どうやら私はいろんな世界に転生するみたいです   作:夜紫希

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ファミリア戦争 逆転の先手

オラリオ都市に存在するもう一つの迷宮。度重なる区画整理で秩序が狂った広域住宅街―――ダイダロス通りで争いが起きていた。

 

それは―――【ファミリア】同士の戦争だ。

 

 

「確実に仕留めろぉ!!」

 

 

「殺して構わねぇ! 奴らから仕掛けて来た戦争だぁ!」

 

 

殺意の満ちた顔で【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちが一人の少女に襲い掛かる。

 

だが少女は臆することなく敵を睨み付け、腕を横に振るった。

 

 

ビシッ!!

 

 

「「がぁッ!?」」

 

 

突如見えない何かに捕まったように男たちの体がピタッと止まり、苦しんだ声を上げた。

 

どれだけ力を入れても腕一本動かない。目の前にいる少女の仕業だと分かるが、冒険者たちは彼女がここまで実力を持っていると予想できなかったのだろう。

 

 

「7人目!!」

 

 

―――今まで名を上げることのなかった【ヘスティア・ファミリア】に負けるなど、想像できなかった。

 

無花果がもう一度腕を振り直すと、糸で絞め上げられた男たちの意識は落とされる。使い慣れた糸で敵を矢継ぎ早に倒していた。

 

すぐに展開していた糸を戻して『ダイダロス通り』を走り出す。

 

 

「「「殺せぇッ!!!」」」

 

 

「ッ!」

 

 

無花果の真上から【ソーマ・ファミリア】の三人の冒険者たちが襲い掛かる。

 

無花果のように敵の気を失わせる様子は無く、命を奪おうとする殺意の込められた攻撃。無花果の頭部に向かって鋭利な武器を振り下ろそうと飛び掛かっていた。

 

 

ガギンッ!!

 

 

だが無花果の体に攻撃は当たらない。後方に向かって無花果の体が引っ張られ、簡単に避けていた。

 

糸に()る回避行動。建物に囲まれた場所は、無花果にとって有利な状況なのだ。

 

 

「完成、【蜘蛛(くも)奇術(きじゅつ)】」

 

 

再び走り出すが、今度は道ではない。その場で目に見えない階段を上り、『ダイダロス通り』の空を歩行した。

 

 

「「「はあああああァァァ!!??」」」

 

 

無花果の空中歩行に【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちは驚きの声を上げる。彼らには何が起きたのか全く理解できないだろう。

 

目視することのできない糸を張り巡らせ、その上を走っているなど誰が分かるだろうか。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

冒険者たちの頭上を取った無花果は空中で華麗に一回転しながら落下。両手を合わせた拳を冒険者の脳天に叩きこんだ。

 

 

「【天落撃(てんらくげき)】!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

強烈な一撃を叩きこまれた冒険者の顔は地面に激突。死んではいないが、死ぬほど痛い攻撃だっただろう。

 

他の冒険者たちは仲間がやられたことにギョッと目を見開くが、すぐに反撃に移ろうとする。

 

 

「テメェ!?」

 

 

「【黄泉送り】!!」

 

 

ドォッ!!

 

 

続けて技を繰り出す無花果。反撃しに来た冒険者の腹部に両手を当てて衝撃を与えた。

 

無花果より体の大きい冒険者の体は簡単に後方へと吹き飛び、住宅街の壁に叩き付けられる。

 

最後の冒険者は瞬殺された二人を見て勝てないと悟り、逃げ出そうとする。だが無花果はそれを許さない。

 

住宅街の()()()()、追い駆ける。そして、

 

 

「【地獄巡り】!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「あがッ!?」

 

 

自分の体重を乗せて放った回し蹴りが冒険者の横腹に炸裂(さくれつ)する。凄まじい威力に白目を()きながらゴミ山へと顔から突っ込んで行った。

 

【ソーマ・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の抗争。それは誰もが【ソーマ・ファミリア】の蹂躙(じゅうりん)が始まると予想していた。

 

だが現実は全くの逆。一人の少女による無双が始まっていた。

 

 

「これで10人目!!」

 

 

