なので皆さまも、あまり深く考えないでいただければ。
第1特異点を読んで「ギャグ成分薄いぞなにやってんの!」と感じた皆さま。
それは、本来この話を本編にするつもりだったからです。(言い訳)
半場のシュールストレミング。その効果である『クラススキルの制限』。
もっとも目に付けられる点は、そこだろう。しかし忘れてはならないことがある。そう、シュールストレミングの臭気である。
発酵と腐敗は紙一重。日本の納豆ですら臭いと言う人間がいるのだから、極限まで発酵させたシュールストレミングが臭くないわけがない。
しかも最悪なことに、半場は通常でも十分に臭いシュールストレミングを、さらに『腐敗』させていた。具体的に言うと放置していたのである。
日本では『爆発物』とさえ表現されるシュールストレミング。それをさらに腐敗させた兵器。
その臭いを直接嗅いだサーヴァントはどうなるか。
アーチャーとランサーは、その嗅覚を完全に潰されていた。
「「……」」
ジャンヌオルタたちはマスクをしているが、2騎に限って言えばそれで耐えられるわけがない。
アーチャーは獣の特性を持ち、ランサーは吸血鬼の特性を持ち合わせている。どちらも臭いに弱い特性だ。
「……ぐすっ」
アーチャーは目をこする。
シュールストレミングの臭いは彼らの視覚にさえ影響を及ぼしていた。玉ねぎを切って涙が出てくるようなものだろうか。とにかく彼らは涙していた。彼女の名誉のために言っておくが、これはけして悲しみの涙ではない。
「うぅ……ランサーよ。そちらの様子はどうだ」
「変わらぬ。考えれば、この好機をあの男が逃すとは思えん、ぐ」
ランサーも目をこす───ることはなく、必死に堪えた。ここでこすったら負けみたいなことを思ったのだ。彼の名誉のため言っておくが、目が光ってるのは涙ではない。吸血鬼的な何かである。
アーチャーとランサーは、一つの確信があった。この間に、連中は仕掛けてくると。
普通に考えて、ここまでの好機はない。ジャンヌオルタのルーラースキルは封じられ、アーチャーとランサーの視覚はなかば封じられた。仕掛けるならば今しかない。
「ならば、問題はいつくるかだが……厄介だ。頼れるのが聴覚だけとは。ぐっ」
「私は問題ない。見えない相手を撃つのは慣れている。ぐすっ」
アーチャーは目をこする。ランサーは堪えた。彼らの名誉のため何度でも言うが、これはけして悲しみの涙ではない。
さぁ、どうくる。
そう、アーチャーとランサーが思った、その時。
「……?」
ころころ、と音がした。2騎の目の前に、ボトルのような何かが転がってきた。
スタングレネードが、転がってきた
直後、爆音が彼らの意識を奪い取った。
◇◇◇
「な、何!? 何が起こったの!?」
「この衝撃……まさか、『ファヴニール』の方から!?」
「何ですって!?」
叫んで、ジャンヌオルタたちは駆け出した。サーヴァントの脚力により、人なら時間のかかる距離でも一瞬で。
そうして城を出たオルタたちは、城の裏手───半場たちが逃げた方とは反対───に出る。
そこで、見た。
『あっ! き、来たわよ不知火! サーヴァントもいっぱい!』
「ハッ、音聞いてからじゃ遅い! よし乗ったぞ! ノッブ飛ばせ!!」
「あたぼうよー!!」
ファヴニールを奪い取る半場たちの姿を。
「───はっ!? ハアアアァァァ!?!? 何!? 一体どういうこと!? どこからツッコめばいいのォ!?」
「なーにがおかしいってんだ! 全部合理的な思考だぜ!」
ここで、半場たちの考えを説明しよう。
まず半場は、シュールストレミングによりクラススキルを制限されたことをこう考えた。
───これ、相手の基地内見るのにいい機会じゃね?
ルーラースキル使えないならサーヴァントも連れて行けるし、なんなら暗殺だってできるし、爆弾だって置けるだろうし、めちゃくちゃいい機会じゃね?
そう考えた半場は突撃した。両儀式に隠蔽してもらいながら。
そして辿り着いた半場は見張りのアタランテとヴラドを速攻で気絶させ、場内を周る。
そして辿り着いたのだ。ジャンヌオルタたちの切り札と思わしき竜───ファヴニールのもとに。
普通の人間なら、ここで畏怖したであろう。
なにせファヴニールは伝説の悪竜。かの竜殺したるジークフリートが討伐した最上種の竜の代名詞である。
そう、人間に扱えるものではない竜を前にしたのだ。それに半場は、
何をトチ狂ったか、こう言った。
「じゃあこいつ盗んじまえば良くね?」
『いやその理屈はおかしい』
オルガマリーの必死の説得も虚しく、半場はシュールストレミングでファヴニールを脅迫し催眠で操り、あろうことか従えてしまった。
そこから、今に至る。
「あばよオルタっつぁん!!」
「逃すかァ!!」
既にファヴニールはかなり上昇している。しかもアーチャーとランサーは捕らえられ気絶している。
どう考えても、もう遅い。
それでもジャンヌオルタは炎を飛ばした。
「はっはっは。そんなもんが届くかよ!」
「サーヴァントたち! ワイバーンで接近しなさい!」
ジャンヌオルタは指示を飛ばすが……それは無意味である。
そもそもワイバーンはファヴニールを媒介として出現しているの だ。つまり親のようなものである。そのファヴニールの操縦権を乗っ取られた以上、ワイバーンでの接近は不可能。
新たに聖杯でワイバーンを召喚しようにも、間に合わない。とうに半場たちは離れてしまっている。というか竜としては最上種クラスにもなるファヴニールにワイバーンが逆らえるわけがない。
「あの男め……!!」
「おのれェ……!!」
歯ぎしりの音をあげるジャンヌオルタとジル。
一方半場たちはファヴニールに乗りながら悠々自適にこう言った。
それは、怪盗にとってはお馴染みのセリフであった。
「それでは皆さん───オ・ルボワール!!」
控えめに言って死ね。
颯爽と飛び立つ半場たちを見ながら、ジャンヌオルタとジルはそう思った。
何でこっちを本編にしなかったかって?
書いた後で「やべぇこれは邪ンヌを虐める話にしかならない」と気づいてしまったからです。
ハーメルンの紳士な皆さま方なら大丈夫かとも思いましたが、一応やめました。
-追記-
続きません。