BALDR GENESIS EXE~Revive of Future World~ 作:デスイーター
『境界線、解除。これでいつでもそこから出れるよ』
「
『怜二のサポートが私の仕事だからね。けどまあ、帰ったら言いたい事があるから覚悟しておくように』
俺は表情画面越しに双葉にジト眼で睨みつけられ、苦笑する。
思い当たる事は山程ある為、自宅に帰った後が正直恐ろしいが甘んじて受け入れるしかないだろう。
「有栖も、ありがとう。っと、そういや自然に名前で呼んじまってたが、流石に馴れ馴れしいよな」
『構わないわ。私も貴方の事を呼び捨てているのだし、お互い様よ。そのまま有栖、と呼んで頂戴。お近付きの印に、これを受け取って貰えるかしら』
有栖がそう言って俺に転送して来たのは、有栖の
いきなり出会ったばかりの少女にこんなものを渡されて、少々困惑する。
「い、いいのか……?」
『ええ、言ったでしょう? お近付きの印よ。折角こうして出会う事が出来たのだから、この機会を活かさない手はないわ。貴方も充分腕は立つ上に性格も悪くないようだし、今後も親交を深められれば嬉しいわ』
有栖はそう言って表情画面越しにくすりと笑い、その涼やかな声を聞いて自然と心臓が高鳴る。
彼女の表情画面の目元は隠されたままだが、その容姿の端麗さは隠しようがない。
女性的なフォルムの
『……何いきなり媚びてんだよ兎女。怜二もこんな怪しい女からのアドレスなんか受け取って、鼻の下伸ばさないでよね』
「ふ、双葉……」
『あら、いいじゃない。荒くれ者揃いの探索者の中で、彼のように荒んでいなくて且つ実力がある者は貴重よ? そんな彼と親交を深めようというだけなのに、邪推は困るわね』
双葉の毒舌も意に介した様子はなく、有栖は涼しい声でそう告げる。通信越しに双葉の敵意が増幅している事を感じ取り、俺が慌てて仲裁に入る。
「ふ、双葉もそんなに目くじら立てるなって。有栖の助けがあってこそ統率個体を撃破出来たんだし、あんまし喧嘩腰になるなよな」
『なってません。私はただ、一般論の観点からその女が信用出来ないと言っているだけです。怜二こそ、そいつを庇うワケ? 碌に顔を晒さない奴が、信用出来るとでも思ってるの?』
『悪いけれど、この表情画面は仕様なの。解除するには面倒な手続きを踏まなければならないからこのままでいるだけで、時間を貰えれば解除してもいいわよ?』
相変わらず余裕癪癪に宣う有栖の反応に、双葉から放たれる圧力がその勢いを増した。
身内以外は全て敵であり、身内であり即ち味方であると認識している俺に依存に近い執着を示す双葉にとって、突然現れて俺と親しくなろうとする有栖の存在は中々容認し難いのだろう。
今の双葉にとっては、有栖が俺を何処かに連れて行こうとする人攫いにでも見えているのかもしれない。
この双葉の性質こそ、俺がサポートありとはいえ単独で遺跡に挑む原因でもあった。
今まで何度か他の探索者と組んで遺跡に挑んだ事はあるのだが、その悉くが双葉の疑心暗鬼全開の罵倒に耐え切れず、その後は二度と俺に近寄ろうとはしなくなった。
つまり、双葉の毒舌をサラリと受け流せる有栖の存在は貴重なのだ。
俺としてはそんな貴重な同業者との繋がりを、此処で手放したくないのが本音だった。
「双葉、止めるんだ。埋め合わせなら帰ってからやるから、今は取り敢えず俺に任せてくれ」
『…………………………………………………………………………………………………………分かった。怜二が、そう言うなら…』
双葉は俺の指示に暫く沈黙した後、ようやく了解の意を示した。益々後が怖くなったが、今はこうするしかない。
なんだかんだ言いつつも、双葉は俺に言われた事には最終的に従ってくれる。
依存癖のある双葉は、俺に嫌われる事を極度に恐れるあまり、俺の言葉には逆らっていけないと思い込んでいる節がある。
その為、たとえ自分が嫌だと思う事でも俺がハッキリと意思表示をすれば渋々従ってくれるのだ。
