転生しても僕だった件——凍結中——   作:らんらん

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しずイフリート
001


 仮初めの(おもて)と書いて仮面。表面を取り繕い、他人を欺き、己を隠し通す為の物。もし突如として話しかけてきた人物が仮面を付けていたとすれば、その人物を信用する為にはある程度の時間をかけなければならないだろう。よっぽど特殊な事がない限りは。

 

「それで、シズさんはなんで森に行きたいのぅ?」

「いや、森に行くというより、森を通らなければならないって感じだな。だから、森に行きたいと言うわけではない」

 

 だが、どうやら三人はそうではないようで、警戒心も何もなくシズと名乗った仮面の女性と団欒していた。いや、団欒というよりかはエレンがシズさんを質問責めにしている感じなのだけれど。

 

「なぁ、あの人ってもしかして爆炎の……」

「いや、流石にそれは無いと思いやすよ。だってあの人、五十年も前の英雄ですぜ?」

 

 シズさんとエレンが話している所から少しばかり離れた場所で、ガバルとギドがコソコソと話していた。聞き耳を立ててみると、なにやらカッコいい異名が聞こえてくるでは無いか。僕はゆっくりと二人に近づくと、思いっきり肩を組んで無理やり話に入っていった。

 

「なんだよ!二人でコソコソ話なんかして、僕も混ぜろ!」

「あ、悪い悪い。忘れてたわ」

 

 忘れてたとは酷いと思ったのだが、おそらく事実なので仕方がない。なにせ、普段ならば僕はおらず、エレンが何か話をしている時には二人で話していたのだろうから、僕がいる事は忘れてしまっても仕方がないのだ。

 

「シズさんってさ、爆炎の支配者って冒険者に似てんだよなー」

 

 爆炎の支配者。

 なんとも厨二心がくすぐられる二つ名である。二つ名が付いているのだから、相当な強さの冒険者だったのだろう。

 しかも爆炎の支配者って。

 爆炎って。

 炎の一つ上のランクを支配している訳だから、弱いわけが無い。

 と、そんな風に瞳を輝かせていると、丁度話の渦中であったシズさんが話しかけてきたではないか。

 

「少し、そこの青年を貸してはもらえないだろうか」

 

 ガバルが自分の事かと人差し指を自らに向かって刺したのだが、シズさんは首を振ってそれを否定した。

 当たり前である。

 ガバルは、青年というには少々歳を重ねすぎているのだ。

 シズさんは、その後項垂れて分かりやすく落ち込んでいるガバルを無視したかと思うと、お前だと言わんばかりに僕の事を指差した。

 え?僕?

 淡々と目の前の事象を捉えていたからか、それとも爆炎の支配者と言う普段の僕の生活からかけ離れた名前の話をしていたからかは分からないが、いきなり自分を指名された事で現実に引き摺り下ろされた感覚になった。

 簡単に言うと、ビックリというやつだ。

 シズさんはなぜ僕を呼んだのだろうか。

 その疑問を胸の内に秘めながら、僕はシズさんの元に向かった。

 

「あの、なんでしょうか?」

 

 若干口調が荒くなってしまった。

 普段初対面の、それも知り合いが誰もいない人とあまり会話をしないのが仇となったな。

 反省反省。

 もっと柔らかい口調にしておけばよかったと若干の後悔の念を抱きつつ、僕はシズさんの言葉を待った。

 シズさんは真っ直ぐと僕を見つめながら————仮面を着けているので本当にそうなのかどうかは分からないが、口を開いた。

 

「端的に聞くね。貴方は日本人?」

 

 それこそ、雷に打たれた様な衝撃を受けた。

 この世界に来て、()()と言う名前を聞くとは思っておらず、そんな時に思わぬ所でその名を聞いたのだから、至極当然の結果だろう。

 

「なぜ、それを?」

 

 別にバレたと言って何か問題があるかといえば無いのだが、突如として出てきた馴染みの言葉に警戒して睨みつけてしまう。

 無駄に身構えてしまう。

 そんな必要はないと知っていても。

 シズさんは、僕が睨みつけたからか若干慌てながら言葉を重ねた。

 

