どうやら私はいろんな世界に転生するみたいです   作:夜紫希

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『まだ』毎日更新。いつ切れるのでしょうか。


攻略不能の不可視

凶狼(ヴァナルガンド)】の二つ名を持つ第一級冒険者。ベート・ローガに喧嘩を売った者が居た。

 

騒動が起きた酒場では「命知らず」「火を見るより明らかだ」と可哀想な目で見られていた無名の冒険者―――無花果だった。

 

彼女に連れて来られた場所は噴水のある広い広場。酒場の騒ぎで駆け付けた野次馬以外、誰もいない。

 

 

「どこの【ファミリア】か知らねぇが、後から―――」

 

 

「ご安心を。【ファミリア】には所属していないので」

 

 

無花果のきっぱりした言葉に周囲がギョッと驚く。

 

あまりにも無謀過ぎる挑戦。舐められたと勘違いしたベートが吠えようとするが、

 

 

「おーいクソ犬! これで負けたらお前、最悪だぞー!」

 

 

「黙れクソ人形!! テメェ、本気で殺されてぇようだなぁ! 女だからって容赦はしねぇぞぉ!」

 

 

修一のヤジに怒りが最高潮に達する。「キャー怖いー!」とシルに抱き付いている修一君はあとで仕置き確定。

 

 

「本当に良いのかい」

 

 

「……何がだ?」

 

 

【ロキ・ファミリア】の団長であるフィンが修一に話しかける。彼は心配そうに彼女を見ていた。

 

無花果の防具は無し。ただ皮のブーツに黒タイツを穿き、黒と白のゴシック服を着ているだけだ。

 

 

「自慢じゃないがベートはとても強い。彼女も力を隠しているが、ベートには及ばないはずだよ」

 

 

「まぁ勝てないかもな」

 

 

「……へぇ」

 

 

修一が間髪入れずに答えたことにフィンは興味を持つ。

 

勝てないと言いながら、そのニヤリと笑った顔。眼鏡をクイッと上げながら、

 

 

「でも俺は勝てると思っている」

 

 

「自信満々だね」

 

 

「そりゃそうだろ。だってアイツ―――」

 

 

決闘の合図は、ロキが指で弾いたコインだった。

 

宙で何度も回転し、地面に向かって落ちる。

 

両者が睨み合い、開始の合図を待った。コインが落ちる直前、修一は呟く。

 

 

キンッ

 

 

「———クソ真面目だからさ」

 

 

ダンッ!!!

 

 

ロキの弾いたコインが地面に落ちると同時に勢い良く飛び出したのはベート。

 

目にも止まらぬ速さで無花果との距離を詰めた。【ロキ・ファミリア】随一の瞬足は無花果の目でも追えなかった。

 

 

ピタッ

 

 

だが、ベートの動きは止まった。

 

ベートの右回し蹴りが無花果の横顔に当たる直前だ。その光景に誰もがベートが寸止めをしたと思った。

 

 

「なーんだ。結局手加減してるじゃん」

 

 

「まぁ女の顔を蹴り飛ばしたらさすがにねぇ……」

 

 

予想通りと言った感じの光景にアマゾネスの双子がそれぞれ落胆する。が、アイズは首を横に振った。

 

 

「ッ……違う。ベートさんは動きを止められている」

 

 

「ああ、そのようだな」

 

 

アイズとハイエルフの女性の言葉に周囲の人たちの見る目が変わる。

 

無花果の顔は負けたと言っていない。焦った顔をしているのは寸止めをしていたベートだった。

 

 

「テメェ……!?」

 

 

「……………」

 

 

―――ベートの動きが、無花果に止められていた。

 

容赦無く蹴り出した足はピクリとも動かない。どれだけ膂力(りょりょく)を持ってしても、動くことはできなかった。

 

いつまでも動けないベートの姿に、全員の予想が裏切られた。こんな結果を予想できたのは修一だけだろう。

 

何も全く掴めない無花果の秘密にフィンは驚きながら感心する。

 

 

「驚いた……彼女は何をしたのか全く分からない」

 

 

「だろうな。教えて貰わなきゃ俺も理解できないもん」

 

 

期待に応えてくれた無花果に修一は満足する。特に悔しそうな顔をするベートは酒が美味くなる。この体じゃ飲めないけど。

 

表情を変えずに無花果は一度右手を横に振るうと、反対の手で小さなカバンから果物ナイフを取り出す。そして、

 

 

「チェックメイトです」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

彼女は小さな刃をベートの首に当てた。

 

―――【ファミリア】に所属していない無名の冒険者が、勝利宣言したのだ。

 

