【ロキ・ファミリア】の団員に囲まれた無花果と修一。空気はとても重く、早く帰りたいと心の中で何度も呟いていた。
来客用に出されたお茶のカップを握ったまま虚空を見つめ続ける。中は空っぽだが、おかわりと言えるような雰囲気ではない。
「さて、これで貸し借りは無しでいいね?」
「は、はい。ご協力感謝します」
無言の空気を破ったのはフィン。無花果も急いでお礼の言葉を言う。
【ソーマ・ファミリア】との抗争の間、【ロキ・ファミリア】が協力してくれたのは理由がある。一つは酒場で起きたベートとの喧嘩。もう一つはベルとのダンジョンの探索だ。
この二つを盾にすれば【ロキ・ファミリア】は協力すると無花果は考えた。ベートとの喧嘩騒動のあと、無花果を囲んで泣かしたこと。そしてベルと接触させて勧誘しようと企んだこと。これらを水に流す代わりに協力することを話すと、フィンは快く受け入れた。
『俺は不味いと思うが……無花果がそう言うなら止めないけど』
だがこの案で唯一、最後まで頷こうとしなかったのは修一だ。ヘスティアは「ロキの奴と協力なんて絶対に嫌だ!」と駄々を捏ねていたが、最後は渋々頷いた。
修一の同意しない理由を聞いてみると、
『
『……あまり美男に嫉妬するのは』
『俺割と真面目に答えたんだけどぉ!?』
あの時は話をはぐらかしたが、無花果も同じようなことを感じていた。【ロキ・ファミリア】団長―――フィン・ディムナは何か企んでいるはずだと。
貸し借りのない【ヘスティア・ファミリア】に、何を提案してくるのか。そして断ることのできる材料が私たちに残っているのか。少しだけ怖かった。
「まさか【ソーマ・ファミリア】に戦争を吹っかけるとはね……」
「がははッ!! たった一人であの数を倒し切ったのか!」
「ガレス。この場は内輪だけではないんだ。抑えてくれ」
興味深そうに無花果たちを見るフィン、豪快に笑いながら頷くガレス、静かにガレスを注意するリヴェリア。
オラリオのトップレベルの第一級冒険者達に、無花果は苦笑いしかできない。
「どういう手を使って大勢の冒険者を倒したのか気になる所だけど、君は教えてくれないんだろ?」
「おい。そうやってまた無花果を苛めると泣くぞ?」
「な、泣きません!」
フィンが探りを入れようとするが、修一が止める。嫌な止め方をされたが、正直助かったと心の中で安堵する。
「すまない。でも
「……なぁ」
その時、【ロキ・ファミリア】の主神が口を開いた。全員の視線がロキの方へと向く。
「ウチ、空気になってへんか? 神なのに」
「ロキ。君が彼女に探りを入れ始めたら、それこそ泣かせるだろ」
「だ、だから泣きませんって!」
「そうか!? じゃあウチから一つ聞くけど―――!」
勢い良く体を乗り出すロキ。無花果と修一が焦るが遅い。笑顔だったロキの目は、鋭い目付きに変わっていた。
「———ベルの何が気になっているんや?」
「「ッ!?」」
核心を突いた質問に二人の息が止まる。
神の前では嘘がつけない。どれだけ誤魔化そうとしても、この神の前では嘘は無力であり、自分たちを追い込む爆弾になることだと分かり切っている。
詰まった息を吐き出し、すぐに無花果は答える。
「彼の強さです」
「んー? どういうこと?」
「短期間でLv.5の強さに辿り着いた秘密が知りたいのです。この目で彼の強さを見て、『異常』だと思いました」
無花果は真面目に答えているが、他の全員が「お前が言うな」という目をしていた。神から恩恵を授かっていない者が第一級冒険者に勝った方が『異常』だ。
だがロキはそんなことを口にせず、顎に手を当てて少し考えたあと、
「……確かに他から見たら異常や。ウチもステイタスを更新するたびに目を疑ったもんな。スキルと魔法がバンバン発現するもんやから」
「ロキ」
仲間であるベルのことを話すことを止めて欲しいのかリヴェリアが主神の名前を呼ぶ。
「心配せんでもええ。だって何もズルはしてへんで。
無花果と目を合わせながらロキは話した。そのことに無花果と修一は驚いてしまう。
こんな素直に自分の眷属のことを話すとは思わなかったのだ。団員たちも少し驚いた顔をしている。しかも、
(この人、嘘は言っていない?)