「私も日本出身だから……それに、日本出身なら……」

 

 そう言うと、シズさんは仮面を外した。

 その仮面に隠されていた素顔は、お世辞抜きでとてつもない美人だった。キスショットや戦場ヶ原、羽川に神原などとは違う方向の美人である。

 正直、見惚れた。

 見惚れるレベルの美人だった。クレオパトラや楊貴妃、小野小町などと言った高嶺の花の様な美ではなく、もっと身近なもの。クラスのマドンナの様な魅力が、シズさんにはあった。

 もちろん、内面は知らない。だが、彼女の内面がどんなものだとしても、僕は受け入れることが出来そうだ。ここから共に旅をするかと思うと、少しばかり心踊る。

 僕は、彼女の素顔を見ただけでここからの旅が少しばかり楽しみになったのだ。

 ところで、見惚れるのはいいのだが今シズさんが言いかけた事が気になる。

 日本出身なら、何なのだろうか。

 

「質問してもいいだろうか。君は、ユニークスキルを持っているかい?」

 

 ユニークスキル。

 その言葉を、どこかで聞いた事があるような気がするのだが、一体どこで聞いたのだろうか。僕が住んでいた世界ではなくこちらの世界だった気がするが、確証はない。もしかしたら僕が住んでいた世界だったかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 ただ確信を持って言えるのは、それに似た言葉を確実に耳にしているという事。いつ、どこでは思い出せないが、確かに聞いたのだ。

 その事実だけは確実で、僕はそれをシズさんに伝えた。

 

「そのユニークスキルっていうのを持っているかは分からないが…………どこかで聞いたことはある。と思う」

 

 ふわっふわの答えになってしまった。

 聞いたことある、と断定しておいてその直後に、と思うとか、完全に自分に自信のない奴である。

 僕である。

 こんなにふわふわした答えになってしまって申し訳ないと思いつつシズさんに視線を向けると、彼女は何だか不思議な表情を浮かべていた。安心したような、それでいてまだ不安が残っているような、そんな表情を。

 シズさんは、顔を少しばかり緊張させながら、再び質問をしてきた。

 

「その言葉を言っていた人は、覚えているかい?」

 

 結果から先に言うと、その言葉、『ユニークスキル』と言う言葉を言った人物を思い出す事は出来なかった。

 ユニークスキルに似た言葉を耳にしたと言うことは確かな事実であるのだけれど、誰が言ったのかは思い出せないのだ。どこか機械的な音声だった様な気がするが、その記憶が正しいと言う確証はない。

 

「どうだろうか?」

 

 僕が視線を前方に向けると、凛とした顔つきのシズさんの顔が目に飛び込んでくる。そんなシズさんの顔は僕の心を凪の状態にし、とてもシンプルな答えを導き出させた。

 即ち、思いついたことをそのまま言うと言うものを。

 なんで悩んでいたのだろうか。知らないものは知らないと答えて良いというのに。

 

「誰かは分からないけど、なんか機械の音声みたいだった気がする」

 

 それを聞いた時のシズさんは何故か安心したようで、顔を綻ばせた。

 

「そう。ならいいんだ。それなら……」

 

 シズさんが一体何に対して安心したのかは分からないが、たった一つだけだが、僕にも言えることがあった。こんな場面でこのような事を思い付くのは大変不謹慎なのかも知れないし、思い付くのもいけないのかもしれない。

 だけれど、思いついてしまったものは仕方がないので記そうと思う。

 安心した顔のシズさんは、可愛い!

 先程までの美人と言う雰囲気からはガラリと変わり、少女のような柔らかな雰囲気に身を包み始めた。そのギャップに不覚にも胸がときめいてしまったが、頭を振ってその邪念を打ち払う。

 いけないいけない。本気はいけない。

 シズさんは再び仮面を付け、僕に三人の元に戻ろうと言う。僕はシズさんの言葉に静かに頷くと、先陣を切って三人の元に向かいはじめた。

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