―――楢原(ならはら) 無花果の超反撃。

 

大切な人を守る為に彼女は、心を鬼にして戦っていた。

 

 

 

###

 

 

 

「たった一人にどれだけ時間を掛けている!? 何が起きているんだ!?」

 

 

計画を狂わされた【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちは焦っていた。バタバタと足音をいくつも立てながら『ダイダロス通り』を走り回っている。

 

【ソーマ・ファミリア】の総員で【ヘスティア・ファミリア】を潰しにかかっているのに、未だに一人も捕らえることができていない。

 

 

「ッ……………」

 

 

冷静な顔をしているが、親指の爪を噛んで誤魔化しているザニス・ルストラ。この戦いを仕掛けた元凶であり、【ソーマ・ファミリア】の団長。

 

酒作りに没頭して自分の【ファミリア】を一切統率しないソーマが酒を作らなくなった。そうなれば暴動が起きるのは必然。()()()()()()()

 

酒を作らなくなった原因は【ヘスティア・ファミリア】にあると、潰せば神酒が飲めると冒険者たちを()き付けた。¥

 

順調に事は運び、敵の拠点を襲撃した。だが計画はそこから崩れ始めた。

 

 

(主神かアーデ……どちらか捉えれば奴の動きを止めれる。だがどこにもいないというのはどういうことだ?)

 

 

計画の前日から主神とアーデの動きは見張ってある。拠点に居ることは間違い無いはずなのに、見つかることはなかった。

 

人質を使って噂の冒険者を大人しくさせる手段は状況を打開する切り札。その札が無いとなると、【ソーマ・ファミリア】は手痛い傷跡を残される。

 

 

「どうする団長!? このままだと奴がここに―――!」

 

 

だが、彼の中で負けるという考えはない。

 

ザニスの顔を見た冒険者の顔が凍り付いていた。

 

 

「それでも襲い続けろ。このまま休む暇を与えるな」

 

 

―――恐ろしく下卑た笑みをしていたから。

 

 

###

 

 

 

「はぁ……はぁ……! 39人目ッ!!」

 

 

無花果の裏拳が【ソーマ・ファミリア】の冒険者の鼻に炸裂した。鼻血と一緒に冒険者の意識は飛び、地面に倒れる。

 

次々と襲い掛かる敵を相手にしていた無花果の表情は険しい。肩を上下させるほど呼吸は乱れている。

 

 

「押せぇ!! 数で押せぇ!!」

 

 

「「「「「うおおおおおォォォ!!」」」」」

 

 

無花果のスタミナは無限ではない。いくら【ソーマ・ファミリア】の冒険者を倒せる実力を持ってしても、彼女にも弱点はある。

 

常に研ぎ澄まされた集中力、『ダイダロス通り』を走り回る体力、その長い時間が彼女を苦しめていた。

 

 

「くッ!」

 

 

危うく敵の矢が当たりそうになる。綺麗な赤紫色の髪が矢を掠めた。

 

波のように押し寄せる敵の大群に、無花果は()()()()()()()()

 

 

「……文明的に、この世界では使いたくなかったのですが———」

 

 

小さなカバンに両手を突っ込み、()()()を使うことにする。

 

決して戦意喪失したわけではない。彼女は、ただこの()()()を諦めたのだ。

 

 

「———仕方ないですが、使います」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

鼓膜を破くような破裂音。この世界で聞くような音ではないだろう。

 

彼女の手に握られている物は、この世界で見ることはない。

 

それは文明の発達が生んだ武器。剣や弓よりも優れた武器だ。

 

銀色に輝いた筒状の口から小さな煙が出ている。無花果が両手に握り絞めているのは———『拳銃』だった。しかも片手だけでなく『二挺拳銃』だ。

 

 

「な、何だアレ!?」

 

 

「デケェ音が聞こえたが……!?」

 

 

無花果の取り出した見たことのない物に怯えていたが、冒険者たちは笑う。

 

 

「クハッ! 誰もやられてねぇじゃねぇか! ハッタリだ!!」

 

 

その声に心の中で同意した冒険者たちは再び構える。だが無花果は心の中で呆れていた。

 

 

