性は全く違う。中はどす黒く―――

 

 

「アーデ。私は感謝しているのだ。これだけあれば『神酒(しんしゅ)』を飲めるのは確実。これ以上、奪う必要はない」

 

 

「な、ならばリリを―――」

 

 

「解放はできん。アーデ、お前にやって貰う仕事がある」

 

 

口端を僅かに吊り上げたザニスは、リリに最低な仕事を押し付けた。

 

 

「あの冒険者から、()()()を奪って来い。できるだろう?」

 

 

「……街に流れている噂は嘘です」

 

 

「確証はあるのか?」

 

 

ザニスの質問にリリはすぐに答えることができない。だが、否定はしておきたかった。

 

 

「カバンの中に入っているのはイチジク様の武器だけです。高価な物は入っていません」

 

 

「十分だ。こうは考えないのか? 神の恩恵を得ていない奴でも第一級冒険者を倒せる武器があると」

 

 

「イチジク様の実力は本物です! 武器に頼ってなど―――!」

 

 

「アーデ。お前の話に興味は無い。あるのは冒険者のカバンだけだ」

 

 

リリの話を(さえぎ)るようにザニスは立ち上がる。他の冒険者たちもザニスの後を追い、置き去りにされたリリを嘲笑っていた。

 

下卑た笑みを浮かべる男たちの顔にリリは何も言えない。言い返せるはずがない。震えた小さな体では、勝てるわけがなかった。

 

 

「ッ………、……ッ!」

 

 

誰もいなくなった路地裏で一人、一粒の涙をこぼした。

 

 

 

###

 

 

 

リリは盗人です。詐欺師と言ってもいいかもしれません。

 

実入りの高い冒険者、右も左も分からない新米、金になりそうな物を盗み取っていく。

 

大嫌いな冒険者たちから盗んだ金品は己の救済に使う。

 

―――全ては【ソーマ・ファミリア】から脱退するために。

 

 

『魔石をくすねたな!』

 

『金をちょろまかしたな!』

 

『これは罰だ。お前には分け前をくれてやらない』

 

『モンスターに囲まれた時くらいはしっかり仕事をしろよ―――』

 

 

『『『『『———役立たず(サポーター)』』』』』

 

 

全て言いがかりでした。証拠も根拠もない言葉にリリは歯を食い縛り耐えて来た。

 

力のないリリにはどうすることもできない。

 

頼りになる仲間も、お金も、冒険者としての才能も無い。だからサポーターになるしかなかった。

 

しかし、そのサポーターの待遇は卑劣なものだった。どこの冒険者もリリを寄生虫扱いにする。

 

馬鹿にして、暴言を吐いて、嘲笑う。何度も繰り返されている内に、邪念が生まれた。

 

―――いいや、悪いはずがない。

 

これは今まで散々リリを苦しめて来た冒険者達から、今まで()()()()()()()()()()正義なのだと。

 

 

「ッ……………」

 

 

だから、これは仕方のないこと。

 

あの真面目な少女たちを騙すことは、仕方のないことなのだ。

 

どれだけ涙を流して嫌がっても、やらなければならない。

 

自分の命の為に、やらないと。

 

 

 

###

 

 

 

「ステイタスの更新、ですか?」

 

 

うん、そうすればもっと強くなれるからね

 

 

「へ、ヘスティア……アンタは最高の主神だぜ……!」

 

 

夕飯を終えたあと、ソファに倒れながらヘスティア様はステイタスについて教えてくれる。何故修一君は泣いているのでしょうか。

 

成し遂げたことの質と量の値【経験値(エクセリア)】。それが溜まっているなら更新すれば強くなれると。

 

背中に『神の恩恵(ファルナ)』を刻んでから一度も触っていない。どれだけ成長したか無花果も気になっている。

 

 

「分かりました。お願いします」

 

 

「よし! それじゃあ更新しよう。あの時と同じように服を脱いでベッドに寝てくれ」

 

 

「ブフッ!!」

 

 

ここで修一君が噴き出してしまう。そうだった。あの時は修一君は寝ていた。

 

私はジト目でテーブルの上に座っている修一君を見る。

 

 

「いや見ない見ない! 絶対に見ないから」

 

 

と言って彼は両手を挙げて私に背を向けた。だが無花果は信じずに、脅すことにした。

 

 

「もし振り返ったら本気で……」

 

 

「ほ、本気で……怒るのか?」

 

 

「私は舌を噛んで死にます」

 

 