無花果にはロキが真面目な顔で断言しているように思えた。
発現の違和感に、顎を手に当てて考えていると、ロキはニコッと笑みを浮かべる。
「それじゃあ次はウチの質問に答えて貰おうかいな!」
「「!?」」
ロキの声に無花果と修一の顔は「しまった!?」と青ざめてしまう。自分の質問に答えた今、自分もロキの質問に答えなければならない空気が作り上げられていた。
下げていた視線をゆっくりとロキの顔に移す。覚悟を決めて、無花果は唾を飲み込む。
「な、何でしょうか」
「そんな怖い顔せんでええよ。ウチらが知りたいのは、『糸』や。ベルの強さを聞いたなら、そっちの強さの秘密も気になるやろ?」
「……分かりました」
無花果は身に着けていたカバンを開けると、手のひらサイズの銀色の円柱を取り出した。キラキラと輝く円柱に【ロキ・ファミリア】の視線が集まる。
銀色の円柱をよく見れば細かい切れ目が横に入っているのが分かる。そして、円柱の正体―――銀色の糸を巻き付けたリールのような物だと気付くだろう。
「これが私の武器―――『
「ガラス? ガラスって窓の?」
後ろから声を掛けたのはアマゾネスのティオネ。無花果は頷いて肯定する。
「同じガラスでも使われている素材は全く別です。詳しくは私も知りませんが―――」
無花果は銀色の円柱に手を伸ばすと、一本の糸を引き伸ばそうとする。
だが円柱から糸が離れた瞬間、あの目に見えない糸へと変化した。
「———
無花果はロキに向かって手を差し出す。見えない糸が乗っているのは分かっているが、どれだけ目を凝らしても見ることはできない。ロキは無花果の手を上で指を何度も探ることで掴むことができる。
「……確かに凄いなぁ」
真剣な顔で『硝子の糸』を触るロキに、無花果は釘を刺して置く。
「これはある人からの贈り物なので、入手方法などは私に聞いても分かりません。神のあなたならご理解できるかと」
「話の真偽はウチなら分かるもんな。分かった。この話は終わりやな!」
再び笑顔を見せるロキ。糸を無花果に返すと、すぐにカバンの中へと戻す。
「おい」
と同時に、無花果の後ろから声をかけられる。聞き覚えのある声に振り返るまでもない。
「何でしょうか、ローガさん」
鋭い目付きで無花果の背中を睨むベート。腕を組みながら言葉を続けた。
「お前の強さの秘密はこの糸だと言いてぇのか」
「……それ以外に何かあるのでしょうか」
「違うな」
間髪入れずに否定したベートに無花果はゆっくりと振り返る。二人の目が合い、嫌な空気が広がる。
「目に見えねぇ糸を巧みに操れるわけがねぇ。スキルでも魔法でも、説明できねぇだろ」
「……………」
「お前のような目をしていた奴は何度も見て来た。だから分かるんだよ」
「……結局、何が言いたいのですか?」
声のトーンを落としながら静かに無花果が口を開くと、ベートは少し面白そうに表情を浮かべた。
「———お前は、どんな地獄を見て来た?」
その質問に修一の体は凍り付く。そして、無花果の表情は誰から見ても怖かった。
目を細め、口を閉じ続ける無花果。無言のプレッシャーは、周りの冒険者たちにも嫌でも伝わる。
ベートはそのまま笑みを消し、ジッと彼女の瞳を覗き続けた。
―――サファイアの美しい瞳に、闇が忍び隠れているような……ベートからはそう見えていた。
「……地獄などありません。私の強さは、幼少からの努力。師匠が鍛えてくれたおかげです」
だがフッと嫌な雰囲気は消えていた。笑顔で答える彼女は、どこか不気味に感じてしまう。
ベートは気に入らなかったのか、鼻で笑ったあと部屋から出ようと歩き去ってしまう。
地雷を踏み抜いたかと思われていた他の冒険者たちも安堵している。フィンがベートの失礼を謝罪しようとした時、
「見つけたわ!!!」
バタンッ!!