(()()()()()()()大怪我なのですが……やっぱり銃はこの世界にまだ無い武器なのですね……)

 

 

確かに無花果は拳銃の引き金を引いた。だが銃に込められたのは銃弾ではない。

 

 

ビシッ!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

無花果に向かって走り出そうとした時、自分の体に起きた違和感に気付いた。

 

―――何故か、自分の体が動かないことに。

 

 

「完成、【咎人(とがびと)紅檻(べにおり)】」

 

 

冒険者たちを拘束していた糸が赤く染まる。道を埋め尽くすように張り巡らされた糸が冒険者たちの体を絞め上げる。

 

 

「首を飛ばされたくない人は、今すぐ武器を捨てて投降してください」

 

 

「「「「「ひゃい……!!」」」」」

 

 

無花果の脅しに糸で縛り上げた【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちは次々と武器を地面に落とす。

 

全員が投降したことを確認したあと、無花果は銃を握った手を横に振るう。

 

 

ガラシャンッ!!!

 

 

凄まじい勢いで赤い糸が動き始め、地面に落ちた武器を引き裂いていく。ゾッとする光景に冒険者たちの体は石像のように動けなくなってしまっていた。

 

無花果が銃に込めた弾―――それはガルペスが作成した特殊弾だ。

 

()()()()使()()()()()無花果の為に作られた専用の弾。名を『糸散弾(しさんだん)』。

 

 

(銃は弾の数に限りがあるのであまり使いたくなかったのですが……自分の未熟さが招いた結果です。ですが二発でこの場を切り抜ける計算ができたのは自分でも褒めれる点でしょうか)

 

 

自分の戦闘評価を考えながら銀色に輝く二つの拳銃———M1911コルトガバメントをカバンに戻す。

 

投降した冒険者たちの間を走り抜け、『ダイダロス通り』を駆け抜ける。そして再び敵を見つけるのだ。

 

 

「これで50人目ですッ!!」

 

 

 

###

 

 

 

「何をやっているんだぁ!!」

 

 

ガシャッ!!

 

 

―――【ソーマ・ファミリア】の冒険者が半数以上、いや四分の三はやられた。

 

笑みを作っていたザニスの顔も崩れる。苛立ちを近くに置いてあった木箱にぶつけた。

 

簡単に終わるはずだったのに、先程からずっと予想を裏切られてばかりいた。数で押そうとすれば、妙な物をカバンから取り出して一掃される。どれだけ不意打ちを狙っても、返り討ちにされる。

 

あらゆる手段が通じない敵にザニスはやっと焦り始める。だがもう遅い。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

ザニスのいる部屋のドアが豪快に吹き飛んだ。突然の出来事に【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちは息を飲む。

 

開け放たれた扉の先にいるのは噂の冒険者、無花果だ。ザニスを睨み付け、息を荒げている。

 

 

「見つけましたよ……ザニス・ルストラ!」

 

 

「ッ……!」

 

 

理知人を気取る仮面が剥がれ落ち、顔色が悪くなる。他の冒険者も無花果の姿に恐怖していた。

 

だがここで終わるザニスではない。強張った口端を吊り上げ、

 

 

「残念だが遅かったな! お前の仲間は俺たちが捕らえている! 殺されたくなかったら今すぐ———」

 

 

「残念なのはお前の頭のようだな」

 

 

その時、男の声が聞こえた。辺りを見渡すが、どこにも姿が見えない。

 

キョロキョロと周囲を見渡していると、無花果はカバンに手を入れて、二匹の生き物を両手に乗せた。

 

 

「ね、ネズミ?」

 

 

「ビビビ!」

 

 

「修一君。ねずみ男のネタは誰にも通じないと思いますよ。早く正体を現したらどうですか?」

 

 

無花果が溜め息を吐いていると、二匹のネズミは正体を明かす。

 

一匹はカバンの中にあったぬいぐるみに【憑依】して無花果の肩に立つ。噂の冒険者と共に行動していたあのぬいぐるみだ。

 

 

「お前は最初から眼中にない!」

 

 

「よーし無花果! あのクソ野郎をボコボコにしろ!」

 

 

