どうやら私はいろんな世界に転生するみたいです   作:夜紫希

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簡単な仲直り

「ッ……はぁ……はぁ……!」

 

 

ゲドの勝負に勝利した無花果。気を失って倒れた敵を見ると、安堵の息を吐くと同時に呼吸を乱す。

 

急いで奪われたカバンを手に取り、腰に装着する。二度と手離さないように工夫することを考えていると、

 

 

「イチジク様……」

 

 

後ろから声をかけられ、ビクッと体を強張らせた。

 

振り返れば体を起こし、地面に座っているリリがいる。顔は殴打で腫れ、鼻や額からは血を流している。

 

ゲドが(おんな)()どもでも容赦をしない外道だったことが分かる。痛々しい傷に無花果は、

 

 

「報酬はいりません。謝礼も魔石も、何もいりません」

 

 

「え……」

 

 

「私が()()()()()を助けたのは修一君がお願いしたからです。今までありがとうございました」

 

 

スッと立ち上がり立ち去ろうとする無花果にリリの心は締め付けられる。

 

当然の反応だった。いや、命を助けて貰っただけでも十分だった。リリは無花果を騙し、奪い、裏切った。むしろゲドと同じように殴ってもおかしくないのだ。

 

リリを責めない。その優しさが、ゲドに甚振(いたぶ)られた時より辛かった。

 

 

「———もう、私たちに関わらないでください」

 

 

心の奥底から叫びたい気持ちをグッとリリは抑えつける。ボロボロになった服を爪が食い込むまで握り絞め、涙を流しながら下唇と思いっ切り噛んだ。

 

(かす)む視界に映る無花果の背中を追いたいのに、今のリリにはできなかった。

 

大粒の涙が地面にポツポツと落ちる。自分のやってきたことを後悔していた―――

 

 

「それは違うんじゃねぇの?」

 

 

ふと、男の声が聞こえた。

 

無花果の足が止まる。リリも声のする方を見ると、そこにはぬいぐるみが立っていた。

 

ゲドの剣で腹部から綿が飛び出し、左腕や左耳は取れてしまっている。それでも修一の声は変わらなかった。

 

 

「確かにリリは無花果を裏切った。まぁそこは俺も許せないと思う。オークに囲まれた時は死ぬかと思った」

 

 

「……………」

 

 

「でもさ、このゲド(馬鹿野郎)とリリが争っている所を見ると分かっただろ? リリがこんな真似をしたことくらい」

 

 

優しい声音で修一は無花果に声をかける。だが無花果はイチミリも振り返ろうとしない。

 

 

「結局俺は何もできなかった。お前に負担をかけて傷つけてしまった。本当は言えるような立場じゃないことくらい理解しているんだけどさ……リリのこと、許せないのか?」

 

 

その言葉にリリは驚く。絶対に言われると思わなかった言葉が、修一の口から出て来たからだ。

 

だが修一と違って無花果は許せないのか大声を上げてしまっていた。

 

 

「私たちは信用していた人に裏切られたのですよ! どうして許す必要なんか―――!」

 

 

「いいや違うな」

 

 

「何がですか!?」

 

 

「———無花果、お前はリリを信用していなかった」

 

 

突き付けるように出た言葉に無花果の声が止まる。その反応が図星だったことを語っていた。

 

 

「何十年の付き合いだと思ってんだ。お前がずっと、リリを警戒していたことくらいお見通しだ。信用していたとか嘘をつくなよ」

 

 

「ッ……だから何ですか!? 信用していなかったから許せと!? 私たちは本当に死ぬところだったのですよ!」

 

 

無花果が声を荒げながら修一に近づく。そしてリリはやっと気付くだろう。

 

腕や足の肌にいくつも擦り傷や切り傷、青アザまで。彼女がリリに追い付くまでにどれだけ痛い思いをしたのか。

 

怒るのは当たり前だ。許さないのは当然だ。リリは修一に庇われる理由など無い。むしろ罰を受けるべきだ。

 

 

「何をすればいいのか、まだ分からないか?」

 

