はい、この話で決まります。
【ロキ・ファミリア】の勧誘を断った無花果たちは街灯の無い暗い裏道を歩いていた。代わりに日本の街では見ることができない綺麗な星々が輝く夜空が広がっている。
だが今はそれに見惚れている場合ではない。今は表通りを歩きたくなかった。
ぬいぐるみで涙を拭いた無花果はまた修一に助けられたことを感謝する。
「あの、ありがとうございました……」
「礼を言われるようなことはしてねぇよ。とりあえず嫌な事は全部忘れろ」
恥ずかしがりながら礼を言うと、修一はいつものように笑顔を向けてくれた。
自分の過去を唯一知っている彼は、どんな時でも味方で居てくれていた。そんな安心感のせいか弱音が出てしまう。
「まだ私は弱い人間です。ずっと我慢していたのですが……」
多くの人に囲まれるといつもああなってしまう。直したいと、克服したいと思っているが上手くいかない。
そんな情けない自分を優しい彼は責めることはない。
「ゆっくりでいいっていつも言ってるだろ。お前は悪くない。そりゃお前が悪い時は俺が怒るが、
「……はい」
どれだけ励ましても浮かない顔をする無花果に修一は心配になる。抱きかかえられたまま周囲を見渡す。
(問題の原因は俺なのに自分の失敗のように思っていやがるな……いや、まずはこの状況をどうするかだ)
カッコつけて【ロキ・ファミリア】に喧嘩を売ったのはいいが、修一はかなり焦っていた。
【ロキ・ファミリア】の言っていた「神に欲しがられる」を思い出す。もし無花果の身に何かがあった時、無力な自分は何もできない。
面倒な事になる前に急いで【ファミリア】に入らなければならない。かと言って【ソーマ・ファミリア】に入るにも、どこにあるのかまでは調べていない。
(やっぱ【ロキ・ファミリア】に入る方が最善か? いや、でもなぁ……)
無い頭で必死に脳を回転させる。目が回るくらい考えた。
その結果、まずこの異世界に来る時のことを思い出した。
『成長しろ。転生した世界の中で、見つけれなかった物を見つけろ』
そう、ガルペスが無花果に送った言葉だ。
ピンッと一つの案が思い浮かぶ。無花果に取ってキツい試練になるが、成長することのできる試練になる案を。
(いや、だが!)
この案を無花果が好むはずがない。
だから心を鬼にして、無理矢理でも実行させなければならない。
絶対に嫌がるだろう。しかし、彼女が少しでも自分を変えたいと思うなら―――!
「無花果」
ピョンッと修一は無花果の腕から飛び出す。脇道に置いてあった木箱の上に乗り、目線を同じにする。
鼻を赤くした彼女は可愛く首を傾げる。ま、負けるな……俺は修羅となるのだ……!
グッと優しくする気持ちを抑えて、これからの行動内容を告げる。
「【ソーマ・ファミリア】に入るな。今からお前が入る【ファミリア】は―――」
「……【ロキ・ファミリア】ですか?」
「———全く無名の底辺の【ファミリア】だ」
「え?」
予想外の解答に無花果は驚く。それを気にせず修一は続ける。
「もう嫌だろ? そうやって泣いてしまうのは」
「……だって私は」
「悪くない。ああそうだ。お前は悪くない。なのにお前は泣いちまう」
修一はポフッと柔らかい足を踏み込んで弱気の無花果に強く告げる。
「
「ッ!」
「だから強くなろう! 無名の【ファミリア】を大きくして、周囲の人間にどれだけ言われても泣かない人間になろうじゃねぇか!」
「わ、忘れたのですか? 私たちの目的は―――」
「んなもんどうでもいいわ! ボールペンのキャップを探すついでに部屋の掃除するくらいだろうが!」
「そんな適当な目的じゃないですよ!?」
「真面目過ぎんだよ! 世界の危機? 【七つの大罪】? 知るか!」
眼鏡をかけ直した修一は真剣な表情で告げる。
「———そんなことより俺はお前の方が大事だ! 世界を救うより、お前の成長の方が嬉しいわ!」
「ッ!!??」
ドカーン!と爆弾発言をする修一に無花果の顔は真っ赤に染まる。
腰に手を当てながら「分かったか!?」と大きな声を出す修一に無花果は頷くことしかできない。
「よし! 分かったならいい! それじゃあ探しに行くぞ! 【ファミリア】を!」
「は、はい……!」
猛烈にやる気を出した修一にゆっくりと手を伸ばそうとするが、無花果は躊躇ってしまう。
(いいいい今の告白なのでしょうか!? いやいやそんなわけが! 私たちは昔からの幼馴染で別に付き合っているわけじゃなくて……そう親友! 親友として大事だと彼は―――!)
