BALDR GENESIS EXE~Revive of Future World~ 作:デスイーター
「管理、AI……? 遺跡に、そんなものが…?」
俺は目の前に現れた虚像、遺跡の管理AIを名乗ったナノハと称する少女をまじまじと見つめる。
AI・ナノハはにこにこと笑みを浮かべており、こちらの反応を伺って何かを思案している様子だった。
その様子は屈託のない年頃の少女そのもので、AIの常識を知る側としては困惑してしまう。
AIとはArtificial Intelligenceの略称で、無機AIと有機AIが存在するが、基本的には有機AIの事を指し示す。
有機AIは自己進化するバイオチップの塊で、アルゴリズムによって問題の解決を行う無機AIと異なり、
現在仮想空間は、この有機AIによって制御されており、人間に合わせた
つまり人間とはまた違った
シティの管理AIである『アダム』は壮年の男性の彫像の姿を自己イメージとして表してスズシロの運営に関わっているが、それでも目の前の少女のような、
『AIにしては、感情豊かね。私達の知るそれとは別物に見えるわ』
『あ、そうだよね。実は私は正式にはAIと言うより一種の再現体で、貴方達が
そう告げると、ナノハは何処か恥ずかしそうに笑みを漏らす。
『ナノハっていうのはその元になった人物の名前で、他に名乗る名前もないから便座上名乗っているけど……それ以外の名前で呼ばれると違和感があるし、ナノハって呼んでくれると嬉しいな』
有栖の疑問に答えたナノハの言葉に、俺達は息を呑んだ。
過去に、しかも先史文明の時代に生きた人間の、再現体……つまり目の前の虚像の少女は、滅びたと言われる時代の人間が残した記録そのものなのだ。
そのような存在であれば、謎に包まれた先史文明の事を色々聞けるかもしれない。知識欲が沸き上がり、自然と口が開いていた。
「じゃあ君は、先史文明の時代の記憶を持っているのか?」
『記憶、じゃなくて記録なら持ってるよ。簡単にでよければ説明するけど、聞いていく?』
「勿論!」
俺はナノハの問いに目を輝かせて即答し、その様子を見て有栖はくすり、と笑っていた。
知識欲旺盛な俺の様子を見て、子供っぽいとでも思ったのかもしれない。
ともあれ、今は目の前の少女から話を聞く事こそが重要だ。俺は口を閉じ、ナノハが語り始めるのを待った。
『……私に残された記録を、そのまま言葉にするね。君達が先史文明と呼ぶ時代では、度重なる戦争で大地は傷付き汚染され、それでも現実と仮想双方で終わらない争いが続いていた。環境汚染は最早末期で、世界中に厭世観が満ちていたの。そんな中、環境を浄化し大地を再生させる為、とあるナノマシンが生み出された……そのナノマシンの名称は、
「……っ!?」
アセンブラ、その名前を聞いた瞬間、俺の脳裏に痛みが奔った。
それはまるで、忘れてはいけない単語をいきなり聞かされたかのようであり、その痛みに顔を顰める。
しかし幸か不幸かナノハは説明に夢中で俺の様子に気付いていないようで、そのまま話を続けていた。
『とある学者によって生み出されたアセンブラは、その機能が正しく使われれば世界に光明を齎す
「灰色の……」
『……クリスマス……』
俺と有栖はナノハが語ったその単語を復唱し、知らず険しい顔になっていた。ナノハはそのまま、その
『アセンブラは研究所でのデモンストレーション中に暴走
そこまで話すとナノハは一度息を吐くような動作をして、俺達を見詰めた。
悲惨な事件の概要を語るナノハには妙に鬼気迫る様子があり、俺達は無言のまま彼女の話を聞いていた。
もしかしたら、彼女の元となった人物はその『灰色のクリスマス』という事件で大切なものを失くしたのかもしれない。
その無念が、再現体である彼女に影響を及ぼしているのかもしれなかった。
『……でも、聞く限りだとその事件では人類滅亡まではいかなかったんでしょう? 先史文明の滅んだ原因は、なんだったの?』
有栖の言葉に、俺はハッとなった。そう、彼女の話によれば
そのまま増殖を続けたのなら人類が滅んでも不思議ではないが、手段はどうあれ食い止められたのであれば人類が滅ぶ理由にはならない筈だ。
『……
「……っ!」
グレイ・グーとは、ナノマシンが地上を覆う事で引き起こされると想定されている大災害の名称だ。
それが起こったという事は、つまり…
『……詳細は省くけど、灰色のクリスマスを引き起こしたものと同一の存在が、再びアセンブラを暴走させたんだ。その時は色々あって対地射撃衛星群の照射も間に合わず、人類文明はアセンブラによって息絶えた。私の元となった人物を含む、一握りの人間達を残してね』
ナノハはそう告げると何処か寂しげな、それでいて懐かしむような表情を浮かべた。
