今年もアホみたいに書くので呆れないでください。これが私の小説なのです。
―――『無花果の闇料理事件』から一週間が経った。
ダンジョンに潜る際はサポーターのリリと一緒に行動した。初日と同じように上層のモンスターを狩って稼いでいた。
無花果があまりにも簡単にモンスターの群れを屠るのでリリから他のパーティーの迷惑にならないように狩り過ぎないように注意されてしまった事もあった。まぁ五万ヴァリス、六万ヴァリスと金額が上がるにつれて確かにと思う。
だが修一の目論見通り、無花果の成長とリリと楽しく話す姿を見て満足していた。これなら仲間もどんどん増えて、賑やかになることも遠くないだろうと。
「———考えは甘かったけどな」
「ひぐっ……ぐすっ……!」
修一の体は、また無花果の涙拭きになっていた。
ダンジョンの一階層を歩きながら溜め息をつく。隣に歩いたリリも困った顔になっている。
「今日も……でしたね……」
「あの馬鹿共は何で諦めてくんねぇのかなぁ……」
無花果の泣いている原因はまたしてもキャパオーバー。泣いた理由はこのダンジョンに来る前のことだ。
噂通りの強さを持っている無花果のことを聞いた神たちが勧誘しに来たのだ。ただの勧誘なら無花果もきっぱりと断ることができる。だが、奴らには遠慮と言う物がなかった。
マシンガンの如く無花果に向かって勧誘する神たち。その部下たちも必死に勧誘。取られないように勧誘勧誘勧誘―――もう宗教とかN〇Kより酷かったぞアイツら。玄関の前に立って欲しくねぇわ。
「そりゃ泣くよ。俺でも半泣きになるわ」
「さすがにリリも、泣くと思います……」
「何でッ……できないって言ってるのにッ……話を聞いてくれないんですかぁ……!」
同情しかできない。こうやって俺たちが慰めてやることしかできないのが辛い。
そして今日、三日連続この調子である。勧誘が始まった最初の一日目はダンジョンに潜ることができず、リリに抱き付いて泣いてしまっていた。
まぁ神も外道とまではいかない。泣いた女の子の顔を見ればすぐに撤退する。今日は特に「はい泣いた! 撤収!」とか慣れた神がいて、イラッとしたがな。
「……ここまで来ると、イライラするな」
「リリもですシュウイチ様。あんなの、許されませんッ。ギルドに報告して警告して貰いましょう!」
「その手もありだが、もっと有効な手を打ちたい。とすれば……」
眼鏡をクイッとして鼻水を拭く無花果の顔を見る。
「やっぱり無花果が効果的だな」
―――眼鏡特有の賢いアピールをするが、「馬鹿っぽいですよ」「リリもそう思います」と言われてしまった。
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作戦を教えて貰ったあと、今日も普通通りにダンジョンから帰る。その途中、待ち伏せしていた神たちが一気に押し寄せる。
「イチジクちゃーん! 俺の【ファミリア】に入って———」
一人の神が無花果に話かけた瞬間、彼女は鼻をつまみながら笑顔で告げる。
「息が臭いので二度と近づかないでください」
「———ゴフォ!!」
粉砕された。
罵倒された男の神はその場で盛大に転び倒れる。決して死んではいない。
オーバーリアクションで倒れた神の
「君が欲しい。ぜひ僕の【ファミリア】に―――」
「生理的に無理なので消えてください」
「———あふんッ」
玉砕された。
これまたオーバーリアクションでイケメンっぽい神は薔薇と共に散る。
さすがに周囲の神も気付いただろう。今までの無花果とは違うことに。
彼女は一歩前に踏み込み、グッと拳を握り絞める。プルプルと震えるくらい。
「れ、礼儀も常識もわきまえない神って、本当に気持ち悪いですよねー!」
「「ねー!」」
「死んでしまえって思いますよねー!」
「「ねー!」」
彼女の後ろでは修一とリリが同意するように声に出していた。
ちなみに手が震えているのは怒りではなく、人に失礼なことを言っていることに対して我慢していた。ダンジョンの中で作戦を聞いたあと、滅茶苦茶嫌がっていたのだ。
だが修一が「お前が頑張らないと終わらないぞ? ヘスティアにも迷惑がかかるかもしれないぞ?」とイジワルなことを言うと、彼女はやることを決めた。
(本当にこんなことでやめるのでしょうか?)
(俺ならやめる。こんだけ女の子にボロクソ言われたら立ち直れる自信ねぇもん)
(……それはシュウイチ様個人の感想ですよね?)