 

「だから何が言いたいのですか!?」

 

 

「許す許さないの問題じゃないんだよ無花果。お前とリリがやることはたった一つだろうが」

 

 

怒りを露わにする無花果に対して修一は落ち着いていた。残った右手を前に出し、

 

 

「———仲直り、それしかないだろ」

 

 

その答えに、無花果とリリの体がピタッと止まった。

 

訳の分からないと言った顔をする二人に修一は微笑を見せながら呆れる。

 

 

「何でお前らは幼児でもできるようなことをやらないのかなぁ。喧嘩したら仲直り。当たり前だろうが」

 

 

「ま、待ってくださいシュウイチ様! リリはイチジク様の命を危険に晒した張本人ですよ!?」

 

 

やっとリリは声を出せた。だが修一は呆れるを通り越して怒ってしまう。

 

 

「馬鹿が。じゃあ聞くけど、それはお前の意志か?」

 

 

「え?」

 

 

「お前の意志かって聞いてんだよ。リリ、お前は無花果を殺したかったのか?」

 

 

違う。即答できるはずだったのに、リリの口は動かなかった。

 

返答しないリリに修一は怒ったように問い詰める。

 

 

「お前は無花果が嫌いなのか!? 憎かったのか!? 罠に()めて嬉しかったのか!?」

 

 

「ッ……そんな……わけッ……!」

 

 

「裏切られたと分かっていても、ボロボロになった体でお前を助けた無花果のことを、殺したかったのかよぉ!?」

 

 

「———違うッ!!!」

 

 

リリは喉が張り裂けんばかりの大声で否定した。涙腺を決壊させ、涙を地面に落としながら首を何度も横に振った。

 

 

「嫌にッ、決まっているじゃないですかぁッ……! リリのことを、助けてくれたイチジク様をッ……こんなリリを助けてくれた人をッ……!」

 

 

泣きながら正直な気持ちを吐き出すリリに無花果は黙って聞き続けた。

 

 

「リリは自分が嫌いですッ、大っ嫌いですッ……! 死にたくないと思うばかり、大切な人を裏切った自分が許せないッ……!」

 

 

リリはズキズキと痛む腕と足を動かし、四つん這いで必死に無花果へと近づいた。

 

 

「ごめっ、ごめんっ……! ごめん、なさいッ……!」

 

 

「ッッ―――!」

 

 

心の底から謝るリリの姿に無花果の心は大きく揺れる。膝を折り、空を掻いていたリリの手をギュッと繋いだ。

 

 

「ただ私は、言って欲しかったのですッ。『助けて』の一言でもッ!」

 

 

先程まで怒りに満ちていた彼女の姿はどこにもなかった。

 

 

「ですが、私も最低ですッ。あなたが何かを隠して苦しんでいるッ……分かっていたはずなのに……!」

 

 

「イチジク様ッ……」

 

 

「ごめんなさいッ……! 手を伸ばせなかった私を、許して下さいッ……!」

 

 

そして、無花果は包み込むように小さな体のリリを抱き締めた。

 

全身を包み込む優しさにリリは我慢することはできない。声を出して泣いてしまった。

 

 

「うえッ、うええええええええええええェェェッ……!」

 

 

リリは自分を許せなかった。無花果は情けない自分を許せなかった。

 

どうすればいいのか、何をすればいいのか、二人は簡単なことにも気付かなかった。

 

リリは正直に全てを話して助けを求めればよかった。無花果はリリのことを知り、踏みだせばよかったのだ。

 

 

「ひぅッ……! うああああああぁぁッ……!」

 

 

胸の奥に隠していた思いが爆発してしまった。小人族(パルゥム)の少女の泣き声がダンジョンの中に響き渡る。

 

それを慰めるようにヒューマンの少女が抱き締める。何度も頷き、大丈夫ですと声を掛け続けた。

 

 

「どっちとも良い子なのくらい分かってんだよ。やっと友情のスタートラインに立ったようなもんだぞ」

 

 