「がぁ!!??」
部屋の扉が勢い良く開かれた。扉に手を伸ばそうとしていたベートは見事に巻き込まれ、壁の中にめり込んだ。
入って来たのは明るい黒髪にショートカットをしたボーイッシュな女性。賭博カジノのディーラーのような黒と白の服装に、胸元には赤いリボンが装飾されている。
そして、一番目立つのは頭の上に付いた黒いウサ耳だ。バニーガールが付けるような偽物ではなく、本物の。
「誰だい? 君は一体―――」
【ロキ・ファミリア】の団員では無いことに修一は驚く。彼らは鋭く目を光らせ、彼女を警戒していた。
だが一人だけ、女性の姿を見て驚きを隠せなかった。
「嘘、ですよね……」
ワナワナと震えながら無花果は口を動かす。
「どうしてここにいるのですか、
「ねえさん!?」
衝撃的な告白に、一同は騒然とした。
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―――楢原 牡丹。それは無花果の姉だった。
突然の訪問者に困惑していたが、今は無花果の隣に座ってコーヒーを飲んでいる。
「やっぱりお父様のコーヒーが美味しいわ。何億倍も」
「失礼な態度はやめてください。恥ずかしいですよ」
出されたコーヒーに文句を言う牡丹に無花果は首を横に振る。
「お父様の魅力を一番知らないアンタに何が分かるの?」
「姉さんこそ。もう少し男性の見る目を変えた方がいいかと思います」
「は?」
「はい?」
―――この姉妹、めちゃくちゃ仲が悪い。
バチバチと火花が散りそうなくらい睨み合う両者。これには【ロキ・ファミリア】も苦笑いだ。ベートはまだ壁の中にめり込んでいる。
「えっと、無花果? とりあえず落ち着けよ。な?」
「あら? あなたが
「そうですか愚妹ですか分かりましたこの野郎」
「無花果の口調がヤバイんですけど!?
怒りで体を震わせる無花果の目はヤバイ。ヤバイの一言に尽きる。
牡丹は余裕そうに足を組んでコーヒーの香りを楽しんでいる。不味いはずだったのでは? もしかして、無花果をイジめて美味しくなりました?
「……愚妹でも、私は姉さんよりマシなので」
「あら? どの辺がマシなのかしら?」
―――戦争は、突然始まる。
「母と違って胸が無いですよね(笑)」
「OK、表に出ろ」
二言だけで、二人の殺意がぶつかり、戦争が始まった。
無花果はカバンから銀色に輝く銃を取り出し、牡丹は金色のカードのような物を取り出した。
恐ろしく怖い顔をした二人は部屋を出て行こうとするが、
「いやいやいやいや!? 物騒な喧嘩するなよ!? 帰って来ぉーい!?」
……数分間、修一が必死に説得して再び椅子に座らせることができた。二人はイライラしているので、今度は距離を取って座っている。
「そもそも牡丹姉さんは何をしにここに来たのですか」
「ガルペスさんに頼まれた物をアンタに届けに来ただけよ。ほら」
どこから取り出したのか、いつの間にか牡丹の手にはリュックが握られていた。それを雑に無花果に投げ渡すと、イライラしながらコーヒーを飲み切った。
「それにしても最悪よ! 私がここに来るまで一週間もかかったのよ! 近くに降ろしてって頼んだのに、どれだけ海を渡り越えたと思っているの!?」
吐き出された言葉にピクッと無花果の動きが止まる。
「……牡丹姉さん。最初に辿り着いた村の名前を聞いてもいいですか?」
「何よ急に。確か……ベオル山地の『エダスの村』だったかしら?」
この時、彼女以外の人たちは察しただろう。修一と無花果は小声で話す。
(なぁ無花果。俺たちも通った村だよな。山道に慣れてなかったからオラリオ都市に着くまで一日かかったが……)
(遠い場所ではないです。決して一週間はかからない距離ですよ。むしろここの冒険者たちには……)
(((((すごく近い……)))))
何とも言えない視線を全員から感じた牡丹は、
「ね!? すごく遠い場所から来てるでしょ!?」
―――全員苦笑い。だが心の中では首を横に振っている。
ある程度は予想が付くが、牡丹を覗いた人たちは無花果を注目する。その意を汲み取るように無花果は口パクで、
『ほ・う・こ・う・お・ん・ち』
「方向音痴」―――その答えに「ああ、やっぱり」という反応を全員顔に出していた。
