BALDR GENESIS EXE~Revive of Future World~ 作:デスイーター
「さあ、行くぞ……っ!」
俺はイニクィタティスと対峙し、奴に向かって駆け出した。
そして、俺の動きを待っていたかのように、イニクィタティスが生み出したキャンサーの群れがこちらに向かって襲い掛かる。
キャンサー共は各々の口腔から黒いタールを垂れ流し、その爪や牙を俺に突き立てんと迫り来る……っ!
「させるか……っ!」
俺は固有兵装を稼働させ、向かって来るキャンサー達を一定距離に引き付け凍結領域に誘い込み、一斉に凍結し、破砕した……っ!
キャンサーはその全個体が再生能力を持ち、手足や頭部が千切れても再生するが、流石に粉微塵になってしまっては再生出来ない。
通常の近接武器や火器では再生不能になるまで攻撃するのは骨が折れるが、俺の固有兵装であれば凍結した後粉々に砕く為、再生される心配はない。
キャンサーとの戦闘では、この固有兵装の使い方が成否を分けると言っても過言ではないだろう。
ともかく、幾らキャンサーを倒してもその大本……統率個体の一機、イニクィタティスがいる限り意味はない。
この戦闘では、キャンサーの群れを掻い潜り一刻も早くイニクィタティスを打ち倒す必要がある。
《purple》『2ff、bbjw@qs@lz:jrtu!?』
イニクィタティスが不気味な声をあげると、その周囲に無数のキャンサーが黒い機体を守るように布陣する。俺が近付けないように、護衛として配置したのだろう。
無論、本丸に辿り着く為にはこいつらを排除しなければならないが……
「その程度、問題にならないんだよ……っ!」
俺の固有兵装の前に、一か所に固まるのは悪手だ。俺は右腕を前に翳し握り締めると、イニクィタティスを守っていたキャンサー達が一瞬にして凍り付き、砕け散った……っ!
《purple》『-$、utut7ljru!』
「何言ってるか分からねぇが、これでテメェを守る兵隊は消えたぜ……っ! 覚悟しな……っ!」
俺はイニクィタティスに有効打を与える為、黒い機体に向かって疾駆する。
右腕に冷気を帯びたブレードを出現させ、イニクィタティスに向かって振り下ろす…っ!
《purple》『bkwes@w@、0qd=b\p.s66mew@rt!?』
「チッ……っ!」
……だが、イニクィタティスは予想外に素早い動きで右腕のチェーンソーを振るい、俺のブレードを受け止めた。俺のブレードとイニクィタティスのチェーンソーが鍔迫り合い、不快な金属音を鳴らす。
今の俺のブレードは固有兵装によって触れたものを凍結させる効果が備わっているが、常に高速回転しているチェーンソー相手には効果が薄いのか、イニクィタティスの兵装が凍り付く気配はない。
ならばと俺は左手でイニクィタティスの腕に狙いを定め、冷気を収束させようとするが……
《purple》『6Zs、32@uew@ru#!』
ーーイニクィタティスは即座にその場で後退し、俺の生成した凍結領域から退避した。
どうやら、統率個体は通常のキャンサーと違い、危険を察知する判断能力は残っているらしい。まあ、本能で回避したのかもしれないのだが。
……俺の固有兵装が生み出す凍結のプロセスには、まず手動で凍結範囲を設定し、そこに冷気を収束させる事でその座標を凍結させるという手順がある。
この作業はそのまま行うと範囲指定に時間がかかってしまい、戦闘運用するには少々緩慢に過ぎる。
その為、素早い凍結を行う為には機体の手の動きでそれを誘導しなければならず、冷気そのものは見えずとも俺の手の動きを見ていれば、大体何処を狙っているかは分かってしまうのだ。
その弱点を理解しているからこそ、冷気を纏うブレードを用意するなど工夫は重ねているが……どうやらイニクィタティスの判断能力は、俺の予想より遥かに高精度のようだった。
《purple》『22、b;fs@4t<!?』
イニクィタティスはそんな俺の戸惑いを好機と見たのか、垂れ流しているタールに形を与えキャンサーを生成しようとする。
「やらせるか……っ!」
だが、みすみすそれを見逃すつもりはない。俺は素早く腕を翳し、形を得ようとしていたタールを凍結させ破砕した……っ!
キャンサーに変じようとしていた黒いタールは凍らされた上で粉々にされ、イニクィタティスによるキャンサー生成は失敗に終わった……っ!