抱き合う二人を見た修一は小さな声で愚痴る。だが割れた眼鏡を上げながら笑っていた。

 

 

「まぁ……強い繋がりにはなっただろうな」

 

 

世話の焼ける女の子たちに、修一は遠くから見守っていた。

 

それはどこか、懐かしい光景。まるで―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

###

 

 

 

夕暮れの公園で幼い少女はベンチに座っていた。

 

 

眼鏡を掛けた女の子は一人、読書をしていた。子どもが読む物とは思えない分厚い本だ。

 

 

周りでは子どもたちがボールや遊具で遊んでいる中、少女は本を読み続けた。

 

 

夢中で読んでいるわけでもなく、面白くなさそうに読んでいるわけでもない。ただ本を読んでいた。

 

 

寂しそうな雰囲気もなく、近づきにくい空気を纏う少女に―――何故か()かれていた

 

 

何て声をかけようか。何て話をしようか。ずっと考えていたことを覚えている。

 

 

でも、自然と自分の体と口は動いていた。持っていたボールを友達に渡し、少女に歩み寄った。

 

 

『—————』

 

 

『……………』

 

 

―――確かに覚えているのは、それが無花果との出会いだった。

 

 

 

###

 

 

 

 

「ふがぁ」

 

 

息苦しさに目を覚ました修一。重い(まぶた)を開けばヘスティアの手が顔に乗っていた。

 

ベッドの上で寝ているのはヘスティアだけでなく、無花果も眠っている。並んで寝ている二人に弾かれるようにベッドから落ちかけていたが、ヘスティアの寝返りのおかげで痛い思いをしなくなる。

 

規則正しい寝息を立てながら静かに眠る無花果にしがみつくように眠るヘスティア。寝辛そうだが、羨ましいの一言に尽きる。

 

視線をソファに移すと、リリが寝ていた。可愛い寝顔だなぁと思った。以上。

 

 

「懐かしい夢を見た……………って何どっかの主人公みたいなセリフを吐いてんだ俺は」

 

 

自分の体はぬいぐるみだ。どう頑張っても憧れた主人公になることはできない。

 

昨日のことをゆっくりと思い出す。リリとダンジョンを脱出し、ヘスティアの所に帰ったら泣き付かれた。まぁボロボロになった俺たちを見たら心配してしまうよな。

 

ヘスティアの友人―――いや友神というべきか。ミアハという神から貰ったポーションを全部使ってしまうくらいだ。無駄なことをするなと呆れてしまうが、それだけ心配なんだろうな。でもなヘスティア。俺には意味無いから。必要なのは布と綿と糸だから落ち着け。ビショビショになっただけだから。

 

そこから事情を説明するとヘスティアはリリを説教。俺たちが必死にフォローするが、めっちゃ怒ってた。だけど、最終的には許した。「君が心を入れ替えたというなら行動で証明してみせろ!」の一言は流石だと俺も思った。

 

あとは流れるように飯を食って就寝。リリもここに泊まって、今に至るわけだ。

 

 

「これで一件落着……なわけないよなぁ」

 

 

無花果の作ってくれたぬいぐるみの体の調子を確かめながら起き上がる。ゲブちゃん二号という残念なネーミングセンスに俺はもう何も言わない。うん。

 

リリから全て事情は聞いた。全ての元凶は【ソーマ・ファミリア】の神酒による無法地帯だ。神が冒険者の悪行を野放しにしているせいだ。

 

神が変わらない限り、【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちが変わらない限り、力を持たないリリに幸せは訪れない。

 

 

「俺が無双できる最強主人公なら、カッコ良く解決できるんだけどなぁ……」

 

 

―――主人公に俺はなれない。でも、主人公はいるのだ。

 

 

「あの夢はそういうことだろ。分かっているよ馬鹿」

 

 

そう、主人公―――無花果の顔を見ながら笑みを浮かべた。

 

 

「いくらでも作ってやるさ。お前の道くらい」

 

 

俺は主人公をサポートする親友くらいのポジションが丁度良い。

 

……というわけで二度寝しまーす。おやすみー!

 

 

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