そんな様子がおかしい無花果を見た修一は額から汗を流した。
(不味い……俺が抱かれる感触を楽しんでいたことがバレたかも……)
―――残念ながらお互いの気持ちは、空回りしていた。
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「———今、【ファミリア】を探しているって言ったかい?」
その時、背後から声を掛けられた。女性の声に私たちは振り返る。修一君、ジョジョ立ちはもういいですから。
そこには
青いリボンの上に乗っている大きな胸だ。修一が小さな声で「ロリ巨乳だと……」と口にしていたので絞め上げる。
「ぐぇ!?」
「はい、【ファミリア】を探しているのですが……まさか?」
「そのまさかだよ! ボクが神だ! ……というか今、変な声が聞こえなかったかい?」
「ああ、これですね」
絞め上げていた修一を地面に落として雑な紹介をする。「二度と余計なことは口にしないでおこう……」とフラグを立てながら修一は立ち上がる。
「初めまして神様。俺は修一。今は無名で最底辺のクソ雑魚【ファミリア】を探している所なんだ」
「神を前になんて酷いことを言うんだ君は!? というかぬいぐるみが喋ってるなんて……!」
「それで、あなたの【ファミリア】はどんな感じでしょうか? 最強、オア、クソ雑魚?」
「聞・き・か・た! ああそうだよ! ボクの【ファミリア】は誰も入ってくれない底辺さ!」
「いや自分でそんな卑下しなくても……」
「引くなよ!? 君が言い始めたことだろ!?」
初対面だと言うのに神様と仲良く?話す修一に無花果は置いて行かれていた。この人、ぬいぐるみになってから更に心臓に毛が生えたのでは? 恐れ知らずにも程がありますよ……。
「あとで『実は最強【ファミリア】の神様でしたぁ!』とか言わないか? 本当に底辺か?」
「だから聞き方が酷いだろ君!? 正真正銘、無名の【ファミリア】さ!」
「うわ可哀想」
「泣くぞ!? 本気で泣くぞボクは!?」
このまま修一をまともに相手し続ければ終わりが来ないことを悟った神様は自分の豊満な胸を叩きながら、
「ああもう! 結局ボクの【ファミリア】に入るのかい!? 入らないのかい!? 入ってくれ!!」
「いや最後頼んじゃってるよ……どうする無花果? 話した感じ、悪い神様には見えないようだぜ」
「そ、そうですね……」
まぁ私は修一君が神様で遊んでいるようにしか見えなかったのですが。
そんな会話に神様は目をキラキラと輝かせ、私に抱き付いて来た。
「やったー! やっとボクにも初めての……! ありがとう! 歓迎するよ!!」
「は、はい……こちらこそ、ありがとうございます……!」
「あれー? 俺は? 可愛い俺のことはスルーなの?」
ぎゅうぎゅうに締め付けられた無花果は苦しそうに礼を言う。修一君、あなたの場所はありませんよ。
「そうと決まれば祝杯だ! 早速ボクの家で飲み明かそうじゃないか! お酒は昨日全部飲んだけどね!」
「あの、その前に!」
「そうだった! ボクとしたことが自己紹介どころか君の名前を聞くことも忘れていたよ!」
神様はくるんっとツインテールを振り乱しながら振り返る。
「———ボクはヘスティア! 今日から君は【ヘスティア・ファミリア】の一員さ!」
私たちの主神となる神様———ヘスティア様は笑顔でそう言った。
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「ここがボクの住む……いいや、今日からボクたち【ファミリア】の拠点となる場所さ!!」
お互いの自己紹介が済んだあと、泊まる場所が無いことを神様に説明すると「安心したまえ! 今日からボクと一緒に住めば解決さ!」と親指を立てたのでお世話になることになった。
主神の後ろをついていくと、ヘスティア様がババーン!と建物を紹介する。前を向くと、
「「うわぁ……」」
人気のない路地裏深くに建っているのはうらぶれた教会があった。
冗談抜きで二階建ての建物は崩れかけている。石材が砕け剥がれ落ちた外観に二人は言葉を失う。
「そ、その反応は傷付くなぁ……で、でも大丈夫! 下は綺麗だから!」
「下?」
手を繋ぎながらヘスティア様は扉の無い玄関口をくぐり、私たちも中に入る。修一君はヘスティア様の頭の上に乗っているが、元気な主神に振り落とされてしまわないか心配になる。
辛うじて原型を留めた祭壇の先にある小部屋へと進む。暗い部屋には書物の収まっていない本棚が連なっており、一番奥の棚の裏には―――地下へと伸びる階段があった。
「おお……秘密基地っぽくて俺は好きだぞ」
「だろう!? シュウイチ君は分かっているじゃないか! 友達に貰った物だけど、結構気に入っているんだ」