(全人類の感想だ)
(……………)
リリは思う。多分、駄目な気がすると。
無花果はトドメを刺すかのように笑顔で周囲を見渡す。
「そんな神様は、もういないですよねー?」
「「「「「い、いないでーすッ!!」」」」」
神様たちも理解したのだろう。無理強いする勧誘では無花果を【ファミリア】に引き入れることは無理なのだと。
無花果が歩き出すと波が割れるように神たちは下がる。三人は堂々と神様たちの間を抜けることができた。
自分たちが立ち去ったあと、怯えた声が聞こえて来る。
「こ、怖ぇー!」
「イチジクちゃんってあんな性格なのか!?」
「わ、私……大丈夫だったかしら」
「……………でも、ありだよな」
「「「「「分かる」」」」」
いや駄目だこれ失敗だ。三人は同時に額を手で抑えた。誰だMな神。お前のせいで全部が台無しじゃねぇか。
しかし、結果は予想と大きく変わる。
「もうやめた方がよくね?」
「だよなー。散々泣かしちゃったし、ああまで言われたら誰の【ファミリア】にも入りそうにないよな」
「私も帰ろっと。あの子ばっかり付きまとっていたから、子どもたちが嫉妬しちゃっているわ」
「僕も帰るかなぁ」
意外な事に解散して行った神たちに、三人は驚いてしまう。
ここ三日間、話が通じないと思っていた神たちが素直に諦めたのだ。
「「「……………」」」
思わず顔を合わせてしまう。とりあえず言えることは、
「神様って、分からないですね……」
「……だな」
「自由過ぎるというか、何というか……」
そして、三人の感想は息が合った。
「分からないです」「分かんねぇな」「分からないですね」
結論、分からない。以上。
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「じゅ、12階層!!??」
大きな声を張り上げたのはギルドの職員であるエイナだ。目を見開き、無花果の得た報酬金を見る。袋には3万5千ヴァリスが入っていた。
彼女は無花果が強いという噂は当然耳にしていた。だが初心者丸出しで戸惑っていたあの時の彼女を見て、何かの間違いなのだろうと決め付けてしまっていた。
だからこうして、魔石の換金で得た金額に驚いてしまっている。
「驚くのは分かるが、周りに迷惑だから声は小さくしようぜエイナさん」
「ご、ごめんなさい……」
すぐにエイナさんは口を抑えて謝る。無花果も「いえいえ!」と大丈夫だと伝えた。
普通じゃない異常な結果に彼女は両肘を机に突きながら考え事をしてしまう。
「こんなこと、あの子以来だわ……どうしてイレギュラーなことはこうも私だけ突然起きるの……」
(あの子……?)
「うーん、とりあえず中層の進出はサポーターの言う通り、行かない方がいいわ。イチジクさんがどうしても行くって言うなら中層に必要な装備を整えて、仲間を増やすべきかな」
無花果たちが相談しに来たのは中層。12階層より下への進出のことだ。
リリにそのことを聞くと、無花果には必要ない強さだが、しっかりと万全に装備を整えてから行くべきだと注意された。そしてこのまま中層まで進出することになると、今までより悪目立ちするとセットで言われた。
「仲間ですか?」
「イチジクさん。普通はパーティーを組んでダンジョンを攻略するの。いくらサポーターが傍にいるからって、ソロで戦って良い場所じゃないの。そういうことができるのはレベルの高い冒険者だけ」
姉のように注意してくれるエイナさんに無花果はしっかりと話を聞く。ダンジョンでの常識が所々抜けてしまっている彼女の為に、細かく説明を挟んでくれている。
「悪目立ちを避けたいなら仲間は必須。強さを見せつければそれだけ注目を浴びるの。稼げるお金は減るけど、負担が減るのは悪いことじゃないでしょ?」
「エイナさんエイナさん」
机の上に立った修一がゆっくりとエイナに近づく。そして手を口に当てて、
「コイツ、今まで友達が俺以外できたことがないからムリやで」
はいチョップ。
失礼なことを言う悪党に制裁を下したあと、私はエイナさんの方針に従うことにした。
「分かりました。それまでは上層でモンスターを狩り続けます。目立たないように細心の注意を払いながら」
「よろしい。頑張ってね。いろいろあったけど、私は応援してるから」
「はい!」
笑顔で返事をしたあと、無花果は潰れた物を乱暴に掴んでギルドを去った。
気は弱いが、頼れそうな背中を見てエイナは思い出す。
自分の担当していた可愛い冒険者のことを。
「あの子も、元気にしてるかな……」
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無花果のパーティーは上層でモンスターを狩り続ける日々を送っていた。
「今日はこのくらいで引き上げましょう」
「分かりました。修一君、帰りますよ」
「待て。魔石がもう少しで……とったどーッッ!!」
稼ぎ良し。安全良し。無花果の存在はそれだけ大きかった。今ではリリも無花果の固定パーティーとして参加するようになり、修一は少しでも働く為に魔石を取る練習をしていた。ちなみに今ので三個目。凄く遅い。
それでもウツボでも
「ドブネズミにならなくて良かったですね」
「ホントな! 働かなかったらドブネズミにするとか二度と脅さないでくれ!」