双葉のこの性質には思う所がないでもないが、だからといって早急に改善出来るワケではないので上手く付き合っていくしかないのが現状だった。
「ごめん、待たせたね。それで、有栖はこれからどうするつもりなんだ?」
『このまま第六層まで降りるつもりよ。統率個体を倒した以上、あいつの『眷属』は軒並み消滅しているから苦も無く辿り着ける筈だわ。よかったら、一緒にどう? 道中の護衛は請け負うわ』
俺は有栖からの提案を受け、しばし思案する。
彼女の言うように、統率個体から生み出されたキャンサーは『眷属』と呼ばれ、それぞれ固有の特徴を持つ。
たとえば、先程倒したイニクィタティスであれば…その眷属となるキャンサーは、
その為、眷属の姿から特徴を推察すればその親元である統率個体はある程度特定出来るのだ。
そして、統率個体が破壊された場合、その眷属達は電子体を維持出来ずに崩壊する。
この共鳴崩壊に距離は関係なく、先程の統率個体討伐でイニクィタティスの眷属は軒並み消滅した筈である。
故に、彼女の言うように此処から最深部である第六層までは敵と遭遇する可能性は低い。
情報では未踏領域の敵対存在はキャンサーのみである為、そのキャンサーが消滅した以上危険はないと思われる。
「……分かった。一緒に行かせてくれ、有栖」
『ふふ、
有栖は俺の返答を聞いて薄く笑みを浮かべると、先端が鋭利な槍のようになっている脚部で、まるでスケーターの如く地面を滑るように移動し始めた。
俺は慌ててシュミクラムを駆動させ、ホバー移動でその後を追う。有栖の移動スピードは結構速いが、追いつけない程ではない。
有栖のこの移動スタイルは、ホバー移動が出来ないヴォーパル・ラビットが俺に合わせた速度で移動する為の工夫なのだろう。
こうでもしなければ、高速機動
『さ、行くわよ。道中、貴方の事を聞かせてくれると嬉しいわ。そのお話を、報酬の代わりとしようかしらね』
「分かった。対して面白くもない身の上話で序列上位者の護衛と先導が付くなら、悪い話じゃない」
俺は有栖の
『ふぅん、10歳以前の記憶がない、か。随分難儀な人生を送っているようね』
有栖は俺の方をしげしげと見つつ、溜め息を吐いた。
有栖は思った以上に聞き上手で、俺は気付けば話すつもりのなかった自分の記憶の事まで打ち明けていた。
10歳以前の記憶がなく、何処の誰かも分からない俺の境遇は、他人が聞けば同情するか、怪しい奴と思われて敬遠されるかのどちらかだろう。
しかし有栖は同情も敬遠もする事なく、ただ興味深そうに俺の話を聞いていた。その態度は俺にとっては有難いもので、知らず有栖への好感度を上げていた。
「まあ、慣れればどうという事もないさ。母代わりになってくれる人も、周りの世話をやってくれる奴もいるし、特に不満は感じてないよ」
『そう、少し……羨ましいわね。血の繋がりがなくても、
そう告げる有栖の表情は何処か寂しそうで、その様子から有栖が双葉のように天涯孤独の身である事を理解する。
自分も天涯孤独の身の上ではあるが、ノインさんや双葉がいてくれるお陰で孤独感を感じる事はなかった。
しかし、もしかすると……有栖は周りに頼れる人間が誰もおらず、だからこそ一人きりで遺跡ムでの戦いに没頭していたのかもしれない。
そんな思考を巡らせると、有栖に対して何か出来る事はないだろうか、と考える自分がいた。
有栖は出会ったばかりの少女なのに、どうしてか自然と彼女の事をもっと知りたい、と思ってしまうから不思議だった。こんなに他者に興味を抱いたのは、初めてかもしれない。
『あら、どうやら着いたみたいね。敵がいないと予想はしていたものの、実際に何もないと拍子抜けね。以前来た時は、数百体のキャンサーがひしめいていたものだけど』
そうこうするうちに目的地に着いたようで、周囲を見渡せばかなりの大きさの広間であり、奥には花の紋様が描かれた大きな扉が見える。
