どうやら私はいろんな世界に転生するみたいです   作:夜紫希

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今年で小説は終わると思っていたのですが、まさか次回作を書くことになるとは……。

来年もこんな頭のネジが取れた作者のことをよろしくお願いします。


欠点だらけの無敵の初心者

「「うっわぁ……」」

 

 

霧が立ち込む中、目の前に広がる光景に修一とリリはドン引きする。無花果を中心とした辺りを埋め尽くすのはモンスターの死体だ。

 

 

 

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大型級のモンスターであるオークやシルバーバック、小型級のモンスターインプやバットバット。

 

様々なモンスターが無花果に襲いかかったが、全て返り討ちにされた。どれだけの数で無花果を圧倒しようとしても、無意味に終わる。

 

ダンジョンに入って初日でこの階層のモンスターたちを蹂躙(じゅうりん)するなど誰も思わないだろう。

 

 

「これで全部ですね。上層は余裕でした」

 

 

ここは既に―――12階層なのだから。

 

無花果の握り絞めた武器は一度も刃がモンスターに当たることはなかった。全て自前の糸で片付けてしまった。

 

しかも一瞬で戦いは終わっていた。群れで襲い掛かっても一度槍を振るえば数秒後にはモンスターの体は糸で切断されている。首が飛ぶか、細切れになるか。どれも怖い倒し方ばかりだった。

 

本来ならリリはサポーターとして冒険者の戦いで邪魔になる魔物の死体などを運んだりするのだが、無花果が戦闘で動く歩数はゼロなので無意味。蛾のモンスターのパープルモスの毒鱗粉(りんぷん)を浴びた時の為に解毒薬を用意していたのに、リリたちは浴びることなく戦闘を終えているので不要。

 

結局、リリの仕事は魔石やドロップアイテムなどを拾うだけ。あとはその戦利品の荷物持ちぐらいだった。

 

想像と違う楽なダンジョン探索と予想を遥かに越える成果のせいで喜ぶより先に引いてしまう。

 

 

「余裕でしたって……Lv.2の冒険者様でもそんなことは言わないですよ……」

 

 

「……えへへっ」

 

 

「無花果。多分照れるタイミングじゃないぞ」

 

 

 

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頬を朱色に染めてニヤける無花果に修一は真顔で違うと告げる。

 

モンスターが再び現れる前にリリは急いで死体の山から魔石を取り出す。その手際の良さに無花果も真似をしようとするが、

 

 

「あっ」

 

 

ブシュッ

 

 

「Oh! 目に血がぁ!!」

 

 

手元を狂わせてしまい、隣で見ていた修一君の眼鏡が盛大に血を浴びていた。

 

全てのモンスターから魔石を取り出すと、リリのバックパックが限界を迎えようとしていた。今にもはち切れそうで怖い。

 

 

「イチジク様。今日はこの辺りで撤退しましょう。初日でこれだけの魔石を集めれるのですから、明日はもっと稼げますよ」

 

 

サポーターの提案に初心者である無花果は素直に従う。

 

 

「分かりました。リリさんの言う通り、今日はここまでにします」

 

 

「め、目があぁ!!」

 

 

―――何も仕事をしていないニートの修一君は、ダンジョンから抜けるまでとてもうるさかった。帰ったら水洗いで落ちますから。

 

 

 

###

 

 

 

「よ、四万ヴァリス!!??」

 

 

ダンジョンから抜け出したあと、ギルドでリリと一緒に魔石の換金の仕方について教えて貰っていた。

 

ギルドの職員からお金を渡された瞬間、リリは大きな声で驚きの声を上げていた。

 

少ないのか多いのか、稼ぎの基準が分からない私はリリさんに尋ねる。

 

 

「えっと、普通のパーティーはどのくらい稼ぐのですか?」

 

 

「上層の五人組パーティーでも稼げる額じゃないですよ! 中層の五人組パーティーでギリギリ稼げるお金です!」

 

 

「な、なるほど……」

 

 

リリの気迫に自分たちの稼ぎは異常だとよーく伝わった。

 

そんな大金を得たことを聞いた修一は、

 

 

「今日はパーティーと洒落込もうじゃないか……『豊穣の女主人』でな!!」

 

 

「そんなにウエイトレスさんが見たいのですか? いえ、抱っこされたいのですか?」

 

 

「あの……顔が怖いです……」

 

 

別に怒っていませんよ。ただ、本当にドブネズミにでも【強制憑依】させて大人しくさせようかと考えていました。

 

ですが、今日は駄目です。この稼いだお金で、まず最初に(ねぎら)うべき人がいるのですから。

 

 

「今日は美味しい物を買って、神様に私の料理を食べさせますッ。いいですね?」

 

 

「おお! 料理か! それはヘスティアも喜ぶぜ! んじゃあ今日はそうしよう! で、そのあとに―――」

 

 

「行きませんよ。貯金です」

 

 

「………はい」

 

 

ズーンッと落ち込むが「まぁこれだけ稼ぎがいいならチャンスはあるよな」とすぐに元気になる。

 

 

「イチジク様。今日の報酬の話なんですが……」

 

 