「キャンサー生成のプロセスはもう割れた、これ以上雑魚は出させねぇよ……っ!」
《purple》『7.w@fuet。uof@、0qdt@d@gd@gi63ewd94!』
「……っ! 来るか……っ!」
イニクィタティスはキャンサー生成が無駄に終わると悟ったのか、チェーンソーを構えて俺に向かって突進して来た。漆黒のチェーンソーが唸りをあげ、俺を斬り刻まんと迫り来る……!
「はぁ…っ!」
《purple》『2ffffffffff!』
再び俺の
《purple》「]q@]q@#!」
俺の剣戟に対し、イニクィタティスは的確にチェーンソーを振り翳し、その全てを防御して見せた。
「……終わりだ」
《purple》『t@Z…!?』
--次の瞬間、何の前触れもなくイニクィタティスの全身が一瞬にして凍り付き、そのまま砕け散って塵となった……
!
同時に、俺のライフゲージが一本分丸ごと消費され、ライフチャージャーが自動的に起動してライフゲージを回復させる。既にイニクィタティスのいた場所には、影も形も残ってはいない。
「消費は大きいが、ノーモーションでの瞬間凍結も可能なんだよ。あまり多用出来る手段じゃないがな」
そう、確かに通常は手の動きで凍結範囲を指定して固有兵装を稼働させているが、消耗を顧みなければノーモーションでの瞬間的な凍結も可能なのだ。
……ただしこの方法は機体に大分負荷をかける為、そう何度も使える手段ではない。
この
相応のメリットがあるからこそ、武装のバリエーションを犠牲にしてまで回復手段を用意していたワケである。
「……しかし、案外呆気ないもんだったな。あの統率個体相手だからもう少し、苦戦するかと思ったんだが……」
『どんな相手にも初見殺しってのは有効だからね。今回はたまたま、それが上手く嵌っただけじゃないかな。見た感じ知性があるようだったから、手の動きがなきゃ大丈夫って慢心したのかもね』
「それならいいが……」
双葉はイニクィタティスの電子体反応が消えた事を確認している為か、気楽にそう言って来る。
確かに双葉の言う事にも一理あるし、そういうものだと自分を納得させ周囲の索敵を行おうとプログラムを奔らせ……
『……っ!? 怜二、危ない……っ!』
「……え……? ぎっ、がぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!??」
--地面から突き出したチェーンソーに胴体を貫かれ、激痛のあまり絶叫をあげた。
俺の機体のどてっ腹を貫いたチェーンソーの先からゆっくりと黒い機体が浮かび上がり、その姿を露わにする。そしてその姿を確認し、俺は絶句した。
「……馬鹿、な……? イニクィタティス、だと……? ぐぅ……いや、これは……」
……その機体は、先程破壊した筈のイニクィタティスに酷似していた。しかし先程のイニクィタティスとは違い、その機体は全体的に丸みを帯びて、女性的なイメージを抱かせた。
もっとも、その頭部は二つのしゃれこうべを前後に張り付けた歪なものであり、腕部は四本存在し、そのうち二本は禍々しいチェーンソーを装備しており、残り二本は先端が槍のようになっていた触腕だった。
俺の機体はイニクィタティスの上部右腕のチェーンソーによって穿たれ、回転する鋸が俺の機体内部をガリガリと削り取り継続的におぞましい激痛を与えている。
「……が……っ!?」
女性型のイニクィタティスは俺の機体から乱暴にチェーンソーを引き抜き、
「ぐ……っ! がぁ……っ!」
ーーそして機体が地に倒れ伏した次の瞬間、俺は身体を貫かれた激痛とは別種の痛みに
内臓を得体の知れないものが這い回り、至る所に牙を突き立てている…そんな不快な感触が、俺の全身を支配していた。
……腹の中から、どうしようもない痒みを感じる。今すぐに腹の中に手を突っ込んで、中身を掻き出したい衝動に駆られる。
脳内に俺の腹の中を蠢く無数の蟲のイメージが沸き上がり、その妄想に思わず嘔吐感が沸き上がる。
気持ちが悪い。現実の認識はぼやけているのに、思考は驚く程のスピードで回っている。
脳裏に様々な情景が浮かんでは消え、走馬灯のような光景を見せつけて来る。
……否、真実これは走馬灯なのだろう。その証拠に、機械音声が冷酷に俺の現状を伝えて来る。