 

 

###

 

 

 

数秒後、ベートが脱力して負けを認めた。無花果はすぐにベートの拘束を解いた。

 

果物ナイフをカバンに直し、ホッと安堵の息をつく。決闘の原因である修一がこちらに向かって走って来る。

 

 

「無花果~! お前なら勝つと信じて―――!」

 

 

「やっぱり問題を起こさない為にドブネズミにしていいですか?」

 

 

「いやホントごめんなさい」

 

 

ペコペコと何度も頭を下げる人形。キョロキョロと辺りを見渡して本当にネズミを探していた。

 

二人のやり取りを見ていた【ロキ・ファミリア】は、

 

 

「フィン」

 

 

「分かってる」

 

 

誰かが何か言う前にロキが【ファミリア】の団長の名前を呼ぶが、フィンは無花果の元に向かっていた。

 

不機嫌になっている無花果と必死に謝る修一に、フィンは声をかける。

 

 

「何をしたのか……は、さすがに教えてくれないよね」

 

 

「———『糸』だ」

 

 

代わりに答えたのはベート。片膝を着きながら無花果を睨み付けた。

 

無花果は少しばかり嫌な顔をし、その答えに他の冒険者たちはベートの正気を疑う。

 

 

「本気で言っているのベート!? だって私たちには―――!」

 

 

「冗談じゃねぇッ! 目に見えねぇ糸で俺を縛っただろッ。答えろッ」

 

 

「えぇ……負けたのに何でこんなに吠えれるの……怖ッ」

 

 

修一は失礼なことを言っていた。ベートに強く睨まれ、ビビった修一は無花果の足の後ろに隠れる。

 

答えるかどうか迷ったが、バレているなら隠してもしょうがないだろう。

 

 

「はい。それが私の武器ですから」

 

 

「嘘……」

 

 

無花果の肯定にアマゾネス双子が驚愕で言葉を失う。

 

フィンは顎に手を当てながら先程の状況を整理する。

 

 

「僕たち第一級冒険者でも()()()()()()()……例えそれを使ったとしても、ベートの動きを止めることはできないと思うけど?」

 

 

「……これ以上私のことを話すつもりはありません。結果だけお伝えします」

 

 

無花果は修一の方に視線を送る。それを察した修一はベートの前に立つと、腕を組みながら告げる。

 

 

「お前の負けだ」

 

 

「ッッ……!!」

 

 

強く歯を食い縛りながら拳を握り絞める。悔しそうに自分の敗北を受け入れた。

 

 

「お前が散々馬鹿にして来た雑魚にやられたんだ。お前のように神の力を使わずにな!」

 

 

「でもこの糸は特別で―――」

 

 

「小さいことはいいんだよ無花果! それよりも―――」

 

 

眼鏡をクイッと上げた修一は大事なことを問う。

 

 

「———スッキリしただろ?」

 

 

「……はい。これで私のぬいぐるみは気持ち悪くないことが証明できました」

 

 

「だからそこぉ!!??」

 

 

無花果は修一を抱きかかえて満足そうに歩き出す。納得できない終わり方だが、本人が喜んでいるので良しとする。

 

だが、それを良しとしないのは【ロキ・ファミリア】だ。フィンが後ろから引き止める。

 

 

「回りくどいのは嫌いみたいだから単刀直入に言うよ。うちに来てくれないか」

 

 

「……断ります」

 

 

「そうは言っても簡単には逃がせない。それに、このままだと君の力は周りから欲しがられるよ」

 

 

第一級冒険者を無名の冒険者が圧倒した。そんな美味い話を「ふーん、そうかぁ」と聞き逃す神などいない。

 

野次馬たちの冒険者たちは勝負が付いた瞬間、猛スピードで自分の主神に報告しに行ったり、【ロキ・ファミリア】の後ろから誘う準備をしている。すぐに勧誘しないのは猛者が勢揃いした【ロキ・ファミリア】がいるせいだ。

 

 

「この都市に居る限り君に平穏な冒険者生活は送れない。例え【ファミリア】に所属できたとしても、執拗につきまとう神だっている。自分の物にするまで永遠にね」

 

 

「……………」

 

 

「僕たち【ロキ・ファミリア】なら君を守れる。悪くない話だとは思うんだ」

 

 

一通りの状況と説明をしたフィンは笑顔を浮かべる。だがフィンの脅しに近い提案に無花果は無言のままだ。

 

逃がさないように【ロキ・ファミリア】の猛者たちが無花果を囲うように移動していた。

 