「あ、はい。分かっています」

 

 

「回収した魔石とドロップアイテムは全てイチジク様にお渡しします。どうか(ふところ)を温めてください」

 

 

リリの提案に二人は驚く。それではタダ働きと変わらない。

 

さすがの修一も申し訳ないと思い、

 

 

「それはさすがに……貰った方がいいぞ? 別にここまで大金を手にする予定じゃなかったんだし」

 

 

「これでお二人の信用が得られるならお安いものです。今日はイチジク様の中でリリの価値付け、信用に足る相手なのか見極め―――」

 

 

「ダメです」

 

 

リリの言葉を(さえぎ)ったのは無花果だった。持っていた報酬金をキッチリと半分にしてリリに渡そうとする。

 

 

「あなたは私の倒したモンスターの死体から魔石を取り、それを運び、無知な私に様々なことを教えてくれました。あなたは立派にサポーターとしての仕事をしたのですから受け取るべきです」

 

 

「で、ですからリリは信用を得る為に―――」

 

 

「信用云々(うんぬん)の話以前に、私は働いたリリさんに労働金を支払う義務があります。それを放棄することはできません」

 

 

有無を言わさない無花果の発言にリリは困っていた。絶対に受け取らない。そんな強い意志が彼女の顔に表れていた。

 

 

「諦めろリリ。コイツの真面目な所は絶対に折れないぞ。大体、信用するから報酬を山分けにしているんだろ」

 

 

 

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「……リリは、何もしていなかったじゃないですか。お強いイチジク様の甘い蜜を吸っていた寄生虫ですよ?」

 

 

「アホかお前」

 

 

修一は腕を組みながらリリの前に立つ。小さくても、彼の心は大きかった。

 

 

「人の金で可愛い女の子を見に行く、俺の方が寄生虫だ!」

 

 

違う。ただ態度がデカイ人だった。

 

軽蔑(けいべつ)の眼差しで無花果は修一を見る。ハッとその視線に気付き、咳払いをして言い直す。

 

 

「ま、まぁその……なんていうか……一番仕事をしていない俺であって、重い荷物を運んでいたリリはお金を受け取るべきだというか……えーっと……うるせぇ受け取れ!

 

 

「「逆ギレ!?」」

 

 

最後はやけくそになってしまい、修一は無花果の腕に掴まる。言いたい文句は山ほどあるが、結局はそこだ。

 

 

「受け取ってくださいリリさん。もしリリさんが受け取らなかったら私自身の価値が下がりますよ。働いた人にお金を上げない最低な人だって」

 

 

「うっ」

 

 

無花果の意地悪な言い方にリリはそれ以上何も言えない。黙って無花果のお金を受け取り、フードを深く被り直す。それが照れ隠しだと二人は気付いてしまう。

 

無花果も少し照れてしまうが、修一はニヤニヤで悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「どうだリリ? このまま俺たちとパーティーの契約したりしないか? 儲かるぜぇ?」

 

 

「……考えさせて貰います」

 

 

「とか言って実は明日もぉ?」

 

 

「ああもう! 分かりましたからニヤけた顔でリリの顔を覗かないでください!」

 

 

そう言ってリリは走り去って行った。顔を赤くして。

 

無花果は仲間をからかった修一をチョップして静かにさせる。だがリリとまたダンジョンに潜れることを、楽しみにしていた。

 

 

 

###

 

 

 

両手でギリギリ持てるくらい食材を購入したあと、すぐに教会へ戻り、無花果は料理を始めた。

 

エプロンを着た女の子を後ろからソファで眺める修一。隣にはアルバイトを終えたヘスティアが料理を楽しみにしていた。

 

 

「凄く楽しみだよ! イチジク君の手料理なんて!」

 

 

「俺も初めてだから羨ましいなぁ。ちくしょう、味覚が欲しかったぜ……」

 

 

「オトンにしか料理をしたことがないので、こうやって人に料理を御馳走するのは初めてです」

 

 

「味の感想は不味かったとか、そういうオチじゃないよな?」

 

 

「ちゃんと好評でしたよ。苦労していた昔を思い出す懐かしい味だって」

 

 

「ズバリあれだね! お袋の味ってやつだね!」

 

 

会話も盛り上がりながら無花果の料理も進む。そして、食欲をそそる良い匂いがし始める。

 

 

「「……………」」

 

 

その時、修一とヘスティアの顔色が変わる。真顔だ。

 

いや待てと。これは食欲をそそる匂いなのか……いや、これは。

 

 

「できました!」

 

 

湯気の出た熱々の鍋を鍋敷きの上に置く。無花果の笑顔に修一とヘスティアは感想を述べる。

 

 

「「お、美味しそうだなぁ……!」」

 

 

 

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―――引きつった笑顔で。

 

二人の前に置かれた鍋から溢れる湯気―――いや邪気だ。完全にドス黒い。

 

中を見れば魔女の作る怪しい鍋と同じような光景が広がっていた。マグマのようにブクブクと泡が噴き、新鮮な食材を入れたはずなのに、紫色の液体に変色していた。

 

 

(あれ? 今日は、闇鍋だったか? それにしては……闇深すぎない?)