「オッケー。幼馴染の命が懸かっているなら冗談でも振り向かない」

 

 

修一君の顔はニヤついていたが、スッと真顔になった。絶対にこちらを見ないと強い意志を感じる背中だ。

 

安心した私は服を脱いでベッドの上に仰向けになる。その上にヘスティア様が座り込み、私の背中に神血(イコツ)を垂れ流した。

 

指で何度も撫でて背中の文字群を塗り替え付け足し、レベルアップ。能力向上。そして、

 

 

「ッ……!」

 

 

ヘスティアの顔に動揺が走った。しかし、二人はその顔を見ていない。

 

急いで用紙に【ステイタス】を書き込み、終わらせる。そしてポンポンと背中を叩いて終わったことを無花果に伝える。

 

無花果は服を着直すと「もういいですよ」と修一に声をかける。「舌、噛まない?」「噛みませんよ」「なら振り向く」と修一も無花果たちに近づく。険しい顔をしたヘスティアの持つ用紙を見せて貰おうとする。

 

だが、ヘスティアは「待ってくれ」と手を出した。

 

 

「……君たちは毎日、ダンジョンに行ったかい?」

 

 

「行きましたけど……」

 

 

「ど、どうしたヘスティア? この流れ、嫌な予感しかしないんだけど」

 

 

ヘスティアの顔から深刻さが伝わったのか無花果たちも不安な気持ちになる。ヘスティアはゆっくりと手に持った用紙を見せた。

 

 

楢原 無花果

 

Lv.1

 

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷(びんしょう):I0 魔力:I0

 

《魔法》【】

 

《スキル》【】

 

 

 

「「か、変わってない!?」」

 

 

無花果と修一は声を揃えて驚いた。ヘスティアはワナワナと体を震わせながら二人に聞く。

 

 

「本当にダンジョンに行ったのかい!? このお金はもしかして非合法な手口で手に入れたとか……!?」

 

 

「真面目な無花果がそんなことできるわけないことくらい知っているだろヘスティア! 大体、神に嘘は通じねぇだろ!」

 

 

間髪入れずに修一が言葉を返す。だがダンジョンに何日も潜ってこの変動しない数値は異常だ。だから、

 

 

「……ごめん、ボクって本当に無能な神かもしれない」

 

 

「ヘスティア様ぁ!!」

「ヘスティアぁ!!」

 

 

涙をホロリと流す女の子に二人が同時に抱き付く。考えられる可能性の一つとしてあるが、違うと信じたい。

 

 

「違いますよヘスティア様! きっと私が無能なだけで、ヘスティア様は立派な神です!」

 

 

「そうだぜヘスティア! だから泣くじゃねぇよ!」

 

 

「きっとロキの所で恩恵を貰えばステイタスは上がると思うよ……ボクじゃ駄目なんだ。ああボクは―――」

 

 

「ダメだ無花果! 完全に目から光が無くなっている!」

 

 

「ヘスティア様! 大丈夫ですから! いなくなりませんから! また明日もご飯を作ります!」

 

 

「それはもっと光が無くなると思うけどな! でもヘスティアから離れないことは約束できるから!」

 

 

二人の励ましにヘスティアは泣き顔を上げる。波だと鼻水が修一の体にベトベト付くが、あとで洗えば大丈夫なので無花果は気にしない。本人は凄く気にしているが。

 

 

「こんなボクでも……傍にいてくれるのかいッ?」

 

 

「当たり前ですよ!」

 

 

「ああ、元気出せよ! ……理想と違って美少女の体液ってあんまり役得じゃないな

 

 

「チョップですか?」

 

 

「嘘です! ネチョネチョ大好き!」

 

 

「それはキモイので黙っていてください」

 

 

二人のやり取りにヘスティアは元気を取り戻す。涙をぬいぐるみで拭き取り、ギュッと二人を抱き締めた。

 

 

「ありがとう! ボクも君たちが大好きだ!!」

 

 

「そうそう! この抱擁(ほうよう)が役得なんだよ!」

 

 

「チョップ」

 

 

こうして今日も平和に修一が地面に叩き付けられる。

 

少ない時間の中でも、彼らの繋がりは強固な物になっていた。

 

しかし、忘れてはならない。無花果たちの死角から近づく影の手があることを。

 

 




修一がやらかす→無花果がチョップ

ポケモンで例えるなら、タケシがやらかす→カスミが耳を引っ張る

―――似ているなぁというくだらないことばかり考えながら新年を過ごしています。
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