【ロキ・ファミリア】が二人の言葉を待っていると、修一は「あっ」と声を上げた。

 

 

「駄目だ。これ完全にキャパオーバーだ……」

 

 

その瞬間、無花果はぬいぐるみに顔を当てながら―――

 

 

「うぅ……ひぐっ……どうして私はいつもこんな風にッ……!」

 

 

―――泣き出してしまった。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

彼女の涙に周囲にいた人たちがギョッと驚く。まさか泣くと思わなかったのだろう。フィンも言葉を失っていた。

 

 

「何で私をっ……そういう目で見るのですかっ……!」

 

 

「あー大丈夫だ。全然大丈夫。ホント大丈夫。誰もお前のことを責めているわけじゃないから」

 

 

「私は、間違ったことをしていないのにッ……最初に悪口を言ったのは向うなのにッ……!」

 

 

「そうだよな。そうだよな。悪いのは向うだよな。うん、分かる分かる。完全に理解した」

 

 

「あの時もッ……生徒会長になることを断ったのは勉学の為でッ……何様のつもりでも無いのにッ……!」

 

 

「やっぱり割と根に持ってたか……心配するな。お前は悪くない。悪いのは寄ってたかっていじめる奴らだ」

 

 

ポンポンと無花果の頭を撫でながら修一はフィンの方を向く。「泣かしたなこの野郎」と目で語っていた。

 

傍から見れば修一の言う通り、無花果を囲んで虐めているように見えた。

 

誰も何も言えないまま、フィンは修一の言ったあの言葉を思い出す。

 

 

『———クソ真面目だからさ』

 

 

(ッ……しまった、僕としたことが……)

 

 

勧誘の仕方を、対応の仕方を間違えた。それも悪い方向で。

 

彼はロキにそっと目配せして知らせる。意図を察したロキも納得はしていないが、仕方ないと首を横に振った。

 

 

「脅した言い方をしたことは謝る。今日はこれで引く。もし気が変わったり困ったことがあったら僕たちに言って欲しい。今日のことはベートを含めて()()()()()()()()()()。君たちは何も悪くない」

 

 

「そりゃそうだろうよ。とりあえず無花果に貸し一つな」

 

 

「ああ、そう言ってくれると助かる」

 

 

修一の言葉にフィンは頷く。周りの人たちは【ロキ・ファミリア】が無名の冒険者に貸しを作ったことに驚いていた。特にベートは「クソッ」と舌打ちしながら納得できていないようだった。

 

 

「話はまとまったぞ。ほら帰ろうぜ。帰る場所は無いけど」

 

 

「うぅ……はい……」

 

 

トボトボと背中を丸めながら無花果は歩き出す。その背中に声をかける者はさすがに誰もいない。

 

彼女が去ったあと、野次馬たちが散る。残ったのは【ロキ・ファミリア】だけだ。

 

勧誘に失敗したフィンは息を吐くと、隣に立った青年に問う。

 

 

「どう思う? 彼女のこと」

 

 

「……ここに来る途中、彼女の手は妙な動きをしていました」

 

 

「妙な動きかい?」

 

 

「恐らく、戦いが始まる前に糸を張り巡らせていたと思います。ベートさんの動きを止める為に」

 

 

彼の言葉にフィンは納得する。見えない糸を予め張って置くことでベートを簡単に罠に嵌めたのだ。もし戦いが始まると同時に糸を張り巡らせようとすればベートは彼女の動きに不審だと感じるはず。

 

場所を移したのはその罠の為なのだろう。第一級冒険者が気付かなかった無花果の動きに、青年は鋭い観察力で見抜いていた。

 

青年の言葉にベートは嫌な顔をする。彼女の去った方角を見ながら、

 

 

「チッ……次は俺の手で泣かす。絶対になッ」

 

 

「「「「「サイテー」」」」」

 

 

「勝負でって意味だッ!! ぶっ飛ばすぞお前ら!!」

 

 

激怒したベートは【ロキ・ファミリア】の団員を追いかけ回す。最初に捕まったのはロキだった。

 

その光景を笑いながら見るフィンと兎のような赤目と白髪の青年。

 

 

「君なら接触できるんじゃないか? 僕たちは嫌われているが、歳が近い君なら仲良くなれると思うんだ」

 

 

「まだ諦めていないんですね……」

 

 

「あの子は君と同じ逸材だ。今の【ロキ・ファミリア】は良い流れだからね。流れを止めたくないんだ。頼めるかい? ———()()()()()()()

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




おおっと!?

というわけで早速原作の流れがガラリと変わります。

追記、挿絵が増える度にニヤニヤが止まりません。
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