「牡丹姉さんと違って私は完璧なので。冷静かつ真面目に考えればもっと早くオラリオ都市に着きましたよ、姉さん」
(……いや、
声に出せば糸で吊るされるので言わない。修一は賢くなっていた。まる。
だが一人、「ん?」という顔をする人物がいた。
「聞いていいかな。さっき海を渡ったって……」
「さっきから変な質問ばっかりするわね。嘘じゃないわよ?」
「ね、姉さん! 用件はリュックだけですか!? でしたら早くお帰りになられたらどうかと!?」
明らかに焦った態度で姉を帰そうとする無花果。先程から頭の上で?が出まくりの牡丹は「本当にさっきから何?」と怪しんでいる。
この流れは不味い。フィンが牡丹の正体を確信する前に強引に追い出そうとするが、
「テメェ……さっきはよくもやってくれたな……!」
壁の中から脱出したベートの登場に無花果の呼吸が止まる。
ベートは牡丹の帰路を断ち塞ぐように立っている。怒りのオーラをあからさまに出している
「それは悪かったわ。でも今度からはドアの前で遊ぶのは危ないから気を付けなさい」
「誰が遊んでいるんだゴラァ!? 大体テメェ、反省してねぇだろ!」
「……………よし、反省したわ」
「適当に数秒で終わらせてんじゃねぇ!!」
相手を更に苛立たせる言動にベートは今にも手を出しそうだった。
無花果は祈る。お願いだから問題を起こさないで、と。
「喧嘩売ってんのか! 姉妹揃って俺を馬鹿すんのもいい加減にしろぉ!」
「私はした覚えがないのですが!?」
「あなたと私が喧嘩? 冗談じゃないわ」
すると牡丹は微笑みながら手で口を隠す。
「———弱い者イジメの間違いじゃないの? 子犬さん?」
「———後悔しろ」
ガラリと雰囲気を変えたベート。怒りから殺意へと変わった瞬間を目で捉えた。
刹那、瞬足を持つベートの姿は消失した。
彼の姿は瞬時に見つけることはできたが、驚愕するだろう。牡丹の背後に立ち、殴りかかろうとする彼の姿を目視するのだから。
周囲の人たちが止めようと腰を上げた瞬間、予想もできない出来事が起きる。
「「「「「ッ!?」」」」」
―――牡丹の右足が、ベートの顔横を捉えていた。
否。寸止めだ。そのまま回し蹴りでベートを蹴り飛ばすことはなく、ピタリとその場で静止している。
遅れて風を切る音が耳に届く。その光景に全員が驚きで言葉を失くすが、無花果だけが頭を抑えていた。
「一つ忠告するわねワンちゃん。ウチの妹を泣かすと―――」
牡丹のような紫紅色の瞳には、今まで隠していた怒りが込められたいた。
「———後悔するのはあなたよ?」
その低い声音はベートの戦意を喪失させるには十分だった。牡丹に殴ろうとしていた手は下に下がり、悔しそうに奥歯を噛む。
彼女の強さに、フィンの質問に説明が付いた。海を渡り越えるほどの異常な
(彼女の見えない糸とは訳が違う。蹴り上げる瞬間どころか
強い。全く見たことのない次元の強さを見せる姉妹にフィンは脳をフル回転させる。―――絶対に引き入れたいと。
「どうするフィン? このままでは帰ってしまうぞ」
「ガレスの言う通りだ。また逃してしまうぞ」
小さな声でガレスとリヴェリアが思考するフィンに声をかける。フィンは少し黙ったあと、納得するように頷いた。
「えぇ……お前の家族ってホントどうなってんの……?」
「あとで説明するので……今は牡丹姉さんを帰さないと―――」
無花果は牡丹の腕を引っ張りながら部屋から出ようとする。
「待ってくれないかな」
ドキッと無花果と修一の心臓が一瞬だけ止まる。二人にはフィンの声が苦手になりつつあった。
「僕たち【ロキ・ファミリア】と同盟を組まないか?」
「嫌です」
「嫌だ」
「そ、即答するんだね……」
全力で嫌がる二人にフィンは苦笑いするしかない。だがニヤリと少しだけ口端を吊り上げた。
「でも話くらいは聞いてもいいんじゃないかな? 今は対等な【ファミリア】同士なんだから」
あの悪い予感はここで現実となってしまう。貸し借りを無くした今、【ロキ・ファミリア】はこちらに遠慮などしない。
二人の逃げ場を無くすようにフィンは駒を動かし始める。
「利益は満足できると保障するよ。君たちの稼ぎより何百倍もあるからね」
「……お、お金は困っていますけど、危険を冒してまで手に入れないと状況では無いので」
「今回みたいに【ソーマ・ファミリア】との抗争だって僕たちが守ることができる。これは君たちも助かると思うよ」
