BALDR GENESIS EXE~Revive of Future World~   作:デスイーター

8 / 10
輸送曲ーBattle Waltzー

 

 俺と有栖の機体は同時に動き出すが、俺は正面に向かう…と見せかけて右へ、有栖は脚部のバネを活かして一瞬にして視界外へと跳躍した……!

 

 『1&……!? s@b^g5q……Z!?』

 

 女性型イニクィタティスは有栖の姿を見失ったようで、視線を彷徨わせて警戒を強めている。男性型イニクィタティスを自分の手元に引き寄せ、その背後で様子を伺っている。

 

 『--1匹』

 『h@Z、t@Z……!?』

 『f@t、u……Z!?』

 

 --そして真上から飛来したヴォーパル・ラビットのニーブレードの一撃により男性型イニクィタティスの機体は両断され、次の瞬間には有栖の機体はその場から掻き消えて俺の真横に着地した。

 

 『t@、t@t@、t@t@t@……Z!』

 「……再生、しない……?」

 

 有栖によって真っ二つにされた男性型イニクィタティスは、最初は分割された機体を接合する為に蠕動していた。

 

 しかしその接合は一向に叶う様子はなく、男性型イニクィタティスはそのまま動きを停止し屍と化した。

 

 ……統率個体もまた、キャンサーの一機として相応の再生能力を有している。

 

 ()が無事である限りたとえ身体が真っ二つになったとしても機体の大部分が残ってさえいれば再結合出来る筈だが、その気配は微塵もなかった。

 

 『これが私の固有兵装、絶対切断(インフィニット・ディバイド)よ。私の機体に斬り付けられた対象は、()()()()()()()()()()()()()()……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()の。再生なんか、させないわ』

 「……成程、こりゃ単独で未踏領域を闊歩出来るワケだ」

 

 未踏領域でキャンサーを相手にする時、一番のネックになるのは彼等が持つ再生能力だ。

 

 キャンサーは手足が取れた程度では動きが止まらないし、普通のシュミクラムであれば再起不能になる程の損傷でも関係なく再生して駆動する事が出来る。

 

 その為、キャンサーを完全破壊する為には文字通り粉微塵になるまで破壊するか、一瞬で消し飛ばすしかない。どちらも、達成するにはかなり手間がかかってしまう。

 

 だが、有栖の固有兵装であれば大した労力もなくキャンサーを片付ける事が出来る。対キャンサー戦では、心強い事この上ない。

 

 ーー更に、有栖の駆る『ヴォーパル・ラビット』が属する『ラビットシリーズ』には、幾つか特徴的な性能が備わっている。

 

 頭部に装備された兎の耳を模したパーツは超高精度の感覚機器で、『ラビットシリーズ』の機体はこの感覚器を通して周囲の情報を収集し、機体の動きに反映させる。

 

 そして通常のシュミクラムのようなホバー移動が出来ない代わりに、折り畳まれた脚部で壁や地面、果ては()()を蹴る事での超高速機動が可能となっている。

 

 その為『ラビットシリーズ』の機体が一度跳躍を開始すればそれを眼で追うのは殆ど不可能であり、インフィデレスが中空に跳躍した有栖の機体(ヴォーパル・ラビット)を見失った事も無理からぬ事と言えるだろう。

 

 勿論、ピーキーと言われるからには当然その理由がある。前者の感覚機器は鋭敏過ぎて余計な音まで拾ってしまう上、一度に入り込む情報量が膨大である為、適性がなければ脳細胞が焼け付いてしまう危険がある。

 

 また、ホバー移動が出来ない為他者との連携が難しく、あまりにも凄まじいスピードで駆動する為搭乗者がそのスピードを制御出来ない為、普通であれば壁や障害物にぶつかってしまうのが関の山だ。

 

 しかし、有栖はそれがどうしたと言わんばかりに自然にヴォーパル・ラビットを乗りこなしており、その実力の高さが伺える。疑い様もなく、彼女は筋金入りの凄腕だ。

 

 「けど、なんで今の一撃で本体を攻撃しなかったんだ? あの感じなら、本体にも攻撃出来た気がするけど」

 『その答えの一つは、あれよ。見てみなさい』

 「あれは……」

 