意気投合する二人に私は首を傾げる。その辺りの感性は分かりません。私的には、
「教会はリフォームはしないのですか?」
「おいやめろ優等生」
何故か怒られました。
深さの無い階段を降りきり、小窓から光が漏れるドアをヘスティア様は開け放った。
「ここがボクたちの部屋さ!」
地下室というには全く違う、生活臭のする小部屋だった。数箇所から綿が飛び出たソファー、木のタンス、キッチンのような物も配備されており、色と形の違う枕が何個もあるベッド、壁には灯りのランプが付いていた。
「……まぁ」
「……普通?」
「あっちょっと? その「こんなもんか」みたいな目はやめてくれるかい?」
テーブルの上に置いてあった食器をササッと洗面台に片付けながら神様はジト目で私たちを見る。私的には、
「後片付けぐらいは―――」
「ホントやめろ優等生。ヘスティアのライフはゼロだ。いや、女子力もゼロだが」
「だからやめてくれるかい!? 今度からちゃんと片付けるから!」
もはやは涙目で私たちを見るのでこれ以上は何も言わない。
ヘスティア様はテーブルの上に水の入ったコップと皿に上に何個も乗った揚げ物を並べると、
「それじゃあボクたちの出会いを祝して……乾杯!!」
「いや水!? 酒は無いって聞いていたけど水しかねぇの!?」
「大丈夫! シュウイチ君の水は水道水だが、イチジク君の水は天然さ!」
「変わんねぇよ!?」
「あの、それよりこの揚げ物は?」
「ふっふーんっ、これはボクのバイト先で
ドヤ顔で語る神様を見た私たちは察した。この【ファミリア】、金銭問題は深刻だということに。
「おいおい嘘だろ……神様がアルバイトって……」
「あっ、美味しい」
無名の【ファミリア】がここまで追い込まれていることに修一は戦慄。無花果はジャガ丸くんの小豆クリーム味を気に入っていた。
綿の詰まった頭を抱えている修一にヘスティア様は苦笑いで私たちに現状を教える。
「ボクの【ファミリア】に加わりたいという子は相も変わらず皆無だよ。ボクの名———ヘスティアが無名だからって」
「『恩恵』ってのはどの神から貰っても差はないんだろ? それなのにヘスティアの【ファミリア】になりたくないって……」
修一君はヘスティア様の体を見た後、納得した。
そう、この地で名を上げることは重要なのだ。誰だって強者のいるパーティーに入りたいと、【ヘスティア・ファミリア】のように食事や金に困っていない所にいたいと思うのは当然。それこそお酒が大好きな人は【ソーマ・ファミリア】に入りたいと思うだろう。
そのことに気付いている修一君は、
「ということは、
「ちょっと黙っていてください不良生」
全然気付いていないですね。あとで小一時間かけて説明した方がいいかもしれないですね。もちろん説教と一緒に。
「こんな可愛い神の下で働きたくないとか男たちの目は腐ってるだろ」などヘスティア様が喜ぶようなことばかり言ってフォローする修一君。だが神様は首を横に振った。
「ありがとう修一君。だからごめんね、君たちに大きな負担をかけるかもしれない。契約してくれるのは凄く嬉しいんだ。でも―――」
「そ、そんなことありません!」
落ち込もうとしていたヘスティアに無花果は大きな声を上げながら立ち上がった。
「だってヘスティア様は、私たちが来るまで頑張っていたじゃないですか! アルバイトをして、節約して、皆に声をかけて……そんな努力をして来たのですから!」
「イチジク君……!」
「あなたは優しい人です! あの道で私たちを騙して『恩恵』を与えればいいのに、わざわざここまで自分のことを説明して、私たちの負担のことまで考えて……!」
「少し落ち着け無花果。お前の言いたいことは、全部伝わってるから」
息を荒げながら言いたいことを言った無花果。彼女の言葉は止まってしまうが、十分だった。
感動したヘスティアは彼女の両手をギュッと握る。
「イチジク君、君ってやつは……!」
うるうると目の奥に溜めた涙をグッと堪えながら強く握り絞める。
「君みたいな子に会えてボクは幸せだ! 出会えた今日の日を祝日にしたいくらいさ!」
「はい!」
「よっしゃ!! 俺は飲めないが踊ることはできる! 括目せよ! 20曲以上のアニソンメドレーだ!」
「じゃあボクもとっておきの宴会芸を見せようじゃないか!!」
「よっ! 待ってましたぁ!」
そんな賑やかな光景に、今日の悪い出来事を忘れて、私は心の底から笑顔になれた。
こうして私たちは、【ヘスティア・ファミリア】に所属することになった。
やっぱり紐神ですよねぇ!!! ロリ巨乳万歳。
追記、挿絵が三枚付きましたよ!! この小説、えらいことになっていませんか!?