ザニスの態度に修一は普通にキレていた。

 

 

「【響く十二時のお告げ】」

 

 

もう一匹の体の内側から響いてきた魔法の解呪式。灰色の光膜がネズミを包み込み、溶けるように消えると、そこには小人族(パルゥム)のリリが立っていた。

 

 

「あ、アーデ!?」

 

 

「ふー……! ふー……! これでお前の言うことは嘘だと分かるよな? あぁん!?」

 

 

「投降してください()()()。【ソーマ・ファミリア】は【ヘスティア・ファミリア】に負けています」

 

 

再び脅す三人にザニスは必死に抵抗する。まだ、一人だけ嘘が言えると。

 

 

「馬鹿が! 仲間というのは神のことだ! お前たちの主神はどうした!? 逃げれている自信はあるのか!?」

 

 

「ええ、ありますよ。残念ですが」

 

 

全く揺らぐことのない声に、無花果はハッキリと告げる。

 

 

「ヘスティア様は今、【ロキ・ファミリア】でお茶を楽しんで飲んでいると思いますよ」

 

 

信じられない答えにザニスの思考が一時停止する。

 

どうして底辺の【ファミリア】が【ロキ・ファミリア】の協力を受けれるのか。意味が分からない。そもそも、

 

 

「……あ、ありえない。部下の報告はお前たちの拠点に帰ったと———!」

 

 

その時、リリが不敵に笑ったのを見逃さなかった。

 

まさかと嫌な予感が過ぎるが、現実となる。

 

 

「———まだリリの嘘を信じていたのですか?」

 

 

既に敵は、自分たちより先に手を打っていた。

 

襲撃を仕掛ける前から、【ヘスティア・ファミリア】は動いていたのだ。

 

 

「お前かああああぁぁぁ!! アーデぇぇぇ!!!」

 

 

怒号の声を上げるザニスにリリの笑みは崩れることはない。仕返してやったと言わんばかりの顔だった。

 

憎悪に満ちた顔で腰に差した剣を抜く。釣られて他の冒険者たちも武器を持つ。だが、

 

 

「扉を開け放つ前。そして会話している間。あなた方は何もしなかったですね」

 

 

背筋を凍らせるような冷たい声音で、無花果は右手を横に振るう。その瞬間、ザニスを含めた冒険者たちの体が硬直する。

 

 

「とても簡単でした。『ダイダロス通り』で襲われた冒険者たちよりも」

 

 

「ふ———!」

 

 

「これでまた、先手を打たれましたね」

 

 

「———ふざけるなぁああああああ!!!!」

 

 

ザニスが雄叫びを上げた直後、室内に張り巡らされた赤い糸が姿を見せる。冒険者たちの体を縛り揚げ、武器にも絡まっている。

 

———【ソーマ・ファミリア】との最終決戦は、あっという間に終わってしまった。

 

 

###

 

 

気を失った冒険者たちが床に倒れ、戦いが終わる。部屋は糸によってボロボロになってしまった。

 

元々綺麗な部屋ではなかったので違和感はないが、人が倒れていると全く違う光景になる。殺人事件が起きたあとみたいだ。

 

無花果がホッと安堵の息を吐くと、部屋の奥の扉がゆっくりと開いた。

 

 

「やかましいぞザニス。何の騒ぎ———」

 

 

部屋に入って来たのは【ソーマ・ファミリア】の主神だった。

 

この悲惨な光景を目にしたソーマは言葉が詰まる。SAN値チェックが始まりそうな感じだ。

 

 

「……………寝るなら自分の部屋で寝るのだな」

 

 

「おいおいコイツ現実逃避しやがったぞ」

 

 

扉を閉めて部屋に帰ろうとするソーマに無花果たちは止めに入る。扉を閉めないようにドアノブを掴むが、ソーマも必死に扉を閉めようとしていた。

 

 

「や、やめろッ」

 

 

「お話がありますソーマ様! 部屋に帰らないでくださいッ!」

 

 

無花果が止めようとするが、ソーマは首を横に振った。それはもうブンブン風を切る音が聞こえるくらい首を振っていた。

 

 

「雑事は全てザニスに任せているッ」

 