『警告。ウイルスタイプ・
そうして脳裏に響き渡った無機質な機械音声により、俺は現状を正しく認識した。
今俺は、イニクィタティスの…即ち、
傷を負った場所が腕や足であれば探索者証にプリインストールされている
幾ら何でも、胴体を部位排出する事は出来ない。詰み、と言える状況だった。
「ぐ、ぎぁ、あぁ……っ!」
おぞましい感覚に、口から嗚咽が漏れる。
既に浸蝕は手遅れな域に達しており、俺の内部が組み替えられ始めている。この組み換えが全身に及べば、俺はおぞましいキャンサーの仲間入りを果たすのだろう。
「……悪、い……双、葉……俺は、此処まで、らしい……」
『怜二……っ!? やだ、やだ、やだよ……っ! 怜二が死んだら、私、私……っ!』
通信の向こうで、双葉がその顔を悲嘆に染めて絶叫している。その声を聞き、彼女を悲しませた事を深く悔やむ俺がいた。
いつかはこんな日が来るとは思っていたが、こんなに早いものだとは思わなかった。
しかし、現実は現実として受け止めなければならない。今の俺に出来る事は、他者の迷惑にならないよう自決プログラムを起動して消滅する事だけだ。
……後悔がないと言えば、嘘になる。やりたい事やこれからやるべき事、考えていた事はたくさんあった。
けれど、もう俺に
そうしなければ、俺はあのおぞましいキャンサーと化してしまう。みすみすキャンサーと化してしまえば、更に悪い結末が待っている。
解除キーを所持した俺がキャンサーと化せば、それが感染爆発の引き金になってしまう。この世界に生きる一人の人間として、そんな結末を許すワケにはいかなかった。
……既に意識には靄がかかり、いつ意識を失ってしまうか分かったものではない。そうなる前に、俺は自分の後始末をしなければならないのだ。
俺は自らの死を決意し、自決プログラムを起動しようとして…
『--本当に、それでいいのかな? 君はまだ、
『え……?』
ーー何処からともなく響いた声に、俺の動きは硬直した。視線を向ければ枯れた木のオブジェクトの枝の上に、一人の電子体と思わしき少女が座っていた。
少女はシルクハットを目深に被り、表情は伺えない。その服装は下着そのもののようなキャミソールの上にマントを羽織り、下半身は足の付け根までを露わにしたレオタードのみという露出過多なもので、その口元には歪んだ笑みが張り付いている。
俺はそれが、人間の少女だとはとても思えなかった。
少女の持つ雰囲気がまず異常であるし、何よりこんな場所で通常の電子体でいるなど正気の沙汰ではない。気狂いの類かと考えたが、それでも何故か少女の言葉に耳を傾けてしまっていた。
『嗚呼、大衆の為に自らの命を投げ出す……それは、とてもとても美しい美談だろう。何も知らない大衆はそんな君を英雄と称し、よく知りもしない君の事を称えるだろう。けれど、けれどけれどけれど……っ! 君は、本当にそれでいいのかい? お涙頂戴の最期を飾って、それで君は本当に納得出来るのかい?』
「それ、は…」
……その少女の言葉に、心が揺らいだ。
当然だ、俺とて好きでこんな場所で死にたいとは思っていない。ただ、
『成る程成る程、生への執着実に結構! ならば、ならばならばならばっ! 君の取るべき手段は、自決などというつまらないものではないっ! さあ、
「……っ! 俺、は……っ!」
少女の言葉を聞いた瞬間、俺の意識は混濁し……そして、頭の中に無機質な声が響き渡る。
--異常確認。原因特定……判明。結論、■■■■■■■・■イ■スによる電子体浸蝕現象ーー
ーー■■■■■■・■イ■ラ■より対抗処置を検索……該当有り。プログラムコード、
--コード、
ーー
--聴覚信号に響き渡るそのメッセージを聞いた瞬間、
身体の中に存在した異物が完全に除去され、俺の意識は完全に覚醒し
『え……?』
《purple》『ui……?』
--そして、
さて、まずはこの展開まで漕ぎ付けました。このシーンには色々と伏線をバラ撒いてはいるのですが、それは後々分かります。
このシーンは最初から書く事を決めていたシーンの一つです。序盤で主人公が窮地に陥って謎の覚醒で立ち上がるシーンは定番といえば定番ですが、ここはこれがベストだと思いましたので。プロットで決めた重要イベントの一つですしね。