『以前はこの広間に、あのイニクィタティスが陣取っていたのよ。広間中から夥しい数のキャンサーが湧いてきて、近付く事すら困難だったわ。あの時は、等身大の蟻の群れに飛び込んだような気分だったもの』
「……それで生還出来るあたり、凄まじいな。数百体のキャンサーとか、想像したくもねぇな…」
実際、長期戦向きではない自分がそんな数のキャンサーと戦えば、そう長くは保たないだろう。
これが普通のエネミー相手であれば通常の武装が効果がある為どうとでもなるが、実質固有兵装の使用が必須になるキャンサー相手では圧倒的な物量をぶつけられると苦しいのは確かだ。
……そう考えると、今回は本当に幸運だったのだろう。キャンサーに通じる能力を持ち、殺傷力に優れた機体を持つ有栖と出会えなければ、いずれは千日手になって負けていたに違いない。
何故最下層にいる筈の統率個体が出て来たかは結局分からなかったが、既に撃破した以上深く考える事もないだろう。
『まあ、伊達に序列上位者はやってないわよ。それより、あの奥がこの遺跡の最奥部よ。多分、なんらかの技術遺産があると思うけど…』
「それなら、有栖に譲るよ。今回は本当に、助けて貰ったワケだし」
『いえ、半々で大丈夫よ。私もお金には困っていないし、これもお近付きの印って事で』
元々、俺はこの奥の技術遺産を譲る事で有栖への協力報酬とするつもりだったのだが、受け取りをやんわりと拒否されてしまった。
序列上位者の助力を得たのだから、このくらいはしないといけないと考えていたので驚いてしまう。
しかし、有栖は穏やかな口調だが意見を覆すつもりはないらしく、ニコリと微笑んでこちらを見据えている。
「……分かった。それでいこう。分配は君に任せる」
『ええ、それでいいわ。さて、それじゃあ未踏領域最奥の宝物庫の御開帳ね』
俺と有栖は奥の扉の前に立ち、同時に扉に触れた。すると扉から電子音が鳴り響き、自動的に
ーー
そして、俺達二人は吸い込まれるように扉の中へと消えて行った。
「……此処、は……?」
自分達がいるのは石畳の通路の上で、あたり一面には色とりどりの花々が咲き乱れ、中央近くにある噴水から流れる水の音が清涼感を演出していた。
少なくとも先程までの暗く禍々しい未踏領域の気配とは、まるで違った空気を持つ場所だった。
その雰囲気は何処となく三層以前の花園内部にも似ていたが、エネミーがひしめいていたあちらと違って此処は空気の流れが緩やかで、自然と肩の力が抜けてしまう。そんな、穏やかな場所だった。
この空間の中央には、石造りの屋根に覆われた休憩所のような場所が存在していた。その場所の真ん中には回転する柱状の物体があり、あれこそがこの空間の
『割と趣味が良い場所ね。さっきまでとは大違い、製作者の趣味かしらね』
「もしそうなら、未踏領域の景観についても、もう少し考えて欲しかったよ」
有栖の軽口に同じように軽口で返し、そんな俺の反応を見て有栖もくすり、と笑った。
『--あれは私がやったんじゃないよ。失礼しちゃうなら、もう』
「え……?」
--突如聞こえた声に、硬直した。声は中央の柱から聴こえており、俺が柱を凝視するとその手前の空間がブレ始め、一つの像を形成する。
現れたのは、一人の少女の映像だった。緑色のショートカットに、庇護欲をそそる幼い顔立ち。服装は青いシャツの上にピンク色のパーカーを着ており、ミニスカートから伸びる足は黒いタイツを履いていた。
「き、君は……?」
俺が困惑しつつ問いかけると、少女は人懐っこい笑みを浮かべて答えた。
『私は、第一遺跡の管理AI……固有名称は、ナノハ。よろしくね、攻略者さん。怖い人をやっつけてくれて、ありがとうね』
少女の姿をしたAIはそう告げ、満面の笑みを浮かべた。俺と有栖はその光景を、暫く呆然と眺めていたのだった。
この作品は基本オリキャラのみで進行します。原作キャラは、
私は原作ヒロインとオリ主のカップリングを好まないというか苦手なので、そういう事は一切しません。原作ヒロインは原作主人公以外とはくっつかない、これが私の基本です。