 

「そのザニスのせいで俺たちが迷惑してんだよ!」

 

 

「私には関係ないッ」

 

 

「いや【ソーマ・ファミリア】だから一番関係あるだろうが!」

 

 

修一の言葉にも耳を傾けようとしないソーマ。抵抗し続ける神に修一はキレる。

 

 

「テメェの神酒に小便かけてやろうかぁ!」

 

 

「 そ れ は や め ろ 」

 

 

ソーマは額から汗を流しながら戦慄した。今までどれだけ原料に糞されたことか。どれだけ酒を台無しにされたことか。

 

三人がガチャガチャと第一次扉開け閉め戦争を繰り広げていると、

 

 

「お願いしますソーマ様! このままザニスを、【ファミリア】を野放しにしないでください!」

 

 

「何?」

 

 

ピタリと扉の開け閉めが止まる。ソーマはリリの顔を見たあと、無花果の顔を見る。何も事情を知らない神に無花果が説明する。

 

 

「私たちは【ソーマ・ファミリア】の冒険者に襲撃されています。同じ【ファミリア】であるはずのリリさんも(しいた)げられ、命を奪われようとしていました」

 

 

「俺たちの用件は大きく二つ。【ソーマ・ファミリア】を野放しにするな。そしてリリをお前の【ファミリア】から解放しろ」

 

 

続けて修一も説明する。それを聞いたソーマはほとほと面倒そうに口を開く。

 

 

「……簡単に酒に溺れる子供たちの話を聞くことに、何の意味がある?」

 

 

起伏のない声を聞いたリリは言葉を失う。

 

ソーマは失望しているのだ。自身の派閥の団員、下界の住人たちに。

 

【ソーマ・ファミリア】が野放しにされていた理由がハッキリと分かってしまう。眷属たちは酒に溺れ切ってしまい、我先に得ようと躍起(やっき)になった者を見て幻滅したのだ。

 

無法地帯を作り上げた悪意もない。ただ無関心に、興味を無くしてしまっているのだ。

 

 

「酒に溺れる子供たちの声は薄っぺらい」

 

 

「ッ……だったら最初から【ファミリア】なんて———!」

 

 

修一が怒りの声を上げようとした時、一人の少女が提案した。

 

 

「それなら私が神酒を飲んで、溺れなければ聞いてくれますか?」

 

 

提案したのは無花果だった。真剣な顔でソーマに聞いていたのだ。

 

 

「だ、駄目ですイチジク様!? 飲んではいけません!」

 

 

神酒を口にして魅了されておかしくなったリリの当時の記憶が蘇る。どれだけ強固な意志を持ってしても、あの酒だけは抗うことのできない魅了に犯されることを。

 

リリが止めようとしていると、扉を開けたままソーマは部屋の奥へと進む。そして壁から白い酒瓶を取り出し、(さかずき)を無花果に手渡した。

 

 

「これを飲んで、同じことが言えたらな耳を貸そう」

 

 

杯に注がれる神酒。遠くにいたリリからでも目眩を催すような涼しい芳香。喉が干上がり、汗も止まらない。自分は神酒を欲していると理解してしまう。

 

無花果は顔色を変えることなく酒を見ている。心配そうに修一が見ているが、止めようとはしない。

 

 

「イチジク様!!」

 

 

リリが名前を叫ぶと同時に無花果は神酒をあおった。

 

次の瞬間、無花果の目が開かれる。

 

 

「……美味しい、ですね」

 

 

目をキラキラさせて神酒を褒めたあと、誰もが予想しない一言を告げる。

 

 

「お酒なのにジュースより飲みやすいです」

 

 

「     」

 

 

―――その一言は、ソーマを愕然とさせた。

 

修一も、リリも、無花果の感想に口が開いたままだ。

 

万人を(とりこ)にし、数え切れない人を酒に溺れさせた。仲間でも蹴り落としてまで奪いたい神酒を無花果は『ジュースより飲みやすい』と評価したのだ。

 

ありえないとソーマが言葉を失っていると、無花果はハッとなる。自分がどれだけ酷いことを言ったのか理解したのだ。

 

 