『……生き残った私達も、自分達だけで文明を再興する力なんて残ってなかった。だからこそ、後の世界で生れ落ちる人類が可能な限り発展出来るように、この遺跡を残したんだ』
「……なんで、こんなダンジョンみたいなものを残したんだ? 人類を発展させたいなら、記録データだけを残した方が簡単だろう?」
確かに、ただ文明を発展させたいだけなら記録メモリを残しておけば済む事だ。
今のようにダンジョンの奥に
『何の苦労もなく発展を続けたら、また
『……それはまあ、確かに』
ナノハの説明に、俺は納得するしかなかった。
確かに、別の街に戦争を仕掛けて利益を得ようとするよりは、遺跡攻略に心血を注いだ方が遥かにリターンが大きい。
この花園の第三階層までは難易度の低さ故に初心者の練習場としても使われ、技術遺産も採り尽くされているが……未踏領域の中には、未だ多くの技術遺産が残っている。
これらの技術遺産を持ち帰って得られる技術的革新を思えば、人間同士の戦争など
『でも遺跡に慣れて貰う場所が必要だろうと思って、この花園の第三層までの攻略難易度は敢えて低めに設定してあるんだ。第三層までならリミッターも効いてるし、実際私の想定通りの使い方がされているみたいだしね』
「だからと言って、未踏領域にあんな奴等を配置する事はないだろうに……あんな危険極まりない連中を放つなんて、趣味が悪いぞ」
実際、そのキャンサー達にやられかけた俺は抗議のつもりでそう言った。しかし、ナノハから返って来たのは予想外の答えだった。
『……もう、さっき言ったでしょ? あれは、
「……な……?」
……ナノハは、キャンサーを作り出したのは自分達ではない、と言い切った。
それはつまり、遺跡とキャンサーは元々無関係だった事を意味している。
しかも、この言い方からすればキャンサーは未知の勢力から遺跡制圧の為に送り込まれた可能性が非常に高い。
そして、場合によってはその
そう考えると、統率個体のあの行動も
『ある日突然、いきなり大量のあれ……君達が【キャンサー】と呼ぶ敵勢力が、遺跡内に出現してね。なんとかこの制御中枢だけは守れたけど、第四層以降の階層は完全に乗っ取られちゃったんだ。四層以降にいた強力な|エネミーも軒並みキャンサー化させられちゃってね。それ以降私は誰かがあの黒い機体を倒してくれるのを、此処でずっと待ち続けていたんだ』
そこまで言うとナノハは俺の方を見て、にこりと笑った。
『だから改めて、ありがとう。あの黒い機体を倒してくれて、本当に助かったんだ……お陰で、私はこの遺跡の制御を取り戻す事が出来た。これは、私からのお礼だよ』
そう告げるとナノハは俺と有栖の足元に無数の箱型オブジェクトを出現させた。花の紋様が描かれた箱の形をしたそのボックスデータは、紛れもなく遺跡の成果物……先史文明のテクノロジーが詰まった宝物、技術遺産であった。
「こ、こんなに技術遺産が……本当に、いいのか?」
『うん、受け取って欲しいな。君達はこの遺跡を攻略したんだもの、これくらいは報酬はむしろ当然だよ。あ、それからよければこっちもどーぞ。
ナノハはそう言って微笑み、俺にアドレスを送り付けて来た。
まさかAIの個人連絡先を知る事になるとは思わず困惑するが、受け取らない理由はなく、技術遺産共々データを受け取り自分のフォルダの中に収めた。
『じゃあ、名残惜しいけどこのくらいかな。今から遺跡内部を
ナノハは俺が現在位置表示と技術遺産を受け取った事を確認すると、やや申し訳なさそうな顔をしながらそう言って来る。
確認するとこの部屋に来る為に通った転送門は行き先が変更されており、そこを潜れば直通で中継界に戻れるようになっている。
俺は有栖に視線で確認し、遺跡から離脱する事を決める。
「じゃあな」
『お暇させて貰うわよ』
『うん、また暇があれば来てくれると嬉しいな。それじゃあまたね、怜二くん、有栖さん』
俺と有栖はナノハに別れを告げ、転送門を潜って遺跡から立ち去った。
こうして、第一遺跡遺跡……花園の探索は終わった。
だがこれは、始まりに過ぎない……未だ
ーー第一
ーーNext Stage to be continuedーー
Chapter1/花園ーEncounter of New Worldー --終--
というわけで第一章終了です。体験版ならここで「続きは製品版で」とメッセージが出るところですね。ここまではどのルートでもほぼ共通ですし。
今回はBALDR SKYをやっている方ならピンとくるワードが幾つも出て来ましたが、細かい説明は今はまだ控えさせて頂きます。物語の中で少しずつ、真実が見えて来る事でしょう。
ディスコード楽しいんじゃあ。