 

 

(深淵だよ。ボクたち、深淵を覗こうとしているよ)

 

 

無花果に聞こえないように小声で話す二人。全身から嫌な汗が流れ始める。

 

念のために、修一は聞いておく。

 

 

「きょ、今日は何鍋なんだ?」

 

 

「寄せ鍋ですよ」

 

 

(駄目だヘスティア。この鍋、呼び寄せちゃいけない物が入っている奴だ)

 

 

(そうみたいだね……神でも恐れる物が入っているようだぜ……)

 

 

鍋の中から邪神が出て来てもおかしくないレベルでヤバい。この時、修一は自分の体に味覚が無くて良かったと心の底から喜んだ。

 

無花果が皿を持ち、お玉で鍋の中をすくう。が、真面目な彼女は「あっ」と気付き、ヘスティアに笑顔を向ける。

 

 

「この中で苦手な食べ物とかありますか?」

 

 

(シュウイチ君、この鍋には何が入っているんだい?)

 

 

(その前に鍋の中身を分かりたくねぇよ。とりあえずモンスターは入ってないから安心しろ)

 

 

(……モンスターが入っている方が納得できるのにね)

 

 

「ヘスティア様?」

 

 

「うぇ!? そ、そうだなぁ……食べれる物なら大丈夫だよ?」

 

 

「苦手な物は無いのですね。それは良かった。全種類、楽しんでくださいね」

 

 

((どこだ……食べれる物……どこだ……?))

 

 

楽しいはずの食卓が地獄に変わりつつあった。どれだけ鍋の中を見ても、食べれそうな食材は見えない。

 

 

(どういうことだよ。無花果の父親は好評だったんだろっ。それがこれって……)

 

 

(イチジク君の家庭は複雑そうだと思うよボクは……)

 

 

二人の会話は無意味。そして、時はやってきた。

 

 

「冷めない内に食べましょうか」

 

 

「ワ、ワーイ、ウレシイナー……」

 

 

「ダメだヘスティア! 女の子がそんな顔をしちゃいけない! 目が死んでるぞ!」

 

 

騒々しい二人に状況が分かっていない無花果は首を傾げる。先に口を付けようとしたのは無花果だった。

 

そのことにビクッと反応する二人。起死回生の一手を打つチャンスだった。

 

 

(もし無花果が不味いと気付けば!)

 

 

(ボクたちは食べなくて済むかもしれない!)

 

 

無花果の顔をジッと見つめ、食べるのを待つ。そして、禍々しい食べ物を口にした瞬間、

 

 

「ん! 今日も美味しくできています!」

 

 

((音痴(おんち)!!??))

 

 

そんな馬鹿な!?と目を疑う。だが修一はある可能性を思い付く。

 

 

(み、見た目だけかもしれない! 見た目はアレだが、味は美味い可能性がある! 特に漫画やアニメで見たことがあるぞ!)

 

 

(何を言っているのか分からないが、美味しいってことだろ! だったら―――!)

 

 

ドロリッとした食材?をスプーンですくい、ヘスティアは覚悟を決める。パクッと!!

 

 

「うん、美味しい!」

 

 

 

バタンッ

 

 

「へ、ヘスティアああああああああああああァァァ!!!」

 

 

―――即落ち二コマ級に神は逝った。

 

ソファに倒れ込み、口の中は闇に染まった。修一の挙げた可能性は、簡単に裏切られた。

 

だが心優しいヘスティアは無花果のことを傷つけられない。口からスープを少し垂らしながら、彼女に笑みを向ける。

 

 

「昇天しそうなくらい美味しいよ……イチジク君……ガクッ」

 

 

「ヘスティアああああああああああああァァァ!!!」

 

 

希望の花~♪と聞こえそうな倒れ方をしている神様。いや団長。一歩も進めず倒れていましたよ。止まってんじゃねぇよ。

 

 

「そ、そんな大袈裟な……でもオトンと同じことを言うなんて」

 

 

祝、二人目の犠牲者はヘスティア。一人目は無花果の親父さんだったもよう。

 

照れながら鍋の物を食べる無花果が狂人にしか見えない。真面目な奴なのに、どうしてこうなった。普通、真面目なキャラって美味しい料理を作るよな? 調味料の分量とか他の人より気にして料理するんじゃねぇのかよ。

 

悲劇の一部始終を目撃した修一は心の中で決意する。この先絶対に、彼女にはキッチンに立たせないと。

 

 

(ヘスティア……お前の犠牲は無駄にはしない。必ず俺が、止めてやんよ!)

 

 

(頼んだぜ……ボクの可愛い子を……)

 

 

忘れない。神が勇敢に戦ったことを。

 

絶対に忘れない。無花果(コイツ)の料理が殺人兵器だということを。

 

 

「修一君も、元に戻ったら食べさせてあげますからね!」

 

 

「ワ、ワーイ、ウレシイナー……」

 

 

これが、死刑宣告というやつですか。

 

眼鏡の先にある修一の目も、死んでしまっていた。

 

 




皆様、よいお年を。

追記、はい絵が素晴らしい。皆様、感謝の祈りを捧げましょう。
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