「明日は五個お願います。無理だった場合はドブネズミの刑です」
「マジでやめろよ!?」
順々にハードルの高さを上げるやり方に無花果の真面目さが伝わる。そんな二人のやり取りを見ながらリリも笑ってしまう。
「帰ったら飯屋に行こうぜ」と修一が提案したり、「また目の保養目的ですか?」と無花果は呆れたり、「美味しいお店ならリリに任せてください」とリリが胸にポンッと手を当てたり、ダンジョンの中だというのに賑やかだった。
「それにしても、イチジク様は強さは今でも信じられないです。『
「『
修一の疑問にリリは詳しく答える。
「ご存知かと思いますがLv.1の冒険者からLv.2の冒険者になる期間は普通、年単位でかかります」
「そうなの?」
「私は知っていましたよ修一君」
「……帰ってちょっとだけ勉強します」
「ですが八年前、たった一年でレベルを昇華させた人がいました。それが【ロキ・ファミリア】の【
無花果たちはその女性を知っている。あの『豊穣の女主人』で起きた騒動、金髪の女性冒険者のことだ。
「今では【ファミリア】の幹部でLv.5の冒険者になっているので納得できますが、少し前に『
「異常って言うくらいだから半年とか?」
修一の予想にリリは首を横に振る。そして、信じられない言葉を耳にする。
「半月です」
「……は?」
「僅か半月で、
大きく塗り替えるレベルの話ではない。圧倒的な早さで『
ダンジョンに潜ったばかりの初心者である二人にも分かる異常な早さだ。
「そ、それは確かに異常な記録だな」
「話はそれだけではありません。それからLv.3、Lv.4、Lv.5と信じられない速度でステイタスを昇華させているのです」
「「……………」」
その話に二人は気付くだろう。リリの話す『異常』と『信じられない』と、話を聞いてあの可能性があると。
人から見て『逸脱』していると、世界から見て『
(【七つの大罪】……関係している可能性としてありますね)
(ああ、こんなに早く目星が付くとは思わなかったぜ)
二人はリリに聞こえないように話す。考えていることは同じだった。
詳しい話が聞きたい。リリにどういう人なのか聞くと、
「———【ロキ・ファミリア】所属、ベル・クラネル様です」
「「うわぁ……」」
「ど、どうしてそんな嫌な顔をするのかリリには分からないのですが……」
それは無花果たちが問題を起こした【ファミリア】だからだ。嫌な顔をするのは当然だった。
あまり聞きたくないと思いつつも、情報は欲しい。耳を塞いでいた手を下ろす。
「彼の『
「英雄、ねぇ……」
「他にお聞きしたいことはありますか?」
ある程度の情報を得ることができた。無花果は首を横に振り、お礼を言いながら話を終える。
ベル・クラネル。その名前を忘れないように何度も頭の中で呟く。
(目星ができたわけであって、見つけた確証はない。まだ連絡はできないですね)
首から下げたダイヤモンドが埋め込まれた綺麗な十字架を見ながらガルペスの言葉を思い出す。
『見つけたらそれを握って祈れ。絶対に【七つの大罪】に戦いを挑むな』
戦いを挑むな。それは自分自身の心配なのか、或いは【七つの大罪】の危険視なのか―――?
「イチジク様? どうかしましたか?」
「ッ……いえ、大丈夫です」
ボーッとして考え事をしていた無花果にリリが声をかける。すぐに返事をして問題ないことを伝えた。
それから何十匹かモンスターを倒しながらダンジョンから抜ける。ギルドで魔石を換金して一日の仕事を終えた。
リリと共に食事を楽しみ、「明日はお休みでお願いしますね!」とリリの予定を聞いてから今日は別れた。
「帰りましょうか」
「ヘスティアの土産に何か買ってから帰ろうぜ。俺たちだけ美味い飯食っていると、アイツ嫉妬するだろ」
「そうですね。帰ったら何か料理を―――」
「そうだったぁ!! ヘスティアはジャガ丸くんが食べたいとか言ってたなぁ!!」
「え? この前は少し食べ飽きたと言っていたような―――」
「ほ、本当だって! ほら早く買いに行こうぜ!?」
突如始まろうとしていた無花果の闇料理を止めながら歩き始める。ヘスティアの命を救うことができた修一は安堵の息を吐くと、
「イチジクさんですよね?」
無花果の背後から青年が声をかけてきた。
振り返るとそこには兎のような赤目と白髪の青年が立っていた。優しそうな雰囲気を漂わせているが、無花果の目は誤魔化せない。彼は、強者だと。
肩と胸を守る銀色の鎧。右手は剣を持つからか金色の
「おいアレって……!」
「【
いや、目立っているのは装備ではない。彼の存在だ。
周囲の話し声で青年の正体を知る。無花果たちがまさに追うべき人が、こちらに来たからだ。
「あなたが、ベル・クラネルさんですね……」
「はい! 知ってくれて嬉しいです!」
「今日はどのような御用で? 私は既に【ファミリア】に所属しましたよ」
笑顔で答えるベルに無花果は顔色一つ変えずに勧誘を前もって断る。だがベルの笑顔も崩れず、目的を話した。
「———明日、僕とダンジョンに潜ってくれませんか?」
意外過ぎるベルの誘いに、二人は驚くしかなかった。
毎日更新が途切れそうです。ホントすいません。
追記、私も挿絵が楽しみで仕方ないです。凄いですよね、この短時間でこの枚数は。