ジャンヌオルタのルーラースキル、並びに狂化サーヴァントたちのクラススキルは、半場の活躍により封じられた。一定時間の制限ではあるものの、それはサーヴァントの戦力ダウンには十分である。
つまり、あのシュールストレミングは本来、敵陣地に投げ込むためにある攻撃支援物なのだ。
その用途を、そのチャンスを、不知火半場が逃すなどありえない。
「……これは
「ひどい……!」
夜が明けて、彼らのクラススキルが完全に戻った後。彼らは半場たちを捜すため、城外に出た。
そこで、見たものは。
「……咳き込みそう」
「ええ。なんとおぞましい……」
それは、思わずジャンヌオルタとジルが顔を顰める程であった。
彼らの目の前には、四方八方にブチまけられた赤い痕、突き刺さっている矢に槍、そしてその中心地には。
文字通り、体中真っ赤に染まったアタランテとヴラド三世の姿が。
「……この固まり具合からして、おそらく昨日の内に行われたんだろう」
「……クラススキルの制限時間の間、ですか……やってくれましたね」
ジャンヌオルタは舌打ちした。それは鼻を突く臭気だけでなく、あまりの惨さ故に。
再度現場を見る。そこはただひたすらに真っ赤であった。
この状況から、察するに。アタランテとヴラド三世は、一瞬の内に敗北し、血の色に染まったのであろう。
おそらく
デスソースを頭からかぶって。
「とても、人にすることではないわ……」
「ええ。とても人のすることではありません。……下衆どもが」
吐き捨てるように言ったジャンヌオルタに、サーヴァントたちは同意する。
ジャンヌオルタは少し屈む。そしてすぐに立ち上がった。
「……何故でしょう、ジル。何故わたしは泣きそうになっているの?」
「ジャンヌ……。それは、きっとあれです。幼子が手伝いをして、『おかーさーん。玉ネギ切ったら涙が止まらないよーう』というのと同じなのです」
「なるほど……ありがとうジル。言ってることはよく分かりませんが、泣いてる場合ではありませんでしたね」
ジャンヌオルタとジルが、若干漫才のようなことをしている間。
バーサーク・ライダーは一人で思案していた。
彼女はデスソースの痕を見て、少し気になったことがあった。
「(……この指の先、メッセージでも書こうとしたのかしら。だとすれば何を……。まぁ深く考えることはありません。何にせよ説教です説教)」
狂化しているとはいえ、彼女は聖女である。そして不知火半場のやり方には納得できなかった。だから荒っぽい方法を取ってでも、説教すべきだと感じたのだ。
「(あのマスターなら、そうすぐに来るとは思えませんし……こちらも当分近づかないでしょうね。おはなしの内容でも考えておきましょう)」
見た感じ、ジャンヌオルタとジルはシュールストレミングが相当トラウマになっている。それを仕向けたあのマスターが、道中にそのトラップを用意していないわけがないだろう。
そう考えて、バーサーク・ライダーは城に戻った。
読み通り、城に戻るジャンヌオルタたちの姿を見ながら。
◇◇◇
ところで、カルデアのもう一人のマスター。藤丸立香は、現在フランスを駆けていた。……ガラスの馬車に乗って。
半場と1回目の連絡と今後の打ち合わせをした立香たちは、打ち合わせ通りはぐれサーヴァントたちを捜していたのだ。マリー・アントワネットの宝具を用いて。
『いや本当に助かった。これなら昼までにはつけそうだ!』
「マスター、大丈夫? この馬車は貴方の魔力も借りてるのですから、無理は厳禁よ?」
「大丈夫です。まだまだ元気ですよ」
言って、立香は視線を窓側に向けた。
そこには、立香たちが見つけて連れてきたサーヴァントたちがいる。……見る限り少女だが。
「やっぱりいいわねこれ。ちょっとデザインを変えさえすれば、ステージにぴったりだわ。ねぇ子イヌ。そっちにそういうサーヴァントいないの?」
「やめなさいはしたない。コケても知りませんよ」
窓から顔を出しているのは、エリザベート・バートリー。そして立香に寄り添っているのが清姫。
捜している時、騒ぎを起こしていた2騎を諌めたら、流れで仲間になっちゃったのである。
個性的だなーと若干遠い目をする立香に、マシュは話しかけた。
「半場さんは、どんな方を見つけたのでしょうか」
「フォウフォウ」
「気になるね。……変なことやってなければいいんだけど」
合流を図る際に行った通信で、半場が2騎のサーヴァントを見つけたのは聞いている。が、何か嫌な予感がするのは当然である。なにせ信長がいるんだし。
期待と心配を胸に、彼らは言われたポイントに辿り着いた。
『半場くんが言うには、さっきの森を抜けてすぐ近くの街らしいけど……』
「見えました。……中々広いです。見つけられるでしょうか」
「すぐに気づくって言ってたけどなぁ……」
半場は合流地点について細かく明言していない。ただすぐ分かるとしか言ってない。
しかし、街に入ってすぐ、彼らはその意味を理解した。
「なぎさの〜だ〜いろく〜て〜んま〜ォう〜」
街の広場の真ん中で、半場たちが小ンサートを開いていたからである。
それも、子供たちに囲まれながら。
「……」
「……」
『……』
「あら、
「マスター」
「分かってるよアマデウス。ごめんエリザベート、ちょっと話を聞いてくるから待ってて」
エリザベートのデスボイス防止と状況確認の意を込めて、立香とマシュは半場に近づく。ちなみに半場は合いの手みたいなのをやっていた。
「半場さん」
「おっ、やっときたか」
「あの、これ何やってるんですか」
「いやぁガキンチョ共がやけに暗いから、コンサートでもやってやろうかなあって。お前らもすぐに見つけられただろ?」
「まぁ……そうですけど」
立香は何も言えなくなった。別に彼からすれば、手っ取り早くて助かるからである。しかしマシュはそうもいかなかった。純粋な彼女は、至極当然の疑問を抱いていた。
視線の先には両儀式の姿。その手には小学校とかで持つようなリコーダーが。
マシュは、『ハーメルンの笛吹き』みたいな状態の両儀式を見ながら言った。
「なぜ一人オーケストラをやれているのですか?」
「両儀式だから」
即答、かつ真顔での返答であった。
「どうしましょう先輩。わたし全く意味が分かりません」
「大丈夫だマシュ、オレもだよ」
「でもアマデウスは全く疑問視してないみたいだけど」
「なんで!?」
見たら、アマデウスだけでなくマリーまでつられている。
あれおかしいの自分たち? と頭を抱えたい思いに駆られながらも、立香たちは挫けなかった。
「所長はどうしたんですか。こういう時真っ先にツッコミしてくれますよね」
「あー所長なら……」
ポケットから札を取り出して、半場は呪文を唱える。
そしてオルガマリーと繋がる。
オルガマリーはすすり泣いていた。
『〜♩ 〜〜〜♫』
「所長うううゥゥゥ!?」
「さっきからずっとこんな感じでさー。いい加減うるさかったから念話切ったんだけど……まだ歌ってたのか」
『鬱憤溜まりすぎじゃないかなぁ!?』
予想外の出来事に、とうとうロマニからもツッコミが入ったのであった。