 有栖に言われるがまま切断された男性型イニクィタティスの残骸に目を向けると、残骸からは無数の触手のようなものが突き出ており、うねうねと不気味に蠢いている。

 

 『イニクィタティスの分身は破壊されてもあんな風に姿を変えて、機体を拘束しようとして来るのよ。更に言えば、イニクィタティスは()()()()()()()()()()()()()という特性を持っているの。正確に言うなら、()を分身に移し替える事で身体ごと交換しているのだけれど』

 「じゃあ、あいつを倒すには……」

 『分身のストックが切れるまで、破壊し続けるしかないわね。けれど、今が好機である事は確かよ。だってあいつは、自分からわざわざこんな浅い階層に出て来ているんだから……こんな機会、多分もう二度とないわ』

 

 有栖はそう告げると、真っ二つになった男性型イニクィタティスを破棄し、新たな分身を生み出そうとする女性型イニクィタティスを見据えた。

 

 『そもそも、統率個体には()()()()()()()()()()()()()という特性があるのよ。だからこのイニクィタティスも普段は未踏領域の奥から男性型を斥候として放つだけで、四層になんか出て来る筈がないんだけど……今は何故かそのメリットを捨てて、本体がこうして出て来ている。だから、あいつを仕留めるには今しかないのよ』

 「……その言い方だと、あいつと戦った事があるみたいだな?」

 

 俺の疑念に、有栖はこくりと頷いて答えた。

 

 『ええ、第六層で戦ったのだけれど……最下層では分身の生成スピードが速過ぎる上に無尽蔵にキャンサーが湧いて来て、倒しきれずに撤退したのよ。私には、サポートもいないからね。下手に戦闘を継続するのは愚策と判断して、撤退したってワケ』

 

 そう告げる有栖の声には、並々ならぬ戦意が渦巻いていた。一度見逃さざる負えなかった獲物が、こうして手の届く場所に降りて来ている……その事実が、彼女を昂ぶらせているのだろう。

 

 『統率個体には、低ランクながら知性らしきものが備わっているわ。だからこちらを罠に嵌めようとするし、形勢不利と見れば逃走する判断能力もある。だから目下の問題は、こいつの逃走を阻止する事だけど……』

 『ーーもうやってる。周囲に境界線(ボーダー)を張って、一時的にそこの区画を隔離したよ。これでもう、暫くの間インフィデレスの逃走は封じられる。怜二を傷物にした責任は、しっかり取らせてやらなくちゃね』

 『……へぇ、優秀じゃない。腕の良いサポートがいて、羨ましい限りだわ』

 

 有栖は双葉の手腕に舌を巻き、口笛を吹いてイニクィタティスに向き直った。それと同時に直接通話(チャント)を開き、俺に語り掛けて来る。

 

 《私はこれから分身を作る余力が尽きるまで攻撃を続けようかと考えているけど、貴方には何か良い案はあるかしら? 私はずっと単独でやって来たから、共闘の良いやり方なんて知らないのよね。もしリード出来るなら、指揮して貰えるかしら?》

 《……そうだな……確認するけど、あいつが一度に出せる分身は一つだけで、その分身が破壊されない限り次の分身を出す事は出来ないんだよな?》

 《ええ、その通りよ。けれど、一度分身が破壊されればものの数秒で次の分身を生成出来るわ。それがどうかして?》

 

 俺は有栖の言葉を聞いて考えを巡らせ、再び口を開いた。

 

 《俺が固有兵装を使って分身を凍らせて、有栖が本体を攻撃するタイミングで凍らせた分身を破砕する。そうすれば次の分身を出す暇もなく破壊出来ると思うけど、どうだろう?》

 《……悪くないわね。いいわ、私が主役というワケね。なら貴方は主役(わたし)を盛り立てるように、全力を尽くしなさいな。上手くいったら、キスの一つでもプレゼントしてあげるわ》

 《そいつは光栄だね。こりゃ、失敗は出来ないな》

 

 俺は軽口を叩き合って直接通話での通話を終え、イニクィタティスに向き直った。

 本体の女性型イニクィタティスは不穏な空気を感じ取ったのか、新たに生み出した男性型イニクィタティスにキャンサーを生成させており、その周囲には無数のキャンサーが集結しつつあった。

 

 『さあ、バラバラにしてあげる……っ!』

 

 有栖は憶する事なく機体を跳躍させ、無数のキャンサーのただ中に飛び込んでいく。そして着地と同時にその鋭利な脚部を振るい、数体のキャンサーを一度に両断し破壊した……!

