転生しても僕だった件——凍結中—— 作:らんらん
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001
まず始めに、一体ここはどこなのだろうか。
パっと見た所なぜか明るいこと以外なんの変哲も無いただの洞窟なのだけれど、実際は違うかもしれない。
僕は、自分を落ち着かせるために一度大きく深呼吸をしてみた。
スーハー
もう一つ分かった事がある。
空気が美味しい!
少なくとも、僕が住んでいた町の数倍くらいは。まるで口の中にさわやかな風が吹き抜けたような感覚に襲われ、何度も何度も夢中で深呼吸を繰り返した。
スーハー美味い!
と、まあ。深呼吸はそこそこに、改めてここがどこなのかを考える。
そして僕は、3つの仮説を立てた。
仮定1・どこかに連れ去られた。
これだったのならまあ何とかなりそうなのだが、多分違うだろう。なぜと聞かれても明確な理由を示す事は出来ないが、なんとなく絶対に違うのだろうなと感じたのだ。
仮定2・異世界。
これまた突拍子のない仮定なのだけれど、少し納得のできるものなのだ。
なぜなら、僕は死んだのだから。
近頃のネット上の小説では、異世界転生、又は異世界転移というジャンルが流行っているらしい。現世で死んでしまった人物がその記憶を持って異世界に行くというものだ。
それにのっとるのならば、僕だって死んだのだから別に異世界に来てしまったとしても不思議ではない。
冷静に考えると常識的にありえない事なのだが、僕自身が常識でない事を両手の指じゃ足りないほど経験していたのでこれもあり得るかな、と思ってしまう。
仮定3・怪異による何か
僕の中では、これが一番有力な仮説だ。
以前、忍野から何でもかんでも怪異のせいにしてしまうのはいけないと言われたのだけれど、今のこの状況を怪異以外になんと説明すれば良いのだろうか。
死んだと思ったらよく分からない洞窟で目覚めたなんて状況を。
とまあ、僕の中ではこの3つしか思い浮かばなかった訳で。
なにしろ推測出来るだけの材料が無いのだから、これ以上ここがどこなのかを考える事はできないのだ。
なので僕はこの洞窟を探索することにした。
本当にやけに明るい。まるで昼間の大通りのようにはっきりくっきりと見え、ここは本当に洞窟の中なのか不安になってくる。
それに、なにやら変な感じもするのだ。僕が進んでいる道の奥に、何かとんでもないものがあるような気が……
と、思考しながら曲がり角を曲がった時だ。
足元に青い半透明の物体があった。
どうやらその物体は生きているらしく、ズルズルと辺りの草を食べていた。
これは一体なんなのだろう。今さっき生きていると表現したが、本当に生きているのかどうか分からない。だって明らかに生物ではないから。生きている物と書いて生物なのなら、僕も生物ではないかもしれないのだけれど。
明らかに生物ではないこの何か、全くもって見たことなどないのだが僕のもう一つの脳が心当たりがあるといった。そう、ゲーム脳が。
目の前の何か、あのゲームのキャラに似ているんじゃないか?
そう、勇者といえばのドラ○ンクエストの主要キャラである、スライムに!
震えながら手を伸ばし、推定スライムも抱きかかえる。
こ、これは!?
「なにこれ柔らかい!プニプニしてる!心地いい!やばいはまる!もっともちもちさせろ!もっと触らせろ!もっと舐めさせろ!!!」
タックルされた。そして新発見。プニプニだろうとタックルされたら痛い。
どうやら怒らせてしまったようで、スライムはすぐに逃げてしまった。全く、変な人に会ったら危ないと言うのに、一体どこにいったのだろうか。
そのスライムを保護するべく、僕はスライムが逃げた道に向かった。
「おーい、スライムー。何もしないから出ておいでー」
しまった、ポケットの中身確認しても千円どころか飴玉ひとつない。これでは餌付けができないではないか。どこかその辺に美味しそうな物は、と下を向いて歩いていると少し先に水溜りがあるのを見つけた。
特に気にする必要もないので避ければいいかとそのまま美味しそうな物が落ちてないかと歩いて行くと、落ちかけた。
僕が水溜りだと思っていたものは、実は大きな地底湖だったのだ。
だが、落ちかけた。そう、落ちてはいない。確かに右足を空中に置き、体勢もかなりの前傾姿勢だったので確実に落ちるはずなのだが、落ちていない。なぜかと聞かれると、とても単純な事なのだけれど、同時にとてもではないが信じられない物でもあった。
僕が跳躍したのだ。落ちかけているとわかった瞬間に、反射的に。
にわかに信じられない事だろう。普段の僕はおろか、忍に血を吸わせた時でもここまで跳べる事はない。いや、忍に血を多めに吸わせたらどうかは分からないが、ともかくだ。
ここまでの運動能力を発揮するなんて、普通じゃ絶対にありえない。
その瞬間、僕の素晴らしい脳細胞が一つの可能性を示した。示したというより、思い出したと言う方が適切かもしれない。だって、僕はこの運動能力に似た物を地獄の春休みに体験していたのだから。
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの眷属となったその時に。
まさか、まさか、まさか、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか
僕の体は、あの頃に戻っているのか?
それならば洞窟内がやけに明るいのも説明がつく。洞窟内明るいのではなく、僕の目が良くなっていただけなのだと。だが、そうなるともう一つ疑問が生じるのだ。
ズバリ、なぜ僕の体があの頃に戻っているのか、と言うもの。
僕が死ねば、忍は完全なキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに戻るだろう。また、忍がキスショットの力を取り戻せば、僕もまた彼女の眷属としての力を取り戻すだろう。
その2つは、絶対に両立する事は無いだろうと思っていた。だって、死んだら終わりなのだから。
けれど、今僕は死んだにも関わらずここにいて、僕が死んだのだから忍はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードになっているのだろう。そして、忍がキスショットになったのなら僕も眷属になっているはずだ。おそらく、そうなのだろう。
矛盾している筈の理論は、たった1つの前提条件を変えるだけで両立するようになる。その考えは僕の持っている疑問の答えとしては十分過ぎるものであり、僕自身もそれで納得した。
となると、今度は別の問題が出てくる。
キスショットを止める事が出来る人は、きっといないだろうというもの。以前タイムスリップをした際に僕が途中で死んでしまった世界に迷い込んだ時も、世界はキスショットによって滅ぼされていた。
忍野メメや臥煙さんなどの専門家たちを持ってしても、止める事が出来なかったのだ。
それならばきっと僕の世界も……
一刻も早く元の場所に戻らなければ。戻れるかどうかは分からないのだけれど、それでもなんとかして戻らなければ。
方針が決まったとはいえやれる事はなく、僕は歩く事しか出来なかった。
どれだけ歩いただろうか。どれだけ彷徨っただろうか。体感時間ですら分からなくなるほどこの洞窟を徘徊した先に、再びスライムを見つけた。
だが飛びつく事はできず、思わず岩陰に隠れる。
そのスライムの真正面、僕から見れば左方にとてつもなく大きくて黒いトカゲが、ドラゴンがいたのだ。