「あっ、えっと、あの! お菓子と一緒に食べたら最高なお酒だと思いますよ!?」

 

 

「     」

 

 

「ヤバくね? ウチの幼馴染、ヤバくね?」

 

 

ソーマまで口をポカーンと開いてしまっている。無花果の幼馴染である修一は「その感想は論外だろ……」と戦慄していた。

 

だが修一は思い付く。放心するソーマにトドメを刺したいと邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 

「無花果。その酒を五つ星で評価するなら星は何個だ?」

 

 

「……二個半ですかね?」

 

 

「ゴフッ」

 

 

―――カンカンカンカンカンカーン!! 終了ゴングが鳴ったような気がした。

 

吐血はしていないが、ソーマは倒れてしまう。自分の神酒が星二個半と評価されたのだ。

 

数え切れない人たちを溺れさせた神酒を飲んでも無花果は酔っていない。そのことにリリは何度も目を擦ってしまうほど疑っていた。

 

 

「い、イチジク様? 大丈夫なのですか?」

 

 

「はい。全然問題ありませんよ。飲みますか?」

 

 

「飲みませんよ!? 何で平気な顔で勧めるのですか!?」

 

 

「でも美味しいですよ?」

 

 

「それでも飲みませんよ!!??」

 

 

お酒を拒絶するリリに無花果は少し残念そうな顔をしたあと、再びグラスに口を付ける。彼女が平気そうに飲んでいるせいで本当に神酒なのか疑ってしまう。

 

 

「と、とりあえず無花果。もう一度ソーマの奴に言ってやれ。なんか自殺しそうなくらい絶望していそうけど……」

 

 

強張った顔で修一が話を進めようとするが、肝心のソーマは床に倒れたまま動かない。状況が悪化している気がする。

 

 

「飲みましたよソーマ様。()()()()()人を惑わすのはやめてください!」

 

 

「さりげなく死体蹴りしたぞコイツ!」

 

 

何度かビクンビクンッと体を震わせたあと、ソーマはゆっくりと立ち上がる。生まれたての小鹿のように足は震えているが。

 

 

「……ヘス、ティア? ……どこにいる?」

 

 

「「「ッ!」」」

 

 

ソーマの口から出た言葉に三人が驚く。ソーマがヘスティアを探そうとする理由は一つ―――

 

 

「ヘスティア様は【ロキ・ファミリア】の拠点にいます! そこでお願いします!」

 

 

―――リリの【改宗(コンバージョン)】だ。

 

 

 

###

 

 

 

前【ファミリア】から脱団し別派閥へと移籍する再契約の儀式。それが【改宗(コンバージョン)】。

 

ヘスティア、リリ、ソーマは【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』の一室を借りて【改宗(コンバージョン)】を行っている。

 

その間、無花果と修一は客室で待っていた。もちろん、【ロキ・ファミリア】の皆も一緒である。

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

((き、気まずい……!))

 

 

神ロキを筆頭に一緒に椅子に座っているのはファミリア団長の【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。

 

深緑の長い髪のハイエルフは副団長の【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

豪胆な性格の髭を蓄えたドワーフは【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロック。

 

この三人はLv.6の冒険者。【ロキ・ファミリア】の三巨頭を前に、無花果と修一は―――!

 

 

((か、帰りたい……))

 

 

戦いの素人である修一でも分かるくらい三人からは強者のオーラが溢れている。今すぐ逃げ出したい。

 

だが逃げることは不可能。二人の座っている背後にも強者はいた。

 

神秘的な印象を持たせる金髪金眼の美しいヒューマン【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

腕を組んだ双子のアマゾネス。長い髪のアマゾネスは【怒蛇(ヨルムガンド)】ティオネ・ヒリュテ。短い髪のアマゾネスは【大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒリュテ。

 

酒場で無花果と争った【凶狼(ヴァナルガンド)】のベート・ローガ。ずっと無花果たちのことを睨み付けている。

 

完全に挟まれている状況に、無花果と修一はカッと目を見開く!

 

 

((帰りたい!!!))

 

 

―――……一難去ってまた一難。まだまだ休む暇はないようだ。

 

 

 

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