 

 『全て全て、斬り刻んであげるわ……っ!』

 

 ヴォーパル・ラビットはそのまま踊るようにその脚を振るい、瞬く間にキャンサーを駆逐していく……!

 

 彼女の蹴撃がキャンサーの胴体を真っ二つに斬り裂いていき、戦場に屍の山を築く。

 

 血液のように黒いタールが飛び散り、両断されたキャンサーの死骸が無造作に撃ち捨てられていく。

 

 『ハッ……!』

 

 周囲のキャンサーを掃討し終えた有栖はそのまま男性型イニクィタティスに向かって疾駆し、その足を振り抜いた……!

 しかし男性型イニクィタティスは辛うじてその一撃を回避し、横に飛んだ。そして……

 

 「--がら空きだよ」

 『t@、t@t@、t@t@t@……Z!』

 

 ……俺の投擲した冷気刃がその胸部に突き刺さり、男性型イニクィタティスは一瞬にして凍り付き彫像と化した……!

 

 「今だ、有栖……っ!」

 『ええ……っ! さあ、これで終わりよ……っ!』

 

 ヴォーパル・ラビットはそのままの勢いで女性型イニクィタティスに肉薄し、脚部を振り上げた。

 

 自身に迫る攻撃を認識したイニクィタティスは、それを防ごうとチェーンソーで防御しようとするが……彼女相手にその判断は、間違いとしか言い様がなかった。

 

 『g@t@Z、t@#############!?』

 

 --男性型イニクィタティスの機体が凍結破砕されると同時にヴォーパル・ラビットの蹴撃は女性型イニクィタティスのチェーンソーを薄紙のように斬り裂き、そのままイニクィタティスの胴体を斬り飛ばした……!

 

 『--フィニッシュ』

 

 そしてそのまま返す刀で再び脚部を振り抜き、イニクィタティスの機体は有栖のニーブレードによってバラバラになり、俺の固有兵装によってその破片は凍り付き粉微塵となって破壊された……!

 

 「やった、か……?」

 『そんな不吉な台詞は選ばない方がいいわよ。世の中には、ジンクスってのがあるんだから……ともあれ、堂々と胸を張りなさい。序列上位者(わたし)の力を借りたとはいえ、貴方は紛れもなく統率個体の1体を討伐したのよ。指示も的確だったし、序列二桁としては充分な仕事ぶりと言えるわ』

 

 有栖はそう言って称賛して来るので、妙にこそばゆい気分になって頭をかいた。

 あの悪名高い統率個体に勝てたという事実が、どうにも頭の中に入って来ない。未だ現実感がないというか、明晰夢の中にいるかのような感覚だった。

 

 『自分の出来る事を弁えて、私を盛り立ててくれたしね。胸を張りなさい八雲怜二……貴方は今、確かな偉業を成したのだから』

 

 有栖は俺を見据え、ハッキリとそう言った。その瞳はとても真摯で、真剣に俺の事を称賛しているのが伝わって来る。

 

 「……そうだな。文字通り死ぬような思いもしたんだ。今日くらい、自分を認めてもいいか」

 『ええ、そうしなさい。ふふ、やっぱり手を貸して正解だったわね。眼を付けた甲斐があったわ、怜二』

 

 俺は有栖の物言いに違和感を覚えつつも、不敵に笑う有栖に笑い返してみせた。その違和感を見過ごした事を、俺は後に後悔する事になる。

 

 ーー統率個体(グレゴリオ)NO1、双児宮の亡霊(イニクィタティス)……撃破!ーー

 





 これでインフィデレス戦、終了です。本来であればインフィデレスはその不死身性と物量に任せて相手を押し潰す厄介な相手でしたが、二人の特性が上手く噛み合って撃破となりました。
 ゲーム的に言えば、このシーンは有栖との共闘でインフィデレスと戦闘して、その後に撃破描写のシーンが入る感じです。
 さて、そろそろ第一章も大詰めというか、あとはまとめだけですか。次回もお楽しみに
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