「……二度と他の【ファミリア】と問題を起こさないように注意するので」
「たった今、その問題が起きそうとは思わないかい?」
「……………助けてください修一君」
「どこが対等だこれ!? 一方的にマウント取って同盟組もうとしてるじゃねぇか!」
遂に返す言葉を思い付かなくなった無花果。すぐさま修一が助ける為に噛み付くが、
「そうだよ」
「えっ……万策尽きたか……!」
「諦めるの早くないですか!?」
全く本気を出さずに二人を追い詰めてしまうフィン。あとは牡丹だけだと視線を移すと、
「何よその目? 私はオラリオ都市から出るわよ?」
「えッ」
―――こんなに呆気無くフィンの策が崩れると誰が予想したのだろうか。
手を振りながら面倒そうな顔をする牡丹。彼女は理由を説明した。
「だって早く帰らないと……お父様とのディナーに間に合わなくなるじゃない!」
「……ん? ん? それだけ、かい?」
フィンの動揺が明らかに声に出ていた。食い付くように牡丹は続ける。
「まだあるわよ! お父様の傍にいないと母様たちとずっとイチャイチャするかもしれない!」
全員の思うことは一つ。何当たり前なことを言っているんだこの人。
「そんなことをされたら―――」
そして、牡丹は誰も予想できない爆弾発言を投下した。
「———私とお父様の結婚が、遠くなってしまうわ!!」
―――全員の思考が、フリーズした。
冗談で言っている風には全く見えず、彼女は本気で焦っているように見える。
「それだけは駄目! NO! 私は母様たちに負けたくないの! だから今すぐにでも帰らせて貰うわ!」
牡丹の宣言に他の人たちの視線はスッと自然に無花果へと向けられる。
説明は不要だと思うが、無花果は簡潔で完璧な答えを出して見せた。
「———気持ち悪いくらいのファザコンです」
納得と同時に「マジか」という顔になる一同。特に修一は「無花果の家族、全員ヤバい説?」「どうして私もヤバイ人に含まれるのですか!?」「自覚が無いのは一番ヤバイ」と会話をしていた。
さすがの【
「気持ち悪い? それはアンタでしょ。あんなに素敵なお父様を嫌いになる理由が分からないわ」
「父親を恋愛対象にする方がずっと気持ち悪いと思いますよ」
「は?」
「は?」
「だから喧嘩するなよお前ら!? おい!? だから武器を持つな!?」
隙あらば姉妹喧嘩しようとする二人。しかも殺し合いに発展しそうな勢いの剣幕だ。
修一とフィンたちに喧嘩を止められた二人。牡丹は口を尖らせ、無花果は深呼吸すると、
「ふぅ……フィンさん。この人は無理ですよ」
「……君より引き抜くのは難しいのは分かったよ」
「理解してくれて嬉しいわ。それじゃあ帰るわね」
手を振りながら部屋の扉を開ける牡丹は最後に無花果に舌をべーっと出した。無花果がニコニコ顔で青筋を立てているのが分かる。
(嵐のような人だったなぁ……無花果だけに対しての被害が凄いけど)
方向音痴でファザコンという異質な属性を持った牡丹の登場に修一は疲れ切っていた。
(無花果と違ったベクトルで、めちゃくちゃ疲れたわ……)
まさかと思うが無花果の―――うん、家族構成を考えるのはやめよう。この先、絶対しんどくなる展開が見えて来たから。
というか、今はそんなことを考えている場合じゃない。目の前のことだ。
「———さて、話が大分逸れてしまったけれど」
フィンの声にビクッと反応する無花果と修一。標的が一人消えた所で、彼らの考えは変わらないだろう。
「同盟を組むことで、話を進めていいかな?」
強引に同盟を組ませようとするフィン。それだけ無花果の力を欲していることが分かる。
だが先程のように空気に呑まれた悪い表情ではなく、無花果はどこか覚悟を決めていたかのように見えた。
(いつまでも逃げているだけじゃ駄目ですよね。そんなことでは、
しっかりとフィンと目を合わせる無花果。ハッキリとした声で答えを告げる。
「同盟は組みません」
「答えは変わらないのかい?」
「ですが、提案をさせていただきます」
続けて出た言葉にフィンは眉をひそめる。真剣な表情で無花果は提案の内容を口にする。
「ダンジョンの攻略の支援―――到達階層の手伝いならお受けします」
牡丹の母親が一体誰なのか!? 全く分からないぜ!